多くの日本企業が進める役員報酬改革では、インセンティブ報酬(業績連動ボーナスや株式報酬など)の拡充が最大のテーマとなっている。一方、日本企業の基本報酬は欧米企業と遜色がなく、投資家も基本報酬水準の多寡は問題にしていない。ところが、企業内に設置した役員報酬改革の事務局サイドからは、「総報酬額は変えずに、従来の基本報酬をインセンティブ報酬に振り替えるべきでは?」といった意見が出ることが少なくない。一見すると、高額報酬に対する世間の目を気にする日本的な発想に見えるが、高すぎる役員報酬に批判が集まるのは日本に限った話ではない。
米国では、2008年の金融危機を受け、短期的業績に過度に連動した高額な役員報酬が、金融機関の経営陣の暴走を招いたとの批判が高まった。これを受け、CEOの報酬と一般従業員の平均給与の格差の開示などの規制強化が進められている。
また、役員報酬の高騰に批判が高まるフランスでも、大手自動車会社ルノーの株主総会で過半数の株主が反対票を投じたにもかかわらず予定通りの報酬額が支払われた一件が商法の改正へと発展している。フランスの商法では、役員の固定報酬総額は株主総会で決定される一方、変動報酬に関しては取締役会が決定権を持つ。フランスのコーポレートガバナンス・コード(AFEP-MEDEF Code)では、取締役会は固定報酬と変動報酬からなる全報酬額を株主総会に提示し、株主に賛否を投票により表明させるべきとしているものの、この投票に拘束力はない。そこで今年(2016年)6月には、役員報酬については、変動報酬やストックオプションなど、業績連動部分まで含めて株主総会の決議事項とする法案が可決されている。
日本のスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの“輸入元”である英国でも、会社法によって上場会社に作成が義務付けられている「報酬方針報告書(役員報酬プランの内容を記載したもの)」と「年次報酬報告書(実際の報酬額を記載したもの)」のうち「報酬方針報告書」については、2013年以降、少なくとも“3年ごと”に株主総会の決議が求められることとなった。一方、「年次報酬報告書」についても、毎年株主に賛否を投票により表明させることとはなっているものの、当該投票に拘束力はない。ただ、EU離脱後に就任したメイ新首相は「格差是正」を政策の1つに掲げており、「年次報酬報告書」についても拘束力ある決議の導入を目指すものと見られている。また、米国に倣ったCEOと一般従業員の平均給与の差の開示も求めることになろう。
このように、役員報酬を巡っては近年、各国で規制強化が行われてきた。例えば英国では役員と一般従業員の報酬格差が180倍にも達しており、そもそも役員報酬の水準が低い日本で欧米のような規制がすぐに導入されることは考えられないが、いずれ日本企業でもインセンティブ報酬が拡大し、巨額の報酬を手にする役員がたくさん出てきた場合には、役員報酬の総額に配慮しなければならない時代が来る可能性はあろう。