役員の辞任に備えてやっておくべきこと
かねてから体調が思わしくなかった役員がついに入院してしまい、退院の目途もたたず近いうちに辞任しそうだ―――。そのような場合に会社としては、役員の辞任に向けた事務手続きとして、例えば、役員退職慰労金の支払額の算定や支払いに備えての資金確保、会社が掛金を支払っていた会社役員賠償責任保険契約(D&O保険)の内容の確認等を進める必要があります。また、職務執行の観点から後任の役員を直ちに選任する必要があれば、候補者の選定を急ぐとともに、選任手続きや引継ぎを行わなければなりません。
一方、後任の役員を直ちに選任する必要がない場合であったとしても、会社が必ず確認すべきことがあります。それは、役員の辞任に伴い、会社法または定款で定めた役員の員数(=定員)に欠員が生じることにならないかという点についての確認です。もし役員の員数を欠くことになれば、職務執行の観点からは後任の役員がしばらく必要でなかったとしても、法律上の観点から直ちに株主総会を開催して役員を選任する必要があるからです。そして、その役員が辞任すれば役員の員数を欠くことになるという場合には、たとえ当該役員が辞任する旨を表明したとしても、当該役員は後任の役員が就任するまで従前どおり役員としての権利を有するとともに、義務も負い続けることとなります。
役員辞任のタイミングが定時株主総会の開催とうまく重なればよいのですが、冒頭の例のように病気による辞任といったケースではそういう訳にもいかないでしょう。上場会社において役員選任のためだけに臨時株主総会を開催するのは、その手間とコストを考えれば、できる限り避けたいところです。
そこで会社法は、このような場合に備えて辞任した役員の「後任候補」として“補欠の役員”を選任しておくことができる旨を定めています(会社法329条2項)。補欠役員には、取締役の“補欠”である補欠取締役と、監査役の“補欠”である補欠監査役があります。また、補欠役員は、補欠の社外取締役や社外監査役として選任することもできますし、さらには常勤監査役や代表取締役といった特定の役員の補欠役員として選任することもできます。
補欠役員の選任には通常の役員の選任と同様、株主総会の決議が必要になります。補欠監査役の選任については、株主総会の決議に先立ち、監査役会の同意も必要になります。なお、「補欠役員の選任」は会社法が認めている制度ですので、定款で補欠役員の選任について定めていない場合であっても、補欠役員を選任することが可能となっています。会社にとってみれば、あらかじめ補欠役員を確保しておくことができれば、役員の欠員という突然の事態になってからあわてて候補者探しに奔走する必要に迫られることもなくなり、安心と言えます。
一方で、補欠として選任された役員にとってみれば、いつなんどき正式な役員への就任を依頼されるのか心の準備が必要となりますので、いつまで補欠役員でいなければならないのか、気になることでしょう。そこで、補欠役員の選任の効力はいつまで続くのかについて、次に解説します。
補欠役員選任の効力はいつまで続く?
一旦は補欠役員を選任したものの、例えば報酬を節約するために(補欠役員の報酬については後述の「補欠役員に報酬を支払うことは可能?」を参照してください)補欠役員選任の効力を短縮したり、取り消したくなったりすることもあるでしょう。
<短縮>
会社法上、補欠役員の選任決議の効力は、定款に別途異なる規定を置かない限り、「選任決議後最初に開催する定時株主総会が始まる時まで」続くとされています(会社法施行規則96条3項)。したがって、補欠役員の選任決議の効力の期間は、多くの場合、選任された定時株主総会から次の定時株主総会までの1年間ということになりますが、定款に定める場合には、役員の任期の範囲内でこれを延長または短縮することができます。また、これを短縮したい場合には、定款変更をしなくても、株主総会の普通決議によって期間を短縮することが可能です(同項)。なお、定款変更が必要な場合には、株主総会の特別決議が必要です(特別決議の要件については「定時株主総会を開催する」の「定足数をゼロにできないケースとは?」を参照してください)。
<取消し>
また、補欠役員の選任を取り消すことも可能です。この場合、選任の際の手続きと同じ手続き(株主総会の普通決議。上述の「役員の辞任に備えてやっておくべきこと」を参照してください)を踏むのが原則です。ただ、そのためにわざわざ株主総会を開催するのは手間もコストもかかることから大変です。そこで、補欠役員が正式に役員として就任する前に補欠役員の選任の取消しを行う可能性がある場合は、補欠役員の選任の決議の際に、あわせて「取消しを行う場合があること」や「選任の取消し手続き」についても決議し、その中で例えば「取締役会決議によって取り消すことができる」と定めておけば、わざわざ株主総会を開催する必要はなく、取締役会の決議だけで補欠役員の選任を取り消すことができます(会社法施行規則96条2項6号)。
- 正式な役員に就任するための方法と任期
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また、本ケーススタディを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)を、備忘録として登録しておくことができます。登録を行う場合には、下の左側の「所感登録画面へ」ボタンを押し、登録画面に進んでください。過去に登録した内容を修正する場合も、同じ操作を行ってください。
2014/12/18 【議案】役員辞任により役員に欠員が出てしまった
役員の辞任に備えてやっておくべきこと
かねてから体調が思わしくなかった役員がついに入院してしまい、退院の目途もたたず近いうちに辞任しそうだ―――。そのような場合に会社としては、役員の辞任に向けた事務手続きとして、例えば、役員退職慰労金の支払額の算定や支払いに備えての資金確保、会社が掛金を支払っていた会社役員賠償責任保険契約(D&O保険)の内容の確認等を進める必要があります。また、職務執行の観点から後任の役員を直ちに選任する必要があれば、候補者の選定を急ぐとともに、選任手続きや引継ぎを行わなければなりません。
一方、後任の役員を直ちに選任する必要がない場合であったとしても、会社が必ず確認すべきことがあります。それは、役員の辞任に伴い、会社法または定款で定めた役員の員数(=定員)に欠員が生じることにならないかという点についての確認です。もし役員の員数を欠くことになれば、職務執行の観点からは後任の役員がしばらく必要でなかったとしても、法律上の観点から直ちに株主総会を開催して役員を選任する必要があるからです。そして、その役員が辞任すれば役員の員数を欠くことになるという場合には、たとえ当該役員が辞任する旨を表明したとしても、当該役員は後任の役員が就任するまで従前どおり役員としての権利を有するとともに、義務も負い続けることとなります。
役員辞任のタイミングが定時株主総会の開催とうまく重なればよいのですが、冒頭の例のように病気による辞任といったケースではそういう訳にもいかないでしょう。上場会社において役員選任のためだけに臨時株主総会を開催するのは、その手間とコストを考えれば、できる限り避けたいところです。
そこで会社法は、このような場合に備えて辞任した役員の「後任候補」として“補欠の役員”を選任しておくことができる旨を定めています(会社法329条2項)。補欠役員には、取締役の“補欠”である補欠取締役と、監査役の“補欠”である補欠監査役があります。また、補欠役員は、補欠の社外取締役や社外監査役として選任することもできますし、さらには常勤監査役や代表取締役といった特定の役員の補欠役員として選任することもできます。
補欠役員の選任には通常の役員の選任と同様、株主総会の決議が必要になります。補欠監査役の選任については、株主総会の決議に先立ち、監査役会の同意も必要になります。なお、「補欠役員の選任」は会社法が認めている制度ですので、定款で補欠役員の選任について定めていない場合であっても、補欠役員を選任することが可能となっています。会社にとってみれば、あらかじめ補欠役員を確保しておくことができれば、役員の欠員という突然の事態になってからあわてて候補者探しに奔走する必要に迫られることもなくなり、安心と言えます。
一方で、補欠として選任された役員にとってみれば、いつなんどき正式な役員への就任を依頼されるのか心の準備が必要となりますので、いつまで補欠役員でいなければならないのか、気になることでしょう。そこで、補欠役員の選任の効力はいつまで続くのかについて、次に解説します。
補欠役員選任の効力はいつまで続く?
