2022/07/26 役員報酬1億円以上が過去最多も、「世間で騒がれるほど貰っていない」と反論する役員が多い理由

2022年3月期決算企業の有価証券報告書が概ね出揃い、今年も金融商品取引法で義務付けられている1億円以上の役員報酬の個別開示の対象となった者の人数や金額が経済メディアなどに取り上げられている。東京商工リサーチの調査によると、1億円以上の役員報酬を個別開示したのは287社(663人)で、前年の253社(544人)から10%以上増加し、個別開示が始まった2010年3月期以降で過去最多となった。また、報酬額トップ5を見ると、1位がZホールディングスの慎ジュンホ取締役で約43億円、5位の東京エレクトロンの河合利樹社長でも約17億円と、欧米企業にも引けを取らない金額となっている。こうした結果を見て、「(報酬を)貰い過ぎではないか」「同業のX社と比べて高過ぎではないか」、逆にX社の同業のY社からは「なぜX社はあんなに貰っているのか」といった声が聞かれるが、実はこれは“感覚論”にすぎないことが多い。・・・

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2022/07/26 役員報酬1億円以上が過去最多も、「世間で騒がれるほど貰っていない」と反論する役員が多い理由(会員限定)

2022年3月期決算企業の有価証券報告書が概ね出揃い、今年も金融商品取引法で義務付けられている1億円以上の役員報酬の個別開示の対象となった者の人数や金額が経済メディアなどに取り上げられている。東京商工リサーチの調査によると、1億円以上の役員報酬を個別開示したのは287社(663人)で、前年の253社(544人)から10%以上増加し、個別開示が始まった2010年3月期以降で過去最多となった。また、報酬額トップ5を見ると、1位がZホールディングスの慎ジュンホ取締役で約43億円、5位の東京エレクトロンの河合利樹社長でも約17億円と、欧米企業にも引けを取らない金額となっている。こうした結果を見て、「(報酬を)貰い過ぎではないか」「同業のX社と比べて高過ぎではないか」、逆にX社の同業のY社からは「なぜX社はあんなに貰っているのか」といった声が聞かれるが、実はこれは“感覚論”にすぎないことが多い。

近年は、大手企業を中心に役員報酬の欧米化、とりわけ報酬全体に占める業績連動報酬や株式報酬の割合が拡大するとともに、インセンティブの設計も複雑化・多様化が進んでいる。ただ、日本企業が個別開示している役員報酬は引き続き「会計費用」がベースであることがほとんどとなっている。株式報酬を例にとると、業績達成条件の難易度や変動性、株式報酬の本源的価値(≒本人の実入りとなり得る評価額)は株式報酬の種類や各社によって異なるにもかかわらず、会計費用にはこれらが加味されていない。その結果、固定報酬を除いては、同一条件下で各社の役員報酬の Apple-to-Appleな比較や妥当性の検証が困難となっている。報酬を個別開示された役員から「世間で騒がれているほど貰っていない」といった不服の声を聞くことが多いのもそのためだ。上記のような「貰いすぎ」といった批判は、「絶対額の多寡」に基づく“感覚的”なものにすぎず、「報酬実績の妥当性」を問う議論にはなっていない。

Apple-to-Apple: 直訳すると「リンゴとリンゴの比較」であり、そこから転じて、同一の条件で物事を比較するという意味を持つ。

では、「報酬実績の妥当性」を検証するには、どのような開示が望ましいのだろうか。株主・投資家からすると、業績や企業価値が上がったのであれば報酬が上がっても納得できる。逆に、業績や企業価値が下がっているのに報酬が上がっているのはおかしい、と考えるのが当然だろう。その意味においては、報酬と業績との関連性、すなわち「ペイ・フォー・パフォーマンス」の開示を充実化させることが望ましい。そして、ここでいう報酬額は、現在の日本の開示のような「会計費用」ベースではなく、業績連動報酬における評価や業績条件の達成見込み、株式報酬の本源的価値を加味した「本人が実際に獲得し得る金額」(欧米では“Realizable Pay”と呼ばれる)を用いるべきだ。

