ウイリス・タワーズワトソン
経営者報酬部門 コンサルタント 伊藤 竜広
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インセンティブ報酬が社外役員に馴染まないと言われる理由
社外役員とは、具体的には「社外取締役」と、監査役(会)設置会社における「社外監査役」を指しますが、そもそもどのような役割を担うのでしょうか。
一般的には、社外役員は直接的に会社の業務執行を担うわけではなく、会社から独立した客観的な立場で経営の監査・監督をすることが主たる職責となっています。この「業務執行をしない」という点が、社外役員には株式報酬を含めたインセンティブ報酬は馴染まないと言われている最大の理由であると考えられます。
インセンティブ報酬は会社が生み出した成果に応じて支払われます。ここでいう「成果」とは企業価値の向上、つまり株価や業績の向上に他なりません。通常、これらの成果は業務執行によって生み出されるものと理解されています。一方、社外役員の役割である「監督」の成果は少なくとも数字に表れるものではありませんし、ましてや業績関連の数値と結び付けることは困難です。
このように、社外役員の役割である「監督」の成果と、インセンティブ報酬を支払ううえで求められる成果(株価や業績の向上)が異なることを踏まえると、社外役員にインセンティブ報酬は馴染みにくく、もし支給するとしても、その算定根拠を株主等に説明するのは容易ではありません。
また、冒頭でも触れたように、社外役員には「会社から独立した客観的な立場」で、自らの知見や経験を踏まえた、業務執行役員とは別の角度・視点からのアドバイスや意見が期待されています。こうした中で、インセンティブ報酬を支給することにより社外役員と業務執行役員のベクトルが一致することになれば、社外役員の「独立性」や「客観性」が失われてしまいかねないという問題もあります。
変化する社外役員に期待される役割
もっとも、社外役員に期待される役割は変化しつつあります。コーポレートガバナンス・コードでは、社外取締役及び監査役(会)に期待される役割をかなり具体的に記載しています。
まず、社外取締役については、以下のような記載があります。
(ⅱ)経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと
(ⅲ)会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督すること
(ⅳ)経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること(原則4-7)
このほか、報酬委員会等の「任意の仕組み」の活用に際しては、独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきであるとの記載もあります(補充原則4-10①)。
このうち(ⅰ)は、これまで「経営の監督」の職責を担っていると考えられてきた社外取締役にも経営のアドバイスを通じて企業価値の向上に貢献する役割が期待されるという点で、新しい考え方と言えるでしょう。
(ⅱ)は、従来からの社外取締役の役割そのものであるため、イメージし易いと思います。
(ⅲ)の対象となる例の一つとして挙げられるのが役員報酬です。というのも、株主の代理人として経営を担う役員に対し、その「職務執行の対価」である報酬が適切に支払われない場合、株主が不利益を被るおそれがあるからです。具体的には、パフォーマンスに見合う役員報酬が支払われない場合、その分会社財産は減らずに済みますが、その反面、役員が業務執行へのインセンティブを欠くことになり、株主に不利益が生じます(会社と株主の間で利益相反が発生)。逆に、パフォーマンスを超えて過大な役員報酬が支払われれば会社財産を棄損し、これも株主に不利益となります(役員と「株主・会社」の間で利益相反が発生)。
(ⅳ)は、社外取締役は株主の代表として、例えば一般の少数株主の意思を取締役会に反映させる役割が期待されている、ということを述べているものと解釈できます。
