諸外国に大きく遅れをとる重要な契約の開示状況
周知のとおり、有価証券報告書では、企業が「重要な契約」を締結している場合、【経営上の重要な契約等】にその概要を記載することが求められていますが、「重要な契約」に関する開示について同様の制度を有する日本と諸外国との間で法令の規定に大差がないにもかかわらず、日本企業の開示状況は不十分であると投資家等から指摘されてきました。具体的には、
・「投資判断にとって重要(material)な契約」は開示対象であることが十分に浸透していない
・明示的に開示が求められていなければ開示不要との受止めの下、企業が開示に消極的になっている面がある
といったものです(2022年6月公表の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告「中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて」の31ページ参照)。
こうした指摘を踏まえ、金融庁は2023年12月に「「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について」を公表し、「重要な契約」について改正を行ったところです。改正のポイントは以下のとおりです。
改正のポイント
以下の3つの契約について、その概要を有価証券報告書の【重要な契約】の項目において、記載することが明示された。
①提出会社と株主間のガバナンスに関する合意
②提出会社と株主間での株主保有株式の処分・買増し等に関する合意
③ローンと社債に付される財務上の特約
適用時期
2025年3月31日以降に終了する事業年度の有価証券報告書等から適用(*)
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*ただし、施行日(2024年4月1日)前に締結された契約については、2026年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等までは省略可能。
【重要な契約】 : 今回の改正で【経営上の重要な契約等】は【重要な契約等】とされた。当該開示項目名の変更は、開示事項の変更を意図したものではなく、これまで「経営上」という文言が含まれているがゆえに典型的な経営上の契約以外の契約の開示が十分になされてこなかったと考えられることから、「経営上」という点に重きを置くものではないことを明確にするために行われた。
財務上の特約 : 借入期間内における作為(実行することを要求される行為)・不作為(やってはならない行為)について借手が誓約する、借入契約(金銭消費貸借契約)における特約条項で、コベナンツとも言われる。借入れの際に締結するコベナンツの多くは「一定の自己資本比率の維持」「一定の純資産額の維持」等の財務的な遵守事項であることが多いので、財務制限条項とも呼ばれることもある。
以下、今回改正された重要な契約の開示ルールのポイントをQ&A形式で整理します。
1.全般的事項
Q1(1) 「企業・株主間のガバナンスに関する合意」「企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意」において、提出会社の代表者と株主との間の契約は開示対象か?
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方のNo.8参照)
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回答1(1):提出会社の代表者を含め、個人と株主との間の契約は開示対象外(実質的に会社と株主との間の契約と同様の効果を有することとなる場合を除く)です。
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解説1(1):
企業と株主間の契約内容の開示要件
・企業と株主間で締結された契約内容は、株主が完全親会社である場合を除き、開示が必要です。
有価証券報告書における契約の開示範囲
・有価証券報告書等の提出会社には、株主と締結している重要な契約の開示が求められます。ただし、提出会社の代表者を含む、個人と株主との間の契約は含まれません(実質的に「会社と株主との間の契約」と同様の効果を有することとなる場合を除きます)。
投資判断に有用な情報の開示
・上記にかかわらず、提出会社が投資者の投資判断に有用と考える情報については、開示することが望ましいとされています。
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Q1(2) 「企業・株主間のガバナンスに関する合意」「企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意」に関する契約で、重要性の乏しいものは開示対象外とされているが、重要性の乏しい契約とは具体的にどのような契約か?
