2024/03/26 有報の記述情報開示の充実に欠かせないツール(会員限定)

周知のとおり、有価証券報告書の記載内容を定める開示府令がこの数年改正を繰り返しており、コーポレートガバナンスの状況、事業等のリスク、MD&A、気候変動関連情報や人的資本など「サステナビリティに関する考え方及び取組」(以下、サステナビリティ開示)といったいわゆる記述情報の開示が充実してきた。しかし、毎年のように行われる改正についていくのが精一杯で、投資家の期待を踏まえた開示内容の改善はこれからという上場企業も少なくない。


MD&A : 「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。

まずは開示府令の改正についていくために必須となる資料が、金融庁が例年3月下旬に公表する「有価証券報告書レビュー」の調査票だ(令和4年度版はこちら(エクセルが開きます))。有価証券報告書レビューは「法令改正関係審査」「重点テーマ審査」「情報等活用審査」の3つの柱から構成される「法令改正関係審査」で利用されるチェックリストで、上場企業等は有価証券報告書の提出日後、調査票を所管の財務局等へ提出することが求められる。この調査票は、有価証券報告書の作成後の事後チェックのみならず、有価証券報告書の作成時における開示漏れの防止にも利用可能であり、金融庁もそのような使い方を推奨している。


有価証券報告書レビュー : 金融庁が上場企業等の有価証券報告書の記載内容の適正性の確保の観点から、各財務(支)局等と連携して行っている行政手続き。

また、前年の有価証券報告書レビューの結果を取りまとめた「有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」(令和4年度版はこちら)は、“前年”の事例とはなるものの、他社で多かったミスなどが分かる。自社が同じ轍を踏まないよう、是非参考にしたい。令和6年3月期以降の事業年度の有価証券報告書のレビューで用いる調査票や令和5年度版の「有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」は今年も3月下旬に公表される見込み。

以上に加えて、宝印刷などの開示コンサルティング会社が作成する雛形などが開示担当者の使うツールとなるが、開示担当者に任せっきりにしていると「要件を満たすよう改正事項に対応していればそれでよし」というコンプライアンス第一との考え方により、開示が小さくまとまる可能性もある。上場企業の役員(特に開示担当役員)としては、投資家の期待に沿うよう開示内容の充実、ブラッシュアップを開示担当者に指示する必要があろう。開示内容の充実、ブラッシュアップには、「記述情報の開示の好事例集」も有用だ。これは投資家・アナリストが選定した記述情報の好事例を収集したもので、金融庁が2019年3月から毎年公表している。投資家・アナリストが好事例として着⽬したポイントもあわせて記載されており、投資家・アナリストの視点を理解するのに役立つ。既に2024年3月8日には「記述情報の開示の好事例集2023」が公表済み。2023年版では新たに「中堅中小上場企業の開示例」も加わり、とかく大企業の開示例に偏りがちな好事例集の中で、投資家・アナリストが中堅中小上場企業の開示情報を見る際の特有の視点も紹介されている。

同じく「記述情報の開示の好事例集 2023」で新たに加わった「【参考】定量分析」の参考2のサステナビリティ開示の売上別平均文字数の分析結果にも目を通しておきたい。これは、2023年3月期決算の上場企業の有価証券報告書の記載項目のうち、サステナビリティ開示で使用されている文字数を売上高の区分(5段階)ごと、かつ、市場区分ごとに平均した結果を取りまとめたもの(下表参照)。それによると、売上高が増えれば増えるほど、また、同じ売上高区分であればスタンダード市場上場企業よりはプライム市場上場企業の方がサステナビリティ開示の平均文字数も増えることが実証されている。

サステナビリティ開示の売上別平均文字数の分析結果
72615

「開示の充実においては単に文字数が増えればよいというものではなく、内容の充実が重要である。」という注意書きは当然としても、自社のサステナビリティ開示のボリュームが売上高に比して少な過ぎないか、チェックしておきたい。

2024/03/25 【失敗学第117回】リベレステの事例(会員限定)

