2023/04/11 非財務情報の「質」を担保する監査基準創設の可能性

周知のとおり、「2023年3月31日以後に終了する事業年度」の有価証券報告書(有報)に【サステナビリティに関する考え方及び取組】の記載欄が新設されるなど(改正開示府令の概要は2023年2月2日のニュース『速報・改正開示府令 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示は早期適用可能に』参照)、日本の非財務情報開示は本格的な幕開けのステージを迎えている。ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は2023年6月にも・・・

ISSB : International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)。資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が2021年11月に設立した団体。

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2023/04/11 非財務情報の「質」を担保する監査基準創設の可能性(会員限定)

周知のとおり、「2023年3月31日以後に終了する事業年度」の有価証券報告書(有報)に【サステナビリティに関する考え方及び取組】の記載欄が新設されるなど(改正開示府令の概要は2023年2月2日のニュース『速報・改正開示府令 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示は早期適用可能に』参照)、日本の非財務情報開示は本格的な幕開けのステージを迎えている。ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は2023年6月にもS1基準(*1)、S2基準(*2)を確定させる見込みであり、日本でもSSBJ (サステナビリティ基準委員会)が国内基準の作成作業を急ピッチで進めている。SSBJによる「国内基準」も、あと1年程度でリリースされるだろう。

ISSB : International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)。資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が2021年11月に設立した団体。
SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が設立された。

非財務情報開示の本格化とともに問題となるのが、情報の信頼性だ。有価証券報告書の財務情報は公認会計士・監査法人の監査により信頼性が担保されてきたが、今のところ、非財務開示情報の信頼性を「法的に」担保する方法は存在しない。現状は、相当数の上場企業が、有価証券報告書や統合報告書における非財務情報開示について、監査法人系のコンサルティング会社や独立系のサステナビリティ関連のコンサルティング会社等に任意で「保証」を依頼しているが、上記の通りこのような保証に法的根拠はない。

しかし、今後SSBJによる国内基準の整備が進めば、必然的に非財務情報の監査の質も問われることになるだろう。監査の質を担保する手段としてまず考えられるのが、金融庁が非財務情報の監査基準を策定することだ。既にIAASB (International Auditing and Assurance Standards Board=国際監査・保証基準審議会)は非財務情報の監査基準の原案の策定に入っている。これまで日本では、IAASBが策定した監査基準を金融庁の企業会計審議会・監査部会で審議し、日本の監査基準としてきた経緯があるだけに、非財務情報の監査基準についても同様の流れとなる可能性は高い。

IAASB : 国際的に統一された監査の基準であるISA(international standards on auditing=国際監査基準)を策定している会議体。

ただ、非財務情報の監査基準ができたとしても、「誰が監査を担うのか」という問題は残る。これまで有価証券報告書の監査を担ってきた公認会計士は「気候変動」「生物多様性」「人的資本」といった非財務情報に精通しているわけではない(生物多様性に関する最近の動きは2022年12月27日のニュース「生物多様性COP15、「30by30」という歴史的合意も情報開示義務の期限は示されず」参照)。

そこでサステナビリティ関連のコンサルティング会社等に有価証券報告書における非財務情報の監査を任せるとなれば、コンサルティング会社等も金融庁の監督下に置く必要が出て来ることが考えられる。例えば、これらのコンサルティング会社等に、①非財務情報の監査基準に基づく監査を求める、②監査法人のガバナンスコードのようなルールを順守させる、③非財務情報の監査に特化した新たな資格制度を創設する、といった展開に発展することも予想される。こうした取り組みにより、コンサルティング会社等も非財務情報を「保証」したことについて法的責任を負うことになれば、企業側もコンサルティング会社側の信頼性・能力を一層慎重に見極める必要性が高まりそうだ。

2023/04/10 見えてきた“アクション・プラン”の内容(会員限定)

既報の通り、今年度はスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの改訂は行われない見込みとなっている(2023年4月4日のニュース「SSコード、CGコード改訂の代わりに何が行われる?」参照)。2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードへの企業の対応を分析すると、プライム市場では独立取締役が取締役会の3分の1以上を占める企業の割合が9割を超えるなど、着実にガバナンス改革が進捗しているようにも見える一方で、企業が形式のみを整え、改革が形骸化することへの懸念の声が聞かれるなど、改革の評価はいまだ定まっていないのが現状だ。

