2023/04/14 給与支払を巡る確実なコスト削減

2023年4月1日から、賃金の「デジタルマネー払い」が解禁されている(改正労働基準法施行規則7条の2~7条の8)。もっとも、同日からデジタルマネー払いが可能となるわけではなく、現時点では「〇〇ペイ」といった資金移動業者が厚生労働大臣に「指定申請」を行うことができるようになったにすぎない。厚生労働省の審査をパスした資金移動業者は「指定資金移動業者」となり、企業から賃金のデジタルマネー払いを受託できるようになるが、厚生労働省によると、この審査には数か月かかる見込みだという。さらに、賃金のデジタル払いを導入しようという各企業は、どの指定資金移動業者を利用するのかなどを内容とする労使協定を締結しなければならず、そのうえで従業員が賃金のデジタル払いを希望する場合には、使用者(会社)に「同意書」を提出することで、ようやく賃金のデジタル払いが可能となる。既に賃金のデジタル払いを検討している企業もあるが、デジタル払いを実施するとなった場合、この同意書の取得のほか、デジタル払いを希望する従業員と希望しない従業員の峻別、さらには、デジタル払いの金額は1回の入金額の上限を「100万円」として労働者側が自由に設定できることから(デジタル払いの金額を全従業員一律としない限り)従業員毎のデジタル払いの金額を管理する必要が生じるなど、企業の事務負担は大きくなるだろう。このため、デジタル払いを実施するかどうか、実施するとしてもどのようなステップを踏むべきか、頭を悩ませている企業も多いものと思われる。

労使協定 : 労働者と使用者との間の合意のこと。労使協定は、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合には当該労働組合と使用者、そのような労働組合がない場合には、当該事業場の労働者の過半数を代表する労働者と使用者の間で「書面」により締結する必要がある。また、労働基準法上、労使協定は「事業場ごと」に締結することとされているため、事務所や工場等が2か所以上ある場合には、各事務所、工場等ごとに締結する必要がある。労働基準法の36条に基づくいわゆる“サブロク協定”も労使協定の一つである。

一方、同じく給与支払を巡る問題で、・・・

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2023/04/14 給与支払を巡る確実なコスト削減(会員限定)

2023年4月1日から、賃金の「デジタルマネー払い」が解禁されている(改正労働基準法施行規則7条の2~7条の8)。もっとも、同日からデジタルマネー払いが可能となるわけではなく、現時点では「〇〇ペイ」といった資金移動業者が厚生労働大臣に「指定申請」を行うことができるようになったにすぎない。厚生労働省の審査をパスした資金移動業者は「指定資金移動業者」となり、企業から賃金のデジタルマネー払いを受託できるようになるが、厚生労働省によると、この審査には数か月かかる見込みだという。さらに、賃金のデジタル払いを導入しようという各企業は、どの指定資金移動業者を利用するのかなどを内容とする労使協定を締結しなければならず、そのうえで従業員が賃金のデジタル払いを希望する場合には、使用者(会社)に「同意書」を提出することで、ようやく賃金のデジタル払いが可能となる。既に賃金のデジタル払いを検討している企業もあるが、デジタル払いを実施するとなった場合、この同意書の取得のほか、デジタル払いを希望する従業員と希望しない従業員の峻別、さらには、デジタル払いの金額は1回の入金額の上限を「100万円」として労働者側が自由に設定できることから(デジタル払いの金額を全従業員一律としない限り)従業員毎のデジタル払いの金額を管理する必要が生じるなど、企業の事務負担は大きくなるだろう。このため、デジタル払いを実施するかどうか、実施するとしてもどのようなステップを踏むべきか、頭を悩ませている企業も多いものと思われる。

労使協定 : 労働者と使用者との間の合意のこと。労使協定は、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合には当該労働組合と使用者、そのような労働組合がない場合には、当該事業場の労働者の過半数を代表する労働者と使用者の間で「書面」により締結する必要がある。また、労働基準法上、労使協定は「事業場ごと」に締結することとされているため、事務所や工場等が2か所以上ある場合には、各事務所、工場等ごとに締結する必要がある。労働基準法の36条に基づくいわゆる“サブロク協定”も労使協定の一つである。

