2014/12/24 “ナッツリターン”で改めて認識される経営トップ選出プロセスの重要性

 韓国の航空大手・大韓航空の副社長が、「ナッツの出し方がマニュアル通りではない」ことに立腹し、滑走路に向かっていた自社機を搭乗口に引き返させるという事件(通称「ナッツリターン事件」)が日本でも話題を呼んでいるが、本件がここまで騒がれた背景には、副社長が大韓航空を運営する韓進グループ会長の娘だったことがあるのは言うまでもない。

 今回の一件を巡っては、同族支配に起因するコーポレートガバナンスの欠如を指摘する声も少なくないが、実はこのような同族支配は、コーポレートガバナンス先進地のイメージが強い欧州でも珍しくない。

 例えば、・・・

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2014/12/24 “ナッツリターン”で改めて認識される経営トップ選出プロセスの重要性(会員限定)

 韓国の航空大手・大韓航空の副社長が、「ナッツの出し方がマニュアル通りではない」ことに立腹し、滑走路に向かっていた自社機を搭乗口に引き返させるという事件(通称「ナッツリターン事件」)が日本でも話題を呼んでいるが、本件がここまで騒がれた背景には、副社長が大韓航空を運営する韓進グループ会長の娘だったことがあるのは言うまでもない。

 今回の一件を巡っては、同族支配に起因するコーポレートガバナンスの欠如を指摘する声も少なくないが、実はこのような同族支配は、コーポレートガバナンス先進地のイメージが強い欧州でも珍しくない。

 例えば、スペインの大手銀行サンタンデールは今年(2014年)9月、積極的な事業拡大戦略により同行をスペイン国内7位から世界有数の銀行へと成長させたエミリオ・ボティン会長の死去を受け、後任に同氏の娘であるアナ・ボティン氏を指名している。アナ氏はJP モルガンを経てサンタンデールUK のCEOを4年間務めたほか、コカ・コーラの社外取締役も担うなど、経歴だけを見れば前会長の後継者にふさわしいようにも見える。

 ただ、アナ氏は前会長が死去した翌日に会長に就任したこともあり、アナ氏の会長就任に対しては「事前に“密室”で決められたのではないか」との疑念が向けられた。しかも、ボティン家の同行株式の保有割合は2%にも満たない。いくら前会長が公的資金注入を受けることなく金融危機を乗り切るなど高い実績を上げたとはいえ、この保有割合で世襲が継続しているということ自体(ボティン家による経営への関与は実に1世紀におよぶ)、同行のトップ選出プロセスに問題があると言われても仕方ないだろう。

 このほか今年の欧州では、欧州最大の広告代理店グループであるフランスのパブリシス社で1987年から同社の会長兼CEOを務めるモーリス・レビ氏の任期が今年さらに3年間延長されたことも大きな話題を呼んだ。

 日本の上場企業のトップ人事でも、事実上、同族関係者の世襲となっているケースは少なくない。もちろん、同族関係者の中には優秀な人材も多数おり、また、企業の象徴的存在(特に創業家出身者)として、その就任が役職員の結束を強める効果を持つこともある。

 その一方で、企業が持続的に成長していくためには、経営陣は、その時代や会社が抱える経営課題に応じ、社外からの招聘を含め幅広い人材プールから選ばれる必要がある。世襲を優先するあまり、有能な人材が経営トップの地位に付く機会を奪うことがないよう、世襲色の強い企業こそ、経営トップを適切に選出するプロセスを確立する必要があろう。

2014/12/22 外国人ファンドマネージャーの種類とその視点

 近年、日本企業における外国人持株比率が極めて高くなり、外国人投資家の影響力が増している。外国人投資家が日本企業に対し「ROEの改善」や「コーポレートガバナンスの強化」などを要求していることは、メディアなどを通じて上場企業の役員の耳にも入っていることだろう。

 もっとも、「外国人投資家」といっても、日本企業に様々な要求をしているのは年金基金など投資資産の所有者(アセット・オーナー)そのものではなく、実際にはその運用を任されている「外国人ファンドマネージャー」である。日本企業に影響力を持つ外国人投資ファンドマネージャーとは一体どのような人達なのだろうか。その実態に迫ってみよう。

 外国人ファンドマネージャーは、大きく3つの種類に分けられる。すなわち、・・・

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2014/12/22 外国人ファンドマネージャーの種類とその視点(会員限定)

 近年、日本企業における外国人持株比率が極めて高くなり、外国人投資家の影響力が増している。外国人投資家が日本企業に対し「ROEの改善」や「コーポレートガバナンスの強化」などを要求していることは、メディアなどを通じて上場企業の役員の耳にも入っていることだろう。

 もっとも、「外国人投資家」といっても、日本企業に様々な要求をしているのは年金基金など投資資産の所有者(アセット・オーナー)そのものではなく、実際にはその運用を任されている「外国人ファンドマネージャー」である。日本企業に影響力を持つ外国人投資ファンドマネージャーとは一体どのような人達なのだろうか。その実態に迫ってみよう。