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方のNo.13参照)
回答1(2):例えば、以下のようなケースは重要性が乏しいものに該当すると考えられます。
・合意の相手方以外の株主が特定かつ少数で、かつ全株主が合意の内容を把握しているなど、少数株主保護の必要性が乏しいもの
・事前承諾権を定めた合意のうち、契約が通常の事業過程で締結されたものであり、かつ、事前承諾の対象となる行為が一部に限定されているもの
・株主としての立場に基づかない契約など、ガバナンスに対する影響が限定的であるもの
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解説1(2):
・「重要性の乏しいもの」に該当するか否かは、当該合意が提出会社等のガバナンスや支配権、市場等に与える影響を踏まえ、個別事案ごとに実態に即して判断する
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事前承諾権 : 事前承諾事項としては、例えば定款変更や合併・事業譲渡等の組織再編、資本金の減少、解散などが考えられる。
Q1(3) 個別の契約において秘密保持条項が設けられている場合、当該内容を開示することは守秘義務違反であり開示不要ということで問題ないか?
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方のNo.21,22参照)
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回答1(3):個別の契約において秘密保持条項が設けられていたとしても、法令の定めに基づき当該契約の内容を開示することは、秘密保持義務違反には当たらないため、開示が必要です。
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解説1(3):
・開示すべき事項は「契約の概要」であり、守秘性の高い情報を含め、その内容を詳細に開示することまで求めるものではありません。したがって、契約に秘密保持条項があっても、法的な要求に基づき契約の概要を公開することは、秘密保持違反には該当しません。
※法律による開示の要求は、契約当事者間の秘密保持に関する合意よりも優先されます
(2024年1月15日のニュース「当事者間の合意による秘密保持義務 vs 法令上の開示の要請、どちらが優先する?」参照)。
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2.企業・株主間のガバナンスに関する合意に関する個別留意事項
有価証券報告書等の提出会社(提出会社が持株会社の場合にはその子会社含む)が、提出会社の株主との間で、以下のガバナンスに影響を及ぼし得る合意を含む契約を締結している場合に契約の概要等の開示が必要となることが明示されました。なお、重要性が乏しいものは開示不要とされています。
| 合意事項 |
開示内容 |
(a)提出会社の役員について候補者を指名する権利を株主が有する旨の合意
(b)株主による議決権の行使に制限を定める旨の合意
(c)提出会社の株主総会又は取締役会において決議すべき事項について株主の事前の承諾を要する旨の合意
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ⅰ当該契約の概要
ⅱ当該合意の目的
ⅲ取締役会における検討状況その他の当該提出会社における当該合意に係る意思決定に至る過程
Ⅳ当該合意が当該提出会社の企業統治に及ぼす影響
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概要 : 当該契約を締結した年月日、当該契約の相手方の氏名又は名称及び住所並びに当該合意の内容を含む。
影響 : 影響を及ぼさないと考える場合には、その理由を記載することが求められる。
企業・株主間のガバナンスに関する合意は、当該企業のガバナンスや支配権への影響が大きく、投資判断に重要な影響を及ぼすことが見込まれるため、適切な開示が求められます。特に上記(a)、(c)は、株主平等原則の観点から開示の必要性が高いと考えられます。
Q2(1) 「企業・株主間のガバナンスに関する合意」における「合意」には書面の合意のほか、口頭の合意も含むか?
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方のNo.6参照)
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回答2(1):開示対象となる「合意」は、口頭であっても法的拘束力を有する場合は開示対象となります。
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「開示対象となる合意」とは?
・法的に効力のある合意(書面によるもの、口頭での合意を含む)は、開示しなければなりません。ただし、合意が単に特定の事項について通知するか、話し合う義務を課すものに過ぎない場合、開示する必要はありません。
「開示が必要な場合」とは?
・通知や協議に関する取決めがあっても、その内容が実質的に役員を指名する権利や事前の承認を求める権利を与えるものである場合には開示が必要になります。
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Q2(2) 提出会社の役員について候補者を指名する権利を株主が有する旨の合意は、たとえ株主が役員候補者を推薦する権利を有するにすぎない場合でも開示が必要か?
