2014/10/07 アジア型経営モデルと欧米型経営モデルの融合

 世界経済におけるアジアの存在感は高まる一方であり、アジア地域が世界のGDPに占める割合は3割に迫るとともに、世界の製造業におけるシェアも5割近くに上っている。ただ、だからと言ってアジア企業が「グローバル化」を果たしているかというと、そうとは言えない。これは、世界の外国直接投資残高におけるアジア企業の割合は依然として2割に届かず(17%程度)、世界の製造業におけるシェアに比べると大きく見劣りしていることからもうかがえる。要するに、日本企業を含むアジア企業の多くは、アジア地域における安価な労働力の活用や政府の保護を背景に、国内を中心に成長を遂げてきたと言えるだろう。実際、アジアの大企業の3分の2は国営企業と財閥系企業(その多くが同族会社)が占めており、真のグローバル企業と言えるアジア企業はトヨタやサムスンなど一部に限られる。

 ただ、アジア企業の成長を支えてきた「安価な労働力」は中国を筆頭に失われつつあるうえ、欧米企業のアジア進出により企業間競争も激化している。こうした中、アジア企業はいま、経営モデルの転換を迫られていると言える。具体的には、国営や同族経営という柔軟性を欠く経営モデルから脱却してガバナンスの効いた「欧米企業型」の経営モデルを構築し、より多くのイノベーションを生み出すとともに、グローバル化の道に進むことが求められている。その好例が、・・・

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2014/10/07 アジア型経営モデルと欧米型経営モデルの融合(会員限定)

 世界経済におけるアジアの存在感は高まる一方であり、アジア地域が世界のGDPに占める割合は3割に迫るとともに、世界の製造業におけるシェアも5割近くに上っている。ただ、だからと言ってアジア企業が「グローバル化」を果たしているかというと、そうとは言えない。これは、世界の外国直接投資残高におけるアジア企業の割合は依然として2割に届かず(17%程度)、世界の製造業におけるシェアに比べると大きく見劣りしていることからもうかがえる。要するに、日本企業を含むアジア企業の多くは、アジア地域における安価な労働力の活用や政府の保護を背景に、国内を中心に成長を遂げてきたと言えるだろう。実際、アジアの大企業の3分の2は国営企業と財閥系企業(その多くが同族会社)が占めており、真のグローバル企業と言えるアジア企業はトヨタやサムスンなど一部に限られる。

 ただ、アジア企業の成長を支えてきた「安価な労働力」は中国を筆頭に失われつつあるうえ、欧米企業のアジア進出により企業間競争も激化している。こうした中、アジア企業はいま、経営モデルの転換を迫られていると言える。具体的には、国営や同族経営という柔軟性を欠く経営モデルから脱却してガバナンスの効いた「欧米企業型」の経営モデルを構築し、より多くのイノベーションを生み出すとともに、グローバル化の道に進むことが求められている。その好例が、同族経営の財閥系企業からグローバル企業へと脱皮したサムスンだろう。

 実際、既に中国やベトナムでは国有企業改革が進められているほか、日本で起こっている株式持合いの縮小に伴う“モノ言う株主”の台頭や、社外取締役の設置の実質的な義務付けなど安倍政権が進めるコーポレート・ガバナンス改革も、実はこの文脈の中にある。

 もっとも、日本が戦後大きな経済成長を遂げたように、国営や同族経営にもメリットがないわけではない。その最たるものは、「長期的な視野」に立って経営を進めることができるという点だ。この点は、アジア企業を成長させた要因の1つとして欧米でも認識されてきており、欧米企業の中にはこれに学ぼうとするところが少なくない。

 将来さらにグローバル化が進めば、いずれ欧米型経営モデルとアジア型経営モデルは融合していくことになるだろう。

2014/10/06 海外子会社への増資に潜む巨額リスク

 企業の海外進出意欲は高まる一方だが、たとえ進出先が成長著しい市場であったとしても、順風満帆に利益を上げられるとは限らない。進出の初期段階では、日本の親会社から海外子会社に対して増資を行わなければならないこともあろう。

 このような事例は一般的にあり得ることだが、そこには大きなリスクが潜んでいる。・・・

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2014/10/06 海外子会社への増資に潜む巨額リスク(会員限定)

 企業の海外進出意欲は高まる一方だが、たとえ進出先が成長著しい市場であったとしても、順風満帆に利益を上げられるとは限らない。進出の初期段階では、日本の親会社から海外子会社に対して増資を行わなければならないこともあろう。

 このような事例は一般的にあり得ることだが、そこには大きなリスクが潜んでいる。それは、株式の「有利発行」に関する法人税の問題だ。

 有利発行とは、文字通り新株を「有利な発行価額」で発行することを指す。例えば、1株当たりの時価が千円のところ5百円で新株を発行したようなケースが該当する。有利発行を行った場合、1株当たりの単価は低下する。つまり、既存の株主は不利益を被る一方で、有利発行を受けた株主はその分の利益を享受することになる。法人税法では、有利発行を受けた株主が享受する利益に着目し、これを法人税の課税対象としている(株主に税金が課される)。といっても、時価より1円でも低ければ課税対象になるというわけではなく、「有利発行」に当たるかどうかの判定は、時価と発行価額との差額が10%以上であるかどうか(10%以上なら有利発行に該当)によって行うこととされる。実際、海外子会社に増資を行った日本企業が「新株の有利発行を受けた」として課税を受けるケースが相次いでいるので要注意だ。

 ちなみに、「有利発行」の問題は、100%子会社に対する増資では起こり得ない。なぜなら、「有利」かどうかはあくまで他の株主(新株の発行を受ける株主以外の株主)との比較における問題であり、他の株主が存在しない以上、有利も不利もないからだ。

 日本企業が課税を受けたのも、100%子会社でない海外子会社に対して増資を行ったケース。海外子会社というと日本企業の100%子会社が少なくないが、国によっては、現地の法律で、外資による100%出資を認めず、必ず自国企業等による出資を組み込むことを求めているところがある(例えばタイ)。したがって、このような国にある海外子会社に増資を行った場合、必ず「有利発行」の問題が付いてくる。

 それにもかかわらず課税を受けてしまった理由は、そもそも税務上このような問題が発生し得るということへの認識不足に他ならない(顧問税理士も同様)。課税額は、大きいところでは100億円近くに及んでいる。役員会で海外子会社への増資が話題になった際に、「有利発行の問題はケアしているのか」との意見を出してみるべきだろう。

2014/10/05 【2014年9月の課題】表示管理体制:解答(会員限定)

景品表示法改正のポイント

 まず、今回の景品表示法(以下、景表法)改正のポイントを確認しておきましょう。

 景表法は従来から「実際の商品・役務よりも優れた表示をすること」を禁止してきましたが、2013年秋に相次いで発覚したレストランにおける不当表示により商品の表示に対する社会の信頼が大きく揺らいだことを受けて景表法が改正され、新たに「表示管理体制」の整備が義務付けられるとともに、「課徴金」制度が導入されることになりました。

 このうち「表示管理体制」の整備とは、適正な表示を行うため、商品の表示に関する責任者(表示管理担当者)や部門を置くことを企業に求めるものです。

 また、「課徴金」は、違反行為が発覚した場合の行政処分として導入されたものです。これまで、景表法に違反した場合には、違法な表示を是正する「措置命令」が行われるのみでしたが、課徴金を導入することで、不当表示に対するより強い抑止効果を狙っています。課徴金の額は、商品・役務の売上額の3%となりました。特に、売上高が大きく利益率はそれほど高くない小売業者に課徴金が課せれた場合には、大きな痛手となるでしょう。ただし、違反行為を「自主申告」した事業者は、課徴金額の2分の1が減額されます(この点については後述)。

幅広い業種を対象とする景表法

 景表法の対象となるのは小売業や飲食業だけではありません。景表法は、業種・業態を問わず、消費者に向けた表示全般を規制しています。

 また、景表法では、不当表示の「主体」を行政処分の対象とするとの考え方がとられており、複数の者が主体的に表示に関与した場合には、当然そのすべての者が課徴金の対象となり得ます。例えば、中間流通業者、メーカーであっても、表示内容の決定に関与していたり、あるいは小売業者が川上の業者(メーカーや中間流通業者)の表示に基づいて誤表示を行っていたりした場合には、川上から川下(小売業者)まで一緒に景表法違反に問われる可能性があります(2014年6月13日のニュース「メーカーが景表法違反に問われる可能性も」参照)。後者の例の場合、小売業者が誤表示によって生じた損害(例えば、製品の回収にかかった費用や、損害賠償請求といった民事上の請求)を負担していれば、川上の業者は小売業者から求償を受けることになるでしょう。

「表示管理体制」の整備義務付けにより求められることとは?

