2017/02/04 【ケーススタディミニテスト】定時株主総会を開催する 第1問解答画面(不正解)

不正解です。
インターネットでの議決権行使であっても、会社法上は株主総会に「出席した」として扱われることになるため、決議が定足数を満たしているかどうかのカウントに算入できます。以上より、問題文は誤りです。

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「定時株主総会を開催する」の「議決権行使を活発化してもらうための施策」はこちら

2017/02/04 【ケーススタディミニテスト】定時株主総会を開催する 第1問解答画面(正解)

正解です。
インターネットでの議決権行使であっても、会社法上は株主総会に「出席した」として扱われることになるため、決議が定足数を満たしているかどうかのカウントに算入できます。以上より、問題文は誤りです。

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2017/02/04 【株主総会の運営】定時株主総会を開催する(会員限定)

 

3月決算の会社の定時株主総会が6月に開催される理由

株式会社である以上、最低でも年に1回は必ず開催する必要があるのが、定時株主総会です。定時株主総会とは、その事業年度の事業報告や、事業年度ごとに作成される計算書類(貸借対照表や損益計算書など)の報告()を行う株主総会をいいます。

 計算書類に対する会計監査人の監査結果が「無限定適正意見」でない場合などは「承認」となります。

定時株主総会では、こうした計算書類等の報告のほか、任期の切れる役員の改選、新役員の選任、定款変更など、計算書類等とは関係のない議題について承認を行うこともしばしばあります。実はこれらは必ずしも定時株主総会で承認しなければならない議案ではないのですが、臨時株主総会を開催するとなると、その分の手間とコストがかかるため、緊急性が高くない限り、定時株主総会のタイミングで承認を行うのが通常です。

会社法では、株式会社は定時株主総会を毎事業年度の終了後「一定の時期」に招集()しなければならないとされています(会社法296条1項)。もっとも、意外なことに、この「一定の時期」に関する具体的な定めはありません。現在、ほとんどすべての上場会社は「事業年度終了後3か月以内」に定時株主総会を開催していますが、実は、定時株主総会は“会社の実情に応じて”招集すれば足り、必ずしも「事業年度終了後3か月以内」に開催しなければならないわけではありません。

 ちなみに、「召集」は国会や軍隊で使われる用語です。議事録などで誤植となってしまわないよう注意が必要です。

では、なぜ「事業年度終了後3か月以内」に定時株主総会を実施している会社がほとんどなのでしょうか。これには「株主総会基準日」が関係しています。基準日とは、「その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会で議決権を行使したり配当を受けたりといった株主の権利を享受できる」という日のことです(ちなみに、議決権行使に係る基準日と配当に係る基準日はどちらも「決算日」としているのが通常です)。

上述のとおり、定時株主総会とは、事業年度ごとに作成される計算書類等を株主に報告する場であるため、株式会社では、定款に「株主総会前に終了した事業年度の末日」を株主総会の議決権行使の基準日とする旨規定しているのが通常です()。例えば3月決算の会社であれば、「当社の定時株主総会の議決権の基準日は、毎年3月31日とする」といった定めを設けています。そして、基準日において株主である者(「基準日株主」と呼びます)による権利行使は「基準日から3か月以内」に限られていますので(会社法124条2項)、結局、毎事業年度末から3か月以内に株主総会を開催するのが一般的となっているわけです。

 仮に基準日を定款で定めていなければ、株式会社は定時株主総会のたびに基準日(および権利の内容(=株主総会の議決権))を「公告」する必要が生じます。そのため、基準日をあらかじめ定款に定めておくことで、定時株主総会のたびに基準日の公告をする手間を省くのが一般的です。

では、定時株主総会の前に取締役がしておかなければならない準備としてはどのようなものがあるのでしょうか。以下で解説します。

定時株主総会に向け取締役と監査役がすべきこと

各事業年度終了後、会社は事業報告および計算書類を作成し、計算書類について会計監査人の監査を受けることになります。ここから先は役員の出番です。

監査役設置会社を前提にすると、会計監査人の監査が終わったら、監査役は「会計監査人の監査の方法および結果が適正であったかどうか」について判断し、監査役自身の監査結果とともに、監査報告をとりまとめます。その後、取締役は、事業報告と、会計監査人および監査役の監査を受けた計算書類を取締役会で承認しなければなりません。

この取締役会は、会社法上の決算書類である計算書類を承認することから「決算取締役会」と呼ばれますが、決算書類のみならず、定時株主総会の招集についても併せて決議してしまう会社も多いです(もっとも、会社法は、定時株主総会の招集を決算取締役会のタイミングで決議するよう求めているわけではありませんので、決算取締役会を開催した後で、定時株主総会の招集に関して取締役会を開催のうえ決議しても、何ら問題はありません)。

株主総会の招集に際して、取締役会で決議しなければならないことは以下のとおりです(会社法298条1項、会社法施行規則63条)。

・ 日時および場所
・ 議題
・ 議決権行使書(株主総会に出席しない株主が議決権を行使する場合に使用する書面。郵送によりやり取りされる)または電磁的方法(インターネット)により議決権を行使できることとする場合にはその旨
・ 株主総会参考書類(議案とその提案理由など、議決権の行使の際に参考となる事項を記載した書類)に記載すべき事項
・ 議決権行使書または電磁的方法(インターネット)による議決権の行使期限(行使期限を定めない場合には、株主総会日の直前の営業時間の終了時となります)

このうち「議決権行使書により議決権を行使できる旨」は、株主数が1,000人以上の会社においては必ず決議しなければならないので注意が必要です。ただし、取締役会で「“以後の株主総会を含め”議決権行使書により議決権を行使できる」旨を一度決議しておけば、翌年以降の(定時株主総会の招集を決議する)取締役会での決議は不要です。

また、株主総会に出席しない株主の議決権行使の方法としては、議決権行使書以外に、委任状を利用して議決権を代理行使する方法があります。なお、会社が、金融商品取引法に基づき「全株主」に対して委任状を勧誘する方式(詳しくは「議決権行使書と委任状の違いは?」を参照してください)を選択した場合(こちらの方が少数派です)には、議決権行使書方式に関する取締役会決議は不要となります。

株主総会スケジュールを左右する「招集通知の発送日」

定時株主総会の招集に関する取締役会決議が終わったら、次は招集通知()の発送準備です。

 狭義の招集通知に加え、招集通知に添付される事業報告、計算書類、株主総会参考書類を含めて招集通知ということもあります(広義の招集通知)。

招集通知には、上述した株主総会の招集に関する決議事項(日時および場所、議題、議決権行使書または電磁的方法(インターネット)により議決権を行使できる旨、株主総会参考書類に記載すべき事項、議決権行使書または電磁的方法(インターネット)による議決権の行使期限)を記載する必要がありますので(会社法299条4項)、開示担当の取締役としては、これらの事項が招集通知に漏れなく記載されていることを確認する必要があります。仮に招集通知に記載漏れや記載ミスがあると、株主総会の招集手続に法令・定款違反があるとして、株主総会の決議取消事由に該当することもあるので(会社法831条1項1号)、ひな型(日本経済団体連合会の「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」はこちら)やEDINET等で検索した他社事例との比較を怠ることはできません。

招集通知に記載漏れや記載ミスがあった場合に備えて、事前に狭義の招集通知に「株主総会参考書類、事業報告、計算書類及び連結計算書類に修正が生じた場合は、インターネット上の当社ウェブサイト(https://www.●●.co.jp/)に掲載させていただきます。」といった記載をしておき、万が一記載漏れや記載ミスが見つかった場合には、ウェブサイト上で訂正を告知するケースもしばしば見受けられます。もっとも、例えば議案の内容を変更することになるような重大な修正をウェブサイト上で行うことはできないと解されていますので要注意です。

