一口に「倒産」といっても内容は様々
世界的な金融不安や景気悪化は依然として続いており、会社の経営環境は厳しいことに変わりありません。また、為替の変動による影響も会社経営にボディーブローのような打撃を与えています。厳しい経営環境に何とか適応しようと、コスト削減や資産売却を進める企業の中には、万策尽きて倒産に至るところも少なくありません。
倒産(一般用語であり、法律用語ではありません)とは、債務を弁済することができなくなった状態や、債務者の対外的信用が破綻して、経済活動を続行することが困難になった状態のことです。具体的には、以下の項目に該当した場合を「倒産」または「事実上の倒産」と言います。
(1)2回目の不渡りを出し銀行取引停止処分を受けた
不渡りとは、手形や小切手の振出人の預金残高不足により、支払期日に支払銀行において支払いが拒絶され、手形や小切手の保有者がお金を受け取れない状態のことです。6か月以内に2回以上手形・小切手の不渡りを出した振出人は「銀行取引停止処分」になります。
(2)私的整理を行った
私的整理(内整理、任意整理とも言います)とは、債権者と債務者の“自主的話し合い”で負債や財産を整理する手続です。私的整理は、法的整理と異なり、裁判所の関与・監督はなく、手続が法律で定められている訳でもありません。しかし、私的自治、契約自由の原則により、債権者と債務者が債権債務関係の解決を図る一つの手段として機能しています。
自主的話し合いとは言え、私的整理も倒産処理手続の1つですから、後述する法的整理と同じように債権者平等の原則のもと、債務者と債権者の間の協議により、次のような手続が進められます。
・債権者集会を経て債権の確定
・清算あるいは再建に関する私的整理案の作成
・私的整理契約の締結
・その実行としての配当
(3)裁判所に会社更生法の適用を申請した
会社更生手続とは、経済的破綻に瀕した株式会社が、再建の可能性が残されている場合に、裁判所の手に委ねて、事業を継続しつつ再建を図る更生手続の1つです。ここで経済的破綻に瀕した状態とは、「破産手続開始の原因となる事実が生じるおそれがある場合」や「弁済期にある債務を弁済すると、その事業の継続に著しい支障をきたすおそれがある場合」を言います。前者は支払不能状態になるおそれがある場合を言い、後者はその前段階を言いますので、破産のときよりも早い段階で申立てをすることが可能になっています。
会社更生手続の申立ての際には、同時に保全処分の申立てがなされます。そして保全命令により保全管理人が選任されます。保全管理人は会社更生手続開始決定があるまでの間、取締役に代わり、会社の事業運営および財産の管理処分を行います。
裁判所は申立てを受けて更生条件の調査を行います。そして、条件を満たしていれば、会社更生開始決定を行い、更生管財人(*)を選任のうえ、更生管財人に一定の期間内に更生計画案を立案することを命じます。更生の申立てから更生手続開始の決定まで通常であれば2~3か月はかかります。
* 第三者である弁護士や事業家などが選任されます。
会社更生法の目的は“企業の再建”ですが、ここで言う“企業の再建”とは、「経営者のための企業再建」ではありません。会社更生法は、あくまで、「国民経済のための企業再建」を目的としています。そのため、会社の経営権は更生管財人の手に移行し経営陣の刷新が図られるとともに、資本金を全額減資(*)したのち第三者割当増資が行われることで株主も一新されることになります。その代わりに一般債権者、担保権者はもちろん従業員、株主、国税等租税債権者など、会社に対するすべての利害関係人がこの手続に参加し、利害調整を図ることとされています。
* 従来の株主の全員がその地位を失うことを意味します。
これら多数の関係人の利害を調整するため、裁判所の指揮のもと、関係人集会が開かれます。関係人集会では、更生計画案が審議・決議されます。更生計画案の決議が可決するための要件は次のとおりです(「議決権」は金額に比例します)。
| 更生計画の可決要件 |
更生債権の債権者の議決権の総額の2分の1以上の同意 |
| 更生担保権の期限猶予を定める更生計画案 |
更生担保権の議決権の総額の3分の2以上の同意 |
| 更生担保権の免除 |
更生担保権の議決権の4分の3以上の同意 |
更生債権 : 更生手続開始前に発生した更生会社に対する債権であって、更生担保権または共益債権(更生管財人の報酬のように、すべての利害関係人の共同の利益のために必要となる請求権のこと。更生債権や更生担保権と比べると優先的な取り扱いを受ける)に該当しないもの