一旦は補欠役員を選任したものの、例えば報酬を節約するために(補欠役員の報酬については後述の「補欠役員に報酬を支払うことは可能?」を参照してください)補欠役員選任の効力を短縮したり、取り消したくなったりすることもあるでしょう。
<短縮>
会社法上、補欠役員の選任決議の効力は、定款に別途異なる規定を置かない限り、「選任決議後最初に開催する定時株主総会が始まる時まで」続くとされています(会社法施行規則96条3項)。したがって、補欠役員の選任決議の効力の期間は、多くの場合、選任された定時株主総会から次の定時株主総会までの1年間ということになりますが、定款に定める場合には、役員の任期の範囲内でこれを延長または短縮することができます。また、これを短縮したい場合には、定款変更をしなくても、株主総会の普通決議によって期間を短縮することが可能です(同項)。なお、定款変更が必要な場合には、株主総会の特別決議が必要です(特別決議の要件については「定時株主総会を開催する」の「定足数をゼロにできないケースとは?」を参照してください)。
<取消し>
また、補欠役員の選任を取り消すことも可能です。この場合、選任の際の手続きと同じ手続き(株主総会の普通決議。上述の「役員の辞任に備えてやっておくべきこと」を参照してください)を踏むのが原則です。ただ、そのためにわざわざ株主総会を開催するのは手間もコストもかかることから大変です。そこで、補欠役員が正式に役員として就任する前に補欠役員の選任の取消しを行う可能性がある場合は、補欠役員の選任の決議の際に、あわせて「取消しを行う場合があること」や「選任の取消し手続き」についても決議し、その中で例えば「取締役会決議によって取り消すことができる」と定めておけば、わざわざ株主総会を開催する必要はなく、取締役会の決議だけで補欠役員の選任を取り消すことができます(会社法施行規則96条2項6号)。
正式な役員に就任するための方法と任期
補欠役員が正式な役員に就任する(すなわち、補欠取締役が取締役に就任する、または補欠監査役が監査役に就任する)ためには、まず「会社側から」就任依頼を行います。この就任依頼については取締役会の決議は不要であり、「代表取締役の権限」で行うことができます。また、既に「役員候補」として株主総会の承認を得ていますので、改めて取締役会や株主総会で承認を得ることは不要です。
そして、この就任依頼を当該補欠役員が承諾することで、はじめて「就任」ということになります。補欠役員の就任承諾の時期に関する法律の定めはないので、就任承諾は補欠役員に選任されたすぐ後に、例えば、補欠取締役の場合であれば「取締役が欠けた場合は直ちに取締役に就任することを承諾する。」という条件付就任承諾書を・・・
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また、本ケーススタディを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)を、備忘録として登録しておくことができます。登録を行う場合には、下の左側の「所感登録画面へ」ボタンを押し、登録画面に進んでください。過去に登録した内容を修正する場合も、同じ操作を行ってください。
2014/12/18 (新用語・難解用語)KPI
どの企業にも「経営目標」があるが、経営陣は単に経営目標を掲げるだけでなく、「それを達成するために何をすればよいか」まで示す必要がある。例えば、エンターテイメント事業を展開する会社が、「人々の笑顔を増やしたい」という経営目標(「経営理念」とも言える)を立てたとする。非常にロマンにあふれる経営目標だが、一方で、これを達成するためには施設の追加やメンテナンス、イベント開催などを継続的に実施するために必要になる多額のキャッシュを稼ぎ出さなければならないという“現実”がある。
多額のキャッシュを稼ぐためには、来場者数を増やさなければならないし、客1人あたりの単価を上げる必要もあるだろう。
これらのうち、KPI(Key Performance Indicators=重要業績評価指標)に該当するのが、「来場者数」や「客1人あたりの単価」だ。一方、「キャッシュ(キャッシュ・フロー)」はKGI(Key Goal Indicator=重要経営目標達成指標)に該当する。要するに、KGIとは経営目標に関する“大きな指標”であり、KPIとはKGIを達成するための“小さな指標”あるいは“中間目標”と理解すればよい。したがって、KGIを達成するためには、KPIをしっかり管理しなければならないということになる。
KGIもKPIも数字で表わされる「定量的な指標」である点に大きな特徴がある。上述した以外のKGIの例としては・・・
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2014/12/18 (新用語・難解用語)KPI(会員限定)
どの企業にも「経営目標」があるが、経営陣は単に経営目標を掲げるだけでなく、「それを達成するために何をすればよいか」まで示す必要がある。例えば、エンターテイメント事業を展開する会社が、「人々の笑顔を増やしたい」という経営目標(「経営理念」とも言える)を立てたとする。非常にロマンにあふれる経営目標だが、一方で、これを達成するためには施設の追加やメンテナンス、イベント開催などを継続的に実施するために必要になる多額のキャッシュを稼ぎ出さなければならないという“現実”がある。
多額のキャッシュを稼ぐためには、来場者数を増やさなければならないし、客1人あたりの単価を上げる必要もあるだろう。
これらのうち、KPI(Key Performance Indicators=重要業績評価指標)に該当するのが、「来場者数」や「客1人あたりの単価」だ。一方、「キャッシュ(キャッシュ・フロー)」はKGI(Key Goal Indicator=重要経営目標達成指標)に該当する。要するに、KGIとは経営目標に関する“大きな指標”であり、KPIとはKGIを達成するための“小さな指標”あるいは“中間目標”と理解すればよい。したがって、KGIを達成するためには、KPIをしっかり管理しなければならないということになる。
