2017/09/29 【失敗学第40回】光・彩の事例(会員限定)

概要

ジュエリーの製造・販売を営む光・彩(JASDAQ上場)で、経理担当者が約4億円(金額は今後の調査の結果次第で膨らむ見込み)を横領していた。

経緯

光・彩が、2017年9月に「内部調査委員会の調査報告書」を公表するまでの経緯を時系列で示すと、次のとおり。

2010年
2月:今回問題を起こした経理担当者(以下、経理担当者)が光・彩に入社する。入社時点で、経理担当者には銀行のカードローン等の債務があった。
9月:経理担当者がオンライン決済を悪用し自身の口座への送金を始める。

2014年1月期:経理担当者の上長B氏が退職し、経理担当者が経理部門の責任者になる。

2017年
7月27日:光・彩は、税務調査に際して、国税局担当者より「経理責任者が多額の現金を横領している事実」を示唆された。
8月18日:光・彩は「当社経理部門責任者の不正行為に関するお知らせ」を公表。
8月22日:光・彩は内部調査委員会を設置(リリースはこちら
9月25日:光・彩は「内部調査委員会の調査報告書」を公表。

内容・原因・改善策

光・彩が、2017年9月に公表した「内部調査委員会の調査報告書」によると、本件の問題点の主な内容とその原因、対応策および再発防止策は次のとおりである。

オンライン決済を悪用した自身の口座への送金
内容 経理担当者が、銀行のオンラインバンキングシステムを使用し、会社の口座から自らの口座に送金し、計533万円を着服した(金額は今後の調査の結果次第で膨らむ見込み)。
原因 (機会)
・同システムは、当初は送金への承認者を設定できない旧式の即時送金システムであった。
・送金の承認者を設定するオンラインバンキングシステムを導入後も、旧式の即時送金システムは、廃止されることなく併存していた。
・経理担当者に対する社内監査も行われていたが、預金残高については、期末における会計の残高と通帳の残高を突合するだけに過ぎなかった。社内監査でチェックの対象となるオンラインバンキングから出力される預金残高一覧は、パソコンで偽造していた。また、仮に当座預金照合表をチェックされたとしても、銀行から送付される当座預金照合表上は総合振込の利用時には振込先が印字されない(合計額で印字されるだけ)ことから、総合振込明細と照合されない限り、経理担当者が自身の口座へ送金した事実がばれることはなかった。
・経理課長在籍時は日次で資金日報と現預金の突合が行われていたが、経理課長が退職し、経理担当者が経理部門の責任者となった後は日次で資金日報と現預金の突合は行われなくなった。
・社内でオンラインバンキングのシステムを管理する知識および能力を有するのは、経理担当者1人のみであった。
・人員が不足していたこともあり、経理担当者の具体的業務を把握している者は誰一人いなかった。
(動機)
・経理担当者は、入社時点において既に銀行のカードローン等の債務がある状態であったところ、経理の内部統制の不備を認識し、自身の債務弁済を目的として資金を横領するに至った。
(不正会計)
・経理担当者は、大学院修士課程修了により税理士試験2科目を免除され、入社時点においては税理士試験の1科目を合格していた。税理士事務所、会計事務所での勤務を経て、光・彩に入社したため、相当程度の会計・税務の知識を有していた。
・帳簿残高と実際の預金残高に生じる差異を埋めるために、差額について仮払金として計上し、月末や決算整理等でまとめて修正または正規の経費等として消込み、あるいは後述する架空買掛金の支払いを行ったかのように会計処理をしていた。
・オンラインバンキングの入出金記録および外国口座の取引明細書を破棄または偽造することで帳簿残高との調整に利用していた。
上司から請求書等への押印のために借りた印鑑を不正に金融機関の払戻伝票に捺印
内容 経理担当者は上長から一時的に借用した会社の丸印を、甲金融機関の払戻伝票への押印に使用し、不正に資金を引き出していた(被害額2億1882万)。
原因 (丸印の位置付け)
・光・彩では、会社が発行する領収証、請求書その他の証明書に用いるための印鑑として丸印を用いており、当該丸印は経理担当者の上長が管理している。また、丸印とは別の印鑑を銀行に届け出て、代表取締役社長が当該銀行届出印を管理している。もっとも、代表取締役社長の出張中は銀行に提出する払戻伝票への押印ができず支払い業務が滞ることから、甲金融機関に限り、例外的に丸印を届出印として用いていた。
(丸印の流用)
・領収証、請求書その他の証明書に丸印を押す必要がある場合、経理担当者は上長に押印申請簿を提出することで、上長から一時的に会社の丸印を借用できた。その際に経理担当者は当該丸印を甲金融機関の払戻伝票への押印に使用し、不正に資金を引き出すことができた。
(不正会計)
・経理担当者は、流用した額だけ材料費および買掛金を過大計上し、預金を引き出した額については買掛金を普通預金から支払ったと偽りの会計処理を行うことで、帳簿の預金残高が実際の銀行残高と一致するようにしていた。
本来は廃棄すべき銀行口座のキャッシュカードを悪用して、不正出金
