2014/03/13 (新用語・難解用語)PMI(会員限定)

 近年、上場会社が事業を拡大、維持していくうえでM&Aは重要な選択肢の1つとなっているが、とりわけ合併の成否の鍵を握るのが、PMI(Post Merger Integration=直訳すると「合併の後の統合」)だ。

 世間の話題を呼んだ合併案件も、企業文化の違いなどにより、組織が上手く融合していないとう話はしばしば聞かれる(特に歴史のある伝統企業同士の合併)。PMIとは、こうした事態を避けるため、経営統合を図るうえでボトルネックになりかねない要因を経営統合前から洗い出したうえで、統合作業をマネジメントすることを指す。その活動は、合併の合意時点から始まるのが一般的となっている。

 マネジメントの対象になるのは、企業文化はもちろん、機能や業務プロセスの統合、経営戦略の統合、人事システムや人材マネジメント手法の統合など多岐にわたるが、PMIの最大の目的は、できるだけ早期に統合のシナジー効果を発揮することにある。それだけに“時間との勝負”であり、年ごとにマイルストーンを設けた進捗管理が非常に重要となる。

 ターゲットの企業を法的に合併しただけでは、合併は成功したとは言えない。株主や従業員等のステークホルダーから「あの合併は失敗だった」との批判を受けないようにするためにも、役員はPMIの重要性を認識すべきだろう。

2014/03/13 (新用語・難解用語)PMI

 近年、上場会社が事業を拡大、維持していくうえでM&Aは重要な選択肢の1つとなっているが、とりわけ合併の成否の鍵を握るのが、PMI(Post Merger Integration=直訳すると「合併の後の統合」)だ。

 世間の話題を呼んだ合併案件も、企業文化の違いなどにより、組織が上手く融合していないとう話はしばしば聞かれる(特に歴史のある伝統企業同士の合併)。PMIとは、こうした事態を避けるため、経営統合を図るうえでボトルネックになりかねない要因を経営統合前から洗い出したうえで、統合作業をマネジメントすることを指す。その活動は、合併の合意時点から始まるのが一般的となっている。

 マネジメントの対象になるのは、・・・

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2014/03/12 【配当】会社の成長ステージに応じて株主還元策を見直したい(会員限定)

 

成長企業と成熟企業では異なる株主還元策

上場会社である以上、投資家からの「株価上昇期待」にさらされるのは“宿命”と言えます。特に成長企業ではそのプレッシャーが大きく、成長企業の株式を購入する投資家の多くは、配当などの「株主還元」よりも、株価の上昇を経営陣に求めています(なお、主な株主還元には、配当のほか自社株の取得もありますが、自社株の取得については後述します)。会社が成長期にある場合には、配当よりも事業への投資に資金を使って利益を増やした方が株価の上昇につながり、結果的に投資家はより多くのリターンを得ることができるからです。

一方で、会社が一定規模に成長し、業績拡大ペースが鈍化すると、株式市場がバブル経済期のような右肩上がりの状況にでもない限り、株価上昇だけで投資家の期待に報いることは難しくなります。こうした成熟企業が株主をつなぎとめ、株価を維持していくためには、配当を手厚くしていくことが必要になります。とはいえ、会社法上、配当は「剰余金(会社の純資産(資産-負債)-資本金および資本準備金(債権者保護の観点から会社内に保全されるもの)」の範囲でしか行うことができませんし、たとえ剰余金の範囲内であったとしても、会社の財務基盤を揺るがし、新規事業やM&Aなどへの投資資金を確保できなくなるような配当は、かえって株主からの批判を招くことにもなりかねません。

では、会社の成長ステージにマッチし、かつ会社の財務状況からも無理のない配当政策とは具体的にどのようなものでしょうか。次で解説します。

ROEと配当性向のバランスを図るDOE

配当の水準を示すもっとも一般的な指標に「配当性向」があります。配当性向とは、「当期純利益」に占める配当額の割合であり、次の算式により算出されます。

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配当性向=配当総額/当期純利益
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この算式からも明らかなように、配当性向は当期純利益に左右されるため、例えば当期純利益が前期の半分になった場合、配当額を前期の半分にしても、配当性向は変わりません。しかし株主としては、いくら配当性向が維持されているとは言っても、配当額が前期の半分になれば不満を抱くはずです。

また、経営陣が配当性向の維持にとらわれすぎれば、せっかくの収益拡大チャンスにも投資を行わず、その分を配当に回すといったことが正当化されてしまうことになります。株主としても、将来の収益拡大の芽を摘んでまで配当の支払いを受けることは望まないでしょう。

このように、配当性向のみに着目した配当政策には問題が少なくありません。

これに対し、会社の収益拡大と株主還元の両方を考慮に入れた指標が「DOE(Dividend On Equity ratio=株主資本(純資産)配当率」です。DOEは、株主資本(株主からの出資金に、これまでの事業活動によって稼ぎ出した利益を加えたもの。貸借対照表の「資本の部」の合計)に対して会社がどの程度の配当を行っているかを示す指標であり、下記の算式によって求められます。

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DOE(株主資本配当率)=配当総額/期末時点の資本の部の合計
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上記算式を「当期純利益」を使って分解すると、下記のとおり、会社がこの株主資本を使ってどれだけ利益を上げているかを示す「ROE(Return On Equity(株主資本利益率)=当期純利益/株主資本」に配当性向を乗じることによってもDOEが算出できることが分かります。

dividend1666_1

上述のとおり、配当性向の維持に固執すると、必要な投資を行わなくなるという問題が生じますが、このDOEを意識することにより、利益率の指標であるROEと株主還元の指標である配当性向のバランスを図ることができます。例えばステージが成長期にある会社では、利益率すなわちROEが高いことから、配当性向を低くしても、高いDOEを確保することができます。そこで、配当性向よりもROEの向上に資金を振り向けるべきと言えます。一方、ステージが成熟期に入った会社では、成長が鈍化しROEが低い水準にあるケースが多く、既存事業のテコ入れや新事業への進出に乗り出さない限り、ROEのアップは期待できません。そのようなステージの会社では、配当性向を高めることでDOEをアップさせ、株主の期待に応えることが可能になります。