概要

2023年5月に、不動産業を営むリベレステ株式会社(東証スタンダード)の代表取締役社長が出資法違反容疑により逮捕された。

経緯

リベレステが2023年7月24日に公表した「調査委員会の調査報告書」等によると、一連の経緯は次のとおり。

2023年
3月16日:リベレステは、「一部有料情報サイトにおいて、3月1日に当社に対し、取引先への貸付に関する出資法違反の疑いにより、警視庁の捜査を受けた旨の掲載」があったこと、本件事態を厳粛に受け止めており、引き続き、当局の捜査に協力する旨のリリースを行う。
5月24日:リベレステの河合代表取締役社長が出資法違反容疑により逮捕される。
6月13日:リベレステは代表取締役社長の逮捕を受け、事実関係の調査、原因分析、再発防止策の検討等のために調査委員会を設置する。
7月5日:リベレステが出資法違反および組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織犯罪処罰法)違反により起訴される。
7月20日:リベレステの調査委員会が調査報告書を公表する。

2024年
3月19日:リベレステは、東京地方裁判所より、出資法違反により罰金 1,200万円に処するとの判決を受けた旨および控訴は行わないことを決定した旨、リリースを行う。

内容・原因・再発防止策

リベレステが2023年7月20日に公表した「調査委員会の調査報告書」によると、出資法違反の内容、原因および再発防止策は次のとおりとされている。

出資法違反
内容 リベレステは、複数回にわたり、金銭の貸付を行うにあたり、出資法にかかる高金利の禁止を免れる目的をもって、借り手にリベレステが所有する不動産(その多くが山林や原野)を購入させ、出資法所定の利息を超える利息相当額を受領していた。

(出資法の規制について)
出資法は、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合、年20%を超える金利の契約をすること、そのような利息を受領し、又はその支払いを要求することを禁じている(出資法5条2項)。そして、金銭消費貸借契約において定められた利率が出資法所定の上限金利を超えていない場合であっても、これに近接した時期に行われた別の取引(リベレステの場合、不動産売買にかかる売買代金の一部や手数料等)が高金利の禁止を免れるために行ったものであり、実質的には貸付けの利息であると認定されれば、一連の行為が出資法違反となる。

原因 (関与者が限定的であった)
河合代表取締役社長以外に、本件事案に関与した者は認められなかった。
(稟議が別々に行われていた)
金銭貸付けと不動産の売却とで別の伺い書(稟議書)が作成されていたが、それぞれの伺い書には貸付けの内容や回収可能性、不動産売買の内容などが記載されているだけで、相互の取引の関連性等の記載は一切なかった。そのため、本件事案等にかかる各取引の関連性や問題点等を河合代表取締役社長以外の取締役が把握することが困難になっていた。
(河合代表取締役社長の影響力の強さ)
リベレステでは、河合代表取締役社長は実質的な筆頭株主として大きな影響力を有していた。また、河合代表取締役社長に対しては、常に会社の業績を上げるべく努力しているというある種の信頼感があったようであり、その影響力と相まって、河合代表取締役社長の行うことについて、他の取締役等によるけん制は働きにくい状況にあった。
(脆弱な内部監査体制)
リベレステには、内部監査室が設置されているが、構成員は内部監査室長1名のみであった。そして、内部監査室長は、経理や総務の業務を兼務しており、本件事案において契約書の作成に従事していた。すなわち、本件事案において内部監査は機能していなかった。
再発防止策 (1)稟議・決裁方法の見直し
(2)業務の透明化
(3)内部監査体制の充実
<この事例から学ぶべきこと>

リベレステでは、内部監査室長が経理や総務の業務を兼務しており、本件不正取引に関する契約書等の作成に従事していたことが、本件不正の発覚が遅れた理由の一つとして指摘されています。リベレステの調査委員会は、リベレステは「パート・アルバイトを除くと社員が30名程度の規模しかなく、そのような中で内部監査部門に一定の人員を割くことは容易ではない」と専任の内部監査室長を設置することの難しさに一定の理解を示しつつも「内部監査室長が他の業務を兼務している体制は、内部監査の独立性確保の観点から望ましくない」ことから、「内部監査担当者は専任として他の業務の兼任禁止を徹底し、必要に応じて内部監査の独立性を確保するための体制を整備することが必要」としています。従業員数が少ない会社では、専任の内部監査担当者を置くことが難しく、実際は兼任しているケースが多いものと思われます。社外取締役・社外監査役は、自社または子会社の組織図を確認し、組織図上は専任の内部監査担当者が配置されているように見えても、実際のところどうなのかを確認し、兼任があれば解消させるようにすべきです。