こうした中、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議の座長を務める神田秀樹学習院大学教授は、今後講じるべき改革として、①資本コストや株価への意識改革・リテラシー向上、②コーポレートガバナンスの“質”の向上、③英文開示のさらなる拡充、④投資家との対話の実効性向上、の4つのポイントを掲げ、メディア等でも発信しているが、事実上、この発言は改革の方向性を示すものと言ってよい。発言の内容等を踏まえ、金融庁および東証は、「コーポレートガバナンス・コードの実質化」をテーマとする具体策(アクション・プラン)を近く公表するものとみられる。

資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。

①の資本コストや株価への意識改革・リテラシー向上については、企業が資本コストを的確に把握し、それを踏まえた収益力アップを促すべく、「設備投資・研究開発投資・人的資本への投資」などに経営資源を配分すること等を求める。特に人的資本への投資は、岸田政権の掲げる「新しい資本主義」の柱であることから、具体的な施策の内容が注目される。

②のコーポレートガバナンスの質の向上に向けては、独立社外取締役のみならず、指名委員会等の委員会を含む取締役会の機能発揮のための施策が求められる。

③の英文開示のさらなる充実については、金融庁が設置した「ジャパン・コーポレート・ガバナンス・フォーラム」で海外投資家から指摘された意見を踏まえた施策が講じられる(同フォーラムについては2023年3月24日のニュース「コーポレートガバナンス改革の行方」の下から2段落目参照)。

その際には、グローバル投資家との対話の促進策も併せて示される模様だ。また、コーポレートガバナンス・コード再改訂後の検証では、コンプライ・オア・エクスプレインの趣旨の徹底が求められており、そのためにはスチュワードシップ・コードの内容の実質化も重要との指摘がある。この指摘を踏まえ、アセットマネジメント会社(運用機関)、アセットオーナー(年金基金等)に対しどのようなアプローチが行われるかも焦点となる。

これに加え、④の投資家との対話の実効性向上の観点から、プライム市場上場企業に対し、投資家との対話の実施状況やその内容等の開示が要請される見込みだ。

このほか、大量保有報告制度()における「重要提案行為等」「共同保有者」の範囲や、実質株主の透明性の確保策などの法制度上の課題についても、この具体策の中で位置づけられるものとみられる。

重要提案行為 : 投資先企業の株主総会において、又は、その「役員」に対し、発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼす行為として「一定の事項」を提案する行為。「一定の事項」としては、例えば代表取締役の選解任、株式交換・移転、会社の分割・合併、配当に関する方針の重要な変更、資本政策に関する重要な変更などがある。
共同保有者 : 大量保有報告制度上、たとえ単独での保有割合が5%以下でも、「保有者との間で、共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している者」のこと。当該「共同保有者」がいる場合、その保有割合も合算して保有割合を判定する。
実質株主 : 株主名簿の背後に存在する運用・議決権行使権限を持つ株主。

 市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、株券等の大量保有者に対し「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出を義務付ける金融商品取引法上の制度。具体的には、①保有割合が5%超となった場合、②その後、保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合、それぞれ提出事由が生じた日から5営業日以内に「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出が求められる(②の場合に提出するのは「変更報告書」)。大量保有報告制度上、たとえ単独での保有割合が5%以下でも、「保有者との間で、共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している者」がいる場合には当該「共同保有者」の保有割合も合算する必要があり、集団的エンゲージメントを行った場合、この合算が求められる可能性がある。そこで、投資家は共同保有とみなされることを避けるため、投資家は議決権行使を含む一切の合意をしないよう注意しなければならないため、大量保有報告制度が集団的エンゲージメントを行う上でのボトルネックとなっている。

いずれの改革もプライム市場上場企業への影響は大きい。アクション・プランの公表が待たれるところだ。

2023/04/07 「プライム市場上場会社」という看板とスタンダード市場移行へのプレッシャー

周知のとおり、昨年(2022年)4月に実施された東証の市場区分再編後、再編前から上場していた会社には「当分の間」という表現で、期限が明記されないまま「緩和された上場維持基準」が適用されているが、・・・

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2023/04/07 「プライム市場上場会社」という看板とスタンダード市場移行へのプレッシャー(会員限定)

周知のとおり、昨年(2022年)4月に実施された東証の市場区分再編後、再編前から上場していた会社には「当分の間」という表現で、期限が明記されないまま「緩和された上場維持基準」が適用されている()が、東証が2023年3月31日に公表した「上場維持基準に関する経過措置の取扱い等」により、「2025年3月1日以後に到来する上場維持基準の判定に関する基準日」から同基準が適用されない(=本来の上場維持基準に戻る)ことが確定したところだ。

 現状、選択した市場区分の上場維持基準を満たしていない上場会社は、上場維持基準の適合に向けた計画およびその進捗状況を東証に提出し、改善に向けた取り組みを図ることにより、「経過措置」として緩和された上場維持基準の適用を受けている。市場ごとの経過措置の適用会社数と計画期間の終了時期の分布は下図(市場区分の見直しに関するフォローアップ会議の第1回会議における事務局説明資料19ページより引用)参照。

