2014/10/10 【事業管理】店舗を閉鎖したい(会員限定)

 

予想以上に重い追加コストが店舗閉鎖のタイミングを難しく

「○○社、不採算100店舗を閉鎖」といったニュースを新聞紙上で見かけることがあります。小売業や外食産業などの比較的多店舗展開が多い業種では、このような店舗の大量閉鎖のニュースは珍しくありません。

「100店舗を閉鎖」などという見出しを見ると、「出店に比べ、店舗の閉鎖にはたいしてコストがかからないから、閉鎖の決断は難しくないのだろう」などと思ってしまいますが、果たしてそうでしょうか。

出店時には、店舗の建設費、内装工事費、保証金などのコストがかかるのに対し、店舗の閉鎖の際には、看板や什器の撤去費用、原状回復費用、解約前予告家賃、保証金の割り増し償却といった、出店時とは“逆ベクトル”の諸費用が発生します。撤退にも結構お金がかかるのです。

閉鎖にかかる諸費用として発生が見込まれるものについて、その具体的な内容を主な出店パターンごとにまとめると次のとおりです。

費用の種類 出店パターン 内容
原状回復費用 テナント 「テナントを借りた時点」の状態に戻すための費用です。看板、内装、什器、仕切り壁などの撤去費用が該当します。
借地の上に店舗建物を建設 借地を更地に戻すためにかかる費用です。建物の取り壊し費用などが該当します。
ただし、建物の価値が残っているような場合であっても必ず取り壊して更地にしなければならないとするのは、社会経済上不合理であるという理由から、借地権者は、一定の場合には借地権の設定者に対して「建物買取請求権」を行使し、建物を時価で買い取ることを請求できます(借地借家法第13条)。実務上は、例えば賃料不払いなどの債務不履行がないまま借地権の存続期間が満了し、契約更新がないような場合には、借地権者の投下資本の回収を保護する観点から、建物買取請求権の行使が認められるケースが多くなっています。また、契約で建物買取請求権を認めないと規定しても、その条項は無効とされるなど、借地借家法では借地権者を手厚く保護する手当てがなされています。しかし、賃料支払を怠り、賃貸借契約を解除された場合には、借地権者を保護する必要はないため、建物買取請求権の行使は認められないとされています。
解約前予告家賃 テナント 「解約の予告」を店舗オーナーに通知してから実際に退去するまでに支払う家賃です。テナントを解約する場合、店舗オーナーに解約予告を通知する必要がありますが、通常、「退去の3か月前」や「半年前」に解約予告期限が設定されているため、店舗閉鎖の意思決定後すぐに退去したくても、3か月、半年といった期間は家賃を支払わなくてはなりません。これは、その間の家賃は、店舗オーナーが新しいテナントを探すまでのつなぎの家賃という性格を持っているからです。したがって、解約予告後に直ちに退去したいという場合でも、3か月分や半年分の家賃を払い続けるか、これらの期間の家賃を一括で支払うことになります。
保証金の敷引き テナント テナントを借りる際に支払った保証金から無条件に差し引かれる金額が「敷引き」です。通常、保証金は退去時に「保証金償却」という名目で何割かを施設オーナーに差し引かれます(敷引き)ので、その全額が戻ってくることは少ないと考えられます。したがって、この敷引き金額も店舗の閉鎖にかかる費用となります。地域や商慣習などによって償却率が異なるため、敷引きの相場は一概に何割とはいえませんが、例えば保証金の20%をテナントの明け渡し時に差し引くといった文言が契約書に盛り込まれることになります。満期解約の場合よりも中途解約の場合の方が償却率は高くなるのが通常です。
なお、敷引きという言葉は「敷金」から来ていますが、保証金と敷金は、法的に規定されているか否かという点で違いがあります。敷金は法律用語であり、賃料不払いなどの債務不履行があった場合の法的な担保という性格を有しています。一方、保証金は特に法律上で定義された用語ではなく、債務不履行の担保というよりはどちらかというと当事者間の金銭消費貸借契約に近い性格のものとされています。ただし、実務上は、契約の中で両者を同じものとして扱っていることが多いようです。
敷金については、返還額を巡りオーナーと揉めることが珍しくないようですが、保証金の場合は契約時にあらかじめ償却率が決められているため、(賃借人の瑕疵により特別な修繕に伴う追加コストが必要であると判断されるような場合でない限り)敷金と比較して解約時のトラブルは起こりにくいと言えます()。
その他の費用 すべてのケース 什器やレジ等をリースしている場合、解約に伴い解約手数料が発生する場合があります。解約前にリース契約書の解約不能期間と残リース料を確認しておくべきです。
自社所有の什器を廃棄する場合は、産業廃棄物の業者に支払う廃棄コストや固定資産の簿価を落とす除却損が発生します。
また、閉店を知らせるダイレクト・メールを顧客に送る場合には、その作成費用や印刷費用、郵便代、従業員を解雇する場合には解雇予告手当といった諸費用が発生します。

テナント : 所有・管理・運営者と賃貸借契約を結び、商業ビルやデパート・ショッピングセンター・鉄道駅構内などで営業する店舗

 賃貸人の地位に変動がある場合は、保証金の取扱いに注意が必要となります。賃貸人が変わった際に、敷金は法的に規定されたものであるため、新賃貸人に当然に引き継がれ、賃借人は新賃貸人から敷金の返還を受けることができます。一方、保証金は法的に規定されているものではないため、旧賃貸人から新賃貸人に保証金が引き渡されないと、賃借人は保証金の返還を受けることができなくなるおそれがあります。したがって、保証金を差し入れる場合には、契約書において、賃貸人の地位の変動がある場合に、新賃貸人に保証金の返還義務が引き継がれる旨規定されているかどうかを確認する必要があることに注意しましょう。

このように、店舗を閉鎖する際には、様々なコストが追加的に発生します。この追加コストの発生を理由に、店舗閉鎖のタイミングを図りかねている取締役も多いのではないでしょうか。店舗閉鎖の理由としてもっとも多いのは、当該店舗の業績悪化ですが、ただでさえ店舗の赤字が発生していたところに、店舗の閉鎖コストが追加でかかることになり、会社の業績をますます悪化させてしまいかねないからです。そうかといって、閉店を先送りにしても赤字垂れ流しの元凶になってしまいます。だからこそ、店舗を閉鎖するか否かの判断を適時に行う必要があります。

では、店舗を閉鎖するか否かの判断は具体的にどのように行えばよいのでしょうか。次に解説します。

採算が合わなくても「閉鎖しない」との判断もあり得る

「もう少し頑張れば経営環境が変わり、店舗の利益が回復するのではないか」「今までのやり方を変えれば利益が出るのではないか」といった期待を持ち続けてズルズルと店舗を継続した結果、閉店のタイミングを見誤り、会社全体の業績に悪影響を及ぼしてしまうということがあります。特に新規出店効果で売上が伸びている間は不振店舗への目が行き届かなくなりがちですが、会社全体の業績が悪化してから店舗閉鎖に踏み切っても「時既に遅し」という状況に陥っているケースも少なくありません。

また、売上至上主義にとらわれて、売上減少が避けられない店舗の閉鎖に踏み切ることに躊躇するケースも散見されます。店舗を閉鎖するか否かは、売上よりも「利益」に目を向けて判断する必要があります。

経営努力により新たなビジネスチャンスを見出していくことと同様に、不採算店舗を閉鎖するという経営判断も時として重要です。不採算店舗にかけている経費を他の店舗に回すことができれば、資源の効率的な再分配が可能となるかもしれないのです。

店舗閉鎖について適切な時期に適切な判断を下すことができるように、営業担当取締役としては、店舗を閉鎖する際の判断基準(以下、「退店基準」)を規程化しておくべきです。

退店基準は会社によってさまざまですが、「採算が合わない」すなわち「赤字店舗である」ということを重要な基準としている会社が多いようです。赤字店舗かどうかの判断基準は、会社が管理会計上どのような指標を設けているかによって異なります。一般的には、「営業損益が継続してマイナスまたは今後継続してマイナス見込みである」または「営業キャッシュ・フローが継続してマイナスまたは今後継続してマイナス見込みである」の2つの指標のどちらかを判断基準とするケースをよく見かけます。なお、会社の管理会計上、営業損益と営業キャッシュ・フローの両方を把握している場合は、後述する減損の会計処理との関係で留意点があります。「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」第12項(3)および第80項においては、管理会計上、営業損益と営業キャッシュ・フローの両方を把握している場合には、営業損益によって、減損の兆候を判断する()とされています。したがって、営業キャッシュ・フローが継続してプラスでも、営業損益が継続してマイナスの場合には、会計上は減損の兆候があると判断されます。なお、「今後継続してマイナス見込みである」のかどうかは、前期実績がマイナスで、当期以降の見込みが明らかにマイナスとなる場合を指します。例えば、競合店が近隣に出店して競争が激化したことから、前期に営業赤字となってしまい、当期において店舗の改装や新メニューの投入などの施策を講じたものの、更なる競合店の登場などにより、マイナスからの脱却が期待できないことが明らかになった、という場合です。

 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」には、「減損の兆候の把握には「営業活動から生ずる損益」によることが適切である」(同12項)と規定されています。

その一方で、たとえ採算が合わなくてもあえて店舗の閉鎖をしないという判断を行うこともあります。「当該店舗がテレビによく取り上げられ、広告塔の役割を果たしている」「当該店舗の存在が企業のブランドイメージと深く根付いている」など、その店舗が、キャッシュ・イン以外の付加価値を生み出しているケースです。このような場合、当該店舗から発生するコストを「広告宣伝費」ととらえることで、これが他店舗の増益につながるとともに、結果としてその収益で当該広告宣伝費を回収できればよいと考えることができるのであれば、店舗継続の意思決定を行うことも、合理的な経営判断といえるでしょう(この点については、「店舗を新規出店したい」も参照してください)。

このように、もし社内で退店基準が整備されていない場合には、取締役(特に営業担当取締役)はこれを整備していくとともに、当該基準が適切に運用されていることを随時確認しておきましょう。退店基準の活用としては、例えば、店舗の月次損益状況を経営会議等で報告するための資料において、退店基準への抵触の有無を店舗毎に明示することが考えられます。

