<解説>
連結子会社すべてがJ-SOXの評価対象範囲とは限らず
J-SOXとは、上場会社が、財務報告に係る内部統制報告書を事業年度ごとに内閣総理大臣に提出する内部統制報告制度のことです。米国で制定されたサーベンス・オクスリー法(SOX法)に基づく内部統制監査制度を参考に、日本でも2008年に導入されました。
財務報告に係る内部統制報告書 : 会社の属する企業集団および当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要な体制について評価した報告書
J-SOXにおける「財務報告」とは、連結財務諸表並びに財務諸表およびそれらの信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項等に係る外部報告を指します。J-SOXでは、経営者が財務報告に係る内部統制を整備し、適切に運用されているかを評価し、その評価結果を内部統制報告書で開示する必要があります。そして、当部統制報告書は公認会計士または監査法人の監査を受けなければなりません。
連結財務諸表 : 連結貸借対照表、連結損益計算書、連結包括利益計算書、連結株主資本等変動計算書、連結キャッシュ・フロー計算書、連結附属明細表
財務諸表 : 貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュ・フロー計算書(連結財務諸表を開示していない会社)、附属明細表
それらの信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項等 : 有価証券報告書等における財務諸表以外の開示事項等で次に掲げるものをいう。ア 財務諸表に記載された金額、数値、注記を要約、抜粋、分解または利用して記載すべき開示事項 イ 関係会社の判定、連結の範囲の決定、持分法の適用の要否、関連当事者の判定その他財務諸表の作成における判断に密接に関わる事項
監査 : 内部統制報告書が、一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の評価の基準に準拠して、財務報告に係る内部統制の評価結果について、すべての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見を表明するための監査
内部統制報告書には、経営者が決定した評価の範囲、評価の基準日、評価手続、評価結果を記載します。
| 評価の範囲 | 評価範囲の決定方法および根拠(財務報告に対する金額的および質的影響の重要性を考慮し、全社的な内部統制の評価結果を踏まえ、業務プロセスに係る内部統制の評価範囲を合理的に決定した旨など) |
| 評価の基準日 | 期末日 |
| 評価手続 | 会社の行った手続きのうち、評価範囲内における統制上の要点の選定など財務報告に係る内部統制の評価結果に重要な影響を及ぼす手続の概要 |
| 評価結果 | 内部統制に開示すべき重要な不備がないかどうか |
全社的な内部統制 : 連結ベースでの財務報告全体に重要な影響を及ぼす内部統制
業務プロセスに係る内部統制 : 業務プロセスに組み込まれ一体となって遂行される内部統制。社内には、販売プロセス、購買プロセス、原価計算プロセス、在庫管理プロセス、投資プロセス、給与計算プロセス等様々な業務プロセスが存在するが、J-SOXでは、それらのうち自社の財務報告において重要となる業務プロセスだけを評価すればよい。
統制上の要点 : 財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼす統制上の要点。キーコントロールとも言われる。
開示すべき重要な不備 : 財務報告に係る内部統制の不備で、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高いもの
とりわけ「評価の範囲」は誤解の多いところなので、経営陣としてはしっかりと理解しておきましょう。まず、全社的な内部統制の評価範囲として、財務報告の信頼に及ぼす影響(金額的影響もしくは質的影響)の重要性が高い会社を選定し、評価を行います(ステップ1)。次に、ステップ2として、決算・財務報告プロセスのうち全社的な観点で評価することが適切と考えられるものについて、ステップ1の全社的な内部統制の評価に準じて評価を行います。そして、ステップ3として、業務プロセス(決算財務報告プロセスのうち全社的な観点で評価することが適切と考えられるもの以外のものを含む)に係る統制を評価します。具体的には、ステップ1で選定した会社のうち連結売上高の金額を合算していき、連結売上高等の一定割合(例えば「概ね2/3」など)に達している事業拠点を「重要な事業拠点」として選定します。さらに、それらの事業拠点の主要な事業を選定し、会社の事業目的に大きく関わる勘定科目を選定します。例えば、販売業(小売り・卸売り)を営む会社では、売上高、売掛金及び棚卸資産に至る業務プロセスを評価の対象に選定する会社がよく見受けられます。さらに、財務報告への影響を勘案して、重要な虚偽記載の発生可能性が高く、見積もりや予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセスやリスクが大きい取引を行なっている事業または業務に係る業務プロセスについては、個別に評価の対象に追加することになります。具体的には、各種引当金の繰入額の見積もり、固定資産の減損、デリバティブ取引などが考えられます。
