景品表示法改正のポイント
まず、今回の景品表示法(以下、景表法)改正のポイントを確認しておきましょう。
景表法は従来から「実際の商品・役務よりも優れた表示をすること」を禁止してきましたが、2013年秋に相次いで発覚したレストランにおける不当表示により商品の表示に対する社会の信頼が大きく揺らいだことを受けて景表法が改正され、新たに「表示管理体制」の整備が義務付けられるとともに、「課徴金」制度が導入されることになりました。
このうち「表示管理体制」の整備とは、適正な表示を行うため、商品の表示に関する責任者(表示管理担当者)や部門を置くことを企業に求めるものです。
また、「課徴金」は、違反行為が発覚した場合の行政処分として導入されたものです。これまで、景表法に違反した場合には、違法な表示を是正する「措置命令」が行われるのみでしたが、課徴金を導入することで、不当表示に対するより強い抑止効果を狙っています。課徴金の額は、商品・役務の売上額の3%となりました。特に、売上高が大きく利益率はそれほど高くない小売業者に課徴金が課せれた場合には、大きな痛手となるでしょう。ただし、違反行為を「自主申告」した事業者は、課徴金額の2分の1が減額されます(この点については後述)。
幅広い業種を対象とする景表法
景表法の対象となるのは小売業や飲食業だけではありません。景表法は、業種・業態を問わず、消費者に向けた表示全般を規制しています。
また、景表法では、不当表示の「主体」を行政処分の対象とするとの考え方がとられており、複数の者が主体的に表示に関与した場合には、当然そのすべての者が課徴金の対象となり得ます。例えば、中間流通業者、メーカーであっても、表示内容の決定に関与していたり、あるいは小売業者が川上の業者(メーカーや中間流通業者)の表示に基づいて誤表示を行っていたりした場合には、川上から川下(小売業者)まで一緒に景表法違反に問われる可能性があります(2014年6月13日のニュース「メーカーが景表法違反に問われる可能性も」参照)。後者の例の場合、小売業者が誤表示によって生じた損害(例えば、製品の回収にかかった費用や、損害賠償請求といった民事上の請求)を負担していれば、川上の業者は小売業者から求償を受けることになるでしょう。
「表示管理体制」の整備義務付けにより求められることとは?
では、「表示管理体制」の整備とは、企業に対し具体的にどのような対応を求めているのでしょうか。消費者庁は、次の7項目を挙げています。
(1)景品表示法の周知・啓発
(2)法令遵守の方針等の明確化
(3)表示等に関する情報の確認
(4)表示等に関する情報共有
(5)表示等を管理するための担当者等を定めること
(6)表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置
(7)不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応
このうち、企業としてまず対応すべきものは、(5)の「表示管理担当者」を置くことです。
企業は、広報や顧客を誘引するための店頭でのPOP*1まで様々な場において「表示」を行っていますが、こうした表示に関する責任を負う者として社内外に明示されるのが「表示管理担当者」です。財務におけるCFO、個人情報の保護をはじめとする情報管理におけるCPO*2のように、表示に関する責任者が「表示管理担当者」ということになります。
*1 “Point of purchase advertising”の略で(直訳すれば「購買箇所広告」「購買時点広告」で、ポップ広告、ピーオーピー広告と呼ばれることが多い)、書店などでよく見られる紙に商品の特徴やキャッチコピー、イラストなどを手描きした販促のための広告を指す。単純な広告ながらも、店の雰囲気に影響し、売上を大きく左右することもある。
*2 “Chief Privacy officer”の略で、個人情報保護に関する最高責任者のこと。
企業には、この表示管理担当者を中心に、景表法への抵触を回避するために社内で「適正な表示」の周知・啓発、情報共有を図ることや、法令順守方針を定めることが求められます。具体的には、社内報により景表法上違法とされた事例を知らせるほか、表示に携わる者を対象に社内セミナーを開催し、自社の表示を踏まえて、どのような違反が起こりやすいか(例えば、原材料についての違法表示が起こりやすいなど)を解説し、違法表示が起こらないように努めることになります。
表示管理体制は、内部統制システムの1つとして構築する必要
会社法上、大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上の会社)は、内部統制システムを構築・運用することが義務付けられています(会社法第362条5項)。具体的には、使用人の職務執行が法令や定款に適合することを確保する体制などを整備し、業務の適正性を確保しなければなりません(会社法施行規則100条)。景表法上の「表示管理体制」はまさに「使用人の職務執行が法令や定款に適合することを確保する体制」の整備に該当し、会社法上の内部統制システムの重要な柱である「リスク管理」の一環として、内部統制システムに組み込む必要があります。
具体的には、単に表示管理担当者という表示に関する社内の最高責任者や部門を定めるのみならず、広報、仕入れ・調達、営業、技術など、すべての部門が景品表示法違反防止に取り組むことが求められます。
そして、この「表示管理体制」を整備する義務は、改正景表法が施行される本年(2014年)12月1日から課されます。表示管理体制は、法令順守体制の1つとして内部統制システムに組み込まれる以上、少なくとも本年11月末までには整備しておく必要があります。
表示管理体制が不十分な場合の企業の責任は?