内容 経理担当者は、2015年3月末に閉鎖された東京・銀座営業所が利用していた普通預金口座を解約せず、乙金融機関の当座預金よりオンライン決済で資金移動させ、キャッシュカードを使用してATMで現金を引き出していた(被害額1億5114万)。
原因 (口座解約手続きの未履行)
・2015年3月末に東京・銀座営業所が閉鎖された際、銀座営業所が本社に通帳とキャッシュカードを郵送し、それを経理担当者が受け取った。経理担当者の上長や他の経理部員等は、当然に銀行口座の解約の手続きが行われるものと認識していたが、経理担当者は、当該銀行口座を解約せず、更なる着服を実行する目的で利用することとした。
・経理担当者の上長は銀行口座を解約し閉鎖に至ったことを確認していなかった。
(不正会計)
・横領を隠蔽する方法は、上記と同じく「材料費を過大に計上する」というものであったが、材料費を過大計上したことで損失も膨らんできた。そこで、経理担当者は2017年1月期期末の決算の際には、在庫(主に金)の量(グラム数)を過大に計上することで、課題となった材料費を少なくなるよう操作した。仕掛品や製品を計算するための根拠となる棚卸報告書の改ざんにあたり、各部門担当者の承認印を切り張りして複製することで報告書を偽造していた。
(不適切な内部監査)
・光・彩では、内部監査室を設け、月次で各部署の担当者が内部監査に関する報告を行っていた。しかし、会計関係についての内部監査の報告を行うのは経理担当者であり、当然ながら、ほぼ「現時点では問題はないと認識している。」という事実とは異なる報告が行われるのみであった。経理担当者が自身を内部監査する格好になっていた。
・製造部等は経理課の使用する会計システムとは独立した基幹システムを使用しており、当該システムは経理課の使用する会計システムとは連動していない。経理担当者は、会計システム上で架空の材料費および架空の買掛金を計上する一方、製造部等が利用する基幹システム上での買掛金額は操作していなかった。そのため、両システムを適切に照合していれば、本件不正行為は防ぐことができたが、両システムの照合は行われていなかった。
現金売上の着服、及び現金回収された売掛金債権の着服
内容 経理担当者は、現金回収された売掛金の一部を着服していた(被害額1477万)。
原因 ・年に2回開催するジュエリーフェア(展示即売会)で受領した現金は、元経理課長が退職するまでは、金融機関に本社まで取りに来てもらっていたが、元経理課長が退職した後は、経理担当者が現金を金融機関まで持ち出し、口座へ入金するようになった。
・着服の事実を隠蔽するため、実際には入金されていない現金を帳簿上普通預金への入金として記帳することで仮装した。
対応策および再発防止策
対応策 光・彩は、経理担当者が購入していた10件の不動産について、損害賠償債務の譲渡担保の形で取得した。また、経理担当者が横領した金銭で購入した動産のうち、換価可能な動産については質権設定する形で確保した。これらの措置により被害額のうち約2億1000万円を回収できた。
・連結財務諸表および財務諸表の修正が必要になった。主な内容は、以下のとおり。
① 着服による資金を会計上流出させるための架空材料費(当期製品製造原価、材料費)の計上を取り消すと共に、不正な着服金額については、経理担当者への請求を行うため長期未収入金(投資その他の資産)を計上する。
② 上記①の着服の事実を隠蔽するために過大計上された棚卸資産(仕掛品、商品および製品)を再計算し、適正な残高へ修正する。
③ 経理担当者への請求予定額である長期未収入金については、回収可能性を慎重に検討し、必要な貸倒引当金の計上を行う。
④ 上記訂正を踏まえた消費税、法人税等の訂正を行う。
再発防止策 (1)業務フローの明文化、改善
ア 印鑑の管理
金融機関の届出印鑑と領収証等に使用する印鑑を区別し、それぞれの印鑑管理者を定める。
管理者が印鑑の貸し出しを行うことは原則禁止としたうえで、例外的に印鑑の貸し出しが必要な場合を具体的に列挙し、貸し出す際の書式、手続きを定める。
届出印鑑と通帳の管理者を分ける。
イ 金融機関口座の管理
口座管理簿を作成し、当該情報を共有する。
口座の新規開設について、稟議、決裁が必要なことおよびその具体的手続きについて規程に定める。また、使用しない口座は解約することとその手続きについても規程に定める。
口座の管理を1人に独占させないよう体制を整える。
通帳および印鑑の各管理者以外の役職員が、口座の履歴等につき「改ざんの可能性がない資料」により定期的に確認する。
ウ オンラインバンキングの管理
システム管理者を複数置く。
管理者、承認者等のアカウントの管理方法、分担を定める。
複数のシステムが併存する場合、併存させるか否かを検討する手続きを設ける。
特にアカウント保有者の退職時には、アカウントを廃止することとし、アカウントの権限及び数等を、管理者以外の者も含め、共有する。
エ 現金の管理
現金を社外に持ち出さない。また、現金は複数の者が管理する。
オ 資金日報
資金日報と現預金を日次で突合し、入出金、現預金残高を確認する。現預金が会計帳簿と一致するまで、当日の業務は終了しないものとする。
カ 会計システムと基幹システムの照合
経理課の会計システムと製造部等の基幹システムの数値を定期的に比較対照し、一致することを確認する。もし、数値に齟齬がある場合は、原因を究明する。

