2016/11/30 【2016年10月の課題】社外役員への株式報酬の付与:解答(会員限定)

ウイリス・タワーズワトソン
経営者報酬部門 コンサルタント 伊藤 竜広
03-3581-6530
tatsuhiro.ito@willistowerswatson.com

インセンティブ報酬が社外役員に馴染まないと言われる理由

社外役員とは、具体的には「社外取締役」と、監査役(会)設置会社における「社外監査役」を指しますが、そもそもどのような役割を担うのでしょうか。

一般的には、社外役員は直接的に会社の業務執行を担うわけではなく、会社から独立した客観的な立場で経営の監査・監督をすることが主たる職責となっています。この「業務執行をしない」という点が、社外役員には株式報酬を含めたインセンティブ報酬は馴染まないと言われている最大の理由であると考えられます。

インセンティブ報酬は会社が生み出した成果に応じて支払われます。ここでいう「成果」とは企業価値の向上、つまり株価や業績の向上に他なりません。通常、これらの成果は業務執行によって生み出されるものと理解されています。一方、社外役員の役割である「監督」の成果は少なくとも数字に表れるものではありませんし、ましてや業績関連の数値と結び付けることは困難です。

このように、社外役員の役割である「監督」の成果と、インセンティブ報酬を支払ううえで求められる成果(株価や業績の向上)が異なることを踏まえると、社外役員にインセンティブ報酬は馴染みにくく、もし支給するとしても、その算定根拠を株主等に説明するのは容易ではありません。

また、冒頭でも触れたように、社外役員には「会社から独立した客観的な立場」で、自らの知見や経験を踏まえた、業務執行役員とは別の角度・視点からのアドバイスや意見が期待されています。こうした中で、インセンティブ報酬を支給することにより社外役員と業務執行役員のベクトルが一致することになれば、社外役員の「独立性」や「客観性」が失われてしまいかねないという問題もあります。

変化する社外役員に期待される役割

もっとも、社外役員に期待される役割は変化しつつあります。コーポレートガバナンス・コードでは、社外取締役及び監査役(会)に期待される役割をかなり具体的に記載しています。

まず、社外取締役については、以下のような記載があります。

(ⅰ)経営の方針や経営改善について、自らの知見に基づき、会社の持続的な成長を促し中長期的な企業価値の向上を図る、との観点からの助言を行うこと
(ⅱ)経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと
(ⅲ)会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督すること
(ⅳ)経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること(原則4-7)

このほか、報酬委員会等の「任意の仕組み」の活用に際しては、独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきであるとの記載もあります(補充原則4-10①)。

このうち(ⅰ)は、これまで「経営の監督」の職責を担っていると考えられてきた社外取締役にも経営のアドバイスを通じて企業価値の向上に貢献する役割が期待されるという点で、新しい考え方と言えるでしょう。

(ⅱ)は、従来からの社外取締役の役割そのものであるため、イメージし易いと思います。

(ⅲ)の対象となる例の一つとして挙げられるのが役員報酬です。というのも、株主の代理人として経営を担う役員に対し、その「職務執行の対価」である報酬が適切に支払われない場合、株主が不利益を被るおそれがあるからです。具体的には、パフォーマンスに見合う役員報酬が支払われない場合、その分会社財産は減らずに済みますが、その反面、役員が業務執行へのインセンティブを欠くことになり、株主に不利益が生じます(会社と株主の間で利益相反が発生)。逆に、パフォーマンスを超えて過大な役員報酬が支払われれば会社財産を棄損し、これも株主に不利益となります(役員と「株主・会社」の間で利益相反が発生)。

