経営トップが業績悪化の責任をとって自ら辞任するというケースは珍しくないが、自らの意思に反して「辞めさせる」となると話は違ってくる。
東証スタンダード市場に上場するShinwa Wise Holdings(SWH社)は、美術品の公開オークションの企画・運営の最大手Shinwa Auction(SA社)などの株式を100%保有する持株会社であり、甲氏はSWH社の取締役とSA社の代表取締役を兼務していた。その甲氏はSWH社が2020年3月26日に開催した臨時株主総会で取締役を解任され、さらに同年4月1日にはSA社の取締役も解任された。
ちなみに、この臨時株主総会を招集したのは、SWH社の“元”代表取締役の乙氏である。乙氏はSWH社の少数株主として、甲氏を含む取締役らの解任を目的とする臨時株主総会を招集、乙氏の思惑どおり、甲氏はこの臨時株主総会でSWH社の取締役を解任される一方、XはSWH社の代表取締役に復帰した。
これに対し甲氏は「正当な理由なく取締役を解任された」として、在任期間中の報酬相当額など約1,712万円の支払いを求め、SA社を提訴した。本訴訟は会社法339条2項に基づき、「解任によって生じた損害」の賠償を請求するもの。1,712万円という金額は、解任時における甲氏の取締役としての残任期が16か月と30日あり、原告の取締役報酬額が月額107万2,500円だったことを計算根拠としている。
会社法339条(解任)
1 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。 |
本訴訟で他社にとっても興味深い争点と言えるのが、営業損益の悪化が取締役解任の理由となり得るのか否かだ。実際、甲氏(原告)がSA社(被告)の代表取締役の地位にあった各期においてSA社の営業損益は悪化しており、2020年5月期には約1億3,956万円の営業損失を計上している。この点について甲氏は、自分の在任中にSA社の営業成績が悪化したのは、「美術品の取引相場の急落および市場全体の流通量の減少に起因する取扱高の大幅な下落」が原因であり、しかも2018年5月期から2020年5月期においてはコロナ禍によるオークションの延期も原因として加わったのであるから、この間における業績や自身の対応は解任の正当な理由にはならないなどと主張した。この主張について裁判所(東京地裁)は「業績悪化が甲氏の経営方針や経営能力に起因することを認めるに足る証拠はない」とし、「SA社の業績に関する事情をもって甲氏の解任に正当な理由があるということはできない」と判断、甲氏の主張を支持した。
もう一つ興味深い争点が、親会社の取締役として不適格であることをもって、子会社の取締役としても不適格と言えるのかという点だ。上述のとおりSA社はSWA社の100%子会社であり、SA社は本訴訟において、「甲氏はSWH社の取締役として不適格であるからSA社の取締役としても不適格である」と主張した。これに対し甲氏は、「SWH社とSA社は別の会社であるから、SWH社の取締役として不適格であるとしても、直ちにSA社の取締役として不適格ということにはならない」と反論。裁判所は、「同一グループに属する親会社とその完全子会社という関係にあるとはいえ、両社は別の会社であり、持株会社であるSWH社とオークション事業を行うSA社とでは取締役としての職務内容等に差異があるというべき」とし、「このような差異を捨象してSWH社の取締役として不適格であるから直ちにSA社の取締役として不適格であるということはできない」との判断を示し、この争点についても甲氏の主張を支持した。
結論として、裁判所は甲氏の請求を全面的に認め、SA社に対し甲氏に約1,712万円を支払うよう命じる判決を下している(2022年3月14日付)。単に「業績不振だから」という理由で経営トップを解任するのはそう簡単ではないことを示した事例と言えよう。コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-3③では「取締役会は、会社の業績等の適切な評価を踏まえ、CEOがその機能を十分発揮していないと認められる場合に、CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続を確立すべきである」と、主に手続き面が強調されているが、業績不振を解任の理由にするのであれば、裁判所が指摘するように、業績不振が「原告の経営方針や経営能力に起因することを認めるに足りる証拠」を示す必要がある。また、親会社の取締役としては解任しても、職務内容の異なる子会社の取締役としても解任できるとは限らない(特に親会社が持株会社である場合)ということを示した点でも本事例は参考になろう。