(2)管理部門の牽制強化
業務の実行者と承認者を明確に分け、承認者が実行することのないようにする。具体的には、業務の実行者に承認権限を与えず、業務の実行者は実行のみを行うようにする。一方、業務実行の承認者は、承認のみを行い、実行は行わないこととする。
責任者レベルも含めて人員補充を行い、業務の実行者と承認者を厳格に分離し、ダブルチェック体制を堅持できる体制を整える。

(3)監査等委員会監査および内部監査の更なる強化
監査等委員会および内部監査室の役割及び権限分配を定め、それぞれの業務フローを決定する。
その際、現金、現金出納帳、口座の取引履歴及び製造部等の基幹システムを確認し、改ざんできない原資料があるものについては必ず原資料と照合する。
内部監査については、外部の専門家の協力を得て、より適正な内部監査の実施に努める。

(4)取締役の相互監視・監督体制の更なる強化
取締役間の相互監視を強化するとともに、業務フローの改善、人員配置の適正化による社内での監督機能を実効化する方策の策定等を通じて、監督機能を正常化する。
監査等委員会においては、会計監査の実効性を高めるため、改ざんできない元データに基づく詳細な会計報告を行う。

(5)内部通報制度の周知徹底および外部窓口の運用開始
光・彩では、内部通報制度の周知が不十分であるため、内部通報制度の周知徹底を図るとともに、社内の内部監査室、監査等委員会への通報窓口を設置する。
これに加えて社外にも通報窓口を設置することで、通報者の匿名性を確保し、内部通報制度をより実効的なものとする。

(6)コンプライアンス研修の実施
毎年定期的な研修を行うこと等を通して、全社的に改めてコンプライアンスへの意識を喚起する。

<この失敗から学ぶべきこと>

光・彩において横領事件が発覚したのは国税局による税務調査がきっかけでした。内部調査報告書によると、光・彩が国税局担当者より「経理担当者が少なくとも2億3000万円の現金を横領している事実」を示唆されたのは、税務調査の初日とのことです。初日に横領額が伝えられたということは、すでに調査の外堀が埋まっていたものと思われます。内部調査報告書では税務調査が行われたきっかけは明らかにされていませんが、経理担当者が不動産10件、車両(自動車1台、バイク2台)等を購入したことで、税務当局に資金の出所への疑問を持たれた可能性も否定できません。役員としては、派手な振る舞いが目立つ経理部門の従業員がいる場合、横領の可能性を視野に入れ、内部統制を点検したり、内部監査を強化したりする必要があります。もし横領のリスクがあるのであれば、人事ローテーションを行い、担当を交替させることも必要になるでしょう。また、監査法人と情報を共有して、「現金の横領リスク」を会計監査の「特別な検討を必要とするリスク」に入れてもらい重点的に会計監査をしてもらうのも一案です。

光・彩では、コストカットが最優先され、ダブルチェックに必要な人員の確保の重要性が軽視されていました。過度のコストカットにより不正が生み出され、カットしたコスト以上の損害を被れば元も子もありません。コストカット意識が強い企業ではダブルチェックが不十分になっていないか注意が必要です。

本調査報告書によると、光・彩は「上場会社であり、元々は現預金の管理体制がしっかりしていた」ため、横領をした経理担当者以外の「経理課課員は、本会社の現預金を横領できるとも思わなかったし、実際に横領されているとも認識していなかった」(カギカッコ内は調査報告書17ページからの引用)とされています。たとえ上場会社といえども、内部統制をメンテナンスしていなければ、次第に不正の抜け道が出来上がる好例と言えます。経理担当者による横領は会計不正を伴うのが通常であり、単なる残高照合程度のチェックでは発覚しにくいのが特徴です。さまざまな仕組みで不正を防ぐ必要があります。また、役員は経理責任者に対して往々にして過度の信頼を寄せがちです。「当社では経理部長が資金の動きをチェックしているから大丈夫。確かに経理部長自身が不正を手掛ければ誰もチェックできないけど、経理部長は不正をする人ではないから大丈夫」という根拠なき性善説が幅を利かせている上場会社も少なくないのではないでしょうか。不正を起こす職場を作らないようにするのが、取締役の責任です。取締役は、自社の内部統制が十分かどうか、内部監査部門に改めて問題提起をしてみることも必要です。