もっとも、リベレステで内部監査室長が専任であったとしたら、本件不正は早期に発覚していたかというと、難しかったと言わざるを得ません。なぜなら、リベレステの代表取締役社長が逮捕された理由は出資法違反ですが、出資法は法律の中ではメジャーなものではないだけに、検討が後手に回りがちだからです。実際にリベレステでは、2022年4月に、借り手の代理人弁護士から、金銭の貸付けと抱き合わせで山林を販売したという問題を追及する旨の連絡を受け、顧問弁護士に相談したところ、「別々の商取引であるとは認められず『優越的地位』に基づいて行われた一連の取引であると認識できる。よって、争って勝てる事案ではない。」とのコメントが寄せられていました。『優越的地位(の濫用)』は独占禁止法上の論点です。つまり、顧問弁護士ですら出資法違反の論点に気付いていなかったことになります。たとえ内部監査室長が専任であったとしても、出資法違反の論点にたどり着けなかった可能性は高いと言わざるをえません。内部監査室長には幅広の内部監査をできるよう外部研修を積極的に受講させる必要があると言えます。

2024/03/22 協働エンゲージメント促進に向け「共同保有者」の範囲を明確化、配当方針や資本政策の変更などの共同提案であれば「共同保有者」に該当せず

昨日のニュースでお伝えしたとおり、政府は今月(3月)15日、公開買付制度や大量保有報告制度などの見直しを盛り込んだ金商法改正案を閣議決定し、国会に提出している(2024年3月21日「金商法改正案が国会に提出、買収対象会社への“事前・事後の救済制度”は導入見送り」参照)。本稿では、昨日のニュースで取り上げた「公開買付制度」に続き、「大量保有報告制度」の改正内容を解説する。・・・

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2024/03/22 協働エンゲージメント促進に向け「共同保有者」の範囲を明確化、配当方針や資本政策の変更などの共同提案であれば「共同保有者」に該当せず(会員限定)

昨日のニュースでお伝えしたとおり、政府は今月(3月)15日、公開買付制度や大量保有報告制度などの見直しを盛り込んだ金商法改正案を閣議決定し、国会に提出している(2024年3月21日「金商法改正案が国会に提出、買収対象会社への“事前・事後の救済制度”は導入見送り」参照)。本稿では、昨日のニュースで取り上げた「公開買付制度」に続き、「大量保有報告制度」の改正内容を解説する。

大量保有報告制度とは、市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、株式の大量保有者(株式保有割合が5%超である者)となった場合には、その日から5営業日以内に「大量保有報告書」の提出を、その後、株式保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合には、その日から5営業日以内に「変更報告書」の提出を求めるもの。また、運用会社など金融商品取引業者等には、提出頻度や期限等を緩和する「特例報告制度」が設けられている。具体的には、事前に届け出た月2回の「基準日」において大量保有報告書・変更報告書の提出義務を判断し、当該基準日から5営業日以内に大量保有報告書・変更報告書を提出すればよいことになっている。

今回の金商法改正にあたって論点となったのが、複数の投資家が協調して個別の投資先企業と特定のテーマについて対話を行う「協働エンゲージメント」と大量保有報告制度の関係だ。質的・量的なリソース不足を補い、対話の実効性を高めるとされる協働エンゲージメントだが、大量保有報告制度上、仮に複数の投資家が「共同保有者」、すなわち「共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している者」に該当するとされた場合、当該複数の投資家の株式保有割合の合計が5%超になれば、大量保有報告書の提出が求められることになる。しかし、現行の大量保有報告制度では「共同保有者」の範囲が不明確であり、これが協働エンゲージメントを行ううえでの支障になっているとの指摘がある。

