<解答者>
ウイリス・タワーズワトソン
アセスメントアジア責任者/コーポレートガバナンス・アドバイザリーグループ
シニアコンサルタント 高岡 明日香
(asuka.takaoka@willistowerswatson.com; 03-6833-4838)
ウイリス・タワーズワトソン
コーポレートガバナンス・アドバイザイリーグループ
シニアアナリスト 服部 崇宏
(takahiro.hattori@willistowerswatson.com; 03-6833-4866 )
取締役会の実効性を向上させるためのポイント
昨今、日本の上場企業は、かつてないほど“ガバナンス改革”のプレッシャーに晒されています。企業活動のボーダーレス化とともに、欧米企業の先進的なガバナンス・プラクティスに慣れた「物言う」投資家がアジア地域でも存在感を増す中、日本企業においても、こうした投資家にとって納得感のある経営判断、後継者指名、役員報酬制度の構築、取締役会運営などが求められ、かつ説明・開示責任が生じているという状況です。こうした状況を受け、日本の規制当局もコーポレートガバナンスの強化を推進しているのは周知のとおりであり、例えば(2018年)6月に施行される予定の改訂コーポレートガバナンス・コードは、政策保有株式の保有の適否の検証とその内容の開示(原則1-4)、客観性・透明性ある手続による報酬制度の設計と具体的な報酬額の決定(補充原則 4-2① )、経営陣幹部の選任に加え「解任」を行うに当たっての方針・手続の開示の充実(原則3-1(ⅳ)(Ⅴ))など、恣意的な経営や指名などによって株主を含むステークホルダーの中長期的な利益が損なわれることがないよう上場企業に従来以上に厳しいガバナンスの規律、より端的に言えば「取締役会の実効性向上」を求めるものとなる見込みです。
では、取締会実効性を向上させるための要件にはどのようなものがあるのでしょうか。機関投資家の要望や最近の議論の傾向を踏まえ、下記でポイントとなる事項について解説します。
1. バックグラウンドに多様性がありバランスのとれた取締役会構成
最適な取締役会構成について、全企業に共通する黄金律といったものがあるわけではありません。したがって、自社にとって最適な取締役会構成を実現するには、まず各企業が自社の取締役会の役割・あるべき姿を定義し、次にそれを実現するために最適な構成を検討するというプロセスを踏むことが推奨されます。
「取締役会の役割・あるべき姿」を定義する際には、自社を取巻く事業環境を棚卸しした上で、①中長期戦略・自社が向かうべき方向性をどう考えているのか、②その戦略を実現するための日々の業務執行を誰に任せるのが適切なのか、③適切な業務執行がなされているかを誰がどのように監督するのか、といった視点を持つことが必要になります。それにより、自ずと取締役会への付議基準も見直される(例えば重要案件にフォーカスして議題を設定するなど)ことになるはずです。
自社の取締役会の役割・あるべき姿を定義できたら、それに基づき最適な取締役会構成を決定することになります。その際の検討項目としては、①取締役総数、②社外取締役と社内取締役の比率、③管理部門担当取締役と事業部門担当取締役の比率、④取締役の専門性・経験・経歴などのバックグラウンドなどがあります。
近年我が国では、経営の執行とその監督の分離という文脈から取締役の人数を減らす上場企業も見受けられますが、先進諸外国の企業と比較すると、日本の平均11人に対し、ドイツは平均16.3人、米国は平均10.8人、英国は平均10.2人と、国別の取締役総数の差はそれほど大きくありません。ただし、取締役会に占める社外取締役の比率となると、顕著な差異が見られます。具体的には、日本の上場企業の取締役会に占める独立社外取締役の比率が33%に過ぎないのに対し、米国では85%、フランスでは69%となっています(出典:Spencer Stuart, Board Index 2017)。
社外取締役の属性や専門性については、さらに大きな違いがあります。日本企業における社外取締役は、これまでCEO経験者が圧倒的多数を占めてきましたが、昨今のグローバルな傾向としては、より具体的な専門性(Digital、Marketing、Fintech …etc.)を持った各領域のスペシャリストが、業種を超えて社外取締役として招聘されるケースが増えています。特に最近は、対象顧客層に近い若い世代の社外取締役が求められているのも大きな特徴です。
性別、国籍、世代、専門性といった“属性の多様性”が、必ずしも“多様性ある思考”を実現するとは限りませんが、属性の多様性があれば、少なくともメンバーが相互に質問や疑問を持ちやすくなるため、多様性ある思考を実現しやすくなります。
2. CEOと取締役会議長の分離
日本の上場企業の取締役会ではCEO(会長や社長)が取締役会議長を兼務するケースが多くなっていますが、グローバルでは、取締役会議長とCEOを分離させるのが昨今の潮流です。英国では95%以上の上場企業において取締役会議長とCEOが分離していますし、米国ではS&P500のうち両者を兼務する企業は2005年の71%から2015年には52%へと急減する一方、独立議長(Independent Chairman)は2005年の9%から2015年には29%へと急増しています(出典:Brunswick Review, Spring 2016)。ドイツに至っては、そもそもガバナンス法により両者(CEOとChairman)の兼務が認められていません。