このようにDOEは、成長期にある会社が配当性向よりもROEの向上のための投資に資金を使い、逆に、成熟期に入った会社は配当性向を高めるという企業行動を株主に説明する際の論理的な裏付けとして使うことができます。

日本企業の配当性向が未だ低水準とされる根拠

では、株主は会社に対し、どのくらいのDOEを求めているのでしょうか。

生命保険協会の調査(平成29年度 生命保険協会調査「株式価値向上に向けた取り組みについて」)によると、平成28年度における米国企業のROEは13.5%で配当性向は40%となっており、これらを掛け合わせたDOEは5.4%ということになります。これに対して、同時期の日本企業のROEは8.0%、配当性向は28%であり、DOEは2.24%に過ぎません(ROEは24ページの図表30、配当性向は33ページの図表51参照)。米国企業と比較するとROEすなわち成長性が劣っているのみならず、株主還元としての配当性向までも低いということになります。投資家(特に外国人投資家)としては、自らが提供した資本の活用度が相対的に低く、ROEが低迷している以上、DOEが米国企業並みの水準となるよう「配当性向」を高めて欲しいと望むのは当然であり、そう考えると、日本企業の配当性向は未だ彼らが満足できる水準にはないと言えるでしょう。ちなみに、日本企業が現状のROEを前提としてDOEを米国企業並みの水準まで引き上げるためには、配当性向を70%近く(67.5%)まで向上させる必要があります。

少し古いデータとなりますが、下記のグラフは、上記生命保険協会の調査報告書の平成24年度版に掲載されていたものです。これを見ると、以前から日本企業のDOEが2%近辺で推移していたのに対して、米国企業は常に4%以上、年度によっては6%をも超えていたことが明確に分かります。

<DOEの日米比較(生命保険協会 平成24年度版調査報告書より)>

dividend1666_2

機関投資家が議決権行使する際にも、(DOEへの直接的な言及こそ見られないものの)成長性と株主還元のバランスが重視されています。例えば三井住友信託銀行は「会社の成長過程に応じた適切な利益配分」を行使基準としていますし(同社の「責任ある機関投資家としての議決権行使(国内株式)の考え方」12ページ冒頭参照)、アセットマネジメントOneは「資本生産性(すなわちROE)の水準を勘案した上で、株主への還元が低水準にある企業(具体的には、3 期連続で総還元性向が 30%未満かつ ROE8%未満(赤字企業除く)に該当する企業(財務不安定な場合を除く))の場合、剰余金処分に対し原則として反対する」としています(同社の「国内株式の議決権行使に関するガイドラインおよび議案判断基準」9ページ参照)。

総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。総還元性向については下記「配当性向から「総還元性向」へ」も参照。

なお、議決権行使助言コンサルティング最大手のISSは、下記のとおり、配当性向が「15~100%」の場合、通常は剰余金処分議案に賛成を推奨するとしています。一方、十分な説明がなく配当性向が継続的に低い場合や、逆に配当性向が高すぎて(100%超)財務の健全性に悪影響を与え得る場合には、剰余金処分議案への反対を推奨する可能性を示唆しています。

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<ISSの議決権行使助言基準>
下記のいずれかに該当する場合を除き、原則として賛成を推奨する。
 ・ 十分な説明がなく、配当性向が継続的に低い場合
 ・ 配当性向があまりに高く、財務の健全性に悪影響を与えうる場合
(解説)
配当性向が15%から100%の場合、通常は賛成を推奨する。配当性向がその範囲にない場合、個別判断を行う。特に配当性向が100%を超える場合は財務の健全性への影響を考慮し、議案の内容を精査する。
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DOEを配当政策に取り入れている上場会社の事例

ここで、配当政策を決める際にDOEを活用している上場会社の事例を紹介しましょう(以下、各社の2016年度の有価証券報告書より抜粋)。

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<ダイキン工業の配当政策>
 具体的には、今後も、安定的かつ継続的に配当を実施していくことを基本に、連結純資産配当率(DOE)3.0%を維持するよう努めるとともに、連結配当性向についてもさらに高い水準を目指していくことで、株主への還元の一層の拡充に取り組んでいく。

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<アステラス製薬の配当政策>
 当社は持続的な企業価値の向上と、それを通じた株主還元の向上に積極的に取り組みます。成長を実現するための事業投資を優先しながら、配当については、連結ベースでの中長期的な利益成長に基づき、親会社所有者帰属持分配当率(DOE)等を勘案して、安定的かつ持続的な向上に努めるとともに、機動的な自己株式取得の実施により、資本効率と還元水準の更なる向上を図ります。

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<エーザイの配当政策>
当社は、剰余金の配当等に関しては会社法第459条第1項の規定に基づき取締役会決議とすることを定款に定めています。当社は、健全なバランスシートのもと、連結業績、DOE、およびフリー・キャッシュフローを総合的に勘案し、シグナリング効果も考慮して、株主の皆様へ継続的・安定的に株主還元を実施します。DOEは、連結純資産に対する配当の比率を示すことから、バランスシートマネジメント、ひいては資本政策を反映する指標の一つとして位置づけています。

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<アンリツの配当政策>
剰余金の配当については、連結当期利益の上昇に応じて、親会社所有者帰属持分配当率 (DOE:Dividend On Equity)を上げることを基本にしつつ、連結配当性向30%以上を目標としており、株主総会決議もしくは取締役会決議により、期末配当及び中間配当の年2回の配当を行う方針です。

