2024/11/08 グローバルな機関投資家が筆頭独立社外取締役に求める役割(会員限定)

2024年7月23日ニュース「伊藤レポートから10年、今後のコーポレートガバナンスの論点は?」でお伝えしたとおり、経済産業省に設置された「持続的な企業価値向上に関する懇談会」がとりまとめた「座長としての中間報告」では、取締役会の実効性を高めるための施策として「筆頭独立社外取締役」の選定が改めて取り上げられている。

持続的な企業価値向上に関する懇談会(座長としての中間報告
また、社外取締役に期待される役割が高まるにつれ、社外取締役が経営陣や株主等との対話を行う必要性が増す。このため、社外取締役の中から、単なる調整役としてではなく、様々な対話の中心として、主導的な役割・責任を果たす社外取締役を「筆頭独立社外取締役」等として選定しておくことが効果的であり、「筆頭独立社外取締役」をはじめとする社外取締役の役割・責任を定義しておくことが重要との意見もあった。

コーポレートガバナンス・コード(補充原則4-8②)では、筆頭独立社外取締役とは社内外の役員間で「連絡・調整」「連携」を図る者とされている。

コーポレートガバナンス・コード補充原則4-8②
独立社外取締役は、例えば、互選により「筆頭独立社外取締役」を決定することなどにより、経営陣との連絡・調整や監査役または監査役会との連携に係る体制整備を図るべきである。

これに加えて、コーポレートガバナンス・コードの附属文書である「投資家と企業の対話ガイドライン」では、株主との「面談の対応者」としての役割が課されている。

投資家と企業の対話ガイドライン4-4-1
株主との面談の対応者について、株主の希望と面談の主な関心事項に対応できるよう、例えば、「筆頭独立社外取締役」の設置など、適切に取組みを行っているか。

では、そもそも筆頭独立社外取締役の選任状況はどうなっているのだろうか。補充原則4-8②をコンプライしているか否かは開示対象ではないため、当フォーラムではTOPIX100構成銘柄のうち独自の「コーポレートガバナンス基本原則」「コーポレートガバナンス・ガイドライン」を策定・開示している企業を対象に、「筆頭独立社外取締役」に関する規定を置いているかどうかを調査した。その結果、独自の「コーポレートガバナンス基本原則」「コーポレートガバナンス・ガイドライン」を策定・開示している企業46社のうち、筆頭独立社外取締役に関する記載があったのは11社と著しく少ないことが判明した。TOPIX100銘柄でもこの状況であることから、上場会社全体における筆頭独立社外取締役の設置割合はかなり低いことが想定される。

上記11社が筆頭独立社外取締役の権限や役割をどのように定めているのか当フォーラムが確認したところ、下表のとおり、大部分はコーポレートガバナンス・コード補充原則4-8②が求める「連絡・調整」「連携」にとどまり、次いで補充原則4-8①「独立社外者のみを構成員とする会合」のリード役とする事例が見られた。「投資家と企業の対話ガイドライン」4-4-1が期待する「面談の対応者」としたのは2社のみと、極めて限定的だった。

筆頭独立社外取締役に関する記載内容(※重複あり)
「設置する」のみ(権限・役割の記載なし) 2社
経営陣との連絡・調整、監査役(会)との連携 7社
社外者のみの会議体における議長・委員長 5社
独立社外取締役の立場を代表して取締役会議長を支援 1社
株主やステークホルダーなどとの面談の対応 2社

グローバルな機関投資家と意見交換する場である「ジャパン・コーポレート・ガバナンス・フォーラム」においても、社外取締役との対話を強く望む声があることは、金融庁に設置された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」でも紹介されている(第29回会合の参考資料①参照)。上場会社は、投資家との対話を積極化するための施策として、投資家との面談という役割・権限を有する筆頭独立社外取締役の設置を検討すべきだろう。

ジャパン・コーポレート・ガバナンス・フォーラムにおける意見の詳細
エンゲージメントにおける独立社外取締役の役割は重要。社外取締役と株主が容易にエンゲージメントを行えるようにするのがベストプラクティス。
社外取締役自身も投資家との面談を熱望しているのに、会社がゲートキーパーとして面談を阻害していることもある。