株主総会の招集通知は、「株主総会の日の2週間前まで」に株主宛に“発送”する必要があります(会社法299条1項)。この「2週間前までの発送」とは、「株主総会の日」と「招集通知の発送日」との間を中2週間空ける必要があるということを意味するため、例えば、6月29日に株主総会を開催する場合には、その15日前(2週間プラス1日の15日前に発送することで中2週間空くことになります)の6月14日までに招集通知を発送する必要があります。

もっとも、株主としては招集通知を1日でも早く受け取ることができれば、議案の内容をじっくりと精査できます。そこで、東京証券取引所では、企業行動規範の「望まれる事項」に「上場内国株券の発行者は、株主総会における議決権行使を容易にするための環境整備として施行規則で定める事項を行うよう努めるものとする」(東証・有価証券上場規程446条)ことを掲げたうえで、「株主総会の招集の通知を会社法第299条第1項に規定する期日よりも早期に発送すること」を上場会社に求めています(東証・有価証券上場規程施行規則437条2号)。また、コーポレートガバナンス・コードでも「上場会社は、株主が総会議案の十分な検討期間を確保することができるよう、招集通知に記載する情報の正確性を担保しつつその早期発送に努めるべき(補充原則1-2②)」とされており、本則市場の上場会社では遵守することを求められています。

企業行動規範の「望まれる事項」としては、このほかにも「株主総会の招集通知等を、発送後速やかに電磁的方法により投資者が提供を受けることができる状態に置くこと」(同3号)や「招集通知等を要約したものの英訳を作成し、投資者が提供を受けることができる状態に置くこと」(同4号)なども掲げられており、コーポレートガバナンス・コードにも補充原則1-2②や同1-2④で同じ内容の定めが設けられているので、上場会社としては積極的に取り組むことが望まれます。

電磁的方法 : 自社のウェブサイト上に掲載することなどを指す。

3月決算の会社における定時株主総会のスケジュール例は、以下のとおりです。実際のスケジュールは、株主名簿管理人(信託銀行等)、会計監査人(監査法人)、顧問弁護士等と相談しつつ、各社の実情に応じて決めてください。招集通知の発送日を早めようとすると、その前工程である決算の確定も早めなければならなくなる場合があることには注意が必要です。

定時株主総会スケジュール例

月日 項目
3月31日 決算日
4月中旬 決算日(基準日)における株主の確定
4月17日 取締役が計算書類、その附属明細書を作成し、監査役・会計監査人に提出
4月24日 取締役が事業報告、その附属明細書を作成し、監査役に提出
4月24日 取締役が連結計算書類を作成し、監査役・会計監査人に提出
4月30日 株主提案権の行使期限
5月9日 会計監査人から会計監査報告を受領
5月12日 監査役会から監査報告を受領
5月13日 決算取締役会、証券取引所に決算短信を提出
6月9日 招集通知発送
6月26日 定時株主総会
決議通知、事業報告書、配当金関係書類を株主に発送
6月27日 有価証券報告書を証券取引所に提出(EDINETに掲載)
臨時報告書を証券取引所に提出(EDINETに掲載)
コーポレート・ガバナンス報告書を証券取引所に提出
議事録、委任状、議決権行使書を会社の本店や支店に備え置き

なお、招集通知は郵送するのが通常ですが、株主の承諾があれば、郵送せずに電子メールで通知してもよいことになっています(会社法299条3項)。最近は、自社のウェブサイト上で電子メールでの発送を希望するか否か株主の希望を聞き(電子メールの登録サイトを設けるケースも増えてきています)、希望者には、郵送に代え電子メールのみにより招集通知を送るケースも見受けられます。

株主総会の集中日開催、メリットとデメリット

3月決算の上場会社の場合、定時株主総会を「6月最終営業日の前営業日」(当該日が月曜日である場合には、その前週の金曜日)に開催するところが少なくありません。このように上場会社の定時株主総会の開催日は特定の日に集中する傾向があり、この日は「集中日」とも言われています。集中日に定時株主総会を開催する会社(東証上場の3月決算会社を前提)は、1995年3月期では、なんと96.2%にのぼっていました。その後、集中日への集中率は年々低下していきましたが、現在でも3割程度の上場会社が集中日に定時株主総会を開催しています。

では、なぜ多くの会社が定時株主総会を集中日に開催したがるのでしょうか。

かつては、他の会社と同じ日時に株主総会を開催することによって、複数の会社に株付け(株式を取得すること)をしている総会屋の出席を可及的に防ぐことができるという点がメリットと考えられていましたが、近年では総会屋の目立った活動は激減していますので、もはやメリットとは言えなくなりました。

現在、集中日に株主総会を開催するメリットとしては、なるべく遅い日に定時株主総会を開催することで、決算確定(=通常は取締役会での承認により決算が確定し、株主総会で報告することになります)までのスケジュールに余裕を持たせることができるという点が挙げられます。すなわち、定時株主総会が遅ければ遅いほど、招集通知の発送を遅らせることができ、ひいては取締役会での決算承認日を遅らせることができる(すなわち決算確定までの期間を長引かせることができる)というわけです。

しかし、定時株主総会の開催日が特定日に集中することで、投資家が複数の会社の株主総会に出席する機会を奪うことになってしまうというデメリットもあります。そこで、東京証券取引所では、企業行動規範の「望まれる事項」として、「定時株主総会を開催する他の上場会社が著しく多い日と同一の日を、定時株主総会の日と定めないこと」を規定しています(東証・有価証券上場規程施行規則437条1号)。総会屋の目立った活動が激減したことに加え、こういった制度面での手当と会社側の意識改革が進んだことが、上述の総会開催日の集中率低下につながったと言えます。

議決権行使を活発化してもらうための施策

集中日でない日に株主総会を開催する上場会社の中には、個人株主の保有率向上の施策の一環として、株主総会の休日開催に踏み切る会社も増えています。しかし、実際に株主総会に出席して議決権を行使することを望む株主ばかりではなく、株主総会への出席を面倒がる株主も少なくありません。

そこで、東京証券取引所は、上場会社に対して、「株主が電磁的方法により議決権の行使を行うことができる状態に置くこと」すなわち株主がインターネットによる議決権を行使できる環境を整えることも、企業行動規範の「望まれる事項」として求めています。具体的には、信託銀行や証券代行のホームページ等に議決権行使のコーナーを設け、株主はこれにアクセスすることで簡単に議決権を行使できるようになります。これなら議決権行使書の返送を面倒がる株主でも議決権行使がしやすく、トータルの議決権行使率の向上も期待できます。

実は、上場会社があの手この手で議決権行使率向上に向けて奮闘しているのには理由があります。それは、株式の持合い解消が進み、相対的に議決権行使に関心が高いとはいえない個人株主の比率が高まったため、大株主への出席依頼だけでは定足数(定足数については『株主総会決議の成立のカギを握る「定足数要件」』を参照してください)を確保することが難しくなってきたからです。インターネットにより議決権を行使した場合でも株主総会に「出席した」ことになりますので、個人株主にインターネットで議決権行使させれば、定足数要件をクリアできる可能性が高まります(詳細は「定足数要件を“排除”する方法」を参照してください)。

また、法人株主、とりわけ年金基金、保険会社、銀行、証券会社、ファンド等の機関投資家が議決権行使を容易にするための施策には、「議決権電子行使プラットフォームへの参加」が考えられます。このプラットフォームは、株主総会実務に関わるすべて関係者をシステム・ネットワークでつなぐものであり、これを活用すれば、機関投資家の議決権を管理している管理信託銀行等の裏にいる機関投資家(実質株主)に対する株主総会の議案情報の伝達のほか、機関投資家の議決権行使や議決権行使結果の集計が簡単にできるようになるため、機関投資家はより長い議案検討期間を確保できる一方、会社は議決権行使結果のタイムリーな確認が可能になります。