また、業績や企業価値と報酬額の関連性を見極めるには単年度では不十分であり、少なくとも3~5年間を対象として、その間に支給・付与された報酬の現時点での評価額と業績の伸びや企業価値(例えばTSR)の上昇率を比較(場合によっては同業他社と相対比較)するといったことが考えられる。併せて、業績連動報酬のKPIの目標値と実績値(評価期間中の場合は経過報告)を開示し、さらに目標設定・評価の内容に関する十分な説明も付加されていると、より多角的な検証が可能となる。絶対額が独り歩きしがちな日本企業の役員報酬開示も、近い将来、ペイ・フォー・パフォーマンスを意識した欧米企業型の開示へとシフトしていかざるを得ないだろう。

2022/07/26 【2022年6月の課題】自社におけるボード3.0の有用性(会員限定)

日本シェアホルダーサービス株式会社
研究開発/コンサルティング部
チーフコンサルタント
藤島 裕三 様

ボード3.0とは何か

1年ほど前から、経済マスコミ等に「ボード(取締役会)3.0」という言葉がしばしば登場するようになりました。その説明としては、「取締役をCEOに近い関係者で固めたアドバイザリー・ボード(ボード1.0)、経営執行を監視する モニタリング・ボード(ボード2.0)に次ぐ新たなボードのモデル」「社外取締役がビジネスモデル構築や戦略立案に積極的に関与する取締役会」といったものが主に見受けられます。

モニタリング・ボード : 経営陣の監督を主たる役割・任務とする取締役会のこと。これに対し、業務執行におけるコンセンサスを形成する場としての取締役会が「マネジメント・ボード」である。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

この「ビジネスモデル構築や戦略立案に積極的に関与する」社外取締役として、第一義的に想定されているのが機関投資家です。その背景には、アクティビストとして著名な米国の投資ファンド、バリューアクト・キャピタルのパートナーが2019年にオリンパス、2021年にはJSRの社外取締役に招聘されたことがあります。また、米国では2021年6月、同じく米国のアクティビストであるエンジン・ナンバーワンが株主提案を通じて、エクソン・モービルの取締役会に3人のメンバーを送り込むことに成功しました。このように「友好的」か「敵対的」かの違いはあっても、取締役会にファンド関係者が参画することは珍しくなくなっており、むしろそれを積極的に評価する見方が広がりつつあります。

一方、経済界からは「有能な元経営者を取締役に迎えて経営戦略を議論する」ことがボード3.0であり、積極的に後押しするべきとの声も出ています。

もっとも、誰を社外取締役に迎えるかは、ボード3.0を実現するうえでの手段の一つに過ぎません。まずはボード3.0を検討・構築する意義について、提唱者の考え方を見てみましょう。

ギルソン&ゴードン教授が提唱するボード3.0

ボード3.0は2019年、コロンビア大学の教授であるギルソン氏とゴードン氏によって発表されました。同年の両教授による論文を和訳したペーパーが、日本の投資ファンドであるみさき投資(株)のWEBサイト上で公開されています。

まず両教授は、米国企業における取締役会の発展過程を、下表のとおりボード1.0~3.0の3つの段階に整理しています。ボード1.0はCEOのチームである取締役会に非独立の関係者がアドバイザーとして加わったものであり、会計不正や不祥事、違法行為を防ぐことができませんでした。そこで監督(モニタリング)の機能を強化するため、独立取締役を中心としたボード2.0が主流となりましたが、独立取締役には経営戦略の策定・実行を監督するために必要なリソース(情報など)やインセンティブ(報酬など)が十分でなく、複雑化する経営環境に対応できていないと指摘しています。

時期 分類 モデル 取締役の属性
1950~60年代 ボード1.0 アドバイザリー・ボード CEOの友人、関係者(法律事務所、取引銀行、投資銀行など)
1970年代~現在 ボード2.0 モニタリング・ボード 非常勤である独立取締役が多数派
今後 ボード3.0 経営陣による戦略の策定・遂行を効果的に監督する新しい仕組み 独立取締役に加え、戦略に関わる権限を与えられた「エンパワード取締役」

こうした中、両教授は独立性よりも能力や意欲を重視した「エンパワード(権限を与えられた)取締役」を選任し、モニタリング・ボードである取締役会に混在させるボード3.0を提唱しました。エンパワード取締役には経営陣と協働して企業価値に貢献することが期待されており、そのために備えるべき役割・権限として以下のものが例示されています。