2024/11/07 サステナビリティ開示基準を巡り2つの大きな動き

サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は現在、2024年3月に公表されたサステナビリティ開示基準の公開草案(【2024年6月の課題】Q&Aで学ぶ役員が知っておきたいSSBJ公開草案の概要参照)に対して寄せられた意見を踏まえ、公開草案の見直し等が必要かどうかを検討している。こうした中、押さえておきたい2つの大きな動きがある。


SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が2022年7月1日に設立された。

1つ目が、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2024/11/07 サステナビリティ開示基準を巡り2つの大きな動き(会員限定)

サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は現在、2024年3月に公表されたサステナビリティ開示基準の公開草案(【2024年6月の課題】Q&Aで学ぶ役員が知っておきたいSSBJ公開草案の概要参照)に対して寄せられた意見を踏まえ、公開草案の見直し等が必要かどうかを検討している。こうした中、押さえておきたい2つの大きな動きがある。


SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が2022年7月1日に設立された。

1つ目が、温室効果ガス排出量を算出する負担が増加する可能性が出てきたということだ。

SSBJのサステナビリティ開示基準案は、(1)サステナビリティ開示基準の適用案(情報の記載場所や報告のタイミングなど)、(2)一般開示基準案(サステナビリティ全般に関する開示項目)、(3)気候関連開示基準案(気候に関する開示項目)、の3つから構成されている。今回大きな動きがあったのが、このうちの気候関連開示基準案である。

気候関連開示基準案では温室効果ガス排出量の開示を求めているが、既に現在も「地球温暖化対策の推進に関する法律」(以下、温対法)によって、温室効果ガスを多量に排出する事業者(特定排出者)は温室効果ガスの排出量を算定し、国(当局)に報告することが義務付けられており、相当数の上場企業が特定排出者に該当している(特定排出者の検索はこちらから)。


地球温暖化対策の推進に関する法律 : 国、地方公共団体、事業者、国民が一体となって地球温暖化対策に取り組むための枠組みを定めた法律。京都議定書が採択された1997年の翌年、1998年に制定された。その後、2005年の改正で、温室効果ガスを多量に排出する事業者(特定排出者)に温室効果ガスの排出量を算定し、国に報告することを義務付ける「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」が制定された。

そこで気候関連開示基準案では、企業の負担を減らす観点から、既に当局に提出した温対法に基づく温室効果ガス排出量のデータのうち、直近のデータを用いることを提案したうえで(気候基準案53項)、「データの算定期間」と「報告期間」の差異が1年を超える場合には追加の開示を求めることとしている(気候基準案54項)。

これらの案に対しては賛成意見も聞かれるものの、当局に提出した温対法に基づく排出量を用いることで得られるコスト低減メリットよりも、サステナビリティ関連財務開示の「報告期間」と温室効果ガス排出量の「算定期間」に差異が生じることによる情報の有用性の低下への強い懸念が寄せられている。また、温対法で報告が求められる温室効果ガス排出量は、スコープ1およびスコープ2相当であり、スコープ3については結局、国際的に認められた温室効果ガス排出量の算定と報告のためのガイダンスであるGHGプロトコルを用いて算出しなければならないためコスト低減メリットは限定的であり、むしろ同じ報告企業であってもスコープ1およびスコープ2と、スコープ3との間で算定期間が異なることに対する懸念も寄せられている。


スコープ1 : スコープ1 : 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出のこと。 スコープ2 : 他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う温室効果ガスの間接排出のこと。 スコープ3 : 事業者自ら排出している温室効果ガス(二酸化炭素等)であるScope1、Scope2以外の間接排出、具体的には「事業者の活動に関連する他社」による温室効果ガスの排出のこと。
GHGプロトコル : 「温室効果ガスプロトコルの企業算定及び報告基準(2004年)」のことで、国際的に認められたGHG(Greenhouse Gas)排出量の算定と報告をするためのガイダンスの1つ。プロトコルとは「規約」や「議定書」といった意味を持つ。「持続可能な開発のための世界経済人会議」(WBCSD)及び「世界資源研究所(WRI)によって開発された。サステナビリティ開示基準で定めているのは「GHGプロトコル(2004年)」のみだが、法域の当局又は企業が上場する取引所が、温室効果ガス排出を測定する上で異なる方法を要求している場合には、当該方法によることを容認している。