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これは、東証・市場区分の見直しに関するフォローアップ会議が出した結論(2023年1月26日のニュース『東証・市場区分の見直しに関するフォローアップ会議が「対応案」の修正案を公表』参照)を踏襲するものであり、サプライズはない。また、東証が2023年1月30日に公表した公開草案からの変更点もない。

改正の結果、本来の上場維持基準に適合していない上場会社は、1年間(売買代金基準については6か月間で判定)の改善期間に入り、改善期間内に基準に適合できなければ、原則として6か月間の監理銘柄・整理銘柄への指定期間を経て上場廃止となる。

監理銘柄・整理銘柄 : 上場廃止基準に該当し、上場廃止が決定した銘柄のことを「整理銘柄」というが、上場廃止が決定した場合には、投資家が整理売買を行うことができるよう、原則として1か月間、整理銘柄に指定し、上場廃止の事実を投資家に周知させる。これに対し、上場廃止基準に該当する恐れがあるものの上場廃止が決定したわけではない銘柄は「監理銘柄」に指定され、その後上場廃止が決定した場合に整理銘柄に指定されることになる。

これらの改正を盛り込んだ改正有価証券上場規程等は2023年4月1日から施行されるが、当該施行日の前日(2023年3月31日)において、上記改善期間の終了日を超える時期を終了期限とする適合計画を開示している会社(上の右の図の「3~4年」より右側(「3~4年」を含む)の会社)については、当該改善期間の終了後に監理銘柄(確認中)に指定される。自主的に定めた適合計画の改善期間が長ければ長いほど“延命”されるという一見すると理不尽な結果となるが、この点についてはパブリックコメント(2023年1月30日~3月1日)でも「不公平な取扱いとの印象を受ける」との批判が寄せられていたところだ。これに対し東証は批判を受け入れることなく、「当該計画は明確な期限の定めがない中で自主的に策定されたものであることや、当該計画が着実に進捗している場合も見られる」として、適合計画の終了まで改善期間を引き伸ばすこととしている。

監理銘柄(確認中) : 上場廃止基準に該当する恐れがあるものの上場廃止が決定したわけではない銘柄は「監理銘柄」に指定される。監理銘柄のうち審査が行われているものは「監理銘柄(審査中)」とされ、それに至っていない銘柄は「監理銘柄(確認中)」とされる。

もっとも、経過措置の適用を受けている会社の名称は、当該会社が適合していない基準、適合計画の期間などとともにリスト化され、2023年7月以降(予定)に東証のウェブサイト上で公表されることになる。これはいわば“上場廃止の可能性がある会社のリスト”とも言えることから、あまりに長期の適合計画を示している上場会社は投資を敬遠されやすくなる恐れがある。

新市場移行日の前日(2022年4月3日)において市場第一部に所属していたプライム市場上場会社は、有価証券上場規程等の施行日(2023年4月1日)から「2023年9月29日まで」の半年間に限り、特例として、市場選択申請書を提出するだけで「審査なし」でスタンダード市場に鞍替えできる。適合計画の終了までにプライム市場の上場維持基準を満たすことが難しいという上場会社は、このタイミングでスタンダード市場への移行も検討すべきだろう。なお、移行したスタンダード市場の上場維持基準にも適合できないという会社は、当該基準に適合するための適合計画を開示した場合に限り、経過措置の終了時期までは、スタンダード市場における緩和された上場維持基準が適用される。

パブリックコメントでは、「スタンダード市場の再選択の期限については、・・・経過措置の適用期限とあわせて、各企業が開示した計画終了時期あるいは2025年3月末までとすることを強く要望する」「スタンダード市場の期限を2023年9月29日までとする案は、経過措置適用企業が自主的に設定した改善計画を尊重せず、現時点の達成状況によってスタンダード市場移行を促す施策であると感じる。経過措置適用会社が、進捗状況を一定程度見極める期間が必要であり、再選択の期限については、計画書で開示している期限、もしくは、2025年3月とすることが適当」といった声も寄せられていた(「提出された意見とそれに対する考え方」の番号9及び番号10参照)。しかし東証は、「市場区分の再選択の制度については、今回、経過措置の終了時期を定めたことで、上場会社各社の新市場区分への移行前に実施した市場選択の前提が変わることとなることを踏まえて設けるものであり、計画期間までに適合が達成できなかった場合に、審査なくスタンダード市場への市場区分の変更を可能とする趣旨で設けるものではない」として、無審査でスタンダード市場に移行するチャンスを上記のとおり「半年間」に限定することを決めた。