こうした潮流の背景には、2つの考え方があります。1つは、そもそも取締役会の運営と業務執行は全く異なる職務であり、全く異なるスキルセットや適性が求められることから、取締役会議長は取締役会の意思決定・監督機能向上のために会議体の運営に集中し、CEOは日々の事業経営・業務執行に専念すべきであるというもっともな考え方です。もう1つは、両者を兼務することにより特定の人物に過剰に権力が集中し、その結果、取締役会の健全な議論を損なうリスクがあるというものです。すなわち、CEOが取締役会議長を兼務している状況で果たして取締役全員が率直な意見を述べることができるのか、という懸念が生じるということです。
結論として、独立性の高い(CEOと分離した)取締役会議長が取締役会のファシリテーターとしてリーダーシップを発揮することによってこそ建設的な議論が促進され、実効性の高い取締役会の実現に繋がると言えるでしょう。
3. 取締役会議長と各取締役の期待要件の明確化
最適な取締役会構成、 CEOと取締役会議長のリーダーシップ分離が実現したら、次のステップは、取締役会議長と各取締役の期待要件を明確に定義し、各人がそれに合意することです。多くの企業において管理職以下の従業員の基本動作となっている「期待要件の明確化」「職務明細書の作成」「KPI設定」といった一連のプロセスが、取締役会ではスキップされることが珍しくありません。しかし本来は、企業価値の向上を牽引していく取締役会のメンバーにおいてこそ期待要件が明確に定義され、各人がこれに合意した上で、各人のパフォーマンスが精緻に評価されるべきです。
※ウイリス・タワーズワトソンでは、社外取締役に求められる要件として、例えば下記のような標準案をベースに、各企業個別の社外取締役要件の作成、要件毎の評価を支援しています。
社外取締役に求められる要件
(出典:ウイリス・タワーズワトソン)
| カテゴリー |
内容 |
| コンピテンシー |
一貫性と高い倫理観 |
| 独立性とチーム志向 |
| 批判的思考をもった挑戦志向と検証意欲 |
| 決断力 / 成功への拘り |
| フィードバックを受入れる包容力 |
| 知識と経験 |
事業の深い理解 |
| リスクマネージメントと管理 |
| 財政マネージメントと管理 |
| ガバナンス |
| スキル |
情報を精査し分析する能力 |
| コミュニケーションと対人スキル |
| 批判的思考力 |
| 戦略的思考と計画立案力 |
| 摩擦調整力 |
| その他 |
熱意と時間へのコミットメント |
| 重厚さ |
4. 取締役会の実効性向上のための継続的な取り組み(取締役会評価)
取締役会の実効性は、経営環境や事業戦略、機関設計、取締役会構成、各取締役の資質やスキルの変化などに大きな影響を受けます。そのため、取締役会の実効性を維持・向上させていくためには、これらについて継続的な現状把握と分析を行うとともに、それを踏まえた改善の要否を議論すべきであり、その手法の1つとして取締役会評価は大きな意義を持ちます。
取締役会評価において最も重要なことは、評価結果から浮かび上がった課題を解決・改善するためにどのようなアクションをとるべきか、取締役会で十分に議論することです。合意された解決・改善策を社内外に開示するとともに実行し、更にその進捗結果を翌年開示するといったDPDCA(Diagnose(診断), Plan, Do, Check, Action)のサイクルを毎年着実に回していくことで、取締役会の実効性は高まります。
「取締役会評価」は長期投資を呼び込むための最低条件
取締役会評価が投資家の判断に与える影響について、ある大手機関投資家は下記のとおりコメントしています。
「コーポレートガバナンス報告書を開けるときに真っ先に⾒るのがこの項⽬(注:取締役会評価)です。取締役会において、その企業の将来の⽅向性が定められます。そこで今、実⾏にしていることがきちんとできているかどうかを監督し、その先のサクセッションについても、⻑期でその会社がどうなっていくのかを考える時にとても重視しています。ここがしっかりしていると評価できれば、腰を据えて長期投資ができます。そこが頼りないとなると、投資からすぐに撤退するというようなこともあり得ます。」(2017年12⽉15⽇開催 『ウイリス・タワーズワトソン コーポレートガバナンスセミナー』パネルディスカッション 「投資家が評価する実効的なコーポレートガバナンスとは」より)。
取締役会評価を求めるコーポレートガバナンス・コード補充原則4-11③に従って既に多くの上場企業が、最終意思決定・監督機関としての取締役会の実効性を分析・評価し、その結果を開示していますが、本事例のA社のように、各取締役にアンケートを取るだけの簡易な手法をもって「取締役会評価」としているところも未だ少なくありません。しかし、上記コメントのとおり、機関投資家は取締役会評価の結果を「長期投資をするか否か」の判断材料として活用しているだけに、長期投資を呼び込みたいと考える上場企業の経営陣は、取締役会評価の重要性を改めて認識するとともに、その内容もブラッシュアップする必要があります。具体的には、第三者の目を入れて客観的な取締役会評価を実施し、さらに評価によって把握された課題について継続的な改善を図っていることなどが根拠をもって取締役会の実効性の確保・向上について説明できるレベルまで到達すれば、投資家にとってはそのことが投資判断の際の大きな安心材料となり、長期投資の可能性も高まると言えるでしょう。