2014/09/25 チェックリスト:株主が株主提案権を行使してきた(会員限定)

■チェックリスト:株主が株主提案権を行使してきた

チェック事項 備考 対応未了 対応済
株主提案権の行使があった場合、当該株主が株主提案権を有する株主(100分の1以上の議決権または300個以上の議決権を6か月前から保有し続けている株主)に該当することを確認したか。 「ほふり」からの個別通知により確認する。
株主提案権は、株主総会の日の8週間前までに行使されたものであるか。
議題または議案の内容が適法かどうかを確認したか。 株主総会決議事項でない議題の提案、法令や定款に違反する議案は不適法となる。
以前の株主総会で総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない議案と実質的に同一の議案の提案でないことを確認したか。 「以前の株主総会で総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない議案」に類似するものの実質的に同一議案とまで評価できるかどうかが微妙な場合、「明らかに不適法」とまで言えないのであれば、株主提案を採用したうえで株主総会にて否決するという対応をとるのが無難である。
「適法な株主提案」であることが確認された場合、「株主提案権の行使に係る書面の受領に関するお知らせ」といった適時開示を行うか否かにつき検討したか。 適時開示の義務はないが、任意に開示することもよくある。
「適法な株主提案」であることが確認された場合、「株主提案権の行使に係る書面の受領に関するお知らせ」といった適時開示を行うか否かにつき検討したか。 適時開示の義務はないが、任意に開示することもよくある。
「適法な株主提案」であることが確認された場合、取締役会で株主提案に対する意見をとりまとめる際に、次のような視点で検討を行ったか。
・提案は株主共同の利益の最大化という観点から妥当なものであるかどうか?
・提案は企業価値を向上させるものかどうか?もし、提案が承認された場合に、企業価値を棄損させる恐れがないか?
・提案は企業経営にどのような影響を与えるのか?(今後の事業計画との整合性)
・業務執行に属する事項を定款にて縛りをかけるような提案の場合、その提案を受け入れることにより経営の柔軟さや機動性が失われる可能性はないか?
・提案を実現した場合のコストはどの程度か?(費用対効果)
・その提案の代わりとなる仕組みはないのか?(既存の仕組みで代替できないか)
・配当増額の株主提案を受け入れないとした場合、それでも株主の利益が損なわれないといえる根拠は何か?他の株主還元策で十分と言えるのかどうか?
・社外取締役の増員提案を受け入れないとした場合、それでもガバナンスが確保されているといえる根拠は何か?
・取締役の選任等、会社提案と競合する案の場合、会社提案の方が優れていると判断できる根拠は何か?
取締役会でとりまとめた株主提案に対する意見を、「株主提案に係る当社の対応に関するお知らせ」といった適時開示により公表するか否かにつき検討したか。 適時開示の義務はないが、任意に開示することもよくある。
「適法な株主提案」であることが確認された場合、株主総会招集通知や参考書類に株主提案に「株主提案の内容とそれに対する取締役会の意見」を記載したか。
不適法な株主提案についても、株主総会で取り上げる必要があるかどうかを検討したか。 「明らかに不適法」とまで言えないのであれば、株主提案を採用したうえで株主総会にて否決するという対応をとるのが無難。
株主提案が行使された場合、株主総会の招集手続や決議方法が適法になされていることを確認するため、総会検査役を選任することを検討したか。
株主提案を取り下げてもらうため、会社の財産を株主に提供していないか。 会社法120条が禁じる「利益供与」に該当。債務免除などの消極財産を消滅させる場合を含む。
取締役の選・解任の株主提案がされ、経営陣と特定株主の間に緊張関係が生じている状況下で、株主優待制度を導入していないか。 会社法120条が禁じる「利益供与」に該当するリスクあり。

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2014/09/25 【株主総会の運営】株主が株主提案権を行使してきた(会員限定)

 

株主提案権には2種類ある

株主総会の議題や議案()は会社側(経営陣側)が提案するのが通常です。しかし、それでは、必ずしも株主の希望通りの議題・議案が提案されるとは限りません。

 議題と議案の違いは後述します。詳細を知りたい場合は、「株主総会での動議提出に備えたい」の「適法な実質的動議と不適法な実質的動議」を参照してください。

そこで会社法では、一定の株主に「株主提案権」という権利を認めています。株主提案権とは、株主総会招集請求権などと並ぶ「少数株主権」の1つであり、文字通り少数株主の権利を保護するために認められているものです。ここで誤解しないようにしたいのは、「少数株主」と言っても、言葉のイメージとは異なり、単独で会社の経営権を握るまでには至らないもののある程度の議決権割合を有する大株主を指しており、1個や2個程度の議決権しか持たない株主などは該当しないということです。したがって、株主提案権などの少数株主権が行使されるケースとしては、一定以上の議決権を有する大株主が経営陣と対立した場合などが想定されます。

少数株主権 : 少数株主に認められた権利。ただし、一口に少数株主権といっても、その種類は様々で、その行使に必要な議決権割合も異なる。例えば、議決権割合「10%以上」を保有することにより認められる「解散請求権」、「3%以上」を6か月前から引き続き保有することで認められる「役員の解任請求権」や「株主総会招集請求権」、「1%以上」を6か月前から引き続き保有することで認められる「株主総会の議題提案権」などがある。

株主提案権を行使できる株主は以下のとおりです(上場会社を前提とします。以下同じ)。

総株主の議決権の「100分の1以上」の議決権または「300個以上」の議決権を、6か月前から保有し続けている株主

冒頭でも触れましたが、株主提案権には株主総会の「議題」に関するものと「議案」に関するものがあります。いずれも「株主が取締役に対して」提案を行うものであるという点では変わりありませんが、両者には以下のような違いがあります。

「議題」に関する株主提案権
一定の事項を「株主総会の目的」(=議題)とすることを請求する権利(会社法303条)

「議案」に関する株主提案権
議題の中身の概要」(=議案の要領)を株主総会招集通知に記載するよう請求する権利(会社法305条)(

議題 : 議題の内容をより具体的に表したものを「議案」と言う。「議題」は「取締役1名選任の件」であり、「議案」は「取締役1名選任の件」という議題について記載された「××××を取締役に選任する」といったものを指す。

 株主総会の当日に、会場で議題に関して議案を提出すること(動議。会社法304条)も一種の株主提案権です。動議については後述の「株主提案への対応方法」でも触れていますが、詳細は「株主総会での動議提出に備えたい」に譲ることとし、本稿では株主総会前における株主提案権をメインに取り扱います。

よく見られる株主提案のパターン

具体的にどのような株主提案があるのか、見ていきましょう。

もっとも多いと思われるのが、「定款変更」を求める株主提案です。これは、取締役会設置会社(すべての上場会社が該当)の株主総会では、「法律又は定款に規定された事項」でなければそもそも決議ができないからです(会社法295条2項)。さすがに「法律」を変えることはできませんので、株主総会決議事項でない事項を株主総会で決議したいと望む株主は、それが可能になるように「定款」を変更するよう株主提案を行う必要があるわけです。よく見られる例としては、役員報酬の個別開示を義務付ける旨の定款変更を求める株主提案があります。

定款変更を求めるもの以外では、「取締役の選任・解任」や「剰余金の配当」に関する株主提案も比較的多く見られます。

では、株主提案権が行使される「局面」としては、どのようなケースが考えられるでしょうか。よくあるのが、以下のようなケースです(委任状争奪戦については「定時株主総会を開催する」の「“委任状争奪合戦”を仕掛けられた場合の会社の対応は?」を参照してください)。

株主提案権が行使される「局面」 その「局面」における主な株主提案
会社の経営権をめぐって委任状争奪戦になったとき 株主陣営の意向に沿った取締役の選任議案
アクティビストと称される「物言う株主」が、株主によるコーポレート・ガバナンスを実現するため 役員報酬の個別開示義務付けを定める定款変更議案
不祥事発覚や業績悪化により、株主が現経営陣への不満を抱いた場合 取締役の解任議案

場合によっては、保有株式を“ホワイトナイト” などに高値で買い取ってもらうために、いわば“ダダをこねる”方策として株主提案権を行使しているだけの株主もいるかも知れません。また、特定の主義・主張を持つ団体が会社側にその主義・主張を認めさせるために定款変更議案の株主提案をするケースも見受けられます(例えば、電力会社に対して、原子力発電に反対する団体が原子力発電所の廃炉を迫る等)。このほか、低迷する株価に不満を抱く株主が、なかば嫌がらせを目的として株主提案権を行使することもあるでしょう。

ホワイトナイト : 敵対的買収を仕掛けられた際に、当該買収者に対抗して、友好的な買収を提案してくれる会社等のこと。白馬の騎士(ホワイトナイト)に例えてこう呼ばれる。通常は、敵対的買収者よりも高い価格で株式を買い取るか、第三者割当増資を引き受けることになる。

株主提案への対応方法

では、株主提案に対し、会社はどのように対応すればよいのでしょうか?