更生担保権 : 更生手続が開始した時点で、更生会社の財産について有する担保権
関係人集会において更生計画案が可決され、裁判所がこれを認可すると、以後、更生管財人の手により更生計画が実行されます。そして、更生計画の実行が終了すると裁判所は終結決定を行い、更生手続は終了します。
このように、会社更生法の手続は、次に述べる民事再生法の手続に比べると、複雑かつ厳格なものとなっています。また、会社更生手続は多数の利害関係者を有する株式会社を想定した手続なので、大企業向けの制度といえます。
(4)裁判所に民事再生法の手続開始を申請した
民事再生手続とは、会社更生法と同様、経営破綻に至ったものの再建の可能性がまだ残されている場合に、裁判所の手に委ね、事業を継続しつつ再建をはかる更生手続の1つです。
民事再生法は、和議法に代わる新たな再建型の倒産法制として、平成12年4月に施行されました。主として中小企業の再建を容易にする目的で導入されましたが、中小企業だけでなく大企業にも幅広く利用されています。また、株式会社はもちろんのこと、その他の法人、団体、個人でも利用できる間口の広い手続です。
民事再生手続は、債務者に債務超過や支払不能のおそれがあったり、債務弁済資金を調達しようとすれば事業の継続に著しい支障が生じたりする場合に、債務者や債権者が裁判所に申請書を提出(申立て)することにより始まります。裁判所は申立てがあると、通常、債務弁済禁止の保全処分(*)を行い、弁護士等を監督委員に選任し、監督委員の意見を聞いて、民事再生手続開始の決定を行います。
* 手続開始決定があるまで財産の散逸を防ぐためになされる各種保全措置で、手形等の弁済禁止の仮処分や競売手続の中止命令のほか、すべての財産に対する執行を包括的に禁止する命令も可能です。
民事再生法では、経営破綻に至った債務者を“再生債務者”と言います。再生債務者は民事再生手続開始以後、監督委員の監督のもと、財産関係の報告書を作成し、届出債権の認否を行い、債権者に対する弁済条件である再生計画案を作成し、債権者に対する説明会を開催する等、積極的に行動しなければなりません。再生債務者の手により作成された再生計画案は、債権者集会において審議されます。債権者集会において再生計画案が可決されるためには、出席した再生債権者の過半数、かつ、議決権総額の2分の1以上の議決権を有する債権者の賛成が必要です。この点、上述の会社更生法に比べると、再生計画の可決要件がかなり緩和されていると言えます。この結果、民事再生は経営陣が引き続き経営を続けることが認められるケースが多くなっており、その点が最大の特徴となっています。
民事再生手続の開始決定の要件は、会社更生法よりも大幅に緩和されており、通常は申立てから1~2か月で手続の開始決定がなされます。また、債権者集会の開催は任意であり、書面決議も認められている点が使いやすい制度と評価されています。
(5)裁判所に破産手続開始の申立てを行った
破産手続とは、債務者が支払不能や債務超過に陥り、再建ができなくなったときに、裁判所が選任する破産管財人により、債務者の財産を強制的に換金し、それを債権者に対して配当として平等に分配する清算型の倒産手続です。
平等 : 債権者平等の原則に基づき、債権額に比例して配当されることになる。
清算型 : 「清算型」とは会社の事業活動をストップし、すべての会社財産を現金に換え債権者に配当を行う倒産手続を言う。これに対して、事業活動の存続を前提として、会社財産すべてを現金に換えることはせず、債権者に債権の支払猶予や減免をしてもらい、事業の継続を図る方法を「再建型」と言う。
債務者本人や債権者などの「申立て権者」が、裁判所に破産手続開始の申立てを行い、裁判所が当該債務者に「破産手続開始の原因」があると認める場合には、破産手続開始の決定が行われます。破産手続開始の原因とは、支払不能の事実、すなわち、債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものについて弁済することができない状態を言います。具体的には、支払不能であることを店頭で掲示したり文書で発送したりする債務者の明示的行為のほか、資金不足による手形の不渡り、閉店、夜逃げ等も該当します。破産手続の申立ては、債務者自身が申し立てる場合がほとんどですが、債務者が倒産状態に至っているにもかかわらず、法的整理や私的整理の手続が何らとられていないときに、債権者から申立てが行われることもあります。
(6)裁判所に特別清算手続開始の申立てを行った