この半年間の終了後であっても、プライム市場からスタンダード市場に市場区分を変更する手段も一応用意されてはいる。しかし、スタンダード市場はプライム市場の下位市場ではなく“全く別の市場” という位置付けである以上、市場区分の変更審査を受けなければならず、確実に市場区分を変更できるかどうかは不透明と言える(2025年3月が近づくと市場区分変更申請が集中して審査リソースがひっ迫することが予想され、不透明感は増すことになる)。

経過措置の適用を受けているプライム市場上場会社はもちろんのこと、経過措置の適用を受けていなくても自社の規模や投資家層からすると実はプライム市場よりスタンダード市場の方がフィットしているにもかかわらず“背伸び”してプライム市場を選択してしまったという会社も、この半年の間に、「プライム市場上場会社」の看板を下ろすのかどうか、決断を迫られることになりそうだ。

2023/04/07 【2023年3月の課題】各運用機関の2023年議決権行使方針(会員限定)

日本シェアホルダーサービス株式会社
コンサルタント 水嶋 創

昨年(2023年)10月から本年3月にかけて、各機関投資家の議決権行使基準改定が相次ぎ、国内主要機関投資家については概ね新基準が出揃いました。

各機関投資家の株式保有状況は投資先企業によって様々ですが、以下の主要10の機関投資家については、その運用資産額の大きさなどから、多くの企業にとって一定程度の議決権を保有する大株主となっている可能性が高いと考えられます。本稿ではこれら10機関投資家の議決権行使基準の改定内容を5つのテーマごとに分析し、解説します。

※本稿で分析対象とした機関投資家
大和アセットマネジメント(2022年10月公表)

野村アセットマネジメント(2022年11月公表)

りそなアセットマネジメント(2022年11月公表)

三井住友トラスト・アセットマネジメント(2022年12月公表)

三井住友DSアセットマネジメント(2022年12月公表)

ブラックロック・ジャパン(2023年1月公表)

三菱UFJ信託銀行(2023年2月公表)

三菱UFJ国際投信(2023年2月公表)

アセットマネジメントOne(2023年2月公表)

日興アセットマネジメント(2023年3月公表)

ジェンダー・ダイバーシティに関する改定
機関投資家 改定時期 改定の概要
野村アセットマネジメント 2022年11月 ✓女性取締役が不在の場合、会長・社長等の取締役再任に原則反対
日興アセットマネジメント 2023年1月 ✓女性取締役が不在の場合、原則として経営トップである取締役の選任に反対(プライム市場上場会社に適用し、その後、対象市場の拡大、人数要件の段階的引上げを検討)
ブラックロック・ジャパン 2023年1月 ✓TOPIX100構成企業において、女性取締役もしくは監査役が2名以上選任されていない場合、その理由に関して合理的な説明がなされなければ、取締役会構成に責任のある取締役の再任に反対
(※「1名以上」からの厳格化)
三井住友DSアセットマネジメント 2023年1月 ✓プライム市場上場企業において女性取締役が不在の場合、取締役選任に反対
三井住友トラスト・アセットマネジメント 2023年1月 ✓女性取締役が不在の場合、取締役選任に反対 (当面の対象はTOPIX500 構成企業)
(※「反対することも検討」から厳格化、対象もTOPIX100構成企業から拡大)
りそなアセットマネジメント 2023年1月 ✓取締役、監査役、指名委員会等設置会社の執行役に、女性の存在が確認出来ない場合、ジェンダーの問題に対する方針や取組みについて合理的かつ納得性ある説明がなければ、代表取締役の選任に反対(2023年はプライム市場上場企業のみを対象とし、順次対象を拡大)
アセットマネジメントOne 2023年4月 ✓プライム市場上場企業において、女性取締役が不在の場合、代表取締役の選任に原則反対
(※対象をTOPIX100構成企業から拡大)
三菱UFJ信託銀行 「今後」 ✓女性役員(取締役)の選任を求めるよう議決権行使基準を見直すことも検討

「女性取締役が不在の場合に、取締役選任議案に反対する」といった、いわゆるジェンダー・ダイバーシティ基準を、主要10投資家で最も早く設定したのは大和アセットマネジメントでした。ただし、これが2021年に公表されたものであったことを踏まえると、基準の導入がいかに急速に進んでいるかが分かります。