 外国人ファンドマネージャーは、大きく3つの種類に分けられる。すなわち、グローバル株ファンドマネージャー、(日本を含む)アジア株ファンドマネージャー、日本株ファンドマネージャーである。以前は日本株ファンドマネージャーが多かったが、日本株の長期低迷とアジア株の高い成長性を背景に、近年日本株ファンドマネージャーは減少し、アジア株ファンドマネージャーが増加している。

 日本株ファンドマネージャーは、日本株のみに投資するため、幅広い業種でポートフォリオを構築する。その結果、それぞれの業種の中で企業を相対比較することになる。例えば、ソニーとパナソニックなどを比較して、同一業種内で相対的に魅力的な企業をポートフォリオに組み入れる。一方、アジア株ファンドマネージャーは、この“業種内相対比較”を、日本ではなく、アジア全体で行う。例えば、ソニーと比較するのはサムスンということになる。

 このように日本企業と外国企業が比較される際には、「日本企業のROEは低いのでは」といったことが議論になる。アジア株ファンドマネージャーは他のアジア企業と日本企業を比較することになるし、グローバル株マネージャーの場合は、「世界の中での日本」という視点になる。その結果、ポートフォリオに組み入れられる日本企業の数は限られる。それどころか、業種内での比較さえも行わない場合がある。例えば「日本の民生用電機業界には魅力がない」ということになると、その業種では日本企業を一切組み入れないといったことが起こる。

 以上のように、同じ「外国人ファンドマネージャー」といっても、運用するファンドによって、投資先の企業を選択する視点は異なる。その結果、企業への質問や提案の内容も変わってくる。このため、外国人ファンドマネージャーとのエンゲージメント(企業と投資家の建設的な対話)に臨む際には、彼らのポートフォリオの種類を知っておくことが極めて重要となる。それを知ることによって、彼らがどの企業群(日本企業、アジア企業、全世界の企業)と比較して意見を言ってきているのか理解することができ、より建設的な対話が実現するはずだ。

2014/12/20 チェックリスト:株式の分割をしたい (会員限定)

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■チェックリスト:株式の分割をしたい

チェック事項 備考 対応未了 対応済
株式分割の実施に際しては、事前にメリット・デメリットを勘案したか。 メリット:株価を低くし、個人投資家層に訴求することで市場での流動性を高める。
デメリット:株主数の増加に伴い、株主管理コストが増加する。
株式分割の実施に際しては、取締役会の決議により「基準日」「分割の割合」および「効力発生日」を定めたか。
株式分割により株式の割当てを受ける株主を確定するための基準日をその2週間前までに公告したか。
上場会社の場合、効力発生日の2週間前までに、分割による増加比率、効力発生日、基準日をほふりに通知したか。
株式分割に際して、単元未満株式の買取請求権の行使に備えて、買取用の資金を確保しているか。
株式分割の比率の決定に際して1株に満たない端数が生ずるか否か、生じる場合の端数の現金化の方法の検討を行ったか。
上場会社の場合、企業行動規範(流通市場に混乱をもたらすおそれまたは株主の利益の侵害をもたらすおそれのある株式分割の禁止)に抵触していないことを事前に確認したか。
上場会社の場合、株式分割の結果、投資単位が5万円以上50万円未満の水準になるかどうかを検討したか。
有価証券報告書の経理の状況の1株当たり情報の注記において、当(連結)会計年度または(連結)貸借対照表日後において株式分割が行われた場合、前(連結)会計年度の期首に株式分割が行われたと仮定して1株当たり純資産額および1株当たり当期純利益金額並びに潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額を算定した金額を、その旨とともに注記を行ったか。 その他、株式分割により有価証券報告書等における株式数が関連する各記載欄(「発行可能株式総数」、「発行済株式数」、「所有者別状況」「大株主の状況」「議決権の状況」「自己株式の取得等の状況」「配当政策」「株価の推移」「役員の状況」など)の記載内容にも波及する。
株式分割により新株予約権の行使価額を調整したか。

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2014/12/20 【株価】株式の分割をしたい

 

株式分割が行われるのはどのような場合?