なお、退店基準の機械的な適用による弊害を避けるため、退店基準には例外規定を設ける場合があります。営業担当取締役以外の取締役や監査役は、そういった例外規定を用いているケース(例えば、採算が合わないため退店基準に引っかかるにもかかわらず、退店の意思決定をしない場合)を見つけた場合は、例外規定が適用された理由が合理的なものであることを確認する必要があります。

もっとも、退店基準を整備したとしても、それがずっとそのまま使えるわけではありません。例えば景気の上昇が見込まれる場合には、「採算が合わない赤字店舗」を退店基準として利用するのは妥当ではないかもしれません。景気が良くなればどの店舗も営業黒字になり、退店基準に引っかからなくなります。そのような環境下では、利益が出ているのは当たり前として、より利益率を高めていこう、という考えが一層強まります。特に経営環境の好転により新規出店や事業拡大などの投資活動にお金をかけていく必要性が生じてくると、投資したお金をできるだけ早く回収し、次の投資に振り向けるという循環サイクルを早めていくことも重要となってきます。黒字であっても、利益率が悪ければ投資したお金の回収に時間がかかり、その分だけ新たな利益を生み出すまでに時間がかかることになりますので、利益率の良し悪しは投資の回収期間に大きな影響を与えます。このような場合には、例えば貢献利益率(売った分だけ増えていく利益(売上高-変動費)の売上高に占める割合)ベースで○○%未満の店舗は閉鎖する、といった退店基準の見直しを行う必要性が生じてくるかもしれません。これは退店基準を「店舗の採算性」から「店舗の効率性」にシフトさせるケースと言えます。このように、退店基準は、経済環境の変化等にあわせて随時見直していくべきものと言えます。

また、退店基準は事業計画と密接に連動することになります。経営企画担当の取締役や営業担当の取締役は、退店基準を見直すときに事業計画自体を見直す必要がないのかという点や、事業計画の見直しに際して退店基準を見直さなくてもよいのかという点について検討を加えるべきと言えます。

店舗閉鎖が視野に入れば会計上の検討項目が増える

営業損益や営業キャッシュ・フローが継続してマイナス(おおむね過去2期がマイナス。当期見込が明らかにプラスの場合は除く)、もしくは継続してマイナスとなる見込み(前期と当期以降の見込みが明らかにマイナス)の場合は、会計上、「減損」の“兆候”があると判断されます(後述するように、実際に減損損失を認識するかどうかは別です)。

減損とは、事業の収益性が低くなってしまったことにより、店舗建物などの固定資産に投資した金額の回収が見込めなくなった状態を言います。つまり、店舗建物などの固定資産を使用することで見込んでいた利益が想定していたよりも低水準に留まっており、固定資産に投資した資金を回収できなくなってしまったような状態です。このような状態になってしまったにもかかわらず、帳簿価額をそのまま据え置いておくことは、将来に損失を繰り延べているようなものであり、固定資産が過大に評価されていることになります。例えば、店舗建物に1億円を投資した場合、通常であれば、1億円という金額(=帳簿価額)をベースに減価償却費を計上していくことになりますが、その店舗が毎年連続して赤字が出ているとなれば、もはや当該店舗建物は1億円という帳簿価額をベースに計算した減価償却費に見合う収益を生み出す価値はないことになります。

そこでこの場合、当該店舗建物が将来的にどのくらいのキャッシュ・フローを生み出すことができるかを検討した上で、減損による損失を計上せざるをえないと判断した場合は、当該店舗建物の帳簿価額を「回収が見込める金額」まで減らす(これを「減損処理」と言います)必要があります。例えば、帳簿価額1億円の店舗建物が使用されている営業活動から生じる損益が過去2年間マイナスとなっている場合で、将来的に3,000万円のキャッシュ・フローしか生み出さないと判断される場合には、この3,000万円を現在価値に割り引いた上で店舗建物の帳簿価額とし、減損処理前の帳簿価額1億円と減損処理後の帳簿価額の差額が減損損失として損失処理されます。この減損損失は、巨額となるケースが多く、経営成績に大きな影響を与えることになります。そこで、取締役としては店舗閉鎖を視野に入れた場合に、減損についての検討が欠かせません。それに先立ち、減損に関する社内規程を整備し、減損の兆候の有無を適時に検討するための業務フローを整備・運用することが必要となります。詳細は「減損損失の計上の是非」を参照してください。

また、上述のとおり、テナント契約や定期借地契約を締結している場合には、退去時に原状回復費用が発生します。この原状回復費用は、契約をするタイミングで合理的に見積ったうえで、「資産除去債務」として計上するのが原則です。取締役は、新規の賃貸借契約締結時に、契約書等の情報が経理部に回付され、資産除去債務の計上の有無について、必ず経理部が判断できるよう業務フローを整え、それが運用されているかどうかを確認する必要があります。なお、契約時に金額を合理的に見積もることができないという理由で資産除去債務を計上しないという選択も可能です。その場合には、店舗の閉鎖が決定され金額を合理的に見積もることが可能になった時点で資産除去債務を見積り、計上することになります。営業用の店舗などでは、投資の回収期間が当初から計画され、その期間が過去の他店舗の実績を勘案して合理的な期間であると見込まれる場合は、契約上の賃貸借期間にかかわらず、退店が予定されている時期を資産除去債務の履行時期と考えることもあります。なお、賃貸借契約の更新が想定され、撤退・退去時期について予想することが極めて困難な場合などは、実務上、資産除去債務の計上を見送るケースが多いようです。

資産除去債務 : 有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって生じる、有形固定資産の除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるものをいう。具体的には、法令や契約で要求される将来の撤退・撤去の際に必要となる諸費用額のこと。

さらに、店舗の閉鎖により見込まれる固定資産の除売却にかかる損失や、契約に基づかない原状回復費用、テナント賃貸人に対する中途解約違約金、他店舗への異動を予定しない社員に支払う割増退職金などの発生の可能性が高く、金額を合理的に見積もることができる場合は、引当金(店舗閉鎖損失引当金など)を計上しなければなりません。

固定資産の除売却にかかる損失 : 例えば、固定資産除却損(解体費用を含む)や売却損など。法律上の義務に基づかないで発生する損失であることから、資産除去債務とはならない。
契約に基づかない原状回復費用 : 有形固定資産の除去に係る費用とはいえない費用で、例えば、引っ越しにかかる費用やクリーニング費用がある。
他店舗への異動を予定しない社員 : その店舗の専属スタッフとして採用されている社員で他店舗への異動を希望しない社員

このように、店舗の閉鎖局面では、期末決算の会計処理において、合理的な見積もりに関する検討課題が増えることも、取締役(特に経理担当取締役および営業担当取締役)としては押さえておく必要があります。

業績予想への影響を考慮して修正も検討が必要

店舗を閉鎖する場合、閉鎖後の売上は当然ゼロになってしまいます。また、上述したように閉店コストの発生や見積りによる会計処理の影響により、多額の追加的な損失が生じてしまうのが通常です。

そこで、店舗の閉鎖を決定した場合、投資家の投資判断に影響を与える可能性があることから、必ずしも証券取引所の定める決定事実に該当しなくても、店舗閉鎖についての情報を適時開示するのが望ましいと言えます。

決定事実 : 証券取引所の適時開示基準の一つ。会社が決定した事実のうち、重要性が高いことから適時開示が必要となるもの。

また、店舗閉鎖の結果、当期の実績見込みが期首に公表した当初の業績予想値を下回ってしまうケースがあります。その程度が投資者の投資判断に重要な影響を与える可能性がある場合は、当期の実績見込みに基づく適時開示が求められ、業績予想の下方修正を発表する必要があります(業績予想の見直しについては、「業績予想を修正したい」の「「業績予想の修正」の判断基準と開示すべき事項」を参照してください)。

このため取締役としては、店舗開発部等店舗の閉鎖を管轄する部署に店舗の閉鎖についての計画(退店計画)を作成させ、閉鎖に関わる損失の見積りが適切に行われるとともに、その情報が業績予想を管理するIR担当部署や担当者へタイムリーに伝達されるという業務フローを整備し、運用していかなければなりません。また、業績予想の見直しが適切なタイミングで実施され、開示が正確に行われる仕組みも構築すべきです。

また、店舗の閉鎖に伴い一定の基準を超える業績予想の修正が必要となった場合は、インサイダー取引における「重要事実」に該当することになる点にも留意しなければなりません(業績予想の修正とインサイダー取引の関係は「業績予想を修正したい」の「業績予想の修正が「インサイダー情報」にあたるケース」を参照してください)。

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2014/10/10 【事業管理】店舗を閉鎖したい

 

予想以上に重い追加コストが店舗閉鎖のタイミングを難しく

「○○社、不採算100店舗を閉鎖」といったニュースを新聞紙上で見かけることがあります。小売業や外食産業などの比較的多店舗展開が多い業種では、このような店舗の大量閉鎖のニュースは珍しくありません。

「100店舗を閉鎖」などという見出しを見ると、「出店に比べ、店舗の閉鎖にはたいしてコストがかからないから、閉鎖の決断は難しくないのだろう」などと思ってしまいますが、果たしてそうでしょうか。

出店時には、店舗の建設費、内装工事費、保証金などのコストがかかるのに対し、店舗の閉鎖の際には、看板や什器の撤去費用、原状回復費用、解約前予告家賃、保証金の割り増し償却といった、出店時とは“逆ベクトル”の諸費用が発生します。撤退にも結構お金がかかるのです。