今シーズンは野村アセットマネジメントなどがジェンダー基準を導入したことに加え、議決権行使助言会社ISSも本年2月より、「女性取締役が一人もいない場合には、経営トップ(社長、会長)の選任に反対推奨」との基準の適用を開始したこともあり、女性取締役が不在の場合に、国内外の機関投資家から、社長などの経営トップの選任議案について賛同を得ることは極めて難しくなっていると言えます。

今シーズンの改定では、基準の適用対象を「TOPIX100構成企業」から「東証プライム市場上場企業」に変更したアセットマネジメントOneのように、対象企業の拡大も確認されましたが、来年以降は求める女性取締役の人数や割合も増加する可能性があるとみられます。

取締役会構成(社外取締役の割合)に関する改定
機関投資家 改定時期 改定の概要
日興アセットマネジメント 2023年4月 ✓独立社外取締役が2名以上、かつ取締役総数の1/3以上
(親会社を有する企業については過半数)選任されない場合、経営トップの選任に反対
(※「2名以上」の要件が追加)
三菱UFJ信託銀行 2023年4月 ✓独立性のある社外取締役が複数かつ取締役総数の1/3以上いない場合、取締役候補者全員の選任に反対
(※「独立性ある」との要件が追加)
✓親会社等を有する上場会社の場合、独立性のある社外取締役が過半数選任されていない場合、取締役候補者全員の選任に反対
(※「1/3以上」から厳格化)
三菱UFJ国際投信 「早ければ2023年10月1日以降」 ✓市場区分に関わらず全ての上場企業に1/3以上の独立社外取締役選任を求めることを検討
(※現行ではプライム市場上場企業に対してのみ1/3以上の水準を要求)
りそなアセットマネジメント 「今後」 ✓「取締役会には、少なくとも独立性のある社外取締役が過半数存在することが望ましいと考えており、既に、親会社または支配株主を有する企業に対しては、取締役会に独立した社外取締役が過半数選任されることを求めています。現状、それ以外の投資先企業に対しては、1/3以上の独立社外取締役の選任を求めていますが、取締役会構成の行使基準を引き上げることも検討します。」

取締役会に求める社外取締役の割合としては「1/3以上」(親会社等がある場合は「過半数」)が既に定着していることもあり、今シーズンの改定は限定的でした。ただし、三菱UFJ信託銀行は「1/3以上の社外取締役」から「1/3以上の独立性ある社外取締役」に規定を厳格化しています。例えば後述の在任期間基準に抵触するような社外取締役がいる場合、当該社外取締役は「独立性ある社外取締役」にカウントされなくなる点は注意が必要となります。

なお、りそなアセットマネジメントは今後の基準引上げを示唆しています。1~2年の間に「過半数」を求める投資家が大きく増加するような事態は考えにくいものの、中長期的にはさらなる厳格化が進展する可能性もあると言えそうです。

社外役員の在任期間に関する改定
機関投資家 改定時期 改定の概要
ブラックロック・ジャパン 2023年1月 ✓社外取締役の在任年数が、著しく長期(12年以上)にわたり経営陣からの独立性に疑念が生じる場合、継続的な任命について株主価値の観点からの明確な説明がなければ、再任に反対
(※「16年」から厳格化)
三井住友DSアセットマネジメント 2023年1月 ✓在任期間基準(12年)を撤廃
りそなアセットマネジメント 2023年1月 ✓在任期間基準(12年以上で独立性否認)のカウント方法について、同一企業で社外取締役と社外監査役の在任がある場合、その期間は通算することを明記
三菱UFJ信託銀行 2023年4月 ✓在任期間が12年以上の場合、当該社外取締役候補者に反対
(※「20年」から厳格化)
大和アセットマネジメント 「今後」 ✓ガバナンス強化という観点から、適正な社外役員の任期について検討
(※現行は在任期間12年以上で反対)

一定期間以上在任の社外役員の独立性を否認するとの在任期間基準については、ブラックロック・ジャパンが「16年」から「12年」に、三菱UFJ信託銀行が「20年」から「12年」にそれぞれ短縮しました。

今シーズンは、三井住友DSアセットマネジメントが在任期間基準を撤廃するとの動きもみられたものの、これを受けてもなお、主要10機関投資家のうち8機関投資家が「12年」を閾値としています。一方、議決権行使助言会社のISSおよびグラスルイスは今のところ在任期間に関する規定を置いていません。

注目されるのは大和アセットマネジメントの動向です。「今後の検討課題」として「適正な社外役員の任期について検討」していくことを挙げており、現行の「12年」からの更なる短縮の可能性も考えられます。