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方のNo.27参照)
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回答Q2(2):株主が役員候補者を推薦する権利を有するにすぎない場合は開示対象外となります。ただし、実質的に指名する権利と言える場合は開示対象となります。
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解説Q2(2):
開示が必要な合意
・法的に拘束力がある合意は、開示する必要があります。
株主が役員候補者を推薦する権利を持っている場合
・株主が役員候補者を推薦する権利を持っていても、提出会社がその人物を役員候補者として指名する義務がない場合、その合意は提出会社の決定に影響を与えないため、開示の必要はありません。
特定の状況下での推薦権がある場合
・株主が役員候補者となるべき人物について意見を述べ、その結果として会社がその人物を役員候補者として提案する仕組みがある場合、株主には実質的に「役員候補者を指名する権利」があると見なされ、開示対象になります。
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Q2(3) 提出会社の取締役候補者を指名する権利を株主が有する旨の合意は、たとえそれが取締役の選任に関する株主との事前協議事項にとどまる場合であっても開示の対象となるか?
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方のNo.29参照)
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回答2(3):取締役の選任が株主との事前協議事項にとどまる場合は、当該合意は開示の対象とはなりません。ただし、実質的な指名権と言える場合は開示対象となります。
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解説2(3):
取締役の選任に関する株主との事前協議について
・取締役の選任が株主との事前協議事項にとどまる場合、株主は実質的には取締役候補者の指名権を持っているとは言えません。そのため、このような合意は開示の必要がありません。
「協議」という文言が使用されている場合の考慮事項
・「協議」という言葉が使われていたとしても、例えば実際には提出会社が株主の提案を拒否することが予定されていないといった場合、実質的に株主は取締役の指名権を持っていると見なされる可能性があります。そのような場合、当該合意は開示が必要になります。
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Q2(4)(b)株主による議決権の行使に制限を定める旨の合意には、株主総会の会社提案議案に賛成する旨の合意や、特定議案について議決権を行使しない旨の合意は含まれるか?
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方のNo.37参照)
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回答2(4):含まれます。
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解説2(4):
議決権の行使に関する合意とは?
・株主の議決権行使に一定の制限や条件を設ける合意のことを指します。
合意に関連する追加情報の開示
・株主の議決権行使に制限を設ける合意に加えて、その合意の目的やガバナンスへの影響などを説明するのに必要な情報があれば、それらも合わせて開示するのが適切です。
株主との取決め特定の契約類型に該当しない場合
・たとえ株主との取決めが記載上の注意に示されている契約類型に該当しない場合でも、その取決めが提出会社にとって重要な契約である場合には開示する必要があります(開示府令第二号様式の記載上の注意(33)a)。
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Q2(5) (c)提出会社の株主総会又は取締役会が決議すべき事項について株主の事前の承諾を要する旨の合意には、特定の事項について通知・協議を行う義務を有するにすぎない場合も含まれるか?
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方のNo.40参照)
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回答2(5):特定の決議すべき事項について通知・協議を行う義務を有するにすぎない場合は,開示対象となる「事前の承諾を要する旨の合意」には含まれません。ただし、実質的に事前承諾と差異がないと認められるような合意は開示対象となります。
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解説2(5):
株主総会や取締役会の決議事項の通知・協議義務
・提出会社が株主総会や取締役会で決議すべき事項について、株主への通知や協議を行う義務を有するにすぎない場合、当該義務は開示対象外となります。
「通知」や「協議」の文言が使用されている場合の考慮事項
・表面的には「通知」や「協議」の義務を負うとの合意にとどまっていても、提出会社に最終的な決定権が事実上与えられていない場合には、その合意は実質的に株主による事前承諾と変わらないと判断され、当該合意は開示対象となります。
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3.企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意に関する個別留意事項
