2021/08/27 相次ぐ役員報酬の上限規制違反、今度は監査役報酬の超過が発覚(会員限定)

社外取締役に対し株主総会で決議した役員報酬総額の上限枠を超過して報酬を支払っていた上場会社の事例を2021年8月3日のニュース「社外取締役増員がもたらすコンプラ違反」でとり上げたばかりだが、今度は別の上場会社で同様のコンプライアンス違反が発覚した。

医療機器の販売会社を事業会社に持つ持株会社のメディアスホールディングス(東証第一部)は本日(2021年8月27日)、「株主総会決議を超過する監査役報酬の支払について」と題するリリースを公表している。上述のニュースで紹介した前澤工業の事例は「社外取締役」に対する報酬の上限枠超過が問題となったものだが、メディアスホールディングスでは、「監査役」への報酬が上限枠を超過することとなった。

メディアスホールディングスのリリースによると、同社は2010年9月22日開催の第1期定時株主総会において、監査役報酬の上限枠を「年額50,000千円」と決議していたが、2019年6月期以降は、下表のとおり当該上限枠を超過した報酬が支払われていた。メディアスホールディングスは、2019年6月期から2021年6月期に支給した監査役報酬のうち上限枠を超過した額を監査役に対して返還請求を行うことについて、全監査役から同意を得たとしている。

年度 支給人員 支給額 上限枠 超過額
2018年6月期 常勤2名
社外4名
 計6名
常勤28,890千円
社外18,600千円
 計47,490千円
50,000千円 超過せず
2019年6月期 常勤2名
社外4名
 計6名
常勤34,920千円
社外19,200千円
 計54,120千円
50,000千円 4,120千円
2020年6月期 常勤2名
社外4名
 計6名
常勤35,520千円
社外19,200千円
 計54,720千円
50,000千円 4,720千円
2021年6月期 常勤2名
社外4名
 計6名
常勤37,320千円
社外19,200千円
 計56,520千円
50,000千円 6,520千円

メディアスホールディングスでは、監査役報酬の上限枠を「年額50,000千円」と決議した当時は監査役が3名しかいなかったが、その後、監査体制強化のために監査役が増員され、2018年6月期以降現在に至るまで6名体制(常勤2名、社外4名)となっている。

この経緯からすると、社外監査役の増員に伴って上限枠を超過する報酬額になってしまったかのようにも思えるが、上表を見ると必ずしもそうではないことが分かる。2019年6月期以降の社外監査役の報酬額合計は19,200千円に据え置かれたままだからだ。すなわち、2019年6月期だけは社外監査役の報酬額合計が前期と比べ600千円増加していることを除けば、常勤監査役の報酬増加額がそのまま超過額になっている。

本事例では、社外監査役よりも会社へのコミットメントが強くなければならないはずの常勤監査役が自身への報酬増額について上限規制をクリアしているかどうかのチェックを怠っていたとの指摘を受けたとしても致し方ないところだろう。また、同社の社外監査役4名のうち2名は監査役の報酬規制に精通しているはずの弁護士であった。日本監査役協会が公表した「役員等の構成の変化などに関する第21回インターネット・アンケート集計結果」によると、上場会社の監査役数は平均で3.56人であり、6名以上の監査役がいる上場会社はアンケート回答会社1,464社中わずか3社(0.2%)に過ぎない。それだけ同社では監査役に対する株主の期待が大きいということであり、再発防止策の徹底が求められよう。

2021/08/26 【失敗学第87回】建設技術研究所の事例(会員限定)

概要

総合建設コンサルタント業を営む建設技術研究所(東証第1部)の従業員が、架空発注により不正に自らが実質的に経営する会社に128百万円の資金を還流させ、部下の給与補填等に充当していた。

経緯

建設技術研究所が2021年8月12日に公表した「東京本社内技術部における不正外注に関する調査報告書」(以下、本調査報告書)によると、一連の経緯は次のとおり。

2015年
12月:建設技術研究所の従業員Xはアルバイトの時給や派遣料が労働に見合ったものではないと感じており、このままでは不満をもった派遣社員とアルバイトが退職してしまうことを危惧していた。そこで、Xは、部下の契約社員、アルバイトの時給や派遣料の引き上げを目的として、D社への迂回発注(建設技術研究所からD社を迂回して資金を還流して、契約社員やアルバイトの給与を補填)を開始した。