政策保有株式に関する改定
機関投資家 改定時期 改定の概要
大和アセットマネジメント 2022年11月 ✓政策保有株式を過大に保有していると判断する基準が、「保有額が純資産の20%以上」であることを明示
野村アセットマネジメント 2022年11月 ✓金融機関において政策保有株式が純資産の50%を上回る場合および金融機関以外の会社において政策保有株式が投下資本の20%を上回る場合、会長・社長等の取締役再任に原則として反対
ブラックロック・ジャパン 2023年1月 ✓有価証券および投資その他有価証券の合計が総資産対比で 50%以上かつ自己資本当期純利益率が 5%未満の場合、責任を有する取締役の再任に反対するとの基準について、金融・保険セクターは対象外であることを明示
三井住友トラスト・アセットマネジメント 2023年1月 ✓政策保有株式を過大に保有(純資産比の数値が概ね TOPIX 構成銘柄全体の上位10%タイル水準)している場合、3年以上在任の取締役選任に反対(エンゲージメント等を通じて、基準を満たす水準への削減計画等が確認できた場合は、賛成)

タイル : データを小さい順に並べた場合に、例えば小さい方から数えて全体の75%に位置する値を75%タイルという。75%パーセンタイルは「第三四分位数」ともいわれる。25パーセンタイルは「第一四分位数」、50パーセンタイルは中央値を指す。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

りそなアセットマネジメント 2023年1月 ✓政策保有株式の保有額が連結純資産の20%以上ある企業で一定以上の資本効率(ROE8%以上)がない場合、政策保有株式の縮減に関する方針について合理的かつ納得性ある説明と実績がなければ、代表取締役の選任に反対
日興アセットマネジメント 2023年4月 ✓政策保有株式の残高が、純資産対比20%以上の場合、経営トップの取締役の選任に反対(ただし、定量的な縮減目標や取組み状況等を勘案)
三菱UFJ信託銀行 「今後」 ✓一定水準以上の政策保有株式を認めないように議決権行使基準を設けることについて検討

政策保有株式を過大に保有する企業の取締役選任議案に反対するなど、いわゆる政策保有株式基準の新設等も確認されました。上表の今シーズンの改定以外にも、アセットマネジメントOne(純資産比率で50%以上、または総資産比率20%以上を占める場合、代表取締役の選任に原則反対)と三井住友DS(純資産の20%程度以上保有している場合、取締役候補者毎に精査の上、原則として選任に反対)も既に基準を導入しています。

具体的な閾値は投資家により様々ですが、昨年2月に政策保有株式基準の適用を開始した議決権行使助言会社ISSのように、「純資産の20%以上」とする投資家が主流と言えそうです。三井住友トラスト・アセットマネジメントが「過大」とみなす「純資産比の数値が概ね TOPIX 構成銘柄全体の上位 10%タイル水準」も、現状ではおおよそ純資産比20%以上に相当するようです。

株主還元に関する改定
機関投資家 改定時期 改定の概要
大和アセットマネジメント 2022年11月 ✓キャッシュリッチ企業(自己資本比率が50%以上かつネットキャッシュが総資産の30%以上)で株主資本の有効活用が不十分な場合(直近3期のうち2期以上のROEが、同一業種内上位33%水準を上回り、かつ8%を上回る企業ではない場合)には、DOE3%以上を要求
(※「DOE2%以上」から厳格化)

ネットキャッシュ : 現預金−有利子負債
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本) (文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

野村アセットマネジメント 2022年11月 ✓キャッシュリッチ企業(「株主資本比率>50%」かつ「ネット金融資産*/売上高>30%」かつ「ネット金融資産/総資産>30%」)において、直近期のROEが10%未満の場合には、株主還元率50%以上を要求
*ネット金融資産=現預金+長短保有有価証券・預け金-有利子負債
(※「ROEが8%未満の場合」から厳格化)

株主資本比率 : 企業の総資本(自己資本(資本金、法定準備金、剰余金等)+他人資本(借入金、社債等))に対する株主資本(自己資本)の割合。「自己資本比率」と概ね同じ意味である。
株主還元率 : (配当+自社買い)/当期純利益(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

日興アセットマネジメント 2023年4月 ✓過去3期連続でROE8%未満の企業には、総還元性向30%以上を要求
(※改定前は、ROEの条件でなく、「ネットキャッシュの状態で総還元性向25%未満の場合」に反対)
✓過去3期連続でROE8%未満のキャッシュリッチ企業(ネットキャッシュ/総資産30%以上、かつ、自己資本比率50%以上)には総還元性向40%以上を要求
(※キャッシュリッチ企業に対する規定を新設)

総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

大和アセットマネジメントと野村アセットマネジメント、日興アセットマネジメントが株主還元に関する基準を改定しています。3社に共通するのは、自己資本が厚くキャッシュを豊富に持ついわゆるキャッシュリッチ企業に対する規定を厳格化、あるいは新設している点です。