 では、「表示管理体制」の整備とは、企業に対し具体的にどのような対応を求めているのでしょうか。消費者庁は、次の7項目を挙げています。

(1)景品表示法の周知・啓発
(2)法令遵守の方針等の明確化
(3)表示等に関する情報の確認
(4)表示等に関する情報共有
(5)表示等を管理するための担当者等を定めること
(6)表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置
(7)不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応

 このうち、企業としてまず対応すべきものは、(5)の「表示管理担当者」を置くことです。

 企業は、広報や顧客を誘引するための店頭でのPOP*1まで様々な場において「表示」を行っていますが、こうした表示に関する責任を負う者として社内外に明示されるのが「表示管理担当者」です。財務におけるCFO、個人情報の保護をはじめとする情報管理におけるCPO*2のように、表示に関する責任者が「表示管理担当者」ということになります。

*1 “Point of purchase advertising”の略で(直訳すれば「購買箇所広告」「購買時点広告」で、ポップ広告、ピーオーピー広告と呼ばれることが多い)、書店などでよく見られる紙に商品の特徴やキャッチコピー、イラストなどを手描きした販促のための広告を指す。単純な広告ながらも、店の雰囲気に影響し、売上を大きく左右することもある。

*2 “Chief Privacy officer”の略で、個人情報保護に関する最高責任者のこと。

 企業には、この表示管理担当者を中心に、景表法への抵触を回避するために社内で「適正な表示」の周知・啓発、情報共有を図ることや、法令順守方針を定めることが求められます。具体的には、社内報により景表法上違法とされた事例を知らせるほか、表示に携わる者を対象に社内セミナーを開催し、自社の表示を踏まえて、どのような違反が起こりやすいか(例えば、原材料についての違法表示が起こりやすいなど)を解説し、違法表示が起こらないように努めることになります。

表示管理体制は、内部統制システムの1つとして構築する必要

 会社法上、大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上の会社)は、内部統制システムを構築・運用することが義務付けられています(会社法第362条5項)。具体的には、使用人の職務執行が法令や定款に適合することを確保する体制などを整備し、業務の適正性を確保しなければなりません(会社法施行規則100条)。景表法上の「表示管理体制」はまさに「使用人の職務執行が法令や定款に適合することを確保する体制」の整備に該当し、会社法上の内部統制システムの重要な柱である「リスク管理」の一環として、内部統制システムに組み込む必要があります。

 具体的には、単に表示管理担当者という表示に関する社内の最高責任者や部門を定めるのみならず、広報、仕入れ・調達、営業、技術など、すべての部門が景品表示法違反防止に取り組むことが求められます。

 そして、この「表示管理体制」を整備する義務は、改正景表法が施行される本年(2014年)12月1日から課されます。表示管理体制は、法令順守体制の1つとして内部統制システムに組み込まれる以上、少なくとも本年11月末までには整備しておく必要があります。

表示管理体制が不十分な場合の企業の責任は?

 では、もし「表示管理体制」の整備が不十分だった場合、企業にはどのような責任が生じるのでしょうか?

 表示管理体制に関する指針案によると(同指針については、2014年10月17日のニュース「11月中に表示管理体制の整備を」参照)、表示管理体制は、各社の規模や業態、取り扱う商品や役務の内容に応じた体制を構築すれば足りるとされています。したがって、実際に表示に関する問題が生じていない限りは、表示管理体制自体が問題にされることはなさそうです。

 ただし、ひとたび表示に関する問題が生じた場合には、十分な表示管理体制が定められていたかどうかが問われることになります。この場合、「表示管理担当者」が責任を負うのは当然として、気になるのは、代表取締役をはじめとする他の取締役が責任を負うのかという点です。

 一般的には、取締役は取締役会の構成員としてリスク管理体制を整備する義務を負っており、またリスク管理体制を構築する義務を履行しているかどうかを監視する義務があるとされています(大阪地判平成12年9月20日・大和銀行事件)。もっとも、「担当取締役以外」の他の取締役が責任を負うかどうかについて同判決は、「(担当取締役以外の取締役は)他の取締役(=担当取締役)の職務執行を信頼し、委ねる」ことを認めているため、担当取締役以外の取締役が責任を負うかどうかは、当該取締役が表示管理体制の構築にどの程度関わったかによることになるでしょう。どこまで関わるべきかは、不当表示が行われるリスクの高低や、不当表示が行われた場合に会社に生じる損害の程度を踏まえて、各社で検討することになります。

課徴金減免申請を行わなかった取締役に代表訴訟も

 もし自社で不当表示が行われていた場合には、消費者庁に対し、不当表示があった旨の自主申告を行うことを検討する必要があります。改正景表法では、発覚した不当表示を自主的に当局に速やかに届け出た場合、課徴金額の2分の1を減額することとされているからです。

 独占禁止法にもこれと類似の制度として「課徴金減免制度(リニエンシー)」というものがありますが、最近、取締役が減免申請を行わなかったことを理由に、株主代表訴訟が提起される事例が発生しています。カルテルの防止義務を怠ったのみならず、課徴金減免制度を利用しなかったことにより会社に損害を与えたというわけです。この事件は結果的には和解で終わりましたが、不祥事が発覚した場合の役員の対応について、警鐘を鳴らすものと言えます。

 不当表示が発覚した場合においても、上述のとおり「表示管理体制」が十分に機能していたかどうかが問われるとともに、速やかに当局に自主申告しなかった場合にも役員が責任を問われる可能性があるということを肝に銘じておいてください。

予想される消費者庁による調査の本格化

 昨秋の食品偽装事件を受け、商品や役務の表示に対する世間の関心は高まっています。こうした中、今後消費者庁は景表法違反に対する調査を本格化させ、課徴金を課すことによって、不当表示の抑止を図るものと考えられます。悪質な事案に対しては容赦なく課徴金を課し、また、これまで景表法違反とは無縁だった企業まで、違反に問われる恐れがあります。繰り返しになりますが、もしその場合に表示管理体制が整っていなかったことが判明すれば、役員の責任問題になりかねません。このような事態を避けるため、役員としては、まず上述した7項目を実践するよう努めることが必要です。

2014/10/05 【予算・事業計画】予算が未達となってしまった

 

予算達成状況の報告頻度と報告方法は?

上場会社の大部分を占める取締役会設置会社では、代表取締役および業務執行取締役(業務執行を行う取締役。社外取締役は業務執行を行わない取締役であるため、業務執行取締役にはなり得ません)として選定された取締役は、「3ヶ月に1回」以上、自己の職務の執行状況を取締役会に報告しなければならないこととされています(会社法363条2項)。

取締役会への報告は、取締役および監査役の全員に対して報告事項を通知した場合には省略できるのが原則ですが、3ヶ月に1回の定例報告は省略することはできず、実際に取締役会を開催()して報告する必要があります(したがって、報告事項の通知により取締役会への報告を省略できるのは、3ヶ月に1回の定例報告“以外”の取締役会に限定した話ということになります)。

 テレビ会議システムや電話会議システムによる取締役会であっても、出席者が一堂に会するのと同等の「相互に十分な議論を行うことができるようなもの」であれば、適式(会社法で定められた形式に一致すること)な取締役会と解されていることから、役員が遠隔地にいる場合には、そのようなシステムの活用も検討の余地があります。

このように3ヶ月に1回の定例報告が省略できないのは、取締役会は「業務執行の決定」と「取締役の職務執行の監督」を行う機関であり、これらの役割を適切かつ実効的に果たすためには、代表取締役および業務執行取締役から定期的に職務の執行状況を報告させることが不可欠だからです。

なかでも、会社の経営目標を具体的に数値化した「予算」の達成状況は、会社の現状や経営課題の分析、そして今後の経営方針の策定に直接関わる企業経営上の重要事項であり、定例報告において報告すべき事項の中心をなすものと言えます。したがって、法定の「3ヶ月に1回」という頻度にこだわらず、きめ細かく予算の達成状況を取締役会で共有するべきです。上場会社に最もよく見られる月に1回程度の頻度で定例の取締役会を開催している会社であれば、定例の取締役会の都度、予算の達成状況を報告するのがよいでしょう。

予算は、予算を用いたPDCAサイクル(Plan(計画)-Do(実行)-Check(評価)-Act(改善)の循環)において、Plan(計画)に相当するものであり、予算統制(予算制度と月次決算を活用した管理会計)の手段です。定例の取締役会における予算の達成状況の報告は、Check(評価)に相当します。Check(評価)が遅れれば遅れるほど、Act(改善)のための活動も遅れていくことになります。経営環境の変化に迅速に対応するためには、予算の達成状況を報告する定例の取締役会は月次決算の締め(通常は月末)後できる限り早いタイミングで開催することが望ましいと言えます。そのためには、月次決算の早期化が必要となることは言うまでもありません。

予算の達成状況の報告方法については、法律上何ら制約は設けられていません。通常は、業務執行取締役が、自ら担当する部門の予算および実績をとりまとめて報告するとともに、両者の乖離が大きい場合や特殊な数値が表れている場合には、その原因(一時的・突発的な外部要因によるものか、事業自体に内在する要因によるものかなど)の分析結果と改善策を示したうえで、これらについて取締役会で議論します。報告者以外の役員は、報告者が示した予算と実績の差異分析や改善策が不十分であれば、その旨を指摘したり改善策を提案したりすることになります。