また、上述した「招集通知の英訳化」も含む「英文IRの充実」も、海外の機関投資家の議決権行使を容易にするために、上場会社がぜひとも取り組みたい課題の1つです。海外投資家向けの施策は、「わが社の株主には海外投資家は少ないから」という理由でつい後回しにする会社が少なくないのですが、積極的に取り組めば逆に海外投資家を増加させることができます。議決権行使を容易にすることで海外投資家を呼び込み、投資家層を拡大し、商いを活発化させ株価向上を実現するのは上場会社の責務とも言えるでしょう。

株主総会決議の成立のカギを握る「定足数要件」

株主総会の決議(特に断らない限り、「普通決議」を指すこととします。「普通決議」「特別決議」「特殊決議」については後述の「定足数をゼロにできないケースとは?」を参照してください)は、定款に別段の定めがない限り(「定足数要件を“排除”する方法」で詳しく述べます)、「議決権を行使することができる株主」()の「議決権の過半数を有する株主」が株主総会に出席し、「出席した当該株主の議決権の過半数」をもって行うのが原則です(会社法309条1項)。

 「議決権を行使することができる株主」とは、通常は普通株式の株主を指しています。自己株式、配当優先無議決権株式(配当の支払いを他の株主より優先的に受けられる代わりに、議決権がない株式)の株主は除かれます。

要するに、

(1)株主総会に出席した株主の議決権数の合計 > 総議決権数×1/2

が成立すれば当該決議は有効なものとなり、

(2)株主総会議案に賛成した株主の議決権数の合計 > 株主総会に出席した株主の議決権数の合計×1/2

が成立することで当該議案は可決されるというわけです。

このうち(1)の要件を満たす議決権数、すなわち「決議が有効なものとなるために最低限必要な出席議決権数」は「定足数」と呼ばれます。この定足数要件を満たさない決議は無効となります。

具体例で見てみましょう。例えば株主が1,000人、これらの株主の総議決権数が4,000個あったとします。このうち株主総会に出席した株主が50人、出席株主の議決権数の合計が2,001個だったとすると、株主総会に出席した株主の議決権数の合計は総議決権数(4,000個)の半数を超えていますので、招集手続等に問題がない限り(株主総会の招集手続については、「定時株主総会に向け取締役と監査役がすべきこと」を参照してください)、株主総会決議は有効に成立します(当該株主総会決議が可決されるかどうかは、どれだけの議決権数の賛成があるかによりますので、別問題です)。一方、株主総会に出席した株主が501人、これらの株主の議決権数の合計が2,000個だった場合には、株主総会に出席した株主の議決権数の合計が「総議決権数×1/2」以下になっていますので、そのような状況で決議をしたところで当該決議は「無効」になってしまいます。

このように、普通決議が有効かどうかを左右するのはあくまで「議決権数」であり、株主の「頭数」は関係ありません。したがって、たとえ株主総会に出席した株主数が少なかったとしても、出席した株主の議決権数の合計が総議決権数の半数を超えていれば、決議は有効に成立するというわけです(この点は特別決議の場合も同様です。一方、「定足数をゼロにできないケースとは?」で後述するように、「特殊決議」については株主の頭数も問題になります)。

定足数要件を“排除”する方法

もっとも、株主数の多い上場会社では、大量の議決権を保有する株主がいる場合を除き、総議決権数の過半数に相当する株主に株主総会に足を運んでもらうのは至難の業でしょう。しかし、ここでいう「出席」とは、実際に株主総会の会場に足を運ぶことだけを指しているのではありません。会社法では、株主総会会場に足を運べない株主のために、下記の方法による議決権行使も認められており、この場合も株主は株主総会に「出席した」ことになります。
(1)議決権の代理行使(会社法310条)
(2)書面による議決権行使(同311条)
(3)電磁的方法(上述の「議決権行使を活発化してもらうための施策」)による議決権行使(同312条)

ただ、こうした手法により議決権の行使が行われたとしても、「総議決権数の過半数」というハードルは決して低くはありません。そこで、多くの上場会社が活用しているのが、前項(『株主総会決議の成立のカギを握る「定足数要件」』)の冒頭で触れた定款への「別段の定め」です。上述のとおり、定款に「別段の定め」がない場合には、「総議決権の過半数」という定足数を満たさなければなりませんが、「別段の定め」を設ければ、これを自由に変更することが可能です。

具体的には、前項の冒頭で紹介した会社法309条1項では、株主総会の決議(普通決議)は「議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う」となっているところ、前半部分(太字)には触れず、単に「“出席した”議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって行う」といった規定を定款に設けるだけで、会社法に定める定足数要件を排除できます。極端な例では、株主総会に出席したのが議決権を1個有する株主1人のみでも株主総会決議は成立し(もちろん招集手続が有効であることが大前提です)、その株主が議案に賛成すれば、当該議案は可決されることになります。

大部分の上場会社では定款に「別段の定め」を置いていると思いますが、もしまだ入れていないという場合には、定款変更をお勧めします(定款変更に際しては、「定足数をゼロにできないケースとは?」に述べる株主総会の特別決議が必要になります)。

一方、株主総会決議が可決するためのもう一つの要件である上記(2)の

(2)株主総会議案に賛成した株主の議決権数の合計 > 株主総会に出席した株主の議決権数の合計×1/2

については、定款変更により緩和することはできません。つまり、この要件をクリアするには、議案に賛成する株主を増やすしかないということです。そのためには、議案の提案理由を説得的なものにするとともに、株主総会でそれを真摯に訴えたうえで、議論を尽くすことが必要になります。

また、大株主が欠席するような場合には、当該株主から包括委任状を取得しておく方法も有効です(これについては「大株主が欠席する場合には包括委任状の取得を」で後述します)。

なお、株主に金品を渡すといった“多数派工作”は利益供与に該当しますので、絶対に行ってはいけません(利益供与については「株主優待制度を導入したい」の『500円の株主優待が「株主への利益供与」と判断されたケースも』を参照してください)。

定足数をゼロにできないケースとは?

上述のように、定足数要件は定款に規定を置くだけで“排除”できます。ただし、重要な決議については、定足数の充足を求められるケースがありますので注意してください。普通決議、特別決議、特殊決議それぞれについて見ていきましょう。

(普通決議)
まず普通決議のうち、「役員の選任決議」については、定款をもってしても、定足数を「議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1未満」にすることができません(会社法341条)。

それでも、原則どおり「総株主の議決権の過半数」が定足数となるよりは良いということで、多くの上場会社では、「取締役(監査役)の選任決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の“3分の1以上”を有する株主が出席し、その議決権の過半数をもって行う」といった定款規定を設け、定足数を過半数から「3分の1」に引き下げています。

株主総会では、取締役会から複数の議案が提案されるのが通常ですが、この“1/3要件”を満たせなかった場合には、役員の選任決議のみ「不成立」ということもあり得ます()。そこで、役員の選任を株主総会に提案する場合には、確実に3分の1以上の株主の出席が得られるよう、大株主等に委任状や議決権行使書の提出を事前に依頼しておくことが重要になります。

 この場合、新任の役員は就任できません。また、任期が到来した役員の再任決議が不成立となれば、そのまま退任することになります。その結果、定款に定めた役員の定員を割る事態になれば、新たに選任される役員が就任するまでの間は、退任した役員が従前どおり役員としての権利義務を有することになります。

(特別決議)
次に株主総会の特別決議ですが、これは「出席した株主の議決権の3分の2以上」を決議要件とする決議であり、例えば、定款変更、新株の有利発行(公正価値より低い金額で株式を付与すること)、合併、株式交換・株式移転、会社分割、減資といった会社法309条2項に定められている重要事項を決議する際に必要となるものです。

この特別決議についても、上記の役員選任決議同様、定款をもってしても、定足数を「議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1未満」にすることができないので(会社法309条2項)、多くの上場会社では、「会社法309条2項に定める決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の“3分の1以上”を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上をもって行う」といった定款規定を設け、やはり定足数を過半数から「3分の1」に引き下げています。

(特殊決議)
最後に、株主総会の特殊決議ですが、これは、議決権を行使することができる株主の“頭数”の半数以上(複数の議決権を有している株主であっても「1人」とカウントします)、かつ、当該株主の議決権の3分の2以上の多数をもって行う決議です。例えば、次のような会社法309条3項に定められている重要事項を決議する際に必要となるものです。

すべての株式に譲渡制限(株式を売却する場合に、取締役会の承認(定款で定めれば、株主総会や代表取締役でも可)を条件とするもの)を付す定款変更

上場会社では、譲渡制限を付す定款変更を行うことはあり得ませんが、上場会社の子会社等においてはあり得なくはないため、一応押さえておきたいところです。

議決権行使書と委任状の違いは?