なお、株主還元に関する基準に抵触した場合、剰余金処分議案が株主総会に付議されていれば剰余金処分議案に、付議されていなければ社長等の選任議案に対して反対行使がなされることが一般的ですが、日興アセットマネジメントは、剰余金処分議案が付議されていたとしても、「取締役の再任」に対して反対行使することには注意が必要です。

本稿では、主要10機関投資家の議決権行使基準改定動向を確認しましたが、ジェンダー・ダイバーシティ、取締役会構成・・・といったテーマごとに見てみると、大部分の機関投資家が同じようなタイミングで同じような方向性の改定を行っていることが分かります。

これを企業の側からみると、たとえ自社の株主構成が大きく変わらなかったとしても、本年の株主総会では、特に社長の選任議案の賛成率などが昨年の株主総会よりも大きく低下する可能性があるということになります。やはり自社の大株主である機関投資家の議決権行使基準の改定動向については毎年確認しておく必要があると言えます。

(補記:2023年5月16日)
大和アセットマネジメントは、2023年5月15日に議決権行使基準を改定し、公表しました。これは昨年に続き「シーズン2回目」の改定となり、2023年6月から適用されます。

2023年5月15日付「議決権の行使に関する方針(国内株式)」の見直しおよび検討課題について

本稿で取り上げたテーマの中では、「ジェンダー・ダイバーシティ」と「取締役会構成」に関する変更が見られました。ジェンダー・ダイバーシティについては、女性役員が不在の場合に代表取締役の再任に反対するとの規定の対象が「TOPIX500構成企業」から「東証プライム市場上場企業」に拡大されています。「取締役構成」については、社外取締役の人数要件(1/3以上など)の判断に際して、「独立社外取締役」であることを求める(従来の「会社法上の社外取締役」から厳格化)こととなりました。

テーマ 改定時期 改定の概要
ジェンダー・ダイバーシティ 2023年6月 ✓プライム市場上場企業において、役員(取締役および監査役)に女性が1名以上選任されていない場合、代表取締役(または代表執行役)の再任に反対。(※対象をTOPIX500構成企業から拡大)
取締役会構成
(社外取締役の割合)
2023年6月 ✓独立社外取締役が2名以上(プライム市場上場企業については、独立社外取締役が2名以上かつ1/3以上)選任されていない場合、代表取締役(または代表執行役)の再任に反対。
✓親会社または支配株主を有する企業において、独立社外取締役が2名以上かつ取締役会の構成員の1/3以上(プライム市場上場企業については、独立社外取締役が2名以上かつ過半数)選任されていない場合、代表取締役(または代表執行役)の再任に反対。
(※いずれも「会社法上の社外取締役」から「独立社外取締役に厳格化)

以上のほか、取締役選任議案における業績基準における判断基準の明確化や新型コロナウイルスの影響を考慮した対応の終了などが発表されています。

2023/04/06 TOPIX100の12月決算会社 改正開示府令を踏まえた開示の好事例

12月期決算会社の有価証券報告書(以下、有報)が出揃った。2023年1月31日に施行された改正開示府令は、「2023年3月31日以後に終了する事業年度」の有報から適用されるが、それ以前に提出される有報への早期適用が可能となっている(改正開示府令の概要は2023年2月2日のニュース『速報・改正開示府令 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示は早期適用可能に』参照)。したがって、12月期決算会社が任意で改正開示府令に対応した有報を提出していれば、3月決算会社にとって有用な先行事例となる。

そこで当フォーラムでは、TOPIX100(2022年10月の定期見直し後ベース)に採用されている12月期決算会社13社を対象に、直近の有報に改正開示府令の主な要求項目が反映された開示の好事例がないか調査した。以下、項目ごとに見ていこう。・・・

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2023/04/06 TOPIX100の12月決算会社 改正開示府令を踏まえた開示の好事例(会員限定)

12月期決算会社の有価証券報告書(以下、有報)が出揃った。2023年1月31日に施行された改正開示府令は、「2023年3月31日以後に終了する事業年度」の有報から適用されるが、それ以前に提出される有報への早期適用が可能となっている(改正開示府令の概要は2023年2月2日のニュース『速報・改正開示府令 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示は早期適用可能に』参照)。したがって、12月期決算会社が任意で改正開示府令に対応した有報を提出していれば、3月決算会社にとって有用な先行事例となる。

そこで当フォーラムでは、TOPIX100(2022年10月の定期見直し後ベース)に採用されている12月期決算会社13社を対象に、直近の有報に改正開示府令の主な要求項目が反映された開示の好事例がないか調査した。以下、項目ごとに見ていこう。