まずは、株主提案をしてきた株主が実際に「株主提案権」を行使できる株主であるのかどうか、すなわち、「総株主の議決権の100分の1以上の議決権または300個以上の議決権を6か月前から保有し続けている株主」であるかどうかを確認する必要があります。そもそも株主提案権を行使できない株主による株主提案は成立しえないからです。

ただ、上場会社の場合、株券が電子化されていることから、株式の売買は「ほふり」(証券保管振替機構)および証券会社における振替口座を通じて記録されるだけであり、売買の都度株主名簿が書き換えられるわけではありません。また、株主名簿は年に2回(中間期末と年度決算期末)しか作成されないのが通常であるため、会社は株主名簿を用いて、株主提案権を行使してきた株主が株主提案権を行使できる株主かどうかを確認することもできません。そこで、株主提案権を行使したい株主は証券会社を通じて「ほふり」に申請をしなければならず、これにより「ほふり」から会社に対して振替口座に基づく個別通知が行われ、それをもって会社は「株主提案権を行使できる株主」であるか否かを確認することができます。

また、株主提案権は、株主総会の日の8週間前までに行使しなければならないとされています(会社法303条2項。定款でこれを下回る期間を定めることは可能)ので、会社は「ほふり」からの個別通知を確認後、当該提案が「株主総会の日の8週間前まで」に行われているかどうかを確認し、確認の結果次第で以下の対応をとります。

(株主総会の日の8週間前の日より後の提案である場合)
株主総会の日の8週間前の日より後に株主提案が行われていた場合には、今回の株主総会では株主提案ができない(=株主提案権を行使できない)旨を株主に伝えます。また、当該株主がそのまま議決権を保有し続けた場合には、次回の株主総会では株主提案権の要件を満たすことから、次回の株主総会において株主提案を行うことを目的とした提案なのかどうかを当該株主に確認する必要があります。

(株主総会の日の8週間前の日より前の提案である場合)
株主総会の日の8週間前までの株主提案であれば、次に、別の観点から当該株主提案が適法になされたものであるかどうかをチェックします。このチェックは総務部等の株主総会事務局が行いますが、法的判断が必要となる事項だけに、顧問弁護士への確認が欠かせません。上述したものも含め整理すると、以下のような場合は「不適法な株主提案」に該当することから、会社は提案を拒否することができます。

「不適法な株主提案」かどうかのチェックポイント
(1) 株主総会の日の8週間前の日より後に株主提案がされた場合(上記参照)
(2) 提出者が株主でない場合、または上述の議決権保有要件を満たしていない場合(上場会社の場合、「ほふり」からの個別通知によりチェックする)
(3) 議題または議案の内容が不適法な場合(株主総会決議事項(上述のとおり、「法律又は定款に規定された事項」を指します)でない議題の提案、法令や定款に違反する議案(例えば、分配可能額を超える剰余金配当議案)の提案)
(4) 株主総会で総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない議案と実質的に同一の議案の提案である場合(すなわち、株主総会で10%未満の賛成しか得られなかった議案は、その後3年間は株主総会に提案できない)

議決権保有要件 : 総株主の議決権の100分の1以上の議決権または300個以上の議決権を6か月前から保有し続けていること

以上のチェック項目をクリアした「適法な株主提案」であれば、対応方針について、取締役会で審議の上、株主提案に対する取締役会の意見をとりまとめることになります。取締役会で審議する際には、例えば次のような視点で検討を加えることが考えられます。

株主提案に対する取締役会での審議ポイント
・提案は株主共同の利益()の最大化という観点から妥当なものであるかどうか?
・提案は企業価値を向上させるものかどうか?もし、提案が承認された場合に、企業価値を棄損させる恐れがないか?
・提案は企業経営にどのような影響を与えるのか?(今後の事業計画との整合性)
・業務執行に属する事項を定款にて縛りをかけるような提案の場合、その提案を受け入れることにより経営の柔軟さや機動性が失われる可能性はないか?
・提案を実現した場合のコストはどの程度か?(費用対効果)
・その提案の代わりとなる仕組みはないのか?(既存の仕組みで代替できないか)
・配当増額の株主提案を受け入れないとした場合、それでも株主の利益が損なわれないといえる根拠は何か?他の株主還元策で十分と言えるのかどうか?
・社外取締役の増員提案を受け入れないとした場合、それでもガバナンスが確保されているといえる根拠は何か?
・取締役の選任等、会社提案と競合する案の場合、会社提案の方が優れていると判断できる根拠は何か?
 株主共同の利益とは、経産省・法務省が取りまとめた「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」によると「株主全体に共通する利益の総体」を言います。

そして、株主総会の招集通知や参考書類に「株主提案の内容・提案理由とそれに対する取締役会の意見」を記載したうえで株主に送付し、株主総会当日に審議に付すこととなります。

なお、株主提案内容の重要性次第ではありますが、適法な株主提案を受領した場合には、「株主提案権の行使に係る書面の受領に関するお知らせ」といった開示を行うか否か、また、取締役会の意見をとりまとめた後、「株主提案に係る当社の対応に関するお知らせ」といった開示を行うか否かについても検討すべきです。

一方、不適法な株主提案であれば、本来は株主総会で採り上げる必要はありません。ただし、株主とのトラブルを避けるという観点からは、例えば株主総会で総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない議案に類似するものの実質的に同一議案とまで評価できるかどうかが微妙な場合のように、「明らかに不適法」とまで言えないのであれば、株主提案を採用したうえで株主総会にて否決するという対応をとるのが無難でしょう。

なお、株主提案が提出されたときは、現経営陣としては、株主総会で実質的動議が出される可能性について備えておくべきです(*1)。なぜなら、現経営陣と対立する意見を持つ株主が、株主総会の機会を利用して、総会の場で自己の主張を繰り広げるために実質的動議を利用したり、そのような動きに触発された別の株主が実質的動議を提出したりといったことが考えられるからです。もし実質的動議が出され、それに反対する議決権が多数を占めることを確認できなかった場合、株主総会に出席している株主の議決権をもとに賛否を集計することになります。現経営陣の意を汲む大株主が出席するのであれば、ある程度の“票読み”を事前に行うことが可能になりますが、仮に大株主が欠席してしまうと、実質的動議の賛否が集計するまではわからないという極めて異例な事態になってしまいます。そこで欠席に備えて、大株主から事前に包括委任状を取得しておきましょう。そうすれば、実質的動議に対する賛否の集計に際して、その大株主の有する議決権数を「反対票」に加算して、最終的な賛否を集計することが可能になるからです(*2)。

実質的動議 : 株主総会の場で実質的動議を出すための要件は、株主総会の日の8週間前の日より前であれば行使可能な議題提案権と異なり、株式の数や保有期間による制限はない。そのため、議決権を1個しか有していない株主であっても実質的動議を出すことが可能である。ただし、議題そのものを提案することはできず、議題の範囲内で議案を修正するだけに留まる。