なお、上場会社では、社外取締役や社外監査役が選任されているのが通常ですので、業務執行に携わっていないこれらの社外役員が取締役会で実質的な議論を行うことができるよう、経理部や監査役スタッフ(監査役の業務を補助するスタッフ)等の事務サイドが取締役会開催前にあらかじめ社外役員に説明を行い、予算達成状況や各数字の意味するところを理解させておくことも必要です。

予算未達で、業績予想の修正が必要になる場合も

予算が未達になると、社内の雰囲気はどうしても暗くなります。社員は賞与の減額や昇給の断念等をイメージすることでしょう。また、役員にあっては経営責任という言葉が頭をよぎるかも知れません。後述するように、役員報酬等の減額や解任の危機を招く恐れもあります。

それはさておき、予算が未達となった場合には、役員としてやるべきことが色々と出てきます。まずは予算の改訂です。販売動向などの変化を踏まえて見直した最新の予算が当初予算と乖離していることが明らかになれば、取締役会で予算の改訂を行う必要があります。実務上は四半期ごと、あるいは半期で予算を改訂し、取締役会で承認するケースが多いかと思います。

上場会社であれば、それに合わせて、公表済の業績予想との乖離状況を検討する必要があります。証券取引所は、上場会社に対して、既に公表済の業績予想値と月次決算や販売動向等を踏まえて新たに算出された予想値に差異があり、投資家の投資判断に与える影響が重要と認められる場合には、新たに算出された予想値を「適時開示」することを義務付けているからです。ここでいう「重要な影響」の判断基準は、公表済の業績予想値との乖離が、売上高であれば10%、営業利益・経常利益・当期純利益であれば30%となっています(詳細は「業績予想を修正したい」の「「業績予想の修正」の判断基準と開示すべき事項」を参照してください)。

また、例えば自然災害等の影響により業績予想を立てられない場合や、業績の変動が大きくあらかじめ業績を合理的に予測することが困難な場合などにより「次期の業績予想」の開示を行っていない場合であっても、社内に「次期の業績予想」に相当する情報を有しており、その内容が前期の実績値と乖離(上記と同じく、売上高であれば10%、営業利益・経常利益・当期純利益であれば30%)している場合には、その内容を直ちに証券取引所で開示することが求められています(詳細は「業績予想を修正したい」の「業績予想を公表していない場合でも「業績予想の修正の開示」が必要になるケース」を参照してください)。

なお、業績予想を修正する際には、インサイダー取引における重要な事実に該当するかどうかの検討も必要となってきます。この点については、「業績予想を修正したい」の「業績予想の修正が「インサイダー情報」にあたるケース」を参照してください)。

予算未達による“ダブルパンチ”とは?

予算が未達となった場合、その重要性や今後の影響によっては、会計上、固定資産の「減損処理」の要否の検討が必要となることがあります(「【役員会 Good&Bad発言集】減損損失計上の是非」を参照)。

固定資産の減損処理とは、現時点で貸借対照表に計上されている固定資産の計上額(帳簿価額。いわゆる簿価)に対して、その固定資産の将来の回収可能価額(固定資産を売却するか使い続けることによって生み出されるキャッシュ・フローの現在価値のうち、いずれか高い方)が下回る場合には、固定資産の取得のために投資した額(帳簿価額)のうち当該差額部分(帳簿価額-回収可能額)が“回収不能”になっていると考えられることから、これを“一括”で費用処理しなければならないという会計ルールです。

減損の兆候の判断やその額の計算方法は、「固定資産の減損に係る会計基準」や「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」に定められていますが、そこでは、「減損の兆候」として、ある資産のグループ(例えば「店舗」や「工場」といった収益単位)に係る事業の経営環境が著しく悪化した場合や、営業損失が継続した場合などが例示されています。これは、予算未達による業績の悪化は、減損処理につながる可能性を高めることを意味しています。

また、固定資産の減損処理が必要となった場合には、一般的に多額の一括費用処理(固定資産減損損失=固定資産の帳簿価額-回収可能価額)を求められることになります。つまり、予算未達という事態になれば、予算未達による会社の利益減少に加えて、固定資産の減損処理も必要となり、“ダブルパンチ”で会社の利益が大きく減少するという可能性があります(下図参照)。

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さらに、固定資産の減損処理が行われる場合には、・・・

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予算未達原因の詳細な分析により、はじめて改善策の検討が可能に

ここまで、予算が未達となった場合における適時開示や会計上の影響という“後処理”について見てきましたが、会社経営という観点からより重要なのは、予算が未達となった事業のテコ入れのための方策、すなわち、予算未達となった原因の把握と分析を行い、会社として今後どのような策を講じてこれを改善していくかといった“次の一手”を検討することです。予算統制においては、これが一番難しいと言えます。

例えば予算未達の原因が売上高の減少にある場合には、次のような視点で原因を分析する必要があります。・・・

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改善計画の中身が減損処理の要否に影響

事業のテコ入れのための方策を検討し、それを織り込んで事業計画を練り直してみても、当該事業で将来に獲得することが期待できる利益水準が、社内の目標利益率の水準(例えばROEやROAの目標)に充たないという結論になった場合には、事業の縮小や撤退といった経営判断も必要となります。

そこまで至らなくても、・・・

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達成不能な予算で生じる会社経営の歪みとは?

上場会社の中には、毎期のように予算が未達となってしまう会社が見受けられます。このような会社は、そもそも予算が実現不能な目標値になっていないかどうか、再検討した方がいいでしょう。

もちろん「あえて高い目標を掲げることにより、全社一丸となってモチベーションを上昇させる」という考え方もあると思います。しかし、そのような過度に高い目標値を会社の予算とすることは、以下のとおり会社経営にさまざまな問題を引き起こします。・・・

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事業計画と予算の関係

予算の数値は、事業計画の数値と深くリンクしています。なぜなら、事業計画とは、現状を分析し、事業の方向性(ビジョンや目標)、将来性、収益性を描いたものであり、事業計画に基づいて設定された具体的な目標を財政的な数値(金額)に落とし込んだものが予算であるからです。

したがって、予算の未達は、事業計画の達成が不能または遅れるリスクが高まることを意味します。予算が未達となった場合には、・・・

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予算が未達となった場合の取締役の責任

では、予算が未達となった場合、取締役はどのような責任を負うのでしょうか?

この点について、会社法等で・・・

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チェックリスト チェックリストはこちら

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2014/10/05 チェックリスト:予算が未達となってしまった(会員限定)

■チェックリスト:予算が未達となってしまった

チェック事項 備考 対応未了 対応済
業務執行取締役は、「3ヶ月に1回」以上、自己の職務の執行状況を取締役会に報告しているか。 会社法363条2項
予算の達成状況を報告する定例の取締役会は月次決算の締め(通常は月末)後できる限り早いタイミングで開催しているか。
定例の取締役会において、業務執行取締役は、自ら担当する部門の予算および実績をとりまとめて報告するとともに、両者の乖離が大きい場合や特殊な数値が表れている場合には、その原因(一時的・突発的な外部要因によるものか、事業自体に内在する要因によるものかなど)の分析結果を報告するとともに改善策を示しているか。
定例の取締役会において、業務執行取締役が自己の職務の執行状況を報告する際に、報告者以外の役員は、報告者が示した予算と実績の差異分析や改善策が不十分であれば、その旨を指摘したり改善策を提案したりしているか。
取締役会開催前に社外取締役や社外監査役に対して予め説明を行っておき、予算達成状況の数字の意味するところを理解してもらい、取締役会において実質的な議論を行うことができるようにするなど、役員構成に応じた工夫を行っているか。
月次決算を用いた予算統制を実施しているか。
業績予想の修正の要否を検討したか。 公表済の業績予想値と新たに算出された予想値の乖離が、売上高であれば10%、営業利益・経常利益・当期純利益であれば30%が、業績予想の修正の要否の判断基準となる。
予算未達の場合、固定資産の減損処理の要否を検討したか。
予算未達の原因の把握・分析をし、当該事業のてこ入れの方策を検討したか。 予算未達の原因が売上高の減少にあるのか、売上原価や販管費の増加にあるのかで、分析の視点が異なる。
取締役会で予算を承認する前に、トップダウンだけで予算が策定されていないか、前期と比べて実現可能性に無理がないかなどを確認したか。
事業計画を練り直しても、その事業で将来に獲得することが期待できる利益水準が、社内の目標利益率の水準に充たないという結論になった場合には、当該事業の廃止や規模の縮小について検討したか。 社内の目標利益率の水準としては、例えばROEやROAの目標水準が考えられる。
予算が過度に高い目標値となっていないか検討したか。 過去の予算と実績の乖離状況を分析することが望ましい。
業績予想の下方修正時には、楽観的なシナリオに基づき小幅な下方修正にとどめていないかについて、吟味をしたか。
予算未達により事業計画の見直しを検討したか。

ケーススタディ役員実務「予算が未達となってしまった(会員限定)」はこちら

2014/10/05 【予算・事業計画】予算が未達となってしまった(会員限定)

 

予算達成状況の報告頻度と報告方法は?