そこで今回の金商法改正案では、協働エンゲージメントを促進する観点から、「共同保有者」の範囲の明確化が図られ、複数の投資家が「経営に重大な影響を与えるような合意」を行わない限り、具体的には、配当方針や資本政策の変更など企業支配権に直接関係しない提案を共同して行う場合であれば、「共同保有者」に該当しないこととした(改正法案27条の23第5項)。これに対し、役員の兼任や資金提供など企業支配権に直接関係する提案を共同して行う場合には「共同保有者」とみなす規定を政令に設ける。

大量保有報告制度は2008年に行われた金商法の改正でも見直され、その際には、大量保有報告書等の不提出および不実記載が課徴金制度の対象とされたものの、その後も大量保有報告書等の提出遅延が相次いでおり、課徴金制度の実効性に懸念が生じている。特に「共同保有者」については、複数の投資家が協調して株式を取得していることが疑われる事例が見受けられるにもかかわらず、その認定に係る立証が難しいことから、一定の「外形的事実」がある場合には「共同保有者」とみなす政令改正が行われる予定だ。

このほか、現在は基本的に大量保有報告制度の適用対象となっていない「現金決済型デリバティブ」であっても、「現物決済型デリバティブ」に変更することを前提としているものについては、大量保有報告制度の適用対象とする(改正法案27条の23)。このようなデリバティブは、取引を開始した時点で潜在的に経営に対する影響力を有していると考えられるからだ。例えば、①取引の相手方から株式を取得することを目的とするもの、②取引の相手方が保有する株式に係る議決権行使に一定の影響力を及ぼすことを目的とするもの、③これら①②のような地位にあることをもって発行会社に重要提案行為等を行うことを目的とするものなどが想定されている。


現金決済型デリバティブ : 取引が現金で決済されるデリバティブ。
デリバティブ契約の対象となる金融商品等(例:株式、商品先物)の受渡しは行われない。
現物決済型デリバティブ : 取引の決済が、例えば株式、金地金など現物の受け渡しによって行われるデリバティブ。この受渡決済によって、現物の所有権が移転する。
重要提案行為 : 投資先企業の株主総会において、又はその「役員」に対し、発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼす行為として「一定の事項」を提案する行為。「一定の事項」としては、例えば代表取締役の選解任、株式交換・移転、会社の分割・合併、配当に関する方針の重要な変更、資本政策に関する重要な変更などがある。

公開買付制度の見直し同様、大量保有報告制度の見直しも、施行日は「公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日」とされている(改正法案附則1条三号)。
今回「共同保有者」の定義が見直されたことにより、株式の保有者・数は同じでも、大量保有報告制度上の株式保有割合が変わってくるケースが出てくる。この結果生じた“差”は株式保有割合の増加または減少分とみなして、増加または減少後の株式保有割合について、改正後の大量保有報告制度が適用されることになる(改正法案附則5条)。


2024/03/21 金商法改正案が国会に提出、買収対象会社への“事前・事後の救済制度”は導入見送り

金融庁に設置された金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」(以下、WG)は2023年6月から6回にわたり、公開買付制度(TOB=Take-Over Bid)大量保有報告制度実質株主の透明性のあり方などについて検討を行ってきたが、WGが2024年2月9日に金融審議会に提出した報告書を踏まえ、政府は今月(3月)15日、「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に提出した。公開買付制度や大量保有報告制度などの見直しによる資本市場の活性化を謳う今回の改正法案だが、・・・


公開買付制度(TOB=Take-Over Bid) : 会社の支配権等に影響を及ぼすような証券取引の透明性・公正性を確保するために設けられている制度。具体的には、特定の上場会社の株式を、買取り株数・価格・買付期間を公告したうえで、株式市場外で不特定多数の株主から買い集めることを求める。
大量保有報告制度 : 市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、株券等の大量保有者に対し「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出を義務付ける金融商品取引法上の制度。具体的には、①保有割合が5%超となった場合、②その後、保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合、それぞれ提出事由が生じた日から5営業日以内に「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出が求められる(②の場合に提出するのは「変更報告書」)。
実質株主 : 株主名簿の背後に存在する運用・議決権行使権限を持つ株主。

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2024/03/21 金商法改正案が国会に提出、買収対象会社への“事前・事後の救済制度”は導入見送り(会員限定)