(ⅳ)は、社外取締役は株主の代表として、例えば一般の少数株主の意思を取締役会に反映させる役割が期待されている、ということを述べているものと解釈できます。

一方、監査役については、「監査役及び監査役会に期待される重要な役割・責務には、業務監査・会計監査をはじめとするいわば「守りの機能」があるが、こうした機能を含め、その役割・責務を十分に果たすためには、自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切でなく、能動的・積極的に権限を行使し、取締役会においてあるいは経営陣に対して適切に意見を述べるべき」(原則4-4)との記載があります。従来、監査役の役割というと、会社の業務執行の適法性チェック、すなわち、会社の業務執行が定款や関連法令等に則して適切に行われているかどうかをモニタリングするというものが一般的でしたが、コーポレートガバナンス・コードでは必ずしもそこに捉われず、もっと広い意味での「監督」が期待されています。監査役は独任制であるが故に監査役会の拘束を受けず強力な権限を有することを踏まえ、それを正しくかつ有効に使うべし、ということでしょう。

独任制 : 自らの権限で自ら監査を行うこと。

米国では社外取締役の報酬の50%超が株式報酬

では、このような社外役員の役割の変化を踏まえると、今後社外役員への報酬はどうあるべきでしょうか。

現時点では、日本企業における社外役員の報酬は、「社外役員の職責は経営の監査・監督である」という従来型の考え方に基づき、固定の基本報酬のみで構成されるケースが圧倒的多数となっています。

仮に社外役員にインセンティブ報酬を付与することとした場合、株主総会では当該付与議案に対し相応の反対票が投じられることが予想されます。そこで、賛成率が低かったインセンティブ報酬の付与議案を調べてみても、社外役員にインセンティブ報酬を支給している企業はあまり見つかりません。2016年1月~10月に提出された臨時報告書を対象にした弊社の調査によると、株式報酬(ストックオプションを除く)に関する単独議案117議案のうち、「監督役員(監査役(社内・社外の両方)及び社外取締役の総称)が対象に含まれ、かつ賛成票率が80%を下回っていた事例は1社のみ、ストックオプション関連議案232議案のうち、監督役員が対象に含まれ、かつ賛成票率が80%を下回る企業は8社にとどまっています。

一方、米国の状況は日本とは大きく異なります。Fortune 500の構成企業を見ると、日本の社外取締役に相当するOutside Directorにも株式報酬が付与されるのが一般的であり、しかもフルバリュー型の株式報酬であるケースが多くなっています。付与額も多く、株式報酬の割合が総報酬の実に50%超を占めるという状況です。ちなみに、保有期間は各社が独自に定める自社株保有ガイドラインに定める基準まで保有し続ける(例:株式報酬が基本報酬の倍数に到達するまで保有。事例としては多いのは5倍)、または、在任中は株式を保有し続けるケースが一般的となっています。

これに対し欧州諸国においては、日本の社外取締役に相当するNon-Executive Directorに対する報酬として、株式報酬は一般的とは言えません。例えば英国のFTSE100の構成企業を見ると、固定報酬が中心であり、株式報酬を付与するケースはどちらかと言えば少数です。また、フランス、ドイツにおいても株式報酬は一般的でありません。欧州諸国で報酬パッケージの中に株式報酬が一般的に含まれるのは、スイスくらいです。

ただし、日本で今後も社外役員へのインセンティブ報酬が普及しないのかと言えば、そうとは限りません。特に社外取締役については、中長期的な企業価値の向上への寄与が期待される中、株式を保有し、ある程度株主との価値共有を図ることはむしろ合理的であるとも言えます。また、海外では米国をはじめ社外取締役に株式報酬を付与するのが一般的となっているケースもあることからすると、今後日本においても社外取締役に株式報酬を付与することの是非が議論される可能性は十分にあります。

一方、独任制を敷く社外監査役については、上述の通り、コーポレートガバナンス・コードには期待される役割の拡大について言及はあるものの、基本的には「監督機能」のみが期待されると考えられることに加え、監査役制度自体が日本独自の制度であり、現状では株式報酬を含めたインセンティブ報酬は馴染まないことを踏まえると、社外取締役と比べ、インセンティブ報酬の付与対象となる可能性は低いものと考えられます。