決算・財務報告プロセス : 決算を取りまとめて、財務報告として社外に開示するまでの情報の作成、伝達、承認等のプロセス。
内部統制報告書の評価結果欄では、ほとんどの会社が開示すべき重要な不備がないとして「財務報告に係る内部統制が有効である」との評価結果を開示しています。ごくまれにですが、例外的に下に掲げる状況に該当する会社では、その状況に対応した評価結果を記載することになります。
| 状況 | 評価結果欄に記載すべき事項 |
| 評価手続の一部を実施できなかったが、財務報告に係る内部統制は有効である場合 | その旨並びに実施できなかった評価手続およびその理由 |
| 開示すべき重要な不備があり、財務報告に係る内部統制は有効でない場合 | その旨並びにその開示すべき重要な不備の内容およびそれが是正されない理由 |
| 重要な評価手続が実施できなかったため、財務報告に係る内部統制の評価結果を表明できない場合 | その旨並びに実施できなかった評価手続およびその理由 |
導入準備から約10年が経過したJ-SOXの現況
ほとんどの上場会社では、J-SOX制度に対応するために、いわゆる3点セット(業務記述書、フローチャート、RCM)を作成しています。本来であれば、3点セットを毎年ブラッシュアップするべきでしょうが、「業務の進め方に変更がなく、内部統制の水準が十分であること」を理由に3点セットを長期間更新していない上場会社や、更新しているものの更新内容は組織変更に伴う担当部署名の変更程度に過ぎないという上場会社は少なくありません。そのような会社ではJ-SOX制度導入から8年、準備期間も含めれば約10年が経過した現在、3点セットの存在感が制度導入当初より薄れてきている可能性があります。10年の間に各業務の担当者のほとんどが異動していることも、3点セットの存在感の低下に拍車をかけていると言えます。
RCM : Risk Control Matrixの略。財務報告に誤りや不正が生じてしまうリスクとそれに対する統制(コントロール)を対応させた表のこと。
3点セットの存在感が薄れてきたからといっても、会社内で必要な内部統制が行われていないわけではないことには留意が必要です。上場会社の内部統制は、J-SOX制度の導入により初めて構築されたものではありません。上場会社では、会社である以上組織体として必要な内部統制を自律的に採用しており、上場申請時にも証券会社や証券取引所から内部統制の状況を審査されています。また、会社の規模が大きくなるにつれ、それに対応した内部統制の強化を図ってきています。それは子会社であっても同様です。むしろ、各業務の担当者は、3点セットの業務記述書より詳細なマニュアルに基づいて日々の業務を実施しているのが通常です。マニュアルに内部統制のロジックが適切に反映されているのであれば、3点セットの存在感が薄れてきたことは、それほど心配すべきではないでしょう。もっとも、業務の流れや承認体制を変更する際には、現場を巻き込んで3点セットも更新することを忘れないようにしましょう。
さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
財務担当取締役C:「Z社はそもそもJ-SOXの評価対象範囲外の会社なので、Z社ではJ-SOXの業務記述書の存在が浸透していないだけではないでしょうか?」
(コメント:J-SOXでは、連結財務諸表に対する金額的および質的影響の重要性が乏しい連結子会社や持分法適用会社を評価対象の範囲に含めないことができます。財務担当取締役Cの発言は、A社におけるJ-SOX の評価対象範囲を理解している点がGOODです。)
(コメント:Z社の販売業務の責任者がJ-SOXの業務記述書の存在を知っているかどうかと、Z社で内部統制が機能しているかどうかは、まったく別の話です。J-SOX制度が導入されて10年が経ったこともあり、多くの上場会社でJ-SOXの業務記述書の存在感が薄れているのは事実ですが、だからといって制度導入当初に構築した内部統制の水準が劣化している訳ではありません。ましてZ社はJ-SOXの評価対象範囲外の会社です。社外取締役としては、Z社がJ-SOXの評価対象範囲内かどうかは押さえておくべきでした。仮にそのことを知らないとしても、「A社では連結子会社が30社あり、Z社はそのうち一番小さい連結子会社であること」から、J-SOXの評価対象範囲外である可能性が高いことに気付いて欲しいところです。社外取締役Aの発言は、J-SOXの制度やA社での対応方針についての理解が不足している点がBADです。)
(コメント:J-SOXの導入時(2007年頃)には、多くの上場会社が、(監査の支障にならない範囲で)会計監査人からサポートを受けつつ、制度への対応を図りました。A社でも同じだったのでしょう。ただ、営業担当取締役BはJ-SOXの導入当時の記憶があいまいになっていたようで、どうやら「会計監査人が業務記述書を作成した」と誤解しているようです。業務記述書の作成にあたり会計監査人がアドバイスをすることはあっても、業務記述書の作成主体はあくまで上場会社です(本事例ではA社またはZ社)。会計監査人の役割は、経営者の作成した内部統制報告書を監査するだけです。営業担当取締役Bの発言は、J-SOXにおける役割分担を誤解したものであり、BAD発言です。)