KGIもKPIも数字で表わされる「定量的な指標」である点に大きな特徴がある。上述した以外のKGIの例としては「売上高」「利益額」「利益率」、さらに近年機関投資家等が重視するROE(Return On Equity=株主資本利益率)などがあり、KPIの例としては「新規顧客の獲得数」「従業員1人あたりの経費」「総資産額」などがある。
KPIはこうした財務分野のみならず、CSR分野でも設定されることが多い。例えば「環境負荷低減への取組み」のKPIとして、「エネルギー使用量/売上高」を掲げるケースがしばしば見られる。
上場企業が設定するKPIは機関投資家からも注目を集めている。経済産業省の企業報告ラボのプロジェクトの1つであり機関投資家が集まる「投資家フォーラム」の作業部会が最近まとめたペーパー「企業経営者と長期投資家の実りある対話のために」では(2014年12月10日のニュース「機関投資家が企業に投げかけたい質問の一覧が明らかに」参照)、機関投資家が企業に質問したい事項として「経営計画等における財務係数や経営管理指標(KPI)の目標値はどのような考え方にもとづいて決定されたか。そして実際にどのように現場への浸透を図っているか。」が盛り込まれている。経営陣としては、そのKPIを設定した理由や、達成のための取組みについて具体的に説明できるようにしておく必要があろう。
2014/12/17 グローバル企業に実在する長時間労働を“強制的に”減らす取組み
長時間労働は「働く意欲」や「会社への忠誠心」を示すものととらえられていた時代もあったが、近年は、判断力や創造性を奪うとともに、仕事の効率を低下させ、さらに、ワーク・ライフ・バランスを崩すことにより従業員のメンタルヘルスに悪影響を与えるものとの認識が広がっている。
こうした中、多くの上場企業は労働時間の削減に取り組んでいるが、必ずしも思うような成果が上がっていないというケースも少なくない。その大きな原因の1つと見られるのが、携帯電話やメールの存在だ。これらのツールは、従業員への連絡のしやすさを劇的に進化させた。特にメールは、受信者が自分の都合の良い時に見るものであるため、送付のタイミングをあまり気にする必要がない。ところが、タブレット端末の普及も手伝い、実際にはメールを常時チェックすることが習慣化している従業員が増加しており、長時間メールを確認しないと「何か仕事上重要なメールが来ていないだろうか」といった不安に駆られることもあるようだ。その結果、勤務時間終了後の在宅時までメールをチェックするようになり、これが実質的な長時間労働(およびその慢性化)へとつながっているケースは決して少なくないという。
こうした状況を変えるには、もはや会社が“強制力”を働かせるしかないのかもしれない。スマートフォン等により社内メールを外部から確認するのが一般的になっている欧米企業のケースを見ると、例えばドイツのフォルクスワーゲン社は、勤務終了後30分後から翌日会社のPCにログオンするまでの間、社外にいる従業員のメールの送受信を停止するシステムを導入している。同じくドイツのダイムラー社では、休暇中のメールを「自動的に削除」するシステムが導入されている。
また、あるイギリスのIT企業では、・・・
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2014/12/17 グローバル企業に実在する長時間労働を“強制的に”減らす取組み(会員限定)
長時間労働は「働く意欲」や「会社への忠誠心」を示すものととらえられていた時代もあったが、近年は、判断力や創造性を奪うとともに、仕事の効率を低下させ、さらに、ワーク・ライフ・バランスを崩すことにより従業員のメンタルヘルスに悪影響を与えるものとの認識が広がっている。
こうした中、多くの上場企業は労働時間の削減に取り組んでいるが、必ずしも思うような成果が上がっていないというケースも少なくない。その大きな原因の1つと見られるのが、携帯電話やメールの存在だ。これらのツールは、従業員への連絡のしやすさを劇的に進化させた。特にメールは、受信者が自分の都合の良い時に見るものであるため、送付のタイミングをあまり気にする必要がない。ところが、タブレット端末の普及も手伝い、実際にはメールを常時チェックすることが習慣化している従業員が増加しており、長時間メールを確認しないと「何か仕事上重要なメールが来ていないだろうか」といった不安に駆られることもあるようだ。その結果、勤務時間終了後の在宅時までメールをチェックするようになり、これが実質的な長時間労働(およびその慢性化)へとつながっているケースは決して少なくないという。
こうした状況を変えるには、もはや会社が“強制力”を働かせるしかないのかもしれない。スマートフォン等により社内メールを外部から確認するのが一般的になっている欧米企業のケースを見ると、例えばドイツのフォルクスワーゲン社は、勤務終了後30分後から翌日会社のPCにログオンするまでの間、社外にいる従業員のメールの送受信を停止するシステムを導入している。同じくドイツのダイムラー社では、休暇中のメールを「自動的に削除」するシステムが導入されている。
また、あるイギリスのIT企業では、従業員の意識改革を図るため、長時間労働を行う従業員よりも、所定時間内に業務を完了した従業員のボーナス査定を高くする評価制度を採用している。
安倍政権は女性の社会進出を目玉政策の1つに掲げているが、その実現のためには、女性の家事・育児負担の軽減、すなわちその一部を男性が担うことが必須となる。最近のOECDの調査では、家事・育児時間の男女比は、イギリスでは女性が男性の1.8倍であるのに対し、日本では4.8倍にもなっている。このデータは、女性の社会進出実現には、男性の長時間労働是正が必要であることを物語っている。
また、女性の家事・育児時間の長さは女性の労働時間を短くする原因となっており、結果として、女性の賃金が男性よりも3割近く低いことにもつながっている(平成25年男女共同参画白書によると、女性の賃金は男性の賃金よりも29.1%少なかった)。この賃金格差を縮小するためには、男性の長時間労働是正とともに、労働時間と賃金水準の関係(長時間働けば賃金も高くなる)を見直す必要もありそうだ。