とはいえ、仮に社外取締役に対し株式報酬を支給するとしても、企業価値の創出はあくまで第一義的には業務執行によってなされると考えられるため、過度なボリュームの株式報酬や、業績条件がついた株式報酬はやはり相応しくないと言えるでしょう。また、日本においては現在のところ社外取締役への報酬は固定報酬が中心という実態があるため、各社が社外取締役の報酬の見直しを検討するとしても、株式報酬を社外取締役に付与する妥当性について、開示を含めた丁寧な説明が必要不可欠になると考えられます。実際には、社外取締役への株式報酬の支給が日本で一般化するにはもう少し時間がかかるものと予想されます。

2016/11/30 フォローアップ会議が意見書を公表、「案」から変わった点は?

スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は本日(2016年11月30日)、同会議にとって3つ目の意見書となる「機関投資家による実効的なスチュワードシップ活動のあり方~企業の持続的な成長に向けた「建設的な対話」の充実のために~」(以下、意見書(3))を公表した。「運用機関等が、自らの活動について最終受益者への説明責任を果たし、透明性を向上させていくためには 、個別企業・議案ごとに議決権行使結果を公表することが重要」とし、機関投資家に議決権行使結果の個別開示を求める内容となっている。金融庁は、今回公表された意見書(3)を受けて、来年(2017年)にスチュワードシップ・コードを改訂する予定だ。

今回の意見書(3)の「原案」の中身は2016年11月10日のニュース「フォローアップ会議、個別の議決権行使結果の公表を提言」でお伝えしたとおりだが、原案と意見書(3)を比べてみると、いくつかの違いが見られる。まず、・・・

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2016/11/30 フォローアップ会議が意見書を公表、「案」から変わった点は?(会員限定)

スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は本日(2016年11月30日)、同会議にとって3つ目の意見書となる「機関投資家による実効的なスチュワードシップ活動のあり方~企業の持続的な成長に向けた「建設的な対話」の充実のために~」(以下、意見書(3))を公表した。「運用機関等が、自らの活動について最終受益者への説明責任を果たし、透明性を向上させていくためには 、個別企業・議案ごとに議決権行使結果を公表することが重要」とし、機関投資家に議決権行使結果の個別開示を求める内容となっている。金融庁は、今回公表された意見書(3)を受けて、来年(2017年)にスチュワードシップ・コードを改訂する予定だ。

今回の意見書(3)の「原案」の中身は2016年11月10日のニュース「フォローアップ会議、個別の議決権行使結果の公表を提言」でお伝えしたとおりだが、原案と意見書(3)を比べてみると、いくつかの違いが見られる。まず、議決権行使結果の個別開示に反対する立場から「個別の議決権行使結果の公表により、賛否の結果のみに過度に関心が集まり、運用機関による形式的な行使を助長したり、企業と運用機関の対決色が強調されるなど、円滑な対話が阻害されるのではないか」との懸念を指摘する声があるとの記載が追加されている一方で、この懸念については「運用機関が、議決権行使に関する考え方を対外的に説明することなどを通じて、解決していくべきものである」との反論も加筆されている。一見すると両論に配慮した格好になっているが、最終的には「個別の議決権行使結果を一般に公表することを原則とし、それぞれの運用機関等の置かれた状況により、それが必ずしも適切でないと考えられる場合には、その理由を積極的に説明すべきであると考えられる」(赤字が原案から追加された箇所)と結論付けている(意見書(3)の4ページ参照)。個別の議決権行使結果を公表せずに「エクスプレイン」を選択しようとする機関投資家にプレッシャーを与え、機関投資家に議決権行使結果の個別開示についてコンプライを促す内容になっている点、注目されよう。