特別清算手続とは、解散後清算中の会社について、清算の遂行に著しい支障をきたすような事情が認められた場合、あるいは、債務超過の疑いがある場合に、裁判所が、申立てまたは職権によって会社に対して命じる手続です。株式会社にのみ適用されます。
清算中の株式会社に清算の遂行に著しい支障をきたすべき事情(*)もしくは債務超過の疑いがある場合に、迅速かつ公正な清算をするために、債権者、清算人(通常は会社の取締役か依頼を受けた弁護士)、清算中の会社の監査役または株主が、裁判所に特別清算開始の申立てを行います。そして、裁判所は、上記の事情や債務超過の事実があると判断すれば、特別清算の開始命令を出します。
* 例えば、会社内部に著しい不正があると見られるとき、清算人が誠意を欠き信頼できないとき、会社債権者が多数でその利害調整が複雑なため通常の清算手続では長い年月を要することが予想されるときなどが考えられます。
なお、清算とは、会社の解散に伴いそれまでの法律的、経済的関係を整理する手続を言います。倒産に至らなくとも、営業不振、目的の終了、後継者不在などの理由から、会社を解散する場合も数多くありますが、いずれにしろ株式会社を消滅させるためには、必ず会社法による法定清算を行う必要があります。
倒産の態様で異なる売掛金回収策
得意先が、じわじわと倒産への道を歩んでいる場合は、ある程度の時間的余裕があることから、債権回収の策をいろいろと講じることが可能になります。どのような策があるのかについては、「取引先が経営危機にあることがわかった」を参照してください。
では、得意先が“突然”倒産してしまった場合、取締役としてはどのような対応をとるべきでしょうか。
得意先が倒産してしまった場合、さらなる損害を防ぐために、早急に契約を解除して、その取引先との今後の関係を絶つことが必要となります。それに備えて、取引基本契約書等にペナルティなしに契約を解除できる条項を入れておくべきです。
また、以前の関係の精算、つまり、その時点で持っている売掛金を回収することも考えなければいけません。ただ、経営危機にある得意先がすんなりとその支払に応じるとは考えにくいと言えます。もし、他の取引先に優先して支払ってもらうことができたとしても、その得意先が法的な倒産手続に入った場合には、後に否認権(「取引先が経営危機にあることがわかった」の「詐害行為取消権よりはるかに強力な否認権」を参照してください)を行使され、その回収が否定されてしまう可能性もあります。そうなれば、結局のところ債権の回収ができなかったという結果になるのみならず、予期せず法的手続に巻き込まれ、むしろ余計な手間がかかってしまうことにもなりかねません。さらに、無理な債権回収を図れば、場合によっては、民事責任や刑事責任も負いかねません(「取引先が経営危機にあることがわかった」の「刑事・民事上の責任が生じかねない回収行為とは?」をご参照ください)。
このように経営危機の状況にある得意先からの債権回収が難しいことは間違いありませんが、もし得意先に対してこちらが何らかの債務を負っているのであれば、売掛金とその債務とを“相殺”することによって、実質的に売掛金の回収を図る一方、債務の支払を免れることができます。これは「相殺の担保的機能」ともいわれ、債権回収の有効な策として位置付けられています。もっとも、その効力が否定される場合もあるので注意が必要です(後述の「こんな相殺は否認される」を参照してください)。
では、どのような場合に相殺による債権回収ができるのでしょうか。次に解説します。
- 一方的意思表示で相殺するために必要なこと
-
相殺は「相手方との合意」があれば当然に可能ですので、例えば「相手方の信用状態に不安が生じた場合には、お互いの債権と債務を相殺できる」旨を契約で定めておけば(すなわち、相手方と合意しておけば)、この定めによって債権回収を図ることができます。もっとも、いざ相手方の信用状態に不安が生じてから契約を見直すのでは遅過ぎます。信用状態が悪化する前に、契約書に当該規定を盛り込んでおく必要があります。
また、相殺は、こちらからの「一方的な意思表示」によっても可能です。ただし、民法は、こうした「一方的な意思表示」による相殺を行うための要件として、
(1)当事者双方が相対立する債権をそれぞれ持っていること
(2)その債権が同種のもの(典型的には、金銭債権(売掛債権と貸付債権など)同士であれば相殺可能です)であること
(3)双方の債権が弁済期にあること