上場会社の大部分を占める取締役会設置会社では、代表取締役および業務執行取締役(業務執行を行う取締役。社外取締役は業務執行を行わない取締役であるため、業務執行取締役にはなり得ません)として選定された取締役は、「3ヶ月に1回」以上、自己の職務の執行状況を取締役会に報告しなければならないこととされています(会社法363条2項)。

取締役会への報告は、取締役および監査役の全員に対して報告事項を通知した場合には省略できるのが原則ですが、3ヶ月に1回の定例報告は省略することはできず、実際に取締役会を開催()して報告する必要があります(したがって、報告事項の通知により取締役会への報告を省略できるのは、3ヶ月に1回の定例報告“以外”の取締役会に限定した話ということになります)。

 テレビ会議システムや電話会議システムによる取締役会であっても、出席者が一堂に会するのと同等の「相互に十分な議論を行うことができるようなもの」であれば、適式(会社法で定められた形式に一致すること)な取締役会と解されていることから、役員が遠隔地にいる場合には、そのようなシステムの活用も検討の余地があります。

このように3ヶ月に1回の定例報告が省略できないのは、取締役会は「業務執行の決定」と「取締役の職務執行の監督」を行う機関であり、これらの役割を適切かつ実効的に果たすためには、代表取締役および業務執行取締役から定期的に職務の執行状況を報告させることが不可欠だからです。

なかでも、会社の経営目標を具体的に数値化した「予算」の達成状況は、会社の現状や経営課題の分析、そして今後の経営方針の策定に直接関わる企業経営上の重要事項であり、定例報告において報告すべき事項の中心をなすものと言えます。したがって、法定の「3ヶ月に1回」という頻度にこだわらず、きめ細かく予算の達成状況を取締役会で共有するべきです。上場会社に最もよく見られる月に1回程度の頻度で定例の取締役会を開催している会社であれば、定例の取締役会の都度、予算の達成状況を報告するのがよいでしょう。

予算は、予算を用いたPDCAサイクル(Plan(計画)-Do(実行)-Check(評価)-Act(改善)の循環)において、Plan(計画)に相当するものであり、予算統制(予算制度と月次決算を活用した管理会計)の手段です。定例の取締役会における予算の達成状況の報告は、Check(評価)に相当します。Check(評価)が遅れれば遅れるほど、Act(改善)のための活動も遅れていくことになります。経営環境の変化に迅速に対応するためには、予算の達成状況を報告する定例の取締役会は月次決算の締め(通常は月末)後できる限り早いタイミングで開催することが望ましいと言えます。そのためには、月次決算の早期化が必要となることは言うまでもありません。

予算の達成状況の報告方法については、法律上何ら制約は設けられていません。通常は、業務執行取締役が、自ら担当する部門の予算および実績をとりまとめて報告するとともに、両者の乖離が大きい場合や特殊な数値が表れている場合には、その原因(一時的・突発的な外部要因によるものか、事業自体に内在する要因によるものかなど)の分析結果と改善策を示したうえで、これらについて取締役会で議論します。報告者以外の役員は、報告者が示した予算と実績の差異分析や改善策が不十分であれば、その旨を指摘したり改善策を提案したりすることになります。

なお、上場会社では、社外取締役や社外監査役が選任されているのが通常ですので、業務執行に携わっていないこれらの社外役員が取締役会で実質的な議論を行うことができるよう、経理部や監査役スタッフ(監査役の業務を補助するスタッフ)等の事務サイドが取締役会開催前にあらかじめ社外役員に説明を行い、予算達成状況や各数字の意味するところを理解させておくことも必要です。

予算未達で、業績予想の修正が必要になる場合も

予算が未達になると、社内の雰囲気はどうしても暗くなります。社員は賞与の減額や昇給の断念等をイメージすることでしょう。また、役員にあっては経営責任という言葉が頭をよぎるかも知れません。後述するように、役員報酬等の減額や解任の危機を招く恐れもあります。

それはさておき、予算が未達となった場合には、役員としてやるべきことが色々と出てきます。まずは予算の改訂です。販売動向などの変化を踏まえて見直した最新の予算が当初予算と乖離していることが明らかになれば、取締役会で予算の改訂を行う必要があります。実務上は四半期ごと、あるいは半期で予算を改訂し、取締役会で承認するケースが多いかと思います。

上場会社であれば、それに合わせて、公表済の業績予想との乖離状況を検討する必要があります。証券取引所は、上場会社に対して、既に公表済の業績予想値と月次決算や販売動向等を踏まえて新たに算出された予想値に差異があり、投資家の投資判断に与える影響が重要と認められる場合には、新たに算出された予想値を「適時開示」することを義務付けているからです。ここでいう「重要な影響」の判断基準は、公表済の業績予想値との乖離が、売上高であれば10%、営業利益・経常利益・当期純利益であれば30%となっています(詳細は「業績予想を修正したい」の「「業績予想の修正」の判断基準と開示すべき事項」を参照してください)。

また、例えば自然災害等の影響により業績予想を立てられない場合や、業績の変動が大きくあらかじめ業績を合理的に予測することが困難な場合などにより「次期の業績予想」の開示を行っていない場合であっても、社内に「次期の業績予想」に相当する情報を有しており、その内容が前期の実績値と乖離(上記と同じく、売上高であれば10%、営業利益・経常利益・当期純利益であれば30%)している場合には、その内容を直ちに証券取引所で開示することが求められています(詳細は「業績予想を修正したい」の「業績予想を公表していない場合でも「業績予想の修正の開示」が必要になるケース」を参照してください)。

なお、業績予想を修正する際には、インサイダー取引における重要な事実に該当するかどうかの検討も必要となってきます。この点については、「業績予想を修正したい」の「業績予想の修正が「インサイダー情報」にあたるケース」を参照してください)。

予算未達による“ダブルパンチ”とは?

予算が未達となった場合、その重要性や今後の影響によっては、会計上、固定資産の「減損処理」の要否の検討が必要となることがあります(「【役員会 Good&Bad発言集】減損損失計上の是非」を参照してください)。

固定資産の減損処理とは、現時点で貸借対照表に計上されている固定資産の計上額(帳簿価額。いわゆる簿価)に対して、その固定資産の将来の回収可能価額(固定資産を売却するか使い続けることによって生み出されるキャッシュ・フローの現在価値のうち、いずれか高い方)が下回る場合には、固定資産の取得のために投資した額(帳簿価額)のうち当該差額部分(帳簿価額-回収可能額)が“回収不能”になっていると考えられることから、これを“一括”で費用処理しなければならないという会計ルールです。

減損の兆候の判断やその額の計算方法は、「固定資産の減損に係る会計基準」や「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」に定められていますが、そこでは、「減損の兆候」として、ある資産のグループ(例えば「店舗」や「工場」といった収益単位)に係る事業の経営環境が著しく悪化した場合や、営業損失が継続した場合などが例示されています。これは、予算未達による業績の悪化は、減損処理につながる可能性を高めることを意味しています。

また、固定資産の減損処理が必要となった場合には、一般的に多額の一括費用処理(固定資産減損損失=固定資産の帳簿価額-回収可能価額)を求められることになります。つまり、予算未達という事態になれば、予算未達による会社の利益減少に加えて、固定資産の減損処理も必要となり、“ダブルパンチ”で会社の利益が大きく減少するという可能性があります(下図参照)。

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さらに、固定資産の減損処理が行われる場合には、財務諸表や会社法の計算書類においてその減損処理に関連する詳細な内容の注記を開示することが求められますので、投資家や取引先から事業の継続性について不安視され、株価の下落や取引条件の見直しを招くなど、損益計算書本体の利益金額の減少以上に対外的なインパクトを与えることになります。

したがって、予算が未達となった場合には、当期の損失や将来の事業計画(=将来回収可能なキャッシュ・フローに関する計画。事業計画については「事業計画と予算の関係」で後述します)への影響というフローの側面のみならず、固定資産の計上額というストックの側面(固定資産の減損処理の要否)についても検討する必要があります。

予算未達原因の詳細な分析により、はじめて改善策の検討が可能に

ここまで、予算が未達となった場合における適時開示や会計上の影響という“後処理”について見てきましたが、会社経営という観点からより重要なのは、予算が未達となった事業のテコ入れのための方策、すなわち、予算未達となった原因の把握と分析を行い、会社として今後どのような策を講じてこれを改善していくかといった“次の一手”を検討することです。予算統制においては、これが一番難しいと言えます。

例えば予算未達の原因が売上高の減少にある場合には、次のような視点で原因を分析する必要があります。

・販売単価の問題か、それとも販売数量の問題か
・市場の問題(景気低迷や市場の縮小など)なのか、それとも自社に問題(自社製品の魅力の欠如など)があるのか
・売上を計上する期のズレの問題なのか、それとも受注自体が減少しているのか
・一過性の現象なのか、それとも継続的な現象なのか 等