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では、これら4社の配当性向、ROE、そして上述のとおり両者を乗じることにより求められるDOEの実績はどうなっているのでしょうか。下表は2016年度における各データをまとめたものです。各社でばらつきはあるものの、DOEは日本企業の平均である2%を上回っていることが分かります。ROEの低い会社の配当性向が高い(エーザイ、アンリツ)ことからすると、DOEが配当政策の規律付けに貢献していると言えそうです。

  配当性向 ROE DOE
ダイキン工業 24.70% 14.48% 3.57%
アステラス製薬 32.80% 17.28% 5.66%
エーザイ 109.00% 6.80% 7.41%
アンリツ 76.30% 3.55% 2.71%
配当は「獲得したキャッシュフローの使途」の1つ

一方、優良企業として知られるキーエンスの同時期の配当性向は7.5%と低水準でした。2017年6月総会における同社の剰余金処分議案への賛成率が64%にとどまったのは、同社の自己資本比率が95%と高水準に達している中で配当性向が低かったことが影響したためだと考えられます(ROEは14.3%、DOEは1.1%)。同社のDOEを米国企業並みにするには、配当性向を35%程度に高める必要があるという計算になります。これは1株当たり配当金にすると約350円、同社が実際に支払った75円の実に5倍近くに相当します。

このように、日本企業における配当実績および配当政策は、たとえ結果として剰余金処分案が可決されていたとしても、少なくともグローバル投資家にとっては物足りないものであることが少なくありません。前出の生命保険協会の調査でも、4割(37.9%)近い投資家が「中長期的に望ましい配当性向」として「30%以上40%未満」を挙げたのに対し(34ページの図表55参照)、日本企業(TOPIX構成企業(赤字企業を除く))の配当性向は「20%以上 30%未満」が最多の605社(同33ページの図表53参照)となっています。すなわち、投資家は依然として日本企業の配当水準には改善の余地があると考えており、配当による株主還元の充実を期待しているということです。

ただし、上述のとおり、上場会社は単純に配当性向を上げればよいというわけではなく、まずはROEを高めるための経営方針・事業戦略を投資家に訴える必要があります。そもそも配当を支払うこと自体が、株主から預かった資本を活用して獲得したキャッシュフローの使途の1つであり、「ROE向上に寄与する成長投資の機会が不十分なので、キャッシュを株主に返す」という意味を持つからです。上場会社には、常に「株主資本を有効活用する」という視点が求められるということです。

配当性向から「総還元性向」へ

株主還元と言えばまず配当が思い浮かぶところですが、「自社株買い」も株主還元の1つです。これは、会社法上、自社株買いに対しても、配当と同様の財源規制(剰余金の範囲でしか行うことができない)がかけられていることからも分かります(株主還元としての自社株買いの詳細は、「株価が安すぎるのでは?」の「(3)株主への利益還元」を参照してください)。

そして近年は、下記の算式のとおり、配当と自社株買いを合わせた金額を当期純利益で割った「総還元性向(総配分性向、株主還元性向とも呼ばれます)」を株主還元の指標として掲げる上場会社が増えています。

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総還元性向=(配当金+自社株買いの金額)/当期純利益
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もっとも、前出の生命保険協会の調査で、投資家に対し「株主還元・配当水準に対する満足度」についてアンケートをとったところ、「満足できる企業はあまり多くない(2~4割程度)」との回答が60.3%にも及ぶなど(34ページ図表54参照)、日本企業の総還元性向に対する投資家の満足度は決して高くありません。

特に、事業展開する市場が飽和状態で魅力的な新規投資先が少なく、多額の剰余金を持て余している成熟企業では、(余剰資金を狙った)敵対的買収のターゲットになることを避けるため、総還元性向を高めることが重要な経営課題になっています。株主への還元を強めることで株価が上昇すれば、買収のハードルも上がるからです。かつてフジテレビがライブドアに買収されそうになった際に、年間の配当額を1株当たり1,200円から5,000円に増やしたのが好例です。

また、自社株買いは取締役会決議で機動的に実施できることや、「自社の株価が割安である」という経営者からのメッセージになるという点などから、機関投資家にも好感される傾向があります。

その一方で、投資家から見ると自社株買いに係る投資収益はキャピタル・ゲインによって実現するため、インカム・ゲインを期待する個人投資家にとっては配当の方が望ましい面もありますので、配当と自社株取得のどちらを手厚くするかの判断は、現在および将来的に目指す株主構成も考慮して行うべきでしょう。

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2014/03/12 チェックリスト:会社の成長ステージに応じて株主還元策を見直したい(会員限定)

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■チェックリスト:会社の成長ステージに応じて株主還元策を見直したい

チェック事項 備考 対応未了 対応済
株主還元の指標として、DOEの採用を検討したか。 ROEが高い会社では、配当性向を低くしても、高いDOEを確保することができる。そこで、配当性向よりもROEの向上に資金を振り向けるべきと言える。一方、ROEが低い会社では、配当性向を高めることでDOEをアップさせ、株主の期待に応えることが可能になる。
配当性向が15%から100%に収まっているかどうかを確認しているか。 ISSの議決権行使助言基準では、「配当性向が15%から100%の場合、通常は賛成を推奨する。配当性向がその範囲にない場合、個別判断を行う。特に配当性向が100%を超える場合は財務の健全性への影響を考慮し、議案の内容を精査する。」とされている。
株主還元の指標として、総還元性向の採用を検討したか。 自社株取得買いは、「自社の株価が割安である」という経営者からのメッセージになることなどから機関投資家にも好感される傾向があるが、インカム・ゲインを期待する個人投資家にとっては配当の方が望ましい面もあるため、配当と自社株取得のどちらを手厚くするかは、株主構成も考慮して判断する必要がある。ちなみに、3 期連続で総還元性向が30%未満(かつROE8%未満)の場合、剰余金処分に対し原則として反対するとしている機関投資家もある。