(4)双方の債権が性質上相殺を許さないもの(例えば、「楽器を演奏する」というようないわゆる「為す債務」を双方が負っていたとしても、それは相殺できません)ではないこと
の4つの要件を求めています(民法505条1項)。このうち、(2)と(4)の2つの要件は実務上特に問題となりませんので、残りの2つの要件について、以下で詳しく見ていきましょう。
まず、(1)の「当事者双方が相対立する債権をそれぞれ持っていること」とは、文字通り、こちらが相手方に対して債権を有している一方で(*1)、債務も負担している(*2)ことを意味します。
*1 これを「自働債権」と言います。
*2 相手方もこちらに対して債権を有していることになります。これを「受働債権」と言います。
得意先に対して売掛債権を有しているのと同時に債務も負担しているような状況は、一見ありえないようにも思われますが、例えば、取引にあたって得意先から保証金や預託金の類(*1)を受領したり、得意先が販売している商品等をこちらが掛けで買い受けたり(*2)して、債務を負担することは珍しいことではありません。
*1 これらは預り金であり、返還する義務があることから、「債務」となります。
*2 買掛金は、将来の一定期日に支払う義務があることから、「債務」となります。
余談ですが、信用力が高くない、または低下してしまった得意先に対しては、債権管理の一環として、掛取引の額に上限を設けるか、保証金の受領を取引の条件とするか、場合によっては現金取引に変更するケースがよく見受けられます(*)。逆に言うと、得意先から「保証金を一部返還して欲しい」旨の打診を受けたら、先方の資金繰りが相当悪化している可能性があります。返還の是非と今後の取引の方針を検討する必要があります(倒産の兆候については「取引先が経営危機にあることがわかった」の「倒産の兆候とは?」を参照してください)。
* 預り保証金を受け取ることにより、自社の財務諸表では受働債権が増加することになります。また、取引額の縮小や掛取引から現金取引への変更により、自働債権が減少することになります。いずれも相殺後の損失を減らす効果があります。
次に、(3)の「双方の債権が弁済期にあること」とは、先方が有する債権もこちらが有する債権もともに弁済期になければならないということを意味します。当方が有する債権(すなわち先方から見て債務)について、先方(債務者、得意先)が期限の利益(*)を有する限り、この要件を満たしません。たとえば、当方が有する債権の弁済期(支払期日)は2か月後で、先方が有する債権の弁済期(支払期日)が1週間後とすると、この1週間で先方が経営危機に陥ったとしても当方の債権の弁済期は未到来なので、相殺できる状況にないことになります。
一方、当方が有する債権が弁済期にあれば、当方としては自らの債務について“期限の利益”を放棄しさえすればいつでも弁済期が到来することになり、その結果、双方の債権が弁済期にあることになります。たとえば、当方が有する債権の弁済期(支払期日)は過ぎており、先方が有する債権の弁済期(支払期日)が1か月後とすると、本来当方が有する1か月間の“期限の利益”を放棄することで、先方が有する債権の弁済期が到来する結果、双方の債権が弁済期となり、相殺できる状況になります。
| 当方の債権 |
先方の債権 |
「双方の債権が弁済期にあること」の要件の充足 |
| 弁済期 |
弁済期 |
「双方の債権が弁済期にあること」の要件を満たす |
| 弁済期 |
弁済期でない |
当方が期限の利益を放棄することで、「双方の債権が弁済期にあること」の要件を満たす |
| 弁済期でない |
弁済期 |
先方が期限の利益を放棄しない限り「双方の債権が弁済期にあること」の要件を満たさない。通常、「先方が期限の利益を放棄」することは期待できない。 |
| 弁済期でない |
弁済期でない |
一方、相殺ができない場合もあります。具体的には、次のいずれかに該当する場合には、相殺ができないことになっています。
(1)当事者間に相殺を禁ずる合意があること(民法505条2項)
(2)法律上、相殺が禁止されていること(例えば、交通事故による慰謝料請求権のような不法行為に基づく損害賠償請求権を受働債権とする相殺の場合などが当たります。民法509条~511条等)
(3)解釈上、相殺が禁止されていること(*)
とはいえ、一般的な商取引における債権債務については、特にこのような相殺禁止事由を問題にする必要はないでしょう。
* 例えば、自働債権に相手方の同時履行の抗弁権(相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができるとする権利)が付着している場合などが当たります。