一方、予算未達の原因が売上原価や販管費の増加にある場合には、次のような視点で原因を分析する必要があります。

・固定費(売上や生産量の増減にかかわらず発生する費用。人件費、家賃など)の問題なのか、それとも変動費(売上や生産量の増減によって変動する費用。材料費など)の問題なのか
・回避不可能な問題(短期的な意思決定で避けられない問題。減価償却費、長期契約により変更できない費用など)なのか、それとも回避可能な問題(短期的な意思決定で避けられる問題。変更可能な営業方針、会社努力により実施できる経費削減など)なのか
・営業側の原因(販売価格、販促方法、営業方針など)なのか、それとも製造側や管理側に原因(改善すべき製造方法における非効率、在庫管理の問題、高いコスト体質など)があるのか 等

このように、予算と実績が乖離した原因を詳細に分析することで、はじめて改善策を検討することが可能になります。

もっとも、予算と実績の乖離原因の分析は、予算が実現可能かつ精緻なものであってこそ、はじめて意味のあるものとなります。実現が困難な予算をただ積み上げただけでは、「予算が厳しすぎたから」という不毛な分析結果になりかねません。過度のノルマ重視、拡大志向等の経営風土、事業計画の公表値達成至上主義は、達成不能な予算の設定を許してしまうリスクがあります。役員としては、取締役会で予算を承認する前に、トップダウンだけで予算が策定されていないか、前期と比べて実現可能性に無理がないかなど等を確認しておく必要があります(詳細は、後述の「達成不能な予算で生じる会社経営の歪みとは?」を参照してください)。

改善計画の中身が減損処理の要否に影響

事業のテコ入れのための方策を検討し、それを織り込んで事業計画を練り直してみても、当該事業で将来に獲得することが期待できる利益水準が、社内の目標利益率の水準(例えばROEやROAの目標)に充たないという結論になった場合には、事業の縮小や撤退といった経営判断も必要となります。

そこまで至らなくても、練り直した事業計画の数値次第で、上述の固定資産の減損処理の要否が決定される場合もあるということに留意する必要があります。すなわち、事業から撤退するほど状況は悪くなかったとしても、将来の利益水準が低い場合には、上述したように固定資産の簿価よりも将来の回収可能価額が低くなってしまい、固定資産の減損処理が必要となるケースも出てくるということです。将来の事業計画を策定する際には、この点も視野に入れるようにしてください。

なお、予算が未達だった場合、今後の計画の信ぴょう性にも疑義が生じますので、会計監査人は新たな事業計画を懐疑的な目で見てくるという点も頭に入れておくべきです。新たに策定した“右肩上がり”の事業計画をもとに、「減損は時期尚早」と会社側が判断しても、その根拠やバックデータ(計画の元となる過去の事実)が曖昧であるとして会計監査人が異議を唱えるということがしばしば散見されます。

達成不能な予算で生じる会社経営の歪みとは?

上場会社の中には、毎期のように予算が未達となってしまう会社が見受けられます。このような会社は、そもそも予算が実現不能な目標値になっていないかどうか、再検討した方がいいでしょう。

もちろん「あえて高い目標を掲げることにより、全社一丸となってモチベーションを上昇させる」という考え方もあると思います。しかし、そのような過度に高い目標値を会社の予算とすることは、以下のとおり会社経営にさまざまな問題を引き起こします。

(月次損益の歪み)
まず、月次損益の歪みをもたらす可能性があります。例えば、原価計算上、製造間接費(*1)を予定配賦(*2)している場合、その配賦率(*3)は、下記の算式のとおり予算を基礎とした操業度(*4)により算定されているケースが多いと思います。

*1 製品の製造と直接の関連を認識することが困難な原価で、減価償却費や家賃等が代表例
*2 月次決算の際に、操業度(*4参照)に対して比例的に製造間接費が発生するという前提で製造間接費を概算計算すること
*3 予定配賦をする際に、操業度に対してどれだけ製造間接費が発生するか計算するための乗率
*4 生産活動の規模を表す尺度。人員稼働時間や機械稼働時間等が代表例
<算式>
配賦率 = 製造間接費予定発生額 ÷ 予算を基礎とした操業度

過度に高い生産規模(=操業度)をベースに予算を立てた場合、上記算式の「予算を基礎とした操業度」が大きな数値となり、実態よりも小さい「配賦率」が算出されることにより月次決算では製造間接費が少なく計上されるため、見かけ上の月次損益は良くなります。しかし、事業年度末には、実際の操業度が「配賦率」の計算の前提としていた操業度に満たないことが露呈します。それは、実際に発生した製造間接費よりも月次決算で予定配賦していた製造間接費の方が小さいということを意味します。そして、実際発生した製造間接費のうち予定配賦できていなかった部分は事業年度末に“一括”で費用処理する必要があるため、事業年度末に予算を大幅に上回る費用が突然計上され、「想定外」の予算未達となってしまいます。

(頻繁な業績修正)
また、過度に高い目標値を予算とした場合、冒頭で述べた業績予想の修正も頻繁に行われる可能性が高くなります。業績予想の下方修正は投資家に失望を与え株価に悪影響を与えることになります。それを恐れて楽観的なシナリオや前提により小幅な下方修正にとどめてしまうと、再度の業績修正を余儀なくされることになりがちです。業績予想の下方修正を繰り返していると、市場から「この会社の業績予想は信用できない」という評価を下される恐れもあります。役員としては、再度の下方修正を避けるため、業績予想の修正の際に、採用した今後のシナリオや前提が楽観的過ぎず現実的なものといえるのかについて、修正内容をじっくりと吟味することが必要になります。

(従業員のメンタル面への悪影響)
過度に高い目標値は、従業員の行動にも影響を与えます。過度のノルマ主義が常軌を逸した営業活動につながると、会社の社会的評価を下げることになります。また、過度のノルマは従業員を精神的に追い詰め、従業員のメンタル面に悪影響を与えかねません。役員としては、目標値が従業員のメンタル面に悪影響を与えるものでないか観察し、カウンセリング等を通じて従業員の不満を聞き取り、場合によってはノルマの撤廃等の施策に踏み切るべきです。

(粉飾リスクの増大)
過度に高い目標値は、会社内の各部門に必要以上のプレッシャーを与え、売上の水増し等の不正経理のリスクを高める可能性があります。

(会計処理への影響)
さらに、近年の会計基準は、減損会計や税効果会計のように、会計処理のベースに会社が策定した将来の利益計画の数値を用いるものも少なくありません。上述のとおり、減損会計は将来の利益計画によってその要否が判断されます。また、税効果会計とは、賞与引当金のように会計上の費用の計上時期と法人税法上の損金算入時期が異なる場合(会計上は引当金計上時、法人税法上は実際に支給した時となります)、将来損金算入が実現した際には会計上の利益に比べ税金が少なくなることから、この将来の税金の減少効果を資産(繰延税金資産)として計上しておくものですが、会社が実際に税金の減少効果を享受するためには、損金算入実現の際に税金を払えるだけの所得がある必要があります。仮に会社が赤字で税金を払う必要がないのであれば、そもそも税金の減少効果はないからです。これらの会計基準の適用上、達成不能な予算を基礎としてしまうと、正しい会計処理ができないことになってしまいます。

所得 : 法人税額の計算にあたり、ベースとなる額。会計上の利益に損金不算入額等を調整して算定する。

このように、過度に高い目標値をそのまま予算として利用することは様々な問題点を引き起こします。高い目標値を設定する場合には、「目標値としての予算」と「現実的な予算」の2つの予算を策定し、会計上利用する予算や外部への開示に利用する予算は「現実的な予算」の方を用いるという方法が考えられます。また、現実的な予算の策定に際しては、トップダウン方式だけではなく、ボトムアップ方式も加味して、全社員がコミットした予算となるよう配慮する必要があります。

事業計画と予算の関係

予算の数値は、事業計画の数値と深くリンクしています。なぜなら、事業計画とは、現状を分析し、事業の方向性(ビジョンや目標)、将来性、収益性を描いたものであり、事業計画に基づいて設定された具体的な目標を財政的な数値(金額)に落とし込んだものが予算であるからです。

したがって、予算の未達は、事業計画の達成が不能または遅れるリスクが高まることを意味します。予算が未達となった場合には、事業計画の見直しが必要となるかどうか、検討する必要があります。

予算が未達となった場合の取締役の責任

では、予算が未達となった場合、取締役はどのような責任を負うのでしょうか?