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2014/03/12 規制緩和で、グループ企業間の貸付けがやり易く

 貸金業法の規制緩和により、グループ企業間での貸付けがやり易くなりそうだ。これは、今年1月27日からパブリックコメントに付されていた(~2月26日まで)貸金業法施行令の一部を改正する政令が来週3月18日(火)に閣議決定され、4月1日から施行されることが確実となったため。

 貸金業法上、企業への貸付けであっても、反復継続して行われる場合には「業」としての貸付けに該当し、貸付けを行う者は貸金業法上の「貸金業者」としての登録が必要になる。過剰融資、過酷な取立て等の問題が生じる可能性があるからだ。

 もっとも、親子会社間の貸付けではそのようなことは考えにくく、むしろ同一法人内の資金移動とも同視できる。そこで金融庁も、「総議決権の過半数」を有する会社に貸付けを行う場合には貸金業者の登録が不要であることを、ノーアクションレター(法令適用事前確認手続)で明らかにしている。

 これに対し、「実質子会社」(議決権の40%以上を保有するとともに、財務及び事業の方針を決定していることが推測される事実が存在するなど、実質的に支配している会社)への貸付けでは貸金業者の登録が必要というのが、金融庁のこれまでのスタンスだった。

 ただ、以前から、実質親子会社間の経済的一体性や、上述した不当貸付の防止という貸金業法の趣旨を踏まえると、「実質子会社への貸付けでも登録は不要とすべき」との意見があり、昨年12月13日にとりまとめられた財務省・金融庁共催の「金融・資本市場活性化有識者会合」の報告書にも、企業グループ全体の最適な資金管理システム構築のため、「貸金業の登録を不要とする範囲を実質子会社まで広げるよう現在の規制を改めるべき」との意見が盛り込まれた。また、好転し始めた景気を金融面から後押ししたい政府もこの規制緩和を推進する意向であったことが、今回の貸金業法施行令の改正につながった。

 現在、多くの上場企業がグループ企業間の低コスト・安定的な資金調達を図るためにCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)を構築しているが、貸金業の登録が必要な実質子会社はCMSの対象外としてきた。しかし、貸金業法の改正により実質子会社への貸付が可能となれば、例えば自社が役員の過半数を送り込み実質的に支配していると言えるような50:50の合弁会社も「実質子会社」としてCMSに取り込み、貸付対象となり得る。役員としては、改正を見据え、実質子会社のCMSへの取込みの準備をしておきたい。

 また、資金融通を通じたグループ各社の情報収集、課題把握の機能も有しているCMS構築のそもそもの目的は、グループ内の経営資源の効率的な配分を通じて、グループ全体の経営力を底上げすることにある。今回の貸金業法の改正は、単なるCMSの変更にとどまらない、グループ全体の経営を議論するよい機会ととらえるべきだろう。

2014/03/12 【配当】会社の成長ステージに応じて株主還元策を見直したい

 

成長企業と成熟企業では異なる株主還元策

上場会社である以上、投資家からの「株価上昇期待」にさらされるのは“宿命”と言えます。特に成長企業ではそのプレッシャーが大きく、成長企業の株式を購入する投資家の多くは、配当などの「株主還元」よりも、株価の上昇を経営陣に求めています(なお、主な株主還元には、配当のほか自社株の取得もありますが、自社株の取得については後述します)。会社が成長期にある場合には、配当よりも事業への投資に資金を使って利益を増やした方が株価の上昇につながり、結果的に投資家はより多くのリターンを得ることができるからです。

一方で、会社が一定規模に成長し、業績拡大ペースが鈍化すると、株式市場がバブル経済期のような右肩上がりの状況にでもない限り、株価上昇だけで投資家の期待に報いることは難しくなります。こうした成熟企業が株主をつなぎとめ、株価を維持していくためには、配当を手厚くしていくことが必要になります。とはいえ、会社法上、配当は「剰余金(会社の純資産(資産-負債)-資本金および資本準備金(債権者保護の観点から会社内に保全されるもの)」の範囲でしか行うことができませんし、たとえ剰余金の範囲内であったとしても、会社の財務基盤を揺るがし、新規事業やM&Aなどへの投資資金を確保できなくなるような配当は、かえって株主からの批判を招くことにもなりかねません。

では、会社の成長ステージにマッチし、かつ会社の財務状況からも無理のない配当政策とは具体的にどのようなものでしょうか。次で解説します。

ROEと配当性向のバランスを図るDOE

配当の水準を示すもっとも一般的な指標に「配当性向」があります。配当性向とは、「当期純利益」に占める配当額の割合であり、次の算式により算出されます。

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配当性向=配当総額/当期純利益
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この算式からも明らかなように、配当性向は当期純利益に左右されるため、例えば当期純利益が前期の半分になった場合、配当額を前期の半分にしても、配当性向は変わりません。しかし株主としては、いくら配当性向が維持されているとは言っても、配当額が前期の半分になれば不満を抱くはずです。

また、経営陣が配当性向の維持にとらわれすぎれば、せっかくの収益拡大チャンスにも投資を行わず、その分を配当に回すといったことが正当化されてしまうことになります。株主としても、将来の収益拡大の芽を摘んでまで配当の支払いを受けることは望まないでしょう。

このように、配当性向のみに着目した配当政策には問題が少なくありません。

これに対し、会社の収益拡大と株主還元の両方を考慮に入れた指標が「DOE(Dividend On Equity ratio=株主資本(純資産)配当率」です。DOEは、株主資本(株主からの出資金に、これまでの事業活動によって稼ぎ出した利益を加えたもの。貸借対照表の「資本の部」の合計)に対して会社がどの程度の配当を行っているかを示す指標であり、下記の算式によって求められます。