*1 実質的動議については「株主総会での動議提出に備えたい」の「動議には「実質的動議」と「手続的動議」の2種類」を参照してください。
*2 包括委任状の活用の仕方については「株主総会での動議提出に備えたい」の「実質的動議への対応方法」を参照してください。

また、株主提案がなされたときは会社提案を先に採決し、株主提案を後に採決するのが一般的です。ただ、適法な株主提案と同一の議題でこれと両立しない内容の議案を会社側も提出する場合、審議・採決の方法には工夫が必要です。議案内容を踏まえて個別に検討する必要がありますが、例えば、同一種類の議案についてはまとめて審議する等の対応をする方が円滑で整理された議事進行が可能となる場合も多いと考えられます。

その他、株主提案が行使された場合には、総会検査役の選任が併せてなされる例が見られます(会社法306条)。総会検査役は、株主総会の招集手続や決議方法の調査を行う者であり、会社の申請か、または議決権の100分の1以上の議決権を有する株主の申請により裁判所が選任します。総会検査役が選任された場合には、株主総会手続が適法に行われているかがチェックされることになりますが、過度に気にする必要はなく、粛々と総会検査役の調査に協力すれば足ります。

株主優待が「利益供与」に該当する恐れも

株主提案の中には、会社にとって耳の痛いものもあるでしょう。しかし、だからと言って、株主提案を取り下げてもらうために株主に金銭等を提供するようなことはしてはなりません。会社法では、「株主の権利の行使」に関して財産上の利益の供与をしてはならないとされているからです(会社法120条)。ここで言う「財産上の利益の供与」には、金銭や有価証券等の積極財産の提供のほか、債務免除などの消極財産を消滅させる行為も含まれます。

積極財産 : 現・預金・不動産、有価証券など金銭的価値のある財産

消極財産 : 借入金などの債務

また、一般に実施されている程度の規模の株主優待制度であっても、例えば取締役の選・解任の株主提案があり、経営陣と特定株主の間に緊張関係が生じている状況下で突然実施したりすると、たとえそれが全株主に対して提供されるものであったとしても、「経営陣に対する支持を取り付け、経営陣の意向に従った議決権行使を促すもの」として、利益供与に該当することもあり得ます。株主提案権が行使された場合をはじめとする“有事”の際には、新たな株主優待の導入は控えた方が無難でしょう(株主優待制度と利益供与の関係については「株主優待制度を導入したい」の「500円の株主優待が「株主への利益供与」と判断されたケースも」を参照してください)。

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2014/09/25 (新用語・難解用語)ノンコミットメント型ライツ・オファリング

 自己資本の資金調達というと「公募増資」や「第三者割当増資」が一般的だが、これらの手法により調達した資金は借入金と異なり返済する必要がないため、増資する会社にとっては財務体質を強化する効果がある。その一方で、既存株主にとっては発行価格次第で1株当たりの株式価値が薄まるというデメリットがある(それに伴い、株価が下落することになる)。

 これに対し、既存株主の株式の価値を下落させることなく自己資本の資金調達を行う方法がライツ・オファリング(新株予約権無償割当)だ。ライツ・オファリングとは、既存の全株主に対し、その保有株式数に応じて新株予約権(当該上場会社の株式を市場価格よりも低い価格で購入できる権利)を無償で割当てる増資手法のこと。特定の株主にのみ新株が割り当てられる公募増資や第三者割当増資と異なり「全株主」に割り当てられるため、割当て時点では既存株主の株式の価値の希薄化も起きない()。新株予約権が行使され払込みが行われれば、会社は行使数量に行使価額を乗じた額を調達できることになる。株主は、新株予約権の権利を行使して株式を取得することも、権利を行使しないで新株予約権証券を株式市場で売却することや、逆に株式市場で購入することも可能である。

 もっとも、ライツ・オファリングで取得した新株予約権の権利行使をせず、売却もしない株主が出て来れば、その者の所有する株式の価値は薄まることになる。

 このように、発行時点では既存株主の株式価値を希薄化させないという点で企業にとっても利用しやすいライツ・オファリングだが、無配、業績が悪い、財務内容に不安があるといった理由で、他の方法により資金調達することができない企業が利用するケースが目に付いており、問題となっている。・・・

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2014/09/25 (新用語・難解用語)ノンコミットメント型ライツ・オファリング(会員限定)

 自己資本の資金調達というと「公募増資」や「第三者割当増資」が一般的だが、これらの手法により調達した資金は借入金と異なり返済する必要がないため、増資する会社にとっては財務体質を強化する効果がある。その一方で、既存株主にとっては発行価格次第で1株当たりの株式価値が薄まるというデメリットがある(それに伴い、株価が下落することになる)。

 これに対し、既存株主の株式の価値を下落させることなく自己資本の資金調達を行う方法がライツ・オファリング(新株予約権無償割当)だ。ライツ・オファリングとは、既存の全株主に対し、その保有株式数に応じて新株予約権(当該上場会社の株式を市場価格よりも低い価格で購入できる権利)を無償で割当てる増資手法のこと。特定の株主にのみ新株が割り当てられる公募増資や第三者割当増資と異なり「全株主」に割り当てられるため、割当て時点では既存株主の株式の価値の希薄化も起きない()。新株予約権が行使され払込みが行われれば、会社は行使数量に行使価額を乗じた額を調達できることになる。株主は、新株予約権の権利を行使して株式を取得することも、権利を行使しないで新株予約権証券を株式市場で売却することや、逆に株式市場で購入することも可能である。

 もっとも、ライツ・オファリングで取得した新株予約権の権利行使をせず、売却もしない株主が出て来れば、その者の所有する株式の価値は薄まることになります。

 このように、発行時点では既存株主の株式価値を希薄化させないという点で企業にとっても利用しやすいライツ・オファリングだが、無配、業績が悪い、財務内容に不安があるといった理由で、他の方法により資金調達することができない企業が利用するケースが目に付いており、問題となっている。

 ライツ・オファリングには、権利行使されなかった新株予約権を証券会社が引き受ける(=権利行使して株式を取得する)ことを約束(コミット)する「コミットメント型」と、こうした約束がない「ノンコミットメント型」があるが、問題となっているのは、「ノンコミットメント型」の方だ。

 コミットメント型では、証券会社も引受けというリスクを負う以上、増資の合理性を厳しく審査をすることになるが、ノンコミットメント型ではそのような審査もない。このため、ノンコミットメント型は合理性について何ら第三者評価を受けないまま発行されるのが通常であり、投資家にとってリスクがある()ほか、理論的な価値に基づかないマネーゲームの対象になっているとの指摘も聞かれる。

 このため、ライツ・オファリングの実施を公表した会社の株価は下がるケースが少なくありません。

 こうした中、東京証券取引所はノンコミットメント型ライツ・オファリングに関する上場制度を見直すことを決定している(2014年9月3日に改正案を公表、10月3日までパブコメを募集したのち、平成26年10月から実施の予定)。

 具体的には、ノンコミットメント型ライツ・オファリングの発行にあたっても、次の(1)または(2)のいずれかの手続きを経て発行されるものであることを求める。
(1) 証券会社(東証の取引参加者に限る)による増資の合理性についての審査
(2) 株主総会決議などによる株主の意思確認

東証の取引参加者 : 東証に上場する株券等の売買に直接参加できる資格(取引資格)を有する者のこと。証券会社等の中で、東証の資格取得審査をクリアした会社のみ取引参加者になることができる。

 ノンコミットメント型にはそもそも証券会社がコミットしないため、(1)ではなく(2)を選ぶ企業が大半になるだろう。

 また、新株予約権証券を発行する上場会社の経営成績および財政状態が、次の(1)または(2)のいずれにも「該当していない」ことも求める。
(1) 最近2年間において経常利益の額が正である事業年度がないこと
(2) 直前事業年度または直前四半期会計期間の末日において債務超過であること