一方、同じく給与支払を巡る問題で、早期に事務負担の軽減見込まれるのが、給与明細および源泉徴収票(以下、給与明細等)の電子交付だ。給与明細等の電子交付は以前から所得税法で認められており(所得税法226条4項、231条2項)、実際、電子化された給与明細等をパソコンやスマートフォンで閲覧させるクラウドサービスなども普及しつつある。

ただ、特に社員数の多い上場企業等が給与明細等の電子交付の採用するうえでネックとなっていたのが、所得税法上、給与等の支払いを受ける者に対し、電子交付の種類及び内容を示して「承諾」を得るとの条件が課されていることだ。社員数が多い企業では、例えば「承諾」を要請するメールを送信してもレスをしない従業員が一定数出て来る。この従業員のためだけに紙の給与明細等を発行するというのも手間であるため、結局いつまで経っても全社的な電子交付に移行できないという声が企業側から挙がっていた。こうした声を受け、令和5年度税制改正では、源泉徴収票および給与支払明細書を電子交付するために必要な従業員の承諾手続が簡素化される方向となっていたが(2022年12月7日のニュース「人事部門等の業務負担が大幅軽減へ」参照)、その詳細が判明している。

具体的には、「期限までに『承諾をしない』旨の回答がない場合には承諾があったものとみなす」旨を従業員に通知し、期限までに回答がなければ「承諾を得た」ものとみなしてよいとの規定(以下、みなし規定)が新設された(所得税法施行規則95条の2第2項)。このみなし規定は「2023年4月1日以後に行う通知」から適用が開始しているため、既に企業は、給与明細等の電子交付に向け、従業員にこの通知を送ってみなし規定の適用を受けられる状態にある。

さらに国税庁からは、みなし規定に関するQ&Aも公表されている(問7~問9がみなし規定に関するもの)。問7は上記で説明したみなし規定の内容を解説するものであり、問8は「回答期限」について「法令上の定めがない」としたうえで、「受給者の方の勤務状況等を考慮し、回答に必要な期間を十分に見積もっていただくようお願いします」と要請している。回答期限までが極端に短いと問題になる可能性はあるが、いくら多忙でも例えばメールを1か月返せないということは考えにくいため、常識的な期間を設定しておけば何ら問題はないだろう。問9は事前承諾のための通知の方法は「適宜の方法(例えば、電子メール、書面等)」で差し支えないとされたほか、就業規則への記載は「法令上特段求められていない」ことが明示された。また、企業側からは「事前承諾のための通知は電子交付の都度行う必要があるのか」との疑問も寄せられていた模様だが、1度行えば済むことも判明している。ただし、(レアケースとは思われるが)一旦承諾を得た従業員が紙での交付を求めて来た場合には、再度電子交付の承諾を得るまでは紙で交付することになる(所得税法施行規則352条の4第2項、353条2項、356条2項)。

このように、給与明細等の電子交付のネックとなっていた承諾要件の運用が、いずれも法令上の縛りなく企業の裁量に委ねられたことで、今後は、「デジタルマネー払い」より先に、人事部門の負担や印刷コストの軽減につながる電子交付が急速に広がる可能性があろう。

2023/04/13 【WEBセミナー】『上場会社の企業価値向上に向けた東証の対応について』

概略

【WEBセミナー公開開始日】2023年4月13日

東京証券取引所は、2022年7月に「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(以下「フォローアップ会議」)を設置しました。同会議では、市場区分の見直しの実効性向上に向けて、上場会社の企業価値向上に向けた取組や経過措置の取扱いなどについて議論が行われ、本年1月、東証は「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議の論点整理」および「論点整理を踏まえた今後の東証の対応」(以下「東証の対応」)を公表しています。
本セミナーでは、東京証券取引所 上場部長の菊池教之様をお招きし、具体的な施策に直結するであろう「東証の対応」を中心に解説していただきます。東証の対応は、「1.経過措置の終了時期の明確化」と「2.中長期的な企業価値向上に向けた取組の動機付け」の2つのパートにより構成されていますが、特に後者のパートに含まれる「資本コストや株価を意識した経営の促進に向けた要請」については上場会社各社の関心も高いところです。資本コストや株価を「投資者目線」で意識することを上場会社に求めていくということについて、その具体的な内容はフォローアップ会議において議論が続いているところですが、本セミナーでは、直近の議論も踏まえた上で、上場会社に求めれる対応についてお話しいただきます。
このほか、コーポレート・ガバナンスの質の向上、英文開示の更なる拡充、投資者との対話の実効性向上に関する今後の方策も示されており、今後、上場会社には様々な対応が求められることになります。これら東証の対応策は、「2023年春」から順次実施されることとされており、本セミナーは東京証券取引所の考え方を直接聞くことができる貴重な機会となります。