この点について、会社法等で特に定めがあるわけではありません。したがって、各社の自治の範囲内で責任のあり方を決めることになります。この点、予算が未達となった業務を主管する取締役に対して、未達の程度に応じ、何らかのペナルティを負わせる会社が少なくありません。まず、役員賞与は真っ先にカットされることになります。さらに、賞与以外の通常の役員報酬の計算要素に業績連動分が入っている場合には、予算の未達具合に応じて業績連動分の報酬が減額あるいはカットされることになります。予算の未達が直ちに役員報酬の減額にはつながらないような報酬形態であったとしても、取締役会で予算の未達を追及され、挽回策を示すことが求められるのが通常です。それでも未達が続けば、主管業務の変更、場合によっては降格もあり得ます。

予算の未達が特定の事業にとどまらず、より幅広い範囲に及ぶ場合には、全取締役に影響が及ぶ可能性があります。経営トップの判断により、役員報酬の自主的な減額や役員賞与のカット、場合によっては、従業員のうち一定の管理職(たとえば部長以上)の給与カット(自主返上)に踏み切ることもあるでしょう。また、翌年度の役員報酬に関しても減額等をしなければ株主から追及を受ける可能性があります。

最悪の場合、代表取締役などの経営トップや予算未達の事業を所管する担当取締役は、株主総会によって役員の立場を解任(あるいは再任の否決)されることもあり得ます。

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2014/10/03 チェックリスト:データが消失した場合に備えたい(会員限定)

■チェックリスト:データが消失した場合に備えたい

チェック事項 備考 対応未了 対応済
バックアップの計画は、BCP策定の一環として行われているか。 「なくても業務に重大な支障をきたすわけではないが、あった方がベターなデータ」のバックアップはコストとリカバリー可能性を勘案して判断する。
“バックアップすべきデータ”と“その必要はないデータ”を的確に峻別しているか。
自社開発のソフトの場合、システムをリカバリーするためのバックアップ・プログラムを準備しているか。
各社員のPCにあるファイルデータのバックアップの媒体としてUSBメモリを使用することを社内規程やシステム対応により規制しているか。 システム対応としては、PCにUSBメモリへのデータ・コピーを制限するソフトをインストールすることが考えられる。
社内のシステムに入力・生成・保存されるデータは、システム部等が主体となり、市販のバックアップ・ツールや、社内のシステムに組み込まれたバックアップ機能を利用して、データのバックアップを取っているか。
自動バックアップを利用できない場合、バックアップ業務のマニュアル化を行ったか。
RAID(Redundant Arrays of Inexpensive Disks)の場合、自然災害による物理的損失や人的ミスによるデータの削除に弱いことから、それを補う策を講じているか。 RAID対応のNASにデータを保管し、それをバックアップすることで、RAIDとバックアップ双方のメリットが享受できる。
データセンターを利用している場合、バックアップの保存期間やデータ復旧までの時間といったことを定めたSLA(Service Level Agreement)を確認したか。 バックアップはオプションの場合もある。
IT担当取締役は、ASPの入力担当者やその上長にASP業者の信頼性やバックアップ体制の確認を指示しているか。
バックアップ・データを、オリジナルのデータが保存されているPCやサーバーのハードディスクに保存していないか。 オリジナル・データと同時にバックアップ・データまで損失するリスクがある。
バックアップ・データの特徴に合わせて、バックアップ用のストレージを使い分けているか。 それぞれのストレージの長所、短所を踏まえたうえで、データの保存先を決定する必要がある。
バックアップ・データが保管されたストレージを、オリジナル・データのあるPCやサーバーに近接した場所(建物、地域)で保管していないか。
バックアップを取る頻度は、目標復旧時間(RTO:Recovery Time Objective)の視点に基づいて決定しているか。
バックアップの手法として、フルバックアップではなく差分バックアップや増分バックアップといった方法を組み合わせることを検討したか。
バックアップ・データに不具合が生じている可能性も考慮して、複数世代分を保管しているか。
古いバックアップ・データは定期的に削除するよう設定しているか。 古いバックアップ・データに新しいデータを上書きしない設定にしていると、ハードディスク等の記憶領域をすべて使い果たしてしまい、容量不足により最新のバックアップ・データが取得できていないという事態が発生しかねない。
バックアップ・データのリストアーとリカバリーの手順を明確に定めたマニュアルを整えているか。
定期的にリストアーやリカバリーのテストを実施し、手順を検証しているか。 テスト環境が用意できない場合、手順が陳腐化していないかという観点からの机上レビューを定期的に行う必要がある。
初めてバックアップを行った際や、例えばシステム構成を変更したといった理由でバックアップ手続を変更した場合には、適切にバックアップが取れているか、そして、バックアップしたデータが問題なくリストアーできているかを確かめているか。

ケーススタディ役員実務「データが消失した場合に備えたい(会員限定)」はこちら

2014/10/03 【経営上のリスク】データが消失した場合に備えたい(会員限定)

 

データ消失で事業継続が困難になる恐れも

効率的な企業経営を実現するためには、コンピュータを利用したシステムの活用は不可欠であり、今やそれがなければ業務が成り立たない状態にあると言っても過言ではありません。例えば、本社の基幹システム、工場の生産システム、人事総務部の給与計算システム、経理部の会計システム、財務部のインターネットバンキング・システムなど様々なシステムが、相互に連携しながらデータの入出力・加工・保存を行っており、各部署の業務はそういったシステムに大きく依存しています。また、生産システムのように他社のシステムとも連携を図る場合もあります。

もし、地震などの災害や人為的なミスなどにより、システムが動かなくなったり、あるいは、システムに蓄積された顧客データ、注文データ、製造量データ、会計データ等のデータがなくなったりしてしまうと、全社的に業務に混乱が生じてしまうばかりか、事業継続そのものが困難になる恐れもあります。設計図、研究開発の記録、顧客情報等のデータの消失は、会社のノウハウの消失を意味します。製品の製造が滞れば、納期遅延により取引先に多大な迷惑をかけてしまうことになり、場合によってはSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)全体に影響が連鎖することになります。

また、システムを業務に組み込む中で、各種帳票類のペーパーレス化が進んだ結果、データ消失時の被害が拡大する傾向にあります。データの消失により各種帳票類が利用できなくなってしまうと、そういった帳票類を利用して行われていたディスクロージャーや納税等の業務が滞ってしまい、コンプライアンスの観点から問題が生じることになるからです。例えば、上場会社が自社の会計データを消失してしまい、その復旧に時間がかかり決算確定や会計監査が遅延した結果、有価証券報告書を法定期限()の経過後1か月以内に財務(支)局に提出できなければ、上場廃止になってしまいます。

 事業年度末から3か月以内。もっとも、有価証券報告書の提出期限の延長を申請することも認められています。

また、決算確定が滞ると税額を確定することができず、納税に支障が生じることになります。納税に関しては、納税に関連する帳簿書類の保存に係る負担の軽減を図るために、電子帳簿保存法が整備されており、納税者が帳簿書類を電磁的記録により保存することが容認されています。適用を受けるには、あらかじめ税務署長等の承認を受け、かつ、適正公平な課税の確保に必要な一定の要件に従った形で、電磁的記録等の保存等を行うことが条件とされています。その要件にバックアップ・データの保存は求められていません。しかし、電磁的記録は、記録の大量消失につながる危険性が高く、経年変化等による記録状態の劣化等が生じる恐れもあることからすれば、保存期間中の可視性の確保という観点から、バックアップ・データを保存することが望まれます。

電磁的記録 : 情報(データ)それ自体あるいは記録に用いられる媒体のことではなく、一定の媒体上にて使用し得る(一定の順序によって読みだすことができる)情報が記録・保存された状態にあるものをいう。具体的には、情報がフロッピーディスク、コンパクトディスク、DVD、磁気テープ等に記録・保存された状態にあるものをいう。

以前、大手レンタルサーバー会社のサーバーのデータが従業員の過失により上書きされ、同社のサービスを利用していた企業のウェブサイトやメールなどのデータが消失したうえ、復旧もできなくなるという事件が発生したのは記憶に新しいところです。このとき被害にあった企業の明暗を分けたのが、手元にバックアップ・データを持っていたか否かでした。株主をはじめとするステークホルダーに対しゴーイングコンサーンが求められる上場企業としては、データの消失に備え、データ(場合によってはシステムそのもの)のバックアップを図っておくことは最低限の義務と言えるでしょう。

ゴーイングコンサーン : 企業が継続して存続すること。

ただ、一口に「バックアップ」と言っても、どのデータを、どこに、どれくらいの頻度で、どれくらいの期間に渡り保存するのかなど、検討しなければならないことはたくさんあります。また、データが大きくなればなるほど、そのバックアップに要する費用負担も重くなりますので、コストの検討も欠かせません。

以下、バックアップを実施する際に検討すべき事項について解説します。

BCPに欠かせないデータのバックアップ

まず、データのバックアップを検討する際に併せて策定しておきたいのがBCP(事業継続計画=Business Continuity Planning)です。BCPとは、自然災害やテロなど、突発的な緊急事態の発生により事業活動が中断した場合でも、目標復旧時間(RTO:Recovery Time Objective)内に重要な機能を再開させるとともに、業務中断に伴うリスクを最小低限に抑えるために、平時から事業継続について戦略的に準備しておくことです(BCPの詳細は「工場が被災した」を参照してください。また、RTOについては、後述の「バックアップの頻度はRTOとコスト次第」を参照してください)。上述のように、重要なデータについていかに確実にバックアップを取り、万が一の際に問題なくリストアー(復元)をすることができ、迅速にリカバリー(復旧)できるかが、BCP策定時の重要課題となります。