そこでSSBJは公開草案を変更し、気候基準案53項および54項にある「温対法」に関する定めを削除するとともに、温室効果ガス排出量の算定に用いる方法(GHGプロトコルおよび温対法)に関係なく、報告期間に係る排出量を算定することとする方針だ。

また、温室効果ガス排出量の「算定期間」が「報告期間」に一致していない場合には期間調整が必要になるが、様々な調整方法が考えられるため、SSBJは限定的な調整方法を基準において定めることはせず、企業の活動を忠実に表現できるよう、「合理的な方法により調整しなければならない」と定めるにとどめるとしている。ただ、「合理的な方法による調整」とは具体的にどのようなものなのか分からないという企業側の懸念に対応するため、解説記事において、調整計算の事例を提供するとのことだ。

今回の見直しは公開草案の内容を大きく変更するものであるため、SSBJは再度、範囲を限定して早急に公開草案により意見を募る。サステナビリティ開示基準案を「2025年3月末」に最終化する方針に変更はないため、公開草案は年内にも公表される見込み。

2つ目の大きな動きが、「後発事象」に関する基準の開発の件だ。2024年10月24日のニュース「SSBJ、後発事象に関するサステナビリティ開示実務対応基準を開発へ」でお伝えしたとおり、SSBJは後発事象が日本特有の論点であることを踏まえ、後発事象に関するサステナビリティ開示実務対応基準を開発する方針を示していたが、ここに来て急遽方針を転換し、基準の開発を取りやめることになった。方針転換の大きなきっかけとなったのは、日本特有の取扱いを定める基準を開発することで、IFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)との間にかい離が生じることを懸念する意見だ。また、そもそも「財務諸表に関連する後発事象に関する情報」と「財務諸表に関連しない後発事象に関する情報」の区分が曖昧といった意見や、関連する財務諸表との間のつながりを理解できるようにする開示方法は内容によって様々、といった意見も寄せられていた。


後発事象 : 財務諸表の報告期間終了後に発生した事象のこと。これらの事象は、財務諸表の作成や開示に影響を与える可能性があるため、適切に開示することが求められる。
ISSB : 「International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)」の略称。資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が2021年11月に設立した団体。

これらの意見を踏まえSSBJは、企業が作成した「財務諸表」を所与とし、財務諸表との間のつながりが理解できるように情報を開示しなければならないことを確認するにとどめ、公開草案の記載を修正したり、新たにサステナビリティ開示実務対応基準を開発したりすることはしないと明言している。ただし、一定の指針を示すことは有用であることから、サステナビリティ開示基準案最終化後に解説記事を提供するとのことだ。

2024/11/06 機関投資家は統合報告書のトップメッセージから何を読み取っているのか

統合報告書を発行する日本企業は1,000社を超え、いまや資本市場との対話において欠かせないツールとなった。巷では、今年度に発行された統合報告書を対象にしたアワードの審査がこれから佳境を迎える。一方、多くの3月決算企業の制作担当者は、早くも来年度の統合報告書の作成準備を始めている。社長等の経営トップに「トップメッセージ」の執筆依頼が来るのはまだ先だが、経営トップは今のうちから来年度のメッセージで何を伝えるべきかを熟慮しておく必要がある。機関投資家(の運用担当者。以下同)にとって、トップメッセージは統合報告書における最も重要なコンテンツと言えるからだ。

では、機関投資家はトップメッセージから何を読み取っているのだろうか。本稿では、筆者がこれまで対話を重ねてきた機関投資家の本音を紹介しよう。

機関投資家はトップメッセージに、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2024/11/06 機関投資家は統合報告書のトップメッセージから何を読み取っているのか(会員限定)