【講師】
東京証券取引所 上場部長 菊池 教之 様

セミナー資料 上場会社の企業価値向上に向けた東証の対応について.pdf
セミナー動画

上場会社の企業価値向上に向けた東証の対応について

67653

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2023/04/13 WEBセミナー『上場会社の企業価値向上に向けた東証の対応について』配信開始!

2023年4月14日(金)より下記のWEBセミナー(2023年4月11日に開催した会場型セミナーの収録)の配信を開始いたしました。

テーマ 講 師
上場会社の企業価値向上に向けた東証の対応について 東京証券取引所 上場部長 菊池 教之 様

■WEBセミナーの詳細

セミナー
の内容
東京証券取引所は、2022年7月に「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(以下「フォローアップ会議」)を設置しました。同会議では、市場区分の見直しの実効性向上に向けて、上場会社の企業価値向上に向けた取組や経過措置の取扱いなどについて議論が行われ、本年1月、東証は「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議の論点整理」および「論点整理を踏まえた今後の東証の対応」(以下「東証の対応」)を公表しています。
本セミナーでは、東京証券取引所 上場部長の菊池教之様をお招きし、具体的な施策に直結するであろう「東証の対応」を中心に解説していただきます。東証の対応は、「1.経過措置の終了時期の明確化」と「2.中長期的な企業価値向上に向けた取組の動機付け」の2つのパートにより構成されていますが、特に後者のパートに含まれる「資本コストや株価を意識した経営の促進に向けた要請」については上場会社各社の関心も高いところです。資本コストや株価を「投資者目線」で意識することを上場会社に求めていくということについて、その具体的な内容はフォローアップ会議において議論が続いているところですが、本セミナーでは、直近の議論も踏まえた上で、上場会社に求めれる対応についてお話しいただきます。
このほか、コーポレート・ガバナンスの質の向上、英文開示の更なる拡充、投資者との対話の実効性向上に関する今後の方策も示されており、今後、上場会社には様々な対応が求められることになります。これら東証の対応策は、「2023年春」から順次実施されることとされており、本セミナーは東京証券取引所の考え方を直接聞くことができる貴重な機会となります。
講師の
ご紹介
菊池 教之(きくち のりゆき)様
1996年4月に東京証券取引所に入社後、デリバティブ取引制度企画、上場制度企画、株式売買制度企画などの業務に携わり、2022年4月から上場部長(現職)。現在は、市場区分の見直し・スタートアップ育成に係る制度整備、コーポレート・ガバナンスの充実に向けた検討など上場制度の企画・立案から運用までの全般を所管。

会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
■会員向けURL(ログインが必要です)
/member/webseminar-webseminar-l/67644/

非会員の方は下記URLよりWEBセミナーの視聴をお申込みいただけます。
■非会員向けURL(グーグルフォームが立ち上がります)
https://forms.gle/nyeDeHWiaJe3uKmX9

<収録月>
2023年4月

<収録時間>
1時間5分

<視聴環境>
ブラウザー上で視聴できます。インターネットエクスプローラー、エッジで再生できない場合は、ChromeまたはFirefoxなど他のブラウザーをお試しください。また、インターネットに接続する際にプライベートネットワークやプロキシサーバーを経由している場合やファイアーウォールのセキュリティレベルが高い場合には、サンプル動画が再生されない可能性があります。
万が一、こちらのサンプル動画が再生されない場合、端末を管理するシステム管理者にお問い合わせください。

2023/04/13 WEBセミナー『上場会社の企業価値向上に向けた東証の対応について』(会員限定)