・新設される「戦略検証委員会」に参加する
・社内の「戦略的分析室」がバックアップする
・独自に外部コンサルタントを雇う
・株式で構成される長期的な報酬を受け取る

このエンパワード取締役のモデルは、 プライベート・エクイティ(PE)投資を行うファンドから送り込まれる、未公開企業の取締役会における「オペレーター取締役」です。オペレーター取締役は筆頭取締役として、投資先企業に対するPEファンドの関与をコントロールしつつ、経営陣による戦略の策定および執行を詳細に分析し、投資先企業を成功に導きます。そして、株式公開あるいは売却によるイグジットの際には、成功報酬およびファンド内での出世というインセンティブを享受します。

プライベート・エクイティ : 未公開企業や不動産に対して投資を行う投資家や投資ファンドのこと(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

このようにボード3.0とは、モニタリング・ボード(ボード2.0)が有する独立取締役による監督機能はベースとして確保しながら、PEファンドから送り込まれた取締役のように経済的な利害を共有する取締役による執行機能を強化しようとするものだと言えます。ボード3.0を上場企業が採用する場合、「機関投資家(アクティビストを含む)から取締役を招聘する」ということが選択肢になりえます。しかし重要なのは、「経営戦略の策定・実行を監督」する機能が不十分である状況を解消することであって、単に投資家を取締役会のメンバーに加えれば問題が解決するわけではありません。この点については以下で解説します。

CGS研究会におけるボード3.0の議論

経済産業省の(第3期)コーポレート・ガバナンス・システム研究会(以下、CGS研究会)は昨年11月から6回にわたってコーポレート・ガバナンス・システム・ガイドライン(以下、CGSガイドライン)の改訂に向け議論を重ねるとともに、「執行側の機能強化と取締役会の役割・機能」とのテーマ(第2回/2021年12月27日)の中でボード3.0についても取り上げ、2022年7月19日に公表した改訂CGSガイドラインの中に【別紙 3:投資家株主から取締役を選任する際の視点】(以下、別紙3)として盛り込んでいます。

CGS研究会では、ボード3.0を「単に経営経験者を取締役として選任すること」や「伝統的な業務執行機関としての取締役会への回帰」などと捉えることは不適切であるとしています。前述のとおり経済界はボード3.0をポジティブに受け止めていますが、それが監督主体のモニタリング・ボードを目指す方向性を妨げることになってはいけない、と釘を刺したものと考えられます。そのうえでCGS研究会は、ボード3.0を構成する以下の4つの要素にについて議論すべきとしています。

① 取締役会において十分に経営戦略の議論を行うべきである
② 戦略検討委員会を活用するべきである
③ 社外取締役に十分な情報・リソース・インセンティブを与えるべきである
④ 投資家からの取締役の選任を進めるべきである

そもそも取締役会で経営戦略をしっかり監督できているのであれば、ボード3.0を議論する必要はありません。一方、取締役会の監督機能に課題がある場合には、戦略検討委員会など一部機能をタスクアウト(委託)する、社外取締役をサポートする体制を強化する、など様々な方策が考えられます。これらの方策を検討したうえで、投資家から取締役を招聘するのが最も効率であるというならば、ギルソン&ゴードン教授が言うところの「エンパワード取締役」とすることも選択肢となるでしょう。ボード3.0とは単純に「投資家から取締役を招聘する」ことではなく、各社に固有の問題意識と費用対効果に基づいた、個別性の高い検討が求められるということです。

下表はCGS研究会の検討資料などをベースに、上述した①~④要素を検討する際に確認すべき事項を一覧にしたものです。自社においてボード3.0を導入するべきか、具体的にどのような施策が有効なのかを検討する際に活用してください。