提出会社が、自社の株式の大量保有報告書を提出した株主との間で、以下の保有株式の処分等に関する合意を含む契約を締結している場合、当該契約の概要等の開示が必要となることが明示されました。なお、重要性の乏しいものは開示不要です。
| 合意事項 |
開示内容 |
(a)保有株式の譲渡等の禁止・制限に関する合意(提出会社の株式の譲渡その他の処分について、提出会社の事前の承諾を要する旨の合意)
(b)保有株式の買増しの禁止に関する合意(提出会社との間で定めた株式保有割合を超えて提出会社の株式を保有することを制限する旨の合意)
(c)株式保有割合の維持に関する合意(提出会社による株式の発行その他の行為が株主の株式保有割合の減少を伴うものである場合に、株主がその株式保有割合に応じて株式を引き受けることができる旨の合意)
(d)契約解消時の保有株式の売渡請求に関する合意(契約が終了した場合に、提出会社が株主に対し、保有する株式を提出会社に売り渡すことを請求することができる旨の合意)
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ⅰ当該契約の概要
ⅱ当該合意の目的
ⅲ取締役会における検討状況
Ⅳ提出会社における当該合意に係る意思決定に至る過程
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株式保有割合 : 当該株主の有する当該提出会社の株式の数がその発行済株式の総数のうちに占める割合をいう。
提出会社 : 当該提出会社が指定する者を含む。
概要 : 当該契約を締結した年月日、当該契約の相手方の氏名又は名称、住所、当該合意の内容を含む。
提出会社と株主間における株式の処分・買増し等に関する合意は、保有の規模や合意内容等によっては市場に影響を与え、投資判断に影響を及ぼすことが見込まれるため、適切な開示が求められます。
Q3(1) 保有株式の譲渡等の禁止・制限に関する合意に付随し又は関連する合意も開示対象か?
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方のNo.50参照)
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回答3(1):保有株式の譲渡制限等に関する合意に付随し又は関連する合意が重要な契約であれば開示対象となります。
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解説3(1):
保有株式の譲渡制限に関する合意とそれに付随又は関連する合意の開示について
・保有株式の譲渡制限等に関する合意に付随又は関連する合意を常に開示する必要はありません。
付随又は関連する合意の開示の際の考慮事項
・当該合意に関する開示事項(目的など)の中で、必要に応じて付随又は関連する合意に言及することが考えられます。
付随する合意の重要性と開示要件
・付随又は関連する合意自体が提出会社にとって重要な契約である場合には開示を行う必要があります(開示府令第二号様式の記載上の注意(33)a)。
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Q3(2) (b)株式の処分・買増等に関する合意を含む契約が未公表の重要事実に関連して締結されたものであっても開示は必要か?
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方のNo.42参照)
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回答3(2):株式の処分・買増等に関する合意を含む契約で、未公表の重要事実に関連して締結されたものは、重要性が乏しいとして開示対象外となります。
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解説3(2):
・株式の処分・買増し等に関する合意を含む契約のうち、当該合意が未公表の重要事実に関連して締結され、未公表の重要事実に関する交渉や検討に係る一定の期間に限り有効であるものを開示対象とすると、買収提案、交渉に悪影響を及ぼすため、「重要性あ乏しい」として、開示不要とされました(開示ガイドライン5-17-6)
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Q3(3) (b)株式保有割合を定めることなく追加の株式保有(株式取得)を禁止する旨の合意は開示対象か?
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方のNo.51参照)
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回答3(3):株式保有割合を定めることなく追加の株式保有(株式取得)を禁止する旨の合意は開示対象となります。
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解説3(3):
・提出会社の株主との間で、基準となる株式保有割合を定めることなく、単に「追加の株式保有(株式取得)を禁止する旨の合意」をした場合、当該合意は、株主が提出会社との間で定めた株式保有割合を超えて提出会社の株式を保有することを制限する旨の合意に該当します。
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Q3(4) 提出会社・株主間で株主保有株式の処分・買増し等に関する合意をしているが、提出会社と合意していない共同保有者は開示が必要か?