 これにより、今後は業績の悪い企業では資金調達の手段にノンコミットメント型ライツ・オファリングを採用できないことになる。現状、ライツ・オファリングの大部分を占めるノンコミットメント型(平成26年6月末までに公表された25件のライツ・オファリングのうち22件がノンコミットメント型)を利用する企業も減少することになりそうだ。

2014/09/25 【株主総会の運営】株主が株主提案権を行使してきた

 

株主提案権には2種類ある

株主総会の議題や議案()は会社側(経営陣側)が提案するのが通常です。しかし、それでは、必ずしも株主の希望通りの議題・議案が提案されるとは限りません。

 議題と議案の違いは後述します。詳細を知りたい場合は、「株主総会での動議提出に備えたい」の「適法な実質的動議と不適法な実質的動議」を参照してください。

そこで会社法では、一定の株主に「株主提案権」という権利を認めています。株主提案権とは、株主総会招集請求権などと並ぶ「少数株主権」の1つであり、文字通り少数株主の権利を保護するために認められているものです。ここで誤解しないようにしたいのは、「少数株主」と言っても、言葉のイメージとは異なり、単独で会社の経営権を握るまでには至らないもののある程度の議決権割合を有する大株主を指しており、1個や2個程度の議決権しか持たない株主などは該当しないということです。したがって、株主提案権などの少数株主権が行使されるケースとしては、一定以上の議決権を有する大株主が経営陣と対立した場合などが想定されます。

少数株主権 : 少数株主に認められた権利。ただし、一口に少数株主権といっても、その種類は様々で、その行使に必要な議決権割合も異なる。例えば、議決権割合「10%以上」を保有することにより認められる「解散請求権」、「3%以上」を6か月前から引き続き保有することで認められる「役員の解任請求権」や「株主総会招集請求権」、「1%以上」を6か月前から引き続き保有することで認められる「株主総会の議題提案権」などがある。

株主提案権を行使できる株主は以下のとおりです(上場会社を前提とします。以下同じ)。
・総株主の議決権の「100分の1以上」の議決権または「300個以上」の議決権を、6か月前から保有し続けている株主

冒頭でも触れましたが、株主提案権には株主総会の「議題」に関するものと「議案」に関するものがあります。いずれも「株主が取締役に対して」提案を行うものであるという点では変わりありませんが、両者には以下のような違いがあります。

「議題」に関する株主提案権
一定の事項を「株主総会の目的」(=議題)とすることを請求する権利(会社法303条)

「議案」に関する株主提案権
議題の中身の概要」(=議案の要領)を株主総会招集通知に記載するよう請求する権利(会社法305条)(

議題 : 議題の内容をより具体的に表したものを「議案」と言う。「議題」は「取締役1名選任の件」であり、「議案」は「取締役1名選任の件」という議題について記載された「××××を取締役に選任する」といったものを指す。

 株主総会の当日に、会場で議題に関して議案を提出すること(動議。会社法304条)も一種の株主提案権です。動議については後述の「株主提案への対応方法」でも触れていますが、詳細は「株主総会での動議提出に備えたい」に譲ることとし、本稿では株主総会前における株主提案権をメインに取り扱います。
よく見られる株主提案のパターン

具体的にどのような株主提案があるのか、見ていきましょう。

もっとも多いと思われるのが、「定款変更」を求める株主提案です。これは、取締役会設置会社(すべての上場会社が該当)の株主総会では、「法律又は定款に規定された事項」でなければそもそも決議ができないからです(会社法295条2項)。さすがに「法律」を変えることはできませんので、株主総会決議事項でない事項を株主総会で決議したいと望む株主は、それが可能になるように「定款」を変更するよう株主提案を行う必要があるわけです。よく見られる例としては、役員報酬の個別開示を義務付ける旨の定款変更を求める株主提案があります。

定款変更を求めるもの以外では、「取締役の選任・解任」や「剰余金の配当」に関する株主提案も比較的多く見られます。

では、株主提案権が行使される「局面」としては、どのようなケースが考えられるでしょうか。よくあるのが、以下のようなケースです(委任状争奪戦については「定時株主総会を開催する」の「“委任状争奪合戦”を仕掛けられた場合の会社の対応は?」を参照してください)。

株主提案権が行使される「局面」 その「局面」における主な株主提案
会社の経営権をめぐって委任状争奪戦になったとき 株主陣営の意向に沿った取締役の選任議案
アクティビストと称される「物言う株主」が、株主によるコーポレート・ガバナンスを実現するため 役員報酬の個別開示義務付けを定める定款変更議案
不祥事発覚や業績悪化により、株主が現経営陣への不満を抱いた場合 取締役の解任議案

場合によっては、保有株式を“ホワイトナイト” などに高値で買い取ってもらうために、・・・

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ホワイトナイト : 敵対的買収を仕掛けられた際に、当該買収者に対抗して、友好的な買収を提案してくれる会社等のこと。白馬の騎士(ホワイトナイト)に例えてこう呼ばれる。通常は、敵対的買収者よりも高い価格で株式を買い取るか、第三者割当増資を引き受けることになる。

株主提案への対応方法

では、株主提案に対し、会社はどのように対応すればよいのでしょうか?

まずは、株主提案をしてきた株主が実際に「株主提案権」を行使できる株主であるのかどうか、すなわち、「総株主の議決権の100分の1以上の議決権または300個以上の議決権を6か月前から保有し続けている株主」であるかどうかを確認する必要があります。そもそも株主提案権を行使できない株主による株主提案は成立しえないからです。

ただ、上場会社の場合、株券が電子化されていることから、株式の売買は「ほふり」(証券保管振替機構)および証券会社における振替口座を通じて記録されるだけであり、売買の都度株主名簿が書き換えられるわけではありません。また、株主名簿は年に2回(中間期末と年度決算期末)しか作成されないのが通常であるため、会社は株主名簿を用いて、株主提案権を行使してきた株主が株主提案権を行使できる株主かどうかを確認することもできません。そこで、株主提案権を行使したい株主は証券会社を通じて「ほふり」に申請をしなければならず、これにより「ほふり」から会社に対して振替口座に基づく個別通知が行われ、それをもって会社は「株主提案権を行使できる株主」であるか否かを確認することができます。

また、株主提案権は、株主総会の日の8週間前までに行使しなければならないとされています(会社法303条2項。定款でこれを下回る期間を定めることは可能)ので、会社は「ほふり」からの個別通知を確認後、当該提案が「株主総会の日の8週間前まで」に行われているかどうかを確認し、確認の結果次第で以下の対応をとります。

(株主総会の日の8週間前の日より後の提案である場合)
株主総会の日の8週間前の日より後に株主提案が行われていた場合には、今回の株主総会では株主提案ができない(=株主提案権を行使できない)旨を株主に伝えます。また、当該株主がそのまま議決権を保有し続けた場合には、次回の株主総会では株主提案権の要件を満たすことから、次回の株主総会において株主提案を行うことを目的とした提案なのかどうかを当該株主に確認する必要があります。

(株主総会の日の8週間前の日より前の提案である場合)
株主総会の日の8週間前までの株主提案であれば、次に、別の観点から当該株主提案が適法になされたものであるかどうかをチェックします。このチェックは総務部等の株主総会事務局が行いますが、法的判断が必要となる事項だけに、顧問弁護士への確認が欠かせません。上述したものも含め整理すると、以下のような場合は「不適法な株主提案」に該当することから、会社は提案を拒否することができます。・・・

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株主優待が「利益供与」に該当する恐れも

株主提案の中には、会社にとって耳の痛いものもあるでしょう。しかし、だからと言って、株主提案を取り下げてもらうために株主に・・・

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2014/09/24 社外取締役を選任しても「相当でない理由」の説明は省略できない

