2023年12月1日のニュース『野村アセットマネジメント、改定議決権行使基準で「社外取締役は過半数を原則」を明示』では、毎年他の運用機関に先んじて議決権行使基準(以下、基準)を改定する野村アセットマネジメント(以下、野村)の改定基準の内容を解説したが、野村とほぼ同時期に基準を改定したのが大和アセットマネジメント(以下、大和)だ(改定基準の適用は12月から)。多くの運用機関は年明け以降に基準を改定するため、野村に続く大和の基準改定も少なからず他の運用機関に影響を及ぼすものと考えられる(ただし、大和の基準改定は年間複数回行われることが多く、今回の改定の前には、2022年10月19日、2023年5月15日にも改定が行われている)。以下、主な内容についてテーマごとに解説する。
(1)業績基準
大和は、「経営成績に問題がある」または「株主資本の有効活用に問題がある」企業について、直近3期以上在任した取締役(社外取締役を除く)の再任議案に反対することとしている。改定基準による反対条件は、①3期連続赤字、②「ROEが3期連続で同一業種内下位1/3」かつ「直近期末のPBRが1倍未満」、③「ROEが3期連続で同一業種内下位1/3」かつ「IRが極めて不十分」、の3パターンに整理できる。旧基準と比較すると、①3期連続赤字ならPBRの水準にかかわらず反対、②③のROE基準は「3期連続で同一業種内下位1/3」に一本化(「低下傾向」「問題があると判断」との基準を削除)、②PBR基準を「同一業種内下位1/3」という相対的基準から「1倍未満」という絶対的基準に変更、へと改定された。要するに、基準の明確化かつ厳格化が図られたと言えよう。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価 ÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。
| 2023/6/1基準 | 2023/12/1基準 |
| ・条件1: 3期連続赤字の企業で、直近決算期末のPBRが1倍を下回っている企業。 ・条件2: 以下の(ⅰ)~(ⅱ)のいずれかに該当し、かつ(ⅲ)にも該当する企業。 (ⅰ)直近3期のROEがすべて、同一業種内下位33%水準を下回っている企業。 (ⅱ) ROEが直近2期低下傾向にあり、かつ直近決算期のROE が同一業種内下位33%水準を下回っている企業のうち、問題があると判断した企業 (ⅲ)直近決算期末のPBRが同一業種内下位33%にある企業 ・条件3: 条件2の(ⅰ)~(ⅱ)のいずれかに該当し、かつIR活動が極めて不十分と判断される企業。 |
・条件1: 3期連続赤字の企業。 ・条件2: 以下の(ⅰ)および(ⅱ)に該当する企業。 (ⅰ)直近3期のROEがすべて、同一業種内下位33%水準を下回っている企業。 (ⅱ)直近決算期末のPBRが1倍を下回っている企業。 ・条件3: 条件2の(ⅰ)に該当し、かつIR活動が極めて不十分と判断する企業。 |
(2)経営トップ選任
買収防衛策について改定基準では、買収防衛策を「取締役会決議」によって導入・継続している場合のみならず、たとえ株主総会に諮っている場合でも、当該議案自体に加え、経営トップの選任議案にも反対することとされた。ただし、ここで反対対象となるのは、“平時”に導入される「事前導入型買収防衛策」に限られており、いざ敵対的買収の局面を迎えた場合に導入される「有事導入型の買収防衛策」は対象外となっている。これは、有事導入型の買収防衛策の導入を認めた司法判断、導入を諮る株主総会における議決権行使助言会社の賛成推奨があった2021年8月の東京機械製作所の事例が背景にあるものと考えられる(詳細は2022年6月22日のニュース「有事導入型買収防衛策辞さない姿勢示すもCEOの選任議案に高賛成率」参照)。買収防衛策の導入・継続に関する議案を上程する件数は減少しているとはいえ、今後、(事前導入型)買収防衛策の導入・継続に対する一段のプレッシャーとなろう。
事前導入型買収防衛策 : いつ現れるかわからない買収者への備えとして導入される買収防衛策のこと。買収者が守るべき手続き(例えば(1)一定割合以上の株式取得を狙う敵対的な買収者に対し、事前に設定した「猶予期間」中に、買収者自身や買収提案の内容など詳細な情報の提供を要求する、(2)社外役員や有識者などから構成される「独立委員会」が買収提案を精査する、(3)独立委員会の勧告を踏まえて、取締役会が賛成/反対の対応を決定する、等)を事前に定めておき、買収者がこのプロセスに従わずに買収(一定比率(通常は15~20%)以上の株式の買付け)を強行した場合、あるいはこのプロセスを通じて買収提案が濫用的と判断された場合には、必要に応じて対抗措置(新株予約権の発行など)を決議することになる。「濫用的」と見なされる買収行為の典型例として、株式を買い占めた後に高値で買い取ることを要求する、といったことが挙げられる。