閉鎖にかかる諸費用として発生が見込まれるものについて、その具体的な内容を主な出店パターンごとにまとめると次のとおりです。

費用の種類 出店パターン 内容
原状回復費用 テナント 「テナントを借りた時点」の状態に戻すための費用です。看板、内装、什器、仕切り壁などの撤去費用が該当します。
借地の上に店舗建物を建設 借地を更地に戻すためにかかる費用です。建物の取り壊し費用などが該当します。
ただし、建物の価値が残っているような場合であっても必ず取り壊して更地にしなければならないとするのは、社会経済上不合理であるという理由から、借地権者は、一定の場合には借地権の設定者に対して「建物買取請求権」を行使し、建物を時価で買い取ることを請求できます(借地借家法第13条)。実務上は、例えば賃料不払いなどの債務不履行がないまま借地権の存続期間が満了し、契約更新がないような場合には、借地権者の投下資本の回収を保護する観点から、建物買取請求権の行使が認められるケースが多くなっています。また、契約で建物買取請求権を認めないと規定しても、その条項は無効とされるなど、借地借家法では借地権者を手厚く保護する手当てがなされています。しかし、賃料支払を怠り、賃貸借契約を解除された場合には、借地権者を保護する必要はないため、建物買取請求権の行使は認められないとされています。
解約前予告家賃 テナント 「解約の予告」を店舗オーナーに通知してから実際に退去するまでに支払う家賃です。テナントを解約する場合、店舗オーナーに解約予告を通知する必要がありますが、通常、「退去の3か月前」や「半年前」に解約予告期限が設定されているため、店舗閉鎖の意思決定後すぐに退去したくても、3か月、半年といった期間は家賃を支払わなくてはなりません。これは、その間の家賃は、店舗オーナーが新しいテナントを探すまでのつなぎの家賃という性格を持っているからです。したがって、解約予告後に直ちに退去したいという場合でも、3か月分や半年分の家賃を払い続けるか、これらの期間の家賃を一括で支払うことになります。
保証金の敷引き テナント テナントを借りる際に支払った保証金から無条件に差し引かれる金額が「敷引き」です。通常、保証金は退去時に「保証金償却」という名目で何割かを施設オーナーに差し引かれます(敷引き)ので、その全額が戻ってくることは少ないと考えられます。したがって、この敷引き金額も店舗の閉鎖にかかる費用となります。地域や商慣習などによって償却率が異なるため、敷引きの相場は一概に何割とはいえませんが、例えば保証金の20%をテナントの明け渡し時に差し引くといった文言が契約書に盛り込まれることになります。満期解約の場合よりも中途解約の場合の方が償却率は高くなるのが通常です。
なお、敷引きという言葉は「敷金」から来ていますが、保証金と敷金は、法的に規定されているか否かという点で違いがあります。敷金は法律用語であり、賃料不払いなどの債務不履行があった場合の法的な担保という性格を有しています。一方、保証金は特に法律上で定義された用語ではなく、債務不履行の担保というよりはどちらかというと当事者間の金銭消費貸借契約に近い性格のものとされています。ただし、実務上は、契約の中で両者を同じものとして扱っていることが多いようです。
敷金については、返還額を巡りオーナーと揉めることが珍しくないようですが、保証金の場合は契約時にあらかじめ償却率が決められているため、(賃借人の瑕疵により特別な修繕に伴う追加コストが必要であると判断されるような場合でない限り)敷金と比較して解約時のトラブルは起こりにくいと言えます()。
その他の費用 すべてのケース 什器やレジ等をリースしている場合、解約に伴い解約手数料が発生する場合があります。解約前にリース契約書の解約不能期間と残リース料を確認しておくべきです。
自社所有の什器を廃棄する場合は、産業廃棄物の業者に支払う廃棄コストや固定資産の簿価を落とす除却損が発生します。
また、閉店を知らせるダイレクト・メールを顧客に送る場合には、その作成費用や印刷費用、郵便代、従業員を解雇する場合には解雇予告手当といった諸費用が発生します。

テナント : 所有・管理・運営者と賃貸借契約を結び、商業ビルやデパート・ショッピングセンター・鉄道駅構内などで営業する店舗

 賃貸人の地位に変動がある場合は、保証金の取扱いに注意が必要となります。賃貸人が変わった際に、敷金は法的に規定されたものであるため、新賃貸人に当然に引き継がれ、賃借人は新賃貸人から敷金の返還を受けることができます。一方、保証金は法的に規定されているものではないため、旧賃貸人から新賃貸人に保証金が引き渡されないと、賃借人は保証金の返還を受けることができなくなるおそれがあります。したがって、保証金を差し入れる場合には、契約書において、賃貸人の地位の変動がある場合に、新賃貸人に保証金の返還義務が引き継がれる旨規定されているかどうかを確認する必要があることに注意しましょう。

このように、店舗を閉鎖する際には、様々なコストが追加的に発生します。この追加コストの発生を理由に、店舗閉鎖のタイミングを図りかねている取締役も多いのではないでしょうか。店舗閉鎖の理由としてもっとも多いのは、当該店舗の業績悪化ですが、ただでさえ店舗の赤字が発生していたところに、店舗の閉鎖コストが追加でかかることになり、会社の業績をますます悪化させてしまいかねないからです。そうかといって、閉店を先送りにしても赤字垂れ流しの元凶になってしまいます。だからこそ、店舗を閉鎖するか否かの判断を適時に行う必要があります。

では、店舗を閉鎖するか否かの判断は具体的にどのように行えばよいのでしょうか。次に解説します。

採算が合わなくても「閉鎖しない」との判断もあり得る

「もう少し頑張れば経営環境が変わり、店舗の利益が回復するのではないか」「今までのやり方を変えれば利益が出るのではないか」といった期待を持ち続けてズルズルと店舗を継続した結果、閉店のタイミングを見誤り、会社全体の業績に悪影響を及ぼしてしまうということがあります。特に新規出店効果で売上が伸びている間は不振店舗への目が行き届かなくなりがちですが、会社全体の業績が悪化してから店舗閉鎖に踏み切っても「時既に遅し」という状況に陥っているケースも少なくありません。

また、売上至上主義にとらわれて、売上減少が避けられない店舗の閉鎖に踏み切ることに躊躇するケースも散見されます。店舗を閉鎖するか否かは、売上よりも「利益」に目を向けて判断する必要があります。

経営努力により新たなビジネスチャンスを見出していくことと同様に、不採算店舗を閉鎖するという経営判断も時として重要です。不採算店舗にかけている経費を他の店舗に回すことができれば、資源の効率的な再分配が可能となるかもしれないのです。

店舗閉鎖について適切な時期に適切な判断を下すことができるように、営業担当取締役としては、店舗を閉鎖する際の判断基準(以下、「退店基準」)を規程化しておくべきです。

退店基準は・・・

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店舗閉鎖が視野に入れば会計上の検討項目が増える

営業損益や営業キャッシュ・フローが継続してマイナス(おおむね過去2期がマイナス。当期見込が明らかにプラスの場合は除く)、もしくは継続してマイナスとなる見込み(前期と当期以降の見込みが明らかにマイナス)の場合は、会計上、「減損」の“兆候”があると判断されます(後述するように、実際に減損損失を認識するかどうかは別です)。

減損とは、事業の収益性が低くなってしまったことにより、店舗建物などの固定資産に投資した金額の回収が見込めなくなった状態を言います。つまり、店舗建物などの固定資産を使用することで見込んでいた利益が想定していたよりも低水準に留まっており、固定資産に投資した資金を回収できなくなってしまったような状態です。このような状態になってしまったにもかかわらず、帳簿価額をそのまま据え置いておくことは、将来に損失を繰り延べているようなものであり、固定資産が過大に評価されていることになります。例えば、店舗建物に1億円を投資した場合、通常であれば、1億円という金額(=帳簿価額)をベースに減価償却費を計上していくことになりますが、その店舗が毎年連続して赤字が出ているとなれば、もはや当該店舗建物は1億円という帳簿価額をベースに計算した減価償却費に見合う収益を生み出す価値はないことになります。

そこでこの場合、当該店舗建物が将来的にどのくらいのキャッシュ・フローを生み出すことができるかを検討した上で、減損による損失を計上せざるをえないと判断した場合は、当該店舗建物の帳簿価額を「回収が見込める金額」まで減らす(これを「減損処理」と言います)必要があります。例えば、帳簿価額1億円の店舗建物が使用されている営業活動から生じる損益が過去2年間マイナスとなっている場合で、将来的に3,000万円のキャッシュ・フローしか生み出さないと判断される場合には、この3,000万円を現在価値に割り引いた上で店舗建物の帳簿価額とし、減損処理前の帳簿価額1億円と減損処理後の帳簿価額の差額が減損損失として損失処理されます。この減損損失は、巨額となるケースが多く、経営成績に大きな影響を与えることになります。そこで、取締役としては店舗閉鎖を視野に入れた場合に、減損についての検討が欠かせません。それに先立ち、減損に関する社内規程を整備し、減損の兆候の有無を適時に検討するための業務フローを整備・運用することが必要となります。詳細は「減損損失の計上の是非」を参照してください。

また、上述のとおり、テナント契約や定期借地契約を締結している場合には、退去時に原状回復費用が発生します。この原状回復費用は、・・・

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業績予想への影響を考慮して修正も検討が必要

店舗を閉鎖する場合、閉鎖後の売上は当然ゼロになってしまいます。また、上述したように閉店コストの発生や見積りによる会計処理の影響により、多額の追加的な損失が生じてしまうのが通常です。

そこで、店舗の閉鎖を決定した場合、投資家の投資判断に影響を与える可能性があることから、必ずしも証券取引所の定める決定事実に該当しなくても、・・・

決定事実 : 証券取引所の適時開示基準の一つ。会社が決定した事実のうち、重要性が高いことから適時開示が必要となるもの。

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2014/10/10 チェックリスト:店舗を閉鎖したい(会員限定)

■チェックリスト:店舗を閉鎖したい

チェック事項 備考 対応未了 対応済
営業担当取締役は、店舗を閉鎖する判断基準(退店基準)を策定しているか。 例えば、
・営業損益が継続してマイナスまたは今後継続してマイナス見込み
・営業キャッシュ・フローが継続してマイナスまたは今後継続してマイナス見込み
(なお、上記の場合には、会計上、減損の兆候があると判断されることがある)
・広告塔の役割を果たしている、当該店舗の存在が企業のブランドイメージと深く根付いている、などの理由から閉店しない など
店舗を閉鎖する基準に該当するものの、例外規定により店舗閉鎖を見送った場合、営業担当取締役以外の取締役や監査役としてはその理由が合理的なものであることを確認しているか。 店舗を閉鎖する基準に該当しないものの、例外規定により店舗閉鎖を行う場合も同様である。
営業担当取締役は、退店基準の見直しを行っているか。 例えば、景気の上昇が見込まれる場合には、不採算店舗から非効率店舗の閉鎖に退店基準を見直す など。
事業計画の見直しに連動する場合もある。
退店基準の見直しを行った場合、経営企画担当取締役や営業担当取締役は事業計画の見直しの必要性の有無を検討したか。
店舗の閉鎖に伴い、閉鎖コストの見積りを行ったか。 原状回復費用、解約前予告家賃、保証金償却、リース解約損 など
固定資産の減損損失を適切に計上するために、規程を整備するとともに、減損の兆候の有無を適時に検討するための業務フローを整備・運用しているか。 固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態であり、減損処理とは、そのような場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理のことを指す(固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書 三 3.)。
新規の賃貸借契約締結時に、契約書等の情報が経理部に回付され、資産除去債務の計上の有無について、必ず経理部が判断することができるよう業務フローが整えられ、それが確実に運用されているか。 資産除去債務は、有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって発生した時に負債として計上することとされている(資産除去債務に関する会計基準第4項)。なお、資産除去債務の発生時に、当該債務の金額を合理的に見積ることができない場合には、これを計上せず、当該債務額を合理的に見積ることができるようになった時点で負債として計上することとされている(同第5項)。
店舗閉鎖損失引当金を適切に計上しているか。 店舗の閉鎖により見込まれる固定資産の除却にかかる損失や、契約に基づかない原状回復費用、テナント賃貸人に対する中途解約違約金、他店舗への異動を予定しない社員に支払う割増退職金などの発生の可能性が高く、金額を合理的に見積もることができる場合は、引当金(店舗閉鎖損失引当金など)を計上する。
店舗の閉鎖に伴い、退店計画を策定したか。
店舗の閉鎖自体についての適時開示の検討を行ったか。
取締役は、「閉鎖に関わる損失の見積りが適切に行われるとともに、その情報が業績予想を管理するIR担当者へタイムリーに伝達される」ための内部統制を整備し、運用しているか。
IR担当部署や担当者は、業績予想の見直しを適切なタイミングで実施しているか。
IR担当取締役は、店舗の閉鎖に伴うコスト増の業績予想に与える影響を認識しているか。