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DOE(株主資本配当率)=配当総額/期末時点の資本の部の合計
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上記算式を「当期純利益」を使って分解すると、下記のとおり、会社がこの株主資本を使ってどれだけ利益を上げているかを示す「ROE(Return On Equity(株主資本利益率)=当期純利益/株主資本」に配当性向を乗じることによってもDOEが算出できることが分かります。

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上述のとおり、配当性向の維持に固執すると、必要な投資を行わなくなるという問題が生じますが、このDOEを意識することにより、利益率の指標であるROEと株主還元の指標である配当性向のバランスを図ることができます。例えばステージが成長期にある会社では、利益率すなわちROEが高いことから、配当性向を低くしても、高いDOEを確保することができます。そこで、配当性向よりもROEの向上に資金を振り向けるべきと言えます。一方、ステージが成熟期に入った会社では、成長が鈍化しROEが低い水準にあるケースが多く、既存事業のテコ入れや新事業への進出に乗り出さない限り、ROEのアップは期待できません。そのようなステージの会社では、配当性向を高めることでDOEをアップさせ、株主の期待に応えることが可能になります。

このようにDOEは、成長期にある会社が配当性向よりもROEの向上のための投資に資金を使い、逆に、成熟期に入った会社は配当性向を高めるという企業行動を株主に説明する際の論理的な裏付けとして使うことができます。

日本企業の配当性向が未だ低水準とされる根拠

では、株主は会社に対し、どのくらいのDOEを求めているのでしょうか。

生命保険協会の調査(平成29年度 生命保険協会調査「株式価値向上に向けた取り組みについて」)によると、平成28年度における米国企業のROEは13.5%で配当性向は40%となっており、これらを掛け合わせたDOEは5.4%ということになります。これに対して、同時期の日本企業のROEは8.0%、配当性向は28%であり、DOEは2.24%に過ぎません(ROEは24ページの図表30、配当性向は33ページの図表51参照)。米国企業と比較するとROEすなわち成長性が劣っているのみならず、株主還元としての配当性向までも低いということになります。投資家(特に外国人投資家)としては、自らが提供した資本の活用度が相対的に低く、ROEが低迷している以上、DOEが米国企業並みの水準となるよう「配当性向」を高めて欲しいと望むのは当然であり、そう考えると、日本企業の配当性向は未だ彼らが満足できる水準にはないと言えるでしょう。ちなみに、日本企業が現状のROEを前提としてDOEを米国企業並みの水準まで引き上げるためには、配当性向を70%近く(67.5%)まで向上させる必要があります。

少し古いデータとなりますが、下記のグラフは、上記生命保険協会の調査報告書の平成24年度版に掲載されていたものです。これを見ると、以前から日本企業のDOEが2%近辺で推移していたのに対して、米国企業は常に4%以上、年度によっては6%をも超えていたことが明確に分かります。

<DOEの日米比較(生命保険協会 平成24年度版調査報告書より)>

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機関投資家が議決権行使する際にも、(DOEへの直接的な言及こそ見られないものの)成長性と株主還元のバランスが重視されています。例えば三井住友信託銀行は「会社の成長過程に応じた適切な利益配分」を行使基準としていますし(同社の「責任ある機関投資家としての議決権行使(国内株式)の考え方」12ページ冒頭参照)、アセットマネジメントOneは「資本生産性(すなわちROE)の水準を勘案した上で、株主への還元が低水準にある企業(具体的には、3 期連続で総還元性向が 30%未満かつ ROE8%未満(赤字企業除く)に該当する企業(財務不安定な場合を除く))の場合、剰余金処分に対し原則として反対する」としています(同社の「国内株式の議決権行使に関するガイドラインおよび議案判断基準」9ページ参照)。

総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。総還元性向については下記「配当性向から「総還元性向」へ」も参照。

なお、議決権行使助言コンサルティング最大手のISSは、下記のとおり、配当性向が「15~100%」の場合、通常は剰余金処分議案に賛成を推奨するとしています。一方、十分な説明がなく配当性向が継続的に低い場合や、逆に配当性向が高すぎて(100%超)財務の健全性に悪影響を与え得る場合には、剰余金処分議案への反対を推奨する可能性を示唆しています。

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<ISSの議決権行使助言基準>
下記のいずれかに該当する場合を除き、原則として賛成を推奨する。
 ・ 十分な説明がなく、配当性向が継続的に低い場合
 ・ 配当性向があまりに高く、財務の健全性に悪影響を与えうる場合
(解説)
配当性向が15%から100%の場合、通常は賛成を推奨する。配当性向がその範囲にない場合、個別判断を行う。特に配当性向が100%を超える場合は財務の健全性への影響を考慮し、議案の内容を精査する。
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DOEを配当政策に取り入れている上場会社の事例

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2014/03/11 民法改正を見越した「想定外の事態」に対する契約上の対応

 2011年3月11日の東日本大震災から今日で3年が経過した。大震災の後、多くの企業はBCP(事業継続計画)を定め、大震災のような予期し得ない事態への準備を進めてきたが、BCPとともに企業が対応を迫られる可能性のあるのが、民法の改正により新設が見込まれる「事情変更の法理」だ。

 「事情変更の法理」とは、契約締結の際に前提とした事情に著しく大きな変化があった場合に、契約の改訂や解除を認めるというもの。大震災だけでなく、急激な物価変動等も対象として想定される。今回の民法改正では、こうした事情の変化があった場合に、「契約の解除」を認める方向で議論が進められている。