2017/09/29 収益認識基準導入控え、先取りで会計方針を変更する企業も(会員限定)

企業の売上の計上ルールを変える新たな会計基準「収益認識に関する会計基準(案)」が「2021年4月1日以後開始する事業年度の期首」から適用されるが(2018年1月1日以後開始する事業年度から早期適用することも可能)、その趣旨を先取りする企業が出てきている。

新たな収益認識基準のポイントの一つが、売上の「純額表示」だ。新たな収益認識基準のベースとなっているIFRS第15号では、「財またはサービスを顧客に移転する前に、その財またはサービスの支配を獲得していない場合には、本人ではなく代理人として取扱う」とされている。例えばテナントに場所を貸しているに過ぎない百貨店はこの“代理人”に該当する可能性が高く、代理人に該当すると売上には「テナントから受領する手数料相当額」しか計上できなくなる(2015年4月8日のニュース「収益認識会計の導入で影響を受ける業種は?」参照)。

この点を踏まえ会計方針を変更したのが、東証二部に上場する北日本紡績である。同社はこれまで取引先から有償で支給を受けていた材料()の代金を「売上高」および「売上原価」に計上していたが、2017年3月期より当該代金をその両方から控除している(その結果、同社の損益計算書には加工料のみ純額で表示される)。会計方針を変更した理由として同社は、「これまでは有償支給材料の金額が小さかったが、主要な取引先との取引の一部が無償支給取引から有償支給取引に変更され金額的重要性が増したため、売上高等をより適切に表示するには、純額処理の方が適していると判断した」旨説明している。この結果、前事業年度の売上高および売上原価は6,866万5千円減少、当事業年度の売上高および売上原価は8,466万9千円減少した。

 有償支給材料。なお、同社は有償支給先(支給される側)である。ちなみに、有償支給元(支給する側)の場合、「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」設例32では、財の支配の移転がないとして売上を認識しないこととされている。

純額処理 : 有償支給先が有償支給材料の価格変動リスクを負っていない場合、有償支給先は代理人として加工料のみを純額で売上高に表示するのが適切である。

新会計基準のもう一つのポイントが、収益認識時点である。これまでは法人税の取扱いに従って「出荷日」に収益を認識する企業が少なくなかったが、新会計基準では、「支配の移転」の時に収益を認識することになるため、出荷日に「支配の移転」が認められない販売形態では、従来の「出荷日」ではなく、「検収時」において収益を認識するのが原則となる(2017年9月11日のニュース「役員も押さえておきたい 収益認識会計基準導入で企業に求められる対応」参照)。

この点を踏まえて会計方針の見直しを行ったのが、いずれも東証一部に上場するTOWAとニコンだ。

TOWAはこれまで、海外への半導体製造装置等の売上を出荷基準により認識していたが、これを「据付完了基準」に変更している。この会計方針の変更について同社は、「海外売上比率の増加により出荷から据付完了までの期間が長期化する傾向になってきたこと、並びに出荷から据付完了までの業務プロセスの見直しにより据付完了に関するデータが整備されてきたことから、国際的な会計基準の動向も踏まえ、収益の実態をより適切に反映させるために行うもの」と説明している。この会計方針の変更により、同社の前連結会計年度の売上高は8,365万7千円、営業利益は1,371万1千円、経常利益及び税金等調整前当期純利益は3,535万2千円それぞれ増加している。

ニコンは、海外向けのFPD(フラットパネルディスプレイ)露光装置の売上の認識時点を、これまでの船積基準or顧客指定場所引渡し基準から、据付完了基準へと変更している。同社はこの会計方針の変更について、「当該装置の据付作業は 従来の装置よりも複雑であり、据付の期間の長期化及び高度化が見込まれるために、FPD露光装置の船積あるいは顧客指定場所への引渡時よりも据付完了時に収益を認識することが、収益の実態をより適切に反映させることになる」と説明している。この会計方針の変更により、同社の前事業年度の売上高は35億2,800万円減少し、営業損失、経常損失、税引前当期純損失はそれぞれ45億6,500万円増加している。

これらの会計方針の変更はいずれも現行会計基準の下で可能なもの()。新たな収益認識に関する会計基準の導入を前に、会計方針の変更を行う上場企業は今後も出て来ることが予想される。上場企業の経営陣としては、自社の業績への影響を見極めつつ、検討したいテーマと言えよう。

 我が国には、収益認識に関する包括的な会計基準は存在しないものの、GAAP(一般に公正妥当と認められた会計原則)において純額表示や据付完了基準はもともと認められており、会社の経済的実態を表すのにそれらの会計方針を採用する方が望ましいのであれば、会計方針を変更することが認められている。

GAAP : Generally Accepted Accounting Principlesの略。企業会計原則やASBJの会計基準だけでなく、日本公認会計士協会の実務指針や公正妥当と認められる会計慣行等が含まれる。