2014/12/16 意外に多いフレックスタイム制のデメリット
近年、上場企業にとって「ワーク・ライフ・バランス」の確保は重要な経営課題の1つとなっているが、それに貢献すると言われているのがフレックスタイム制だ。フレックスタイム制は、個々の従業員が業務の繁閑を自ら調整できるため、家族との団らんの時間が増える、地域活動に参加できる、通勤ラッシュを避けられる等々、「ライフ・ワーク・バランス」に配慮した働き方ができるようになる。また、企業にとっても、世間から「働きやすい職場」「ワーク・ライフ・バランスに配慮した企業」といった印象を持たれ、イメージ向上につながるほか、従業員全体の労働時間の短縮による残業代等の人件費削減も期待できる。
厚生労働者の調査によると、従業員1,000人以上の企業でフレックスタイム制を導入しているところは27.7%となっている(平成26年度の結果。平成26年就労条件総合調査結果より)。まだこれから導入が広がる余地もありそうだが、一方で、フレックスタイム制にはデメリットも少なくないことに注意する必要がある。
まず、・・・
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2014/12/16 意外に多いフレックスタイム制のデメリット(会員限定)
近年、上場企業にとって「ワーク・ライフ・バランス」の確保は重要な経営課題の1つとなっているが、それに貢献すると言われているのがフレックスタイム制だ。フレックスタイム制は、個々の従業員が業務の繁閑を自ら調整できるため、家族との団らんの時間が増える、地域活動に参加できる、通勤ラッシュを避けられる等々、「ライフ・ワーク・バランス」に配慮した働き方ができるようになる。また、企業にとっても、世間から「働きやすい職場」「ワーク・ライフ・バランスに配慮した企業」といった印象を持たれ、イメージ向上につながるほか、従業員全体の労働時間の短縮による残業代等の人件費削減も期待できる。
厚生労働者の調査によると、従業員1,000人以上の企業でフレックスタイム制を導入しているところは27.7%となっている(平成26年度の結果。平成26年就労条件総合調査結果より)。まだこれから導入が広がる余地もありそうだが、一方で、フレックスタイム制にはデメリットも少なくないことに注意する必要がある。
まず、労働時間の管理が煩雑になるということだ。所定労働時間が固定であれば、そこから外れる時間(遅刻・早退や残業等)だけ把握しておけばよいが、フレックスタイム制では始業時刻も終業時刻も労働者ごとに異なるため、それらをすべて記録し、管理する必要がある。システムなどの管理ツールを導入するには費用がかかるうえ、仮に導入したとしても、本人や上司や労務担当者の事務負担は間違いなく増える。また、労働者のパーソナリティにもよるものの、生活がルーズになりがちなため、会社はそれを防止するための新たな管理体制を整える必要に迫られる可能性もある。
経営上、さらに深刻な問題と言えるのが、社内コミュニケーションの減少だ。フレックスタイム制の導入により従業員の出勤・退社時間がバラバラになれば、各従業員の勤務予定を職場内で共有しにくくなり、職場の一体感が薄れる恐れがある(特にコアタイムを設けない場合)。また、他部門との連携が取りづらくなるため、会社全体として知識・情報・ノウハウの蓄積が図りにくくなるという一面もある。
さらに、朝早くから夜遅くまで社屋が使用されることになるため、光熱費がかさむという問題もある。
経営陣としては、フレックスタイム制の導入を検討するか否かは、こういったメリット・デメリットをしっかり検証してから結論を出すようにする必要があろう。
2014/12/16 【不祥事】子会社で不祥事が発覚した(会員限定)
自社の不祥事に等しい子会社での不祥事
会社の内部統制は、どんなに高いレベルのものを構築したつもりでも、実際には整備が十分でなかったり、たとえ十分に整備されていたとしても担当者の交替時に引継ぎが不十分であったため後任者の運用が適切でなかったりして、綻びが生じてしまうものです。その隙をついて、従業員の不祥事は起きてしまいます。そこで、内部統制がある程度確立された親会社と異なり、内部統制が脆弱な子会社の方が不祥事は発生しやすいと言えます。
一方、従業員不正と異なり、経営者不正は内部統制を超えたところで発生します。経営者不正を防ぐ歯止めとなるのは、会社のガバナンスそのものです。ガバナンスがしっかりとした会社では経営者不正は起きにくいものです。そのような観点からは、経営者不正の発生する可能性は親会社よりも子会社の方が高いと言えます。なぜなら、子会社は親会社と異なり社外役員がゼロのケースが多く、また、親会社のボードメンバーと子会社のボードメンバーとでは投資家の視線に直接さらされるのかあるいは間接的なものに留まるのかの違いがあることから、ガバナンスへの取り組み方にも差が生じがちだからです。
このように、従業員の不祥事や経営者不正が発生する可能性は親会社よりも子会社の方が高いと言え、実際に、上場会社が公表した不祥事のうち、その子会社が舞台になったところは少なくありません。
上場会社の子会社で不祥事が起きた場合、親会社としては「自社の不祥事ではない」として他人事と決め込むことはできません。株価には企業グループとしての価値が反映されており、子会社の不祥事により企業グループの価値は毀損し、株価は下落します。投資家は「他の子会社は大丈夫か」と疑心暗鬼になります。取引先も企業グループ内で起きた不祥事として親会社の対応を注視することでしょう。ここで対応を誤れば、信用が失墜し取引先の離反も起きかねません。そして、親会社の担当取締役は、第三者委員会の検証により子会社管理に不行き届きがあったと認定されれば、降格や減俸等の処分を受ける可能性があります。監査役も同様に子会社監査が十分であったかどうか、検証の対象になります。また、過去の会計不正であれば、連結財務諸表の遡及訂正が必要になり、経理担当取締役にも厳しい視線が注がれます。以上を考慮すると、子会社で不祥事があれば、親会社の取締役や監査役は、親会社で不祥事が起きた場合に等しい対応を求められると言えます。