会社の成長に伴う株価の上昇は、会社にとっても株主にとっても望ましいことですが、投資家(とりわけ個人投資家)にとっては、株価の上昇に伴い投資金額が上昇することにより株式を購入しにくい(投資しづらい)状況が生じることにもなります。例えば、それまで1株1万円、売買単位100株で取引されていた株式の価格が1株10万円に上昇したとしましょう。この場合、投資家にとって最低限必要となる投資金額(投資単位当たりの金額)は100万円(1万円 × 100株)から1,000万円(10万円 × 100株)に上昇することになります。最小の売買単位が1,000万円ともなれば個人投資家は手を出しづらくなり、その結果、市場における株式の流動性が低下してしまう恐れがあります。流動性が低下すれば、ますます売買しにくい株式となり、不本意な株価下落にもつながりかねません。

そのような時に、投資金額(投資単位当たりの金額)を引き下げる目的で行われるのが「株式分割」です。株式分割とは、既に発行している株式について、その数を一定の割合で増やす(細分化する)ことです。例えば、1:10の割合で株式を分割すれば、1株が10株になります(なお、株式分割とは反対に、既に発行している株式についてその数を一定の割合で減らす(束ねる)ことを株式併合と言います)。上述の例で見ると、1株10万円に上昇した株式を1:10の割合で分割すれば、市場に流通する株式数は10倍に増えるとともに、(理論的には)株価は10分の1(1株1万円)となり、100株を投資するために必要となる投資金額は1,000万円(10万円 × 100株)から100万円(1万円 × 100株)に下がることになります。このように、株式分割による発行済株式数の増加と投資金額の引下げによって、株式の流動性が向上し、その結果、市場で株式を売買しやすくなるといった効果が期待されるというわけです。

また、上場廃止基準への抵触を避けるため、株式分割を行う場合もあります。証券取引所のルールでは、株主数が一定数以下になった場合、上場廃止基準に抵触し、さらに猶予期間を経ても一定数を超えなければ、上場廃止になってしまいます(東証第一部・第二部の場合、400人未満。猶予期間は1年)。そこで、株式の流動性向上による株主数の増加を期待して、株式分割を行う会社も見受けられます。

なお、全国の証券取引所では「売買単位の集約に向けた行動計画」(2007年11月公表)に基づき、国内上場会社の株式の売買単位を100株に集約することを目指しており、この証券取引所の方針に従って自社の株式の売買単位を100株に調整するための手段として株式分割が行われるケースも見られます。

株式分割によって企業価値は増加するか?

株式分割が行われた場合、特にこれまで株価が高くて個人投資家が手を出しづらかった人気銘柄では、売買単位当たりの株価の低下によって「買い」が集まり、株式分割後の時価総額が上昇するケースも少なくありません。

もっとも、だからと言って株式分割そのものに企業価値を増やす効果はありません。株式は株主としての地位を「割合的単位」に細分化したものに過ぎませんので、たとえ株式の数が10倍になったとしても、その単位が10倍に細分化されるだけであり、株式分割前後で企業価値は変動しません。例えて言えば、1万円札を1000円札10枚に分けても、総額1万円という価値自体には変化がないのと同じことです。

企業価値が変わらないわけですから、会社の財務諸表に影響を与えることもありません。また、発行済株式の数が細分化されるだけですので、株式分割によって会社の資本金が増加することもありません。

一方、株主側から見ても、株式分割はすべての株主の持株数を一定の割合で均等に増加させるものですので、株式分割の前後で株主の持株比率に変更はありません。また、株式分割によって1株当たりの価値は下がりますが、それを補うだけ株式数も増えますので、株主の有する経済的価値も株式分割によって変わりはありません。

株式分割を行うための手続き

このように株式分割をしても、会社財産や株主の地位・経済的利益に変動がありません。一方で、会社側には株式分割を機動的に実施したいというニーズがあります。そのため、株式分割の実施にあたり株主総会の決議は求められていません(取締役会設置会社を前提)。「分割の割合」および「効力発生日」を「取締役会の決議」で定めることで、株式分割を行えます(会社法183条2項)。

取締役会の決議から実際に株式分割を行う日(効力発生日)までは3週間程度かかるのが一般的ですので、その間、当然株主の入れ変わりがあります。そこで、・・・

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発行可能株式総数を超える株式分割は可能?

株式分割では発行済株式数を一気に数倍にすることもできるため、株式分割の結果、発行済株式の総数が既存の発行可能株式総数を上回ってしまうケースが少なくありません。この場合、発行可能株式総数を増加させる必要がありますが、発行可能株式総数は定款記載事項であるため、別途、定款変更のための株主総会決議を経ない限り増加させることはできないのが原則です。

しかし、これでは大幅な株式分割を行うたびに、定款変更のために株主総会を開催しなければならないことになり、全体の手続きが遅延して株式分割をタイムリーに行えない恐れがあります。それは、せっかく株式分割を「取締役会」の権限として、機動的な実施を可能にしようとした会社法の趣旨に反すると言えます。

そこで会社法は、・・・

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単元未満の株式が発生した場合の対応

株式分割では全株主の株式数を一律の割合で増加させるため、株主の元々の持株数によっては「一単元の株式数」に至らない株式が発生する場合があります。一単元の株式数とは、株主が株主総会において「一個の議決権」を行使することができる「一定の数の株式」のことです。この単元株式数(一単元の株式数)をいくつにするのかは、定款で定める必要があります。そして、上場会社の場合、証券取引所における売買単位が単元株式数と一致することになります。

例えば、単元株式数が100株の会社が1:1.1の株式分割をした場合、株式分割前に100株保有していた株主においては、持株数が10株増加することになります。しかし、単元株式数が100株である以上、・・・

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上場会社による株式分割に関する取引所のルール

上場会社が株式分割を行う場合には、証券取引所のルールも遵守する必要があります。

東京証券取引所では、・・・

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株式数の変動はどこに波及する?