2017/09/29 収益認識基準導入控え、先取りで会計方針を変更する企業も

企業の売上の計上ルールを変える新たな会計基準「収益認識に関する会計基準(案)」が「2021年4月1日以後開始する事業年度の期首」から適用されるが(2018年1月1日以後開始する事業年度から早期適用することも可能)、その趣旨を先取りする企業が出てきている。・・・

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2017/09/28 取締役会における決議事項減少に“過半数の社外取締役”要件のハードル(会員限定)

2015年5月に施行された改正会社法で導入された「監査等委員会設置会社」に移行した上場会社はおよそ800社に到達している。監査等委員会設置会社に移行するメリットとしては、社外監査役を社外取締役に横滑りさせられるということが強調されがちだが、この他にも見逃せないメリットとして、一部の重要な業務執行()の決定を取締役に委任できる(=取締役会を通さなくてもよい)というものがある。

 重要な財産の処分および譲受け、多額の借財、支配人その他の重要な使用人の選任および解任などが該当する(会社法362条4項)。

「取締役会の過半数が社外取締役で占められていること」との条件は付くものの、監査等委員会設置会社では社外取締役を3人以上選任している上場企業が6割を超えており()、取締役の人数次第ではこの条件を満たすことはそれほど難しくない。ガバナンスの強化が叫ばれる中ただでさえ取締役会での決議事項は増える傾向にあるだけに、重要な業務執行の決定を取締役へ委任することができれば、取締役会における意思決定の迅速化にもつながる。

 東京証券取引所の「コーポレート・ガバナンス白書 2017」76ページの図表68を参照。このように監査等委員会設置会社で社外取締役の選任比率が高い理由は、会社法上、監査等委員会は3名以上の監査等委員である取締役で構成され、その過半数は社外取締役でなければならない(331条6項)とされているため、社外取締役の複数選任が監査等委員会設置会社への移行の前提となっていたということに加え、昨今のガバナンス強化の流れを受け、法定の最低数を上回る人数の社外取締役を置く上場会社が相次いだということにある。

一方、いまだに上場会社の大部分を占める監査役会設置会社では、重要な業務執行を取締役へ委任することは禁止されているが(会社法362条4項)、これを見直そうという動きが政府内にある。

法務省に設置されている法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会の第5回会議(2017年9月6日開催)では、監査役会設置会社でも重要な業務執行の決定を取締役に委任することを認めるかどうかについて検討が行われている。ここで示されたのが、次に掲げる要件のすべてを満たせば、監査等委員会設置会社の取締役会と同様の範囲内()で、取締役会の決議により重要な業務執行の決定を取締役に委任できるとする案だ。

 監査等委員会設置会社でも、株主総会の招集の決定や株主総会に提出する議案(会計監査人の選任および解任並びに会計監査人を再任しないことに関するものを除く)の内容の決定、取締役の競業および利益相反取引の承認、合併契約の内容の決定など特に重要な事項については、取締役に委任することが認められていない(会社法399条の13第5項)。
(1) 取締役の過半数が社外取締役であること。
(2) 会計監査人設置会社であること。
(3) 取締役会が経営の基本方針について決定していること。
(4) 取締役会が会社法362条4項6号に規定する体制(いわゆる会社法上の内部統制システム)の整備について決定していること。
(5) 取締役の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとすること。

このうち(2)~(4)の要件は上場会社であればまず満たしていると思われる。ハードルが高いのは(1)の要件だろう。取締役会の過半数を社外取締役が占めている上場会社は、東証一部でも4.4%(89社)に過ぎず(集計は監査役会設置会社に限らず。東証が2017年7月26日に公表した「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び委員会の設置状況」の5ページ参照)、ようやく社外取締役の複数選任が一般化してきた監査役会設置会社にとって「取締役の過半数が社外取締役」という要件を充足するのは容易ではない。

とはいえ、監査役会設置会社にとって、重要な業務執行の決定を取締役に委任できることとなるメリットは大きい。現状、訴訟で取締役会決議の不存在が問題となった場合に何をもって「重要」とするかについて裁判所がどのように判断するか予見しづらい()中で、重要性が低いと思われる事項であっても念のため取締役会に上程して承認を得ておくといった実務が広く行われているからだ。

 最高裁は「当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様及び会社における従来の取扱等の事情を総合的に考慮して判断すべきものと解するのが相当」(最判1994年1月20日民集48巻1号1頁)という判断を下しており、実際に「重要」と判断されるかどうかはケースバイケースと言える。

この改正が実現すれば、監査役会設置会社においても機動的な意思決定が可能になるとともに、社外取締役は細々とした承認決議から解放され、業務執行取締役の監督により一層専念することができるようになるだろう。その結果、取締役会の活性化につながるというメリットも期待できる。

上述のとおり「取締役の過半数が社外取締役」という要件はハードルが高いが、取締役の数が少ない比較的小規模な上場会社などはこの要件を満たしやすく、本改正の恩恵を受けることになるかもしれない(参考記事として2017年8月3日のニュース「独立社外取締役、焦点は「人数」から「比率」へ」参照)。