 今年6月の株主総会では社外取締役を選任する会社が相次いだが、その理由の1つには、改正会社法が、社外取締役を選任していない上場会社等に対し、株主総会で「社外取締役を置くことが相当でない理由」(以下、「相当でない理由」)の説明を求めているということがある。改正会社法の施行は平成27年4月あるいは5月が予定されているため、3月決算法人であれば平成27年6月総会で「相当でない理由」を株主に対して説明することになる。

 この「相当でない理由」の説明を回避するため、平成27年6月総会で社外取締役を選任する方向で検討を進めている企業は少なくないだろう。しかし、実は社外取締役の選任議案を株主総会に提出したとしても、「相当でない理由」の説明を省略することはできないので注意したい。

 企業が社外取締役の選任議案を提出すれば株主総会で決議されることはほぼ確実なだけに、「相当でない理由」を説明しなくてもよいのではないかと思う向きもあろうが、・・・

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2014/09/24 社外取締役を選任しても「相当でない理由」の説明は省略できない(会員限定)

 今年6月の株主総会では社外取締役を選任する会社が相次いだが、その理由の1つには、改正会社法が、社外取締役を選任していない上場会社等に対し、株主総会で「社外取締役を置くことが相当でない理由」(以下、「相当でない理由」)の説明を求めているということがある。改正会社法の施行は平成27年4月あるいは5月が予定されているため、3月決算法人であれば平成27年6月総会で「相当でない理由」を株主に対して説明することになる。

 この「相当でない理由」の説明を回避するため、平成27年6月総会で社外取締役を選任する方向で検討を進めている企業は少なくないだろう。しかし、実は社外取締役の選任議案を株主総会に提出したとしても、「相当でない理由」の説明を省略することはできないので注意したい。

 企業が社外取締役の選任議案を提出すれば株主総会で決議されることはほぼ確実なだけに、「相当でない理由」を説明しなくてもよいのではないかと思う向きもあろうが、改正会社法327条の2では、「事業年度の末日において監査役設置会社であり……社外取締役を置いていない場合には、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない。」と規定している。つまり、3月決算会社であれば、「平成27年3月末時点」で社外取締役を選任していなければ、仮に平成27年6月の株主総会で社外取締役の選任議案を提出していたとしても、改正会社法上は「相当でない理由」の説明を省略することはできないということだ。

 法務省は、「社外監査役が2名いるので、社外の者による監査・監督が十分である」「社外取締役に適任者が見当たらない」といったものは、「相当でない理由」の説明にはならないとしている。「相当でない理由」としては、「社外取締役を置くことがかえって自社にマイナスの影響を及ぼす恐れがあるような事情」が想定されているというが、そのような事情を株主が納得するように説明するのは現実には困難だろう。

 もっとも、法務省は、社外取締役の選任議案を株主総会に提出している場合には、「相当でない理由」を詳細に述べなくても容認されるとの見解を示している。現在社外取締役がいない企業にとって、次の総会での選任は必須であろう。

2014/09/24 【予算・事業計画】業績予想を修正したい

 

「業績予想の修正」の判断基準と開示すべき事項

株価の変動要因はいろいろありますが、中でも会社の業績等の将来を予測する情報は、株価を動かすもっとも重要な要因といっても過言ではありません。そこで、上場会社は、証券取引所の要請に基づき、投資家の判断に資するために売上高、営業利益、経常利益、当期純利益といった業績予想を開示することが期待されています。

しかし、業績予想はあくまで予測に過ぎないので、販売や製造が当初の見込みどおりに推移しないという事態や、時間の経過とともに予測できなかった要因が発生することは容易に起こり得ます。そこで、証券取引所は上場会社に対して、売上高、営業利益、経常利益、当期純利益の予想を公表した後で業績予想を修正した結果、いずれか1つでも当初の業績予想の数値との間に重要な差異が生じた場合、業績予想の修正を公表することを求めています(東京証券取引所の有価証券上場規程第405条1項)。ここでいう重要な差異とは、投資家の「投資判断に及ぼす影響が重要」なレベルの差異のことであり、具体的には下表のような比率の増減を指します(有価証券上場規程施行規則407条)。

表「業績予想の修正の公表が必要となる基準」

前回予想値と、今回予想値または当期実績値とを比較して、増減が右の基準を超える場合(注) 売上高 10%以上
営業利益 30%以上
経常利益 30%以上
当期純利益 30%以上

(注)前回予想値がない場合は、「前回予想値」は「前期実績値」に読み替えます。

なお、最近徐々に増加しつつあるIFRSの任意適用会社の場合は、売上高、営業利益、税引前利益、当期利益または親会社の所有者に帰属する当期利益(当期利益のうち非支配持分を除いた分)に重要な差異が生じた場合に開示が求められます。国内会計基準を適用している会社との違いは、IFRSでは経常利益という指標が無いという点とIFRSでは親会社の所有者に帰属する当期利益が記載される点()にあります。なお、IFRSでの利益系の指標については、上表と同じ30%基準を採用することになります。

IFRS : IASB(国際会計基準審議会)が策定する国際財務報告基準のことで、“International Financial Reporting Standards”の略

 もっとも、日本の会計基準においても、企業結合会計基準の改正を受け、平成27年4月1日以後開始する事業年度より、これまで「当期純利益」「少数株主利益」「少数株主損益調整前当期純利益」とされていた項目が、それぞれ「親会社株主に帰属する当期純利益」「非支配株主に帰属する当期純利益」「当期純利益」という科目名で表示(または付記)されることになりました。

上表の基準はすべて「増減額」ではなく、「増減率」となっていることから、「増減額」が同じでも、規模の小さな会社ほど「増減率」へのインパクトが大きくなり、業績予想の修正が求められる可能性が高くなる点には留意が必要です。例えば営業利益の予想が10億円のA社と1億円のB社があるとします。両社とも、営業利益が5千万円減少することになった場合、A社では減少率が5%であるため、業績予想の修正に関する公表は不要ですが、B社では50%の減少となることから業績予想の修正を公表しなければなりません。業績低迷時には、売上高や各段階利益の金額が小さくなる傾向にあるので、表中の増減基準である10%または30%基準に該当しやすくなる点には留意が必要です。

上表の基準へのあてはめを具体例で見てみましょう。外部環境の変化、実績の状況に応じて適時に予算を見直す必要がありますが、この予算の改訂は将来予測情報の変更そのものです。業績予想公表後に予算の見直しをした結果、業績予想値に上表の基準に該当するような重要な変動があれば、業績予想の修正についての適時開示が必要になります。売上高の予想を100億円と開示していた会社が、販売実績の大幅な低迷により期の途中で売上見込みが88億円となる業績予想の修正を社内で行った場合、売上高の前回予想値と今回予想値を比較すると12%の下方への乖離があることになります。これは、上表の売上高増減率の10%基準を超えることから、業績予想の修正についての適時開示が必要になります。

上の表の基準に当てはまる場合、具体的には次の事項の開示が必要になります。
(1)修正理由
(2)前回予想値
(3)新たに算出した予想値
(4)前回予想値と新たに算出した予想値との増減額および増減率
(5)前期実績値

なお、四半期決算短信においても通期の業績予想の開示が求められており、直近に公表されている業績予想からの修正の有無についても記載が求められています。

「次期の業績予想」の形式ではない場合の判断基準は?