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2014/10/09 (新用語・難解用語)ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法(会員限定)

企業価値を評価する手法の1つ。

ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法による企業価値のベースとなるのが、文字通り企業が将来にわたって稼ぐと予想される「キャッシュ(現金)」だ。これは、企業は株主・債権者から集めた資金で事業を行ってキャッシュを稼ぎ、このキャッシュを原資に株主還元や債権者への利払い・債務の返済を行うことになるため。このようなキャッシュは、経営陣が自由に使い道を決めることができる資金という意味で「フリー・キャッシュフロー(FCF)と言われる。

企業に資金を投じた株主や債権者は、当然ながら一定の収益率(銀行預金でいう金利)をあげることを期待している。この収益率は、企業から見れば「資金調達に伴うコスト」であるため、資本コストと呼ばれる。

DCF法では、「資本コスト(収益率)」を使って、企業が将来にわたって稼ぎ出すFCFを企業価値に置き換えることになる。FCFを企業価値に置き換えることを「現在価値に割り引く」という(詳細は後述)。

以下、企業価値の計算式を構成する各要素や、「現在価値に割り引く」プロセスについて詳しく説明しよう。

1.フリー・キャッシュフロー(FCF)
まずFCFの算出方法だが、通常は以下の式により算出する。

FCF=(1)営業利益(税引き後)+(2)非現金支出(減価償却など)-(3)設備投資-(4)運転資金の増減

税金はキャッシュを減らすことになるが、営業利益を算出する過程で差し引かれる営業費用の中には法人税等は含まれないため、(1)の営業利益からは法人税等を別途差し引く必要がある。また、営業費用には (2)減価償却などの非現金支出が含まれている。したがって、FCFを算出する際には、(2)を(1)に足し戻すことにより、「会計ベースの利益」を「キャッシュ・ベースの利益」に置き換える必要がある。

一方、企業活動の継続や成長には(3)設備投資や(4)運転資金が必要であるため、これらはキャッシュ・ベースの利益から差し引くことになる。ここで、(4)の運転資金が「増減」となっている点に注意したい。売上代金の回収は売上の数か月後になることが珍しくないが(これを掛売りという)、売上代金を回収する前に、仕入代金の支払時期が到来することがある。この場合、売上代金が回収されるまでは手元にあるキャッシュで仕入代金を立て替える必要がある。この立替金が「運転資金」だ。例えば、前期は1億円の運転資金で十分だったが、事業規模が拡大し今期は1億5千万円必要になった場合、稼いだキャッシュの中から5千万円を運転資金に充当する必要がある。すなわち、運転資金が増えた分、FCFは減少することになる。運転資金は「立替金」であって会計上は費用ではないため、(1)営業利益からFCFを算出する過程で差し引く必要があるというわけだ。

2.資本コスト
資本コストは、株主および債権者の期待収益率の「加重平均」によって算出する。株式の期待収益率を「株式コスト」、債権者の期待収益率を「負債コスト」という。以下、それぞれについて説明する。

●株主の期待収益率(株式コスト)
「株主はリスクに見合った収益率を期待する」というのが基本的な考え方。これを算式で表すと以下の通りとなる。

株式コスト=(1)リスクフリー・レート(RFR)+(2)リスク・テイクによる超過的な期待収益率

(1)はリスクを取らずに得ることのできるリターンで、国債利回りを用いるのが通常である。しかし、実際の株式投資はリスクを伴うため、(2)RFRを上回る(超過する)収益率が期待される。

超過的な期待収益率は、TOPIXなど株式市場全体を示す指数をベースに計算される。基本的には、TOPIXなどに基づく期待収益率(Rm=required market rate of return)とRFRの差が株式投資に伴うリスクに対する「超過的な期待収益率」となる。

ただし、当然ながら期待収益率は企業によって異なる。株価がTOPIXと同様の動きをする企業もあれば、TOPIXと乖離しているところもあろう。そこで、各企業の「超過的な期待収益率」は、当該企業の株価のTOPIXなどに対する“感応度”を考慮して調整する必要がある。専門用語でこの感応度のことを「ベータ(β)」という。βの解釈はやや難しいが、要するに株式市場全体の動きに対して大きく反応する場合には感応度(リスク)が高く、あまり大きく反応しない場合には感応度が低い、と理解しておけばよい。これを算式で表すと以下の通りとなる。

(2)リスク・テイクによる超過的な期待収益率=β ×(Rm-RFR)

具体的な事例で考えてみよう。

例)
  ・RFR=1.0%(国債利回りなど)
  ・TOPIXの期待収益率=6.0%
  ・β=0.8(TOPIXが5%上昇するときの当該企業の平均株価上昇率は4%)

この場合、株式コストは以下のように算出されることになる。
 株式コスト=1.0%(RFR)+0.8(β)×(6.0%(Rm)-1.0%(RFR))=5.0%

●債権者の期待収益率(負債コスト)
債権者の期待収益率は「債権者に対する金利」である。したがって、負債コストを求める算式は以下のとおりとなる。

負債コスト=支払利息 ÷ 有利子負債(平均残高)×(1-税率)

法人税法上、支払利子は損金算入できるので、その分、負債コストは軽減されることになる。逆に配当などの株主還元は損金算入できない。これが、上述の株式コストには(1-税率)の項が付いていない理由である。

3.現在価値に割り引く
単純な例で説明しよう。投資金額100億円、期待収益率5%とすると、期待される収益は以下のように計算できる。
 投資金額100億円 × 期待収益率5%=期待収益5億円

この式を書き換えると、以下のようになる。
 投資金額100億円=期待収益5億円 ÷ 期待収益率5%

また、上記算式の各要素は、以下のように言い換えることができる。

投資金額=株式時価総額と有利子負債の合計=企業価値
期待収益=FCF
期待収益率=資本コスト

したがって、毎年5億円のFCFを稼ぐ、資本コスト5%の企業の価値は以下のように計算できる。
 企業価値=5億円(FCF)÷ 5%(資本コスト)=100億円

これは、要するに将来企業が稼ぐFCFを現在の企業価値に置き換える式であるが、将来のFCFを単純に合計した金額(例えば30年間では150億円)に比べると企業価値の方が小さくなっている。専門用語で「現在価値に割り引く」という言い方をするのはそのためである。上記算式からも明らかなように、資本コストが高い(低い)ほど、企業価値は小さく(大きく)なる点に注意して欲しい。

役員は、資本コストとは「株主および債権者が期待する(要求する)収益率」であるということを忘れないようにしたい。したがって、企業(経営者)が投資を検討する場合、投資による収益率が資本コストを上回るかどうかが重要なポイントになる。収益率が資本コストを上回る投資案件が見当たらない場合には、株主還元や有利子負債の削減を優先する方が企業価値にプラス寄与することを念頭に置く必要がある。

2014/10/09 (新用語・難解用語)ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法

 企業価値を評価する手法の1つ。

 ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法による企業価値のベースとなるのが、文字通り企業が将来にわたって稼ぐと予想される「キャッシュ(現金)」だ。これは、企業は株主・債権者から集めた資金で事業を行ってキャッシュを稼ぎ、このキャッシュを原資に株主還元や債権者への利払い・債務の返済を行うことになるため。このようなキャッシュは、経営陣が自由に使い道を決めることができる資金という意味で「フリー・キャッシュフロー(FCF)と言われる。

 企業に資金を投じた株主や債権者は、当然ながら一定の収益率(銀行預金でいう金利)をあげることを期待している。この収益率は、企業から見れば「資金調達に伴うコスト」であるため、資本コストと呼ばれる。

 DCF法では、「資本コスト(収益率)」を使って、企業が将来にわたって稼ぎ出すFCFを企業価値に置き換えることになる。FCFを企業価値に置き換えることを「現在価値に割り引く」という(詳細は後述)。

 以下、企業価値の計算式を構成する各要素や、「現在価値に割り引く」プロセスについて詳しく説明しよう。・・・

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2014/10/09 チェックリスト:店舗を新規出店したい(会員限定)