なお、企業側からは、もう一歩踏み込んで「重要な財産の処分及び譲受け」(会社法362条4項1号)および「多額の借財」(同項2号)について、「●円未満は重要(多額)ではない」といったような軽微基準を設けて欲しいとの声も聞かれるが、法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会は、「重要性」は企業によって異なるため一律に軽微基準を法定することは困難であるとして、軽微基準は設けない方針だ。

2017/09/28 取締役会における決議事項減少に“過半数の社外取締役”要件のハードル

2015年5月に施行された改正会社法で導入された「監査等委員会設置会社」に移行した上場会社はおよそ800社に到達している。監査等委員会設置会社に移行するメリットとしては、社外監査役を社外取締役に横滑りさせられるということが強調されがちだが、この他にも見逃せないメリットとして、一部の重要な業務執行()の決定を取締役に委任できる(=取締役会を通さなくてもよい)というものがある。

 重要な財産の処分および譲受け、多額の借財、支配人その他の重要な使用人の選任および解任などが該当する(会社法362条4項)。

「取締役会の過半数が社外取締役で占められていること」との条件は付くものの、監査等委員会設置会社では社外取締役を3人以上選任している上場企業が6割を超えており()、取締役の人数次第ではこの条件を満たすことはそれほど難しくない。ガバナンスの強化が叫ばれる中ただでさえ取締役会での決議事項は増える傾向にあるだけに、重要な業務執行の決定を取締役へ委任することができれば、取締役会における意思決定の迅速化にもつながる。

 東京証券取引所の「コーポレート・ガバナンス白書 2017」76ページの図表68を参照。このように監査等委員会設置会社で社外取締役の選任比率が高い理由は、会社法上、監査等委員会は3名以上の監査等委員である取締役で構成され、その過半数は社外取締役でなければならない(331条6項)とされているため、社外取締役の複数選任が監査等委員会設置会社への移行の前提となっていたということに加え、昨今のガバナンス強化の流れを受け、法定の最低数を上回る人数の社外取締役を置く上場会社が相次いだということにある。

一方、いまだに上場会社の大部分を占める監査役会設置会社では、重要な業務執行を取締役へ委任することは禁止されているが(会社法362条4項)、これを見直そうという動きが政府内にある。・・・

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2017/09/28 一橋大学・商学研究科の円谷昭一先生が、 3月末日決算の全企業について、国内全機関投資家 による「議決権行使結果の個別開示」のデータをとりまとめました。

当フォーラムでもご講演・ご執筆いただいている一橋大学・商学研究科の円谷昭一先生が、3月末日決算の全企業(*1)について、国内全機関投資家(*2)による「議決権行使結果の個別開示」のデータをとりまとめました。

*1 3月末日決算の全企業を収録しています。決算日が3月末日以外の企業は収録しておりません。
*2 機関投資家については、円谷先生が把握している個別開示した国内機関投資家(32社)ののすべてを収録しています。

データのsampleをご覧になりたい方は下記をクリックしてください。
※サンプルでは一部の投資家の個別開示結果のみ掲載していますが、完全なデータには国内機関投資家全32社の個別開示結果が収録されております。
sample.pdf

完全なデータを欲しい方は、下記をクリックして円谷先生に直接コンタクトしてください。
s.tsumura@r.hit-u.ac.jp

2017/09/27 相談役・顧問制度の開示事例

周知のとおり、相談役・顧問の業務内容等をCG報告書(コーポレート・ガバナンスに関する報告書)で開示するルールが来年(2018年)1月1日からスタートする予定となっている(開示ルールが導入されることとなった経緯や開示ルールの内容は、既報のニュース「代表取締役社長が相談役・顧問等に就任でも開示対象外となるケース」「CG報告書での相談役・顧問の実態開示、報酬は総額開示でOK」「相談役・顧問への風当たり強く・・・業務内容等の開示制度導入へ」参照)。

相談役・顧問制度を持つ会社の中には、これを機に自社の制度の見直しを考えるところもあれば、制度の見直しは行わず単純に自社の実態を開示しようというところもあるだろう。新開示ルールは「2018年1月1日以後“最初”に提出するCG報告書」から適用されるため、必ずしも2018年1月1日時点ですべての上場会社がCG報告書を新開示ルールに則ったものに差し替えないといけなくなるわけではないが、開示ルールのスタートと同時に開示しようという会社は、そろそろ具体的な文案の検討を始めたいところだ。

開示ルールのスタート前ではあるが、実は少ないながらもCG報告書で相談役・顧問について開示している事例は既にいくつか存在している。来年以降の開示を検討する会社のために、現時点における開示事例を紹介しよう。

最初に紹介するのが・・・

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2017/09/27 相談役・顧問制度の開示事例(会員限定)