概略

【WEBセミナー公開開始日】2023年4月13日

東京証券取引所は、2022年7月に「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(以下「フォローアップ会議」)を設置しました。同会議では、市場区分の見直しの実効性向上に向けて、上場会社の企業価値向上に向けた取組や経過措置の取扱いなどについて議論が行われ、本年1月、東証は「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議の論点整理」および「論点整理を踏まえた今後の東証の対応」(以下「東証の対応」)を公表しています。
本セミナーでは、東京証券取引所 上場部長の菊池教之様をお招きし、具体的な施策に直結するであろう「東証の対応」を中心に解説していただきます。東証の対応は、「1.経過措置の終了時期の明確化」と「2.中長期的な企業価値向上に向けた取組の動機付け」の2つのパートにより構成されていますが、特に後者のパートに含まれる「資本コストや株価を意識した経営の促進に向けた要請」については上場会社各社の関心も高いところです。資本コストや株価を「投資者目線」で意識することを上場会社に求めていくということについて、その具体的な内容はフォローアップ会議において議論が続いているところですが、本セミナーでは、直近の議論も踏まえた上で、上場会社に求めれる対応についてお話しいただきます。
このほか、コーポレート・ガバナンスの質の向上、英文開示の更なる拡充、投資者との対話の実効性向上に関する今後の方策も示されており、今後、上場会社には様々な対応が求められることになります。これら東証の対応策は、「2023年春」から順次実施されることとされており、本セミナーは東京証券取引所の考え方を直接聞くことができる貴重な機会となります。

【講師】
東京証券取引所 上場部長 菊池 教之 様

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上場会社の企業価値向上に向けた東証の対応について

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2023/04/13 研究職のワークライフバランス

マイクロソフト、Google、iPhone、Amazon、コロナ禍で急速に普及したZOOMなど、続々と巨大企業が出現する米国に比べると、日本ではそもそも新たな産業や科学技術が生まれていないと指摘されるようになって久しい。こうした状況を改善すべく、政府は企業に研究開発投資を促しているが(例えば、令和5年度税制改正では研究開発税制を見直し、試験研究費の増減割合に応じて、法人税額から控除できる金額の上限が従来より急角度で変動する仕組みを導入している。経済産業省の資料20ページ参照)。研究開発が成功するかどうかは結局は従業員等の能力、すなわち「人的資本」によるところが大きい。自社の研究開発を担う優秀な人材の採用や教育、そしてマネジメントは、人的資本経営の中でも極めて重要性が高いと言えるだろう。

研究開発税制 : 企業による研究開発を促進することを目的として、法人税額から、試験研究費の額に応じた税額控除割合を乗じて算出した金額を控除できる税制優遇措置。
人的資本経営 : 会社で働く従業員をコストとして見るのではなく、事業の価値を向上させる投資対象として位置づけて経営すること。

研究開発業務従事者(以下、研究職)のマネジメントとして経営陣が意識する必要があるのが「ワークライフバランス」だ。実は研究職は、ともすれば“ブラック”な労働環境に置かれかねない。

周知のとおり、・・・

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2023/04/13 研究職のワークライフバランス(会員限定)

マイクロソフト、Google、iPhone、Amazon、コロナ禍で急速に普及したZOOMなど、続々と巨大企業が出現する米国に比べると、日本ではそもそも新たな産業や科学技術が生まれていないと指摘されるようになって久しい。こうした状況を改善すべく、政府は企業に研究開発投資を促しているが(例えば、令和5年度税制改正では研究開発税制を見直し、試験研究費の増減割合に応じて、法人税額から控除できる金額の上限が従来より急角度で変動する仕組みを導入している。経済産業省の資料20ページ参照)。研究開発が成功するかどうかは結局は従業員等の能力、すなわち「人的資本」によるところが大きい。自社の研究開発を担う優秀な人材の採用や教育、そしてマネジメントは、人的資本経営の中でも極めて重要性が高いと言えるだろう。

研究開発税制 : 企業による研究開発を促進することを目的として、法人税額から、試験研究費の額に応じた税額控除割合を乗じて算出した金額を控除できる税制優遇措置。
人的資本経営 : 会社で働く従業員をコストとして見るのではなく、事業の価値を向上させる投資対象として位置づけて経営すること。