2016年
4月:Xは、部下の契約社員、アルバイトの時給や派遣料の引き上げを目的として、新たな派遣会社A社を設立した(自身の父親を代表取締役に就任させた。なお、A社は実際には派遣業の許可を取ることができなかった)。

2017年
7月:東京本社総務部長が技術部に常駐外注禁止を指示した。これにより、12月までにA社所属の派遣社員やアルバイトが建設技術研究所に転籍することとなった。

2019年
7月:Xが、B社およびC社への迂回発注(建設技術研究所からB社、C社を迂回してA社に発注)を始めた。

2021年
1月29日:建設技術研究所の東京本社内の技術部の部長がガバナンス統括本部コンプライアンス室長に、技術部の社員Xには他の従業員から多額の金銭の借入があること、不適切な外注がなされた疑いがあることなどについて相談があった。
2月18日:建設技術研究所はXの不正外注を調査するため社内調査委員会を設置した。
5月14日:建設技術研究所の臨時取締役会において、社内調査委員会により判明した技術部における不正外注の概要が報告され、内容の重要性に鑑みて、外部の弁護士(内部通報窓口の社外窓口を依頼している弁護士)を加えた特別調査委員会を設置し、調査にあたることが決議された。
8月12日:建設技術研究所は「東京本社内技術部における不正外注に関する調査報告書」を公表した。

内容・原因・改善策

建設技術研究所が2021年8月12日に公表した「東京本社内技術部における不正外注に関する調査報告書」によると、特別調査委員会の調査により判明した事実ならびに原因および当該不正を受けて策定した改善策は次のとおりとされている。

部下の給与補填のための不正発注
内容 技術部の社員Xは人材派遣を目的とする会社A社を設立し、A社に不正発注をすることで得た資金を使い、部下の給与を補填していた。
原因 部下の給与の底上げ
Xは部下の契約社員、アルバイトの時給や派遣料が労働に見合ったものではないように感じており、このままでは不満をもった派遣社員とアルバイトとが退職してしまうと考えていた。Xは、かつて派遣会社E社から建設技術研究所に派遣されていたことがあったが、E社の管理費控除が多額であったことから、派遣社員の給与を増やすには派遣会社の管理費控除を少なくすればよいことを自身で経験していた。そこで、Xは、派遣社員やアルバイトが退職しないようにするため、管理費控除が少ない新たな派遣会社(A社)を自ら設立することにした。すなわち、A社に派遣社員とアルバイトを所属させ建設技術研究所に派遣するようにして、結果としてその者たちの給与のアップを実現させることにした。ところが、2017年7月に建設技術研究所の東京本社総務部長が技術部に常駐外注禁止を指示したことから、同年12月までにA社所属の派遣社員やアルバイトが建設技術研究所に転籍することとなる。その結果、アルバイトは時給が下がることになった。そこで、Xはアルバイトの退職を回避するためにA社時代の給与との差額を補填する必要が生じた。その補填費用を捻出するためにXは建設技術研究所の従業員から借り入れをするとともに技術部長および技術部次長了承のもと建設技術研究所からA社への不正な外注取引を始めた。A社への発注が認められなくなったあとは、B社、C社、D社の3社に一旦発注し、各社40%の管理費を控除後にA社に再発注する方法を採用した(迂回発注)。

技術部の外注手続き担当者、技術部長および技術部次長の了承
技術部の外注手続き担当者、技術部長および技術部次長はXがアルバイトの補填費用を捻出するためにA社、B社、C社、D社へ不正な発注をすることについて了承していた。その理由として社内の生産量の限界を大きく超える受注があったため外注先の利用自体奨励されていたことに加え、技術部長および技術部次長としては、主担当のXが少しでも働きやすい環境を整えたいとの思いがあったことから、Xの要請に基づき技術部の外注手続き担当者が外注棄議書をあげれば作業内容を精査することなく承認していた。

金額の分割
外注手続き担当者は外注棄議書が東京本社幹部に回議されない金額未満(税抜3百万円未満)になるように分割して作成していた。そのため、外注棄議書が東京本社幹部の目に留まることはなかった。建設技術研究所の外注事務取扱要領では同一案件の分割は禁止されているものの、業務番号を分けるなど、巧妙に偽装していた。