なお、取引基本契約において、“一定の場合”に「先方は当方に対する一切の債務について当然に期限の利益を失い、直ちに当方に対して弁済しなければならない」といった条項を入れることで、相殺しやすくなります。“一定の場合”として「先方が銀行取引停止処分になった場合」といった客観的事情に加えて、「先方の信用状況が十分でないと当方が判断した場合」といったような主観的事情を記載しておけば、安心です(もちろん、このような規定は「諸刃の剣」といえ、当方の経営危機時に危機を加速させるリスクもある点には留意が必要です)。万が一に備え、自社の取引基本契約を見直してみましょう(「取引先が経営危機にあることがわかった」の「「期限の利益」を喪失させるための方策」を参照してください)。また、取引基本契約を締結していない取引先があれば、今後も取引が見込まれる場合、取引基本契約を締結するようにしましょう。
- 相殺のための内容証明郵便の例
-
上述のとおり、相殺は一方的な意思表示で行うことができます(すなわち、相手の承諾は不要です)。また、意思表示は口頭で行うことも可能ですが、後々トラブルになる可能性を考慮すると、相殺の通知書を内容証明郵便で送付するのが安全です。以下に、相殺の意思表示をするために送付する内容証明郵便の例を示しますので、参考にして下さい。
通 知 書
当社が貴社に対して有する下記(1)の債権は、平成●年●月●日にその支払期日が到来したものの貴社からのお支払いがないため、同債権と貴社が当社に対して有する下記(2)の債権とを対当額で相殺いたします。
記
(1)金●●円
ただし、当社の貴社に対する平成●年●月●日付け商品取引基本契約に基づく平成●年●月●日現在における売掛債権
(2)金●●円
ただし、貴社の当社に対する平成●年●月●日付け商品取引基本契約に基づく平成●年●月●日現在における売掛債権
- こんな相殺は否認される
-
以上のとおり、相殺は有効な債権回収策ですが、得意先がその後に法的倒産手続に入った場合には、その効力が否定される可能性もあります。例えば、破産手続を前提にすると、破産手続開始後に新たに債務を負担して既存の債権と相殺したり、債務者と通謀したりする行為はもとより、破産手続開始前に債務を負担している場合でも、それが支払停止の後であるようなときには、一定の例外(*)を除き、その支払停止等の事実を知っている者による相殺は否定されています。端的にいうと、得意先が倒産の危機にある状況下で、相殺によって他の債権者に先んじて回収するために意図的に債務を負担するような行為は許されないということです。これは、得意先の債権者の平等を図るためと言えます。とはいえ、得意先がその後に倒産手続に入るかどうかも定かではない状態では、とりあえず回収できるものは回収し、後でそれが問題になったときにその対応を考えざるを得ないと言えます。
* 支払停止があったことを知った時より前に生じた原因に基づく債務の負担などが該当します。
通謀 : お互いに連絡しあって、意を通じておくこと
- 得意先が倒産した場合に開示すべき事項
-
得意先が倒産した場合、取締役としては債権の回収がどうなるかに目が行きがちですが、上場会社であれば、証券取引所の適時開示制度に基づき、投資家などのステークホルダーに対して得意先の倒産に関する情報を遅滞なく開示することが求められている点も忘れてはいけません。
得意先が倒産した場合に上場会社に適時開示が求められる事項には、主として次のような項目があります。
(1)「金額的に重要」な債権の取立不能または取立遅延
(2)取引先との取引停止の影響が重要な場合
(3)業績予想の大幅な修正
(1)は、取引先が手形・小切手の不渡り、破産の申立て等を行ったことにより、当該取引先に対する「金額的に重要」な売上債権や貸付金等について自社や連結子会社で債務の不履行のおそれが生じた場合が該当します。この場合、上場会社はその取引先の概要(名称、所在地、代表者氏名、資本の額および事業の内容)、取立不能または取立遅延のおそれが生じた経緯、当該取引先に対する債権の種類および金額、今後の見通しについて開示が必要になります。開示が必要となる「金額的に重要」な水準とは、以下のいずれかに該当する場合を指します。
a.債権の取立不能または取立遅延のおそれのある額が、最近事業年度の末日における純資産額の3%以上の額である場合
b.債権の取立不能または取立遅延のおそれのある額が、最近事業年度における経常利益または当期純利益の30%以上であると見込まれる場合(*)