(経産省CGS研究会資料を参考にJSS作成)
ボード3.0の検討要素 確認すべき事項
① 取締役会において十分に経営戦略の議論を行うべきである □ 社外取締役は、取締役会における戦略の議論が十分だと認識しているか
□ 戦略の前提となる自社特有のトピックス(サステナビリティ課題など)を社外取締役は適切に認識しているか
② 戦略検討委員会を活用するべきである □ 執行機能として置くべき委員会とは別に、監督機能として必要であるか(中長期の方針を重点的に検討するなど)
□ 監督機能を果たす委員会として適切な構成・運営を前提に考えているか
③ 社外取締役に十分な情報・リソース・インセンティブを与えるべきである □ カンパニー・セクレタリーなど社外取締役を支える仕組みに不足はないか
□ 社外取締役に株式報酬など中長期インセンティブを付与することは監督機能を果たすうえで有効か
□ そもそも社外取締役について、質あるいは量充実を図る必要はあるか
④ 投資家からの取締役の選任を進めるべきである □ 取締役会の議論にコーポレートファイナンスの観点は適切に伴っているか
□ 投資家(特に自社株主)から招聘する場合、他の投資家との間で利益相反や情報管理について公平性を保てるか

2022/07/25 気候変動情報開示義務化で懸念される弊害

有価証券報告書での気候変動情報の開示義務化に向け、金融庁・金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループで議論が進んでいるが(2022年6月13日に公表された「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-」の「(2)我が国における気候変動対応に関する開示の対応」参照)、気候変動情報の開示強化はグローバルな流れであり、米国では既に証券取引委員会(SEC)が気候変動関連開示規則案を3月に提案している(パブリックコメントは6月中旬に締め切られ、最終版の公表時期は未定)。SECの規則案は、上場企業に対し、自社の温室効果ガス排出量に加え、必要に応じてサプライヤーや顧客の排出量の報告を義務付けるもの。その米国で、・・・

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2022/07/25 気候変動情報開示義務化で懸念される弊害(会員限定)

有価証券報告書での気候変動情報の開示義務化に向け、金融庁・金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループで議論が進んでいるが(2022年6月13日に公表された「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-」の「(2)我が国における気候変動対応に関する開示の対応」参照)、気候変動情報の開示強化はグローバルな流れであり、米国では既に証券取引委員会(SEC)が気候変動関連開示規則案を3月に提案している(パブリックコメントは6月中旬に締め切られ、最終版の公表時期は未定)。SECの規則案は、上場企業に対し、自社の温室効果ガス排出量に加え、必要に応じてサプライヤーや顧客の排出量の報告を義務付けるもの。その米国で、気候変動関連開示の強化によりM&Aの延滞や中止を招く可能性があるとの懸念の声が企業経営者などから上がっている。

気候変動リスクを含むESG要素は、既にM&Aの際にも考慮され始めている。今年2月に大手コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーが公表した281人の経営者に対する調査結果によると、約56%が取引対象企業の良好なESGパフォーマンスは、評価額を高める要素の一つと捉えている。M&Aを検討している企業にとっては、買収先が自社のESG関連目標の達成に資することが望ましいのは言うまでもない。ただ、ベイン・アンド・カンパニーは、買収先の排出量まで報告するのは相当な負担になると指摘している。

報告するとしても、その「開始時期」は大きな問題となる。規則案にはこの点が明記されていないため、SECは企業に対して、買収完了時から翌会計年度までは開示を義務付けない等の緩和措置が必要か否かについて意見を求めていた。これに対し企業経営者からは、SOX法においても、買収が完了した会計年度については内部統制報告は不要とされていることから、排出量情報の開示についても同様の緩和措置が適用されるべきであるとの意見が出ている。

SOX法 : エンロン事件やワールドコム事件など1990年代末から2000年代初頭にかけて頻発した不正会計問題に対処するため、コーポレートガバナンスのあり方と監査制度を抜本的に改革するとともに、投資家に対する企業経営者の責任と義務・罰則を定めた米国連邦法で、2002年7月に制定された。正式名称はサーベンス・オクスリー法。日本におけるJ-SOX(内部統制報告制度)は、SOX法に基づく内部統制監査制度を参考に、2008年に導入されたものである。

また、規則案では、直近の会計年度と、連結財務諸表に含まれる過去の会計年度(およそ3年間程度)の排出量情報の開示を企業に求めている。

プライベート・エクイティによる活発な投資活動と低金利を背景に、2021年には急増したM&Aだが、経済の先行き不透明感が強まる中、2022年に入ってからはグローバルで見ると金額ベースで2割以上減少していると言われる。米国では、いまだ公表されない最終版の内容次第では、気候変動関連の開示義務がデューデリジェンスや事業統合の長期化につながり、M&A取引のさらなる減少につながる恐れも指摘されている。日本の気候変動情報の開示ルールの詳細が明らかになるのはこれからだが、その内容次第では日本でも同様の懸念が生じる可能性がありそうだ。