投資家が投資の判断をする際の重要な指標の1つに「EPS(=Earnings Per Share。1株当たり利益)」があります。このEPSは「当期利益 ÷ 期末の発行済株式総数」で計算されますので、株式分割が行われて発行済株式総数が増えれば、EPSの数値も変わってきます。例えば 利益が100億円、発行済株式総数が1億株ならEPSは100円となりますが、株式1株につき2株の株式分割により発行済株式総数が2億株に増えれば、EPSは50円となります。

もちろん、この例では株式分割の結果、・・・

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株式分割と株式無償割当てはどう違う?

上述したとおり、株式分割に類似する方法として、株式無償割当てがあります。株式分割と株式無償割当てはいずれも、「株主に対して新たに払込みをさせないで株式数を増加させる」という点で似ています。また、いずれも取締役会の決議で実施できる(取締役会設置会社を前提)点でも似ています。

その反面、・・・

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2014/12/20 【株価】株式の分割をしたい (会員限定)

 

株式分割が行われるのはどのような場合?

会社の成長に伴う株価の上昇は、会社にとっても株主にとっても望ましいことですが、投資家(とりわけ個人投資家)にとっては、株価の上昇に伴い投資金額が上昇することにより株式を購入しにくい(投資しづらい)状況が生じることにもなります。例えば、それまで1株1万円、売買単位100株で取引されていた株式の価格が1株10万円に上昇したとしましょう。この場合、投資家にとって最低限必要となる投資金額(投資単位当たりの金額)は100万円(1万円 × 100株)から1,000万円(10万円 × 100株)に上昇することになります。最小の売買単位が1,000万円ともなれば個人投資家は手を出しづらくなり、その結果、市場における株式の流動性が低下してしまう恐れがあります。流動性が低下すれば、ますます売買しにくい株式となり、不本意な株価下落にもつながりかねません。

そのような時に、投資金額(投資単位当たりの金額)を引き下げる目的で行われるのが「株式分割」です。株式分割とは、既に発行している株式について、その数を一定の割合で増やす(細分化する)ことです。例えば、1:10の割合で株式を分割すれば、1株が10株になります(なお、株式分割とは反対に、既に発行している株式についてその数を一定の割合で減らす(束ねる)ことを株式併合と言います)。上述の例で見ると、1株10万円に上昇した株式を1:10の割合で分割すれば、市場に流通する株式数は10倍に増えるとともに、(理論的には)株価は10分の1(1株1万円)となり、100株を投資するために必要となる投資金額は1,000万円(10万円 × 100株)から100万円(1万円 × 100株)に下がることになります。このように、株式分割による発行済株式数の増加と投資金額の引下げによって、株式の流動性が向上し、その結果、市場で株式を売買しやすくなるといった効果が期待されるというわけです。

また、上場廃止基準への抵触を避けるため、株式分割を行う場合もあります。証券取引所のルールでは、株主数が一定数以下になった場合、上場廃止基準に抵触し、さらに猶予期間を経ても一定数を超えなければ、上場廃止になってしまいます(東証第一部・第二部の場合、400人未満。猶予期間は1年)。そこで、株式の流動性向上による株主数の増加を期待して、株式分割を行う会社も見受けられます。

なお、全国の証券取引所では「売買単位の集約に向けた行動計画」(2007年11月公表)に基づき、国内上場会社の株式の売買単位を100株に集約することを目指しており、この証券取引所の方針に従って自社の株式の売買単位を100株に調整するための手段として株式分割が行われるケースも見られます。

株式分割によって企業価値は増加するか?

株式分割が行われた場合、特にこれまで株価が高くて個人投資家が手を出しづらかった人気銘柄では、売買単位当たりの株価の低下によって「買い」が集まり、株式分割後の時価総額が上昇するケースも少なくありません。

もっとも、だからと言って株式分割そのものに企業価値を増やす効果はありません。株式は株主としての地位を「割合的単位」に細分化したものに過ぎませんので、たとえ株式の数が10倍になったとしても、その単位が10倍に細分化されるだけであり、株式分割前後で企業価値は変動しません。例えて言えば、1万円札を1000円札10枚に分けても、総額1万円という価値自体には変化がないのと同じことです。

企業価値が変わらないわけですから、会社の財務諸表に影響を与えることもありません。また、発行済株式の数が細分化されるだけですので、株式分割によって会社の資本金が増加することもありません。

