2024/11/12 【特集】ファミリーマート事件から考える非公開化取引の買収価格

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

はじめに

伊藤忠商事がファミリーマートを非公開化した際の株式公開買付(TOB)価格が再度否定された。

東京高裁は2024年10月31日、ファミリーマートが伊藤忠商事と合意したTOB価格(2,300円)よりも300円高い価格(2,600円)を「公正な価格」とする東京地裁の判断を支持し、ファミリーマートの抗告を棄却する決定を下した。M&A当事者が合意した価格を上回る「公正な価格」を認定した裁判は、2013年以降わずか1件しかなかったため、その衝撃は大きい。

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2024/11/12 【特集】ファミリーマート事件から考える非公開化取引の買収価格(4・会員限定)

ファミリーマート事件

ファミリーマートは公正性担保措置を講じた。具体的には、取締役会は特別委員会を設置し、特別委員会に対して①ファミリーマートの企業価値の向上に資するかという観点から、非公開化取引の是非について検討・判断するとともに、②ファミリーマートの一般株主の利益を図る観点から、取引条件の妥当性及び手続の公正性について検討・判断した上で、③TOBについて取締役会が賛同するべきか否か、及び、ファミリーマートの株主に対してTOBへの応募を推奨するべきか否かを検討し、取締役会に勧告を行うこと、④取締役会における非公開化取引についての決定が、ファミリーマートの尐数株主にとって不利益なものでないかを検討して取締役会に意見を述べることを諮問し、その意見をファミリーマートに提出することを委嘱した。

また、取締役会は特別委員会に対し、必要に応じ自らの財務若しくは法務等のアドバイザーを選任することについて権限を付与することを決議し、特別委員会は、独自のリーガル・アドバイザーとして大手法律事務所を、独自のファイナンシャル・アドバイザー及び第三者評価機関として大手ファイナンシャルアドバイザリー会社を、それぞれ選任した(なお、他の潜在的な買収者による対抗的な買収提案が行われる機会を確保すること(マーケット・チェック)は行っていない)。

しかし、取締役会は、特別委員会の選任した大手ファイナンシャルアドバイザリー会社が伊藤忠商事の提案価格はファミリーマートの価値を反映していないという助言をしたにもかかわらず、伊藤忠商事の提案価格を受け入れた。そこで東京地裁は、「一般株主にとってできる限り有利な取引条件の獲得」に向けた交渉等を行う手続はなされなかったとして、「公正な手続」とは認めなかった。そして、「TOB公表前の市場株価」と「同種事例の買収プレミアム」を重視し、「ファミリーマートと特別委員会がそれぞれ選任した算定機関の算定結果」や「特別委員会がこれらの算定機関の助言に基づいて決定していた交渉方針」などを総合的に考慮し、TOB価格(2,300円)を上回る「公正な価格」(2,600円)を認定した。

東京高裁も、「価格水準が不十分といった特別委員会からの意見が尊重されず、TOBが一般に公正と認められる手続きにより行われたと認めることはできない」として、「公正な手続」とは認めず、地裁の判断を支持した。

米国の動向(会員限定)

2024/11/12 【特集】ファミリーマート事件から考える非公開化取引の買収価格(3・会員限定)

裁判の枠組み

裁判所は、非公開化取引を「公正な手続」と認めた場合には、当事者間で合意された価格を尊重し、そうでない場合には、当事者が主張する価値を評価して「公正な価格」を決定する。これは株式買取価格決定制度の母国である米国のデラウエア州の判例法の影響を受けている。

取締役が十分な情報に基づき熟慮の上、会社や株主の利益に適うという誠実な信念に基づいて行動すればその判断が尊重されるが、非公開化取引は、上記「2」で触れたように、上場子会社の取締役が一般株主の利益より親会社の利益を優先するおそれがあり、「汚染(taint)」されていると考えられることから、取締役の判断が尊重されるためには、「浄化措置(cleansing device)」が実施されることが条件となる。

この「浄化措置」とは、「独立当事者間取引」と同視し得る状況を確保し、一般株主に「十分な情報に基づき判断する機会」を確保するものでなければならない。具体的には、独立取締役で構成される「特別委員会」の設置などが考えられる。この点については、米国デラウエア州の判例法を参考に作成され、2019年6月28日に公表された経済産業省の「公正なM&Aの在り方に関する指針」に記載されている「公正性担保措置」が参考になる。


独立当事者間取引 : 利害関係のない当事者間で行われる取引のこと。
文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

<公正性担保措置>
出所:公正なM&Aの在り方に関する指針16頁
75263

ファミリーマート事件(会員限定)

2024/11/12 【特集】ファミリーマート事件から考える非公開化取引の買収価格(2・会員限定)

株式買取価格決定制度

会社法上、子会社の株式の過半数を保有している親会社は、TOBと株式併合による二段階取引を行い、上場子会社の株主をキャッシュアウト(スクイーズアウト)し、非公開化することができる。


