概要
デジタルデザイン(JASDAQ グロース)で、代表取締役社長が個人的な支出を会社経費に付け替えていた(不正経費精算)。
経緯
デジタルデザインが、2016年8月に、代表取締役社長の不正経費精算に関する「第三者委員会の調査報告書」を公表するまでの経緯を時系列で示すと、次のとおり。
<2016年>
5月:デジタルデザインは、監査法人より、同社の代表取締役社長が精算した立替経費の中に証拠書類に不備があるものや資金使途が不明確なものが含まれているとの指摘を受ける。
5月27日:デジタルデザインの監査等委員が、代表取締役社長の不正経費精算について調査を始める。
7月22日:デジタルデザインは、「事実関係究明に必要な内部調査を円滑に実行し、迅速な意思決定を可能とするため」(リリースより抜粋)に、取締役会で代表取締役を新たにもう1名選任する(不正経費精算を行った代表取締役社長との2名体制にする。社長の変更はなし)。
7月26日:デジタルデザインは、代表取締役社長の不正経費精算に対する内部調査の状況を説明するため「当社代表取締役社長の経費利用に関する不適切処理について」を公表。
8月9日:デジタルデザインは、代表取締役社長の不正経費精算に対する調査を客観性・中立性・専門性を高めて実施する必要があると判断し、第三者委員会を設置して調査を委託する。
8月31日:第三者委員会の調査が終了し、第三者委員会の調査報告書が公表される。
監査等委員 : 監査等委員会設置会社において監査を担う取締役。デジタルデザインは2016年4月に定款を変更し、監査等委員会設置会社に移行した。
内容・原因・改善策
デジタルデザインが2016年8月31日に公表した「第三者委員会の調査報告書」によると、本件の問題点の内容とその原因、再発防止策は次のとおりである。
不正経費精算
| 内容 |
デジタルデザインの代表取締役社長は、自身の経費精算に際して、自ら作成した「立替経費精算書」を、自ら承認していた。その結果、下記の額が不正(証拠資料の不備または会社経費とは認められない個人的な支出)に精算されていた。
第18期:1,319,040円
第19期:1,501,854円
第20期:1,844,404円
合 計:4,665,298円
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| 原因 |
・デジタルデザインでは、社長以外の取締役・従業員が申請した立替経費精算書の承認ルール(承認者、承認の際にチェックすべき項目)が確立されていたが、社長の立替経費精算書については承認ルールが存在しなかった。
・オーナー社長の経費の使い方を誰一人としてチェックすることはなかった。
・デジタルデザインでは「社長活動費用」として毎月20万円強の予算を計上しており、同社の社長はその20万円強の予算を自身の不正経費申請の“枠”として悪用していた。
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| 改善策 |
・社長が申請した立替経費精算書は、管理部上長→事業部上長→社長以外の代表取締役または取締役の順の承認を経てから、精算に回すようにする。
・不正に精算されていた約466万円につき、経費としての計上を取り消し、すべてを社長への「短期貸付金」に振り替える。
・「社長活動費用」の予算を廃止する。
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<この失敗から学ぶべきこと>
不正経費精算は、「精算者の倫理観」と「企業における不正精算防止の仕組み」の2つが欠如したときに生じる不正です。まず、「精算者の倫理観」の問題ですが、精算者が高い倫理観を持って経費精算をすれば不正は起きようがありません。「株主の利益を考え、高い倫理観と責任感をもって行動します」との行動規範を掲げているデジタルデザインではなおさらのこと、社長自らが手本となり範を示すべきでした。また、同社では社長以外の取締役や従業員が経費精算をする際の「不正精算防止の仕組み」は構築できていましたが、社長の経費精算に限ってノーチェックとなっていました。同社の社長は、創業者兼44%の株式を所有する大株主であり「事実上のオーナー」(第三者委員会の調査報告書より抜粋)と言える存在であったため、社長を除く役員には、そもそも社長の経費精算をチェックするという発想がなかったのかもしれません。しかし、それでは社会的公器である上場会社のガバナンスを担う役員としては不適格と言わざるを得ません。「事実上のオーナー」に対しても、他の取締役や従業員と同様に、立替経費申請の内容をチェックし、不正な経費精算をさせないようにする仕組みを構築すべきでした。
もっとも、この問題はオーナー系企業だけに起こりうる特殊な問題ではありません。オーナー系企業でなくても、社内の最高権力者である社長やいわゆる“実力者”である経営陣が行う経費精算に対して、厳しく「No」を突き付けることができる取締役・監査役・経理部が存在しない企業であれば、同様の問題は起こり得ます。
また、せっかく社長の経費精算をチェックする体制を整備しても、腰が引けた運用しかできていないのでは意味がありません。「下に厳しく、上に緩い」といった不平等がまかり通るのであれば、従業員の満足度が低下し、高いモチベーションを持って業務を遂行してくれないようになるかもしれません。経費精算チェックには聖域を作らず、公正に運用する必要があります。それを担保するために、監査役(監査等委員)や内部監査室が、社長の経費精算へのチェック体制とその運用の実態を定期的に監査すべきです。
以上を踏まえると、上場会社の役員としては、次の項目について点検しておきたいところです(経費精算については、ケーススタディ「領収書の管理を適正に行いたい」も参照)。
・社長の経費精算を実質的にチェックできる体制になっているのか(チェック体制の整備状況の確認)。また、社長の経費精算についてのルールは文書化されているか。
・社長の経費精算のチェック体制が有効に機能しているか(運用状況の確認。例えば、対象月や費目を変えてランダムにサンプルを抜き出し確認してみる)。
・監査役や内部監査室は、社長の経費精算結果を監査の対象にしているか。また、監査の際には、立替経費申請書と領収書を突合するだけでなく、「領収書の内容と当日の業務内容・業務場所が整合しているか」「プライベートな交際を会社業務の交際と偽り、交際費の立替経費申請をしていないか」といった実質的な監査を行っているか。
・支出が多額に上る場合には事前承認が必要な体制となっているか。
・社長をはじめ経営陣にコーポレートカード(会社の口座から引き落とされるクレジットカード)の使用を認めている場合、自動的に会社の支出になってしまうことへの歯止め(個人的支出へのコーポレートカードの使用が明らかになった場合は返金させる体制)が構築されているか。また、コーポレートカードを利用すること自体、本当に必要なのかを検討しているか。
突合 : 会計データとその根拠となる証憑とを突き合わせて、会計データに問題がないことを確かめる監査手続き。「とつごう」と言う。ただし、ここでは会計データではなく経費申請内容との突合せを想定している。
不正な経費精算は、経費精算チェック体制が整っている親会社よりも、チェック体制が十分ではない子会社・孫会社で発生する可能性の方が高いと言えます。親会社の役員は、上述した調査の対象を子会社・孫会社にも広げて、企業グループ全体の経費精算チェック体制の充実を図るべきです。
デジタルデザインの代表取締役社長は、自身の不正経費精算の事実を明らかにする社外調査委員会の調査報告書が公表されたにもかかわらず、出処進退を含めた経営責任の取り方について明らかにしていません(2016年9月現在 *)。代表取締役社長の業務執行を監督すべきであった他の取締役も同様です。同社の役員には上述の行動規範に則った「責任ある行動」とは何かが問われています。
* その後、同社は、同社の代表取締役社長が責任の所在を明確にするため代表権を返上し、また、各取締役に対して報酬の減俸処分を行う旨のリリースを公表しました(2016年10月12日のリリース)。