1.多様性に関する開示(従業員の状況)
提出会社および連結子会社が女性活躍推進法等に基づき「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」を公表する場合、有報の「従業員の状況」においてもこれらの事項の開示が必要となる。12月期決算会社の有報で当該開示が確認されたのは、13社中の4社であった。ただし、3社は基本的に提出会社のみの単体ベース(1社は女性管理職比率のみグループベース)での開示となっており、改正開示府令が求める「連結子会社」の各数値については記載がない。

改正開示府令の要請に最も忠実に明確に対応しているのは花王の有報で、提出会社および連結子会社である7社について、一覧表で3指標を全て開示している(賃金格差については全従業員、従業員、臨時雇用者別に開示)。さらに、「連結会社の状況」として、国内および全世界のグループベースによる集計値も開示している。「記述情報の開示に関する原則(別添)―サステナビリティ情報の開示について―」(以下、開示原則)は多様性に関する指標について「投資判断に有用である連結ベースでの開示に努めるべき」(注2)としており、花王の事例は改正開示府令のみならず開示原則にも対応していると言える。

2.サステナビリティ情報の「記載欄」の新設
新設されたサステナビリティ情報の「記載欄」において、「サステナビリティに関する考え方及び取組」を明確に示した事例が1社、新設されたサステナビリティ情報の「記載欄」ではなく「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の一部分として開示した事例が2社あった。いずれも改正開示府令が規定する4つの柱「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」について説明されている。

「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の中で「サステナビリティに関する考え方及び取組」を開示した企業の1つがキリンホールディングスだ。同社の有報(16ページの下部~参照)では、「サステナビリティ課題全般」に加え、テーマ別の課題として「気候変動への対応」「自然資本への対応」「人的資本への対応」についてそれぞれ説明している。また、「気候変動への対応」では、Scope(スコープ)1・Scope2 のGHG(温室効果ガス)排出量削減について事業会社別の実績と予定を開示しており、開示原則(注2)の「Scope1・Scope2のGHG 排出量について、企業において積極的に開示することが期待される」との要請にも対応している。

Scope(スコープ)1・Scope2 : スコープ1 : 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出のこと。
スコープ2 : 他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う温室効果ガスの間接排出のこと。
スコープ3 : 事業者自ら排出している温室効果ガス(二酸化炭素等)であるScope1、Scope2以外の間接排出、具体的には「事業者の活動に関連する他社」による温室効果ガスの排出のこと。

3.取締役会の活動状況(具体的な検討内容)
改正開示府令では、コーポレートガバナンスに関する新たな開示事項として、取締役会や指名委員会・報酬委員会等の活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、出席状況)を求めているが、その中でも、営業秘密保護の観点から慎重な検討を要する「取締役会の具体的な検討内容」の開示を明確に行ったと認められる事例は2社にとどまった。なお、「重要な意思決定と執行状況の監督を行う」といった記載は取締役会の「権限および役割」に過ぎないため、「具体的な検討内容」の開示には相当しないと考えられる。

ブリヂストンの有報(50ページ参照)では取締役会・各委員会の構成と出席状況をそれぞれ一覧表で示したうえで、「検討内容」が説明されている。取締役会では、「サステナビリティに向けた取り組み」「ソリューション戦略」「グローカル経営体制」「人的資本への投資」について特に重点的に議論したことが記載されている。改正開示府令案に対して寄せられた「『具体的な検討内容』に関し、年度を通じた議案全てを網羅すべきか、それとも主な議案を記載することで問題ないか」とのパブリックコメントに対する金融庁の「取締役会等における全ての議案を記載することは必須ではなく、投資家にとって分かりやすいよう要約することも考えられます」(No.298)との回答に対応した記載内容と言えよう。

グローカル : グローバル(Global)とローカル(Local)を組み合わせた造語で、グローバルに通用する考え方で、地域のニーズに向き合うことを指す。

2023/04/05 「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」における要請事項と開示時期

周知のとおり、東証は(2023年)3月31日、上場会社に対して「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願い」を通知している。これは、東証が設置した「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」での議論を踏まえ1月30日に公表された「論点整理を踏まえた今後の東証の対応」の中で「中長期的な企業価値向上に向けた取組の動機付け」として掲げていた施策について、具体的な要請事項を取りまとめたもの。

要請事項は以下の3点であり、それぞれに説明資料が付されている。あくまでも「要請」であり義務ではないが、「投資者からの期待を踏まえ、積極的に実施」することが求められている。以下、各要請事項について解説する。・・・

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