会社の将来を予測する情報として、売上や利益といった「次期の業績予想」の形式ではなく、受注高、EBITDA)、1株当たり利益など、売上高や利益に関連する「財務指標」により予想値を開示しているケースも見られます。そのような形式で将来予測情報を開示した場合は、投資家の「投資判断に重要な影響を与える可能性」の判断基準について「「業績予想の修正」の判断基準と開示すべき事項」にて記載した表「業績予想の修正が必要となる基準」(以下、上表)のような一律の基準がないことから、あらかじめ上場会社において、開示される将来予測情報の性質に応じて自主的な判断基準を定めておく必要があります。

 Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortizationの略。「エビーダ」「イービッダー」「イービットディーエー」などと呼ばれ、支払利息、税金、有形固定資産の減価償却費、無形固定資産の償却費を差し引く前の利益のこと。

自主的な判断基準としては、次のようなものが考えられます。

・上表(業績予想の修正の公表が必要となる基準)の基準を援用する方法(例えば、受注高であれば売上の前段階なので増減10%を基準とすることが考えられます)
・予想値の変動による売上高や利益への影響度合いを考慮する方法(将来予測情報として採用した財務指標が1%変動した時に、売上高や利益はどの程度変動するか)

そして、将来予測情報について、期中において新たな予想値を算出した場合において、自主的な判断基準を超えるレベルの増減があれば、その修正についての適時開示が必要になります。

業績予想を公表していない場合でも「業績予想の修正の開示」が必要になるケース

証券取引所の規則では、一定の場合には業績予想を公表しないことも認められています。この場合、そもそも修正すべき業績予想がないことから、たとえ業績に変動を与える事情が生じたとしても、業績予想の修正という話は出てこないように見えますが、そうではありません。

業績予想を公表していない場合であっても、・・・

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業績予想の修正が生じる原因と改善方法

投資家は過去の業績予想の修正頻度や修正方向(上方修正か下方修正か)を織り込んだ形で業績の着地見込みを予想します。この点、業績予想の修正が少ない会社は、投資家にとって株価の方向性を見極めやすいことから、投資家は安心して投資判断を下すことができます。一方、業績の上方修正が多い傾向にある会社であれば、投資家は「実績の着地は会社が公表した予想よりもっと高くなるのではないか」と勘繰りすることになります。逆に、業績の下方修正が多い傾向にある会社であれば、投資家は「実績の着地は会社が公表した予想よりもっと低くなるのではないか」と疑心暗鬼になります。

確かに、業績予想はあくまでも予測に過ぎないことから、その修正は当然あり得る事態です。とはいえ、上方修正であれ下方修正であれ、修正が頻発してしまうと、経営の“ぶれ”を招くだけでなく、経営者としての見込の甘さを露呈することにもなりかねません。特に下方修正が続くと、投資家の期待を大きく損ねることになってしまうため、可能な限り修正しなくてもよいレベルの、精緻な予想を心がけたいものです。

そのためには、業績予想の修正が生じる要因を分析することが欠かせません。要因としては外部要因(例えば、輸出入産業における外国為替レート、輸出入相手国の法制度の変更といった社外的要因)と内部要因(例えば、新商品の開発の遅れ、新規店舗の出店や人材成長の遅れ、過度に悲観的あるいは楽観的な予算の策定といった社内的要因)が考えられます。

その改善方法としては、・・・

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業績予想の修正が「インサイダー情報」にあたるケース

業績予想を修正した場合、会社として細心の注意を払う必要があるのが、インサイダー取引の防止です。

インサイダー取引とは「インサイダー情報(法令上は「重要事実」と言われます)」を利用して行われる不公正な取引ですが、この「インサイダー情報=重要事実」には、配当予想の修正や自己株式の取得、資本金の減少などとならび、「業績予想の修正」も含まれます。

ただし、業績予想の修正がすべて「重要事実」に該当するわけではありません。業績予想の修正をした場合であっても、修正の程度が軽微であれば投資家の投資判断に影響を与えないことから、金融商品取引法では、“一定の基準”を超える業績予想の修正のみを「重要事実」としています。

具体的には、当該会社または当該会社の属する企業集団の売上高、経常利益もしくは純利益について、公表された直近の予想値と当該会社が新たに算出した予想値との間に、下記のいずれかに該当する差異が生じている場合が「重要事実」に該当します。・・・

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業績予想の修正を「インサイダー情報」でなくすためには?

「重要事実」は、それが公表される前でなければ「インサイダー情報」とはなり得ません。逆に言うと、「重要事実」に該当する業績予想の修正を行ったとしても、それが「公表」された場合には、もはやインサイダー情報として管理する必要はなくなるということです。

そこで、何をもって「公表」と言えるのかが問題になりますが、金融商品取引法上は、以下の要件のいずれか1つを満たせば「公表」されたことになります(金融商品取引法166条4項、金融商品取引法施行令30条)。・・・

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インサイダー取引予防のためにすべきこと

インサイダー取引を防止するため、法令等においても規制が設けられています。

金融商品取引法では、業績予想の修正等の重要事実を利用してインサイダー取引が行われること等を防止するため、上場会社の役員等に対し、自社株の取引を行った場合には、一定の条件を満たす場合を除き、財務局に報告する義務を課しています(金融商品取引法163条1項、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令30条1項)。具体的には、上場会社の役員が自社株の取引を行った場合、以下に定める場合等を除き、当該取引の翌月15日までに、「取引者の氏名・住所、取引日、取引した株式数・取引価格等」を記載した報告書(有価証券の取引等の規制に関する内閣府令29条1項および別紙様式第3号)を提出することとなります。・・・

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2014/09/24 【予算・事業計画】業績予想を修正したい(会員限定)

 

「業績予想の修正」の判断基準と開示すべき事項

株価の変動要因はいろいろありますが、中でも会社の業績等の将来を予測する情報は、株価を動かすもっとも重要な要因といっても過言ではありません。そこで、上場会社は、証券取引所の要請に基づき、投資家の判断に資するために売上高、営業利益、経常利益、当期純利益といった業績予想を開示することが期待されています。

しかし、業績予想はあくまで予測に過ぎないので、販売や製造が当初の見込みどおりに推移しないという事態や、時間の経過とともに予測できなかった要因が発生することは容易に起こり得ます。そこで、証券取引所は上場会社に対して、売上高、営業利益、経常利益、当期純利益の予想を公表した後で業績予想を修正した結果、いずれか1つでも当初の業績予想の数値との間に重要な差異が生じた場合、業績予想の修正を公表することを求めています(東京証券取引所の有価証券上場規程第405条1項)。ここでいう重要な差異とは、投資家の「投資判断に及ぼす影響が重要」なレベルの差異のことであり、具体的には下表のような比率の増減を指します(有価証券上場規程施行規則407条)。

表「業績予想の修正の公表が必要となる基準」

前回予想値と、今回予想値または当期実績値とを比較して、増減が右の基準を超える場合(注) 売上高 10%以上
営業利益 30%以上
経常利益 30%以上
当期純利益 30%以上

(注)前回予想値がない場合は、「前回予想値」は「前期実績値」に読み替えます。

なお、最近徐々に増加しつつあるIFRSの任意適用会社の場合は、売上高、営業利益、税引前利益、当期利益または親会社の所有者に帰属する当期利益(当期利益のうち非支配持分を除いた分)に重要な差異が生じた場合に開示が求められます。国内会計基準を適用している会社との違いは、IFRSでは経常利益という指標が無いという点とIFRSでは親会社の所有者に帰属する当期利益が記載される点()にあります。なお、IFRSでの利益系の指標については、上表と同じ30%基準を採用することになります。

IFRS : IASB(国際会計基準審議会)が策定する国際財務報告基準のことで、“International Financial Reporting Standards”の略

 もっとも、日本の会計基準においても、企業結合会計基準の改正を受け、平成27年4月1日以後開始する事業年度より、これまで「当期純利益」「少数株主利益」「少数株主損益調整前当期純利益」とされていた項目が、それぞれ「親会社株主に帰属する当期純利益」「非支配株主に帰属する当期純利益」「当期純利益」という科目名で表示(または付記)されることになりました。