金融庁に設置された金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」(以下、WG)は2023年6月から6回にわたり、公開買付制度(TOB=Take-Over Bid)大量保有報告制度実質株主の透明性のあり方などについて検討を行ってきたが、WGが2024年2月9日に金融審議会に提出した報告書を踏まえ、政府は今月(3月)15日、「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に提出した。公開買付制度や大量保有報告制度などの見直しによる資本市場の活性化を謳う今回の改正法案だが、WGで結論までには至らなかった論点も多かったことから、改正内容は“必要最低限”のものにとどまっている。本稿ではまず、改正法案の柱である「公開買付制度」および「大量保有報告制度」の見直しのうち「公開買付制度」の改正内容を解説する。


公開買付制度(TOB=Take-Over Bid) : 会社の支配権等に影響を及ぼすような証券取引の透明性・公正性を確保するために設けられている制度。具体的には、特定の上場会社の株式を、買取り株数・価格・買付期間を公告したうえで、株式市場外で不特定多数の株主から買い集めることを求める。
大量保有報告制度 : 市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、株券等の大量保有者に対し「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出を義務付ける金融商品取引法上の制度。具体的には、①保有割合が5%超となった場合、②その後、保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合、それぞれ提出事由が生じた日から5営業日以内に「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出が求められる(②の場合に提出するのは「変更報告書」)。
実質株主 : 株主名簿の背後に存在する運用・議決権行使権限を持つ株主。

現行の公開買付制度では、①多数の者(60日間で10名超)からの「市場内取引」による買付け後の株式保有割合が5%超となる場合(いわゆる5%ルール)、②市場外取引または「市場内取引の立会外取引」 のいずれによる買付けであっても市場外取引のいずれによる買付けであっても、買付け後の株式保有割合が3分の1超となる場合(いわゆる3分の1ルール)には、公開買付けの実施が義務付けられている。


市場内取引 : 証券取引所を介して行われる取引のこと。市場内取引には、通常の取引時間内に、公開市場で株式等の金融商品を売買する「立会取引」と、取引時間外に売買する「立会外取引」がある。市場内取引は、証券取引所の規則に従って行われることになる。
市場外取引 : 証券取引所を介して行われる「市場内取引」に対し、証券取引所を介さずに直接的に行われる取引のこと。取引所の通常の取引時間外に行われ、売手と買手が直接的に相対取引を行う。機関投資家が規模の大きい取引をする際に利用されることが多い。
立会外取引 : 証券取引所で行われる市場内取引ではあるが(この点、取引所の外で売手と買手が相対で株式などを売買する「市場外取引」とは異なる)、証券取引所の通常の取引時間(立会取引)以外において株式などを売買すること。機関投資家が規模の大きい取引をする際、株価や相場全体への影響を避けるために利用されることが多い。東証の立会外取引は「ToSTNeT(トストネット)」と呼ばれる電子取引により行われる。

一方、「市場内取引の立会内取引」については、誰もが参加でき、取引の数量や価格が公表され、競争売買の手法によって価格形成が行われるといった点で、一定の透明性・公正性が担保されているとの前提に基づき、公開買付制度の対象となっていない。


立会内取引 : 証券取引所で行われる市場内取引で、証券取引所の通常の取引時間において株式等の金融商品を売買すること。公開市場で行われるため、価格は公開され、多くの投資家が参加する。

このように、公開買付制度は、会社の支配権に重大な影響を及ぼす証券取引の透明性・公平性を確保する観点から設けられたものだが、近年は市場内取引を通じた非友好的買収事例が増えている状況にある。例えば、アジア開発キャピタルが東京機械製作所の買収防衛策の差し止めを求めた事件では、東京高裁は以下のように判示し、東京機械製作所の買収防衛策の発動を認めている(2021年11月9日決定)。

抗告人らは、TOB の適用対象外である市場内取引における株式取得を通じて、株券等所有割合が3分の1を超える株式を短期間のうちに買収しており、このような買収行為は、一般株主からすると、投資判断に必要な情報と時間が十分に与えられず、買収者による経営支配権の取得によって会社の企業価値がき損される可能性があると考えれば、そのリスクを回避する行動をとりがちであり、それだけ一般株主に対する売却への動機付けないし売却へ向けた圧力(強圧性)を持つものと認められる。