 事情変更の法理が存在すること自体は学界・実務界を問わず広く認められてきたが、最高裁判所で実際にこの法理が適用されて紛争の解決がなされた事例はない。本来、契約は守られるべきものであり、この法理は「想定し難い極めて例外的な場合」にのみ適用されると考えられているからである。このため、先の大震災に起因して契約解除を認める際には、被災者生活再建支援法といった震災立法や個別の交渉により対処がなされたようだ。

 しかし、実際に適用される場合は限られるとしても、事情変更の法理が民法に明文化されることの意味は大きい。明文化により、BtoB、BtoCいずれの取引であるかを問わず、契約を解除したい側はたとえ些細な変化であっても「“著しい変更”があった」と主張することができるようになる。この結果、想定外の事態が生じた場合には安易にこの法理が持ちだされる可能性が高い。そうなれば、契約自体が不安定なものとなり、企業活動への影響は決して小さくないだろう。

 今回の民法改正は110年ぶりの大改正であることから、時間をかけて議論が行われており、実際に「事情変更の法理」が民法に規定されるのはしばらく先になりそうだが、企業としては、改正を見越して、少なくとも今後締結する契約からは、安易な主張を回避するための手当てをしておきたいところだ。具体的には、予期し得ない事態が生じた場合への対処法を契約書に定めておくことが考えられる。例えば、「契約締結時に予見を締結していなかった事態が生じた場合には、双方で交渉するものとする」といった文言を契約書に設けることにより、不要な紛争を回避することが可能となる。既に締結している契約についても、必要に応じて契約条項の見直しを検討すべきだろう。

 政府の中央防災会議によると、首都圏でM7級の直下型地震が起こった場合の経済的被害は95兆円に達するという。発生確率は今後30年で70%とも言われており、いつその時が来てもおかしくない。役員としては、いざという時に備え、担当部門に「事情変更の法理」を念頭に置いた契約書の作成を呼び掛けておきたい。

2014/03/10 短期消滅時効廃止で、債権管理システムの変更が必要に

 民法「債権法」の大規模な改正作業が進められている。改正項目の多くは蓄積した判例や学説を明文化するものであるが、企業に影響を与える項目も少なくない。その一つが「短期消滅時効」制度の廃止だ。

 現行民法では、債権一般の消滅時効の期間を「10年間」と規定する一方、これとは別に、例えば医師の診療に関する債権は3年、弁護士の職務に関する債権は2年、飲食店の代金債権は1年といった“短期”の消滅時効を定めている。しかし、債権によって消滅時効の期間を分けることに合理性はなく、分かりにくいとの批判がある。そこで、これらの区分を廃止し、一般の消滅時効に統合する方向で、民法の見直しが検討されてきた。

 また、一般の消滅時効についても10年間は長すぎるとの指摘から、5年に短縮される方向。つまり、民法上の消滅時効の期間を一律に5年にするということである。

 この改正は日々反復継続して大量の取引を行う企業への影響が大きい。例えば小売店は、民法上「生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権は2年間行使しないときは消滅する(民法第173条2号)」と規定されていることを前提に、商品の仕入先に対する買掛金の支払いにおいては「2年間」取引の記録を保存している。また、鉄道事業者は、「運送賃に係る債権は1年間行使しないときは消滅する(民法第174条3号)」ことを前提に、1年間の記録を保存するシステムを設けている。

 改正法が施行された場合には、システムを変更するコストと手間が生じるとともに、消滅時効の期間が長くなることで、事務負担の増加を招くことは間違いない。消滅時効の改正は影響が大きいため、実際の施行はしばらく先となりそうだが、大量の債権・債務を扱う企業は、短期消滅時効の廃止を織り込んだ債権管理システムへの変更を視野に入れておくべきだろう。

 なお、短期消滅時効は民法以外の法律で独自に定められているケースもあるが(例えば、保険料請求の消滅時効は、保険法95条2項により1年間とされている)、各法律ごとに民法と異なる期間が定められた理由が存在するため、民法改正はこうした特別法には影響しない可能性が高い。

2014/03/10 チェックリスト:交際費の不正支出や使い過ぎを防止したい(会員限定)

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■チェックリスト:交際費の不正支出や使い過ぎを防止したい

チェック事項 備考 対応未了 対応済
交際費に関し、税務上の取り扱いを踏まえた管理規程が存在するか。 整備状況の確認
交際費に関する管理規程が実際に運用されているか。 運用状況の確認
交際費に関する内部統制について、社内の第三者のチェック機能が働いているか。 第三者によるチェック機能
取締役の交際費支出に関して、社内の第三者のチェック機能が働いているか。
業務と関連しない交際費は承認しない仕組みが整備・運用されているか。 質的チェック
交際費の管理規程に定められた金額以内の使用となっているか。 量的チェック
交際費について、部門ごとの月次の予算実績比較が行われているか。 予算統制
経理担当役員としては、交際費と類似費用との線引きが経理部内で判断しきれないものがあれば、顧問税理士と相談し、月次決算の段階で解決しておく体制を整備・運用しているか。 会計・税務処理

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2014/03/10 【不祥事】交際費の不正支出や使い過ぎを防止したい(会員限定)

多額の交際費の支出には疑いの目を

社長をはじめ、営業担当の取締役や社員が交際費を使って取引先と会食などをするケースはよく見受けられます。こうした活動は、会社の営業上必要であることも多い一方、業務との関連性、公私の区分が曖昧なケースもあります。もし常識の範囲を超えて多額の交際費を使っている者がいる場合、業務とは関係のない支出が行われている可能性を疑うべきでしょう。

業務とは関係のない支出が事実なら、不正な支出を通じて会社に損害を与えていることになり、不正な交際費を支出した当事者はもちろん、場合によっては、取締役や監査役も監督責任を問われる可能性があります。また、そのような不祥事が起きてしまったということは、会社の内部統制システムに問題がある可能性もあります。