それでは、子会社で不祥事が発覚した場合に、親会社の取締役は何をすべきでしょうか。一口に不祥事と言っても、横領・背任といった財産犯、脱税や租税回避行為(形式的には税法に違反しないようにしながら、不当に税負担を回避する行為)、贈賄やカルテル・談合等の不正行為、セクハラ・パワハラ等の各種ハラスメント行為や残業代不払い等の労働問題、粉飾決算等様々です。いずれにしても、まずは事実関係を正確に把握するための調査が必要になります。その際、子会社に調査を委ねてしまうと子会社の経営陣が保身のため問題の矮小化を目論んで調査がおざなりなものとなる恐れもあります(自浄作用の限界)。また、子会社の場合、調査にあたるための人的リソースやノウハウが不足しており、調査がスピードを欠いてしまう恐れや十分な調査を実行できない可能性もあります(調査能力の限界)。そのため、子会社の不祥事の処理は当該子会社に任せきりにするのではなく、親会社の取締役や監査役が調査を主導する必要があります。
それと同時に、親会社の取締役としては、調査の過程で把握した内容を外部に対して、いつ、どのように開示するのかについて判断する必要があります。外部への開示として第一に検討しなければならないのが、証券取引所における適時開示です。事実関係がはっきりしないまま開示を行ってしまうと、必要以上に世間や株式市場の不安をあおり、株価の下落等、企業価値を損なうリスクがあります。一方で、事実関係の把握に時間がかかり、あまりにも開示が遅れると、今度はそれ自体が批判の対象となってしまいます。いずれの事態も避けるためには、取引所と連絡を密にして段階的な開示、すなわち、事実の発生が判明した時点での概要と今後の対応に関する開示、第三者委員会を設置する場合にはその概要と調査のスケジュール、第三者委員会の調査報告書の受領後には調査結果と再発防止策や業績予想の修正の開示といった具合に、投資家に対して事実の判明に応じた段階的な情報開示を行う必要があります。さらに、不祥事の内容によっては、行政・司法当局へ通報(海外子会社の場合、現地当局への通報)しなければなりません。
また、会社法や金融商品取引法に基づく開示も必須となります。この点については、後述の「適時開示にとどまらない子会社不祥事の開示」で詳しく解説します。
こういった情報開示を進める一方で、親会社は子会社の株主という立場から、(1)子会社に対し不祥事を犯した者の解雇指示、(2)不祥事を犯した者への法的責任の追及(子会社の行う損害賠償請求の訴訟を親会社として支援、株主代表訴訟の提起)、(3)管理責任者・役員の減俸・降格の指示等といった責任追及を行います。
初動の対応が調査のカギを握る
不祥事を起こしたのが子会社であっても、原因を究明し、問題となる事実関係を把握、公表のうえ、再発防止策を策定・運用し、信頼の回復に努めるといった不祥事への対応策は、親会社で不祥事が発生したときと基本的に変わるところはありません。不祥事の発覚からその後の対応までをまとめると、次のとおりです。
1 発覚
2 初動
3 実態調査(事実認定)
4 事実の評価、原因分析
5 責任の追及、再発防止策の策定・運用
6 報告書の作成
7 ステークホルダー対応
では、具体的に見ていきましょう。
1 発覚
不祥事は、被害者や不祥事を行っている者の同僚・部下や取引先といった関係者からの通報で発覚するケースが少なくありません。最近では、「通報しても握りつぶされるのではないか」という懸念を通報者が抱かないよう、内部通報の窓口を外部の法律事務所に設ける上場会社も増えており、内部通報制度の利用の増加が予想されます。その他、親会社が実施する関係会社監査、子会社の監査役監査による監査、監査法人の会計監査、マスコミの調査報道、税務調査などをきっかけとして不祥事が発覚する場合もあります。
2 初動
不祥事が発覚した場合に備えて、親会社および子会社のリスク管理規程等に初動を担う機関を定めておきます。例えば、初動を担うのは親会社のリスク管理委員会であると定めた場合、情報不足による判断ミスを防ぐために親会社のリスク管理委員会の事務局に不祥事に関するすべての情報が集約される仕組みを構築しなければなりません。また、事務局は後日の行政機関による捜査や訴訟、ディスクロージャーに備えて、打ち合わせやインタビュー時には必ず記録を取るようにします。事務局は、集めた情報を親会社の取締役会・監査役会および子会社の取締役会・監査役会と共有することで、マネジメント層の情報不足による判断ミスを防ぐようにします。また、会計不正であれば監査法人に情報提供し、会計監査と連携を図らなければなりません。さらに、上場会社であれば証券取引所に相談をして、リリース内容やリリース時期を詰めていきます。
初動 : 本格的な実態調査の前の、調査初期における行動のこと
事務局は、そうして集められた情報をもとに、不祥事発覚時の初動として、次の3つを実施します。
(1)調査計画の立案
(2)調査体制の構築
(3)調査スケジュールの決定
(4)証拠の保全
(1) 調査計画の立案
まず、事務局は実行された不祥事の手口を想定し、調査範囲を仮決めします。この仮決めは非常に難しく、調査を行った結果、当初想定していたよりも調査範囲を広げて調査せざるをえなくなる場合もあります。ただ、範囲を広げれば調査に時間がかかりますし、狭くすれば実態が解明できないため、慎重に調査範囲を決定します。
例えば子会社の営業所の1つで不正が起こったとします。不正の手口は伝票が手書きであることを利用したものであり、その営業所以外の営業所ではすでにシステムが導入され手書き伝票は廃止されていたとすると、他の営業所で同様の不正が起こる可能性は低いため、調査範囲を不正が発覚した営業所に限定できます。一方、不正の手口が、取引先を巻き込んだものであり、当該取引先は全国の営業所と取引があり、同様の不正が他の営業所でも行われている可能性が高いのであれば、調査範囲を子会社の全営業所に広げます。また、親会社や他の子会社でも同様の不正が起こる可能性が高いのであれば、調査範囲をさらに広げます。
(2)調査体制の構築