一方、株主側から見ても、株式分割はすべての株主の持株数を一定の割合で均等に増加させるものですので、株式分割の前後で株主の持株比率に変更はありません。また、株式分割によって1株当たりの価値は下がりますが、それを補うだけ株式数も増えますので、株主の有する経済的価値も株式分割によって変わりはありません。

株式分割を行うための手続き

このように株式分割をしても、会社財産や株主の地位・経済的利益に変動がありません。一方で、会社側には株式分割を機動的に実施したいというニーズがあります。そのため、株式分割の実施にあたり株主総会の決議は求められていません(取締役会設置会社を前提)。「分割の割合」および「効力発生日」を「取締役会の決議」で定めることで、株式分割を行えます(会社法183条2項)。

取締役会の決議から実際に株式分割を行う日(効力発生日)までは3週間程度かかるのが一般的ですので、その間、当然株主の入れ変わりがあります。そこで、取締役会で株式分割の実施を決めるとともに、株式分割により株式の割当てを受ける株主を確定するための「基準日」を定め、その2週間前までに公告(詳細は「臨時株主総会を開催したい」の「総議決権の3%以上を半年保有する株主からの開催請求を断ることは不可」を参照してください)が必要となります。

また、上場会社株式(=ほふりを活用した振替株式)の株式分割では、効力発生日の2週間前までに、分割による「増加比率(例えば「1株につき2株の割合」)」「効力発生日」「基準日」をほふりに通知しなければなりませんので、失念しないようにしてください。これを受けほふりでは、効力発生日において、基準日に存在していた各振替口座簿の株式につき増加比率を乗じた数の増加記録が行われます。株式分割が行われた場合、自己株式についても株式数が増加します。

このほか、細分化された株式を所有する投資家(株主)の増加は、それだけ株主管理コストが増加する要因にもなるので、その点についても留意が必要です。すなわち、株主名簿管理人への支払手数料のうち株主数に比例する分の金額が増加するとともに、株主総会の開催コスト(株主数増加により、招集通知の郵送コストが増え、従来より広い会場の確保も必要になります)や配当金の支払いに付随するコストが増加すれば、利益に影響を与えることになります。

発行可能株式総数を超える株式分割は可能?

株式分割では発行済株式数を一気に数倍にすることもできるため、株式分割の結果、発行済株式の総数が既存の発行可能株式総数を上回ってしまうケースが少なくありません。この場合、発行可能株式総数を増加させる必要がありますが、発行可能株式総数は定款記載事項であるため、別途、定款変更のための株主総会決議を経ない限り増加させることはできないのが原則です。

しかし、これでは大幅な株式分割を行うたびに、定款変更のために株主総会を開催しなければならないことになり、全体の手続きが遅延して株式分割をタイムリーに行えない恐れがあります。それは、せっかく株式分割を「取締役会」の権限として、機動的な実施を可能にしようとした会社法の趣旨に反すると言えます。

そこで会社法は、株式分割が行われる場合には“例外的”に、分割比率に応じて発行可能株式総数を増加させることを認めるとともに、株主総会の決議を不要としています(会社法184条2項)。

ただし、この例外にもさらに例外があります。それは、2以上の種類株式を発行している場合において、そのうち1つの種類株式についてのみ、発行可能株式総数を増やす際に適用される例外規定です。2以上の種類株式を発行している場合に、1つの種類株式についてのみ発行可能株式総数を増やせば、別の種類株式の株主の持株比率が相対的に低下してしまいます。そうなれば別の種類株式の株主の利益を害する結果となってしまうため、原則通り株主総会の決議を経なければ発行可能株式総数を増加させることはできません。注意したいのは、「2以上の種類株式を発行している場合」とは、普通株式に加えて、優先株や劣後株等の種類株式を1つでも発行している場合が該当するという点です。つまり、ここでは普通株式も「種類株式」の1つという前提となっているため、種類株式の発行可能株式総数は据え置き、普通株式の発行済株式総数のみを増やした場合には、株主総会の決議が求められることになります。

劣後株 : 普通株と比べ、配当や残余財産分配権が制限されている株式(議決権は普通株と同様)。第三者割当による資金調達の際、それによって普通株式の持分が薄まる(希釈化する)ことを回避するため、ファンドなどの資金の出し手に対して発行されることが多い。

単元未満の株式が発生した場合の対応

株式分割では全株主の株式数を一律の割合で増加させるため、株主の元々の持株数によっては「一単元の株式数」に至らない株式が発生する場合があります。一単元の株式数とは、株主が株主総会において「一個の議決権」を行使することができる「一定の数の株式」のことです。この単元株式数(一単元の株式数)をいくつにするのかは、定款で定める必要があります。そして、上場会社の場合、証券取引所における売買単位が単元株式数と一致することになります。

例えば、単元株式数が100株の会社が1:1.1の株式分割をした場合、株式分割前に100株保有していた株主においては、持株数が10株増加することになります。しかし、単元株式数が100株である以上、単元株式数未満の株式が10株増えたところで、その分の議決権は行使できませんし、売買単位に満たない株式は証券取引所においても売却することはできない()ことから、「そんなものをもらっても仕方ない」と思う株主もいることでしょう。

