ISS(Institutional Shareholder Services Inc.)は11月6日、2015年版の日本向け議決権行使助言方針(ポリシー)の改定を正式決定した。これに先立ち、ISSは10月16日から28日まで日本向けポリシーの改定案に関する意見を募集していたが、今回決定した新ポリシーは、その際に出た意見を踏まえて当初の改定案を一部変更したもの。新ポリシーは2015年2月から実施される。
以下、当初の改定案から意見募集を経て改訂が加えられた項目を中心に、重要ポリシーについて解説する。
1 資本生産性(ROE)基準の導入
重要な変更が加えられた。改定案では「5年連続で自己資本利益率(ROE*)が5%を下回る」場合、経営トップの選任議案に反対を推奨するとしていた。新ポリシーでは、これが「過去5期の平均の自己資本利益率(ROE)が5%を下回る」に変更されている。ただし、直近年度のROEが5%以上であれば、「改善傾向にある」と判断し、たとえ上記基準に達していなくても反対推奨はしない。
* Return On Equityの略。当期純利益を自己資本で除して算定する。
ISSはこの改訂について、「5年連続」としていた当初の改定案に対して「(1期でも基準を満たせばよいことになるため)短期主義的なアプローチを誘発するのではないか」「5期前のROEが5%以上でも、その後の業績が好ましくない場合は賛成すべきでない」という意見があったことを踏まえ、「5期平均」に変更したと説明している。また、「直近年度のROE が5%以上」であれば反対推奨しないとしたのは、「数値基準を満たさない場合でも、改善傾向があればそれを評価すべき」との意見があったためだという。
確かに、もし当初の改定案のまま「5年連続」が採用されたとすると、1回だけ資産売却や自社株買いなどでROE5%をクリアすれば、その後の4年間は低ROEを気にする必要がなくなる。これに対し、新ポリシーのように「直近年度」とすれば、過去4期の平均ROEが5%に達しない場合には、その後は毎年5%を超え続けなければならない。継続的にROEを高める取組みを求めるという点で、新ポリシーはより厳格な内容になったと言える。
2 取締役会構成基準の厳格化
当該項目について変更はなかった。すなわち、当初の改定案どおり「1年の猶予期間」を置いて(2016年2月から実施)、取締役会に複数名の社外取締役がいない場合は、経営トップの選任議案に反対を推奨する。社外取締役の独立性に関しては、金融庁・東証の有識者会議が現在検討している、コーポレートガバナンス・コードの内容なども踏まえたうえで決定するという。
3 監査等委員会設置会社への対応
監査等委員会設置会社*に移行する定款変更議案に原則賛成するとしていた当初の改定案に対して、「委員会設置会社から監査等委員会設置会社への移行は個別に判断」する旨の留保が付された。委員会設置会社における指名委員会・報酬委員会の設置義務が、監査等委員会設置会社には課されていないため、コーポレートガバナンスの後退に相当しないか慎重に判断するという意図だろう。
* 2015年4月もしくは5月から施行される予定の改正会社法に盛り込まれた新たな会社形態。指名委員会、報酬委員会の設置義務がない、執行役が設置されないなど、委員会設置会社と比べると、監査役会設置会社からの移行のハードルが低いのが特徴。監査役会設置会社と委員会設置会社の中間に位置付けられる。
また、注記により、監査等委員会設置会社と委員会設置会社については、剰余金配当の権限を取締役会に与える定款変更議案に賛成するとしている。従来のポリシーでは「原則として反対を推奨する」としつつ、委員会設置会社だけは例外扱いとしていたようだが、委員会設置会社と同様に社外取締役が義務付けられている監査等委員会設置会社の導入を受けて、賛成する旨を“明文化”したものと思われる。
今回の新ポリシーの中で最もインパクトがあるのは、やはりROE基準の変更だろう。新ROE基準を読み替えると、「ROE5%を達成できなかった経営トップは信任できないが、過去5期の平均が5%以上ならば猶予を与える」というメッセージと解釈できる。東証一部上場会社の約7割で取締役任期が1年であることを鑑みても、直近期のROEで信任/不信任を問われるのは自然なことなのかもしれない。
逆に言えば、組織再編や事業売却などで短期的に損失が発生し、一時的にROEが5%を下回っても、それまでの継続的な取り組みで5期平均が5%に達していれば、経営トップは一定の信任を得られることになる。今回のISS新ポリシー(改定案からの変更)をもって、機関投資家が求めるミニマム・スタンダードとしての「ROE5%」は、より厳しいながらも合理性を持った基準として定着することになりそうだ。
