「選択肢の多さ」は状況に応じてより有利な選択が可能になるため好まれるのが通常だが、選択肢を増やしたばかりに定款変更議案が無効(定款変更議案などの株主総会決議の無効についてはケーススタディ「株主総会決議が無効や取消になるかもしれない」の「具体的にどのようなミスが問題になるのか?」を参照)になった上場会社がある。2021年8月16日に定款変更議案の一部無効を公表したのが東証一部上場の新光商事だ(同社のリリースはこちらを参照)。同社では、2021年6月25日に開催した定時株主総会において以下の定款変更議案を会社側が提案し、賛成多数により承認可決されていた(下線部分が変更箇所)。
| 現行定款 |
変更案 |
(公告の方法)
第5条 当会社の公告は日本経済新聞に掲載する。
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(公告の方法)
第5条 当会社の公告方法は、電子公告とする。ただし、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合は、日本経済新聞または官報に掲載する方法により行う。
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同社の定款変更案は、公告の方法として日本経済新聞から電子公告に変更するというもの。会社法939条1項では、公告の方法として、「官報」「時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙」「電子公告」の3つの選択肢が示されている。
公告 : 会社法上、株式会社は、債権者保護の観点から、決算の内容や合併、資本金の額の減少などを債権者に伝えるために公告をすること求められている。また、公告は株主に向けて臨時株主総会の基準日を通知するためにも用いられる。上場会社ではTDnetや会社のウェブサイトを通じて公告に記載されている内容よりも充実した情報が提供されていることから、公告の有用性には疑問の声もあるものの、会社法では債権者に異議を申し出る機会を与えるために必須の手続きとされている。
(会社の公告方法)
会社法939条
1項 会社は、公告方法として、次に掲げる方法のいずれかを定款で定めることができる。
一 官報に掲載する方法
二 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
三 電子公告
2項 (省略)
3項 会社又は外国会社が第一項第三号に掲げる方法を公告方法とする旨を定める場合には、電子公告を公告方法とする旨を定めれば足りる。この場合においては、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合の公告方法として、同項第一号又は第二号に掲げる方法のいずれかを定めることができる。
4項 (省略) |
このうち「電子公告」とは、登記した公告ホームページのURLに公告内容を掲示するという方法であり、上場会社の大半(*)が選択している公告方法である。
* 全国株懇連合会の直近の
調査結果によると、調査した上場会社1,608社のうち公告方法として電子公告を採用している会社は96%にあたる1,539社であった。ちなみに、日刊新聞紙は55社、官報は14社であった。
新光商事も、従来は公告の方法として日本経済新聞を指定していたものの、「公告閲覧の利便性向上および公告手続の合理化を図る」という理由で、電子公告に変更する定款変更議案を提案することとなった。その背景には、日本経済新聞で公告する場合、1段×1cm で62,000円の料金が必要となる(実際には数cm分の枠を確保する必要がある)のに対し、電子公告の場合、自社のウェブサイトやサーバを使えば掲載自体にはほとんどコストはかからない(*)。
* 電子公告は、後述するような官報または日刊新聞紙による公告と異なり、事後の改ざんが容易であるだけでなく、サーバのトラブルにより公告ホームページが閲覧できない状況に陥る可能性があるため、公告期間にわたって継続的に電子公告が適法に行われたかどうかについて電子公告調査機関の調査を受ける必要がある。電子公告調査機関の調査料金は各社様々だが、6か月未満で7万円台程度の調査機関もあり、日本経済新聞の公告よりはコストをかけずに公告を実施できる。
もっとも、電子公告は掲示していたウェブサイトがサーバのトラブルやハッキングによる改竄などで閲覧できなくなる可能性がある。そこで会社法939条3項では、そのような事故に備え、電子公告による公告をすることができない場合の公告方法として予備的に「官報」「時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙」のいずれかを定めることができるとしている。このような予備的な公告方法を設けるかどうかは任意とされているが、実際には「念のため」設けている会社が少なくない。
新光商事の定款変更議案でも「当会社の公告方法は、電子公告とする。」との文章の後に、予備的な公告方法として「ただし、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合は、日本経済新聞または官報に掲載する方法により行う。」の一文が追加されていた。予備的な公告方法を利用するケースを「事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合」に限っているのはごく一般的と言えるが、新光商事の定款変更議案では「日本経済新聞または官報」との記載になっていた点が問題視された。「または」であれば、会社側の選択肢が増えるので一見良いことのように見えるものの、このような選択的記載を定款に定めても無効とされる。なぜなら、公告方法として何ら定めていないに等しいからだ。
会社の公告方法は、債権者が広告を特定できるよう登記事項とされているが、仮にこのような選択的記載が公告方法として登記されたとしても、結局のところどの公告方法を用いるのかを会社が自由に選べるのであれば、債権者とは公告方法を特定できないことになってしまう。したがって、予備的公告方法を記載するのであれば、「日本経済新聞」と「官報」のどちらかに“決め打ち”すべきであった(あるいは、「日本経済新聞及び官報」というように2個以上の公告方法を記載することも可能だが、その場合はそのすべてに公告することが必要となるため、コストがかかるだけで現実的ではない)。
さらに言えば、「事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合」には、実際には大震災やサイバーテロなど相当レアなケースしか該当しないと解されているため、このような予備的公告方法を定めたところで実益は期待できない。ただし書きは付けず、シンプルに「当会社の公告方法は、電子公告とする。」とすべきだったと言えよう。
結局のところ、新光商事の定款変更案は株主総会では原案通り承認可決されたものの、総会後に「または」の存在がネックであることが発覚して無効となった(なお、同社が会社提案していた定款変更議案のうち無効になったのは本件の第5条だけであり、第16条に「株主総会参考書類等のインターネット開示とみなし提供」の規定を新設するとともに、現行定款の第16条以下を1条ずつ繰り下げるという部分は有効とされている)。同社は2022年開催予定の定時株主総会で再度定款変更議案を提出する方針。
定款変更においては、本件のような思わぬ法的な落とし穴が存在し得る。顧問弁護士や監査役による二重、三重のチェックは不可欠と言えよう。