周知のとおり、相談役・顧問の業務内容等をCG報告書(コーポレート・ガバナンスに関する報告書)で開示するルールが来年(2018年)1月1日からスタートする予定となっている(開示ルールが導入されることとなった経緯や開示ルールの内容は、既報のニュース「代表取締役社長が相談役・顧問等に就任でも開示対象外となるケース」「CG報告書での相談役・顧問の実態開示、報酬は総額開示でOK」「相談役・顧問への風当たり強く・・・業務内容等の開示制度導入へ」参照)。

相談役・顧問制度を持つ会社の中には、これを機に自社の制度の見直しを考えるところもあれば、制度の見直しは行わず単純に自社の実態を開示しようというところもあるだろう。新開示ルールは「2018年1月1日以後“最初”に提出するCG報告書」から適用されるため、必ずしも2018年1月1日時点ですべての上場会社が新開示ルールに則ったCG報告書に差し替えないといけなくなるわけではないが、開示ルールのスタートと同時に開示しようという会社は、そろそろ具体的な文案の検討を始めたいところだ。

開示ルールのスタート前ではあるが、実は少ないながらもCG報告書で相談役・顧問について開示している事例は既にいくつか存在している。来年以降の開示を検討する会社のために、現時点における開示事例を紹介しよう。

最初に紹介するのが出光興産(5019)の事例だ。同社は「コーポレートガバナンス基本方針」で、相談役制度を廃止するとともに顧問制度を見直した旨を記載している。顧問制度の見直しでは、顧問の選任に指名・報酬諮問委員会を絡めることとした点、注目される。

出光興産(2017年7月3日更新)
コーポレートガバナンス基本方針
(省略)
第2編 コーポレートガバナンス体制と取締役会
(省略)
4.相談役・顧問
(1)相談役
 会長・社長経験者に対して取締役退任後に委嘱しておりました相談役を廃止しました。
(2)顧問
 委嘱基準の明確化及び委嘱期間等の設定を行い、委嘱の際は指名・報酬諮問委員会の答申を踏まえて、取締役会で決定する制度に見直しました。

スターゼン(8043)、日立キャピタル(8586)、イチネンホールディングス(9619)は、それぞれ相談役・顧問制度の概要を記載している。報酬に関する記述は、スターゼンが「定額」としているのに対し、日立キャピタルは「職務に応じた報酬」としている。イチネンホールディングスは報酬の決定方法については触れていないものの、報酬総額そのものを記載している。

スターゼン(2017年8月4日更新)
2.その他コーポレート・ガバナンス体制等に関する事項
(1)適時開示体制の概要
   (省略)
(2)相談役・顧問
 1)役割
 相談役・顧問は、知識および経験を活かし、法的には直接、経営に責任のない立場から、代表取締役に求められた場合に限定し、助言を行うとともに、業界・財界活動、地域貢献活動、お取引先との関係維持活動等を通じ、間接的に当社の業績向上に寄与します。
 2)選任
 相談役は役付取締役経験者より、顧問は有識者より厳選のうえ、選任については取締役会の承認を得るものとします。
 3)報酬
 相談役・顧問の報酬については定額報酬のみで構成します。
日立キャピタル(2017年6月26日更新)
2.業務執行、監査・監督、指名、報酬決定等の機能に係る事項(現状のコーポレート・ガバナンス体制の概要)
(省略)
(8)顧問及び相談役等
 当社は、当社の経営の意思決定及び業務執行は、会社に対して会社法上の忠実義務を負い、株主、投資家をはじめとするステークホルダーにその活動や責任が明らかとなる者によってのみ行われるべきであると考えております。顧問、相談役等の呼称を用いる職については、以下の内容において、これを置くことがあります。
 ① 設置する場合及び目的
 当社は、経営陣の交代に際しての円滑な引継ぎ、次期後継者の育成及び高度な経営課題に係る助言等の提供を受けること等を目的として、相談役及び特別顧問を置くことがあります。
 ② 相談役及び特別顧問
 過去に当社の社長職または会長職を経験した者を対象とし、経営者としての経験に基づく、高度な経営課題に対する助言を主たる職務とします。原則として非常勤とし、職務に応じた報酬を支払います。
 2017年6月26日現在、該当者はおりません。
イチネンホールディングス(2017年6月6日更新)
2.業務執行、監査・監督、指名、報酬決定等の機能に係る事項(現状のコーポレート・ガバナンス体制の概要)
(省略)
また、当社は顧問及び相談役制度を採用しております。本制度は、当社又は他社を退職・退任後、業界に精通し取引先と親交がある等、当社グループの事業に貢献できる人材を顧問又は相談役に選任し、経営全般について社長の諮問を受けるとともに、管理監督者に対し指導・助言を与えることを目的としております。選任・退任につきましては、取締役会にて決定しております。
 なお、当期末の該当人数は4名であり、当期中に支払った報酬総額は37百万円であります。