■チェックリスト:店舗を新規出店したい

チェック事項 備考 対応未了 対応済
新規出店の判断に際して、商圏内のターゲット顧客層の昼間・夜間人口分析、予定地の交通量調査・近隣店舗の来店客数分析の結果を利用しているか。
新規出店に伴い、出店計画を策定したか。 出店計画に盛り込む主なポイント
・店舗名
・出店場所(一等立地か二等立地か)
・出店時期
・出店形態(自社の店舗を構えるのか、テナントにするのか)
・出店規模
・初期投資額、投資の採算性(初期投資額を回収して業績が軌道に乗るまでの計画など)
・損益推移計画
・店舗コンセプト
・営業時間(定休日)
・ターゲット顧客層
・予定客単価
・来店客数見込
・取り扱う主要品目、サービス内容
・人員計画(社員やパートの人員比率やシフト、採用計画、研修計画等)
・集客方法、集客のためのイベント計画 など
出店計画の承認に際して、計画が中期経営計画と整合したものであることを確認しているか。 場合によっては、中期経営計画自体の見直しの是非も検討すべきである。
コスト回収の目標を設定するため、新店候補の損益分岐点を計算しているか。
新規出店に際しては、表に出てくる数字だけでなく、その地域に根差したディープな情報を数多く収集し、注意深く分析しているか。
新規出店に伴い、投資の採算性を計算しているか。 投資の採算性計算は、主に次のような要素を考慮して行われる。
・新店の中期的な損益推移計画
・店舗の規模(初期投資額)
・運営コスト(広告宣伝費や人件費など)
・採算性の判断方法(回収期間法、正味現在価値法、内部利益率法など)
新規出店に伴い、投資の採算性を計算しているか。 投資の採算性計算は、主に次のような要素を考慮して行われる。
・新店の中期的な損益推移計画
・店舗の規模(初期投資額)
・運営コスト(広告宣伝費や人件費など)
・採算性の判断方法(回収期間法、正味現在価値法、内部利益率法など)
取締役は、出店判断の前提となる投資の採算性の計算結果を鵜呑みにするのではなく、その妥当性をなんらかの方法で検証する体制を整備・運用しているか。 例えば、次のような方法が考えられる。
・回収期間法の活用にあたり足切りのための基準期間を設定
・上長が計算ロジックをチェック
建物の賃貸借取引について、「所有権移転外ファイナンス・リース取引」に該当するかどうかを検討しているか。 賃貸借契約開始後の一定期間の解約を禁止あるいは実質的に禁止(途中解約の場合には建設協力金が返済されないようなケース等)する解約不能リース期間があり、建物を賃借することから生じる経済的利益を受けるとともに維持管理費用等のコストを負担することになる場合、検討が必要になる。
出店基準を設定しているか。 投資判断にあたっての出店基準の例
・損益分岐点売上高
・目標客単価
・投資の回収期間 など
店舗開発の担当者は、出店に関する稟議の起案に際して、売上目標値やその他の出店基準に関するチェック項目について、所定のチェックシートを用いてチェックした結果を出店計画とともにしているか。
出店計画の承認は、取締役会等の機関決定を経ているか。
資産除去債務を合理的に見積り、財務諸表に計上しているか。
出店計画の遅れが業績予想にもたらす影響を認識しているか。 業績予想の下方修正が必要になる場合がある。
出店計画の進捗が遅れたことにより、業績予想の修正が必要になり、その修正幅が一定の基準を超える場合、公表される前に情報が漏れないよう、情報管理を徹底しているか。 その場合、出店計画の進捗状況はインサイダー取引における重要事実に該当することになる。
新規出店の機関決定が「新製品又は新技術の企業化を、会社の業務執行を決定する機関が決定した」にあたる場合、公表される前に情報が漏れないよう、情報管理を徹底しているか。 該当すれば、当該新規出店の機関決定はインサイダー取引における重要事実に該当することになる。
新規出店に必要な許認可について、出店までのスケジュールに織り込んでいるか。 主な関連法令
・大規模小売店舗立地法(小売業)
・消防法
・食品衛生法(飲食業)
・風営法(アミューズメント業) など

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2014/10/09 【事業管理】店舗を新規出店したい(会員限定)

 

一等立地への出店を「広告宣伝費」と位置付ける会社も

現在のイオングループの基礎を作った岡田卓也名誉会長は「狸や狐の出る場所に出店せよ」と指示を飛ばしたと伝えられています。イオンは、その言葉のとおり郊外型のショッピングセンターを中心に据えた出店戦略を実現し、今や大成功を収める会社となっています。

一方、採算を度外視して、あえて一等立地に出店することにより、ニュースなどで取り上げられることで知名度をあげている会社もあります。このような会社は、一等立地にある店舗を維持するためのコストを自社ブランドの「広告宣伝費用」ととらえ、そのコストはこの広告宣伝の恩恵を受ける他店舗の収益で回収し、会社全体として採算を確保するブランド戦略を採用していると言えます。

このように、新規の出店戦略は、各会社の目指す方向性に大きく左右されます。特に小売業、飲食業、アミューズメント業などにおいては、この新規出店案件が経営戦略策定の重要なファクターであるため、取締役にとって重要な意思決定事項となっています。

以下、取締役が新規出店に関する意思決定をする際のポイントについて検討していきましょう。

田舎に出店した方がターゲット客数は多い場合も

新規出店に関する意思決定は、出店候補地の選定がもっとも重要なポイントとなります。候補地に関する第一の条件は、「多くのお客が入ってくれる場所」であることは言うまでもありません。単純に考えると、東京などの大都市は人口が多いため、その中心に出店すれば多くのお客様が来店する可能性が高いはずです。しかし、大都市は競合店が数多く存在し、店舗間の競争が熾烈です。人口1,000万人の都市に競合店が1,000店舗ある場合、1店舗あたり1万人をお客様として確保できれば“平均点”ということになります。一方、人口2万人の田舎であっても、競合店がゼロであれば、ここに出店することにより2万人のお客様をターゲットにすることができます。これは極端な例ですが、「人が多い場所に出店すること」イコール「多くのお客様が入ってくれる場所に出店すること」を意味するわけではないことには注意が必要です。

また、出店に際しては商圏内のターゲット顧客層の昼間・夜間人口分析、予定地の交通量調査・近隣店舗の来店客数分析も不可欠です。過去に新規出店の経験があり、商圏分析のノウハウや人材が十分確保されている場合には、調査を自ら行えることでしょう。一方で、自社にノウハウや人材がない場合には、外部の調査機関やコンサルティング会社のような、市場調査等を専門に取り扱う業者を利用し、調査結果を入手した上で新規出店の可否の判断に役立てることが多いと考えられます。

これらのことを念頭に置いて、次に出店計画策定時のポイントについて解説していきます。

出店計画策定時のチェックポイント

新規出店を行う場合は、まず出店計画を立案します。出店計画では、次のような事項を検討することになります。
・店舗名
・出店場所
・出店時期
・出店形態(自社の店舗を構えるのか、ショッピングセンター等のテナントに入るのか)
・直営 or FC(フランチャイズ)
・既存店との関係
・出店規模
・初期投資額、投資の採算性
・損益推移計画(初期投資額を回収して業績が軌道に乗るまでの計画など)
・店舗コンセプト
・商圏内のターゲット顧客層
・営業時間(定休日)
・予定客単価
・来店客数見込み
・取り扱う主要品目、サービス内容
・人員計画(社員やパートの人員比率やシフト、採用計画、研修計画等)
・集客方法、集客のためのイベント計画

そして、取締役は、出店計画に盛り込まれた上記の内容が、自社の現状に照らして合理的かどうか、中期経営計画と整合するのかについて判断し、出店計画の見直しの必要性を検討していきます(場合によっては、中期経営計画自体の見直しの必要性も検討することになります)。

これらのチェックポイントの中で、同業他社との競争という観点から特に重要となるのが、出店場所と出店形態です。

(出店場所)
出店場所の意思決定は、大きく分けて駅前などの「繁華街エリア(一等立地)」にするか、都心から離れた「郊外エリア(二等立地)」にするかについて行われます。一等立地であれば交通機関が集中しているため集客力が非常に高いことが予想されます。その反面、競合店が多いうえ、家賃の相場も高いために固定費が多くかかることになります。そこで、自己資金でまかなうことができるかどうかを考慮して、「資金繰り」もあわせて検討します。新規出店コストは、冗費の削減や在庫の圧縮(「在庫を適正水準に保ちたい」を参照してください)による資金の工面だけでまかなえる額ではないことから、金融機関からの借入れ(「借入れにより資金調達したい」を参照してください)や社債発行・増資による資金調達のほか、CMSの利用など、資金調達の検討も欠かせません。

CMS : キャッシュ・マネジメント・システムの略。金融機関の提供するサービスの1つで、企業グループ内での資金管理の集中化を図り、資金余剰企業から資金不足企業に資金を融通し、企業グループ内での資金利用の効率化を実現するためのシステム

一方、都心から離れた二等立地であれば競合店が少ない立地を選ぶことができます。家賃や人件費などの固定費は安くなるため、損益分岐点()を低く抑えることが可能になり、繁華街エリアに出店した場合と比べると、店舗運営は楽かもしれません。

 損益分岐点とは、売上高とコスト(変動費+固定費)が等しくなる点であり、売上高や費用を用いて表されます。損益分岐点を把握することで、どのくらい販売すれば利益が出始めるか、といった売上目標値を設定できます。

しかし、何といっても二等立地は人口の絶対数が少なく、また、来店の手段が主に車となるため、広い駐車場を確保しなければならないなど、そのエリアの特徴に応じた対応が必要になるでしょう。人口が少ないだけに、そのエリアの顧客ターゲット層のニーズや地域固有の事情などの事前分析を誤ると、開店してすぐに店舗運営に苦しむ可能性があります。例えば、地方のいわゆる企業城下町において、そこの工場従業員をターゲットとして来客数分析を行い、初期投資を3年で回収できるとはじき出したものの、実は水面下で流れていた工場撤退の情報を出店計画段階でキャッチできていなかったため、工場の撤退が現実のものになると、3年で初期投資を回収することは困難となってしまった、ということがあります。このように事前の分析の際は、表に出てくる数字だけでなく、その地域に根差したディープな情報を数多く収集し、注意深く分析を実施しないと、後々苦しい状況に追い込まれることにもなりかねません。

また、既存店との関係も考慮する必要があります。既存店の近くに出店すれば、既存店の売上が落ちてしまい、自社店舗間で売上を奪う結果になりかねません。もっとも、ドミナント出店といい、狭いエリアに集中的に出店し、競合店の進出を牽制する戦略もあります。なお、FC本部がFC店の近隣に直営店を開店してしまうと、FC契約次第では訴訟を受ける可能性もあるので、注意が必要です。

(出店形態)
出店に際しては、どのような形態で出店するのかについても意思決定しなければなりません。出店形態としては、自社の土地に自社の建物を建てるケースも考えられますが、資金負担があまりに大きくなることから多店舗展開に遅れが生じてしまい、退店時も損失が膨らむというデメリットがあります。そこで主として、次の3つの方式を検討し、どれが自社の出店計画に最も適しているかを判断するケースがよく見受けられます。詳細は後述の「出店形態次第で資金負担や会計処理が異なる」で解説します。