以下で具体的に見ていきましょう。

個人の倫理観やコンプライアンス意識だけでは交際費の不正・過剰支出は防げない

交際費の不正支出の大きな原因の一つとしてまず考えられるのは、個人的な倫理観やコンプライアンス意識の欠如です。そもそも会社の業務のために使用したことが明らかでない支出は、会社の経費として認めるべきではありません。すなわち、交際費の精算は行わずに、自己負担(自腹)の支出として取り扱うべきです(自己負担にしなかった場合には税務上の問題が生じる可能性があります。この点については後述します)。

とはいえ、特に代表者や役員が支出する交際費には、例えば公私ともに付き合いのある知人と飲食した際の代金など、会社の業務のための使用なのか、あるいは私的な付き合いのための使用なのか、公私の区別が難しいものが少なくありません。また、業務との関連性を判断する場合には、単に金額の多寡だけでなく、その「内容」も問題になります。

倫理観やコンプライアンス意識の徹底はもちろん重要なことですが、そもそも公私の区分や業務との関連性の判断を個人の倫理観やコンプライアンス意識に委ねた状態では、交際費の不正支出や過剰な支出を防止することは困難といえます。

交際費への“課金制”を導入する会社も

では、交際費に関する内部統制の仕組みとして、具体的にどのようなものを構築すればよいのでしょうか。

まず必要なのが、規程の整備です。社内に交際費管理規程がなければ、早急に整備する必要があります。具体的には、市販の規程事例集などから雛型を入手のうえ、「交際費の認可基準(業務関連性の高い事案に限るなど)」「使用が認められる場合における金額の上限」「部門別の交際費の予算統制の実施(部門内における決裁で使用が認められる予算と、これまでの使用実績。詳細は後述)」などを織り込んでいきます。

上述のとおり、交際費は業務との関連性や公私の区分の判断が難しいため、「会社の業務のために使用したことが明らかでない金額については、経費として認めない」といった厳格な管理制度の整備と運用が必要になります。

これを実現するためには、交際費を支出する際、直属の上司以外に、経理部や内部監査室のような社内の第三者的な部署が内容をチェックするという内部統制の実施が極めて有効です。ただ、従業員にはこのような厳しい内部統制を課す一方で、社長を含む取締役は、自分が立て替えた交際費を誰の承認も経ずに精算できるということでは、取締役自身の不正を防ぐことはできません。そこで、交際費管理規程に、「取締役であっても、一定の金額以上の交際費を使うときは、原則としてあらかじめ経理部門の承認を受ける」といったルールを設けたり、使用できる総額の上限を定めたりするなどして、これを厳格に運用していくことが必要です。

また、上記でも触れたように、予算統制(予算と実績を比較し、その結果を経営活動に活かすこと)として、「部門ごと」に月次決算毎の交際費の予算と実績の比較(予実比較)と改善点の調査を行うことも、交際費管理の観点から重要です。なぜなら、予実比較の結果、予算をオーバーした交際費が社内において白日の下にさらされるため、予算オーバーを回避するために不要不急の交際費支出を意識的に避けるといった行動が期待できるからです。もっとも、予算の設定が甘かったり、「部門ごと」の予算統制を行っていなかったりすると、予算統制の牽制効果も薄れてしまいかねない点に留意が必要です。また、予実比較を行うだけでは不十分です。差異を調査し、冗費の削減のための改善個所の調査を継続的に行うことも必要となります。

さらに、独立事業部制を採用している会社では、使用交際費の金額の多寡に応じ、会社が各事業部に対して“課金”を行うことにより、使用額を抑えるような牽制をしている会社も見受けられます。

交際費は新たなビジネスチャンスの獲得や既存顧客との関係維持などに様々な効果が期待できる一方で、その結果がどのように売上や利益に貢献するのかを検証することが難しく、また、会社に税負担が発生してしまう(後述)という問題もあります。したがって、交際費に関しては、上述のような厳格な管理体制を整備したうえで、定期的に運用状況をチェックすることが、コーポレート・ガバナンスの観点から重要だと言えます。

交際費には税務の問題が付いて回る

会社が交際費の支出に神経質にならざるを得ない理由の一つが税務の問題です。法人税法上、資本金が1億円を超える会社は飲食費以外の交際費を一切損金算入することができません。一方、飲食費については50%まで損金算入が認められているものの、残り50%は損金算入できません(飲食費以外は全額損金不算入)。損金算入できないということは、損金算入できる場合に比べて、その分だけ課税所得が増えてしまう(その結果、法人税、法人住民税、法人事業税が増えてしまう)ということを意味します。

ちなみに、資本金が1億円以下の会社については「年間800万円まで」の交際費の全額を損金算入、あるいは「飲食費の50%までは損金算入、飲食費以外は全額損金不算入」のいずれかを選択できますが、「資本金5億円以上の会社の100%子会社」はたとえ資本金が1億円以下であっても、資本金が1億円を超える会社と同様に取り扱われ、飲食費以外の交際費の損金算入は一切認められませんので、要注意です。なお、1人あたり「5,000円以内」の飲食費については、資本金の大小に関係なく、すべての会社が全額損金算入することができます(ただし社内飲食費、すなわちすなわち役員や従業員同士の飲食費は除きます)。