プライベート・エクイティ : 未公開企業や不動産に対して投資を行う投資家や投資ファンドのこと

2022/07/22 【失敗学第97回】ダイイチの事例(会員限定)

概要

北海道で食品スーパーを営むダイイチ(東証スタンダート市場・札証本則市場に上場。セブン&アイ・ホールディングスの関連会社)では、売上原価の先行計上などにより利益が歪められていた。

経緯

ダイイチが2022年6月24日に公表した「第三者委員会の調査報告書」(以下、調査報告書)等によると、一連の経緯は次のとおり。

2022年
3月:ダイイチは、札幌国税局の税務調査で、2021年9月期に少なくとも約82百万円の売上原価の先行計上があることを指摘された。
4月25日:ダイイチは、臨時取締役会において、第三者委員会を設置して調査を行うことを決議したことに加え、2022年9月期第2四半期決算発表の延期をリリースした。
6月23日:ダイイチは、第三者委員会の調査報告書を公表した。
6月30日:ダイイチは、過年度の有価証券報告書等および過年度決算短信等の訂正をリリースした。また、財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備があったとして、過年度の内部統制報告書の訂正もリリースした。

内容・原因・改善策

ダイイチが2022年6月24日に公表した「第三者委員会の調査報告書」(以下、調査報告書)によると、調査により判明した事実ならびに原因および改善策は次のとおりとされている。このほか「売上原価の先行計上以外に経費の先行計上や仕入リベートの現金主義による計上も行われていた。

売上原価の先行計上
内容 ダイイチでは、翌期の利益を確保するために、今期中に多めに仕入れておき(ダイイチではこれを「買込み」と呼んでいた)、棚卸対象から除外していた。これにより、売上原価だけ先行して計上され、今期の利益は圧迫されることになるが、その分翌期に当該商品が売れれば、翌期には原価ゼロ円の商品が販売されたのと同じ結果になり、売上原価に相当する額の利益を水増し(利益の期ズレ)できる。
原因 動機
翌期の利益目標の達成を確実にし、右肩上がりの業績の推移を示すことができれば、イトーヨーカ堂などの株主からの経営に対する干渉を排除できる。

機会
買込みは社長も含めた経営陣主導で行われており(一部、バイヤー個人が主導して買込みをしていたケースもあった)、内部統制が効かなかった。また、買込みで仕入れた商品を在庫から除外するために、理論在庫調整数量申請書を経理部に提出したり、そもそも買込んだ商品は棚卸をしないようにしたりしていた。
理論在庫調整数量申請書に記載された数量およびその頻度が異常なものであることは経理部でも当然認識していたはずであるが、経理部はバイヤーが合理的な説明をしなくてもバイヤーの要請に応じていた(理論在庫調整数量申請書には疎明資料の添付が不要とされていた)。また、買込みのメールが経理部責任者に送信されることもあり、経理部はけん制機能を働かせていなかった。

正当化
当期の利益の一部を翌期に回す「期ズレ」に過ぎないので、それほど大きな問題ではないという考えもあった。

監査役の機能不全
監査役は長年にわたる買込みを認識すらできていなかった。

監査法人の監査の失敗
会計監査人の監査法人シドーは、店舗によっては期末日より前に棚卸が行われていたことを認識しながら、ロールフォワード手続き(実地棚卸の日から期末日までの当該資産の増減を検証・確認する手続き)を行っていなかった。

不十分な内部監査
内部監査室に所属する人員は嘱託社員であるV氏一人のみであり、V氏も経験が不足していた。V氏は内部監査室の増員を要請していたが、会社は応じなかった。ダイイチではV氏の経験不足と人員不足により、効果的な内部監査が実施できていなかった。

再発防止策 ・取締役および監査役に対する教育・処分等
・従業員に対する教育等(コンプライアンス意識の醸成)
・理論在庫調整数量申請書の運用改善
・予算統制
・内部監査の強化
<この失敗から学ぶべきこと>