研究開発業務従事者(以下、研究職)のマネジメントとして経営陣が意識する必要があるのが「ワークライフバランス」だ。実は研究職は、ともすれば“ブラック”な労働環境に置かれかねない。

周知のとおり、法定労働時間(基本的には週40時間)を超える労働(以下、時間外労働)を命じるには、「時間外労働・休日労働に関する労使協定」(労働基準法36条に基づくため「三六協定(サブロク協定)」と呼ばれる)を締結しておかなければならない。この三六協定で定める時間外労働時間数は、2019年4月から(中小企業(中小企業の範囲は厚生労働省のパンフレットの5ページ参照)は2020年4月から)原則として「月45時間(1年変形では月42時間)、年360時間(1年変形では年320時間)」が限度とされた(労働基準法第36条4項、H30.9.7基発0907第1号)。ただし、この上限規制は以下の事業(または業務)には適用されないことになっている。

1年変形 : 「1年単位の変形労働時間制」のこと。1年単位の変形労働時間制の下では、1か月を超え1年以内の期間で、1週間の平均労働時間を40時間以内に収めればよい。季節によって忙しい時期とそうでない時期がある業種や、休日の日数を年間で決めている企業などが労働時間の調整を行うために利用している。

1.工作物の建設の事業
2.自動車運転の業務
3.医業に従事する医師
4.鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業
5.新技術・新商品等の研究開発業務

上記のうち1~4については「2024年3月31日まで」の猶予措置であり、猶予期間経過後は新たな基準が設けられるか上限規制がすべて適用されることになる一方、5の研究開発業務については、来年4月1日以降も適用除外のままとされる。ただし、だからと言って経営陣は「研究職は三六協定さえ締結しておけば無制限に残業させられる」と考えるべきではない。

まず、研究職であっても、時間外労働が月100時間を超えた場合には医師の面談を受けさせなければならない。また他の業務同様、直近2~6か月間の時間外労働が月あたり80時間を超えた場合、「脳・心臓疾患の発症は業務との関連性が強い」と認められ、労災事故防止の観点から行政当局の指導対象とされることになる。また、やはり他の業務と同様、月60時間を超える時間外労働に対しては50%以上の割増賃金を支払わなければならない(中小企業もこの4月から適用)。

研究職の場合、専門業務型裁量労働制(労働基準法38条の3)の適用対象となっているケースも多いが、例えば1日のみなし労働時間を8時間と設定していたとしても、実際の労働時間がみなし労働時間とかけ離れていることが行政当局の調査で判明すれば、指導対象となることは十分あり得る。また、残業が発生することをあらかじめ見込んで、みなし労働時間に時間外労働時間数を含め賃金を支払っているケースも見受けられるが、例えば1日のみなし労働時間を12時間(法定労働時間8時間+時間外労働4時間)と設定していた場合、1か月の残業時間は80時間(1日4時間×5日×4週)となり、上記60時間を超えるため、20時間(80時間-60時間)分の時間外労働に対しては50%以上の割増賃金を支払わなければならない。

専門業務型裁量労働制 : 労働者が実際に就業した時間とは関係なく、一定の時間を労働したものとみなす制度を「裁量労働制」という。裁量労働制を採用する場合、労使協定や労使委員会などで「みなし労働時間」が定められ、労働者がみなし労働時間より短時間しか勤務しなかった場合でも、みなし労働時間分は働いたものとして所定の給与が支払われる一方、みなし労働時間を超えて働いた場合でも残業代は支払われない。また、裁量労働制は業務の遂行方法を自らの裁量によって判断できるため、例えば決められた時間に出社する必要はない。裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」があり、前者を導入できる業務としては、研究職、プログラマー、士業、証券アナリストなど19の業務がある。一方、後者は業種ではなく、労働者の業務内容によって導入の可否が判断される。具体的には、事業の運営に関する事項の企画、立案、調査、分析業務が対象となる。

研究開発業務には必ずしも明確なゴールが設定されているわけではないため、ついダラダラと長時間労働を続けてしまいがちだが、ワークライフバランスが取れている状態の方が精神的な余裕が生まれ、イノベーションが創出されやすいとも言われる。また、プライベートでの経験から得た気付きがヒントになり、イノベーションの創出につながる可能性もある。経営陣としては、研究職のワークライフバランスに目を配り、イノベーションが生まれやすい労働環境を作っていく必要があろう。