* 最近事業年度の経常利益または当期純利益が10億円未満の場合は、最近5事業年度の経常利益または当期純利益の平均(利益ではなく損失を計上していた場合は損失をゼロに置き換えたうえで平均を計算します)と比較します。
(2)の「取引先との取引停止の影響が重要な場合」には、自社や連結子会社において、大口の取引先との取引が停止した場合や、売上高や仕入高または損益に重要な影響を及ぼす取引先との取引が停止した場合が該当します。この場合、上場会社は、取引停止に至った経緯、取引の内容(取引先、取引の種類、売上高・仕入高の実績)および今後の見通しについて開示する必要があります。開示が必要となるケースは以下のとおりです。
a.主要取引先との取引停止(*1)
b.取引先との取引停止(*2)が発生した場合で、当該取引先との取引の停止による売上高の減少額の合計が、当期以降3事業年度の間、最近事業年度の売上高の10%以上であることが見込まれる場合
*1 前事業年度における売上高または仕入高が売上高の総額または仕入高の総額の10%以上である取引先との取引停止を言います。ただし、当期以降3事業年度の間、当該取引停止に伴う売上高の減少が最近事業年度の売上高の10%未満であることが見込まれる場合は開示対象外とされています。
*2 同一事由または同一時期の複数の取引先との取引停止を含みます。
(3)の業績予想の大幅な修正とは、上述した(1)(2)などの影響を受け、上場会社において業績予想と実績の着地見込みとの間に、大幅なかい離が生じた場合に必要となる「修正後の業績予想」の開示のことです。ここで「大幅なかい離」とは、売上高に10%以上の増減が見込まれる場合や、営業利益・経常利益・当期純利益に30%以上の増減が見込まれる場合を指します(業績予想の修正の公表が必要となる基準については「業績予想を修正したい」の「「業績予想の修正」の判断基準と開示すべき事項」を参照してください)。
これとは別に、上場会社等の有価証券報告書の提出会社の場合、自社や連結子会社で多額の取立不能債権等が発生すると、財務(支)局に臨時報告書を提出する必要があります。具体的には、以下の2つの要件の双方に該当すると、臨時報告書の提出が必要になります。
(ア)得意先や債務の保証先に手形・小切手の不渡り、破産手続開始の申立て等またはこれらに準ずる事実が発生し
かつ
(イ)その提出会社の最近事業年度末日における純資産額の3%以上に相当する額の債務者等に対する売掛金、貸付金、その他の債権につき取立不能または取立遅延のおそれが生じた場合
臨時報告書に記載すべき内容は、以下のとおりです。
・その債務者等の名称、住所、代表者の氏名および資本金または出資の額(個人の場合には、その氏名および住所)
・その債務者等に生じた事実および事実が生じた年月日
・その債務者等に対する債権の種類および金額ならびに保証債務の内容および金額
・その事実が提出会社の事業に及ぼす影響
- 会計上は3つの区分で債権を分類して評価を変える
-
資金的にゆとりのある債務者への債権額100万円と、夜逃げ寸前の債務者への債権額100万円は、同じ100万円の債権であっても価値が異なります。仮に両方の債権とも譲渡が可能であるとすると、資金的にゆとりのある債務者への債権100万円は100万円に近い価格で譲渡できるのに対して、夜逃げ寸前の債務者への債権100万円は大きくディスカウントされることでしょう。
このように債務者の資金繰りの状況次第で、債権の回収可能性は大きく変わると言えます。そこで、会計上、債権の評価に際して、回収可能性に応じた評価を行う必要があります。債権の評価は、貸倒見積高を合理に見積り、それを貸倒引当金として設定することにより行われます。
この点、会計上の貸倒引当金について規定している「金融商品会計基準」では、債務者の財政状態および経営成績等に応じて、次の3つに債権を区分しています。
| (ア)一般債権 |
何の問題も起きていない債権 |
| (イ)貸倒懸念債権 |
経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているかまたは生じる可能性の高い債務者に対する債権 |
| (ウ)破産更生債権等 |
倒産に至った債権 |
得意先が倒産状態に陥った場合は(ウ)破産更生債権等に区分されます。
そして、「金融商品会計基準」はそれぞれの債権区分に応じて貸倒見積高の算定方法を定めています。
(ア)一般債権