本件では、アジア開発キャピタルが約4か月間で39.94%の東京機械製作所の株式を市場内取引により取得していた。このような状況を踏まえ、今回の金商法改正案では、市場内取引も3分の1ルールの適用対象とすることとされた(改正法案27条の2)。また、3分の1ルールの閾値を「30%」に引き下げる(改正法案27条の2)。これは、諸外国の公開買付制度では30%としている例が多いことに加え、日本の上場会社の議決権行使割合が90%未満であることを勘案すると、30%の議決権を有していれば、大部分の上場会社では株主総会の特別決議(事業譲渡や会社の合併の承認など)を阻止できるからだ。


特別決議 : 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の多数による決議。例えば定款変更、事業譲渡、株式の募集、取締役の途中解任などにはこの特別決議が必要である。

このほか、公開買付者側の事務負担を軽くする制度として、公開買付説明書の内容が公開買付届出書とほぼ同じ内容となっており、公開買付説明書の交付・訂正に関する事務負担が大きいとの指摘を踏まえ、公開買付説明書に「公開買付届出書を参照すべき」旨を記載した場合には、公開買付説明書に記載したものとみなすこととした(改正法27条の9)。


公開買付説明書 : 売付候補者(公開買付者に対し、株式の売却を検討している個人や法人)に交付される文書。買付価格や目的などが記載されており、公開買付者に株式を売却するかどうかの判断を助ける役割を果たす。
公開買付届出書 : 公開買付者が公開買付けの実施を公表する文書のこと。公開買付けを開始する際に内閣総理大臣に提出することが求められる。買付価格や買付数量、買付期間などが記載されている。対象会社や証券取引所にも提出される

公開買付制度に関する改正法は「公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日」から施行され、施行日以後に行う公開買付けから適用される(改正法案附則1条三号、2条)。

公開買付制度については上記のような改正が行われた一方で、改正が実現しなかった論点も多い。まず、第三者割当増資(新株発行)を公開買付制度の対象とすることが見送られた。WGでは、第三者割当増資により議決権の3分の1超を取得するケースを公開買付制度の対象とすべきか否かが検討されたが、企業の資金調達を阻害しないようにする観点から、公開買付けの実施を義務付けるまでには至らなかった。また、急速な買付け等の規制の廃止や部分買付けの禁止も結論には至っていない。


急速な買付け : 3か月間のうちに10%超相当の株式の取得(そのうち市場外取引による取得が5%超)を行った結果、株式保有割合が 1/3 超となる買付けのこと。
部分買付け : 買付株式数に上限を設けて行う公開買付け(TOB)の手法。例えば、40万株を上限として公開買付けを行い、これに対して50万株の応募があった場合、40万株までは買うが、それを超える10万株については買わないとすることができる。部分買付けは、買収後も対象会社の上場を維持する目的などで活用されている。例えば、友好的なTOBで対象企業を買収する際に、経営陣の同意を得て部分的な買付けを行うことがある。

さらに、公開買付けに関する「事前の救済制度」として、対象会社やその株主に、法令違反または著しく不公正な方法による公開買付けを差し止める権利を付与する制度、「事後の救済制度」として、公開買付制度に違反して取得した株式について議決権を停止する制度や売却命令を課す制度の導入が検討されたが、導入に賛成する意見はあったものの、乱用的な制度利用などへの懸念から、必要に応じて引き続き検討することとなった。

