<解説>
取締役の責任の取らせ方
取締役は一度就任したら、その任期の間は地位を保障されるのが通常です。もっともいざ選任してみたものの実際のところ取締役としての資質に欠けていることが判明したり、業績低迷について責任があったりするのであれば、解任する必要が生じることもあるでしょう。とは言え、取締役を選任したのは株主総会ですから、代表取締役や取締役会が勝手に取締役を解任することはできません。そこで、取締役の任期終了を待って、再選しないといった形で取締役を辞めてもらうのが一番穏便な方法になります。もし解任を急ぐのであれば、臨時株主総会を開催しなければなりませんが、臨時株主総会の開催にはコストもかかりますし、解任された取締役から損害賠償請求を受ける可能性もあります(会社法339条2項)。そこで、取締役会が辞任勧告を決議する手法で本人から辞意を表明してもらうようにする事例も散見されます(取締役解任時の損害賠償請求や辞任勧告については2021年2月19日のニュース「取締役への辞任勧告事例から浮かび上がる2つの論点」を参照)。また、管掌の変更、兼務役員の従業員としての職務の変更といった職務範囲の変更や役員報酬の返上で取締役に責任を取ってもらう場合もあります。
CGコード【原則3-1.情報開示の充実】(ⅳ)の言い回しに注意
ただ、どのような時にどのようなプロセスを経て解任されるのかが分からないようでは、取締役としても腰を据えてじっくりと職務に取り組むことができません。取締役にとって「不意打ち」になるような事態は避けなければなりません。そこで、あらかじめ解任基準(解任を検討する基準)や解任手続きを定めるなど、透明性のある手続を確立して、取締役にとっての予見可能性を確保しておくべきです。
2018年6月に実施されたコーポレートガバナンス・コードの改訂で、【原則3-1.情報開示の充実】の(ⅳ)「取締役会が経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続」の部分が「取締役会が経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続」に変更されました。ここでは用語を正しく理解しておく必要があります。まず「経営陣幹部」の定義は、法律や証券取引所規則には記載されていないことから、各社が判断することになりますが、コーポレートガバナンス・コードでは「経営陣幹部」と「経営陣」を使い分けしている(CGコードの基本原則4を参照)ことを考慮すると、「経営陣幹部」はCEOやCFOなどの『CxO』(あるいはそれに相当する地位)といった社内の職制上のポジション、「経営陣」は『業務執行取締役や執行役・執行役員』と考えるのが一般的と思われます((新用語・難解用語)経営陣幹部 を参照)。また、『選解任』と『指名』の違いも意識しておく必要があります。『選解任』は選任と解任の権限があることが前提になっています。「取締役・監査役の選解任」の権限を有するのは株主総会であり、取締役会は選任議案の会社提案を行うにすぎません。CGコードは株主総会が遵守すべきコードではない(【原則3-1.情報開示の充実】の(ⅳ)の主語は「取締役会」です)ので、【原則3-1.情報開示の充実】の(ⅳ)は「取締役・監査役の選解任」ではなく「取締役・監査役候補の指名」となっているわけです。一方、『CxO』はその重要性に鑑みて通常は取締役会(または任意の指名委員会)で選解任が行われる(*)こととなるため、『経営陣幹部の選解任』という言い回しになっています。
【原則3-1.情報開示の充実】の改訂に伴い、同原則をコンプライしている上場会社における「解任」の方針と手続に関する情報が以前よりは入手しやすくなりました。いくつか開示例を掲げておきます。
| 会社名 | 「解任」の方針と手続 |
| テクノプロ・ホールディングス | CEO選解任基準及び手続より抜粋 3.CEO解任基準 当社は、CEO解任基準として、「業績要件」及び「該当する場合には経営トップとして相応しくないと見なされる要件」を取締役会にて定める。 (1)(業績要件) ・当社グループ連結営業利益において3期連続で赤字となった場合 (2)(該当する場合には経営トップとして相応しくないと見なされる要件) ・CEOの任に堪えないような健康状態と認定される場合 ・会社法331条に定める取締役の欠格事由に準じた事態が発生した場合 ・CEOの言動やCEOが責めを負うべき不祥事の発覚・損害の発生等により当社グループの信用の失墜や円滑な業務運営に支障をきたしていると認定される場合 4.CEO解任手続 ・上記3.(2)の要件への該当・非該当に係る審議及び必要な調査は、当社の独立社外取締役、独立社外監査役の全員で構成する独立役員会議が行う。審議及び調査の結果、独立役員会議がCEO解任が適当であると判断した場合には、独立役員会議議長(筆頭独立社外取締役)が、取締役会へCEO解任を付議する。 ・上記3.(1)の要件に該当する場合及び独立役員会議による審議を要しない解任事由にあたる事実が判明した場合には、取締役会は無条件でCEO解任を決議する。 |