 もっとも、単元株式数未満の株式についても配当が行われることから、計110株分の配当を受け取ることができます。

このような場合、株主は会社への単元未満株式の買取りを請求することができます(会社法192条1項)。逆に言うと、株式分割を行う会社は、単元未満株式の買取請求権の行使に備え、買取用の資金を確保しておく必要があるということを、財務担当役員は念頭に置いておかなければなりません。

なお、単元未満株式に似た用語で「端株」というものもあります。単元未満株式はまがりなりにも「1株以上」であるのに対し、端株は「1株に満たない」という点で両者は異なります。端株制度は、かつての商法に規定されていましたが、会社法の導入により廃止されたため、今後あらたに「端株」が発生することはありません(会社法導入前に発生していた端株は現存していることから、端株が世の中から完全に無くなったわけではありません)。

もっとも、株式分割の比率によっては“端数”が発生することはあり得ます。例えば、100株を単元株としている会社で「1:1.111」という株式分割を行うと、100株を有している株主は11.1株増加することになります。このうち11株は単元未満株式ですが、0.1株は端数となります。

このように、株式分割により株式の数に1株に満たない端数が生じた場合には、いったん会社が一括して端数の株式を取りまとめて「端数でない株式」にした上で(その際に生じた端数は切り捨てます)、現金化することとなります。現金化の方法としては、実務上は、上場会社では市場価格での売却(会社による買い取りを含む)、非上場会社では裁判所で許可された価格に基づく売却(会社による買い取りを含む)により行うのが一般的です。

上場会社による株式分割に関する取引所のルール

上場会社が株式分割を行う場合には、証券取引所のルールも遵守する必要があります。

東京証券取引所では、「企業行動規範」の「遵守すべき事項」として、「流通市場に混乱をもたらすおそれ又は株主の利益の侵害をもたらすおそれのある株式分割」を禁止する内容の規定があります(有価証券上場規程433条)。これは、極端に発行済株式数が増加するような株式分割を行ったり、いたずらに株式分割を繰り返したりすることにより株式流通市場が混乱することを防ぐための措置であり、かつてライブドア等が大幅な株式分割(1:100の割合等)を繰り返すといった手法で株価を上昇させたこと(いわゆる“株式分割バブル”)が問題視されたことを受けて設けられたものです。なお、企業行動規範の遵守すべき事項に違反すると、改善報告書の提出や特設注意市場銘柄(例えば、改善報告書の提出をしたものの、改善措置の実施状況および運用状況に改善が認められないと東証が認めた場合で、内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められる場合に指定され、指定から1年経過後、「内部管理体制確認書」の提出が義務付けられ、改善の見込みがない場合等は上場廃止となる)への指定、公表措置、上場契約違約金の賦課といった措置の適用を受けます。

これらの措置は、株式分割と同様に発行済株式数が増加することになる「株式無償割当て」(「株式分割と株式無償割当てはどこが違う?」で後述します)、「新株予約権無償割当て」、逆に発行済株式数が減少することになる「株式併合」または「単元株式数の変更」に対しても設けられています。

また、同じく「企業行動規範」の中の「望まれる事項(努力義務)」として、「望ましい投資単位の水準への移行および維持」があります。具体的には、株式への投資単位が「5万円以上50万円未満」となるように努めることが求められています(有価証券上場規程445条)。

したがって、上場会社が株式分割を行う際には、株式分割後の投資単位がその水準に収まるような株式数をターゲットにして分割割合を決定する必要があります。

このほか、株式分割を決議した際には、証券取引所が要請する適時開示を迅速に行います。

株式数の変動はどこに波及する?

投資家が投資の判断をする際の重要な指標の1つに「EPS(=Earnings Per Share。1株当たり利益)」があります。このEPSは「当期利益 ÷ 期末の発行済株式総数」で計算されますので、株式分割が行われて発行済株式総数が増えれば、EPSの数値も変わってきます。例えば 利益が100億円、発行済株式総数が1億株ならEPSは100円となりますが、株式1株につき2株の株式分割により発行済株式総数が2億株に増えれば、EPSは50円となります。

 もちろん、この例では株式分割の結果、1株当たりの理論的価値は2分の1になっていますので、株式数が2倍になっても株式分割の前後で当該株式の投資価値に変化はありませんが、株式分割があったことを知らない新たな投資家などには誤解を生む可能性があります。そこで、株式分割後のEPSと株式分割前のEPSを比較する場合は、同じ“物差し”での比較ができるような工夫が必要になります。具体的には、当期に株式分割を行われた場合、あえて前期の期首に株式分割が行われたと仮定(株式分割をしたのは決算日の翌日以降なのですが、計算を行う際に限って、前期首に株式分割が行われたと仮定します)して、1株当たり当期純利益金額を算定して、それを有価証券報告書の経理の状況の「1株当たり情報」に注記します。当期の決算日の翌日以降に株式分割を行った場合も同様に、前期首に株式分割が行われたと仮定して計算します。潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額()や1株当たり純資産額も同様に、前期首に株式分割が行われたと仮定して計算します。