事務局は調査範囲を仮決めした後、その調査を遂行するための人的リソースを見積り、調査委員会のメンバーを人選します。調査委員会には、不祥事の内容や規模に応じて、子会社の監査役や親会社の監査役、親会社の内部監査室などの社内(および親会社)のメンバーによって調査する社内調査委員会と、より信頼性・客観性・独立性を担保するために親会社や子会社と利害関係のない専門家・有識者による第三者委員会の2つがあります。社内調査委員会と第三者委員会の両方が設置されるケースもあります。その場合は、両委員会がまったく別々に調査すると効率が落ちるため、スケジュールをすり合わせて関係者へのインタビューを同時に行ったり、情報共有のための会議を設けたり、社内調査委員会の調査結果を第三者委員会が援用したりします。
社内調査委員や第三者委員の人選は、調査対象からの独立性と調査内容への知識や経験を判断して行います。とくに調査対象からの独立性は調査結果の信頼性に直結するため、人選に際してもっとも留意しなければならない事項と言えます。また、「実態調査(事実認定)」で後述するように、表面的な問題点にとらわれずに多角的に検討することが必要になります。そのために重要となるのが、調査委員のダイバーシティ(多様性)です。社内・社外、男女(*)、法律の専門家と会計の専門家等の多様性を持たせることで、論点の見落としの防止が可能になります。
また、調査が広範囲に渡ることから調査に従事するスタッフが大勢必要になったり、デジタル・フォレンジックのような専門知識が求められたりする場合、親会社や子会社の“社内人材”だけでは調査を遂行できないため、コンサルティング会社の活用が不可避になります。“社内人材”や外部のコンサルティング会社に対しては、「利害関係がないこと」や「情報を漏えいしないこと」を誓約する書面の提出を要請すべきです。特に情報漏えいの防止には、気を払う必要があります。不祥事の内容によってはインサイダー情報に該当するため、未公表の調査内容や調査結果が一部でも外部に漏れるとインサイダー取引という別の不祥事が発生しかねないからです。
(3)調査スケジュールの決定
調査委員会の調査には期限を設けます。証券取引所におけるリリースが必要となるような不祥事であれば、調査期限について証券取引所と相談します。会計不祥事であれば調査結果が四半期決算や年度決算にも影響するため、決算スケジュールとも連動させなければなりません。また、会計不祥事の場合は四半期報告書や有価証券報告書に調査結果を反映させる必要がありますが、調査結果を待っていては四半期報告書や有価証券報告書の提出期限までに提出できる見込みがない場合は、財務(支)局に対して提出期限の延長申請を行っておきます。
調査期限は不祥事の内容や調査の範囲により様々ですが、概ね1か月、長くても2か月程度が1つの目安になります。
調査スケジュールのポイントは、不祥事関与者へのインタビューの時期をいつにするのかです。証拠を保全(後述)する前にインタビューをしてしまうと証拠を隠滅されるリスクがありますし、インタビュー時の質問の仕方によっては、相手に調査側の手の内を明かす結果になりかねません。一方、インタビューの時期が遅れてしまうと記憶があいまいになるとともに、不祥事関与者が退職したり、失踪したりしてしまう事態も考えられます。
同時に、金融業等規制業界の場合、当局への相談・報告の時期についてもスケジュールに織り込む必要があります。独占禁止法違反の場合は、課徴金減免制度(リニエンシー)の利用を考慮し公正取引委員会へ報告する時期も考慮しなければなりません。
(4)証拠の保全
不祥事の調査は、不祥事の内容を明らかにするとともに関与者を特定するために行うものです。後日に不祥事の内容や関与の有無を巡り争いになる可能性が高いため、証拠を保全しておく必要があります。
証拠は不祥事の内容によって異なります。例えば、請求書や領収書等の紙の書類、業務用PCのハードディスク内のデータ、電子メールなど様々です。不祥事の内容次第で、サーバー上の取引記録・会計記録、サーバーへのアクセスログといったデータも確保しなければなりません。なお、電子データの場合、改変が容易であることから、裁判等では証拠能力が問われかねません。それに備えて、確保した時点のデータとの同一性を維持するためのデジタル・フォレンジックという手法を利用して、膨大な電子データを漏れなく、かつ証拠能力を失わないように確保しなければなりません。
その際のポイントは、不祥事関与者に知られずに、書類やデータを保全すべきという点です。不祥事関与者に調査の事実が伝われば証拠を隠滅されるおそれがありますし、また、口裏合わせや逃走の恐れもあります。そのような事態により、事実の解明が困難になった事例も少なくありません。したがって、証拠の迅速な確保は、初動において極めて重要となります。
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2014/12/16 【不祥事】子会社で不祥事が発覚した
自社の不祥事に等しい子会社での不祥事
会社の内部統制は、どんなに高いレベルのものを構築したつもりでも、実際には整備が十分でなかったり、たとえ十分に整備されていたとしても担当者の交替時に引継ぎが不十分であったため後任者の運用が適切でなかったりして、綻びが生じてしまうものです。その隙をついて、従業員の不祥事は起きてしまいます。そこで、内部統制がある程度確立された親会社と異なり、内部統制が脆弱な子会社の方が不祥事は発生しやすいと言えます。
一方、従業員不正と異なり、経営者不正は内部統制を超えたところで発生します。経営者不正を防ぐ歯止めとなるのは、会社のガバナンスそのものです。ガバナンスがしっかりとした会社では経営者不正は起きにくいものです。そのような観点からは、経営者不正の発生する可能性は親会社よりも子会社の方が高いと言えます。なぜなら、子会社は親会社と異なり社外役員がゼロのケースが多く、また、親会社のボードメンバーと子会社のボードメンバーとでは投資家の視線に直接さらされるのかあるいは間接的なものに留まるのかの違いがあることから、ガバナンスへの取り組み方にも差が生じがちだからです。
このように、従業員の不祥事や経営者不正が発生する可能性は親会社よりも子会社の方が高いと言え、実際に、上場会社が公表した不祥事のうち、その子会社が舞台になったところは少なくありません。