有事導入型の買収防衛策 : 実際に買収者が出現してから導入する買収防衛策のこと。通常、有事導入型の買収防衛策は株主総会で承認を得ることが前提とされている。これにより時間稼ぎをするとともに、情報収集を行うことも有事導入型の買収防衛策の目的と言える。ただし、買収者側が買収防衛策の発動差し止めを裁判所に求めるケースもあり、有事型の買収防衛策が必ず認められるわけではない。また、買収者が公開買付期間を延長して時間を確保し、情報を提供した場合には有事型の買収防衛策を発動すること自体困難となる。
ジェンダー基準は「女性」から「ジェンダー」へと、多様な性差に対応した表現に変更された。このほか、新たな基準として、任意の指名報酬委員会を設置してないプライム市場上場企業の経営トップの再任議案に反対する。該当するケースはさほど多くはないと思われるが、投資家が指名報酬のガバナンス機能を重視していることの表れと言える。
| 2023/6/1基準 | 2023/12/1基準 |
| 1 ~⑤(略) ⑥ 買収防衛策を取締役会決議にて導入・継続している企業の代表取締役(または代表執行役)である再任候補者。 ⑦(略) ⑧ プライム市場上場企業において、役員に女性が1名以上選任(上程)されていない企業の代表取締役(または代表執行役)である再任候補者。 ⑨(略) ⑩(新設) |
1 ~⑤(略) ⑥ 買収防衛策を取締役会決議にて導入・継続している、または株主総会に事前導入型買収防衛策の導入・継続に関する議案を上程した企業の代表取締役(または代表執行役)である再任候補者。 ⑦(略) ⑧ プライム市場上場企業において、役員が複数のジェンダーで構成されていない企業の代表取締役(または代表執行役)である再任候補者。 ⑨(略) ⑩ プライム市場上場企業において、監査役会設置会社または監査等委員会設置会社で任意の指名委員会または報酬委員会を設置していない企業の代表取締役である再任候補者。 |
(3)社外取締役選任
独立性に問題のある社外取締役として、大株主のグループ会社の「関連会社」の役員または従業員が追加された。在任期間基準は12年のままだが、取締役としての在任期間に監査役としての在任期間が合算されることとなったため、実質的には厳格化されたと言える。さらに、今回新たに兼任基準が導入され、上場企業の役員を「5社以上」兼任している場合には反対対象とされることになった。社外取締役の実効性を求める近時の投資家の意向を反映したものだろう。
| 2023/6/1基準 | 2023/12/1基準 |
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1 (略) ② 独立性の観点で問題があると判断する候補者。 (*)独立性の観点で問題があると判断する基準は、独立性のある社外取締役が取締役会の構成員の過半を満たしておらず、以下のいずれかの条件に合致する候補者。 ・条件1:株主総会招集通知に、金融商品取引所が定める独立役員の要件を満たしている旨の記載が無い。 ・条件2:大株主およびその親子兄弟会社の役員または従業員。ただし、退職して5年以上経過している場合を除く。 ・条件3:株主総会時点で取締役としての在任期間が12年以上である 2 (略) 3 (新設) |
1 (略) ② 独立性の観点で問題があると判断する候補者。 (*)独立性の観点で問題があると判断する基準は、独立社外取締役が取締役会の構成員の過半を満たしておらず、以下のいずれかの条件に合致する候補者。 ・条件1:株主総会招集通知に、金融商品取引所が定める独立役員の要件を満たしている旨の記載が無い。 ・条件2:大株主およびその親子兄弟会社・関連会社の役員または従業員(退職者を含む。ただし、退職して5年以上経過している場合を除く)。 ・条件3:株主総会時点で取締役または監査役としての在任期間が12年以上である。 3 (略) 4 当該企業を含めて、上場企業の役員を5社以上兼任することになる候補者。 |
(4)社外取締役の報酬
従来は、不祥事があった場合や業績不振の場合の報酬増額に反対する基準の対象に社外取締役も含まれていた。しかし今回の改定で、報酬委員会を設置している企業については反対しない、すなわち原則賛成するスタンスに転じている。社外取締役に経営責任を負わせない趣旨であるが、報酬ガバナンスの整備(社外取締役が過半数を占める報酬委員会の設置)を促進する意図もあると考えられる。
| 2023/6/1基準 | 2023/12/1基準 |
| 以下のいずれかに該当する企業の一人あたり役員報酬額を増額する議案については、反対する。 (ⅰ)(ⅱ)(略) |
以下のいずれかに該当する企業の一人あたり役員報酬額を増額する議案については、反対する。ただし法定または任意の報酬委員会を設置している企業においては、社外取締役の報酬は除く。 (ⅰ)(ⅱ)(略) |
以上のとおり、今回の大和による基準改定には、PBR1倍割れ問題、多様な性差、社外取締役の機能発揮、指名報酬ガバナンスの強化といった、近時のガバナンス議論がタイムリーに反映されている。このようなテーマは他の運用機関における基準改定でも取りあげられる可能性が高い。上場企業としては基準改定を待たず、先を読んだ対応を進めたいところだ。