| 資生堂 | コーポレートガバナンス報告書 7.取締役会が経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補者の指名を行うに当たっての方針と手続き <原則3-1:主体的な情報発信、補充原則4-3(2):資質を備えた執行役員社長の選任、補充原則4-3(3):執行役員社長の解任手続の確立> 当社では、取締役および監査役候補者の指名および執行役員の選任にあたっては、性別、年齢および国籍の区別なく、それぞれの人格および識見等を十分考慮のうえ、その職務と責任を全うできる適任者を指名・選任する方針としています。これに加え、取締役候補者については「取締役として株主からの経営の委任に応えることの重要性」を、監査役候補者については「企業経営における監査ならびに監査役の機能の重要性」を加味して指名しています。 取締役候補者の指名および執行役員の選任は、候補者の妥当性について社外取締役を委員長とする指名・報酬諮問委員会の答申を得た上で、取締役会の決議をもって決定しています。 また、社長 兼 CEOの選任にあたっては、この手続に従うほか、指名・報酬諮問委員会でのより慎重な検討を行っています。社長 兼 CEO候補者は、当社の経営理念や経営戦略の実現などの観点から、あらゆる可能性を排除せずに社内外から選抜しますが、この選抜の段階から社外取締役を委員長とする指名・報酬諮問委員会および社外取締役と社外監査役で構成されるCEOレビュー会議において審議を受けます。このプロセスを経て適任者が選任されたにもかかわらず、やむを得ずその職務と責任を全うできない事情が生じた場合には、当該執行役員社長は、指名・報酬諮問委員会およびCEOレビュー会議での慎重な検討を経て、取締役会の決議をもって解任されることとなります。社長 兼 CEOがその職務と責任を果たせているかどうかは、年間複数回にわたり開催されるCEOレビュー会議での確認およびこれを踏まえて開催される指名・報酬諮問委員会で審議・確認しています。 監査役候補者の指名にあたっては、代表取締役が候補者を選定し、その妥当性についての指名・報酬諮問委員会の答申と株主総会への選任議案提出に関する監査役会の同意を得た上で、取締役会において決定しています。 これまで運用してきたこれらの考え方および運用を明確化し、取締役、監査役および執行役員の選任基準、選任手続、任期上限、上限年齢、退任手続、解任検討基準および解任手続等を包括的に定めた「役員選解任規程」を2019年に定めるとともに、その他の役員関係規程を改定しました。 |
| コニカ・ミノルタ | 執行役の選解任 1項 取締役会は、当社グループにおける新しい価値の創造を可能とし、かつ、当社の社内外のステークホルダーから十分に納得を得ることができ、執行役たるに相応しい人材を公正かつ適時適切に選任します。その判断基準として「執行役選定基準」を定めます。「執行役選定基準」において、当社グループ内外における経営執行に関する能力及び経験、または高度の専門的知識・技術、再任時の年齢制限等からなる資格基準、及び高い倫理観、顧客優先主義、イノベーション、情熱をもった実現へのコミット等の価値基準を充たす執行役を選定します。 (中略) 6項 取締役会は、執行役を解任するか否かを決定する際にも「執行役選任基準」を十分考慮します。 |
| LIXIL | LIXIL グループ・コーポレートガバナンス・ガイドライン 第23条 取締役候補者の指名及び取締役の解任方針 1項 取締役候補者の指名基準は以下の通りとする。 (1) 人格に優れ、高い倫理観を有していること (2) 職務の執行について善管注意義務・忠実義務を適切に果たし、当社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に貢献するための資質を備えていること (3) 他の兼職の状況等を踏まえ、職務を適切に果たすために必要となる時間及び労力を割くことができること (4) 社外取締役については、企業経営、金融、財務会計、法律等の分野で高い見識や豊富な経験を有し、独立した客観的な立場から経営陣の職務執行を監督する資質を有するとともに、当社の独立性判断基準を満たすこと (5) 独立社外取締役を3分の1以上含めること (中略) 4項 指名委員会は、取締役の職務の遂行状況やその他の客観的事実に基づきその機能を十分発揮していないと認められる場合や、取締役が第 1 項の各基準を満たさなくなるなど、当社経営に著しい支障をきたすことが認められる場合には、取締役の解任について審議し、株主総会へ提出する議案の内容を決定する。この場合、指名委員会は、当該取締役と面談し、聴聞の機会を設け、取締役会に報告するものとする。なお、取締役から辞任の申し出があったときも、同様とする。 |
| セイコーエプソン | コーポレートガバナンス基本方針より抜粋 第22条2項 取締役、代表取締役社長を含む執行役員及び監査等特命役員の解任に当たっての方針と手続 (1) 方針 ① 取締役の職務に関し法令・定款に違反する重大な事実が判明した場合又は監査等委員による違法行為差止請求がなされた場合は、取締役会は当該取締役の解任に向けた手続きを開始する。 ② 執行役員及び監査等特命役員の職務に関し法令・定款に違反する重要な事実が判明した場合又は選考基準から著しく逸脱した事実が認められた場合は、取締役会は当該役員の解任に向けた手続きを開始する。 (2) 手続 ① 取締役の解任については、取締役選考審議会を即時開催し、公正、透明かつ厳格な審査及び答申を経た上で、取締役会における決議を経て、株主総会で決定される。 ② 執行役員及び監査等特命役員の解任については、取締役選考審議会を即時開催し、公正、透明かつ厳格な審査及び答申を経た上で、取締役会で決定される。 |