敷金・保証金方式 店舗建物の所有者に敷金・保証金を差し入れて賃借テナントとして出店する方式
建設協力金方式 建設協力金を負担して賃借テナントとして出店する方式
定期借地権方式 土地を借りてその上に建物を自ら建設して出店する方式

また、取締役にとっては「出店規模」、「初期投資額」、「投資の採算性」も重要な判断項目です。この点は次で解説します。

投資コストを把握し採算性を計算

(出店規模と初期投資額)
冒頭で述べたようなブランディングを目的とした赤字覚悟の出店でない限り、投資したコストを回収できないようでは出店する意味がありません。そこで、出店計画の策定に際しては、その店舗における中期的な損益推移計画を予測して、投資コストはどの程度の期間で回収できるのか(後述の回収期間法)を明確にしておくことが必要です。投資コストは出店規模に比例します。また、損益推移計画も出店規模次第と言えます。そのため、具体的な出店候補地から建屋や駐車場をどの程度の広さにするのかを割り出し、出店規模を確定した後、投資コストを積み上げていきます。また、その店舗でどのくらいの売上高を見込むのか、そのための経費はどれくらい必要となるのかを検討して、損益推移計画を策定します。

初期投資額には開業資金だけでなく、在庫、開店前後の広告宣伝にかかる費用、オープニングスタッフに関連する人件費(オープニングスタッフの採用費・教育費、オープニングスタッフが新店舗でのオペレーションに慣れるまで他店舗から応援にまわった分の人件費も含む)などもコストとして見込んでおかなければなりません。

往々にして初期投資額は膨らみがちであるため、後述する投資の採算性の計算結果が芳しくない値になることは、よくある話です。その場合、採算性の改善のために投資コストの削減を図らなければなりません。店舗開発担当者としては、中古の什器備品の活用や店舗デザインの共通化等によりコストダウンを追求し続けるべきです。また、後述するように出店形態次第で資金負担が異なることから、より安価な出店形態に変更することもあるでしょう(その点については、「出店形態次第で異なる資金負担や会計処理」で後述します)。主に飲食業や小売業などでは居抜き出店()により初期の投資コストを抑えるという方法も散見されます。

 撤退した旧テナントが利用した店舗跡地や設備を流用して出店を行う方法。

出店計画は成長戦略の根幹をなすものである以上、出店後の損益推移計画は事業計画の一環として策定する必要があります。また、初期の投資コストの全部または一部につき金融機関からの融資でまかなう予定の場合、金融機関から損益推移計画や事業計画の提出を求められるケースが通常です。それに備えて、金融機関を納得させることができるレベルの合理的な計画を作成しておく必要があるでしょう。

(投資の採算性)
投資の意思決定に関する採算性計算方法としては、回収期間法、正味現在価値法、内部利益率法などがあります。回収期間法は投資の安全性の観点から、正味現在価値法、内部利益率法は投資の収益性の観点から投資の採算性を図る尺度となります。それぞれの方法の簡単な説明は以下のとおりです。(投資の意思決定に関する採算性計算方法については「固定資産を取得したい」の「中期事業計画と予算を踏まえた取得を」も参照してください)

回収期間法 投資したコストをどのくらいの期間で回収できるかを測定する方法。自社で決定した基準期間よりも短い回収期間であれば投資を採用し、長ければ投資を見送るという投資判断をする方法です。
正味現在価値法 投資したコストと将来得られると見込まれるキャッシュ・フローの現在価値を比較する方法。将来キャッシュ・フローの現在価値が、投資したコストよりも大きければ投資を採用し、小さければ投資を見送るという投資判断をする方法です。
内部利益率法 投資したコストと将来キャッシュ・フローの現在価値を等しくする割引率(内部利益率)を計算し、資金調達等にかかるコスト(資本コスト)と比較する方法。内部利益率が資本コストより大きければ投資を採用し、小さければ投資を見送るという投資判断をする方法です。

我が国の場合、仮定が単純で、かつ計算が簡単な回収期間法が、よく利用される傾向にあるようです。その背景には、「投資したコストを少しでも早く回収したい」という企業意識が働いているのかもしれません。また、昨今の企業を取り巻く環境下では、経営者が将来を長期的に見通すことを困難に感じて、長期的な視点から“割引率”や“将来キャッシュ・フロー”を見積り採算性の計算を行う「正味現在価値法」や「内部利益率法」を敬遠してしまっていることも考えられます。

回収期間法では、回収期間の長短にだけ目が行きがちです。確かに、回収期間が短いほど投資リスクは減少するので、財務健全性の観点からはそのような判断も合理的と言えます。しかし、“投資回収期間が短い案件”イコール“将来的に収益見込みのある案件”とは限りません。回収期間法では回収期間後のことを一切考慮しないので、回収期間経過後の収益見込みの推移や大規模修繕の検討がおざなりになってしまうおそれや、回収期間後に大きな収益をあげる可能性のある案件を投資意思決定の入り口の段階で排除してしまうおそれがあるからです。投資意思決定を誤らないためには、回収期間法で投資の安全性を評価しつつ、正味現在価値法や内部利益率法で投資の収益性を評価するなど、複数の採算性計算法を併用した多角的な投資判断が重要になります。

取締役としては、出店判断の前提となる投資の採算性の計算結果を鵜呑みにするのではなく、その妥当性をなんらかの方法で検証する体制を整備・運用しておく必要があります。例えば、回収期間法には「●年以内だったら投資すべき」といった客観的なルールが存在しないことから、回収期間法の活用にあたり社内で足切りのための基準期間を設けている会社もあります。基準期間は、あくまで社内で設定した目安に過ぎないので、取締役としては定期的にその見直しを検討することも必要でしょう。また、正味現在価値法や内部利益率法であれば、計算担当者の上長が、将来キャッシュ・フローの計算要素にキャッシュ・フロー以外のもの(例えば、減価償却費のような非現金支出費用など)が含まれていないか、割引率は妥当な水準か()など計算ロジックをチェックする体制も整備・運用することが重要となります。

 割引率が高すぎると現在価値が低くなりすぎ、割引率が低すぎると現在価値が高くなりすぎます。
出店形態次第で異なる資金負担や会計処理

出店計画策定時のチェックポイント」で述べたとおり、出店形態には土地・建物ともに自社物件を用いる形態に加えて、主として敷金・保証金方式、建設協力金方式、定期借地権方式の3つがあります。その3つはすべて賃貸借契約の一つであり、ランニングで賃料が発生する点では同じですが、当初の資金負担や、賃貸契約終了時の費用負担、さらには会計処理に違いがあります。

1 敷金・保証金方式
敷金・保証金方式とは、通常のオフィスの賃貸借に近いもので、契約時に借り手が貸し手に対して敷金や保証金といった長期の預け金を差し入れる方式です。借り手としては建物の建設費用を負担することなく出店できることが最大のメリットとなります。一方で、建物の建築仕様が出店を希望するテナントの要望通りになっているとは限らないという問題があります。また、内装工事を行い自社仕様にした場合には、退去する際に原状回復を求められることが通常です。さらに、ショッピングセンター等にテナントとして出店する場合には、賃貸借期間が比較的長期になることから、賃借料の滞納や原状回復義務の懈怠の担保として敷金・保証金が多額に上ることもあります。敷金・保証金の相場は、地区や地域、テナントの信用力、商業施設の形態等によっても異なりますが、概ね賃借料の5~10か月分程度が目安となることが多いようです。ただし、敷金・保証金は担保としての性格を有していることから、賃借料の滞納や原状回復義務の懈怠がなければ、基本的には退去時に返還されます()。そのため、支払った敷金・保証金は、資産としての性質を有すると考えられ、差入保証金などの資産科目名で貸借対照表の投資その他の資産に計上します。

懈怠 : 義務を果たさないこと

 期間に応じて償却される「敷引き」と言われる部分を除きます。

敷金・保証金方式は後述の建設協力金方式や定期借地権方式と比べると、テナント側の初期投資が少なくて済むことから、テナント側が資金負担を抑えたい場合に選択されることが多い方式です。

2 建設協力金方式
建設協力金方式とは、出店を希望するテナント側が建物の建設資金(*1)を負担し、それを元手に土地の所有者が建物を建築したうえで、テナントが建物を借り受けるという方式です。テナント側としては、建設前から関わるため、テナント側の仕様に基づいて建物を建築できることがメリットとなります。一方で、テナント側では建設協力金という初期投資が必要になります。オーナー側は借地権(*2)を発生させずに土地の有効活用ができるというメリットがあります。

*1 これを「建設協力金」または「建築協力金」と言います。
*2 建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権のことです。単純化すると、「土地」と「その上の建物」の所有者が異なるときに、建物所有者に借地権が発生します。借地権の発生を土地オーナーが忌避する背景には、我が国の場合、不動産の借主側に有利な法制度や判例が積み重なっている点が挙げられます。なお、不動産の借主側に過度に有利な状況を改めるために、後述の「3 定期借地権方式」の定期借地権制度が平成4年に創設されました。

建設協力金は、将来的にはテナントに返還されることになります。返還の方法としては、賃料(リース料)と相殺していく方法が一般的です。なお、建設協力金には利息がかかるケース、無利息のケース、一定の据え置き期間経過後利息が発生するケースと様々です。

建設協力金方式は、テナント主導で建築をしたい場合や、借地ではなく建物の賃貸借とし、借地費用を抑えたい場合に適した出店方式と言えます。

建物(*1)の賃貸借契約開始後の一定期間の解約を禁止あるいは実質的に禁止(*2)する解約不能リース期間があり、借り手が建物を賃借することから生じる経済的利益を受けるとともに維持管理費用等のコストを負担することになる場合、その賃貸借取引は所有権移転外ファイナンス・リース取引」に該当するのではないかを検討する必要があります。所有権移転外ファイナンス・リース取引とは、所有権が移転するわけではないものの(=所有権移転外)、購入した場合と同様の効果を賃借資産から得ることができるリース取引のことです。

*1 経済的耐用年数が限られていない土地のリース取引は、(1)リース契約上、リース期間終了後またはリース期間の中途で、リース物件の所有権が借り手に移転することとされているリース取引、(2)リース契約上、借り手に対して、リース期間終了後またはリース期間の中途で、名目的価額またはその行使時点のリース物件の価額に比して著しく有利な価額で買い取る権利(割安購入選択権)が与えられており、その行使が確実に予想されるリース取引でなければ、所有権移転外所有権移転外ファイナンス・リース取引の対象になりません。
*2 途中解約の場合には建設協力金が返済されないケースや残存契約期間の賃料相当分の違約金が発生するケースなどが考えられます。