株式併合 : 複数の株式を1株にまとめる(併合)することにより、発行済み株式数を減少させる手法のこと。例えば2:1の割合で株式を併合する場合、1株当たりの理論的な価値(株価)は2倍に調整されることから、株価を上げる要因の1つにもなり得る。ただし、株式併合は少数株主を締め出す結果を招くため、その実施にあたってはその理由を開示するとともに、株主総会の特別決議による承認を得る必要がある。
文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム
キャッシュアウト : 現金を対価として少数株主を強制的に会社から排除すること。スクイーズアウトとも呼ばれる。
文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

ただ、親会社による上場子会社の非公開化取引では、親会社が株主総会における議決権の行使や取締役の派遣等を通じて上場子会社の経営に一定の影響力を及ぼし得るという関係上、上場子会社の取締役が一般株主の利益よりも親会社の利益を優先するおそれや、親会社がそうした影響力を背景に自己に有利な取引条件を一方的に決定するおそれがある。

そこで非公開化に反対する株主は、上場子会社に対し、自己の有する株式を「公正な価格」で買い取ることを請求し、両者間で協議が調わなかった場合には、会社法182条の5第2項に基づき裁判所に対して株式買取価格決定の申立てを行うことができ、これを受け裁判所が「公正な価格」を決定することになる。

裁判の枠組み(会員限定)

2024/11/12 【特集】ファミリーマート事件から考える非公開化取引の買収価格(6・会員限定)

おわりに

伊藤忠商事のように、子会社の事業環境に鑑み、子会社を上場子会社として維持するのではなく、子会社にグループの経営資源を再配分し、子会社と親会社がより一体となって、従来のビジネスモデルの継続にとどまらない新たなビジネスモデルへの転換に果敢に挑み、市場環境の急激な変化に機動的かつ迅速に対応していくことを検討している企業は多いものと思われる。

しかし、株主も裁判所も、非公開取引は「汚染」されていると考えている。それを「浄化」するためには、子会社の価値を精緻に評価するとともに、第三者評価機関による子会社の価値評価を真摯に受け入れる必要がある。とりわけ、株価が価値より著しく低い「ミスプライシング」時に非公開化する場合には、細心の注意が必要になる。買収価格と株価の差である「買収プレミアム」が高かったとしても、買収価格が価値よりも著しく低ければ、株主も裁判所も黙っていないからだ。

裁判所の判断は日米で異なるが、米国には、日本の親会社は、子会社株式をIPOによって株式市場で高く売り、その後、M&Aによって株式市場で安く買い戻していると揶揄する研究結果もあり、たとえ裁判にならなかったとしても、非公開取引公表後、外国人株主が株式市場で声を上げ、メディアで喧伝する可能性も考えられる。そうならないためにも、非公開化時の買収価格はそれなりの“覚悟”(高値)をもって値付けする必要がある。

<参考文献>
・鈴木一功=吉村一男「「公正な価格」における市場株価の取扱い-ファミリーマート株式買取価格決定申立事件決定を踏まえて―」商事法務2337号(2023年)16頁
・吉村一男「米国・デラウェア州の会社裁判におけるバリュエーションの争点」鈴木一功=田中亘編著『バリュエーションの理論と実務』(日本経済新聞出版、2021年)158頁

2024/11/12 【特集】ファミリーマート事件から考える非公開化取引の買収価格(5・会員限定)

米国の動向

上記裁判所の判断について、「ファミリーマートは公正性措置を講じたにもかかわらず、なぜ裁判所はTOB価格を尊重しないのか」との疑問を持つ向きもあろう。しかし、米国デラウエア州の裁判所は概して、非公開化取引を「公正な手続」と認めるケースは少なく、当事者が主張する価値を評価し、「公正な価格」を決定するケースが多い。

2006年から2022年の非公開取引では、「公正な手続」が認められ、買収価格が尊重されたケースは17%に過ぎず、83%のケースがDCF法による価値を用いて買収価格を上方修正し、「公正な価格」を決定している。これは、支配株主が存在する会社の非公開化取引ではマーケット・チェックができないため、「独立当事者間取引」と同視し得る状況を確保できないと考えられているからである。

おわりに(会員限定)

2024/11/11 WEBセミナー『グラス・ルイス 2024年株主総会シーズンサマリー、および2025年助言方針改訂案など(日本)』配信開始!

会員の皆様に必要な情報をいち早くお届けするべく、2024年11月11日(月)より下記のWEBセミナーの配信を開始いたしました。

テーマ 講師
グラス・ルイス 2024年株主総会シーズンサマリー、および2025年助言方針改訂案など(日本) グラス・ルイス ジャパン アジアリサーチ
マネージャー
小暮 道夫 様

■WEBセミナーの詳細

セミナー
の内容
本セミナーでは、主要議案助言内容など6月株主総会を中心に2024年株主総会シーズンを振り返っていただいた後、社外取締役に求められる役割と期待、2025年から適用される助言方針の改訂内容、さらには2026年以降に適用を検討している助言方針について解説していただきます。
講師のご紹介 Manager, Asian Research, Glass Lewis Japan
小暮 道夫 様