上場会社の子会社で不祥事が起きた場合、親会社としては「自社の不祥事ではない」として他人事と決め込むことはできません。株価には企業グループとしての価値が反映されており、子会社の不祥事により企業グループの価値は毀損し、株価は下落します。投資家は「他の子会社は大丈夫か」と疑心暗鬼になります。取引先も企業グループ内で起きた不祥事として親会社の対応を注視することでしょう。ここで対応を誤れば、信用が失墜し取引先の離反も起きかねません。そして、親会社の担当取締役は、第三者委員会の検証により子会社管理に不行き届きがあったと認定されれば、降格や減俸等の処分を受ける可能性があります。監査役も同様に子会社監査が十分であったかどうか、検証の対象になります。また、過去の会計不正であれば、連結財務諸表の遡及訂正が必要になり、経理担当取締役にも厳しい視線が注がれます。以上を考慮すると、子会社で不祥事があれば、親会社の取締役や監査役は、親会社で不祥事が起きた場合に等しい対応を求められると言えます。
それでは、子会社で不祥事が発覚した場合に、親会社の取締役は何をすべきでしょうか。一口に不祥事と言っても、横領・背任といった財産犯、脱税や租税回避行為(形式的には税法に違反しないようにしながら、不当に税負担を回避する行為)、贈賄やカルテル・談合等の不正行為、セクハラ・パワハラ等の各種ハラスメント行為や残業代不払い等の労働問題、粉飾決算等様々です。いずれにしても、まずは事実関係を正確に把握するための調査が必要になります。その際、子会社に調査を委ねてしまうと子会社の経営陣が保身のため問題の矮小化を目論んで調査がおざなりなものとなる恐れもあります(自浄作用の限界)。また、子会社の場合、調査にあたるための人的リソースやノウハウが不足しており、調査がスピードを欠いてしまう恐れや十分な調査を実行できない可能性もあります(調査能力の限界)。そのため、子会社の不祥事の処理は当該子会社に任せきりにするのではなく、親会社の取締役や監査役が調査を主導する必要があります。
それと同時に、親会社の取締役としては、調査の過程で把握した内容を外部に対して、いつ、どのように開示するのかについて判断する必要があります。外部への開示として第一に検討しなければならないのが、証券取引所における適時開示です。事実関係がはっきりしないまま開示を行ってしまうと、必要以上に世間や株式市場の不安をあおり、株価の下落等、企業価値を損なうリスクがあります。一方で、事実関係の把握に時間がかかり、あまりにも開示が遅れると、今度はそれ自体が批判の対象となってしまいます。いずれの事態も避けるためには、取引所と連絡を密にして段階的な開示、すなわち、事実の発生が判明した時点での概要と今後の対応に関する開示、第三者委員会を設置する場合にはその概要と調査のスケジュール、第三者委員会の調査報告書の受領後には調査結果と再発防止策や業績予想の修正の開示といった具合に、投資家に対して事実の判明に応じた段階的な情報開示を行う必要があります。さらに、不祥事の内容によっては、行政・司法当局へ通報(海外子会社の場合、現地当局への通報)しなければなりません。
また、会社法や金融商品取引法に基づく開示も必須となります。この点については、後述の「適時開示にとどまらない子会社不祥事の開示」で詳しく解説します。
こういった情報開示を進める一方で、親会社は子会社の株主という立場から、(1)子会社に対し不祥事を犯した者の解雇指示、(2)不祥事を犯した者への法的責任の追及(子会社の行う損害賠償請求の訴訟を親会社として支援、株主代表訴訟の提起)、(3)管理責任者・役員の減俸・降格の指示等といった責任追及を行います。
初動の対応が調査のカギを握る
不祥事を起こしたのが子会社であっても、原因を究明し、問題となる事実関係を把握、公表のうえ、再発防止策を策定・運用し、信頼の回復に努めるといった不祥事への対応策は、親会社で不祥事が発生したときと基本的に変わるところはありません。不祥事の発覚からその後の対応までをまとめると、次のとおりです。
1 発覚
2 初動
3 実態調査(事実認定)
4 事実の評価、原因分析
5 責任の追及、再発防止策の策定・運用
6 報告書の作成
7 ステークホルダー対応
では、具体的に見ていきましょう。
1 発覚
不祥事は、被害者や不祥事を行っている者の同僚・部下や取引先といった関係者からの通報で発覚するケースが少なくありません。最近では、「通報しても握りつぶされるのではないか」という懸念を通報者が抱かないよう、内部通報の窓口を外部の法律事務所に設ける上場会社も増えており、内部通報制度の利用の増加が予想されます。その他、親会社が実施する関係会社監査、子会社の監査役監査による監査、監査法人の会計監査、マスコミの調査報道、税務調査などをきっかけとして不祥事が発覚する場合もあります。
2 初動
不祥事が発覚した場合に備えて、親会社および子会社のリスク管理規程等に初動を担う機関を定めておきます。例えば、初動を担うのは親会社のリスク管理委員会であると定めた場合、情報不足による判断ミスを防ぐために親会社のリスク管理委員会の事務局に不祥事に関するすべての情報が集約される仕組みを構築しなければなりません。また、事務局は後日の行政機関による捜査や訴訟、ディスクロージャーに備えて、打ち合わせやインタビュー時には必ず記録を取るようにします。事務局は、集めた情報を親会社の取締役会・監査役会および子会社の取締役会・監査役会と共有することで、マネジメント層の情報不足による判断ミスを防ぐようにします。また、会計不正であれば監査法人に情報提供し、会計監査と連携を図らなければなりません。さらに、上場会社であれば証券取引所に相談をして、リリース内容やリリース時期を詰めていきます。
初動 : 本格的な実態調査の前の、調査初期における行動のこと
事務局は、そうして集められた情報をもとに、不祥事発覚時の初動として、次の3つを実施します。
(1)調査計画の立案
(2)調査体制の構築
(3)調査スケジュールの決定
(4)証拠の保全
(1) 調査計画の立案