ファクタリング利用による資金繰りの困窮
XはA社の資金繰りのためにファクタリング業者による建設技術研究所(あるいはB社、C社、D社)への債権を買い取ってもらっており、20~30%程度の手数料を控除されることから20百万円を上回る金額が手数料としてなくなっていった。B社、C社、D社がそれぞれ手数料を取ったことから、ますますA社の資金繰りは困窮していき、その穴埋めのためにXは同僚から借金を繰り返すこととなり、総額数千万円にのぼった。

技術部の人員の固定化
技術部は部員の異動が少なく、部次長を含め本件関係者全員が固定化されていた。さらに、外注手続きも含め担当者に任せきりになっていた。その結果、技術部内でのチェック機能が働かなくなっていた。

技術部の人員不足の放置
事業所長である東京本社長と東京本社次長は、技術部幹部が業務生産体制を整えるためには人員補充が不可欠である旨をクレーム報告書で表明していたにもかかわらず、これを実施しなかった。その結果、技術部は慢性的に人員不足となり、技術部の部次長は業務を完了させるために目の前の生産だけを優先するあまり、結果的に定められた外注手続きを怠ることに結びついた。

親族が代表者である企業との新規取引開始の承認の甘さ
事業所総務部は、A社を外注登録する際にXの親族(父親)が代表者であることを知っていたが、建設技術研究所の外注事務取扱要領では親族企業を登録できないルールにはなっていないため、東京本社総務部長から「注意するように」との注意喚起があっただけですんなりと登録が承認された。その後も、特に厳格な評価はされることはなく、更新が申請されたら登録継続が承認されていた。

常駐外注禁止後の総務部と技術部のコミュニケーション不足
2017年7月に東京本社総務部長が偽装請負として労働関係法令等に抵触する可能性が高いことを理由に「常駐外注」(外注先の者が社内に常駐すること)の禁止を技術部に指示したことで、A社に所属していたアルバイトは建設技術研究所に転籍せざるを得なくなり、その結果アルバイトの時給は新規に入社する業務経験がないアルバイトと同じ程度になってしまった。総務部は、単純に常駐外注からアルバイトの雇用に契約内容を変えただけで、アルバイトの賃金が常駐外注時の給与を下回る賃金となってしまったことを考慮することはなかった。技術部も、常駐外注禁止に伴うアルバイトの賃金下落に関して総務部に相談したことはなかった。

再発防止策 外注を含む業務システムの改善
・外注登録および更新手続きの厳格化
・外注稟議決裁の厳格化(外注稟議時に外注先の既発注額の累計額を表示させ、分割発注の関係を把握できるようにする)
・外注成果の検査・検収の明確化
・外注事務担当の研修の実施
・人事ローテーションの実施

業務執行体制に関する改善
・目標を大幅に超える受注の抑止と体制に見合った受注管理の徹底
・ルール変更による影響(リスクの発生)の予測と総務部と技術部とのコミュニケーション改善

その他
・従業員間の金銭貸借および保証人になることの禁止
・コンプライアンス意識向上策の推進

<この失敗から学ぶべきこと>

Xは、A社の資金繰りが悪化したため、技術部内の正社員、契約社員、アルバイトの多くの者から「A社の経営難」または 「元A社従業員で現アルバイトヘの給与差額補填」を理由として数千万円の金銭を借り入れていました。Xの同僚からの借金は返済のめどが立っていません。Xの不正はもともとは派遣社員やアルバイトの給与水準の向上を目的とするものでしたが、128百万円の会社資金に加えて、技術部門内の他の多くの従業員の個人的な資産(合計で数千万円。正確な額は不明)を溶かすことになってしまったのは皮肉な結果と言えます。派遣社員やアルバイトに辞められて困るのであれば、蔭で給与補填を試みるのではなく、まっとうに派遣料や時給の水準の引き上げを社内で検討すべきでした。

総務部は、「常駐外注」(外注先の者が社内に常駐すること)が労働関係法令等に抵触(偽装請負)する可能性が高いことを理由に、「常駐外注」の禁止を技術部に指示しました。そのこと自体はなんら間違いではないのですが、そのことによりアルバイトの時給がどのようになるのかについての配慮が欠けていました。ルールを変更した場合、そのことにより別のリスクが発生する可能性については、目配りを怠らないようにしたいものです。