リストアー : バックアップした時点の状態に戻すこと

リカバリー : リストアーしたデータに追加入力等何らかの処理を行い、システムに障害が起きる直前の状況まで戻すこと。バックアップした時点に戻すことで復旧が終わるのであれば、リストアーとリカバリーは同義となる。

このようにデータのバックアップがBCPの一環として策定されることは、バックアップが迷走()しないためにも必要なことです。いかなるデータをどのようにバックアップするのかといった計画案に、BCPの視点で検討を加えることにより、芯の通ったぶれない計画になります。その計画に基づき構築されたデータのバックアップ体制は、万が一の事態への“備え”としての役目を適切に果たすことになります。いわば、BCPとデータのバックアップは密接に相互依存する関係にあると言えます。

 重要度の低いデータを何世代分もバックアップしていたり、その一方で肝心なデータがバックアップされていなかったり、リストアーの方法を把握している者が誰一人としていなかったりといった事態が考えられます。

データによっては「バックアップしない」という経営判断も

それでは 、どういったデータをバックアップすればよいのでしょうか。

すべてのデータについてバックアップを取ることは不可能ではありませんが、それにはかなりの時間を要するだけでなく、金額的にも相当の負担を強いられることになります。そこで、バックアップすべきデータの峻別が必要になります。具体的には、各データに、「なくてはならないデータ」「なくても業務に重大な支障をきたすわけではないが、あった方がベターなデータ」「不要なデータ」といったようなプライオリティをつけて、バックアップの対象を選定することになります。コストが予算を超えるようであれば、「なくても業務に重大な支障をきたすわけではないが、あった方がベターなデータ」のバックアップは見送るか、バックアップの頻度を減らすといった経営判断もあり得るでしょう(バックアップの頻度については「バックアップの頻度はRTOとコスト次第」を参照してください)。リカバリー可能性という観点からは、紙に出力済みかどうかも重要な判断要素になります。

具体例を挙げると、「なくてはならないデータ」としては、例えば上述した設計図、研究開発の記録、顧客情報、生産データ、会計データ等といったビジネスの根幹となる情報が該当します。「なくても業務に重大な支障をきたすわけではないが、あった方がベターなデータ」としては、社内外とやり取りされたメールのデータ()、「不要なデータ」としては社員向けニュース記事のデータや紙に出力済みの注文データなどが考えられます。

 電子帳簿保存法の要件を満たしたうえで電磁的記録によりデータを保存している会社は、電子取引を行った場合、その電子取引に係る取引情報の電磁的記録を保存する必要があります。

電子取引 : 取引情報の受け渡しをメールなどの電磁的方式により行う取引

取引情報 : 取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項

システムのバックアップは必要か?

バックアップというと、一般的には「データのバックアップ」を想定しがちですが、システム(ソフト)に不作動や一部の機能停止といった不具合が生じてしまったときに備えて、システム自体のバックアップも検討する必要があります。以下、市販のソフトと自社開発のソフトに分けて考えてみます。

市販のソフトというと、例えばMicrosoft社のWindowsなどのOS(オペレーティング・システム)やワープロソフト、表計算ソフト、メールソフト、文書管理ソフト、勤怠管理ソフト、会計ソフトといった様々なソフトがありますが、それらは、端末にソフトをインストールした際のCD-ROM等を使うことで容易にリカバリー(ソフトを復旧すること)することができます。そのため市販のソフトは、それ自体のバックアップは不要です。

一方、自社開発のソフトの場合、システムをリカバリーするためのバックアップ・プログラムが必要になります。そして、自社開発のソフトの開発時や更新時に、開発用の端末に保存されているプログラムのデータを丸ごとバックアップすることになります。

なお、ASPのようにブラウザー上で動くシステムであれば、システム自体のバックアップはASPのサービス提供業者が行うことから、利用者は特段の作業をする必要ありません。

ASP : “Application Service Provider”の略で、ネットワーク経由でグループウェアや給与計算、会計等のアプリケーション(ソフト)のサービスを提供する業者

ブラウザー : ウェブのページをPCの画面で表示するためのアプリケーション(ソフト)。Microsoft社のInternet Explorer、Google社の Chrome、Mozillaの Firefoxなどがある。

どんな方法でバックアップする?

バックアップの対象となるデータやシステムが決まったら、次にバックアップの方法を検討します。

各社員のPCにある作成途中の提案書、企画書、資料、精算書などのファイルや過去の作成データについては、PCのハードディスク(場合によってはサーバー)にバックアップ用のフォルダを作り、そこに必要に応じてバックアップ用のデータを各社員の自己責任で保存するケースがよく見受けられます。バックアップの際、圧縮用のソフトを用いて、ファイルサイズを圧縮するケースも少なくありません。一方、USBメモリのような盗難・紛失のリスクが高い媒体にバックアップ用のデータを保存することは、情報流出のリスクがあることから、社内規程やシステム対応()で規制すべきです。

圧縮用のソフト : データサイズを小さくするためのアプリケーション。自己解凍機能のオプションやパスワードの設定が可能。

 PCにUSBメモリへのデータ・コピーを制限するソフトをインストールすることが考えられます。ハードディスク中のデータの暗号化やデータへのアクセス制限と組み合わせることで、より安全な態勢となります。

社内のシステムに入力・生成・保存されるデータは、上記のような各社員が作成したファイルのデータと異なり、システム部等が主体となり、市販のバックアップ・ツールや、社内のシステムに組み込まれたバックアップ機能を利用して、データのバックアップを取ることになります。その際、自動バックアップ()を利用するのが通常ですが、自動バックアップを利用できない場合は、バックアップ・データの取得に人手が必要となります。ただ、そうなると、バックアップ自体を失念したり、バックアップ対象を間違えたりといった人的ミスが生じやすいという問題があることから、マニュアル化が必須となります。

 「土曜・日曜を除く日の午前0時に○○のフォルダの○○というデータのバックアップを取り、●●というファイル名で●●のフォルダに保存しておく」といった具合に、定期的にバックアップを実行するスケジュールをシステム上設定することで、バックアップの作業を自動化すること。

また、RAIDという方法を採用している企業もあります。RAIDとは、システムの稼働に伴うデータの書き込みを複数のハードディスクに対して行い、1台のハードディスクが故障してもデータが別のハードディスクに残る仕組みのことです。システム部門の担当者から「RAID1でミラーリングしています」といった会話を聞いたことがあるのではないでしょうか。RAIDは過去の一定時点のデータを保つ仕組みではないので、バックアップとは異なります。バックアップと比べると、ハードディスクの故障という事態に備える()とともに、最新のデータが保存されているといったメリットがありますが、通常のバックアップのようにハードディスク同士を離れた場所に保管することが難しく、自然災害への対応としては弱いとされています。また、バックアップと異なり、システム稼働中に人的ミスでデータを削除してしまった場合に、複数のハードディスクにおいて同時に削除が行われることから、リカバリーすることができません。

RAID : “Redundant Arrays of Inexpensive Disks”の略でレイドと読む。RAID 0からRAID 6まで7つのレベルがある。RAID 1は複数のハードディスクに、同時に同じ内容を書き込む技術であり、ミラーリングと言われる。

ミラーリング : 2台以上のディスクに同時にデータを書き込むこと

 複数台のディスクが同時に故障する可能性は限りなく低いため。

こういったデメリットを解決するために、RAID対応のNASにデータを保管し、それをバックアップすることで、RAIDとバックアップ双方のメリットが享受でき、より手厚く万が一の事態に備えることが可能になります。

NAS : “Network Attached Storage”の略で、ネットワークに直接接続されているファイルサーバーを指す。

一方、データセンターを利用している場合、そのデータセンターの責任で、冗長化が図られることになります。データセンターにデータを預けている側としては、バックアップ(オプションの場合があります)したデータの保存期間やデータ復旧までの時間といったことを定めたSLAを確認すべきです。

冗長化 : 同じものを複数用意し稼働させておくことで、万が一の事態に備えること

SLA : “Service Level Agreement”の略で、サービスの提供者と利用者の間で交わされる「サービスの水準」に関する合意を指す。

また、上述したASPのデータがサービス提供業者のクラウドサーバーに保存される場合、会社はサーバーを管理しようがありませんので、そのバックアップはサービス提供業者の責任により行われることになります。IT担当取締役としては、ASPの入力担当者やその上長にASP業者の信頼性やバックアップ体制の確認を指示することが必要になります。

クラウドサーバー : クラウド上(「雲」という意味で、インターネットでつながれたコンピュータのネットワークを指す)に置かれたサーバー。インターネットを経由してアクセスすることになる。

どこにバックアップ・データを保管する?