では、もし「表示管理体制」の整備が不十分だった場合、企業にはどのような責任が生じるのでしょうか?
表示管理体制に関する指針案によると(同指針については、2014年10月17日のニュース「11月中に表示管理体制の整備を」参照)、表示管理体制は、各社の規模や業態、取り扱う商品や役務の内容に応じた体制を構築すれば足りるとされています。したがって、実際に表示に関する問題が生じていない限りは、表示管理体制自体が問題にされることはなさそうです。
ただし、ひとたび表示に関する問題が生じた場合には、十分な表示管理体制が定められていたかどうかが問われることになります。この場合、「表示管理担当者」が責任を負うのは当然として、気になるのは、代表取締役をはじめとする他の取締役が責任を負うのかという点です。
一般的には、取締役は取締役会の構成員としてリスク管理体制を整備する義務を負っており、またリスク管理体制を構築する義務を履行しているかどうかを監視する義務があるとされています(大阪地判平成12年9月20日・大和銀行事件)。もっとも、「担当取締役以外」の他の取締役が責任を負うかどうかについて同判決は、「(担当取締役以外の取締役は)他の取締役(=担当取締役)の職務執行を信頼し、委ねる」ことを認めているため、担当取締役以外の取締役が責任を負うかどうかは、当該取締役が表示管理体制の構築にどの程度関わったかによることになるでしょう。どこまで関わるべきかは、不当表示が行われるリスクの高低や、不当表示が行われた場合に会社に生じる損害の程度を踏まえて、各社で検討することになります。
課徴金減免申請を行わなかった取締役に代表訴訟も
もし自社で不当表示が行われていた場合には、消費者庁に対し、不当表示があった旨の自主申告を行うことを検討する必要があります。改正景表法では、発覚した不当表示を自主的に当局に速やかに届け出た場合、課徴金額の2分の1を減額することとされているからです。
独占禁止法にもこれと類似の制度として「課徴金減免制度(リニエンシー)」というものがありますが、最近、取締役が減免申請を行わなかったことを理由に、株主代表訴訟が提起される事例が発生しています。カルテルの防止義務を怠ったのみならず、課徴金減免制度を利用しなかったことにより会社に損害を与えたというわけです。この事件は結果的には和解で終わりましたが、不祥事が発覚した場合の役員の対応について、警鐘を鳴らすものと言えます。
不当表示が発覚した場合においても、上述のとおり「表示管理体制」が十分に機能していたかどうかが問われるとともに、速やかに当局に自主申告しなかった場合にも役員が責任を問われる可能性があるということを肝に銘じておいてください。
予想される消費者庁による調査の本格化
昨秋の食品偽装事件を受け、商品や役務の表示に対する世間の関心は高まっています。こうした中、今後消費者庁は景表法違反に対する調査を本格化させ、課徴金を課すことによって、不当表示の抑止を図るものと考えられます。悪質な事案に対しては容赦なく課徴金を課し、また、これまで景表法違反とは無縁だった企業まで、違反に問われる恐れがあります。繰り返しになりますが、もしその場合に表示管理体制が整っていなかったことが判明すれば、役員の責任問題になりかねません。このような事態を避けるため、役員としては、まず上述した7項目を実践するよう努めることが必要です。