より厳格な承認手続きを回避するために稟議書の金額基準を意識しながら分割発注するという手口の不正は、どの会社でも起こりうる不正と言えます。上場会社の取締役としては、本調査報告書が再発防止策として掲げる「稟議書に既発注額の累計額を表示させる」などの工夫につきぜひとも取り組みたいところです。

2021/08/26 【ケーススタディミニテスト】利益相反取引を承認するか検討したい 第5問解答画面(不正解)

不正解です。
会社法上の利益相反取引に該当する場合、取締役は事前承認および事後報告の双方を行う必要があります(問題文の「どちらかを行う必要がある」は誤りです)。

ケーススタディを再確認!
「利益相反取引を承認するか検討したい」の「取引後は重要な事実を報告、関連当事者に該当すれば開示も必要」はこちら

2021/08/25 【ケーススタディミニテスト】利益相反取引を承認するか検討したい 第3問解答画面(不正解)

不正解です。
親会社と100%子会社との間の取引は相互に利益の対立が生じる場面ではないことから、原則として利益相反取引には該当しません(問題文は誤りです)。もっとも、親会社と100%子会社との間の取引であっても、破綻の危機に瀕している100%子会社に対して親会社の資産を移転する場合には、親会社の株主を保護するという観点から例外的に利益相反取引規制を及ぼすべきであるとする見解があることには留意しなければなりません。

ケーススタディを再確認!
「利益相反取引を承認するか検討したい」の『「利益相反取引」に該当するか否かの分岐点は?』はこちら

2021/08/25 【ケーススタディミニテスト】利益相反取引を承認するか検討したい 第4問解答画面(不正解)

不正解です。
利益相反取引であるにもかかわらず、取締役会の承認を得ずにこれを行った取締役は、解任の正当事由があることになるため、仮に株主総会決議により解任されたとしても、会社に対して損害賠償を請求することができません(問題文は誤りです)。

ケーススタディを再確認!
「利益相反取引を承認するか検討したい」の「利益相反取引の承認漏れで取締役解任も」はこちら

2021/08/25 【ケーススタディミニテスト】利益相反取引を承認するか検討したい 第4問解答画面(正解)

正解です。
利益相反取引であるにもかかわらず、取締役会の承認を得ずにこれを行った取締役は、解任の正当事由があることになるため、仮に株主総会決議により解任されたとしても、会社に対して損害賠償を請求することができません(問題文は誤りです)。

ケーススタディを再確認!
「利益相反取引を承認するか検討したい」の「利益相反取引の承認漏れで取締役解任も」はこちら

2021/08/25 【ケーススタディミニテスト】利益相反取引を承認するか検討したい 第3問解答画面(正解)

正解です。
親会社と100%子会社との間の取引は相互に利益の対立が生じる場面ではないことから、原則として利益相反取引には該当しません(問題文は誤りです)。もっとも、親会社と100%子会社との間の取引であっても、破綻の危機に瀕している100%子会社に対して親会社の資産を移転する場合には、親会社の株主を保護するという観点から例外的に利益相反取引規制を及ぼすべきであるとする見解があることには留意しなければなりません。

ケーススタディを再確認!
「利益相反取引を承認するか検討したい」の『「利益相反取引」に該当するか否かの分岐点は?』はこちら

2021/08/25 【ケーススタディミニテスト】利益相反取引を承認するか検討したい 第2問解答画面(不正解)

不正解です。
利益相反取引により会社に損害が生じた場合、問題文のとおり、当該利益相反取引を行った取締役だけでなく、承認決議に賛成した取締役も任務懈怠が推定されます。それだけに、他の取締役は承認決議にあたって慎重に判断する必要があります。

ケーススタディを再確認!
「利益相反取引を承認するか検討したい」の『利益相反取引の承認で「任務懈怠」も』はこちら

2021/08/25 【ケーススタディミニテスト】利益相反取引を承認するか検討したい 第2問解答画面(正解)

正解です。
利益相反取引により会社に損害が生じた場合、問題文のとおり、当該利益相反取引を行った取締役だけでなく、承認決議に賛成した取締役も任務懈怠が推定されます。それだけに、他の取締役は承認決議にあたって慎重に判断する必要があります。

ケーススタディを再確認!
「利益相反取引を承認するか検討したい」の『利益相反取引の承認で「任務懈怠」も』はこちら