ダイイチでは棚卸さえ網羅的に行われていれば、「買込み」の不正は起きませんでした。上場会社各社では、棚卸が網羅的に行われるようになっているか、バイヤーや在庫責任者以外の者が目を光らせるようにすべきです。

なお、本調査報告書では、ダイイチの経営陣が多数不正に関与していたことが明らかになっていますが、役員がどのような責任をとったのかについては現時点では明らかにされていません。少なくとも現経営陣は本調査報告書で示されている「取締役および監査役に対する教育・処分等」に関して速やかに対応をし、その結果を迅速に開示すべきではないでしょうか。

ダイイチでは、第三者委員会の調査期間中に、専務取締役、常務取締役および従業員9名のPCに、削除したデータの復元を不可能または困難にするためのソフトウェアがインストールされ、実行されていました(実行後に当該ソフトウェアをアンインストール)。個人情報保護の観点からハードディスクのデータを確実に消去し、復元を困難にさせるソフトが多数出回っています。不正発覚時には、デジタルフォレンジック調査に備えて証拠確保の観点からすぐにPCを差し押さえることが必要と言えます。

2022/07/21 改訂CGSガイドラインが公表、Board3.0への詳細な対応方法示す

コーポレートガバナンス改革を実現するための具体的な指針として上場企業の間で定着している コーポレート・ガバナンス・システム・ガイドライン(以下、CGSガイドライン)の改訂に向けた議論が、経済産業省に設置された(第3期)コーポレート・ガバナンス・システム研究会(以下、CGS研究会)で2021年11月から進められてきたが、2022年7月19日、ようやく3度目となる改訂版(以下、改訂CGSガイドライン)が公表された。

コーポレート・ガバナンス・システム・ガイドライン : CGコードの主要原則を実践するための実務指針

<(第3期)CGS研究会関係の過去記事>
2022年5月11日のニュース『社外取締役の報酬改革などが俎上に 第3期CGS研究会の主要論点
2022年6月23日のニュース『改訂CGSガイドライン、社外取に「社長・CEOの選解任に関与する覚悟」求める
2022年7月4日のニュース『改訂CGSガイドライン、日本企業に変革を迫る2つのポイント

改訂CGSガイドラインは本文だけで95ページあり、改訂前の53ページと比べ2倍近くにページ数が増えている。ページ数の増加を踏まえ、今回はエグゼクティブ・サマリーがついているものの、それも全11ページと、多忙な役員が一気に目を通すには若干ボリュームがある。そこで当フォーラムでは、エグゼクティブ・サマリーの見出しと該当ページへのリンクを下表にまとめたので、改訂CGSガイドラインを読む際に活用していただきたい。・・・

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2022/07/21 改訂CGSガイドラインが公表、Board3.0への詳細な対応方法示す(会員限定)

コーポレートガバナンス改革を実現するための具体的な指針として上場企業の間で定着している コーポレート・ガバナンス・システム・ガイドライン(以下、CGSガイドライン)の改訂に向けた議論が、経済産業省に設置された(第3期)コーポレート・ガバナンス・システム研究会(以下、CGS研究会)で2021年11月から進められてきたが、2022年7月19日、ようやく3度目となる改訂版(以下、改訂CGSガイドライン)が公表された。

コーポレート・ガバナンス・システム・ガイドライン : CGコードの主要原則を実践するための実務指針

<(第3期)CGS研究会関係の過去記事>
2022年5月11日のニュース『社外取締役の報酬改革などが俎上に 第3期CGS研究会の主要論点
2022年6月23日のニュース『改訂CGSガイドライン、社外取に「社長・CEOの選解任に関与する覚悟」求める
2022年7月4日のニュース『改訂CGSガイドライン、日本企業に変革を迫る2つのポイント

改訂CGSガイドラインは本文だけで95ページあり、改訂前の53ページと比べ2倍近くにページ数が増えている。ページ数の増加を踏まえ、今回はエグゼクティブ・サマリーがついているものの、それも全11ページと、多忙な役員が一気に目を通すには若干ボリュームがある。そこで当フォーラムでは、エグゼクティブ・サマリーの見出しと該当ページへのリンクを下表にまとめたので、改訂CGSガイドラインを読む際に活用していただきたい。