具体的には、次の要件のどちらかを満たした場合に、建物の賃貸借取引は借り手にとって「所有権移転外ファイナンス・リース取引」に該当することになります。

要件1 解約不能期間中のリース料総額の現在価値(将来支払うリース料について割引計算した値)≧建物を現金で購入すると仮定した場合の合理的見積購入金額の概ね90%
要件2 解約不能リース期間が当該建物の経済的耐用年数の概ね75%以上

「所有権移転外ファイナンス・リース取引」に該当した場合は、借り手にとって建物を購入した場合と同様に、建物を資産に計上し(これを“オンバランス”と言います)、通常の有形固定資産と同様に減価償却を行っていく必要がある点に留意が必要です。この場合、通常の固定資産と同様、借り手においてもリース資産の台帳を作成し、期末残高や減価償却費相当額を適切に計算し管理していく必要がありますので、それだけ余計に手間がかかることになります。

3 定期借地権方式
定期借地権方式では、借りた土地の上に自社の負担で自ら建物を建築するので、建設協力金方式よりもテナント側の希望に沿った仕様の建物を建てることができます。しかし、借地権契約の延長や更新ができず()、借地権契約が満了した時点では、原則として土地を「更地」に戻すための原状回復費用が必要となります。

 上述したように、定期借地権とは、不動産の借主側に過度に有利な状況を改めるために誕生した制度です。単なる借地契約と異なり、期間終了後の契約更新はなく、建替による借地期間の延長もなく、借地人は建物買取請求権を持ちません。そのため、土地の所有者は安心して土地を貸すことができます。

定期借地権方式の場合、土地の支払賃借料を費用として計上する一方、建物については、資産計上したうえで、耐用年数に応じて減価償却していくことになります。なお、定期借地権方式では期間満了による更地返還が原則のため、建物の償却年数としては定期借地権年数と同じになるか、それよりも短い年数になると考えられます。そのため、契約期間を考慮に入れた上で、経済的耐用年数を決定することが必要となります。

定期借地権方式は、建物建築後も建て替えや改築を自由に行いたいケースで選択されることが多いと言えます。

新規出店の機関決定に先立ち出店基準のクリアを確認

新規出店には、社内で設けた出店基準を満たしていることが必要となります。出店基準は、売上目標値を達成できるかどうかが重要なポイントになります。売上目標値は、例えば次のような要件を満たす金額にすることが考えられます。

・損益分岐点を超える売上高をあげること
・目標客単価を達成すること
・投資の回収期間を3年以内にすること

店舗開発の担当者は、出店先の候補ごとに出店形態に応じて負担することになるコストやその他の運営コストを変動費と固定費に分解し、売上目標値を算定します。そして、売上目標値やその他の出店基準に関するチェック項目について、所定のチェックシートを用いてチェックしていきます。そのチェック結果は出店計画とともに稟議等による社内承認プロセスを経て、取締役会や経営会議といった社内会議に提出されます。取締役は、出店基準の達成可能性を勘案して、新規出店の機関決定を行うことになります。

新規出店が「資産除去債務」を生むことも

2010年4月1日以後開始事業年度から原則適用された「資産除去債務の会計基準」により、法令や契約に基づいて原状回復の義務が課せられている場合には、資産除去債務の計上を検討する必要があります。この資産除去債務とは、「契約などに基づいて店舗の閉鎖時に支払うことになる合理的な見積額」を、資産の賃貸借契約の“契約時”に「負債」として認識するとともに、当該見積額を「有形固定資産」として計上し、減価償却を通じて各期に費用配分していくというものです。減価償却を通じて費用配分を行うのは、資産除去債務も理論的には各期の収益の獲得に貢献しているにもかかわらず、店舗の閉鎖時に一括して多額の原状回復費用を計上すると、店舗の売上高と売上を獲得するための費用との対応関係、すなわち収益と費用の対応がゆがんでしまうからです。こうしたゆがみを起こさないように、毎期少しずつ閉店時にかかる原状回復費用を分配していこうというわけです。

テナント契約や定期借地契約をする場合は、退去時に借り手に原状回復義務を課す条項が入っているのが通常です。したがって、出店形態としてテナント契約や定期借地契約を締結する場合、役員としては、契約の内容を精査し、資産除去債務の計上の必要性の有無など、自社の決算数値に与える影響についてもあらかじめ考慮しなければならないでしょう。

なお、資産除去債務は、法令や契約で要求される法律上の義務等に基づいて計上されるものです。そのため、自発的な計画による原状回復(例えば、まだ継続して賃借を行う場合に、期の途中で間仕切りを撤去したりするようなケース)に係る費用については資産除去債務の計上の対象にはなりません。また、建物の使用期間中に実施する修繕なども、除去に関わるものではないため、資産除去債務の計上対象にはなりません。

新規出店の成否と業績予想修正の関係

上場会社は、決算短信において次期の業績予想を発表するのが原則です(例外については「業績予想を修正したい」の「「次期の業績予想」の形式ではない場合の判断基準は?」を参照してください)。そこで、次期に新規出店が計画されている場合は、それに応じた売上増を見込むことになります。

しかし、何らかの理由により計画で見込んだ期に新規出店ができない場合は、当初見込んでいた売上が期待できなくなることから、当期の業績見込みの金額が期初に公表した当初の業績予想値を大きく下回るケースがあります。その乖離が投資家の投資判断に重要な影響を与える可能性がある場合には(「投資家の投資判断に重要な影響を与える可能性」については、「業績予想を修正したい」の「「業績予想の修正」の判断基準と開示すべき事項」を参照してください)、新たに算出された予想値の適時開示が必要となり、業績予想の下方修正を発表することが求められます。

逆に、新規出店が大成功し、当初の業績予想よりも大幅な収益のアップが見込まれる場合には、業績予想を上方修正することになります。業績予想の修正の理由として、「新規出店」「新店効果」というワードが登場する場面は少なくありません。取締役としては、業績予想を修正せずに済むよう、新規の出店計画および事業計画を綿密に作成するとともに、やむを得ず計画に変更が生じた場合には、速やかにそのことを投資家に適時開示できるよう、出店計画および事業計画作成後もこれらの計画に対する「実績」を継続的にウォッチする必要があるでしょう。

新規出店がインサイダー取引の重要事実に該当する場合も

出店計画の進捗が遅れたことにより、業績予想の修正が必要となり、その修正幅が一定の基準を超える場合、業績予想の修正という事実はインサイダー取引における重要事実に該当することになります(詳細は「業績予想を修正したい」の「業績予想の修正が「インサイダー情報」にあたるケース」を参照してください)。一定の要件を満たす“公表”が行われるまでは情報管理を徹底する必要があります。

また、新規出店の機関決定が「新製品又は新技術の企業化を、会社の業務執行を決定する機関が決定した」場合にあたるのであれば、当該新規出店の機関決定はインサイダー取引における重要事実に該当することになりますので、情報の取扱いには十分な注意が必要です。

新規出店に必要な許認可を忘れずに

新規出店の際には、行政関連の様々な届出や許認可が必要になります。例えば、大規模小売業者であれば「大規模小売店舗立地法」に基づき、次の項目を所在地の属する都道府県に届け出ることになっています(大規模小売店舗立地法第5条)。これには次のような項目の届出が必要になります。
・店舗の名称及び所在地
・店舗設置者及び当該店舗において小売業を行う者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては代表者の氏名
・店舗の新設日
・店舗内の店舗面積の合計
・店舗施設配置に関する事項(駐車、駐輪、廃棄物保管、騒音に関する事項)
・店舗施設運営方法に関する事項(開・閉店時刻、駐車時間、車出入口の位置等)

これらの届出を行い、出店する市町村で説明会を開催するなど法律で定められている一定の手続を完了すれば、晴れて開業までこぎつけることができます。

また、火災感知器の設置等につき消防法を遵守するとともに、建物住所を管轄する消防署の予防課に防火対象物使用開始届出書の届け出や防火対象物工事等計画届出書の届け出等も行う必要もあります。

加えて、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律に基づき、駐車場に身体障害者用の駐車スペースを確保することも必要となります。

さらに、特定の業種をターゲットとした業法についても配慮が欠かせません。例えば、飲食業では出店に先立ち「食品衛生法」に基づいて営業許可を都道府県知事から得なければなりません。また、アミューズメント業(ゲームセンターなど)では「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(いわゆる風営法)に基づく届け出が必要になります。

取締役としては、届出内容や許認可手続きの流れについてもある程度押さえて、法令順守に向けた対応を行うことや対応のための段取りをスケジュールに組み込んでおくことについて担当者に指示しておくことで、コンプライアンスを確保しながらスムーズに出店を進めていくことが可能になります。

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2014/10/09 【事業管理】店舗を新規出店したい

 

一等立地への出店を「広告宣伝費」と位置付ける会社も

現在のイオングループの基礎を作った岡田卓也名誉会長は「狸や狐の出る場所に出店せよ」と指示を飛ばしたと伝えられています。イオンは、その言葉のとおり郊外型のショッピングセンターを中心に据えた出店戦略を実現し、今や大成功を収める会社となっています。

一方、採算を度外視して、あえて一等立地に出店することにより、ニュースなどで取り上げられることで知名度をあげている会社もあります。このような会社は、一等立地にある店舗を維持するためのコストを自社ブランドの「広告宣伝費用」ととらえ、そのコストはこの広告宣伝の恩恵を受ける他店舗の収益で回収し、会社全体として採算を確保するブランド戦略を採用していると言えます。

このように、新規の出店戦略は、各会社の目指す方向性に大きく左右されます。特に小売業、飲食業、アミューズメント業などにおいては、この新規出店案件が経営戦略策定の重要なファクターであるため、取締役にとって重要な意思決定事項となっています。

以下、取締役が新規出店に関する意思決定をする際のポイントについて検討していきましょう。

田舎に出店した方がターゲット客数は多い場合も

新規出店に関する意思決定は、出店候補地の選定がもっとも重要なポイントとなります。候補地に関する第一の条件は、「多くのお客が入ってくれる場所」であることは言うまでもありません。単純に考えると、東京などの大都市は人口が多いため、その中心に出店すれば多くのお客様が来店する可能性が高いはずです。しかし、大都市は競合店が数多く存在し、店舗間の競争が熾烈です。人口1,000万人の都市に競合店が1,000店舗ある場合、1店舗あたり1万人をお客様として確保できれば“平均点”ということになります。一方、人口2万人の田舎であっても、競合店がゼロであれば、ここに出店することにより2万人のお客様をターゲットにすることができます。これは極端な例ですが、「人が多い場所に出店すること」イコール「多くのお客様が入ってくれる場所に出店すること」を意味するわけではないことには注意が必要です。