まず、事務局は実行された不祥事の手口を想定し、調査範囲を仮決めします。この仮決めは非常に難しく、調査を行った結果、当初想定していたよりも調査範囲を広げて調査せざるをえなくなる場合もあります。ただ、範囲を広げれば調査に時間がかかりますし、狭くすれば実態が解明できないため、慎重に調査範囲を決定します。
例えば子会社の営業所の1つで不正が起こったとします。不正の手口は伝票が手書きであることを利用したものであり、その営業所以外の営業所ではすでにシステムが導入され手書き伝票は廃止されていたとすると、他の営業所で同様の不正が起こる可能性は低いため、調査範囲を不正が発覚した営業所に限定できます。一方、不正の手口が、取引先を巻き込んだものであり、当該取引先は全国の営業所と取引があり、同様の不正が他の営業所でも行われている可能性が高いのであれば、調査範囲を子会社の全営業所に広げます。また、親会社や他の子会社でも同様の不正が起こる可能性が高いのであれば、調査範囲をさらに広げます。
(2)調査体制の構築
事務局は調査範囲を仮決めした後、その調査を遂行するための人的リソースを見積り、調査委員会のメンバーを人選します。調査委員会には、不祥事の内容や規模に応じて、子会社の監査役や親会社の監査役、親会社の内部監査室などの社内(および親会社)のメンバーによって調査する社内調査委員会と、より信頼性・客観性・独立性を担保するために親会社や子会社と利害関係のない専門家・有識者による第三者委員会の2つがあります。社内調査委員会と第三者委員会の両方が設置されるケースもあります。その場合は、両委員会がまったく別々に調査すると効率が落ちるため、スケジュールをすり合わせて関係者へのインタビューを同時に行ったり、情報共有のための会議を設けたり、社内調査委員会の調査結果を第三者委員会が援用したりします。
社内調査委員や第三者委員の人選は、調査対象からの独立性と調査内容への知識や経験を判断して行います。とくに調査対象からの独立性は調査結果の信頼性に直結するため、人選に際してもっとも留意しなければならない事項と言えます。また、「実態調査(事実認定)」で後述するように、表面的な問題点にとらわれずに多角的に検討することが必要になります。そのために重要となるのが、調査委員のダイバーシティ(多様性)です。社内・社外、男女(*)、法律の専門家と会計の専門家等の多様性を持たせることで、論点の見落としの防止が可能になります。
また、調査が広範囲に渡ることから調査に従事するスタッフが大勢必要になったり、デジタル・フォレンジックのような専門知識が求められたりする場合、親会社や子会社の“社内人材”だけでは調査を遂行できないため、コンサルティング会社の活用が不可避になります。“社内人材”や外部のコンサルティング会社に対しては、「利害関係がないこと」や「情報を漏えいしないこと」を誓約する書面の提出を要請すべきです。特に情報漏えいの防止には、気を払う必要があります。不祥事の内容によってはインサイダー情報に該当するため、未公表の調査内容や調査結果が一部でも外部に漏れるとインサイダー取引という別の不祥事が発生しかねないからです。
(3)調査スケジュールの決定
調査委員会の調査には期限を設けます。証券取引所におけるリリースが必要となるような不祥事であれば、調査期限について証券取引所と相談します。会計不祥事であれば調査結果が四半期決算や年度決算にも影響するため、決算スケジュールとも連動させなければなりません。また、会計不祥事の場合は四半期報告書や有価証券報告書に調査結果を反映させる必要がありますが、調査結果を待っていては四半期報告書や有価証券報告書の提出期限までに提出できる見込みがない場合は、財務(支)局に対して提出期限の延長申請を行っておきます。
調査期限は不祥事の内容や調査の範囲により様々ですが、概ね1か月、長くても2か月程度が1つの目安になります。
調査スケジュールのポイントは、不祥事関与者へのインタビューの時期をいつにするのかです。証拠を保全(後述)する前にインタビューをしてしまうと証拠を隠滅されるリスクがありますし、インタビュー時の質問の仕方によっては、相手に調査側の手の内を明かす結果になりかねません。一方、インタビューの時期が遅れてしまうと記憶があいまいになるとともに、不祥事関与者が退職したり、失踪したりしてしまう事態も考えられます。
同時に、金融業等規制業界の場合、当局への相談・報告の時期についてもスケジュールに織り込む必要があります。独占禁止法違反の場合は、課徴金減免制度(リニエンシー)の利用を考慮し公正取引委員会へ報告する時期も考慮しなければなりません。
(4)証拠の保全
不祥事の調査は、不祥事の内容を明らかにするとともに関与者を特定するために行うものです。後日に不祥事の内容や関与の有無を巡り争いになる可能性が高いため、証拠を保全しておく必要があります。
証拠は不祥事の内容によって異なります。例えば、請求書や領収書等の紙の書類、業務用PCのハードディスク内のデータ、電子メールなど様々です。不祥事の内容次第で、サーバー上の取引記録・会計記録、サーバーへのアクセスログといったデータも確保しなければなりません。なお、電子データの場合、改変が容易であることから、裁判等では証拠能力が問われかねません。それに備えて、確保した時点のデータとの同一性を維持するためのデジタル・フォレンジックという手法を利用して、膨大な電子データを漏れなく、かつ証拠能力を失わないように確保しなければなりません。
その際のポイントは、不祥事関与者に知られずに、書類やデータを保全すべきという点です。不祥事関与者に調査の事実が伝われば証拠を隠滅されるおそれがありますし、また、口裏合わせや逃走の恐れもあります。そのような事態により、事実の解明が困難になった事例も少なくありません。したがって、証拠の迅速な確保は、初動において極めて重要となります。
表面的な問題の裏に別の問題が潜む場合も
3 実態調査(事実認定)
実態調査では、初動において確保した証拠の分析や関係者へのインタビューなどにより不祥事に関与した者を特定し、その具体的な手口を解明します。調査をスムーズに進めるために、関係者はインタビューや資料提出に協力するよう事前に子会社内で周知して・・・
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