このように交際費の支出には「税金」という上乗せの負担が会社に発生するため、冒頭でも述べたとおり、そもそも会社の業務のために使用したことが明らかでないものは交際費(=会社の経費)として認めず、役員や従業員に自己負担してもらうべきです。仮に役員や従業員の自己負担とせずに会社が負担(肩代わり)した場合、税務上は、従業員が使用したものであれば給与、役員が使用したものであれば役員報酬あるいは役員賞与として取り扱われることになります。従業員への給与となる場合、当該金額は全額損金算入することができますが(つまり、交際費として処理するより給与として処理した方が、会社の税負担は少なくなります)、役員への報酬や賞与となる場合には、それらが「定期同額給与(役員給与の支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの)」などに該当しない限り、損金算入できません。通常、交際費は偶発的(=定期同額給与などには該当し得ない)な支出なので、損金算入はできないと考えておいてください。そこで、一般的には、「交際費として使用された額」に「源泉徴収相当分」を加算した額を、「役員賞与」として計上することになります。仮に「交際費」として計上した場合でも、その実質は「役員賞与」ですので、源泉徴収が必要になる点に留意が必要です。例えば交際費として使用された額が80で、役員の源泉税率が20%だった場合には、交際費を100計上するとともに、20を源泉徴収して納税することになります。そのうえで、当該役員の年末調整時(または確定申告時)に役員個人の所得に交際費相当額(この例だと100)を加算する必要があります。

また、交際費の中には「渡切(わたしきり)交際費」と呼ばれるものがありますが、これも税務上は交際費にならず、給与となります。渡切交際費とは、金銭を社員や役員に支給して交際費として使わせ、その名のとおり精算をしない(渡切り)というものです。通常、会社が社員や役員に接待費等の名目で金銭を支給した場合、領収書と引換えに精算が行われ、それが会社の業務に必要なものであれば「交際費」として処理されますが、渡切交際費は精算されないため、支給を受けた者の裁量で自由に使えることになります。このような渡切交際費は「給与」の性質を有していると考えられますので、税務上も交際費ではなく給与として取り扱われるわけです。したがって、上記と同様に、渡切交際費を社員に支給した場合には「給与」として損金に、役員に支給した場合は「定期同額給与」などに該当する場合に限り損金になります。例えば役員に毎月、同じ額の渡切交際費が支給されている場合には、「定期同額給与」として損金算入することが可能です。逆に、忘年会や新年会シーズンに限定して支給しているような場合は臨時的な給与となりますので、その内容を事前に税務署長に届出(=事前確定届出給与)していない限り、損金算入は認められません。

「使途秘匿金」には支出額と同額の重い税金

もっとも、渡切交際費を巡る税務上の問題は、「給与になるかどうか」という点にとどまりません。上述のとおり、渡切交際費は精算が行われず、支給を受けた者が自由に使うことができますので、何に使われたのか明らかでないケースもあるでしょう。

支出額や支払先は分かっているものの、支出目的が不明な「使途不明金」として支出すれば、税務上は損金不算入となり税負担が発生します。代表的な使途不明金が、領収書がもらえないリベートや謝礼などです。一方、支出目的だけでなく支出した相手の名称や所在地を記録に残さない「使途秘匿金」として支出した場合は、支払った方、もらった方の双方が贈収賄罪に問われる可能性があり、仮に支払先が得意先であれば、詳細を明かせないというのも当然かも知れません。

税務上は、支出目的は明らかにできないまでも、支出額や支出先など「金銭の支出」の事実が立証できる「使途不明金」であれば、単にその全額が「損金不算入」となるだけで済みます(単に損金不算入になるという点では、交際費と同じ扱いです)。一方、支出先も含む支出の事実がすべて立証できない「使途秘匿金」は、その全額が損金不算入となるだけでなく、通常の法人税に加え、支出額の40%の追加課税が行われ、地方税の負担を合わせると、支出額とほぼ同額の税金が課されることになるので要注意です(支出額が課税対象になるため、赤字法人でも納税する必要があります)。

そして、このような使途不明金あるいは使途秘匿金の温床となっているのが渡切交際費です。上場会社としては、税務上のリスク、コンプライアンスリスク(贈収賄罪等に当たるリスク)を考えれば、渡切交際費の支給は可能な限り避けるべきでしょう。

交際費か類似費用かの判断ミスが、会社のレピュテーションリスクに

一口に「交際費」と言っても、実際には類似費用との区別が難しいケースが少なくありません。

交際費に類似する費用としては、会議費、寄付金、広告宣伝費、福利厚生費があります。例えば会議でも飲食物が提供されることがありますが、業務に関連する会議や打ち合わせであれば、交際費とせず「会議費」として全額損金算入することができます。同様に、従業員と役員の福利厚生のために支出される飲食や慰安の費用は交際費ではなく「福利厚生費」であり、やはり全額損金算入が可能です。また、交際費とは得意先や仕入れ先など事業に関連した相手に対して何らかの“見返り”を期待して支出するものですので、事業との関連性がない、あるいは関連が希薄な相手に対して見返りを求めずに支出する金銭、すなわち「寄付金」は交際費には該当しませんし(ただし、寄付金も「(資本金×2.5/1000+所得金額×2.5/100)×1/2」までしか損金算入できません)、交際費は特定の人を対象に支出するものですので、不特定多数の人を対象にした抽選によりスポーツ観戦のチケットや見本品、試用品を提供したとしても交際費には該当しません(この場合、「広告宣伝費」として全額が損金算入されます)。

一方、本来は交際費に該当するものを、例えば「会議費」として損金算入していた場合には、税務調査で指摘を受け、その結果、「所得隠し」などとメディアで報道されてしまうリスクもあります。実際には単なる税務当局との見解の相違であったとしても、そのような報道がされるだけで、会社のレピュテーション(企業に対して世間が抱く印象や評判)に傷がつくことになりかねません。

したがって、経理担当役員としては、「交際費」か「類似費用」か、を経理部内で判断しきれない場合には、顧問税理士と相談し、「月次決算」の段階でこれを解決する体制を整備・運用していく必要があります。これらの費用は部門によっては年間でかなりの件数・金額になりますので、後で見直すとなると膨大な手間がかかり、通常の決算作業に支障を来しかねないうえ、見落としが生じる可能性があります。問題の芽は早めに摘んでおくのが得策です。

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