概要
ジュエリーの製造・販売を営む光・彩(JASDAQ上場)で、経理担当者が約4億円(金額は今後の調査の結果次第で膨らむ見込み)を横領していた。
経緯
光・彩が、2017年9月に「内部調査委員会の調査報告書」を公表するまでの経緯を時系列で示すと、次のとおり。
2010年
2月:今回問題を起こした経理担当者(以下、経理担当者)が光・彩に入社する。入社時点で、経理担当者には銀行のカードローン等の債務があった。
9月:経理担当者がオンライン決済を悪用し自身の口座への送金を始める。
2014年1月期:経理担当者の上長B氏が退職し、経理担当者が経理部門の責任者になる。
2017年
7月27日:光・彩は、税務調査に際して、国税局担当者より「経理責任者が多額の現金を横領している事実」を示唆された。
8月18日:光・彩は「当社経理部門責任者の不正行為に関するお知らせ」を公表。
8月22日:光・彩は内部調査委員会を設置(リリースはこちら)
9月25日:光・彩は「内部調査委員会の調査報告書」を公表。
内容・原因・改善策
光・彩が、2017年9月に公表した「内部調査委員会の調査報告書」によると、本件の問題点の主な内容とその原因、対応策および再発防止策は次のとおりである。
| 内容 | 経理担当者が、銀行のオンラインバンキングシステムを使用し、会社の口座から自らの口座に送金し、計533万円を着服した(金額は今後の調査の結果次第で膨らむ見込み)。 |
| 原因 | (機会) ・同システムは、当初は送金への承認者を設定できない旧式の即時送金システムであった。 ・送金の承認者を設定するオンラインバンキングシステムを導入後も、旧式の即時送金システムは、廃止されることなく併存していた。 ・経理担当者に対する社内監査も行われていたが、預金残高については、期末における会計の残高と通帳の残高を突合するだけに過ぎなかった。社内監査でチェックの対象となるオンラインバンキングから出力される預金残高一覧は、パソコンで偽造していた。また、仮に当座預金照合表をチェックされたとしても、銀行から送付される当座預金照合表上は総合振込の利用時には振込先が印字されない(合計額で印字されるだけ)ことから、総合振込明細と照合されない限り、経理担当者が自身の口座へ送金した事実がばれることはなかった。 ・経理課長在籍時は日次で資金日報と現預金の突合が行われていたが、経理課長が退職し、経理担当者が経理部門の責任者となった後は日次で資金日報と現預金の突合は行われなくなった。 ・社内でオンラインバンキングのシステムを管理する知識および能力を有するのは、経理担当者1人のみであった。 ・人員が不足していたこともあり、経理担当者の具体的業務を把握している者は誰一人いなかった。 (動機) ・経理担当者は、入社時点において既に銀行のカードローン等の債務がある状態であったところ、経理の内部統制の不備を認識し、自身の債務弁済を目的として資金を横領するに至った。 (不正会計) ・経理担当者は、大学院修士課程修了により税理士試験2科目を免除され、入社時点においては税理士試験の1科目を合格していた。税理士事務所、会計事務所での勤務を経て、光・彩に入社したため、相当程度の会計・税務の知識を有していた。 ・帳簿残高と実際の預金残高に生じる差異を埋めるために、差額について仮払金として計上し、月末や決算整理等でまとめて修正または正規の経費等として消込み、あるいは後述する架空買掛金の支払いを行ったかのように会計処理をしていた。 ・オンラインバンキングの入出金記録および外国口座の取引明細書を破棄または偽造することで帳簿残高との調整に利用していた。 |
| 内容 | 経理担当者は上長から一時的に借用した会社の丸印を、甲金融機関の払戻伝票への押印に使用し、不正に資金を引き出していた(被害額2億1882万)。 |
| 原因 | (丸印の位置付け) ・光・彩では、会社が発行する領収証、請求書その他の証明書に用いるための印鑑として丸印を用いており、当該丸印は経理担当者の上長が管理している。また、丸印とは別の印鑑を銀行に届け出て、代表取締役社長が当該銀行届出印を管理している。もっとも、代表取締役社長の出張中は銀行に提出する払戻伝票への押印ができず支払い業務が滞ることから、甲金融機関に限り、例外的に丸印を届出印として用いていた。 (丸印の流用) ・領収証、請求書その他の証明書に丸印を押す必要がある場合、経理担当者は上長に押印申請簿を提出することで、上長から一時的に会社の丸印を借用できた。その際に経理担当者は当該丸印を甲金融機関の払戻伝票への押印に使用し、不正に資金を引き出すことができた。 (不正会計) ・経理担当者は、流用した額だけ材料費および買掛金を過大計上し、預金を引き出した額については買掛金を普通預金から支払ったと偽りの会計処理を行うことで、帳簿の預金残高が実際の銀行残高と一致するようにしていた。 |