定足数要件を“排除”する方法」で述べたとおり、会社法は、株主総会会場に足を運べない株主のために、次の3つの議決権行使方法を認めています。

(1)議決権の代理行使
(2)書面による議決権行使
(3)電磁的方法による議決権行使

まず(2)の書面による議決権行使から説明しましょう。これは、株主総会の開催前に、議決権行使書により株主総会の議案への「賛否」を表明することで、議決権を行使するものです。もっとも、株主総会前に賛否を表明したからと言って、その株主が株主総会に出席する権利自体を失うわけではありません。議決権行使書を送付済の株主であっても、株主総会に出席し、その場で議決権を行使することができます。その場合、送付済の議決権行使書は無効となり、出席した株主総会での賛否が優先されることになります。

定時株主総会に向け取締役と監査役がすべきこと」で述べたとおり、株主が1,000人以上の会社では、議決権行使書による投票を認めることが義務付けられています(ただし、金融商品取引法に基づき「全株主」に対して委任状の勧誘を行う場合を除きます。この点については後述します)。

議決権行使書のサンプルは下記のとおりです。議案が役員の選任・解任、会計監査人の不再任に関するものである場合には、対象者の氏名、名称ごとに賛否を記載する欄を設ける必要があります(会社法施行規則66条)。

サンプルA
25904d

このような「書面による議決権行使」が株主自ら賛否を表明する方法であるのに対し、「委任状」により議決権を代理人に行使させる方法が(1)の議決権の代理行使です。この方法では、株主が「委任」する相手(代理人)を決定したうえで、議決権の行使を代理人に委ねることになります。株主があらかじめ議案に対する賛否を決めておき、代理人にそのとおり議決権を行使させることもありますし、賛否の選択さえも代理人に任せてしまうこともあります。つまり、委任者に代わって代理人が株主総会に出席し、委任状に記載されてある内容に従って議決権を行使するわけです。したがって、ここでいう「委任状」とは、代理人の「代理権」を証明する書面ということになります(会社法310条1項)。

委任状のサンプルは下記のとおりです。

サンプルB
25904b

ただ、この代理権を誰にでも認めてしまうと、会社は、例えば総会屋が株主総会を混乱させるのを目的に株主ではない者を多数「代理人」として株主総会に出席させることも認めざるを得なくなってしまいます。そこで多くの会社では、「株主は、当会社の議決権を有する他の株主1名を代理人として、その議決権を行使することができる」といった定款規定を設けて、代理人の資格を「議決権を有する株主」に制限したり、複数の議決権を有する株主であっても代理人は1人しか選任できないようにしたりしています(1人の代理人が複数の株主から委任を受けることは可能です。この点については後述します)。

株主が自らの意思を表明するという点では、議決権行使書があれば足りるようにも見えます。実際、上場会社の多くは議決権行使書方式を選択しており、委任状方式は少数派といえます。

もっとも、議決権行使書方式を選択した上場会社でも、委任状を併用する場合があります。これについては、以下で解説します。

大株主が欠席する場合には包括委任状の取得を

通常、株主総会に足を運べない株主が議決権を行使したい場合には、議決権行使書を提出すれば足りますので、委任状を用いる必要性はそれほど高くありません。その一方で、会社側が委任状を取得しておくべきケースはいくつかあります。

まずは、大株主が株主総会に足を運べないケースです。というのも、議決権行使書は、事前から予定していた議案に対する投票はできるものの、株主総会の場で「動議」があった場合に対応できないからです。動議には、株主総会の最中に株主が株主総会の目的事項(=議題)に対して議案を提出する「修正動議(実質的動議)」と、株主総会の運営や議事進行のやり方を議場に諮るよう求める「手続的動議」があります(「修正動議(実質的動議)」と「手続的動議」の詳細は「株主総会での動議提出に備えたい」の『動議には「実質的動議」と「手続的動議」の2種類』を参照してください)。「修正動議(実質的動議)」があった場合、原案に賛成の議決権行使書は「反対」として取り扱われ、原案に反対の議決権行使書は、原案に反対であるからといって動議に賛成の意向であるかどうかは明らかでないため、「棄権」として取り扱われます。

一方、議長交代などの手続的動議があった場合は、「欠席」として取り扱われることになります。これは、手続的動議は株主総会の運営に関するものであって議事進行状況と切り離して判断できる事項ではなく、現実の出席者だけが議決権行使できるものだからです。

これに対し委任状では、修正動議、手続的動議のいずれについても、議決権行使の委任を受けた代理人が議決権を行使できます。

そこで、手続的動議が出された場合の対策として、大株主が株主総会に足を運べない場合には大株主から包括委任状(議決権行使の対象事項を特定せず、あらゆる事項についての議決権を包括的に委任することを証明する書面。下記サンプルC参照)の提出を受けておく(1人の代理人が複数の株主から委任を受けることは可能です)ことが望ましいと言えます。

サンプルC
25904c

ただ、例えば社内事情に通じた会社側から、または多数の株主に対して、適切な情報提供がないままに委任状勧誘が行われると、株主総会における適切な意思形成が阻害されるおそれがあります。そこで、(1)上場会社やその役員が議決権の代理行使の勧誘を行う場合や、(2)被勧誘者が10名以上の場合には、金融商品取引法の定めに従った様式の委任状用紙(上記のサンプルB参照)を用いなければならず、しかも、その委任状用紙等を本店所在地を管轄する財務局に提出しなければならないなどの規制が課されています。ここで注意したいのは、上記の(1)(2)のいずれかに該当すれば金商法の規制対象になるということです(例えば、勧誘者が上場会社やその役員でなくても、被勧誘者が10名以上であれば規制対象)。

そこで実務上は、委任状を提出してくれる可能性の高い株主のうち持株数の多い順に9人以内(あくまで声掛けベースで9人以内です。委任状を提出したのが5人であっても20人に声を掛けていた場合は、「被勧誘者が10名以上」のケースに相当する点に注意してください)にとどめて委任状の提出を求めるという方法が広く採用されています。

ただし、「被勧誘者を10名未満に抑える」勧誘が金融商品取引法の規制対象にならないようにするには、上記でも触れたように「当該株式の発行会社又はその役員のいずれでもない者が行う議決権の代理行使の勧誘」(金融商品取引法施行令36条の6第1項1号)である必要があります。形式的には会社やその役員が勧誘者になっていなくても、実質的にみて「発行会社やその役員による勧誘」とみなされるリスクもあることから、この方法により勧誘する場合には、事前に顧問弁護士等によく相談してから実行するのが無難です。

“委任状争奪合戦”を仕掛けられた場合の会社の対応は?

