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【特集】エンゲージメントの時代―スチュワードシップ・コードが意味するもの

江口 高顯
一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士後期課程在籍
経済産業省企業報告ラボ「投資家フォーラム」作業部会メンバー
(金融庁「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」元メンバー)

1.はじめに

 2013年6月、安倍内閣は「日本再興戦略」を閣議決定し、そのアクションプランの中で日本企業のガバナンス強化を打ち出した。アクションプランの柱の1つが2014年2月に公表された「責任ある機関投資家の諸原則」、日本版スチュワードシップ・コード である。そして、もう1つの柱が同年12月にまとめられた「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)」、コーポレートガバンス・コード原案 である。本稿では日本版スチュワードシップ・コードに盛り込まれたスチュワードシップの考え方を中心に、日本におけるエンゲージメントの展開を論じたい。ここでいうエンゲージメントとは、投資先企業の株主総会で行使する議決権を背景に、年金基金や生命保険会社といった機関投資家および機関投資家から株式運用を受託する運用会社(以下、併せて「機関投資家」)が経営陣と行う対話活動をいう。日本版スチュワードシップ・コードでは「目的を持った対話」という訳語を当てており、スチュワードシップの中核をなす概念である。

 本稿の主張は、次のようにまとめられる。すなわち、(1)日本企業の特性に合わせて取り組まれるエンゲージメントを軸として今後の経営者・株主関係が形作られる、(2)株式持ち合いに基づく関係が崩れる中、経営者がとるべき対応は、持続的な対話にもとづき新しい株主基盤を築き上げることである――の2点である。

 本稿では、最初に「何故いまエンゲージメントが注目されるのか」について、公共政策的な文脈および時代の潮流という2つの観点から論じる。日本版スチュワードシップ・コードの手本となったのは、2010年6月に初版が公表された英国のStewardship Codeである。そこで次に、英国でスチュワードシップの考え方が打ち出された経緯を振り返る。そこから浮かび上がるのは、エンゲージメントに付加された責任の観念である。続くセクションでは、話題を再び日本に戻す。スチュワードシップを展開していくうえでの課題を整理し、スチュワードシップ活動を前に進める装置としての「投資家フォーラム」構想を紹介する。さらに、経営者がとるべき対応についても論じたい。

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筆者略歴
1976年東京大学理学部物理学科卒業。同理学系研究科修士(科学史)。
米ペンシルバニア大学大学院修士(経済学)。2003年から英系および米系の運用会社にて議決権行使業務に従事。金融庁「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」元メンバー。経済産業省・企業報告ラボ「投資家フォーラム作業部会」メンバー。現在は、一橋大学大学院国際企業戦略研究科博士後期課程(経営法務)に在籍する傍ら、コーポレート・ガバナンスに関連する活動に従事している。