スチュワードシップ・コードが改訂されれば、会社提案の株主総会議案への反対票の増加が見込まれるなど、上場企業への影響は大きい。スチュワードシップ・コードの改訂は、コーポレートガバナンス分野における来年(2017年)のビッグイベントの一つとなりそうだ(スチュワードシップ・コード改訂の影響については、11月16日のニュース『「物言わぬ株主」時代の終わりを告げるスチュワードシップ・コードの改訂』も参照)。

2016/11/29 【失敗学第30回】ホウスイの事例(会員限定)

概要

卸売業を営むホウスイ(東証第一部)の子会社「せんにち」において経理課長が28百万円の横領を行っていたことが発覚した。また、「せんにち」では会計処理の誤りがあり、連結財務諸表の利益が累計で138百万円過大に計上されていた。

経緯

ホウスイが、2016年7月に東京証券取引所から「改善報告書」を徴求されるまでの経緯を時系列で示すと、次のとおり。

<2013年>
5月:ホウスイが千日総本社より事業(水産練製品等の製造・加工販売事業)を譲り受け、新設会社「株式会社せんにち」を立ち上げる。

<2016年>
2月上旬:ホウスイの子会社「せんにち」の営業本部長が、取引先からの仕入高について疑問を持ち、経理課長(当時。以下同じ)に質問をしたところ回答はなく、数日経過後に経理課長より退職の申し出があった。営業本部長(当時。以下同じ)が調査を進め、販売システムと会計システムの仕入れ金額の不一致リストを提示し経理課長に説明を求めたところ、経理課長が不正をしていたことを自認した。
2月15日:「せんにち」の顧問税理士事務所が、ホウスイより依頼を受け横領金額の調査を開始。
3月9日:ホウスイが「せんにち」の顧問税理士事務所より横領金額の調査結果の報告書を受領。
3月14日~4月9日:ホウスイ経理部による調査とホウスイの会計監査人(和宏監査法人)による「せんにち」への監査が実施される(3月23日に「当社の連結子会社における不適切な会計処理について」をリリースし、4月4日に経過報告をリリース)。
4月14日:ホウスイが過去の決算短信や有価証券報告書等の訂正を公表。また、ホウスイの個別決算で関係会社株式評価損90百万円、「せんにち」に対する売掛金に対する貸倒引当金繰入額426百万円を特別損失に計上するとともに、連結決算において「せんにち」の「のれん」の減損損失403百万円を特別損失に計上。
7月14日:東京証券取引所がホウスイに改善報告書を徴求(リリースはこちら)。
7月29日:ホウスイが東京証券取引所に改善報告書を提出。

内容・原因・改善策

ホウスイが2016年7月29日に東京証券取引所に提出した「改善報告書」によると、本件の問題点の内容とその原因、再発防止策は次のとおりである。

1 「せんにち」の経理課長の横領

内容 「せんにち」の経理課長は、会社資金を仮払金として出金し横領していた。そのままでは仮払金が膨らみ発覚してしまうので、仮払金を仮払消費税、仕入高、架空経費等に振り替えて消去していた。
原因 ・「せんにち」の経理課長は「家庭内でいくつかの課題をかかえており、そのため市中の金融業者から高利な借金」があり、「その返済に追われていたため、横領をしたと思われる」(以上、改善報告書より抜粋)。
・「せんにち」の管理本部長(経理課長の上司)は、経理課長を信頼して業務を任せていたため(経理課長への権限の集中)、会計処理に関しては十分な確認を行っておらず、横領に気付くことができなかった(内部統制が機能していなかった)。
・「せんにち」の管理本部長は、営業事務管理の職歴が長く、経理業務を監督するだけの十分な専門的知識を有していなかった(上司の監督能力の問題)。
・経理担当者は経理課長の指示通りに経理処理を行うのみで、経理課長の行った会計処理の間違いを指摘できるほどの専門的知識を持っていなかった。また、「せんにち」では、経理担当者のスキルを向上させるための社内教育ができていなかった。
・「せんにち」では昇格基準や昇給基準が明確ではなく、社員のモラール(やる気)に課題があった。
・「せんにち」には退職金制度がないため、社員が定着せず、そのことが社内の風土を安定感のないものにしていた。
・親会社(ホウスイ)は、子会社の監督が十分でなかったため、子会社の財務報告に係る内部統制が十分でないことを看過してしまった。
対応策 経理課長を2月12日付で懲戒解雇し、4月11日に吹田警察署へ告訴状を提出。
改善策 ・「せんにち」における業務内容と職務権限について見直しを行い、「経理分担業務フロー表」を制定。経理システムへの入力は経理担当者に限定し、経理課長と管理本部長の二重チェック体制とする。
・退職一時金制度の採用。
・ホウスイの常勤監査役が、「せんにち」の「管理部門と経営との会議」に出席し、「せんにち」の管理部門の状況を把握する。
・2016年4月にホウスイの内部統制監査担当人員を1名増員し、子会社の経理処理における仮払金等の不適切な処理のあった費目に対して業務プロセス評価を追加して、内部統制監査を行う。