ある株主が他の株主に対して「議決権を代理で行使させて欲しい」と勧誘する行為を「委任状勧誘」と呼びます。委任状勧誘は、(1)会社提案の議案を否決するため、または(2)株主自らが提案(株主提案)する議案を可決するために行います。

一方、このような株主の動きに対抗し、会社も、会社提案の議案を可決し、または株主提案の議案を否決するために、委任状勧誘を行うことになります。その結果、いわゆる“委任状争奪合戦(プロクシー・ファイト=proxy fight)”へと発展することが多くなっています。特定の大株主にターゲットを絞って包括委任状を取得することも「委任状勧誘」ですが、通常は一般株主を巻き込んだ大規模なものを指します。委任状勧誘が行われるケースとしては、自社が敵対的買収のターゲットとなった場合、合併、株式交換等の統合議案など重要な議案について大株主が反対している場合、会社側と大株主側が役員の選任を巡って対立している場合など、様々なケースがあります。

上場会社が委任状勧誘を行う際には、被勧誘者に対して、議案等が記載された金融商品取引法の定めに従った様式の委任状用紙(上記のサンプルB参照)、および議案について説明した参考書類を交付しなければなりません(金商法施行令36条の2)。議案について十分な説明もないまま委任状勧誘を行えば、当該議案について適正な決議ができなくなるからです。

委任状や参考書類については、交付後直ちにその写しを財務局に提出しなければなりませんが、議決権を行使することができるすべての株主に対して株主総会参考書類および議決権行使書が交付されている場合には、この提出義務は免除されています。多くの会社では、株主総会参考書類や議決権行使書は株主総会の招集通知とともに株主に交付されていますので(詳細は『株主総会スケジュールを左右する「招集通知の発送日」』を参照してください)、通常は財務局への提出は不要です。

これに対して、上記金融商品取引法の手続に則って「全株主」に対して委任状の勧誘が行われている場合(例えば、株主から敵対的買収の提案があり、臨時株主総会を開催することとなった場合に、敵対的買収を回避するために会社が全株主に対して委任状勧誘を行うケース)には、上述した議決権の代理行使に関する参考書類の交付によって議案に関する情報開示がされるとともに、株主は委任状によって容易に議決権の(代理)行使ができるため、本来は議決権行使書の交付が必須となる会社(株主が1,000人以上の会社)であっても、議決権行使書による議決権を行使できる旨の決議や議決権行使書の送付は不要となります。

委任状争奪合戦に発展するような場合には、例えば委任状の有効性や、株主総会の運営方法など、高度な法的判断を求められる場面が多々ありますので、役員としては、早めに弁護士に相談するようにしてください。

株主総会議事録に記載漏れがあった場合のリスク

株主総会を開催した場合には、それが定時株主総会であれ、臨時株主総会であれ、その議事について必ず議事録を作成しなければなりません(会社法318条1項)。仮に議事録を作成しなかった場合、取締役は100万円以下の過料に処するものとされています(会社法976条7号)。

株主総会議事録には、開催日時、開催場所、議事の経過の要領とその結果、出席役員(取締役、監査役等)の氏名、議長の氏名、議事録を作成した取締役の氏名などを記載しなければなりません(会社法施行規則72条)。

ここでいう「議事の経過の要領」には、出席株主数、当該株主の有する議決権数、監査役の報告、報告事項の報告、議長が行った議案の上程およびその内容の説明、質疑応答の概要などが含まれるものと考えられています。もっとも、たとえば議長の説明や株主の質問を一言一句記す必要はなく、その要約を記載すれば足ります。

株主総会議事録の作成および備え置きの義務

作成した議事録は、委任状および議決権行使書とともに本店に10年間、支店()に5年間備え置かなければなりません(会社法318条1~3項)。なお、株主総会議事録は「書面」ではなく「電磁的記録」により保存することも可能とされていますので、パソコンに議事録の内容を記録したファイルを保存しておくことでも足りますが、ほとんどの会社では書面により議事録を保存しています。

 会社法において「支店」の定義はありませんが、一般的には、本店とは別に独自に営業活動を決定し、対外的な取引をなし得る実質を備えるものなどと解されています。したがって、支社や支店と称する拠点のすべてが会社法上の支店となるわけではありませんので注意してください。

また、登記事項(役員の選任等)についての決議を行った際には、株主総会議事録が登記申請の際の添付書類にもなります。

さらに、会社の株主および債権者は、会社に対して、会社の営業時間内であればいつでも、株主総会議事録の閲覧または謄写(コピーをとること)を請求できます。閲覧または謄写された株主総会議事録は、将来の紛争(例えば、株主総会決議取消しの訴えなど)の際の証拠として用いられることが考えられますが、会社は営業時間内の閲覧または謄写の請求であれば、原則として断ることはできません。ちなみに、2014年6月20日に成立した改正会社法では、従来「請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき」には、株主名簿の閲覧または謄写を拒絶できるとしていた旧会社法125条3項3号が削除されたことから、改正会社法の施行(2015年5月1日)後は、閲覧または謄写を断れるのは極めて例外的な場合に限られることになりました。

このように、株主総会議事録は、利害関係者のほか、裁判所などの司法機関、法務局などの行政機関に利用される可能性もあることから、会社としては、株主総会における議事の内容を正確に記録しておく必要があります。

署名・押印のない株主総会議事録は無効か?

旧商法では、株主総会議事録には、議長および出席取締役全員の署名が必要とされていました(旧商法244条)。これに対し会社法では、上述のとおり株主総会に出席した役員の氏名、議長の氏名、議事録を作成した取締役の氏名の記載は必要とされている(会社法施行規則72条)ものの、署名(自筆でサインをすること)や記名押印(名前が記載された箇所の横に印鑑を押すこと)までは求められていません。したがって、署名や記名押印のない株主総会議事録であっても、法的には「有効」ということになります。

もっとも、実務上は、原本であることを示すために、代表取締役や議事録作成取締役が記名押印を行っているケースが少なくありません。また、旧商法の名残で、定款に「株主総会議事録には、議長および出席取締役が署名または記名押印する」と規定されている会社においては、当該定款の規定に従って議長や出席取締役が署名または記名押印する必要がありますので、留意してください。

さらに、上場会社ではあり得ませんが、上場会社の子会社等の中には、親会社からの強いコントロール下にあるため、取締役会を置いていない会社や、代表取締役を株主総会決議によって定める旨の定款規定を設けている会社があり、こうした会社が、代表取締役を株主総会決議によって定める場合には、議長および出席した取締役が株主総会の議事録に押印し、印鑑証明書とともに、役員変更の登記申請書に添付しなければならないとされています(商業登記規則61条4項1号)。

途中退席した株主も「出席株主数」にカウントすべき?

上場会社の株主総会では、総会の冒頭において、当日の出席株主数、当該株主の有する議決権数が報告され、当該総会の議題の定足数(定足数については、『株主総会決議の成立のカギを握る「定足数要件」』を参照してください)を満たしている旨が宣言されるケースが多くなっています。

もっとも、このような出席株主数等の報告は必ずしも法令により求められるものではありません。これに対し、株主総会議事録には、出席株主数、当該株主の有する議決権数等を記載することになるのは上述のとおりです。

ここで注意したいのは、株主総会議事録に記載する出席株主数等は、総会の冒頭において報告された議決権数とは限らないという点です。なぜなら、総会の冒頭では定足数を満たしていたとしても、途中で帰ってしまう株主が多数いて、議案の採決の際には定足数を満たしていなかったとすれば、当該議案については定足数を満たさず、これを承認可決することができないからです。

したがって、議事録に記載される出席株主数等は、総会の冒頭において報告された数ではなく、議案の採決を行う直前の数を記載すべきです。

議決権行使結果は「どこまで」を「いつまで」に開示する?