 潜在株式とは新株予約権の行使により発行される可能性がある株式を指します。新株予約権の行使により株式が発行された場合、発行済株式総数が増加するため1株当たり当期純利益に影響を与えることになります。そこで、新株予約権が行使される可能性を考慮して計算するのが潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額です。

また、ストック・オプション等の新株予約権における株式分割前に算定された当該行使価額は、当然のことながら「株式分割により増加する前の発行済株式総数」を前提としたものです。株式分割により発行済株式総数が増加した場合、行使価額の計算の前提が変更されたと言えます。したがって、株式分割が行われた場合には、行使価額を算定し直す条項が入れられているのが通常です(ストック・オプションをもらった人が不利益を蒙るわけではありません)。

その他、株式分割により有価証券報告書等における株式数が関連する各記載欄(上述した「発行可能株式総数」や「発行済株式数」の他にも、「発行済株式総数の推移」「所有者別状況」「大株主の状況」「議決権の状況」「自己株式の取得等の状況」「配当政策」「株価の推移」「役員の状況」など)の記載内容にも波及があります。その一方で、株式分割により会社に資金が流入したり、企業価値が増えたりするわけではないので「資本金額」や「時価総額」は影響を受けないという点は上述したとおりです。

株式分割と株式無償割当てはどう違う?

上述したとおり、株式分割に類似する方法として、株式無償割当てがあります。株式分割と株式無償割当てはいずれも、「株主に対して新たに払込みをさせないで株式数を増加させる」という点で似ています。また、いずれも取締役会の決議で実施できる(取締役会設置会社を前提)点でも似ています。

その反面、株式分割では同一種類の株式数のみが増加するのに対し、株式無償割当てでは異なる種類の株式数を増加させる(割り当てる)ことができるといった点で異なります。例えば、株式会社伊藤園は、第1種優先株式を東京証券取引所に上場する際に、普通株式の株主に対し、普通株式1株につき0.3株の割合で優先株式を無償で割り当てました。同社によれば、かかる株式無償割当ての目的は資金調達手段の選択肢を広げて機動的な資金調達ができるよう予め優先株式の上場市場を作るとともに、既存株主に新たな投資対象を提供することとされていますが、このようなことは株式分割ではできません。

また、株式分割では自己株式も分割されるのに対して、株式無償割当てでは自己株式に対して割り当てられることはありません。これは、株式の分割は株式の計数の変動にすぎないと解されるのに対し、株式無償割当ては株式の発行または自己株式の交付であるため、株式の発行において自己株式に対し割当てをすることができないからです(会社法202条2項かっこ書き参照)。

さらに、株式分割では発行可能株式総数も自動的に増加するのに対して、株式無償割当では発行可能株式総数は自動的に増加することはありません。なぜなら、株式分割は株式数が増加するだけで授権枠には実質的な変更がないのに対し、株式無償割当ては新たな株式の発行であり発行可能株式総数を増加させるには株主総会の特別決議による定款変更を要するからです。

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2014/12/19 注目判決 粉飾決算で“人事担当取締役”に株主への賠償命令

 役員にはそれぞれ担当分野、専門分野があるのが通常であり、自分が関与していない分野となると、必ずしも十分な知識がないことも多い。しかし、単に「関与していなかった」「知識がなかった」という言い訳は通用しないことを改めて認識させる判決が最近東京地裁であった。

 この裁判は、・・・

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2014/12/19 注目判決 粉飾決算で“人事担当取締役”に株主への賠償命令(会員限定)

 役員にはそれぞれ担当分野、専門分野があるのが通常であり、自分が関与していない分野となると、必ずしも十分な知識がないことも多い。しかし、単に「関与していなかった」「知識がなかった」という言い訳は通用しないことを改めて認識させる判決が最近東京地裁であった。

 この裁判は、かつて東証一部に上場していたニイウスコー社が行っていた粉飾決算の事実を知らずに株式を購入し、損失を被った株主2人が、同社の代表取締役、副社長、取締役ら4人を相手取り、株式の取得価額全額と弁護士費用等の損害賠償を求めたもの。原告が求める損害賠償額を合計すると約1億7,500万円に及ぶ。結論から言うと、裁判所は原告の主張を認め、代表取締役ら4人に連帯して上記金額を原告に対して支払うよう命じている。