統合報告書を発行する日本企業は1,000社を超え、いまや資本市場との対話において欠かせないツールとなった。巷では、今年度に発行された統合報告書を対象にしたアワードの審査がこれから佳境を迎える。一方、多くの3月決算企業の制作担当者は、早くも来年度の統合報告書の作成準備を始めている。社長等の経営トップに「トップメッセージ」の執筆依頼が来るのはまだ先だが、経営トップは今のうちから来年度のメッセージで何を伝えるべきかを熟慮しておく必要がある。機関投資家(の運用担当者。以下同)にとって、トップメッセージは統合報告書における最も重要なコンテンツと言えるからだ。

では、機関投資家はトップメッセージから何を読み取っているのだろうか。本稿では、筆者がこれまで対話を重ねてきた機関投資家の本音を紹介しよう。

機関投資家はトップメッセージに、①長期的な経営の方向性、②固有の強みに根ざした更なる成長ポテンシャル、③資本効率性、④経済価値と社会価値の両立、⑤それらを実現するために克服すべき課題と実現に向けた戦略、企業の根底にある企業理念・パーパスとの関わり、⑥自身の経営哲学、⑦実現に向けた自らの責任と熱意について、経営トップが自らの言葉で説得力をもって語っているかに注目している。一連のメッセージを通じて、機関投資家は経営トップの人となり、背景、目指すこと、やる気を感じるという。

トップメッセージは機関投資家の企業に対する評価や投資の意思決定に影響を及ぼす。国内の大手運用会社に勤務するベテランのファンド・マネージャーは、トップメッセージがつまらない企業に投資につながる魅力的なストーリーはほぼない、と語る。また、グローバル機関投資家の日本株最高投資責任者は、経営者を信用できなければ将来の財務パフォーマンスに確信を持つことができず、長期投資家としてコミットすることはできないと断言する。さらに、別のグローバル機関投資家のアナリストは、トップメッセージに株主価値向上への意識が感じられない企業の統合報告書はその後しばらく読まないと打ち明ける。せっかく作った統合報告書を機関投資家が読んでくれないと嘆く企業は少なくないが、その一因がトップメッセージにある可能性は十分にある。

経営トップが自ら執筆しているか、部下や統合報告書の制作支援会社に書かせているかは、機関投資家が読めばすぐに分かる。上記のような機関投資家の期待に応えるメッセージが書けるのは、経営トップしかいないからだ。機関投資家からは、「トップメッセージを読めば、どの支援会社が入っているかおおよその見当がつく」という声さえ聞かれる。上記の日本株最高投資責任者は、株主・投資家に向けて経営トップ自らがメッセージを書いていない企業は資本市場と真剣に対話する気がないと判断するという。

また、機関投資家は国際統合報告評議会の<IR>フレームワークの考え方に沿って、統合報告書を「財務資本の提供者」に対して価値創造ストーリーを示す媒体であると考えている点も心に留めておきたい。多くのステークホルダーを意識するあまり、株主・投資家への意識が希薄化したトップメッセージをよく目にするが、これは機関投資家にすこぶる評判が悪い。


国際統合報告評議会 : 英語名はInternational Integrated Reporting Council(IIRC)で、財務資本の提供者が利用可能な情報の改善、効率的に伝達するアプローチ確立等を目指し、英国で設立された、規制者、投資家、企業、基準設定主体、会計専門家、NGOにより構成される国際的な連合組織。IIRCは2013年、統合報告書の作成についての考え方をまとめた「国際統合報告フレームワーク(The International <IR> Framework)」を公表。それ以降、日本をはじめ、世界で統合報告化が進んだ。その後、米国SASB (サステナビリティ会計基準審議会)と合併し、VRF(=Value Reporting Foundation )となり、さらにVRFは2022年6月にISSB(国際サステナビリティ基準審議会)に統合された。

3月決算企業の進行期(2025年3月期)も既に3分の2を経過しつつあるが、日々の執務を通じて経験した出来事や経営上の重要テーマについて考えたこと、感じたことを記憶が新しいうちに機関投資家の視点を踏まえて振り返り、来年度の統合報告書のトップメッセージ作成に向けた準備を始めるべきだろう。第2四半期の決算説明会や機関投資家との対話で議論となったテーマや挙がった要望、新たな中期経営計画の策定において認識された課題や社内の議論の状況など、企業価値向上に向けた真摯な姿勢をアピールする材料はいくらでもあるはずだ。