上場会社の場合、株主総会が終わったらその結果(議決権行使結果)を開示しなければなりません。株主総会の内容は、投資家にとっては重要な投資判断の材料になり得るからです。

具体的には、上場会社は、定時株主総会、臨時株主総会いずれを開催した場合にも、株主総会における議決権行使結果に関する臨時報告書を内閣総理大臣に提出する必要があります(金融商品取引法24条の5第4項、企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項9号の2。なお、株主総会終了後に株主に「決議ご通知」を送付する実務慣行がありますが、これは会社法や金融商品取引法上の義務ではありません)。

臨時報告書には次の事項を記載します。
1.株主総会が開催された年月日
2.決議事項の内容
3.決議事項に対する賛成・反対および棄権の議決権数
4.決議事項が可決されるための要件(「定足数をゼロにできないケースとは?」参照)
5.決議の結果
6.3の議決権数に、株主総会に出席した株主の議決権数の一部を加算しなかった場合にはその理由

以下、主な記載事項について、詳しく見ていきましょう。

・「決議事項の内容」について
決議事項とは株主総会で決議された事項をいいます。

決議事項の内容を臨時報告書に記載させる趣旨は、どの議決権行使結果がどの議案に対するものであるのかを明らかにするためです。したがって、基本的には「議題」を記載すれば十分であり、その中身である「議案()」まで記載する必要はありません。

 議題の内容を具体的に表したもの。詳細は「株主総会での動議提出に備えたい」の「適法な実質的動議と不適法な実質的動議」を参照してください。

ただし、議題の記載だけでは他の議題と区別がつかない場合には、「議案を記載するなどして他の議題と区別できるように記載する必要があります。

「決議事項に対する賛成・反対および棄権の議決権数」について
賛成、反対および棄権の議決権数については、概数(例えば「概ね20,000株」)やレンジ(例えば「20,000株から21,000株の間」)での記載は認められません。あくまで「会社が確認した数」を開示する必要があります。

ここでいう「会社が確認した数」とは、文字通り“実際に”会社が確認した数のことを指します。例えば、議決権行使の集計に際して、「反対票」と「棄権票」を区別して集計していれば、反対票と棄権票の数をそれぞれ「会社が確認」していることになることから、その場合は賛成票のみならず、反対票や棄権票についても開示する必要があるということです。

もっとも、議決権行使の集計において棄権票を反対票と区別しない場合には、その旨を臨時報告書に記載すれば足りるとされていますので、「賛成票」のみ集計し、それ以外は「反対または棄権」と一まとめにして記載することも許されています。

なお、役員の選解任議案については、候補者ごとに賛成、反対および棄権の議決権数を記載することになっています。

・「決議の結果」について
決議の結果としては、
・決議事項が可決されたか否か
・その根拠となる、賛成または反対それぞれの議決権数の割合
を記載するものとされています。

この議決権数の割合については、上述のとおり上場会社の株主総会では、通常は、賛成票のみを集計するケースが多いことから、「賛成比率(賛成の議決権数/出席株主の議決権総数)」を記載します。

・「議決権数に、株主総会に出席した株主の議決権数の一部を加算しなかった場合」について
通常の株主総会では、大株主の意向や事前の議決権行使の結果を踏まえ、株主総会開催前には既に「可決要件を満たすこと」が明らかな場合が多くなっています。そのため、採決の際には、省力化の観点から、臨時報告書への記載事項である賛成・反対・棄権の議決権数をすべて集計することはせずに、「決議事項が可決された」ということのみを確認するケースが多くなっています。上場会社の8割以上は、事前行使分に加え、当日出席の大株主や役員の議決権のみを集計するものとして、それ以外の少数株主の議決権行使結果を集計していないようです。

このように、当日出席した一部の株主の議決権数のみ集計した会社は、その理由を臨時報告書に記載する必要があります。具体的には、「本総会前日までの事前行使分および当日出席の一部の株主から各議案の賛否に関して確認できたものを合計したことにより、各議案の可決要件を満たしたため、本総会当日出席の株主のうち、賛成、反対および棄権の確認ができていない議決権数は加算しておりません。」といった記載となります。

臨時報告書は、株主総会後「遅滞なく」提出する必要があるとされています。金融庁の見解によれば、議決権の集計および当該集計を踏まえた臨時報告書の作成に要する実務的に合理的な時間内に提出すれば「遅滞なく」提出したと言えるものとされています。

実際のところ、上場会社の8割以上の会社が総会の翌々日までに、9割以上の会社が総会の3日後までに臨時報告書を提出していますので、特段の事情がない限り、総会の3日後くらいまでには臨時報告書を提出することができるように準備しておくべきでしょう。

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2017/02/04 チェックリスト:定時株主総会を開催する(会員限定)

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■チェックリスト:定時株主総会を開催する

チェック事項 備考 対応未了 対応済
株主総会の招集に際して、下記の事項を取締役会で決議しているか。
・ 日時および場所
・ 議題
・ 議決権行使書または電磁的方法(インターネット)により議決権を行使できる旨
・ 株主総会参考書類に記載すべき事項
・ 議決権行使書または電磁的方法(インターネット)による議決権の行使期限
株主総会の招集通知は、株主総会の日の2週間前までに発送したか(会社法上の要請)。 「株主総会の日」と「招集通知の発送日」との間を中2週間空ける必要がある。
株主総会の招集通知を会社法299条1項に規定する期日よりも早期に発送したか(証券取引所の要請)。 会社法上の要請ではないが、望ましいこととされている。
株主総会の招集通知等を、発送後速やかに電磁的方法により投資者が提供を受けることができる状態に置いたか(証券取引所の要請)。
招集通知等(を要約したもの)の英訳を作成し、投資者が提供を受けることができる状態に置いたか(証券取引所の要請)。
定時株主総会の開催日を集中日ではない日に開催しているか(証券取引所の要請)。 特に、3月決算の場合に問題となる。
株主が電磁的方法(インターネット)により議決権の行使を行うことができる状態に置いたか(証券取引所の要請)。
議決権電子行使プラットフォームへの参加を検討したか(証券取引所の要請)。
総会の準備に際して、議案によって定足数と決議要件が異なる点について事前に確認しておいたか。
定款で、普通決議の定足数要件を排除しているか。
定款で、取締役(監査役)の選任決議の定足数を過半数から3分の1に引き下げているか。
定款で、特別決議の定足数を過半数から3分の1に引き下げているか。
株主総会に大株主が欠席する場合、手続的動議に備えて、事前に包括委任状を入手しているか。 手続的動議があった場合、包括委任状があれば柔軟な対応が可能になる。
包括委任状は、「当該株式の発行会社又はその役員のいずれでもない者」が、被勧誘者を10名未満に抑えて勧誘したものであるか。
委任状争奪合戦においては、被勧誘者に対して、議案等が記載された金融商品取引法の定めに従った様式の委任状用紙および議案について説明した参考書類を交付しているか。
株主総会の議事録は必ず作成しているか。 会社法318条1項
株主総会の議事録は、本店に10年間、支店に5年間備え置いているか。 会社法318条1項~3項
株主総会の議事録には、開催日時、開催場所、議事の経過の要領とその結果、出席役員(取締役、監査役等)の氏名、議長の氏名、議事録を作成した取締役の氏名などを記載しているか。 会社法施行規則72条
定款に、「株主総会議事録には、議長および出席取締役が署名または記名押印する」旨規定されている会社においては、当該定款の規定に従って、議長や出席取締役が署名または記名押印する必要がある。
取締役会を置かない会社や、代表取締役を株主総会決議によって定める旨の定款規定を設けている会社の場合に、代表取締役を株主総会決議によって定めるときは、議長および出席した取締役が株主総会の議事録に押印しているか。 印鑑証明書とともに役員変更の登記申請書に添付しなければならない。
議事録に記載される出席株主数等は、会議の冒頭において報告された数ではなく、議案の採決を行う直前の数を記載しているか。
株主総会において決議された結果(議決権行使結果)について、内閣総理大臣に臨時報告書を提出したか。 上場会社のみ提出が必要。
議決権行使結果に関する臨時報告書には
1 株主総会が開催された年月日
2 決議事項の内容
3 決議事項(役員の選解任議案については候補者ごと)に対する賛成、反対および棄権の議決権数
4 決議事項が可決されるための要件
5 決議の結果
6 3の議決権数に、株主総会に出席した株主の議決権数の一部を加算しなかった場合にはその理由
を記載したか。
基本的には、議題を記載すれば足りるが、議題の記載だけでは他の議題と区別がつかなくなる場合には、当該他の議題と明確に区別ができる記載を行う必要がある。
議決権行使の集計において棄権票を反対票と区別しない場合には、賛成票のみ集計し、それ以外は反対または棄権として記載することも許さる。
当日出席株主の一部の議決権数のみ集計した会社は、その理由を記載する。
議決権行使結果に関する臨時報告書は、株主総会後「遅滞なく」提出したか。 実務上、8割以上の会社が総会の翌々日までに、9割以上の会社が総会の3日後までに臨時報告書を提出している。

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2017/02/03 企業価値向上で表彰された花王が活用する経営指標とは?