 判決の中で注目されるのは、実質的には“人事担当取締役”に過ぎず、粉飾決算にも関与していなかった代表取締役Aに対しても損害賠償責任が認められた点だ。

 ニイウスコー社は平成18年1月1日に持株会社制に移行したが、それ以前の社内体制は「営業部門」「システム部門」「管理部門」「人事部門」などに分かれており、代表取締役Aは人事部門の担当取締役だった。各部門の担当取締役は持株会社移行後に全員が「代表取締役」となったが、引き続き担当部門を管掌していため、実態は“平取締役”と変わらなかったようだ。この点については裁判所も、「代表取締役であった間も一貫して人事部門を担当しており、Aが粉飾決算に関与したことを認めるに足りる証拠はない」と認定している。

 粉飾決算などが発覚して株価が下落し株主が損害を被った場合、役員は当該損害を賠償しなければならないのが原則だが(金融商品取引法21条1項一)、粉飾の事実を知らなかった役員は、「相当な注意を用いたにもかかわらず(粉飾の事実を)知ることができなかった」ことを証明すれば、この賠償責任を負わないことになっている(同条2項一)。そこでこの裁判でも、Aが「相当な注意を用いたか」どうかが最大の争点となった。

 この点について裁判所は、経営会議で配布された資料でも同社の業績予想の数字は1週間毎に数億円から数十億円単位で伸びており、約1か月後には売上高が約60億円以上も増加した数字が報告されるなど、「明らかに不自然で疑わしい状況が存在していた」と認定。「相当な注意を用いた」と言えるためには、「業績予想の変化などが不適切なものでないかどうかについて調査や確認を行っていたことが認められる必要がある」とし、これを行っていなかったAに損害賠償を命じている。

 これに対しAは、「不適切な取引が非常に巧妙に仕組まれたものであったことなどから、当該取引に関与しておらず、実質的に人事担当取締役でしかなかった自分がこれを見破ることは到底不可能だった」旨の主張を展開した。しかし裁判所は、「代表取締役は会社の業務執行全般を統括する責任を負っている」としたうえで(会社法349条4項)、「代表取締役であったAは、自己の担当外の部門であっても、適正な業務執行が行われていないことを疑わせるような事情を発見した場合には、自ら調査し、確認する義務があった」旨指摘したほか、上述した金融商品取引法21条の趣旨が「社内における担当職務の如何を問わず、“全取締役”を損害賠償責任を負うことのある主体として規定して有価証券報告書の正確性を確保しようとしていることにあることに照らせば、『人事担当取締役であった』ことは、取締役としての義務の内容について考慮される余地はあったとしても、その注意義務の程度を軽減すべき事情にはあたらないというべき」とし、Aの主張を一蹴している。

 なお、他の3人の被告は過去に不適切な取引に関わったことがあるため、裁判所は「『相当な注意を用いたにもかかわらず(粉飾の事実を)知ることができなかった』とは到底認められない」として、Aとともに3人にも損害賠償を命じている。

2014/12/18 チェックリスト:役員辞任により役員に欠員が出てしまった (会員限定)

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■チェックリスト:役員辞任により役員に欠員が出てしまった

チェック事項 備考 対応未了 対応済
役員が近日中に辞任する可能性が高い場合には、役員退職慰労金の支払額の算定および支払いに備えての資金確保、会社が掛け金を払っていた保険契約の内容の確認等辞任に向けた事務手続を行っているか。
職務執行の観点から、後任の役員がいますぐ必要であれば候補者を選定し、選任手続および引き継ぎをしているか。
後任の役員がいますぐ必要というわけでない場合であっても、役員の辞任に伴い、法律または定款で定めた役員の員数を欠くことになるのかどうかの確認をしているか。 法律または定款で定めた役員の員数を欠くことになる場合には、たとえ当該役員が辞任する旨を表明したとしても、当該役員は従前どおり役員としての権利を有するとともに、義務も負い続ける。
辞任した役員の「後任候補」として補欠の役員を選任しているか。 会社法329条2項
定款上、補欠役員の選任について定められていない場合であっても、補欠役員を選任することは可能
補欠監査役の選任の場合、株主総会の決議に先立ち、監査役会の同意を得ているか。
補欠役員の選任の取り消しは、選任の際の手続と同様、株主総会の決議によって行われているか。 なお、補欠役員が正式に役員として就任する前に補欠役員の選任の取り消しを行う可能性がある場合は、補欠役員の選任の決議の際に、「取り消しを行う場合があること」や「選任の取り消し手続」について(例えば取締役会決議によって取り消すことができるものとしておく)、あわせて決議しておく必要がある。
選任決議の有効期間を延長したい場合には、これを定款で定めているか。
補欠役員が正式な役員に就任する際には、会社側から就任依頼を行うとともに、当該補欠役員に「就任承諾書」を提出してもらうよう手配しているか。
不祥事の発覚等会社を取り巻く状況の変化がある都度、補欠役員に状況を丁寧に説明し、万が一の場合は就任依頼に対して承諾してくれるのかどうかの意思確認をしているか。 補欠役員は正式な役員への就任を承諾しないということもできる。

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