2 「せんにち」の会計処理の誤り

内容 ・「せんにち」の経理課長は、「仕入」を計上すべきところ、代わりに「未収金」を計上していた。その結果、未収金が膨らむとともに利益が過大になっていた。このミスは2014年3月期に発覚したが、ほかにも様々な経理処理の誤りがあり、いずれの誤りも利益の過大計上になっていた。
原因 ・経理課長は経理専門学校を卒業後、他社での実務経験があったものの、「せんにち」における継続した専門教育が不徹底であり、会計処理に関する知識や能力が不十分であった。
・「せんにち」の経理課長の上司である管理本部長は、経理課長を信頼して業務を任せていたため、会計処理に関しては十分な確認を行っていなかった(内部統制が機能していなかった)。
・なお、経理課長による利益の過大計上が上述した横領を隠ぺいすることを目的としたものなのか、単なる知識不足や思い込み等による事務処理ミスなのかは、調査では特定できなかった。
改善策 ・専門知識を持った経理課長候補を採用。
・管理本部内に購買課を設置し、原材料の購入は購買課と工場部門で相互確認を行うようにすることで、けん制機能を働かせる。また、製品原価に占める原材料費率などいくつかの標準的な指標を設けて、その指標とのかい離状況を把握し、異変の兆候をつかむ。
<この失敗から学ぶべきこと>

「経理課長に経理の権限が集中し、その上司による経理面のチェックはないに等しい」「経理課長はプライベートで高利貸しから借金をしている」という2つの条件が重なった以上、起こるべくして起きた事件と言えます。「本事例は特殊な事情が重なったから起きた事件であり、わが社では起きるはずがない」と言い切れる上場会社の役員は認識が甘すぎます。これはどの会社で起きてもおかしくない事件と考えるべきです。上場会社の経営陣は、仮に自社あるいは子会社・孫会社の経理課長が同じ不正を働こうと企んだとしても、当社(当連結グループ)にはこのような内部統制があるから大丈夫だと言い切れる体制を作っておくべきです。

改善報告書では「(「せんにち」には)退職金規程がないため、社員が定着せず、そのことが社内の風土を安定感のないものにして(いた)」ことが不正の背景にあったと分析しており、2017年4月から退職一時金制度を導入する改善策を掲げています。最近では、退職金制度を廃止する企業が多いだけに、退職金の持つ不正防止機能(不正が発覚し懲戒解雇されれば退職金を受け取ることができないということが不正の抑止に貢献する。また、退職金制度の導入で会社へのロイヤリティが向上する)に着目した取り組みはむしろ新鮮に映ります。退職金制度廃止を検討中の会社では、ぜひとも検証すべき失敗事例と言えそうです。

