上場会社で不祥事が発覚すると、不祥事の内容や重要性次第で独立した第三者による調査委員会(第三者委員会)による調査が開始することになる。この第三者委員会は、「特別委員会」などと呼ばれる特定の事項を掘り下げて調査する委員会に移行するような特殊なケースを除き、調査自体が打ち切りとなって別の委員会も設置されないまま解散するということはまずない。なぜなら、「不祥事の有無を明らかにする」ために設置した第三者委員会を解散させれば、「不祥事が存在する可能性が高いことを一旦は認めておきながら結局はうやむやにされた」として、会社に対する利害関係者の不信感がより一層高まりかねないからだ。
第三者委員会が「不正の当事者から調査への協力を得られない」「資料が散逸して調査ができない」といった困難な状況に直面することはあり得るが、第三者委員会の委員の引き受け手も、調査がスムーズに進まないリスクは当然想定している。また、仮に調査範囲に想定外の制約が出て来たとしても、当該制約の存在を第三者委員会の調査報告書に明記すれば済む。それだけに、東証プライム市場に上場するフジテックが、2022年8月10日に調査を委嘱した第三者委員会(フジテックのリリースはこちら)が調査結果を報告することなく2023年4月7日に解散し、調査および検証が打ち切りとなった(フジテックのリリースはこちら)のは“異例中の異例”と言える。
2023年3月30日のニュース「総数9名の取締役会で4名のアクティビスト派が多数決を制した背景」でお伝えしたとおり、フジテックは、香港のアクティビストファンドであるオアシスマネジメント(以下、オアシス)が送り込んだ社外取締役を中心とした“改革派”の社外取締役が取締役会の過半数を握ることで、内山前会長との関係決別に向け第一歩を歩み始めた。そのフジテックにとって、内山前会長と会社間の取引を調査するために設置された第三者委員会(当該第三者委員会については2023年3月1日のニュース「フジテックで社外取解任、アクティビストとの闘争の行方の鍵を握る第三者委員会」を参照)の調査結果は、今後同社のガバナンス強化を進めるうえでの鍵となるはずだったが、第三者委員会の解散により真相解明は暗礁に乗り上げた状態となっている。
注目されるのは、第三者委員会の解散が同委員会の委員からの申し出によってなされたものだったということだ。その理由は、フジテックが第三者委員会からの資料開示やインタビュー調整の要請に非協力的であったことに加え、調査報告書の内容に干渉しようとしてきたり、内山会長が訴訟提起をちらつかせたりしてきたことにある(2023年4月7日のフジテックのリリースを参照)。
多くの第三者委員会が運営実務の拠り所としている日本弁護士連合会「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」によると、「第三者委員会は、その任務を果たすため、企業等に対して、調査に対する全面的な協力のための具体的対応を求めるものとし、企業等は、第三者委員会の調査に全面的に協力する。」とされている。第三者委員会は警察や税務署などの強制調査権を有する行政機関と異なり、強制力を持たない任意の調査主体に過ぎないことから、会社側の全面協力がないことには任務の遂行は極めて困難となる。したがって、調査を委嘱する会社側としては、第三者委員会を設置すると決めた時点で第三者委員会の調査に対して全面的に協力することを社内関係部署に伝えておく必要がある。
しかし、フジテックの対応は全面協力とは程遠いものであった。例えば、フジテックの第三者委員会が退職者へのヒアリングを要請したところ、フジテックは「コンタクト先が分からないので、実施は困難」と回答していた。しかし、第三者委員会によるフォレンジック調査の結果、実際にはフジテック担当者が退職者に連絡をとっていたことが判明した(虚偽の理由に基づくヒアリングのアレンジの拒絶)。また、フジテックは第三者委員会による資料開示請求も1か月ほど放置し、調査期間(当初は2022年12月末まで)の終了間近になってようやく開示するなど真摯に対応してこなかった(資料の提出遅延)。さらには、第三者委員会のメンバーに対し、調査報告書の記載内容に干渉するメールを送付していた(調査報告書への干渉)。
これに追い打ちをかけたのが、内山氏が代表を務める関連会社から第三者委員会に対し、「対応如何によって法的措置を講じる」旨の警告文(2022年12月27日付)が送付されたことだ。ここまで行くと、第三者委員会の委員が「もはや会社側との信頼関係はなく、契約期間を延長して調査を継続することは困難」と判断するのもやむを得ないところだろう。
なお、3月28日に開催されたフジテック取締役会が新たに調査を委嘱した第三者委員会は、調査対象が異なり(*)、委員も一切重複しないため、今回の第三者委員会解散の影響は受けない。
* 3月28日に開催されたフジテック取締役会が新たに調査を委嘱した第三者委員会は、2023年2月24日に開催された臨時株主総会に際し、株主提案による取締役候補者らに対し、その適格性、社会的信用、名誉等を毀損又は低下させるような行為や、同候補者らに対して同社の取締役候補者を辞退するように威迫その他の働きかけが行われたとの情報が寄せられたことについて調査することを目的としている。詳細は2023年3月30日のニュース「
総数9名の取締役会で4名のアクティビスト派が多数決を制した背景」参照。
第三者委員会側から契約期間の延長を拒否されるという異例の展開となる中、フジテックは2023年4月7日のリリースにおいて、「第三者委員会の上記指摘を踏まえますと、同委員会が契約期間を延長しない(再契約しない)と判断されたことは遺憾ながらやむをえない」としたうえで、「第三者委員会からの調査範囲やその考え方、当社の対応への指摘事項等、この度の調査を通して得られた教訓については、今後の更なるガバナンス強化に活かして参りたい」「これまでのコーポレートガバナンス改善の取組みに加えて、この度の内山氏の解職により、株主の皆さまにご懸念を抱かせるような内山家との関連当事者取引については、今後、発生しない旨、申し添えます」と強調している。このリリースは「内山家との今後の関係」についての方針を示すものであり、「これまでの関係に対する責任追及」には触れていない。
元々、オアシスが“Saving Fujitec”キャンペーンを開始したのは、フジテックと内山家の一連の疑わしい取引を明確にすることにより、フジテックのコーポレートガバナンスが改善され、取締役会の強いリーダーシップの下で持続的成長が達成できると考えていたからである。このキャンペーンにおいて公表された、フジテックの社員が同社の制服を着て西宮の内山社長(当時)の自宅を掃除して茨木事業所に戻る様子を収めた写真のインパクトは大きく、株主総会における株主の投票行動に大きな影響を与えたものと思われる。こうした経緯を踏まえると、仮に「内山氏の会長解職」だけで本問題に終止符を打つのであれば、尻すぼみ感は拭えない。「公私混同」が事実であればその分だけ企業価値が毀損しているはずであり、その調査と回復は現フジテック経営陣に課された使命と言えよう。