一方、監査役については、「監査役及び監査役会に期待される重要な役割・責務には、業務監査・会計監査をはじめとするいわば「守りの機能」があるが、こうした機能を含め、その役割・責務を十分に果たすためには、自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切でなく、能動的・積極的に権限を行使し、取締役会においてあるいは経営陣に対して適切に意見を述べるべき」(原則4-4)との記載があります。従来、監査役の役割というと、会社の業務執行の適法性チェック、すなわち、会社の業務執行が定款や関連法令等に則して適切に行われているかどうかをモニタリングするというものが一般的でしたが、コーポレートガバナンス・コードでは必ずしもそこに捉われず、もっと広い意味での「監督」が期待されています。監査役は独任制であるが故に監査役会の拘束を受けず強力な権限を有することを踏まえ、それを正しくかつ有効に使うべし、ということでしょう。
独任制 : 自らの権限で自ら監査を行うこと。
米国では社外取締役の報酬の50%超が株式報酬
では、このような社外役員の役割の変化を踏まえると、今後社外役員への報酬はどうあるべきでしょうか。
現時点では、日本企業における社外役員の報酬は、「社外役員の職責は経営の監査・監督である」という従来型の考え方に基づき、固定の基本報酬のみで構成されるケースが圧倒的多数となっています。
仮に社外役員にインセンティブ報酬を付与することとした場合、株主総会では当該付与議案に対し相応の反対票が投じられることが予想されます。そこで、賛成率が低かったインセンティブ報酬の付与議案を調べてみても、社外役員にインセンティブ報酬を支給している企業はあまり見つかりません。2016年1月~10月に提出された臨時報告書を対象にした弊社の調査によると、株式報酬(ストックオプションを除く)に関する単独議案117議案のうち、「監督役員(監査役(社内・社外の両方)及び社外取締役の総称)が対象に含まれ、かつ賛成票率が80%を下回っていた事例は1社のみ、ストックオプション関連議案232議案のうち、監督役員が対象に含まれ、かつ賛成票率が80%を下回る企業は8社にとどまっています。
一方、米国の状況は日本とは大きく異なります。Fortune 500の構成企業を見ると、日本の社外取締役に相当するOutside Directorにも株式報酬が付与されるのが一般的であり、しかもフルバリュー型の株式報酬であるケースが多くなっています。付与額も多く、株式報酬の割合が総報酬の実に50%超を占めるという状況です。ちなみに、保有期間は各社が独自に定める自社株保有ガイドラインに定める基準まで保有し続ける(例:株式報酬が基本報酬の倍数に到達するまで保有。事例としては多いのは5倍)、または、在任中は株式を保有し続けるケースが一般的となっています。
これに対し欧州諸国においては、日本の社外取締役に相当するNon-Executive Directorに対する報酬として、株式報酬は一般的とは言えません。例えば英国のFTSE100の構成企業を見ると、固定報酬が中心であり、株式報酬を付与するケースはどちらかと言えば少数です。また、フランス、ドイツにおいても株式報酬は一般的でありません。欧州諸国で報酬パッケージの中に株式報酬が一般的に含まれるのは、スイスくらいです。
ただし、日本で今後も社外役員へのインセンティブ報酬が普及しないのかと言えば、そうとは限りません。特に社外取締役については、中長期的な企業価値の向上への寄与が期待される中、株式を保有し、ある程度株主との価値共有を図ることはむしろ合理的であるとも言えます。また、海外では米国をはじめ社外取締役に株式報酬を付与するのが一般的となっているケースもあることからすると、今後日本においても社外取締役に株式報酬を付与することの是非が議論される可能性は十分にあります。
一方、独任制を敷く社外監査役については、上述の通り、コーポレートガバナンス・コードには期待される役割の拡大について言及はあるものの、基本的には「監督機能」のみが期待されると考えられることに加え、監査役制度自体が日本独自の制度であり、現状では株式報酬を含めたインセンティブ報酬は馴染まないことを踏まえると、社外取締役と比べ、インセンティブ報酬の付与対象となる可能性は低いものと考えられます。
とはいえ、仮に社外取締役に対し株式報酬を支給するとしても、企業価値の創出はあくまで第一義的には業務執行によってなされると考えられるため、過度なボリュームの株式報酬や、業績条件がついた株式報酬はやはり相応しくないと言えるでしょう。また、日本においては現在のところ社外取締役への報酬は固定報酬が中心という実態があるため、各社が社外取締役の報酬の見直しを検討するとしても、株式報酬を社外取締役に付与する妥当性について、開示を含めた丁寧な説明が必要不可欠になると考えられます。実際には、社外取締役への株式報酬の支給が日本で一般化するにはもう少し時間がかかるものと予想されます。