2016/11/29 代表取締役の指名アセスメントの手法

ウイリス・タワーズワトソン
組織人事部門シニアコンサルタント
高岡明日香

コーポレートガバナンス・コード補充原則4-10①が、役員の指名・報酬について、「任意の諮問委員会」を設置することを勧めていることから、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社が指名(諮問)委員会を設置するケースが急増しているが、その運営に頭を悩ませる企業は少なくない。特に企業の間で疑問の声が聞かれるのが、「代表取締役」の指名における第三者アセスメントの方法である。
そこで本稿では、代表取締役の選任基準となりうるものを整理したうえで、各基準に対する評価手法を検討したい。・・・

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2016/11/29 代表取締役の指名アセスメントの手法(会員限定)

ウイリス・タワーズワトソン
組織人事部門シニアコンサルタント
高岡明日香

コーポレートガバナンス・コード補充原則4-10①が、役員の指名・報酬について、「任意の諮問委員会」を設置することを勧めていることから、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社が指名(諮問)委員会を設置するケースが急増しているが、その運営に頭を悩ませる企業は少なくない。特に企業の間で疑問の声が聞かれるのが、「代表取締役」の指名における第三者アセスメントの方法である。

そこで本稿では、代表取締役の選任基準となりうるものを整理したうえで、各基準に対する評価手法を検討したい。

■ 代表取締役の選任基準
代表取締役の選任基準は各社によって多種多様なものがありうるが、一つの方法として、以下の4項目を選任基準とすることが考えられる。

資質 性格、動機傾向、価値観といった生来属性に近いもの
保有 結果を生むために(保有していることが)必要となる要素として、知識・専門性、経験・人脈
顕在 結果を生む過程で顕在化する要素として、能力・行動特性(コンピテンシー)、リーダーシップリスク、企業文化とのフィット、会社の経営理念の体現度など
結果 実績、周囲の評判・人望など

リーダーシップリスク : 意思決定が遅い、痛みを伴う意思決定ができないために改革を遅れさる「意思決定リスク」、事業構想力や洞察力の不足により事業を停滞させる「キャパシティリスク」、自己保身のための政治的な行動や発言をするなどして社内外の反発や混乱、不信を招く「ポリティカルリスク」、倫理観やコンプライアンス意識の不足により倫理的・法的問題を引き起こす「コンプライアンスリスク」の4つのリスクを指す。これらのうち一つでも顕在化すれば、企業価値は毀損しかねない。

■ 各基準に対する評価手法
上記の選任基準を縦軸に、その評価方法を横軸に置き、そしてそれぞれの評価可能レベルを3段階(十分評価可能、ある程度評価可能、評価困難)で示せば下表のとおりとなる。
◎ 十分評価可能
○ ある程度評価可能
△ 評価困難

選任基準 評価手法
社内の
人事考課
判定
心理テスト 行動探索型
インタビュー
360度
リーダーシップ
調査
ビジネス
プレゼン
テーション
資質 性格、動機傾向、価値観
保有 知識・専門性
経験・人脈
顕在 行動特性
企業文化とのフィット
理念の体現度
リーダーシップリスク
結果 実績
評判・人望

上の表の横軸に示した評価方法のうち、代表取締役の指名における第三者評価アセスメント手法として代表的なのが、「心理テスト」「行動探索型インタビュー」「360度リーダーシップ調査」の3つである。それぞれの具体的な内容は下記のとおり。

心理テスト
心理学的に確立された手法を用いて、通常はオンラインで調査を実施。各人のパーソナリティ面の特徴や価値観などを確認することができる。心理テストのメリットは、事前の対策が難しいため、本人でさえ把握していなかった心理学的特性を把握することが可能である点にある。ただし、極度に強い思い込みがある人材の場合は結果にブレが出る場合もある。