東京証券取引所は(2017年)1月30日、上場会社表彰選定委員会(座長:伊藤邦雄 一橋大学大学院特任教授)の審議の結果を受け、第5回企業価値向上表彰の表彰会社を公表した。大賞は花王で、優秀賞は明治ホールディングス、スタートトゥデイ、アステラス製薬の3社となっている。いずれも資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」を高いレベルで実践している点が評価された。

大賞を受賞した花王が経営指標として活用しているのが・・・

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2017/02/03 企業価値向上で表彰された花王が活用する経営指標とは?(会員限定)

東京証券取引所は(2017年)1月30日、上場会社表彰選定委員会(座長:伊藤邦雄 一橋大学大学院特任教授)の審議の結果を受け、第5回企業価値向上表彰の表彰会社を公表した。大賞は花王で、優秀賞は明治ホールディングス、スタートトゥデイ、アステラス製薬の3社となっている。いずれも資本コストを上回る企業価値の創造を目指す「企業価値向上経営」を高いレベルで実践している点が評価された。

大賞を受賞した花王が経営指標として活用しているのが「EVA(Economic Value Added=経済的付加価値」だ。EVAの算式は次のとおり。

EVA=NOPAT-投下資本×資本コスト率

NOPAT : Net Operating Profit After Taxの略で、事業活動により生み出された税引後の利益(税引後営業利益)のこと。
資本コスト率 : 資本を調達するために必要となるコストの調達資本に対する比率。借入金による資本調達であれば利率、株式による資金調達であれば投資家の期待収益率(配当への期待や値上がり益の期待と株価の比率)こと。なお、上場会社の場合、投資家の期待収益率は、資本資産評価モデル(Capital Asset Pricing Model:CAPM)などにより計算される。

この算式は、事業活動により生み出された利益(NOPAT)が資本コスト(投下資本に資本コスト率を乗じて計算)を上回る額が「企業価値の創造額(=EVA)」であることを表している。仮にNOPATが150億円、投下資本が1000億円で資本コスト率が5%とすると、EVAは100億円(=150億円-1000億円×5%)になる。投下資本には自己資本と他人資本(社債や借入金)の合計額を用い、資本コスト率は自己資本と他人資本の資本コスト率を加重平均したWACCを用いる。

WACC : Weighted Average Cost of debt and equity Capitalの略で、加重平均資本コスト率のこと。

EVAは大きければ大きいほど望ましい。逆にEVAがマイナスになれば、企業価値を毀損していることになる。事業別損益計算をしていれば、EVAを事業ごとに算定することもできる。

花王では、1999年からこのEVAを経営プロセスの中に指標として取り入れた経営を行っている(下表参照)。

経営目標の設定 EVAを重要な経営指標に掲げて年度ごとに目標を設定し、実績を管理
経営判断の仕組み 事業の投資・撤退の判断基準にEVAを利用(資本コストを上回る企業価値の創造が見込まれない事業は撤退もありうる)
役職員の動機付け 従業員全員に業績連動報酬の仕組みを適用した報酬を支給し、役員報酬はEVAを利用して決定
社内への意識の浸透 従業員に対する社内研修で、「EVAの考え方」「EVA向上の意義」「EVAドライバー(売上増、費用減、売掛金・在庫・不要資産の圧縮などEVAを改善するための手法)」を解説するなど、社内への企業価値創造の意識の浸透に注力

同社のEVAはアニュアルレポートにおいて指数形式で公表されており、2011年12月期を100とすると2015年12月期は244にまで上昇(およそ2.5倍)している。その間、1株当たり配当金も60円(2011年12月期)から92円(2015年12月期)に増加させている。企業価値増加を株式市場も高く評価し、株価も2011年から3倍近く上昇している。

EVAは決して最新の経営指標ではないものの、ROEほど普及しているわけでもない。EVAを経営指標に導入していない上場会社の役員としては、まずは自社のEVAを数年分算出してみるべきだろう。

2017/02/02 スチュワードシップ・コードがいよいよ改訂へ

金融庁が開催している「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は昨年(2016年)11月30日に「機関投資家による実践的なスチュワードシップ活動のあり方~企業の持続的な成長に向けた「建設的な対話」の充実のために~」と題する意見書を公表したが(2016年11月30日のニュース『フォローアップ会議が意見書を公表、「案」から変わった点は? 』参照)、これを踏まえ、同庁の「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」が“再開”した。

スチュワードシップ・コード策定時には「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」という研究会が存在していたが、今回の「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」はこれを引き継ぐものと言える。検討会の“再開”は、スチュワードシップ・コードの改訂が間近に迫っていることを示している。具体的には、2017年6月の株主総会に間に合うように改訂が行われる見込みであることから、今年度末(2017年3月)にも改訂版スチュワードシップ・コードが明らかにされることになりそうだ。

改訂の内容は・・・

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2017/02/02 スチュワードシップ・コードがいよいよ改訂へ(会員限定)

金融庁が開催している「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は昨年(2016年)11月30日に「機関投資家による実践的なスチュワードシップ活動のあり方~企業の持続的な成長に向けた「建設的な対話」の充実のために~」と題する意見書を公表したが(2016年11月30日のニュース『フォローアップ会議が意見書を公表、「案」から変わった点は? 』参照)、これを踏まえ、同庁の「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」が“再開”した。

スチュワードシップ・コード策定時には「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」という研究会が存在していたが、今回の「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」はこれを引き継ぐものと言える。検討会の“再開”は、スチュワードシップ・コードの改訂が間近に迫っていることを示している。具体的には、2017年6月の株主総会に間に合うように改訂が行われる見込みであることから、今年度末(2017年3月)にも改訂版スチュワードシップ・コードが明らかにされることになりそうだ。

改訂の内容は基本的には上記フォローアップ会議の意見書を踏まえたものとなる。意見書では、運用機関等に対して、個別の議決権行使結果()を、アセットオーナー(年金基金や保険会社等)のみならず、一般にも公表するほか、必要があれば、運用機関等が議決権行使の理由を対外的に明確に説明することも、透明性の向上に資するとしている(詳細は2016年11月16日のニュース『「物言わぬ株主」時代の終わりを告げるスチュワードシップ・コードの改訂』参照)。

 例えば、「A社の取締役B氏の選任議案に反対した」といった情報。現行のスチュワードシップ・コードでは、「当社(運用機関)は、役員選任議案を決議した投資先500社のうち450社の議案に賛成票を投じ、50社の議案に反対票を投じた」というように、「議案の主な種類ごとに整理・集計」して公表すればよいことになっている。

また、運用機関は、独立した取締役会や、議決権行使の意思決定や監督のための第三者委員会を設置するなどガバナンス体制を整備するとともに、議決権行使や対話に重要な影響を及ぼす利益相反が生じうる局面(利益相反の具体例はこちらを参照)を具体的に特定し、これを回避するといった「最終受益者の利益を確保するための措置」について具体的方針を定め、公表すべきであるとしている。

個別の議決権行使結果が一般に公表されるようになれば企業にとってのインパクトは極めて大きい。機関投資家の存在感も一層増すことになろう。

2017/02/01 リキャップCBは悪か?