 

 
 
 
 

 

 

2023/04/12 GW休業のお知らせ

誠に勝手ながら、2023年4月28日(金)~2023年5月2日(火)のゴールデンウィーク期間中、事務局は休業となります。
ご不便をおかけしますが、何卒ご理解いただきますようお願い致します。

2023/04/12 不祥事調査を目的とする第三者委員会の限界

上場会社で不祥事が発覚すると、不祥事の内容や重要性次第で独立した第三者による調査委員会(第三者委員会)による調査が開始することになる。この第三者委員会は、「特別委員会」などと呼ばれる特定の事項を掘り下げて調査する委員会に移行するような特殊なケースを除き、調査自体が打ち切りとなって別の委員会も設置されないまま解散するということはまずない。なぜなら、「不祥事の有無を明らかにする」ために設置した第三者委員会を解散させれば、「不祥事が存在する可能性が高いことを一旦は認めておきながら結局はうやむやにされた」として、会社に対する利害関係者の不信感がより一層高まりかねないからだ。

第三者委員会が「不正の当事者から調査への協力を得られない」「資料が散逸して調査ができない」といった困難な状況に直面することはあり得るが、第三者委員会の委員の引き受け手も、調査がスムーズに進まないリスクは当然想定している。また、仮に調査範囲に想定外の制約が出て来たとしても、当該制約の存在を第三者委員会の調査報告書に明記すれば済む。それだけに、・・・

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2023/04/12 不祥事調査を目的とする第三者委員会の限界(会員限定)

上場会社で不祥事が発覚すると、不祥事の内容や重要性次第で独立した第三者による調査委員会(第三者委員会)による調査が開始することになる。この第三者委員会は、「特別委員会」などと呼ばれる特定の事項を掘り下げて調査する委員会に移行するような特殊なケースを除き、調査自体が打ち切りとなって別の委員会も設置されないまま解散するということはまずない。なぜなら、「不祥事の有無を明らかにする」ために設置した第三者委員会を解散させれば、「不祥事が存在する可能性が高いことを一旦は認めておきながら結局はうやむやにされた」として、会社に対する利害関係者の不信感がより一層高まりかねないからだ。

第三者委員会が「不正の当事者から調査への協力を得られない」「資料が散逸して調査ができない」といった困難な状況に直面することはあり得るが、第三者委員会の委員の引き受け手も、調査がスムーズに進まないリスクは当然想定している。また、仮に調査範囲に想定外の制約が出て来たとしても、当該制約の存在を第三者委員会の調査報告書に明記すれば済む。それだけに、東証プライム市場に上場するフジテックが、2022年8月10日に調査を委嘱した第三者委員会(フジテックのリリースはこちら)が調査結果を報告することなく2023年4月7日に解散し、調査および検証が打ち切りとなった(フジテックのリリースはこちら)のは“異例中の異例”と言える。

2023年3月30日のニュース「総数9名の取締役会で4名のアクティビスト派が多数決を制した背景」でお伝えしたとおり、フジテックは、香港のアクティビストファンドであるオアシスマネジメント(以下、オアシス)が送り込んだ社外取締役を中心とした“改革派”の社外取締役が取締役会の過半数を握ることで、内山前会長との関係決別に向け第一歩を歩み始めた。そのフジテックにとって、内山前会長と会社間の取引を調査するために設置された第三者委員会(当該第三者委員会については2023年3月1日のニュース「フジテックで社外取解任、アクティビストとの闘争の行方の鍵を握る第三者委員会」を参照)の調査結果は、今後同社のガバナンス強化を進めるうえでの鍵となるはずだったが、第三者委員会の解散により真相解明は暗礁に乗り上げた状態となっている。

注目されるのは、第三者委員会の解散が同委員会の委員からの申し出によってなされたものだったということだ。その理由は、フジテックが第三者委員会からの資料開示やインタビュー調整の要請に非協力的であったことに加え、調査報告書の内容に干渉しようとしてきたり、内山会長が訴訟提起をちらつかせたりしてきたことにある(2023年4月7日のフジテックのリリースを参照)。

