<解説>
事業セグメントと報告セグメント
投資家が重視する企業情報の1つにセグメント情報があります。企業の事業は複数のセグメントで構成されているのが通常であり、セグメントごとに事業の成長トレンドが異なることから、企業全体としての業績や過去の損益推移を見るよりも、セグメントごとの業績や過去の損益推移を見た方が、より詳細に企業を分析でき、将来のキャッシュ・フローをより精緻に予測できるからです。
上場企業におけるセグメント情報の開示は、企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」(セグメント会計基準)に従うことになります。セグメント会計基準によると、まず企業の事業セグメントを認識することになります。事業セグメントとは企業の構成単位で、次の要件のすべてに該当するものをいいます(連結財務諸表作成会社では連結ベースで判断します)。
(1) 収益を稼得し、費用が発生する事業活動に関わるもの(同一企業内の他の構成単位との取引に関連する収益および費用を含む)
(2) 企業の最高経営意思決定機関が、当該構成単位に配分すべき資源に関する意思決定を行い、また、その業績を評価するために、その経営成績を定期的に検討するもの
(3) 分離された財務情報を入手できるもの
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上記の3つの要件のうち(2)の要件の「企業の最高経営意思決定機関が・・・」という箇所は、経営陣が利用している情報をそのまま投資家に開示することこそ、投資家にとって業績等を判断するのに役立つという考えに基づくものです(この考えをマネジメントアプローチと言います)。
もっとも、企業は事業セグメントのすべてを開示しなければならないわけではありません。まず複数の事業セグメントが次の要件のすべてを満たす場合、企業は当該事業セグメントを1つの事業セグメントに集約することができます。
(1) 当該事業セグメントを集約することが、セグメント情報を開示する基本原則と整合していること
(2) 当該事業セグメントの経済的特徴が概ね類似していること
(3) 当該事業セグメントの次のすべての要素が概ね類似していること
① 製品およびサービスの内容
② 製品の製造方法または製造過程、サービスの提供方法
③ 製品およびサービスを販売する市場または顧客の種類
④ 製品およびサービスの販売方法
⑤ 銀行、保険、公益事業等のような業種に特有の規制環境
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そのうえで、事業セグメントまたは集約された事業セグメントの中から、下記の量的基準に従って、報告すべきセグメント(報告セグメント)を決定することになります。
(1) 売上高(事業セグメント間の内部売上高または振替高を含む)がすべての事業セグメントの売上高の合計額の10%以上であること
(2) 利益または損失の絶対値が、①利益の生じているすべての事業セグメントの利益の合計額、または②損失の生じているすべての事業セグメントの損失の合計額の絶対値のいずれか大きい額の10%以上であること
(3) 資産が、すべての事業セグメントの資産の合計額の10%以上であること |
そして、報告セグメントの外部顧客への売上高の合計額が連結損益計算書の売上高の75%未満である場合には、連結損益計算書の売上高の75%以上が報告セグメントに含まれるまで、報告セグメントとする事業セグメントを追加して識別しなければなりません。
こういった判断の結果、報告セグメントでは「その他」に含まれる事業セグメントが生じる場合もあり得ますが、「その他」に含まれる事業だからといって経営を疎かにして良いことにはならず、経営陣はROEやROAなどのKPIを定めて経営を管理し、事業を存続すべきかどうかを常にウオッチすべきことは言うまでもありません。
さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
社外取締役A:「開店以来黒字になったことがない店舗であるにもかかわらず改装を予定しているとは、いささか驚きました。このような状況が投資家の知るところになると、説明に困るのではないでしょうか。そもそも、製造業を営むわが社が『日本の伝統文化の振興』に取り組む必要はあるのでしょうか?」
(コメント:社内取締役は、さまざまなしがらみがあることから、往々にして赤字事業からの撤退を言い出しにくいものです。選任されて間もない社外取締役だからこそ言える本音の発言はGOODです。)
社内取締役B:「当社では、和食店事業をセグメント情報の『その他』に含めており、その損益について有価証券報告書や事業報告・決算短信などで個別開示をしていません。これは和食店事業の損益の金額的重要性が低い以上やむを得ないことです。そもそも投資家に和食店事業の損益を説明していない以上、赤字であることにそれほど神経質になる必要はないかと思います。」
(コメント:「投資家に和食店事業の個別の損益を説明していないのは、損益面の金額的重要性が低いから」という説明は間違いではありません。しかし、そのような事業であっても、株主の資金を用いて事業を営んでいる以上、決して経営を疎かにしてはなりません。投資家への説明が不要であることを理由に、赤字の垂れ流しを許容するかのようなBの発言はBADです。)
社外取締役C:「これを機に今年度から和食店事業を独立したセグメントとして開示してはどうでしょうか。」
(コメント:和食店事業を報告セグメントとして開示すべきかどうかの判断は、和食店事業の売上高の規模だけでなく、経営陣が和食店事業を今後どのように育てていくのかという計画や「その他」に含まれる他の事業セグメントの売上高の大小に左右されるものです。上場企業が報告セグメントを新設するということは、投資家に対して新たな事業の柱が登場したことを報告するとともに、今後は当該報告セグメントに経営資源を集中的に投下していくことを宣言するに等しいと言っても過言ではありません。逆にそのような状況でないにもかかわらず「その他」に含めていた事業セグメントをあらたに独立した報告セグメントとして開示してしまうと、投資家の投資判断をミスリードしかねません。このように報告セグメントの追加は慎重に判断すべき事項であり、何でも投資家にオープンにすればいいという単純な話ではないので、Cの発言はBAD発言です。まして別の社外取締役が和食店事業からの撤退を提案しようとしている時に、その議論に踏み込むことなく和食店事業を独立した報告セグメントとして開示することを提案するあたりもBADと言わざるを得ません。)