2019年、グラス・ルイス入社。現在は同社マネージャーとして、日本市場のリサーチ業務、企業とのエンゲージメントを担当。

<グラス・ルイスについて>
独立した議決権行使助言アドバイザリーおよび議決権行使サービスを提供する大手グローバルプロバイダー。
1,300社以上の世界有数の機関投資家にサービスを提供しており、クライアントの運用資産額の合計は40兆米ドルを超える。年間で100以上のマーケットで、30,000以上のレポートを発行。日本市場ではは3,000以上(約2,800社)。エンゲージメント年間実績はグローバルで1,800社以上、日本では400社以上。

会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
■会員向けURL(ログインが必要です)
https://govforum.jp/member/webseminar-webseminar-l/75236/

非会員の方は下記URLよりWEBセミナーの視聴をお申込みいただけます。
■非会員向けURL(グーグルフォームが立ち上がります)
https://forms.gle/fi2PFLomM5ouhRza7

<収録月>
2024年11月

<収録時間>
前半34分、後半15分

<視聴環境>
ブラウザー上で視聴できます。インターネットエクスプローラー、エッジで再生できない場合は、ChromeまたはFirefoxなど他のブラウザーをお試しください。また、インターネットに接続する際にプライベートネットワークやプロキシサーバーを経由している場合やファイアーウォールのセキュリティレベルが高い場合には、サンプル動画が再生されない可能性があります。
万が一、こちらのサンプル動画が再生されない場合、端末を管理するシステム管理者にお問い合わせください。

2024/11/11 【Webセミナー】グラス・ルイス 2024年株主総会シーズンサマリー、および2025年助言方針改訂案など(日本)

概略

【WEBセミナー公開開始日】2024年11月11日

本セミナーでは、主要議案助言内容など6月株主総会を中心に2024年株主総会シーズンを振り返っていただいた後、社外取締役に求められる役割と期待、2025年から適用される助言方針の改訂内容、さらには2026年以降に適用を検討している助言方針について解説していただきます。

【講師】
グラス・ルイス ジャパン アジアリサーチ
マネージャー
小暮 道夫 様

セミナー資料 グラス・ルイス 2024年株主総会シーズンサマリー、および2025年助言方針改訂案など(日本).pdf
セミナー動画

フォーラムセミナー_2024年株主総会シーズンサマリー(前半)

752361

フォーラムセミナー_2024年株主総会シーズンサマリー(後半)

752362

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2024/11/11 【WEBセミナー】グラス・ルイス 2024年株主総会シーズンサマリー、および2025年助言方針改訂案など(日本)(会員限定)

概略

【WEBセミナー公開開始日】2024年11月11日

本セミナーでは、主要議案助言内容など6月株主総会を中心に2024年株主総会シーズンを振り返っていただいた後、社外取締役に求められる役割と期待、2025年から適用される助言方針の改訂内容、さらには2026年以降に適用を検討している助言方針について解説していただきます。

【講師】
グラス・ルイス ジャパン アジアリサーチ
マネージャー
小暮 道夫 様

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フォーラムセミナー_2024年株主総会シーズンサマリー(前半)

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2024/11/08 グローバルな機関投資家が筆頭独立社外取締役に求める役割

2024年7月23日ニュース「伊藤レポートから10年、今後のコーポレートガバナンスの論点は?」でお伝えしたとおり、経済産業省に設置された「持続的な企業価値向上に関する懇談会」がとりまとめた「座長としての中間報告」では、取締役会の実効性を高めるための施策として「筆頭独立社外取締役」の選定が改めて取り上げられている。

持続的な企業価値向上に関する懇談会(座長としての中間報告
また、社外取締役に期待される役割が高まるにつれ、社外取締役が経営陣や株主等との対話を行う必要性が増す。このため、社外取締役の中から、単なる調整役としてではなく、様々な対話の中心として、主導的な役割・責任を果たす社外取締役を「筆頭独立社外取締役」等として選定しておくことが効果的であり、「筆頭独立社外取締役」をはじめとする社外取締役の役割・責任を定義しておくことが重要との意見もあった。

コーポレートガバナンス・コード(補充原則4-8②)では、筆頭独立社外取締役とは社内外の役員間で「連絡・調整」「連携」を図る者とされている。

コーポレートガバナンス・コード補充原則4-8②
独立社外取締役は、例えば、互選により「筆頭独立社外取締役」を決定することなどにより、経営陣との連絡・調整や監査役または監査役会との連携に係る体制整備を図るべきである。

これに加えて、コーポレートガバナンス・コードの附属文書である「投資家と企業の対話ガイドライン」では、株主との「面談の対応者」としての役割が課されている。

投資家と企業の対話ガイドライン4-4-1
株主との面談の対応者について、株主の希望と面談の主な関心事項に対応できるよう、例えば、「筆頭独立社外取締役」の設置など、適切に取組みを行っているか。

では、そもそも筆頭独立社外取締役の選任状況はどうなっているのだろうか。補充原則4-8②をコンプライしているか否かは開示対象ではないため、当フォーラムではTOPIX100構成銘柄のうち独自の「コーポレートガバナンス基本原則」「コーポレートガバナンス・ガイドライン」を策定・開示している企業を対象に、「筆頭独立社外取締役」に関する規定を置いているかどうかを調査した。その結果、・・・

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