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方のNo.48参照)
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回答3(4):提出会社と合意していない共同保有者は開示不要です。
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解説3(4):
大量保有報告書を提出した株主が共同保有者である場合
・提出会社の大量保有報告書を提出した株主が共同保有である場合、共同保有者全員が「大量保有報告書を提出した者」となります。
共同保有者の合意に関する開示要件
・共同保有者は、資本関係や人的関係等から、発行者の経営等に影響を及ぼす可能性があると考えられます。そのため、保有株式の処分や買増し等に関する合意をした共同保有者の、株式保有割合が5%以下であったとしても、当該合意は開示対象となります。
合意を締結していない共同保有者
・ただし、提出会社と合意をしていない共同保有者は開示対象外となります。
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4.ローン契約と社債に付される財務上の特約に関する個別留意事項
財務上の特約の付されたローン契約の締結又は社債を発行しており、一定の要件に該当する場合には、臨時報告書の提出、有価証券報告書等において契約の概要等の開示が求められることとなった。
財務上の特約 : 提出会社の財務指標が、あらかじめ定めた基準を維持することができないことを条件として当該提出会社が期限の利益(期限があることによって債務者が受ける利益のこと。金銭消費貸借契約の場合、債務者は、契約で定められたそれぞれの弁済期限までは、借入金の弁済をしなくてよいが、これが期限の利益である)を喪失する旨の特約。
有価証券報告書及び臨時報告書におけるローン契約・社債に付される財務上の特約の記載要件等
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記載又は提出要件 |
主な開示内容 |
| 有価証券報告書 |
有価証券報告書等の提出会社又は連結子会社が、財務上の特約又はその他当該提出会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす可能性のある特約が付されたローン契約の締結又は社債の発行をしている場合であって、その期末残高が連結純資産額の10%以上である場合 |
ⅰ契約の概要(契約年月日、相手方の属性(金銭消費貸借契約の場合)、金額、期限、担保の内容を含む)
ⅱ財務上の特約の内容
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| 臨時報告書 |
有価証券報告書等の提出会社または連結子会社が、財務上の特約が付されたローン契約の締結または社債の発行をした場合であって、その元本または発行額の総額が連結純資産額の10%以上である場合 |
| 弁済期限もしくは償還期限の変更、財務上の特約の内容の変更があった場合 |
ⅰ契約の概要
ⅱ変更内容、変更日
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| 財務上の特約に定める事由が発生した場合 |
ⅰ契約の概要
ⅱ抵触した事由、解消または改善するための対応策
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財務上の特約への抵触は他の債権者のキャッシュ・フローに影響を与え、経営陣の裁量を制限するとの観点から、開示の重要性が高いと言えます。また、抵触する前の段階から財務上の特約が適切に開示されることで、市場全体としての予測可能性が高まり、発行会社と投資家の間の円滑なコミュニケーションにも資することになります。
Q4(1) ローン契約と社債に付される財務上の特約の開示における「特約」の範囲は臨時報告書と有価証券報告書で同じか?
回答4(1):有価証券報告書では、「財務上の特約」に限らず「その他当該提出会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす可能性のある特約」も開示対象となるため異なります。
解説4(1):
有価証券報告書における開示対象
・有価証券報告書では、財務指標の維持を条件とする「財務上の特約」だけでなく、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす可能性がある事項も開示対象となります。
財務上の特約の重要性の判断基準
・財務上の特約が「重要な影響を及ぼす可能性のあるもの」に該当するかどうかは、その特約に違反した場合に連結会社の財政状態等に重要な影響があるかどうかによって判断されます。
財務上の特約の重要性を判断する際の考慮要素
・金銭消費貸借契約の元本額や社債の発行総額などのほか、財務上の特約に定められた事由が発生する可能性も考慮されます。
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財務上の特約 |
当該提出会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす可能性のある特約 |
| 臨時報告書 |
開示対象 |
- |
| 有価証券報告書 |
開示対象 |
開示対象 |
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方の
No.65参照)
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Q4(2) 配当制限や担保提供制限といった財務制限条項やレポーティング・コベナンツは「財務上の特約」に該当するか?