多くの第三者委員会が運営実務の拠り所としている日本弁護士連合会「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」によると、「第三者委員会は、その任務を果たすため、企業等に対して、調査に対する全面的な協力のための具体的対応を求めるものとし、企業等は、第三者委員会の調査に全面的に協力する。」とされている。第三者委員会は警察や税務署などの強制調査権を有する行政機関と異なり、強制力を持たない任意の調査主体に過ぎないことから、会社側の全面協力がないことには任務の遂行は極めて困難となる。したがって、調査を委嘱する会社側としては、第三者委員会を設置すると決めた時点で第三者委員会の調査に対して全面的に協力することを社内関係部署に伝えておく必要がある。

しかし、フジテックの対応は全面協力とは程遠いものであった。例えば、フジテックの第三者委員会が退職者へのヒアリングを要請したところ、フジテックは「コンタクト先が分からないので、実施は困難」と回答していた。しかし、第三者委員会によるフォレンジック調査の結果、実際にはフジテック担当者が退職者に連絡をとっていたことが判明した(虚偽の理由に基づくヒアリングのアレンジの拒絶)。また、フジテックは第三者委員会による資料開示請求も1か月ほど放置し、調査期間(当初は2022年12月末まで)の終了間近になってようやく開示するなど真摯に対応してこなかった(資料の提出遅延)。さらには、第三者委員会のメンバーに対し、調査報告書の記載内容に干渉するメールを送付していた(調査報告書への干渉)。

これに追い打ちをかけたのが、内山氏が代表を務める関連会社から第三者委員会に対し、「対応如何によって法的措置を講じる」旨の警告文(2022年12月27日付)が送付されたことだ。ここまで行くと、第三者委員会の委員が「もはや会社側との信頼関係はなく、契約期間を延長して調査を継続することは困難」と判断するのもやむを得ないところだろう。

なお、3月28日に開催されたフジテック取締役会が新たに調査を委嘱した第三者委員会は、調査対象が異なり()、委員も一切重複しないため、今回の第三者委員会解散の影響は受けない。

 3月28日に開催されたフジテック取締役会が新たに調査を委嘱した第三者委員会は、2023年2月24日に開催された臨時株主総会に際し、株主提案による取締役候補者らに対し、その適格性、社会的信用、名誉等を毀損又は低下させるような行為や、同候補者らに対して同社の取締役候補者を辞退するように威迫その他の働きかけが行われたとの情報が寄せられたことについて調査することを目的としている。詳細は2023年3月30日のニュース「総数9名の取締役会で4名のアクティビスト派が多数決を制した背景」参照。

第三者委員会側から契約期間の延長を拒否されるという異例の展開となる中、フジテックは2023年4月7日のリリースにおいて、「第三者委員会の上記指摘を踏まえますと、同委員会が契約期間を延長しない(再契約しない)と判断されたことは遺憾ながらやむをえない」としたうえで、「第三者委員会からの調査範囲やその考え方、当社の対応への指摘事項等、この度の調査を通して得られた教訓については、今後の更なるガバナンス強化に活かして参りたい」「これまでのコーポレートガバナンス改善の取組みに加えて、この度の内山氏の解職により、株主の皆さまにご懸念を抱かせるような内山家との関連当事者取引については、今後、発生しない旨、申し添えます」と強調している。このリリースは「内山家との今後の関係」についての方針を示すものであり、「これまでの関係に対する責任追及」には触れていない。

元々、オアシスが“Saving Fujitec”キャンペーンを開始したのは、フジテックと内山家の一連の疑わしい取引を明確にすることにより、フジテックのコーポレートガバナンスが改善され、取締役会の強いリーダーシップの下で持続的成長が達成できると考えていたからである。このキャンペーンにおいて公表された、フジテックの社員が同社の制服を着て西宮の内山社長(当時)の自宅を掃除して茨木事業所に戻る様子を収めた写真のインパクトは大きく、株主総会における株主の投票行動に大きな影響を与えたものと思われる。こうした経緯を踏まえると、仮に「内山氏の会長解職」だけで本問題に終止符を打つのであれば、尻すぼみ感は拭えない。「公私混同」が事実であればその分だけ企業価値が毀損しているはずであり、その調査と回復は現フジテック経営陣に課された使命と言えよう。