一般債権であれば、債権全体または同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等合理的な基準により貸倒見積高を算定します。たとえば、一般債権の合計額が1,000のところ、過去の貸倒実績率が0.1%であれば、1(=1,000×0.1%)について貸倒引当金を設定します。
(イ)貸倒懸念債権
貸倒懸念債権に分類された債権は、その状況に応じて、次のいずれかの方法により貸倒見積高を算定します。
・債権額から担保の処分見込額および保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態および経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法
・債権の元本の回収及び利息の受取りに係るキャッシュ・フローを合理的に見積ることができる債権については、債権の元本および利息について元本の回収および利息の受取りが見込まれるときから当期末までの期間にわたり当初の約定利子率で割り引いた金額の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法
(ウ)破産更生債権等
破産更生債権等に分類された債権は、「財務内容評価法」により貸倒見積高を算定します。財務内容評価法とは、債権額から担保の処分見積額および保証による回収見込額を減額し、その残額について全額を貸倒見積高とする算定方法です。例えば、債権額が100のところ、担保の処分より30の回収が期待できる場合、残額の70について回収が不能であるとして貸倒引当金を設定することになります。
「債権の回収可能性がほとんどない」と判断された場合には、「貸倒損失」として債権から直接減額する処理を行います。この貸倒損失については、当該債権に係る前期末に計上しておいた貸倒引当金と相殺しますが、貸倒損失の方が貸倒引当金よりも多い場合は、相殺しきれないことから貸倒損失が残ってしまいます。なお、債権の回収可能性がほとんどないと判断される場合には、法的・形式的に債権が消滅する場合だけでなく、法的には消滅してなくても実質的に回収不能と判断される場合も含まれます。
- 税務上は“決定的な事象”の有無が判断の分かれ目に
-
得意先が倒産すれば売掛金や貸付金等の金銭債権が回収不能となる可能性はきわめて高くなるため、法人税における所得の計算上も、回収不能と見込まれる部分は自動的に「貸倒損失」として損金に算入できるものと考えがちです。しかし、貸倒損失の損金算入を企業の裁量だけで認めてしまうと、企業にとって判断が異なることから課税の不公平が生じたり、各企業が貸倒損失を自由に損金に計上することで国の法人税収が減ったりすることになります。そこで、法人税における所得の計算上、貸倒損失の損金算入は非常に限定的にしか認められない点に注意が必要です。すなわち、法人税法では、ある“決定的な事象”が発生しなければ、貸倒損失の損金算入は認めてくれないということです。
法人税上の貸倒損失の損金算入の基準は、法人税基本通達に定められており、以下の3つのケースについてのみ、損金算入が認められています。なお、会計上は、こういった事象に至る前の段階で財務内容評価法に基づき貸倒引当金が設定されている場合が多いと言えます。
(1)法律上の貸倒れ
次に掲げる事実の発生によって、会社の有する金銭債権の額の全部または一部が切捨てられた場合には、その額が法人税の計算上、損金の額に算入されます(法人税基本通達9-6-1)。
(ア)更生計画認可の決定または再生計画認可の決定による債権の切捨て
会社更生法または民事再生法の手続のなかで更生計画または再生計画の認可決定が行われ、そこで債権の切捨てが行われた場合、その債権は法律的に消滅したことになります。これにより、貸倒れの事実認定を客観的に行えることから、債権者における法人税の計算上、切り捨てられた債権の額の損金算入が認められます。
(イ)特別清算に係る協定の認可の決定による債権の切捨て
特別清算手続の場合、債務の弁済ができない部分は債務免除を受けることが清算の事実上の要件となるので、債権者との間で個別の和解をするか、あるいは、債権者が多数の場合や和解に応じない債権者がいる場合には、多数決原理が働く協定を用いることになります。協定は、清算会社が作成し債権者集会に対して申し出をすることができ、出席した債権者の過半数の同意および議決権者の議決権の3分の2以上の同意のいずれも満たすことで可決されます。協定が可決すると、不認可事由に該当しない限り裁判所は協定の認可決定をします。これにより、客観的に貸倒れの事実認定を行えることから、債権者における法人税の算定上、切り捨てられた債権の額の損金算入が認められます。