| 内容 | 経理担当者は、2015年3月末に閉鎖された東京・銀座営業所が利用していた普通預金口座を解約せず、乙金融機関の当座預金よりオンライン決済で資金移動させ、キャッシュカードを使用してATMで現金を引き出していた(被害額1億5114万)。 |
| 原因 | (口座解約手続きの未履行) ・2015年3月末に東京・銀座営業所が閉鎖された際、銀座営業所が本社に通帳とキャッシュカードを郵送し、それを経理担当者が受け取った。経理担当者の上長や他の経理部員等は、当然に銀行口座の解約の手続きが行われるものと認識していたが、経理担当者は、当該銀行口座を解約せず、更なる着服を実行する目的で利用することとした。 ・経理担当者の上長は銀行口座を解約し閉鎖に至ったことを確認していなかった。 (不正会計) ・横領を隠蔽する方法は、上記と同じく「材料費を過大に計上する」というものであったが、材料費を過大計上したことで損失も膨らんできた。そこで、経理担当者は2017年1月期期末の決算の際には、在庫(主に金)の量(グラム数)を過大に計上することで、課題となった材料費を少なくなるよう操作した。仕掛品や製品を計算するための根拠となる棚卸報告書の改ざんにあたり、各部門担当者の承認印を切り張りして複製することで報告書を偽造していた。 (不適切な内部監査) ・光・彩では、内部監査室を設け、月次で各部署の担当者が内部監査に関する報告を行っていた。しかし、会計関係についての内部監査の報告を行うのは経理担当者であり、当然ながら、ほぼ「現時点では問題はないと認識している。」という事実とは異なる報告が行われるのみであった。経理担当者が自身を内部監査する格好になっていた。 ・製造部等は経理課の使用する会計システムとは独立した基幹システムを使用しており、当該システムは経理課の使用する会計システムとは連動していない。経理担当者は、会計システム上で架空の材料費および架空の買掛金を計上する一方、製造部等が利用する基幹システム上での買掛金額は操作していなかった。そのため、両システムを適切に照合していれば、本件不正行為は防ぐことができたが、両システムの照合は行われていなかった。 |
| 内容 | 経理担当者は、現金回収された売掛金の一部を着服していた(被害額1477万)。 |
| 原因 | ・年に2回開催するジュエリーフェア(展示即売会)で受領した現金は、元経理課長が退職するまでは、金融機関に本社まで取りに来てもらっていたが、元経理課長が退職した後は、経理担当者が現金を金融機関まで持ち出し、口座へ入金するようになった。 ・着服の事実を隠蔽するため、実際には入金されていない現金を帳簿上普通預金への入金として記帳することで仮装した。 |
| 対応策 | 光・彩は、経理担当者が購入していた10件の不動産について、損害賠償債務の譲渡担保の形で取得した。また、経理担当者が横領した金銭で購入した動産のうち、換価可能な動産については質権設定する形で確保した。これらの措置により被害額のうち約2億1000万円を回収できた。 ・連結財務諸表および財務諸表の修正が必要になった。主な内容は、以下のとおり。 ① 着服による資金を会計上流出させるための架空材料費(当期製品製造原価、材料費)の計上を取り消すと共に、不正な着服金額については、経理担当者への請求を行うため長期未収入金(投資その他の資産)を計上する。 ② 上記①の着服の事実を隠蔽するために過大計上された棚卸資産(仕掛品、商品および製品)を再計算し、適正な残高へ修正する。 ③ 経理担当者への請求予定額である長期未収入金については、回収可能性を慎重に検討し、必要な貸倒引当金の計上を行う。 ④ 上記訂正を踏まえた消費税、法人税等の訂正を行う。 |