レポーティング・コベナンツ : 報告を行うことの遵守を求める条項
回答4(2):配当制限や担保提供制限といった財務制限条項やレポーティング・コベナンツは「財務上の特約」に該当しません。
解説4(2):
「財務上の特約」の定義
・「財務上の特約」とは、提出会社が定められた財務指標の基準を維持できない場合に期限の利益を喪失することを定めた特約のことです。
財務指標の維持に関する特約
・純資産額維持や利益維持など、財務指標の維持を目的とし、抵触した際に期限の利益を喪失する効果があるものは「財務上の特約」に該当します。
財務上の特約に該当しない事項
・配当制限や担保提供制限など財務指標の維持を目的としない財務制限条項やレポーティング・コベナンツは「財務上の特約」には該当しません。
金銭消費貸借契約に関する特約
・金銭消費貸借契約に担付切換条項が付されていたとしても、その契約で財務指標を維持できなかった場合に期限の利益を喪失する特約があれば、当該特約は「財務上の特約」に該当します。この場合、期限の利益を喪失する特約を解除するために担保権を設定すれば、財務上の特約の内容に変更があったとして、臨時報告書の提出が必要になります。
財務上の特約への抵触時の効果に関する考慮事項
・抵触時の効果が期限の利益を喪失するものではなく、利率の引上げ等に留まる場合は、「財務上の特約」には該当しません。
期限の利益 : 期限の到来までは債務 の履行を請求されないという 債務者の利益のこと。
※2024年1月12日のニュース「コベナンツ(財務制限条項)の開示ルールがパブコメ案より緩和され確定」参照
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財務上の特約に該当するか? |
| 純資産額維持や利益維持等、財務指標の維持を目的としており、抵触時に期限の利益を喪失するもの |
YES |
| 配当制限や担保提供制限 |
NO |
| レポーティング・コベナンツ |
NO |
| 金銭消費貸借契約等に担付切換条項が付されていたとしても、当該金銭消費貸借契約等に財務指標を維持できなかった場合に期限の利益を喪失する旨の特約が付されている |
YES |
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方の
No.72参照)
Q4(3) 特定融資枠(コミットライン契約)を利用した金銭消費貸借契約の返済期限が短期間であったとしても、財務上の特約が付され、その他の要件に合致すれば開示対象になるか?
特定融資枠 : 貸主が一定の期間及び金額の融資枠を設定し、借主がそれに対し手数料を支払う契約 。
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方のNo.80参照)
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回答4(3):特定融資枠を利用した金銭消費貸借契約の返済期限が短期間であったとしても、要件に合致すれば開示対象になります。
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解説4(3):
・特定融資枠を利用した金銭消費貸借契約の返済期限が短期間であったとしても、当該金銭消費貸借契約に財務上の特約が付されており、当該契約の元本額等が一定の基準を上回る場合には、財務上の特約への抵触が他の債権者のキャッシュ・フローに重要な影響を与えると考えられることから開示が必要になります。
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Q4(4) ノンリコースローンも要件に合致すれば開示対象になるか?
ノンリコースローン : 特定の事業や資産から生じるキャッシュフローのみを返済原資とするローンのこと。
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方のNo.83参照)
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回答4(4):ノンリコースローンである場合であっても要件に合致すれば開示対象になります。
|
解説4(4):
ノンリコースローンの金銭消費貸借契約における開示要件
・締結した金銭消費貸借契約がノンリコースローンであっても、その契約に財務上の特約が付されており、元本の額が一定の規模を超える場合、開示対象になります。
ノンリコースローンの臨時報告書及び有価証券報告書への記載基準
・ノンリコースローンのように、特定の資産とその収益のみを返済原資とする金銭消費貸借契約を臨時報告書の提出や有価証券報告書に記載するかどうかは、債務の元本額ではなく、当該資産と収益の評価額等を基に想定される損失額によって判断されます(開示ガイドライン5-17-3)。
SPCを利用したノンリコースローンにおける「想定される損失額」
・SPCを利用したノンリコースローンの場合、SPCへの出資額が「想定される損失額」と見なされる可能性があります。
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Q4(5) 開示対象となる財務上の特約が付された契約・社債は、その元本又は発行額の総額が連結純資産額の10%以上のものであり、この重要性基準に基づけば、有価証券報告書と臨時報告書で記載対象となる契約・社債は同一のものとなるか?
