2024年4月15日のニュース「12月決算会社の3月総会・議決権行使結果(1) 役員選任議案編」、同16日の「(2) 低賛成率議案編」に続き、本稿では、12月決算のプライム市場上場会社の2024年3月株主総会に上程された議案のうち、賛成率が20%以上だった株主提案議案にフォーカスする。賛成率が20%以上だった株主提案議案は下表のとおり。
| 社名 |
議案の内容 |
内容 |
賛成率 |
| 江崎グリコ |
定款一部変更 |
剰余金の配当等の決定機関の変更 |
42.9% |
| 富士ソフト |
監査役1名選任 |
スティーブン・ギブンズ |
40.3% |
| 富士ソフト |
自己株式取得の件 |
総額750億円 |
39.6% |
| 江崎グリコ |
定款一部変更 |
資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応に関する開示 |
30.1% |
| デジタルホールディングス |
定款一部変更 |
取締役報酬の個別開示 |
27.7% |
| 鳥居薬品 |
定款一部変更 |
代表権を有する取締役の個別報酬の開示 |
22.2% |
江崎グリコには、アクティビストで持株比率1%程度と推定されるダルトン・インベストメンツ(以下、ダルトン)が4議案の株主提案を実施、上表のとおり、そのうち2議案がそれぞれ42.9%、30.1%と高い賛成率を獲得した。剰余金配当等に関する定款変更では、決定機関を取締役会から株主総会に変更することを求めた。この株主提案は株主の権利を確保するものとして、外国人投資家はじめ機関投資家に高い支持を受ける結果となった。なお、同社株主のうち外国法人は22.1%、金融機関は31.5%と占めている。
もう1つの定款変更は「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を求める東証要請を受けたもので、東証要請への取り組みを検討して「現状評価、方針・目標、取組み・実施時期」をコーポレートガバナンス報告書などに開示することを求めた。ダルトンは「ROE は過去 5 年間平均で 5%台であり、株主が期待する資本コストをカバーできているとはいいがたい」「過去 5 年間の株主総利回り(TSR)をみても TOPIX や同業他社に大きく劣後している」ことを批判、江崎グリコ側は「会社を運営する上での根本規範を定める定款に、本議案のような規定を定めることは適切ではない」など反論したものの、少なからぬ機関投資家にとっては説得力を欠いた模様。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)
資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。
富士ソフトにはアクティビストである3Dインベストメント・パートナーズ(以下、3D)によって2議案の株主提案が実施され、いずれも約40%の賛成率となった。3Dの持株比率は21.5%、別のアクティビストであるファラロン・キャピタル・マネジメントも8.7%となっており、この両者だけでも約30%の賛成票が投じられた可能性がある。さらに同社株主のうち外国法人は44.0%、金融機関は15.9%で、アクティビスト2者を除いた機関投資家と推定される約30%のうち、3分の1程度は株主提案に賛同した形となっている。
監査役選任議案はM&A専門家である弁護士のギブンズ氏を候補者とするもので、富士ソフトがプライベートエクイティファンド3社より受けている買収提案について、経済産業省「企業買収行動指針」における「真摯な買収提案」(「3.1.2 取締役会における検討」参照)に当たるものと評価、取締役会が真摯に検討するため同氏のスキルや経験が必要とした。
また、自己株式取得は最大750億円の実施を求めるもので、不動産を時価評価した場合の同社のROEは「約6%となり、直近の業界平均の約16%を大きく下回る」こと、「ROEを業界の平均水準まで引き上げるためには、1,650億円の余剰資産を償還する必要」があることを主張した。
デジタルホールディングスと鳥居薬品に対しては、いずれもアクティビストのリム・アドバイザーズ(以下、リム)によって、役員報酬の個別開示に関する定款変更議案が上程された。リムのデジタルホールディングスに対する持株比率は3.4%、鳥居薬品については1%未満と推測され、相当程度の機関投資家が賛成に回ったことが窺われる(デジタルホールディングスは外国法人12.8%、金融機関11.1%、鳥居薬品は同17.6%と11.2%)。なお、鳥居薬品については、別のアクティビストであるエフィッシモ・キャピタル・マネジメントも5.8%を保有している。
リムの株主提案において注目すべきは、デジタルホールディングスに対して「当社の取締役会がPBR1倍割れとEVのマイナスを長らく放置してきた」、鳥居薬品には「『天下り』によりキャピタル・アロケーションを無視し、PBRの1倍割れを放置してきた」と、東証要請「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を意識した主張をしている点にある。上記のとおり、ダルトンも東証要請を踏まえた提案を実施、また3Dは富士ソフトに対する主張において経済産業省の「企業買収行動指針」を引用している。これら“官製のガバナンス施策”が株主提案に説得力を持たせる重要なツールとなっていることを踏まえたうえで、上場会社は株主提案への対応を検討する必要があろう。
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。
EV : EV(Enterprise Value)は企業価値を示す用語で、具体的には、企業が将来生み出すフリーキャッシュフロー(将来の利益)を現在の価値に割り引いたもの。EV(企業価値)は「ネット有利子負債 + 株式時価総額」により計算される。なお、ネット有利子負債とは、有利子負債からすぐにキャッシュにできるものを差し引いた金額である。企業価値には、目に見える資産だけでなく、知的財産やブランド力などの目に見えない資産も含まれる。
キャピタル・アロケーション : 調達した資金、事業活動を通じて得た資金をどこに投資するか、どのように使うかを判断すること
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