行動探索型インタビュー
専門性を持った評価者が、思考・行動特性を確認するためにインタビューを行うもの。実績・成果を出すために発揮したコンピテンシー(行動特性)、再現性の高い行動特性、能力の内容とレベルを確認する。行動探索型インタビューのメリットとしては、客観的第三者の専門性・力量次第で、経営者としての資質についての深い洞察や、人材市場における他の候補者とのベンチマーク(比較)等も可能となる。ただし、インタビューでの回答は本人の自己申告のため、思考・行動特性を完全に把握することは困難であり、組織に対する真の影響力等の確認は限定的となる。

360度リーダーシップ調査
本人をとりまく周囲(同僚、部下、上司、社外関係者等)に対してのヒアリング、あるいはオンラインでの調査を実施する。リーダーシップリスク、品格、周囲の評判・人望、会社の経営理念の体現など、本人からの確認が困難なものを確認する。360度リーダーシップ調査のメリットとしては、インタビューだけでは取得困難な情報が取得できることが挙げられるが、その一方で、実施目的等に対して憶測が入り恣意的な評価となるリスクもある。このように、「代表取締役」の指名におけるアセスメントの手法にはいずれにもメリット、デメリットがある。指名(諮問)委員会やその事務局としては、当然ながら「人」のアセスメントは容易なものではないことを十分認識したうえで、複数の手法を組合わせるとともに、各手法の結果を“包括的に”分析し、さらに慎重に考察を加えることにより、結論を出す必要があろう。

<本記事をご執筆いただいた高岡明日香様のご連絡先>
03-3581-6482
asuka.takaoka@willistowerswatson.com

2016/11/28 フェア・ディスクロ・ルールとインサイダー規制、対象情報の違いは?

金融庁が導入する予定のフェア・ディスクロージャー・ルールの原案が「フェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォース」(座長:黒沼悦郎早稲田大学法学学術院教授)で明らかになった。フェア・ディスクロージャー・ルールとは、企業等(リートなどを含む。以下、単に「企業」とする)が「重要かつ未公表」の内部情報を第三者(機関投資家等が想定されている)に開示した場合には、(当該第三者以外の)他の投資家にも情報提供を行うという、情報がすべての投資家に公平に行きわたることを目的としたルール。既に欧米では導入されている。金融庁は来年(2017年)の通常国会(1月~)に金融商品取引法の改正案を提出する方針。2018年にも導入が見込まれている。

原案によると、・・・

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2016/11/28 フェア・ディスクロ・ルールとインサイダー規制、対象情報の違いは?(会員限定)

金融庁が導入する予定のフェア・ディスクロージャー・ルールの原案が「フェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォース」(座長:黒沼悦郎早稲田大学法学学術院教授)で明らかになった。フェア・ディスクロージャー・ルールとは、企業等(リートなどを含む。以下、単に「企業」とする)が「重要かつ未公表」の内部情報を第三者(機関投資家等が想定されている)に開示した場合には、(当該第三者以外の)他の投資家にも情報提供を行うという、情報がすべての投資家に公平に行きわたることを目的としたルール。既に欧米では導入されている。金融庁は来年(2017年)の通常国会(1月~)に金融商品取引法の改正案を提出する方針。2018年にも導入が見込まれている。

原案によると、対象となる情報は「決算情報や業務提携などの重要な情報」とされる。このような内部情報を第三者に開示した場合には、法定開示(EDINET)および証券取引所の規則に基づく適時開示(TDnet)により(当該第三者以外の)他の投資家にも同じ情報を公表することが求められる。ただし、企業(発行者)のホームページによる公表も容認する。

ルール違反に対する刑事罰などの罰則は設けられないことになった。情報の速やかな公表を求める指示・命令などの行政処分により実効性を確保することを基本とするという。

対象となる情報提供者の範囲は、当該企業の役員のほか、従業員、使用人並びに代理人(リートにおける資産運用会社など)のうち、「情報受領者への情報を伝達する業務上の役割」が想定される者に限定される。基本的にはIR担当役員やIR担当者などが該当することになる。