上表の基準はすべて「増減額」ではなく、「増減率」となっていることから、「増減額」が同じでも、規模の小さな会社ほど「増減率」へのインパクトが大きくなり、業績予想の修正が求められる可能性が高くなる点には留意が必要です。例えば営業利益の予想が10億円のA社と1億円のB社があるとします。両社とも、営業利益が5千万円減少することになった場合、A社では減少率が5%であるため、業績予想の修正に関する公表は不要ですが、B社では50%の減少となることから業績予想の修正を公表しなければなりません。業績低迷時には、売上高や各段階利益の金額が小さくなる傾向にあるので、表中の増減基準である10%または30%基準に該当しやすくなる点には留意が必要です。

上表の基準へのあてはめを具体例で見てみましょう。外部環境の変化、実績の状況に応じて適時に予算を見直す必要がありますが、この予算の改訂は将来予測情報の変更そのものです。業績予想公表後に予算の見直しをした結果、業績予想値に上表の基準に該当するような重要な変動があれば、業績予想の修正についての適時開示が必要になります。売上高の予想を100億円と開示していた会社が、販売実績の大幅な低迷により期の途中で売上見込みが88億円となる業績予想の修正を社内で行った場合、売上高の前回予想値と今回予想値を比較すると12%の下方への乖離があることになります。これは、上表の売上高増減率の10%基準を超えることから、業績予想の修正についての適時開示が必要になります。

上の表の基準に当てはまる場合、具体的には次の事項の開示が必要になります。
(1)修正理由
(2)前回予想値
(3)新たに算出した予想値
(4)前回予想値と新たに算出した予想値との増減額および増減率
(5)前期実績値

なお、四半期決算短信においても通期の業績予想の開示が求められており、直近に公表されている業績予想からの修正の有無についても記載が求められています。

「次期の業績予想」の形式ではない場合の判断基準は?

会社の将来を予測する情報として、売上や利益といった「次期の業績予想」の形式ではなく、受注高、EBITDA)、1株当たり利益など、売上高や利益に関連する「財務指標」により予想値を開示しているケースも見られます。そのような形式で将来予測情報を開示した場合は、投資家の「投資判断に重要な影響を与える可能性」の判断基準について「「業績予想の修正」の判断基準と開示すべき事項」にて記載した表「業績予想の修正が必要となる基準」(以下、上表)のような一律の基準がないことから、あらかじめ上場会社において、開示される将来予測情報の性質に応じて自主的な判断基準を定めておく必要があります。

 Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortizationの略。「エビーダ」「イービッダー」「イービットディーエー」などと呼ばれ、支払利息、税金、有形固定資産の減価償却費、無形固定資産の償却費を差し引く前の利益のこと。

・上表(業績予想の修正の公表が必要となる基準)の基準を援用する方法(例えば、受注高であれば売上の前段階なので増減10%を基準とすることが考えられます)
・予想値の変動による売上高や利益への影響度合いを考慮する方法(将来予測情報として採用した財務指標が1%変動した時に、売上高や利益はどの程度変動するか)

そして、将来予測情報について、期中において新たな予想値を算出した場合において、自主的な判断基準を超えるレベルの増減があれば、その修正についての適時開示が必要になります。

業績予想を公表していない場合でも「業績予想の修正の開示」が必要になるケース

証券取引所の規則では、一定の場合には業績予想を公表しないことも認められています。この場合、そもそも修正すべき業績予想がないことから、たとえ業績に変動を与える事情が生じたとしても、業績予想の修正という話は出てこないように見えますが、そうではありません。

業績予想を公表していない場合であっても、その公表していない業績予想と前会計年度の実績値とを比較し、上述した投資家の「投資判断に及ぼす影響が重要」なレベルの差異が生じている場合には、その差異の内容の開示が必要になります(東京証券取引所の有価証券上場規程施行規則407条)。

また、「次期の業績予想」の形式によらずに将来予測情報の開示を行った場合であっても、開示後に新たに算出された予想値や事業年度が終わって確定した実績値が、最後に公表された予測値と比較して乖離し、その乖離の内容が投資家の投資判断に重要な影響を与える可能性がある場合には、適時開示の一般原則()に従って、新たに算出された予想値の適時開示が必要となります。

 適時開示の一般原則とは「この節の規定は会社情報の適時開示等について上場会社が遵守すべき最低限の要件、方法等を定めたものであり、上場会社は、同節の規定を理由としてより適時、適切な会社情報の開示を怠ってはならない」といった有価証券上場規程第411条の2の規定を指します。
業績予想の修正が生じる原因と改善方法

投資家は過去の業績予想の修正頻度や修正方向(上方修正か下方修正か)を織り込んだ形で業績の着地見込みを予想します。この点、業績予想の修正が少ない会社は、投資家にとって株価の方向性を見極めやすいことから、投資家は安心して投資判断を下すことができます。一方、業績の上方修正が多い傾向にある会社であれば、投資家は「実績の着地は会社が公表した予想よりもっと高くなるのではないか」と勘繰りすることになります。逆に、業績の下方修正が多い傾向にある会社であれば、投資家は「実績の着地は会社が公表した予想よりもっと低くなるのではないか」と疑心暗鬼になります。

確かに、業績予想はあくまでも予測に過ぎないことから、その修正は当然あり得る事態です。とはいえ、上方修正であれ下方修正であれ、修正が頻発してしまうと、経営の“ぶれ”を招く()だけでなく、経営者としての見込の甘さを露呈することにもなりかねません。特に下方修正が続くと、投資家の期待を大きく損ねることになってしまうため、可能な限り修正しなくてもよいレベルの、精緻な予想を心がけたいものです。

 業績予想の修正が達成不能な予算が原因であった場合の問題点については、「予算が未達となってしまった」の「達成不能な予算で生じる会社経営の歪みとは?」を参照してください。

そのためには、業績予想の修正が生じる要因を分析することが欠かせません。要因としては外部要因(例えば、輸出入産業における外国為替レート、輸出入相手国の法制度の変更といった社外的要因)と内部要因(例えば、新商品の開発の遅れ、新規店舗の出店や人材成長の遅れ、過度に悲観的あるいは楽観的な予算の策定といった社内的要因)が考えられます。

その改善方法としては、例えば外国為替レートのぶれに関しては、円建て取引の割合を増やしたり、為替予約取引を実施したりすることで円貨ベースでのぶれを少なくするといった改善策が考えられます。また、新規店舗の出店の遅れについては出店スピードの向上のために人員の増強を図るとともに、場合によっては店舗開発の外部コンサルタントといったリソースを活用することも考えられます。人材の成長の遅れについては、中途採用者の積極的採用や社内研修の充実・マニュアルの整備といった人材教育に力を入れることで対処することが考えられます。もし、業績予想の策定の精度が要因となっているのであれば、経営企画等のしかるべき部署が中心となって予算策定プロセスを分析し、予算が過度に楽観的あるいは悲観的になってしまう要因を突き止め、現場の実力を適切に反映した予算を策定するように改善活動を続けることが必要になります。このように業績予想の修正を減らす方策は、地道な経営努力の積み重ねにあると言えます。

業績予想の修正が「インサイダー情報」にあたるケース

業績予想を修正した場合、会社として細心の注意を払う必要があるのが、インサイダー取引の防止です。

インサイダー取引とは「インサイダー情報(法令上は「重要事実」と言われます)」を利用して行われる不公正な取引ですが、この「インサイダー情報=重要事実」には、配当予想の修正や自己株式の取得、資本金の減少などとならび、「業績予想の修正」も含まれます。

ただし、業績予想の修正がすべて「重要事実」に該当するわけではありません。業績予想の修正をした場合であっても、修正の程度が軽微であれば投資家の投資判断に影響を与えないことから、金融商品取引法では、“一定の基準”を超える業績予想の修正のみを「重要事実」としています。

具体的には、当該会社または当該会社の属する企業集団の売上高、経常利益もしくは純利益について、公表された直近の予想値と当該会社が新たに算出した予想値との間に、下記のいずれかに該当する差異が生じている場合が「重要事実」に該当します。

(1)売上高 10%以上の増減
(2)経常利益 30%以上の増減、かつ、新旧予想値の差額が「前事業年度末日の純資産額と資本金の額のうち大きい方の金額」の5%以上
(3)純利益 30%以上増減、かつ、新旧予想値の差額が「前事業年度の末の純資産額と資本金の額のうち大きい方の金額」の2.5%以上
(4)剰余金の配当 20%以上の増減

業績予想を修正する可能性がある場合には、修正幅が上記の基準に抵触するおそれがないかどうかを確認し、抵触しているか、またはそのおそれがある場合には「インサイダー情報=重要事実」として管理する必要があります。

業績予想の修正を「インサイダー情報」でなくすためには?