新たな開示ルールが創設された際には適切な開示を行う予定である旨を記載しているのが双日(2768)だ。

双日(2017年6月20日更新)
2.業務執行、監査・監督、指名、報酬決定等の機能に係る事項(現状のコーポレート・ガバナンス体制の概要)
(省略)
4) その他
現在、行政機関において、企業の相談役・顧問制度に関する開示を促すルールの創設が検討されておりますが、今後、定義等の詳細の公表を受け、適正な開示を行う予定です。

このほかアンリツ(6754)は、代表取締役社長(グループCEO)が取締役退任後に相談役・顧問に就任する制度および慣行はない旨を記載している。同社のように相談役・顧問制度を持たない会社にとっては参考になる事例だろう。

アンリツ(2017年6月30日更新)
2.業務執行、監査・監督、指名、報酬決定等の機能に係る事項(現状のコーポレート・ガバナンス体制の概要)
(省略)
なお、当社では、代表取締役社長(グループCEO)が取締役を退任した後に、相談役、顧問等の役職又は地位に就き、引き続き当社グループの経営に対する指導助言等の役割を担うという制度及び慣行はありません。

以上、相談役・顧問制度の開示事例を紹介してきたが、他社の開示レベル等を把握するという意味では数的には不十分かもしれない。こうした中、来年1月1日以後すぐに開示を行うことは避け、ある程度他社事例が出そろうであろう6月の株主総会終了後のタイミングで開示に踏み切る会社もありそうだ。

2017/09/26 エンゲージメント充実に向けた運用機関の動き(会員限定)

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が(2017年)7月に新たにESG指数を選定したことで(2017年7月6日のニュース「GPIFの新しいESG指数に約360社が選定」参照)、今年を“ESG元年”と評する専門家もいる中、ESGをテーマとしたエンゲージメントの充実に向け、運用機関が体制の整備に動いている。

GPIF : 年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund)。厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。

ESG投資を広範に行うパッシブ運用機関に対し、ESGを考慮して(株価指数を上回る)超過収益をとりにいくアクティブ運用機関として著名なのが英国のハーミーズ(Hermes)だ。ハーミーズは投資先企業のステージをフェーズ1~フェーズ5まで分けて長期的にエンゲージメントし、投資先企業のポテンシャルを引き出していく(途中で最終フェーズまで到達する見込がないと判断すれば売却)。ハーミーズは、日本の企業年金連合会が国内企業とのエンゲージメントを委託したことでも知られる(「企業年金連合会のスチュワードシップ活動」6ページ参照)。

パッシブ運用 : 東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法のこと。パッシブとは「消極的な」という意味である。
アクティブ運用 : 銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法のこと。

一方、日本の運用機関に目を向けると、従来、アクティブ運用機関の多くは(長期志向を標榜しているところであっても)実質短期志向で、かつヘッジファンド型が多かったというのが実態であり、そもそもロングタームのテーマやESGを考慮すること自体が少なかったと言える。また、短期志向のアクティブ運用はパフォーマンスが芳しくなく、その結果、パッシブ運用が全盛になったという経緯もある。ある運用機関関係者は「運用機関のESG部隊は10人位の頭数がいて、その半分はESGについて専門性を持った人材であることが最低限のフォーメーション」と話すが、国内の運用機関でそこまでの体制が整っているところは少ないのが現状だ。

運用機関と対峙する企業側においても、ESGへの関心は今のところ企業間格差が大きく、全体的なムーブメントになっているとは言えない。ネスレやダノンなど最先端のESGを導入する同業界のグローバル企業を意識せざるを得ない味の素などESGに非常に敏感な日本企業もあるが、こうした企業は多数派とはなっていない。その背景の一つには、ESGとストラテジーやイノベーションは両立する(ESGに熱心な企業はストラテジーやイノベーションにも熱心である)という考え方が浸透している欧州に対し、環境問題に後ろ向きなトランプ政権が誕生した米国では、日本同様にESGへの取り組みがまだ始まったばかりであるということもあるかもしれない。しかし、グーグルがダイバーシティを重視しているように、米国の有力企業がESGに向かう可能性は十分にある。

ドメスティックなビジネスを展開する日本企業ほどESGへの関心が低い傾向にあるが、近い将来、欧米企業が日本でビジネスを展開する場合には、例えば労働問題が生じている日本企業を取引先に選ばないといった時代が訪れることも考えられる。さらに、GPIFが選定したESG指数がトピックスを上回るようなことになれば、ESGに対する日本企業の意識も急激に変わっていくことになりそうだ。

2017/09/26 エンゲージメント充実に向けた運用機関の動き

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が(2017年)7月に新たにESG指数を選定したことで(2017年7月6日のニュース「GPIFの新しいESG指数に約360社が選定」参照)、今年を“ESG元年”と評する専門家もいる中、ESGをテーマとしたエンゲージメントの充実に向け、運用機関が体制の整備に動いている。・・・

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