次に、バックアップしたデータをどこに保存するかを決めなければなりません。

バックアップの容易さという観点からは、手動またはバックアップ・ツールを用いて作成したバックアップ・データを、オリジナルのデータが保存されているPCやサーバーのハードディスクに保存する方法が容易です。しかし、その方法では、オリジナル・データが保管されているPCやサーバーが雷・火災・水害等により物理的被害を受けたり、コンピュータ・ウィルスの侵入を許してしまったりした場合に、オリジナル・データとともにバックアップ・データまで損失するリスクがあります。

バックアップ・ツール : バックアップを実行することを目的として導入するソフト

そこで、バックアップ・データはオリジナル・データとは別のストレージに保存して、そのストレージはオリジナル・データが保存されているサーバーから離れた場所で保管しておく方法や、遠隔地のサーバーにデータを転送して保存する方法などを検討する必要があります。

ストレージ : データを永続的に保存するための装置。ハードディスクやサーバーが代表例。

サーバー以外の保存先として考えられるストレージには、扱いが容易なハードディスクやDVD、USBメモリ、容量あたりの単価が安いテープ(DATLTO)といったメディア、あるいは最近普及が進んでいるクラウドサーバーがあります。それぞれのストレージの長所、短所を踏まえたうえで、データの保存先を決定することになります。

DAT : “Digital Audio Tape”の略。磁気テープ方式の記録媒体の一種

LTO : “Linear Tape-Open”の略。磁気テープ方式の記録媒体の一種

具体的には、各社員が作成した提案書、企画書、資料、精算書などのように容量が小さくて機密性も低く、頻繁にアクセスする可能性があるデータはハードディスクやDVDなどに、システムやデータベースなど容量が大きくなるものはテープに、メールのデータはクラウドサーバー上に保存するなど、データの性質によって保存先を変更することで、より運用しやすく、かつコストを抑えることができます。ただし、上述のとおり、USBメモリはデータが漏えいするリスクが高いため、避けるべきです。

また、ストレージを、PCやサーバーに近接した場所(建物、地域)で保管することは避けるべきです。火災や地震などの予期しない災害が発生した場合、PCやサーバーとともにバックアップ・データが被災してしまうリスクがあります。実際、東日本大震災の際に岩手、宮城両県の4市町村では戸籍データ(正本)が消失し、管轄の法務局に残っていた副本をもとに手作業でデータを再入力したものの、完全に復元することはできませんでした。こうした事例を鑑みると、ストレージを保管する場所は一か所に集中させず、分散させるべきです。保管場所を複数確保することが難しい場合には、データセンターの活用も検討する必要があるでしょう。

バックアップの頻度はRTOとコスト次第

バックアップされたデータは、データが更新された瞬間から陳腐化が始まります。つまり、バックアップは「定期的に」「繰り返し」行われてこそ、実効性があると言えます。

では、具体的にどれぐらいの頻度でバックアップを実施すべきでしょうか。

バックアップには時間的、金銭的コストを伴いますので、コストを抑制する観点から、重要度に応じて、データやシステムの種類ごとにリアルタイム、1日に1回、週に1回、月に1回、四半期に1回など適切な頻度を設定し、それに従ってバックアップを行っていくことになります。バックアップを取る頻度は、目標復旧時間(RTO:Recovery Time Objective)の視点に基づき決定します。RTOとは、業務を復旧するために目標とする時間のことです。RTOが1日ということになれば、1日前のバックアップが取れていれば十分ということになります。一方、大量のデータをやり取りする金融機関の口座取引データのRTOは秒単位になります。RTOをどれほどの時間に設定すべきかについては、データの性質や会社の考え方に応じて変わってくるため、一律に述べることはできません。例えば、仮にデータを消失しても、過去のどの時点のデータがあれば、業務の大幅な停滞を招かない程度の時間で人力によりリカバリーすることが可能であるかという視点から検討を行うことが考えられます。仮に購買の注文データが消失し、そのリカバリーのためには、購買の担当者が紙に出力しておいた注文書(控)をもとに、購買システムに手入力する必要があるとします。そのリカバリーのための作業時間は、消失したデータの量に比例します。もし業務の大幅な停滞を招かない程度の時間でデータをリカバリーすることができる量が1日分であれば、1日に1度のバックアップの実施が適切ですし、それが5日分であれば1週間に1度のバックアップの実施で十分という判断になります。

ただし、バックアップの頻度を増やせば、データの保存媒体や保管場所の確保により多くのコストがかかることになりますし、システムによっては、バックアップ処理中にデータが書き換えられることによりデータが不整合となることを防ぐためオンラインの停止を伴ったり、CPUに負荷がかかってレスポンスが遅くなったりといった具合に業務やシステムに対して負担をかけることもあります。そういった負担を回避するため、フルバックアップ(*1)だけでなく、差分バックアップ(*2)や増分バックアップ(*3)を組み合わせる方法が考えられます。例えば、会計データであれば毎月の月次決算処理後のデータと過去1週間分(ウィークデーは差分バックアップ、週末にフルバックアップ)といった方法の組み合わせがよく見かけられます。

*1 すべてのデータをバックアップ取り直すこと。それだけでリストアーが可能ですが、バックアップを取るのに時間がかかることが欠点です。
*2 前回フルバックアップを取った時からの変更分だけバックアップを取ること。フルバックアップより短い時間で済みますが、日数を経過するごとにバックアップの量が増えることになります。たとえば日曜日にフルバックアップを取り、ウィークデーは差分バックアップを取る場合、月曜日の差分バックアップは1日分のバックアップで済みますが、金曜日の差分バックアップは5日分のバックアップが必要になります。リストアーするためにはフルバックアップのデータも不可欠となります。
*3 前回フルバックアップや増分バックアップを取った時からの変更分だけバックアップを取ること。たとえば日曜日にフルバックアップを取り、それ以降は増分バックアップを取る場合、月曜日から土曜日はその日の分のバックアップで済みます。リストアーするためにはフルバックアップのデータと、各曜日の増分バックアップのデータすべてが必要になります。
バックアップは何世代保管すべきか

また、何世代のバックアップを保管するべきかという点も検討しなければなりません。これは、どれくらい過去に遡及してデータを復元する必要があるかといった業務上の要望に応じて検討すべきテーマと言えます。最新のデータさえリストアーできれば十分ということであれば1世代分で十分の様に思えるかも知れませんが、バックアップ・データに不具合が生じている可能性もあることから数世代分を保管するケースが良く見かけられます。保存する世代が多いほど安心と言えますが、その分記憶領域もかさむことになり、コスト増となります。

なお、古いバックアップ・データに新しいデータを上書きしない設定にしていると、ハードディスク等の記憶領域をすべて使い果たしてしまい、容量不足により最新のバックアップ・データが取得できていないという事態が発生することになりかねません。そこで、このような設定をしている場合には、古いデータは定期的に削除するなどのオペレーションを検討する必要があります。なお、こうしたオペレーションを自動で行えるのか、手作業で行う必要があるのかは企業やシステムによってまちまちとなっています。

どうやってリカバリーする?

社内のシステムに入力・生成・保存されるデータのバックアップを実施した場合、バックアップ・データのリストアーとリカバリーの手順についても明確に定めてマニュアル化しておく必要があります。

いくらバックアップ・データを取っても、これをリストアーして、通常のデータ(あるいはシステム)にリカバリーするための操作手順が分からないというのでは、これまで検討してきたバックアップの作業やコストが無駄になってしまいます。また、リストアーの過程でバックアップ・データを誤って消去してしまい、リストアーできなくなってしまうという事故も考えられます。データのリストアーやリカバリーはイレギュラーな作業であり、担当者がこれに従事する機会は少ないことから、“習熟しにくい作業”と言えます。そのため、いざリカバリーが必要な事態になった場合、ミスを犯してしまう可能性が高いと言えます。こうした事態を避けるため、まずリカバリーの操作手順の確立とその文書化が必須となります。その際、定期的にリストアーおよびリカバリーのテストを実施し、手順を検証することができればベストですが、テスト環境が用意できない場合、手順が陳腐化していないかという観点から机上レビューを定期的に行うことが必要です。

なお、OSやソフトの更新によって、データのリカバリー方法が変更される可能性もあるので注意してください。

また、初めてバックアップを行った際や、例えばシステム構成を変更したといった理由でバックアップ手続を変更した場合には、適切にバックアップが取れているか、そして、バックアップしたデータが問題なくリストアーできているかを確かめておかなければなりません。バックアップの目的は、データをリカバリーできてはじめて達成されます。せっかくバックアップを実施しても、リカバリーできなければまったく意味がありません。そこで、上述したリカバリーのための段取りの確認が不可欠となります。

バックアップとJ-SOX

「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」では、バックアップについて、次のように言及されています。

監査人は、財務報告に係るシステムの運用・管理の有効性を確認する。その際、例えば、以下の点に留意する。
・システムを構成する重要なデータやソフトウェアについて、障害や故障等によるデータ消失等に備え、その内容を保存し、迅速な復旧を図るための対策が取られていること

J-SOX対応においても、財務報告に係るデータが消失した場合に復旧できないリスクを識別・評価し、そういったリスクを軽減するような内部統制を整備し、それを運用していくことが必要とされます。

IT担当取締役としては、「BCPに欠かせないデータのバックアップ」でも上述したようにBCPとも整合をとりながら、コストを抑制しつつ、万が一の事態に備えるための仕組みを作り、それが陳腐化していないか定期的に見直しを図ることが望まれます。

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