| アドバンテスト | 取締役および執行役員を選任・選定、解任・解職するに当たっての方針と手続 3.取締役および執行役員の解任・解職基準 次に挙げる基準に一つでも該当した場合、解任・解職提案の対象とします。 ・法令、定款、その他当社グループの規定に違反し、当社グループに多大な損失または業務上の支障を生じさせた場合 ・取締役および執行役員の選任・選定基準に定める資質を欠くことが明らかになった場合 ・当社グループにおいて著しい業績不振を招いた場合(代表取締役および執行役員社長にのみ適用) ・担当事業または担当領域において著しい業績不振を招いた場合(執行役員にのみ適用) ・反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係が認められた場合 ・公序良俗に反する行為を行った場合 ・健康上の理由等により職務遂行に著しい支障が生じた場合 |
| ラックランド | 取締役の選解任方針・手続より抜粋 〔取締役の選定方針〕 (解任基準) (1)公序良俗に反する行為を行った場合 (2)健康上の理由から、職務の継続が困難となった場合 (3)職務を懈怠することにより、著しく企業価値を毀損させた場合 (4)法令上求められる取締役の欠格事由に該当することとなった場合 (5)選定基準に定める資質が認められない場合 〔取締役の選解任手続〕 取締役会は、監査等委員以外の取締役候補者、監査等委員である取締役候補者の選定および取締役の解任提案にあたって、上記のそれぞれの選定方針や取締役会の構成に関する考え方を踏まえ、かつ、監査等委員以外の取締役候補者については監査等委員会が決定した意見を反映し、十分な審議を経て決議する。 上記の手続きを経て、取締役会は、株主総会に、取締役会で選定した監査等委員以外の取締役候補者、監査等委員である取締役候補者の選任および取締役の解任提案をそれぞれ付議する。 株主総会は、取締役会によりその選任を付議された監査等委員以外の取締役候補者、監査等委員である取締役候補者および取締役解任対象者について、その決議により決定する。なお、監査等委員会は、必要があると認めたときは、株主総会において意見を述べる。 |
テクノプロ・ホールディングスでは、CEOの解任要件に業績基準を入れているのが目を引きます。また、コニカ・ミノルタのように解任基準を定めずに、解任に際しては「選任基準」を十分考慮するという会社が多く見受けられる一方で、資生堂のように「役員選解任規程」を定めて社内ルール化するという先進的な企業もあります。なお、任意の指名委員会を設置した会社では、「指名委員会が取締役の解任の検討を行う」という制度設計にしているところも少なくありません。開示にあたっては、セイコーエプソンのように方針(解任基準)と手続きを区別すると分かりやすい開示になると言えます。また、LIXILのように、解任手続きにおいて「聴聞の機会」を設けることを明示しておくと手続きの透明性が高まると考えられます。
これからスタンダード市場に移行予定のJASDAQ上場会社など、「解任」についてのルールの整備が十分でない上場会社は、取締役や監査役の不正や職務怠慢が発覚した場合に備え、解任検討基準や解任手続き、後任の取締役の選任プロセスを詳細に定めておくべきと言えます。
さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
取締役C:「『経営陣幹部』は各社が実態に応じて定義するのだと思います。当社の『経営陣幹部』はCEOやCFOなどの『CxO』であると定義してはいかがでしょうか。また、『方針』は選解任・指名の要件であり、『手続』は選解任・指名にあたっての具体的なプロセスを指しているのではないでしょうか。」
(コメント:『経営陣幹部』は各社が実態に応じて定義するべきとの指摘は適切であり、自社の実態に即して『経営陣幹部』をCEOやCFOなどの『CxO』と定義するとの案も一般的な考え方と言えます。また、『方針』と『手続』も区別できており、全体としてGood発言です。)
「『経営陣幹部』は取締役・監査役を指していると思いますので、『経営陣幹部の選解任』と『取締役・監査役候補の指名』は同じことを指しているということですよね。」
(コメント:『経営陣幹部』は一般的に取締役会に選解任の権限があるのに対して、『取締役・監査役」の選解任の権限を有するのは株主総会です。取締役Aの発言は『経営陣幹部の選解任』と『取締役・監査役候補の指名』の局面が異なることを意識しておらず、選解任の権限についての視点が欠けたBad発言です。)
「『経営陣幹部』の定義は会社法か取引所規則に書いてあったかと思います。確か、執行役員も含む概念だったかと思います。『選解任』と『指名』は前者が解任を含み、後者は含まないという違いだと思います。『方針』と『手続』は同じことを指しているように見えますね。」
(コメント:経営陣幹部の定義は、会社法にも取引所規則にも記載されていません。各社が実態に応じて判断することになります。取締役Bの発言は『選解任』と『指名』という言い回しの違いが選解任権限の有無による違い(『CxO』人材は取締役会で選解任できるが、取締役・監査役を選解任するのは株主総会であり、取締役会は議案を会社提案できるというだけに過ぎない)に由来していることに気付いていないBad発言です。)