一方、情報受領者は、証券会社、投資運用業者、投資顧問業者、信用格付業者など、有価証券の売買や財務内容等の分析結果を第三者に提供することを業とする者、およびその役員や従業員(証券アナリスト)や、企業から得られる情報に基づいて有価証券を売買することが想定される者(投資ファンド等のほか、(仮に情報を得られることができれば、という前提で)一般人も該当する)としている。

証券会社に資金調達の相談をする場合など、フェア・ディスクロージャー・ルールの対象となり得る情報提供を「正当な事業活動」として行うケースについては、適用対象外とする。ただし、情報受領者が企業に対して「守秘義務」や「投資判断に利用しない義務」を負っていることが(適用対象外とされる)要件となる。したがって、企業からの情報提供に対して守秘義務を負っている公認会計士や弁護士なども、フェア・ディスクロージャー・ルールの適用対象外となる。

このほか、情報受領者(一次受領者)が守秘義務に違反して当該情報を他者(二次受領者)に伝えてしまったようなケースでは、企業(発行会社)がその事実を把握したのであれば、フェア・ディスクロージャー・ルールに基づき(発行会社に)情報の公表を求めることとしている。

企業にとって気になるのは、フェア・ディスクロージャー・ルールにより規制される情報とインサイダー情報の違いだろう。新聞報道などでは「日本でもフェア・ディスクロージャー・ルールが導入されれば、企業はインサイダー情報のみならず、同ルールに基づく情報管理が必要になる」といった論調が見られるが、当フォーラムの取材によると、基本的には、フェア・ディスクロージャー・ルールとインサイダー取引規制が対象とする情報の範囲は同一とされる見込みだ。

ただし、現行のインサイダー取引規制における「重要事実」に設けられている軽微基準(純利益の予想値に対する変動率30%未満、または純資産の2.5%未満等)については、これまでのような形式的な適用を見直し、場合によっては、軽微基準をクリアしている情報も規制対象とする方向となっている。これは、フェア・ディスクロージャー・ルールの導入議論のきっかけとなったドイツ証券への行政処分(上場企業の未公表の決算情報を一部顧客に提供し、株式の売買を勧誘したことに対する行政処分)などを踏まえたもの。とはいえ、あまり厳しいルールを適用すれば企業は何も話せなくなり、企業と投資家の「建設的な対話」に支障をきたすことになりかねない。そこで、現行のインサイダー取引規制における「バスケット条項」と同様の運用を行うこととするようだ。「軽微」かどうかは企業によってレベル感が違うことから、どこで線を引くかは今後の企業と投資家・行政との対話によって固めていくべきとの判断によるものとみられる。

バスケット条項 : 上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実で、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの。

2016/11/27 【役員会 Good&Bad発言集】J-SOX対応の現況

A社(連結子会社を30社有する上場会社)の取締役会では、社外取締役の「子会社のZ社で、販売業務の責任者にJ-SOXの業務記述書について質問したところ、その責任者はきょとんとしていた。いくらZ社が連結子会社の中で規模が一番小さい会社とはいえ、責任者がJ-SOXの業務記述書の存在を知らないというのはまずいのではないか?」との発言をきっかけに、J-SOXへの対応の現況についての議論が行われました。

取締役A・B・Cの発言のうち、誰の発言がGOOD発言でしょうか?

社外取締役A:「販売業務の責任者がJ-SOXの業務記述書の存在を知らないのは、Z社で内部統制が十分に機能してないことの現れです。」

営業担当取締役B:「J-SOX対応のため業務記述書を定めてから10年が経過し、業務記述書がすっかり過去の遺物になってしまったのでしょう。業務記述書が古くなっているのであれば、会計監査人に業務記述書を更新してもらう必要がありますね。」

財務担当取締役C:「Z社はそもそもJ-SOXの評価対象範囲外の会社なので、Z社ではJ-SOXの業務記述書の存在が浸透していないだけではないでしょうか?」

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