本稿では、機関投資家の「運用担当者」の視点をお伝えしたが、同じ機関投資家でも、直接運用に携わらない「スチュワードシップ担当者」や「ESG担当者」のみと対話をしている企業には、上記で紹介したような運用担当者の声は届いていない可能性がある。冒頭で述べたとおり多くの運用担当者にとってトップメッセージは統合報告書における最も重要なコンテンツであり、それゆえ最初に読まれることになる。トップメッセージに対する彼らの関心は企業が考えるよりも遥かに高く、その評価は遥かに厳しい。トップメッセージ次第で、統合報告書だけでなく企業への評価も変わり得る。逆に、トップメッセージが変わると、企業を見る機関投資家の目は間違いなく変わる。経営トップが自らの想いを資本市場のステークホルダーに率直に伝えることで対話を活性化させ、株主・投資家からのコミットメントの獲得に向けてリーダーシップを発揮することが期待される。 

2024/11/05 「加速型」自社株買いのリスク

2024年も2か月を残すのみとなったが、今年の株式相場における需給の主役は何といっても自社株買いだ。1~9月の累計額(取得枠設定ベース)は12兆円を超え、既に通年の過去最高額を大きく上回っている。自社株買いは手元資金が豊富な大企業だけでなく、上場して間もない企業にも広がっており、その手法も変化している。8月初旬の株価急落局面でも迅速な自社株買いが見受けられたが、その中でも注目したいのが「加速型自社株買い」(Accelerated Share Repurchase:ASR)と呼ばれる手法だ。

一般的な自社株買いを市場買付けにより行う場合には、株価に影響しないよう2~3か月かけて執行される。これに対し加速型自社株買いとは、証券会社が機関投資家や大口の株主から(自社株買いを実施する企業の)株を借りて市場で売却し、企業がその株を買い戻す形で自社株買いを実現する仕組みで、“加速型”という名称のとおり、企業が迅速に大量の自社株を取得するのに適している。加速型自社株買いは米国では古くから普及しているが、日本では2022年8月にホームセンター大手のジョイフル本田が活用したのが初めてであり(当時の同社のリリースはこちら)、まだ事例は少ない。こうした中、今年5月、発行済み株式の5%強にあたる350万株の加速型自社株買いを発表したのが円谷フィールズホールディングス(以下、円谷フィールズ)だ(円谷フィールズのリリースはこちら)。

本事例では、SMB日興証券が円谷フィールズの大株主から同社の株を借り、その全株について、円谷フィールズが東京証券取引所のシステムを利用して5月 15 日付の同社の自社株買いに応募(同社に売却)することにより執行された。近年、自社株買いの規模が大型化する中、上限まで自社株を取得できないケースも多く、また、取得期間中にM&Aなどインサイダー規制の対象となる重要事実が発生したことにより取得を中断せざるを得ないケースもあったが、加速型自社株買いでは・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2024/11/05 「加速型」自社株買いのリスク(会員限定)

2024年も2か月を残すのみとなったが、今年の株式相場における需給の主役は何といっても自社株買いだ。1~9月の累計額(取得枠設定ベース)は12兆円を超え、既に通年の過去最高額を大きく上回っている。自社株買いは手元資金が豊富な大企業だけでなく、上場して間もない企業にも広がっており、その手法も変化している。8月初旬の株価急落局面でも迅速な自社株買いが見受けられたが、その中でも注目したいのが「加速型自社株買い」(Accelerated Share Repurchase:ASR)と呼ばれる手法だ。