(ウ)法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定による債権の切捨て
(ア)と(イ)は、法律の規定に基づいて裁判所の関与のもとで行われる整理手続において行われる債権の切捨てですが、法律の規定によらず関係者の協議決定で債権の切捨てが行われることがあります。裁判所の関与を受けずに、主な債権者が債務者の債務整理および会社再建を図っていく私的整理と呼ばれる方法です(私的整理については「一口に「倒産」といっても内容は様々」を参照してください)。
法律の手続によらない任意の手続のため、協議決定の内容が“合理的なもの”でなければ、切捨額の損金算入は認められません。ここでいう“合理的なもの”とは、たとえばすべての債権者についておおむね同一条件での債権の切捨てが決定されたような場合です。
(エ)債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、書面による債務免除ないし債権放棄による債権の切捨て
法人税基本通達では「債務者の債務超過の状態が相当期間継続」した場合に、「書面」により「債務免除ないし債権放棄」をすることで、貸倒損失を法人税の計算上損金に算入することを認めています。もっとも、「相当期間継続」とは債務超過の状態がどの程度の期間継続した場合を指すのかについて明文の規定はありません。これは、一律に一定の継続期間を適用するべきではなく、あらゆる回収努力をしたにも関わらず回収を断念せざるを得ないと判断する期間による、という趣旨と言えます。このような期間、回収努力を行ったにも関わらず弁済を受けられず、また、担保や保証による回収見込みもないといった場合には、配達証明付内容証明郵便などの通知により債務免除の事実を明らかにすることで、債権者はその債権が貸倒れたとして、法人税の計算に際して、切り捨てた債権額を損金に算入することができます。
(2)事実上の貸倒れ(法人税基本通達9-6-2)
(1)のような法律的な貸倒れでなくても、債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、債権者はそれが明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができます。ここでポイントとなるのは、「全額が回収できない」という点です。会計上は、財務内容評価法に基づき、一部でも回収できない見込みがあれば貸倒引当金を計上する必要があります。
損金経理 : 確定した決算において費用または損失として経理すること
「全額が回収できない」点について、一般的には、債務者の経理担当者や債務整理を担当する弁護士から、時価ベースの貸借対照表や資金繰り表の開示を受けて、債権の全額が回収できないことを疎明する必要があります。ただし、その金銭債権について担保がある場合には、その担保を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理することができません。また、保証債務の場合、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできません(たとえば、倒産した取引先の銀行借入れについて債務保証していたため、これを肩代わりした場合、実際に銀行に返済した時点でなければ損金算入が認められません)。
疎明 : 税務署に主張や証明を行うこと
(3)売掛債権等の特例(法人税基本通達9-6-3)
債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権から備忘価額(通常は1円)を控除した残額を貸倒れとして損金経理することができます。
売掛債権 : 売掛金、受取手形等のこと。貸付金は含まれない。
(ア)債務者との取引を停止した時(証拠資料として取引停止処分通知書や督促状、残高確認書等を揃えておくことが望まれます)から1年以上経過した場合(担保がある場合は除かれます)
(イ)取立てが採算に見合わない少額滞留債権
以上のように、取引先の信用が悪化して、経営破綻もしくは実質的な経営破綻に至っているのであれば、税務上、貸倒損失の損金算入の可否を検討することになります。
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