回答4(5):有価証券報告書の方が開示対象範囲が広くなっています。
解説4(5):
有価証券報告書、臨時報告書提出の閾値の比較
・有価証券報告書と臨時報告書の開示の閾値(10%基準)は同じですが、有価証券報告書では同種の特約が付された契約や社債の残高を合算する必要があるため、実際の開示対象は有価証券報告書の方が広くなります。
臨時報告書提出の判断基準
・臨時報告書の提出の要否は発行銘柄ごとに判断します。すなわち、償還期限等の発行条件が異なる複数の社債を同時に発行する場合には、個別銘柄ごとの募集金額(発行金額)が基準となります。
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臨時報告書 |
有価証券報告書 |
| 10%基準の適用方法 |
発行銘柄ごとに判断する |
同種の特約が付された契約・社債の残高の合算が求められる |
財務上の特約の抵触基準の一致
・財務上の特約の抵触基準となる財務指標やその値が完全に一致していなくても、その差が僅少である場合や、有価証券報告書上で特定の財務指標に関する特約が一致している場合には、「同種の特約」としてこれらを合算する必要があります。
「実質的に同種と認められる」特約の定義
・基準となる財務指標又はその値が異なる財務上の特約が「実質的に同種と認められる」とは、財務指標やその値の差が僅少である場合等を意味します(企業内容等開示ガイドライン5-17-7)。
複数の契約や社債の合算と投資家への情報提供
・ある財務指標を維持できなかった場合に提出会社のキャッシュ・フローにどの程度の影響が生じるかについて、投資家に適切な情報提供を行うため、複数の金銭消費貸借契約や社債を合算して開示を行うことが、投資判断にとって有用と考えられます。
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方の
No.90、
124を参照)
Q4(6) 財務上の特約に定める事由が発生した場合でも、債権者(金融機関)と債務者の間で交渉が行われ、対応策の確定に伴い債権者が自発的に期限の利益の喪失を主張する権利を放棄する場合が多いと考えられるが、「財務上の特約に定める事由が発生した場合」ではなく、「債権者と債務者の間で合意が確実となった段階」又は「期限の利益の喪失の可能性が高まった場合」を待って臨時報告書の提出を行うことは可能か?
(パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方のNo.112参照)
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回答4(6):財務上の特約に定める事由が発生した場合には、臨時報告書を遅滞なく提出する必要があります。
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解説4(6):
財務上の特約に違反した場合の臨時報告書の提出
・財務上の特約に定められた事由が発生した場合、つまり、財務上の特約に定められた財務指標を維持できなかった場合には、臨時報告書を遅滞なく提出する必要があります。対応策の確定を待って提出することは認められません。
期限の利益を喪失しない措置が予定されている場合の取扱い
・金銭消費貸借契約や社債の条件において、直ちに期限の利益を喪失しない措置が予定されている場合は、その措置が採られなかった時点で事由が発生したものとされます(開示ガイドライン5-17-5)。
財務指標に基づく判断と対応策の確定
・基準に抵触したか否かは、財務指標の確定値をもって判断されます。そのため、財務指標の速報値が判明した時点で債権者と協議を行うことにより、臨時報告書の提出義務が発生するまで、対応策を検討することが可能です。
発行会社が金融機関と契約する際の特約に関する交渉
・今後、発行会社が金融機関と金銭消費貸借契約の内容や社債の条件を詰める際に「財務上の特約」を求められた場合、金融機関との交渉により、契約書に「特約に違反したことをもって直ちに期限の利益を喪失するのではなく、まずは債権者と協議を行う」旨の条項を追加することが可能であり、これにより特約に違反しても臨時報告書の提出を避けることができます。
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