また、出店に際しては商圏内のターゲット顧客層の昼間・夜間人口分析、予定地の交通量調査・近隣店舗の来店客数分析も不可欠です。過去に新規出店の経験があり、商圏分析のノウハウや人材が十分確保されている場合には、調査を自ら行えることでしょう。一方で、自社にノウハウや人材がない場合には、外部の調査機関やコンサルティング会社のような、市場調査等を専門に取り扱う業者を利用し、調査結果を入手した上で新規出店の可否の判断に役立てることが多いと考えられます。

これらのことを念頭に置いて、次に出店計画策定時のポイントについて解説していきます。

出店計画策定時のチェックポイント

新規出店を行う場合は、まず出店計画を立案します。出店計画では、次のような事項を検討することになります。
・・・

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投資コストを把握し採算性を計算

(出店規模と初期投資額)
冒頭で述べたようなブランディングを目的とした赤字覚悟の出店でない限り、投資したコストを回収できないようでは出店する意味がありません。そこで、出店計画の策定に際しては、その店舗における中期的な損益推移計画を予測して、投資コストはどの程度の期間で回収できるのか(後述の回収期間法)を明確にしておくことが必要です。投資コストは出店規模に比例します。また、損益推移計画も出店規模次第と言えます。そのため、具体的な出店候補地から建屋や駐車場をどの程度の広さにするのかを割り出し、出店規模を確定した後、投資コストを積み上げていきます。また、その店舗でどのくらいの売上高を見込むのか、そのための経費はどれくらい必要となるのかを検討して、損益推移計画を策定します。

初期投資額には開業資金だけでなく、・・・

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出店形態次第で異なる資金負担や会計処理

出店計画策定時のチェックポイント」で述べたとおり、出店形態には土地・建物ともに自社物件を用いる形態に加えて、主として敷金・保証金方式、建設協力金方式、定期借地権方式の3つがあります。その3つはすべて賃貸借契約の一つであり、ランニングで賃料が発生する点では同じですが、当初の資金負担や、賃貸契約終了時の費用負担、さらには会計処理に違いがあります。

1 敷金・保証金方式
敷金・保証金方式とは、通常のオフィスの賃貸借に近いもので、契約時に借り手が貸し手に対して敷金や保証金といった長期の預け金を差し入れる方式です。借り手としては建物の建設費用を負担することなく出店できることが最大のメリットとなります。一方で、建物の建築仕様が出店を希望するテナントの要望通りになっているとは限らないという問題があります。また、内装工事を行い自社仕様にした場合には、退去する際に原状回復を求められることが通常です。さらに、ショッピングセンター等にテナントとして出店する場合には、賃貸借期間が比較的長期になることから、賃借料の滞納や原状回復義務の懈怠の担保として敷金・保証金が多額に上ることもあります。敷金・保証金の相場は、・・・

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新規出店の機関決定に先立ち出店基準のクリアを確認

新規出店には、社内で設けた出店基準を満たしていることが必要となります。出店基準は、売上目標値を達成できるかどうかが重要なポイントになります。売上目標値は、例えば次のような要件を満たす金額にすることが考えられます。

・損益分岐点を超える売上高をあげること
・目標客単価を達成すること
・投資の回収期間を3年以内にすること

店舗開発の担当者は、出店先の候補ごとに出店形態に応じて負担することになるコストやその他の運営コストを変動費と固定費に分解し、売上目標値を算定します。そして、・・・

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新規出店が「資産除去債務」を生むことも

2010年4月1日以後開始事業年度から原則適用された「資産除去債務の会計基準」により、法令や契約に基づいて原状回復の義務が課せられている場合には、資産除去債務の計上を検討する必要があります。この資産除去債務とは、「契約などに基づいて店舗の閉鎖時に支払うことになる合理的な見積額」を、資産の賃貸借契約の“契約時”に「負債」として認識するとともに、当該見積額を「有形固定資産」として計上し、減価償却を通じて各期に費用配分していくというものです。減価償却を通じて費用配分を行うのは、資産除去債務も理論的には各期の収益の獲得に貢献しているにもかかわらず、店舗の閉鎖時に一括して多額の原状回復費用を計上すると、店舗の売上高と売上を獲得するための費用との対応関係、すなわち収益と費用の対応がゆがんでしまうからです。こうしたゆがみを起こさないように、毎期少しずつ閉店時にかかる原状回復費用を分配していこうというわけです。

テナント契約や定期借地契約をする場合は、・・・

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新規出店の成否と業績予想修正の関係

上場会社は、決算短信において次期の業績予想を発表するのが原則です(例外については「業績予想を修正したい」の「「次期の業績予想」の形式ではない場合の判断基準は?」を参照してください)。そこで、次期に新規出店が計画されている場合は、それに応じた売上増を見込むことになります。

しかし、何らかの理由により計画で見込んだ期に新規出店ができない場合は、当初見込んでいた売上が期待できなくなることから、当期の業績見込みの金額が期初に公表した当初の業績予想値を大きく下回るケースがあります。その乖離が投資家の投資判断に重要な影響を与える可能性がある場合には(「投資家の投資判断に重要な影響を与える可能性」については、「業績予想を修正したい」の「「業績予想の修正」の判断基準と開示すべき事項」を参照してください)、新たに算出された予想値の適時開示が必要となり、業績予想の下方修正を発表することが求められます。

逆に、新規出店が大成功し、当初の業績予想よりも大幅な収益のアップが見込まれる場合には、・・・

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新規出店がインサイダー取引の重要事実に該当する場合も

出店計画の進捗が遅れたことにより、業績予想の修正が必要となり、その修正幅が一定の基準を超える場合、業績予想の修正という事実はインサイダー取引における重要事実に該当することになります(詳細は「業績予想を修正したい」の「業績予想の修正が「インサイダー情報」にあたるケース」を参照してください)。一定の要件を満たす“公表”が行われるまでは情報管理を徹底する必要があります。

また、新規出店の機関決定が「新製品又は新技術の企業化を、会社の業務執行を決定する機関が決定した」場合にあたるのであれば、・・・

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新規出店に必要な許認可を忘れずに

新規出店の際には、行政関連の様々な届出や許認可が必要になります。例えば、大規模小売業者であれば「大規模小売店舗立地法」に基づき、次の項目を所在地の属する都道府県に届け出ることになっています(大規模小売店舗立地法第5条)。これには次のような項目の届出が必要になります。
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2014/10/08 売手市場で複数内定者続出 内定辞退者への損害賠償請求は可能か?

 今月頭には多くの企業で内定式が行われ、フレッシュなスーツ姿が街に溢れた。最近の就職戦線では、景気回復を背景に各企業が採用人数を増やした結果、複数の企業から内定を得る学生が続出している。できるだけ条件の良いところに就職したい学生にとって、多くの企業から内定を得ようとするのは当然の行動とも言えるが、企業から見れば、コスト・手間をかけて採用を決めた学生から内定の辞退を受けることは大きな痛手となる。特に入社日が近くなってからの内定辞退となると、入社前の研修コスト、あるいは内定者用にそろえた備品購入費などの目に見える損害が発生するケースもある。企業においては、内定辞退者に対して損害賠償請求を行いたいという気持ちが生じることもあり得るだろう。

 それが可能かどうか・・・

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2014/10/08 売手市場で複数内定者続出 内定辞退者への損害賠償請求は可能か?(会員限定)

 今月頭には多くの企業で内定式が行われ、フレッシュなスーツ姿が街に溢れた。最近の就職戦線では、景気回復を背景に各企業が採用人数を増やした結果、複数の企業から内定を得る学生が続出している。できるだけ条件の良いところに就職したい学生にとって、多くの企業から内定を得ようとするのは当然の行動とも言えるが、企業から見れば、コスト・手間をかけて採用を決めた学生から内定の辞退を受けることは大きな痛手となる。特に入社日が近くなってからの内定辞退となると、入社前の研修コスト、あるいは内定者用にそろえた備品購入費などの目に見える損害が発生するケースもある。企業においては、内定辞退者に対して損害賠償請求を行いたいという気持ちが生じることもあり得るだろう。

 それが可能かどうかを検討する前に、まずは新卒採用の流れを確認しておこう。

 外資系企業を除く国内企業の多くは経団連の「採用選考に関する指針」を踏まえ、(大学3年生の)12月1日に採用の広報活動、翌年4月1日から選考活動を開始してきたが、「学業を優先すべき」との声の拡がりを受け、2016年に卒業する学生からは、以下のとおり、これまでの採用スケジュールを4か月後ろ倒しすることになっている。
(1)広報活動の開始時期・・・・大学3年生の3月1日開始
(2)選考活動・・・・大学4年生の8月1日開始
(3)正式な内定日・・・・卒業・修了年度の10月1日以降

 (2)の段階でなされるものはいわゆる「内々定」であり、これには法律的な効果はない。 これに対し、10月1日以降の正式な内定では、「4月1日以後が就労開始日となる」ことと「提出書類の記載事項に虚偽があった場合には内定を取り消すことができる」という2つの条件を付した「労働契約」が成立すると考えられる(法律用語では「始期付解約権留保付労働契約」と呼ぶ)。

 民法では、正社員のような期間の定めのない労働契約については、当事者(会社、労働者)はいつでも自由に解約を申し入れることを認めており、解約の申し入れから2週間を経過すると労働契約は自動的に終了することになっている(民法627条)。内定により成立した「始期付解約権留保付労働契約」も期間の定めのない労働契約であり、やはりいつでも解約することができる。つまり、法的には、内定者が内定を辞退するのは自由ということになる。

 心情的には、内定辞退者に損害賠償を請求したいという気持ちも分からないではないが、内定辞退が民法で認められている以上、実際に損害賠償を請求することは困難と考えておいたほうがよいだろう。むしろ、内定辞退者に対して損害賠償を請求したことが世間に明らかになった場合、企業のレピュテーションを大きく傷つけることもあり得る。損害賠償請求よりも、内定者をつなぎとめるための知恵を絞った方が得策と言えそうだ。