| 再発防止策 | (1)業務フローの明文化、改善 ア 印鑑の管理 金融機関の届出印鑑と領収証等に使用する印鑑を区別し、それぞれの印鑑管理者を定める。 管理者が印鑑の貸し出しを行うことは原則禁止としたうえで、例外的に印鑑の貸し出しが必要な場合を具体的に列挙し、貸し出す際の書式、手続きを定める。 届出印鑑と通帳の管理者を分ける。 イ 金融機関口座の管理 口座管理簿を作成し、当該情報を共有する。 口座の新規開設について、稟議、決裁が必要なことおよびその具体的手続きについて規程に定める。また、使用しない口座は解約することとその手続きについても規程に定める。 口座の管理を1人に独占させないよう体制を整える。 通帳および印鑑の各管理者以外の役職員が、口座の履歴等につき「改ざんの可能性がない資料」により定期的に確認する。 ウ オンラインバンキングの管理 システム管理者を複数置く。 管理者、承認者等のアカウントの管理方法、分担を定める。 複数のシステムが併存する場合、併存させるか否かを検討する手続きを設ける。 特にアカウント保有者の退職時には、アカウントを廃止することとし、アカウントの権限及び数等を、管理者以外の者も含め、共有する。 エ 現金の管理 現金を社外に持ち出さない。また、現金は複数の者が管理する。 オ 資金日報 資金日報と現預金を日次で突合し、入出金、現預金残高を確認する。現預金が会計帳簿と一致するまで、当日の業務は終了しないものとする。 カ 会計システムと基幹システムの照合 経理課の会計システムと製造部等の基幹システムの数値を定期的に比較対照し、一致することを確認する。もし、数値に齟齬がある場合は、原因を究明する。 (2)管理部門の牽制強化 (3)監査等委員会監査および内部監査の更なる強化 (4)取締役の相互監視・監督体制の更なる強化 (5)内部通報制度の周知徹底および外部窓口の運用開始 (6)コンプライアンス研修の実施 |
<この失敗から学ぶべきこと>
光・彩において横領事件が発覚したのは国税局による税務調査がきっかけでした。内部調査報告書によると、光・彩が国税局担当者より「経理担当者が少なくとも2億3000万円の現金を横領している事実」を示唆されたのは、税務調査の初日とのことです。初日に横領額が伝えられたということは、すでに調査の外堀が埋まっていたものと思われます。内部調査報告書では税務調査が行われたきっかけは明らかにされていませんが、経理担当者が不動産10件、車両(自動車1台、バイク2台)等を購入したことで、税務当局に資金の出所への疑問を持たれた可能性も否定できません。役員としては、派手な振る舞いが目立つ経理部門の従業員がいる場合、横領の可能性を視野に入れ、内部統制を点検したり、内部監査を強化したりする必要があります。もし横領のリスクがあるのであれば、人事ローテーションを行い、担当を交替させることも必要になるでしょう。また、監査法人と情報を共有して、「現金の横領リスク」を会計監査の「特別な検討を必要とするリスク」に入れてもらい重点的に会計監査をしてもらうのも一案です。
光・彩では、コストカットが最優先され、ダブルチェックに必要な人員の確保の重要性が軽視されていました。過度のコストカットにより不正が生み出され、カットしたコスト以上の損害を被れば元も子もありません。コストカット意識が強い企業ではダブルチェックが不十分になっていないか注意が必要です。
本調査報告書によると、光・彩は「上場会社であり、元々は現預金の管理体制がしっかりしていた」ため、横領をした経理担当者以外の「経理課課員は、本会社の現預金を横領できるとも思わなかったし、実際に横領されているとも認識していなかった」(カギカッコ内は調査報告書17ページからの引用)とされています。たとえ上場会社といえども、内部統制をメンテナンスしていなければ、次第に不正の抜け道が出来上がる好例と言えます。経理担当者による横領は会計不正を伴うのが通常であり、単なる残高照合程度のチェックでは発覚しにくいのが特徴です。さまざまな仕組みで不正を防ぐ必要があります。また、役員は経理責任者に対して往々にして過度の信頼を寄せがちです。「当社では経理部長が資金の動きをチェックしているから大丈夫。確かに経理部長自身が不正を手掛ければ誰もチェックできないけど、経理部長は不正をする人ではないから大丈夫」という根拠なき性善説が幅を利かせている上場会社も少なくないのではないでしょうか。不正を起こす職場を作らないようにするのが、取締役の責任です。取締役は、自社の内部統制が十分かどうか、内部監査部門に改めて問題提起をしてみることも必要です。