周知のとおり、ROE(自己資本利益率)は「純利益 ÷ 自己資本」により計算される。このため、企業が事業活動を通じて得た利益が配当等として株主に還元されずに「自己資本」として蓄積されれば分母は大きくなり、ROEは下がることになる。

これを避けるため、最近は転換社債(CB)により調達した資金をもって自己株式を取得し、自己資本を圧縮する()ことでROEの向上を目指す企業が散見される。

転換社債(CB) : 株式に転換する権利が付いた社債。正式には「転換社債型新株予約権付社債」という。CBとは「Convertible Bond=コンバーティブルボンド」の略である。株価が上がった場合には株式に転換することができる一方、上がらなければ社債として保有し、利子を受取ることができる。社債の確実性と、株式の収益性を兼ね備えているのが転換社債の特徴である。

 自己株式の取得では、株主が企業に株式を渡し、その反対に企業は株主に現金を渡すことになる。したがって、これも株主に対する利益還元策であり、自己資本を減少させることになる。

CBで調達した資金で自己株式を取得すれば、自己資本が減少する代わりに負債(社債)が増える。このように、自己資本と負債のバランスを再構成することを「リキャピタライゼーション(recapitalization=資本の再構成)」という。そして、このように、資本の再構成のために発行される転換社債は「リキャップCB」と呼ばれる。リキャップCBにおける「リキャップ」とは「リキャピタライゼーション」の略である。

その一方で、このような財務手法を批判する声も聞かれる。ROE向上という資本市場から歓迎されるべき取組みが批判される原因は大きく2つに分けられる。

1つは「リキャップ(資本の再構成)」に対する批判だ。調達した資金をそのまま株主に渡すだけという経営努力を伴わないの行為によるROE向上は、有利子負債を増やすことで財務健全性を損なうだけであって、企業価値の向上とは無関係、というのがその根拠である。このような批判にも一理あるのは確かだが、企業価値向上につながる余地もある点には注意が必要だ。企業は財務戦略において、資本コストとリスクを踏まえて自己資本と有利子負債の適正なバランスと取る必要がある。債権者よりも株主の方が期待収益率が高い分、自己資本の方が債務よりも資本コストは高いが(資本コストの詳しい説明は「ディスカウント・キャッシュフロー」参照)、一方で、事業面で高いリスクを負っている企業は、リスクの顕在化に備え有利子負債を抑制する必要がある。従前はこのようなバランスについて十分な検討を行ってこなかった企業が、資本コストとリスクに関する精緻な分析に基づいて最適なバランスを導き出し、「自己資本が過大(=有利子負債が過小)」という結論に至ったとしよう。これはリスク管理と財務戦略の精緻化という“経営努力”に他ならない。適正なバランスを早期に実現するための手段としてリキャップを用いるのであれば、これは企業価値を高めるものと言ってよいのではないだろうか。逆に言えば、批判されるべきは、このような経営努力を伴わないリキャップであろう。

2つ目は・・・

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2017/02/01 リキャップCBは悪か?(会員限定)

周知のとおり、ROE(自己資本利益率)は「純利益 ÷ 自己資本」により計算される。このため、企業が事業活動を通じて得た利益が配当等として株主に還元されずに「自己資本」として蓄積されれば分母は大きくなり、ROEは下がることになる。

これを避けるため、最近は転換社債(CB)により調達した資金をもって自己株式を取得し、自己資本を圧縮する()ことでROEの向上を目指す企業が散見される。

転換社債(CB) : 株式に転換する権利が付いた社債。正式には「転換社債型新株予約権付社債」という。CBとは「Convertible Bond=コンバーティブルボンド」の略である。株価が上がった場合には株式に転換することができる一方、上がらなければ社債として保有し、利子を受取ることができる。社債の確実性と、株式の収益性を兼ね備えているのが転換社債の特徴である。

 自己株式の取得では、株主が企業に株式を渡し、その反対に企業は株主に現金を渡すことになる。したがって、これも株主に対する利益還元策であり、自己資本を減少させることになる。

CBで調達した資金で自己株式を取得すれば、自己資本が減少する代わりに負債(社債)が増える。このように、自己資本と負債のバランスを再構成することを「リキャピタライゼーション(recapitalization=資本の再構成)」という。そして、このように、資本の再構成のために発行される転換社債は「リキャップCB」と呼ばれる。リキャップCBにおける「リキャップ」とは「リキャピタライゼーション」の略である。

その一方で、このような財務手法を批判する声も聞かれる。ROE向上という資本市場から歓迎されるべき取組みが批判される原因は大きく2つに分けられる。

1つは「リキャップ(資本の再構成)」に対する批判だ。調達した資金をそのまま株主に渡すだけという経営努力を伴わないの行為によるROE向上は、有利子負債を増やすことで財務健全性を損なうだけであって、企業価値の向上とは無関係、というのがその根拠である。このような批判にも一理あるのは確かだが、企業価値向上につながる余地もある点には注意が必要だ。企業は財務戦略において、資本コストとリスクを踏まえて自己資本と有利子負債の適正なバランスと取る必要がある。債権者よりも株主の方が期待収益率が高い分、自己資本の方が債務よりも資本コストは高いが(資本コストの詳しい説明は「ディスカウント・キャッシュフロー」参照)、一方で、事業面で高いリスクを負っている企業は、リスクの顕在化に備え有利子負債を抑制する必要がある。従前はこのようなバランスについて十分な検討を行ってこなかった企業が、資本コストとリスクに関する精緻な分析に基づいて最適なバランスを導き出し、「自己資本が過大(=有利子負債が過小)」という結論に至ったとしよう。これはリスク管理と財務戦略の精緻化という“経営努力”に他ならない。適正なバランスを早期に実現するための手段としてリキャップを用いるのであれば、これは企業価値を高めるものと言ってよいのではないだろうか。逆に言えば、批判されるべきは、このような経営努力を伴わないリキャップであろう。

2つ目はCBの発行条件に対する批判だ。CBは普通社債に「一定の株価で株式に転換する権利」(オプションと呼ばれる)を加えた金融商品である。したがって、発行時にはオプションの価値(オプションプレミアム)の分だけ、普通社債よりも金利(クーポン)を抑えることができる。しかし、低金利が続く昨今、もともと単なる普通社債の金利も十分に低いため、CBの発行条件の一つである「金利」をゼロ(ゼロクーポン)にするだけでは、オプションの価値を十分に吸収できないケースが増えているようだ。理論上は、吸収できなかったオプションの価値(金利を上回るオプションの価値)の分だけ、額面よりも高い価格でCBを発行できる(例えばオプションプレミアムが5億円とすると、リキャップCBの引受先は、発行価格100億円に5億円を上乗せした105億円でCBを引き受けることで、オプションプレミアムの5億円を支払わないといけない)はずだが、実際には額面前後で発行されることが多い。これは、オプションの価値が過小評価された状態でCBが発行されているということに他ならない。この過小評価分(上述の例では、オプションプレミアムの5億円)は本来、企業にとっては「CBの引受先からもらい損ねた分」という性質を持つが、発行後になって発行企業がCBの引受先に請求できるはずもなく(そもそもCBの発行企業としても「もらい損ねたこと」に気付いていないケースが少なくない)、デリバティブの取得者(通常はヘッジファンド)がその分安く株式を取得する(「株式を購入する権利を安く取得する」と言ったほうが正確)ことになる。すなわち、CBの発行企業がオプションプレミアムをもらい損ねた結果、一般株主の持ち分が希薄化()するわけだ。つまり、企業(経営者)は費用をかけずにROEを向上させることができるが、そのツケは既存株主に回ってくるのである。

 例えば本来105の価値がある株式を新たな株主が100で手に入れれば、一株当たりの平均価値は低くなってしまう。

上記をまとめると、批判されるべきリキャップCBとは、リスクや資本コストを考慮しないリキャップ、あるいは発行条件が適正でないCBの発行のいずれか(あるいは両方)ということになろう。企業がこのような批判にさらされることがないよう、経営陣にはリスクと資本コストの精査や適正な発行条件による資金調達(オプションプレミアムが金利および発行価額に適切に反映されたCBの発行)が求められると同時に、そのような経営努力を促すのが取締役会(特に社外取締役)の重要な役割であることを肝に銘じておくべきだろう。