「重要事実」は、それが公表される前でなければ「インサイダー情報」とはなり得ません。逆に言うと、「重要事実」に該当する業績予想の修正を行ったとしても、それが「公表」された場合には、もはやインサイダー情報として管理する必要はなくなるということです。

そこで、何をもって「公表」と言えるのかが問題になりますが、金融商品取引法上は、以下の要件のいずれか1つを満たせば「公表」されたことになります(金融商品取引法166条4項、金融商品取引法施行令30条)。

・会社が自主的に2以上の報道機関(ただし、日刊新聞紙を販売している者やテレビ局等、一定の要件を満たす者に限定)に対して情報を公開した後、12時間が経過したとき
TDnetを利用して適時開示を行ったとき
・「重要事実」が記載された法定書面(有価証券報告書、臨時報告書等)が公衆縦覧されたとき

TDnet : 証券取引所の適時開示システム

このように、金融商品取引法上の「公表」は一般的に使われている「公表」とは意味が異なっている点に注意が必要です。例えば、マスメディアによるスクープ等により、会社が意図しないにもかかわらず業績予想の修正情報が周知されることになったとしても、それは上記の要件を満たさないことから、金融商品取引法上の「公表」には当たりません。また、下記のようなケースも、いずれも金融商品取引法上の「公表」には当たりません。したがって、会社としては、下記のような行為を行う前に、金融商品取引法上の「公表」を行う必要があります。

・会社のウェブサイトに、業績予想の修正のリリースを掲載した
・作成した臨時報告書を会社のサイトに掲載した

インサイダー取引予防のためにすべきこと

インサイダー取引を防止するため、法令等においても規制が設けられています。

金融商品取引法では、業績予想の修正等の重要事実を利用してインサイダー取引が行われること等を防止するため、上場会社の役員等に対し、自社株の取引を行った場合には、一定の条件を満たす場合を除き、財務局に報告する義務を課しています(金融商品取引法163条1項、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令30条1項)。具体的には、上場会社の役員が自社株の取引を行った場合、以下に定める場合等を除き、当該取引の翌月15日までに、「取引者の氏名・住所、取引日、取引した株式数・取引価格等」を記載した報告書(有価証券の取引等の規制に関する内閣府令29条1項および別紙様式第3号)を提出することとなります。

・単元未満株式の取引
・金融商品取引業者への委託等の方式もしくは信託業を営む者との信託契約方式による、役員持株会、従業員持株会もしくは拡大従業員持株会を通じた買付けであって、一定の計画に従い、個別の投資判断に基づかず、継続的に行われたものと認められる場合(金融商品取引業者への委託等の方法によるときは、各会員の1回の拠出金額が100万円未満のものに限る)
・累積投資契約により、金融商品取引業者に委託等をして行われた買付けであって、当該買付けが一定の計画に従い、個別の投資判断に基づかず、継続的に行われたものと認められる場合(各顧客の1銘柄に対する払込金額が1月当たり100万円に満たないものに限る)
・金融商品取引所で行われる銘柄の異なる複数の株券の集合体を対象とする先物取引
・安定操作取引による売買

また、日本証券業協会では、インサイダー取引を防止するため、J-IRISS(Japan-Insider Registration & Identification Support Systemの略。ジェイ・アイリスと読みます)というシステムを構築し、運営しています。これは、上場会社に自社の役員情報を同システムのデータベースへ登録させることにより、もし役員が自社株売買を行った場合には、証券会社の顧客情報との照合により当該自社株売買をキャッチし、役員に対して注意を喚起する仕組みです。まだ同システムへの登録をしていない上場会社は、インサイダー取引防止の観点からも是非登録しておくべきでしょう。

このような外部の仕組みを用いたインサイダー取引防止策に加え、会社内でも自主的な取組みが求められます。まずは重要事実に該当するかどうかの判断プロセスを明確化し、予算の着地見込みの修正等業績予想の修正に関する重要情報が公表に至るまでの社内承認プロセスを単純化することで情報を知り得る人間を限定し、権限のない者が重要情報の格納されているデータへアクセスすることができないようシステム上制限を施すといった、重要事実が漏れにくい仕組みを構築・運用するべきです。また、役員や重要事実を管理する担当者だけでなく「全従業員」を対象にインサイダー取引の防止に関する研修を実施し、社内の啓蒙活動に取り組む必要があります。

インサイダー取引が行われた場合には、金融商品取引法に基づき、取引を行った者に課徴金や刑事罰が課せられることになります。そして、その旨が金融庁や証券取引等監視委員会のサイトで公表され、マスメディアによって報道されることになります。その結果、会社の社会的信用が傷ついたり、株価が下落したりすることもあるでしょう。役員としては、役職員のインサイダー取引を誘発することのないよう、業績予想の修正情報を厳密に管理するよう心掛けてください。

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2014/09/24 チェックリスト:業績予想を修正したい(会員限定)

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■チェックリスト:業績予想を修正したい

チェック事項 備考 対応未了 対応済
年度予算の改訂の際、改訂後の予算(売上高、営業利益、経常利益、当期純利益)による業績予想を把握しているか?
年度予算の改訂の際、当初の業績予想と予算改訂後の業績予想とを比較し、変動金額および変動率を把握しているか?
会社の将来を予測する情報として、売上や利益といった「次期の業績予想」の形式ではなく、受注高、EBITDA、1株当たり利益など、売上高や利益に関連する「財務指標」により予想値を開示している場合、開示される将来予測情報の性質に応じて自主的な判断基準を定めているか。 将来予測情報について、期中において新たな予想値を算出した場合において、自主的な判断基準を超えるレベルの増減があれば、その修正についての適時開示が必要になる。
業績予想を公表しない場合であっても、その公表していない業績予想と前会計年度の実績値とを比較し、適時開示の要否を検討する体制になっているか。
「次期の業績予想」の形式によらずに将来予測情報の開示を行った場合、開示後に新たに算出された予想値や事業年度が終わって確定した実績値が、最後に公表された予測値と比較して乖離していれば、適時開示の要否を検討する体制になっているか。
業績予想の修正が生じた場合、その要因を分析して、対応策の要否を検討しているか。 要因としては外部要因(為替や法改正など)と内部要因(新商品開発の遅れや予算の精度など)が考えられる。
業績予想の修正が「重要事実=インサイダー情報」に該当するかどうか確認したか。 「重要事実」は、公表されればもはや「インサイダー情報」としての管理は不要となる。金商法上の「公表」とは以下のとおり。
・会社が自主的に2以上の報道機関(ただし、日刊新聞紙を販売している者やテレビ局等、一定の要件を満たす者に限定)に対して情報を公開した後、12時間が経過したとき
・TDnetを利用して適時開示を行ったとき
・「重要事実」が記載された法定書面(有価証券報告書、臨時報告書等)が公衆縦覧されたとき
重要事実について、「金商法上の公表」を行ったか。
自社株の取引を行った役員は、財務局への報告義務を果たしたか。
日本証券業協会が運営しているJ-IRISSに役員情報を登録しているか。
全従業員を対象にインサイダー取引の研修を実施し、社内啓蒙活動に取り組んでいるか。 役員や重要事実を管理する担当者だけでなく、全社員を対象にすること方が望ましい。

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