一般的な自社株買いを市場買付けにより行う場合には、株価に影響しないよう2~3か月かけて執行される。これに対し加速型自社株買いとは、証券会社が機関投資家や大口の株主から(自社株買いを実施する企業の)株を借りて市場で売却し、企業がその株を買い戻す形で自社株買いを実現する仕組みで、“加速型”という名称のとおり、企業が迅速に大量の自社株を取得するのに適している。加速型自社株買いは米国では古くから普及しているが、日本では2022年8月にホームセンター大手のジョイフル本田が活用したのが初めてであり(当時の同社のリリースはこちら)、まだ事例は少ない。こうした中、今年5月、発行済み株式の5%強にあたる350万株の加速型自社株買いを発表したのが円谷フィールズホールディングス(以下、円谷フィールズ)だ(円谷フィールズのリリースはこちら)。

本事例では、SMBC日興証券が円谷フィールズの大株主から同社の株を借り、その全株について、円谷フィールズが東京証券取引所のシステムを利用して5月 15 日付の同社の自社株買いに応募(同社に売却)することにより執行された。近年、自社株買いの規模が大型化する中、上限まで自社株を取得できないケースも多く、また、取得期間中にM&Aなどインサイダー規制の対象となる重要事実が発生したことにより取得を中断せざるを得ないケースもあったが、加速型自社株買いでは自社株式の買取りが即日完了するため、投資家は大量の自己株式が漏れなく取得されたことを即座に“確信”できる。それによる投資家へのアナウンスメント効果や株価への強い反応が期待できる点が、加速型自社株買いの最大のメリットと言えよう。

一方、加速型自社株買いのデメリットとしては、例えば自社の経営状況が変化して現金が必要になっても、自社株買いを中止できないということが挙げられる。上述のとおり、証券会社が機関投資家や大口の株主から株を借りることが前提となる加速型自社株買いでは、企業は自社株の買付枠の全てを買い切ることにコミットしなければならない。そのため、財務体質が弱い会社が加速型自社株買い実施するとのリリースを出した場合には、格付け会社が格付けを見直す(引き下げる)こともある。実際、米国では航空宇宙・防衛関連の大手企業RTX(RTX Corporation:ニューヨーク証券取引所に上場)が加速型自社株買いの実施を発表したところ、ムーディーズとS&PはRTXの債務格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。

一般的に、配当と比較した場合の自社株買いの利点は「柔軟性」にあるが、加速型自社株買いは確実に執行されるがゆえに柔軟性はない。逆に言えば、「柔軟性がない=確実な執行」を意味するため、上述のとおり、投資家に対しては強いアナウンスメント効果を持つ。結論として、株価が低迷している企業は、通常の自社株買いよりもアナウンスメント効果が大きい加速型自社株買いを検討する余地は十分にあろう。ただし、検討にあたっては、今後現金が必要になることはないか、事業計画と照らし合わせながら入念に確認する必要がある。無理な自社株買いをして「格下げ」にならないよう、注意したい。

2024/11/01 【2024年11月の課題】日本企業のCEO後継者計画の課題と今後の方向性

2024年11月の課題

日本企業におけるCEO後継者計画は、コーポレートガバナンス・コードの施行・改訂および指名委員会の浸透によって、枠組みの整理が進みつつあります。一方で、依然として形式的な対応にとどまっている事例もあるなど、課題も見受けられます。具体的にどのような課題が存在し、またそれらの課題をどのように解決していくべきか、日本のコーポレートガバナンスの実情を踏まえて考えてみください。

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

模範解答を見る
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2024/10/31 2024年10月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
建設業を営む者が、業として請け負った建設工事を、他の建設業を営む者に請け負わせる場合には、下請法は適用されません(代わりに建設業法が適用されます)。もっとも、その場合でもフリーランス新法は適用されます(問題文は正しいです)。

こちらの記事で再確認!
2024年10月28日 自社だけでは完結せず フリーランス新法への抵触リスクを下げるためにやるべきこととは?(会員限定)

2024/10/31 2024年10月度チェックテスト第10問解答画面(正解)

正解です。
建設業を営む者が、業として請け負った建設工事を、他の建設業を営む者に請け負わせる場合には、下請法は適用されません(代わりに建設業法が適用されます)。もっとも、その場合でもフリーランス新法は適用されます(問題文は正しいです)。

こちらの記事で再確認!
2024年10月28日 自社だけでは完結せず フリーランス新法への抵触リスクを下げるためにやるべきこととは?(会員限定)