改正金商法の続報として、明日は「大量保有報告制度」の見直しについて解説する。




2024/03/19 【WEBセミナー】サステナビリティ経営時代の「株主との対話」を考える

概略

【WEBセミナー公開開始日】2024年3月19日

近年、サステナビリティに関する情報開示と株主との対話の重要性が急速に高まりつつあります。本ウェビナーは、IR/SRのエキスパートであり大手企業の独立社外役員としてご活躍される浜辺真紀子様をお招きし、上場企業に求められるサステナビリティ経営の本質と資本市場との対話のあるべき姿を分かり易く解説して頂きます。基調講演では、ESG/サステナビリティの基本的な考え方、上場企業にサステナビリティ経営が求められる理由、コーポレートガバナンスの本質、ESG投資の動向などの重要な論点について解説して頂きます。続くパネルディスカッションでは、著名なグローバル機関投資家であるキャピタル・グループにてESGスチュワードシップ・マネジャーとしてご活躍されている藤木彩様に加わって頂き、グローバル機関投資家としてのESGに対する考え方や方針、日本企業に対する期待についてお伺いします。企業のIR/SRとコーポレートガバナンスに精通した浜辺様とグローバル機関投資家としてエンゲージメントと議決権行使に豊富な経験を有する藤木様のディスカッションは、資本市場の要請に応えるサステナビリティ経営の実現に向けた貴重な洞察を提供してくれることでしょう。

【講師】
浜辺真紀子事務所(IR/ESG コンサルティング)代表、(株)大塚商会 独立社外取締役、日本マクドナルドホールディングス(株)独立社外監査役、Morrow Sodali Japan シニアアドバイザー
浜辺 真紀子(はまべ まきこ)様
キャピタル・グループ ESGスチュワードシップ・マネジャー
藤木 彩(ふじき あや)様

(モデレーター)
Morrow Sodali Japan 価値創造戦略コンサルティング担当ディレクター
古木 謙太郎(こぎ けんたろう)様

セミナー資料 サステナビリティ経営時代の「株主との対話」を考える.pdf
ESGインテグレーションについてのご参考資料.pdf
セミナー動画

サステナビリティ経営時代の「株主との対話」を考える

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2024/03/19 【WEBセミナー】サステナビリティ経営時代の「株主との対話」を考える(会員限定)

概略

【WEBセミナー公開開始日】2024年3月19日

近年、サステナビリティに関する情報開示と株主との対話の重要性が急速に高まりつつあります。本ウェビナーは、IR/SRのエキスパートであり大手企業の独立社外役員としてご活躍される浜辺真紀子様をお招きし、上場企業に求められるサステナビリティ経営の本質と資本市場との対話のあるべき姿を分かり易く解説して頂きます。基調講演では、ESG/サステナビリティの基本的な考え方、上場企業にサステナビリティ経営が求められる理由、コーポレートガバナンスの本質、ESG投資の動向などの重要な論点について解説して頂きます。続くパネルディスカッションでは、著名なグローバル機関投資家であるキャピタル・グループにてESGスチュワードシップ・マネジャーとしてご活躍されている藤木彩様に加わって頂き、グローバル機関投資家としてのESGに対する考え方や方針、日本企業に対する期待についてお伺いします。企業のIR/SRとコーポレートガバナンスに精通した浜辺様とグローバル機関投資家としてエンゲージメントと議決権行使に豊富な経験を有する藤木様のディスカッションは、資本市場の要請に応えるサステナビリティ経営の実現に向けた貴重な洞察を提供してくれることでしょう。

【講師】
浜辺真紀子事務所(IR/ESG コンサルティング)代表、(株)大塚商会 独立社外取締役、日本マクドナルドホールディングス(株)独立社外監査役、Morrow Sodali Japan シニアアドバイザー
浜辺 真紀子(はまべ まきこ)様
キャピタル・グループ ESGスチュワードシップ・マネジャー
藤木 彩(ふじき あや)様

(モデレーター)
Morrow Sodali Japan 価値創造戦略コンサルティング担当ディレクター
古木 謙太郎(こぎ けんたろう)様

セミナー資料 サステナビリティ経営時代の「株主との対話」を考える.pdf
ESGインテグレーションについてのご参考資料.pdf
セミナー動画

サステナビリティ経営時代の「株主との対話」を考える

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2024/03/18 自社の主要取引先と直接コンサルティング契約を締結する社外取締役の独立性

社外取締役の増加に伴い、自ら事業を手掛ける者が社外取締役に就任するケースや、1人で複数の企業の社外取締役を兼業する者も増えてきた。2024年1月23日のニュース「コンサルティング業を営む社外取締役の協業義務違反」では、自社(A社)がX社(上場会社)を取引先とする提携を進めることになったところ、A社の社外取締役であり、コンサルティングを本業とする者(甲)もX社に対してコンサルティングを提供する営業活動を以前から進めていたという事例を紹介したところだ。この事例では、・・・

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