エグゼクティブ・サマリーの見出し 改訂CGSガイドラインの該当箇所
1 取締役会の役割・機能の向上 (1)「監督」の意義 2.1
(2)モニタリング機能を重視したガバナンス体制 2.3
2.4.
(3)監査等委員会設置会社へ移行する際の検討事項 2.4.3.
別紙2
(4)社長・CEO の解任・不再任をめぐる議論の契機となる基準等 4.1.5
4.1.2.
(5)会社の抱える課題を踏まえた取締役の選任 2.5.2.
別紙 3
2 社外取締役の資質・評価の在り方 (1)社外取締役の資質 3.2.
3.3.
(2)指名委員会・報酬委員会の構成・委員長 別冊第一部
(3)社外取締役の評価 別紙 1ステップ 8
(4)ボードサクセッション 別紙 1ステップ 9
3 経営陣のリーダーシップ強化のための環境整備 (1)執行側の機能強化の重要性 5.1.
(2)トップマネジメントチームの組成と権限の委譲 5.2
(3)経営戦略等の策定・実行における工夫 5.3.
(4)経営・執行の機能強化のための委員会の活用 5.4.
(5)経営陣の報酬 4.2.
(6)幹部候補人材の育成・エンゲージメント向上 5.5.

改訂CGSガイドラインの中でも役員として必ず目を通しておきたいのが、今回新たに加わった【別紙 3:投資家株主から取締役を選任する際の視点】(以下、別紙3)だ。別紙3で示された問題意識を理解するため、まず取締役会(Board)のあり方についての議論をおさらいしておこう。取締役会は従来の アドバイザリー・ボード型(Board1.0)から独立取締役を中心とした モニタリング・ボード型(Board2.0)へと進化してきたものの、モニタリング・ボード型には次のような問題点があると言われている(CGS研究会(第3期)第1回事務局説明資料の48ページ目を参照)。

アドバイザリー・ボード : 業務執行におけるコンセンサスを形成する場としての取締役会。「マネジメント・ボード 」とも言われる。
モニタリング・ボード: 経営陣の監督を主たる役割・任務とする取締役会

モニタリング・ボード型(Board2.0)の取締役会の問題点
情報の不足 取締役会の開催頻度が少なく、独立取締役が経営陣から得られる情報が不足しがち
リソースの不足 独立取締役は非常勤であり、自らの分析リソースを持たない
意欲の限界 独立取締役の多くは報酬が低額かつ固定的

こうした中、新たな取締役会のあり方として出てきたのが「Board3.0」だ(Board3.0については2022年6月8日のニュース『「Board3.0」が注目される理由と現状の社外取締役に足りないもの』を参照)。Board3.0とは、投資のプロを取締役に選任すること等により経営陣による戦略の策定・遂行を効果的に監督する仕組みをいう(改訂CGSガイドラインの21ページの注33を参照)。例えば、ファンドを運営する投資のプロが経営陣から得られる豊富な情報を活用しながら(情報やリソースの不測の克服)、長期の株式報酬により高い意欲を持ちつつ(意欲の限界の克服)、戦略立案に参画するようなケースが想定される。

もっとも、実際にBoard3.0に移行した上場企業の事例の中には、現経営陣が能動的に投資家株主から取締役を選任して戦略立案に参画してもらったケースだけでなく、アクティビストに目を付けられた結果として(いわば受動的に)アクティビストから取締役が送り込まれたというケースもあろう。また最近では、「株主出身の社外取締役が増え公平性を欠く」として、非株主出身の社外取締役が抗議の意味を込めて退任した東芝の一件が話題を呼んだ。このように、日本でも少しずつ事例は増えつつあるものの未だ混迷状態にある「Board3.0」への理解を深めるべく、今回CGSガイドラインに新たに追加されることになったのが別紙3である。

Board3.0を理解するうえで誤解してはならないのが、株主出身の取締役だからといって何か特別な権限があるわけではないということだ。つまり、選任された取締役は株主共同利益のために行動することが求められ、「特定の株主やステークホルダー」の利害を代表するために行動することは許されない(改訂CGSガイドラインの別紙3の81ページを参照)。別紙3ではこの基本ルールを前提としたうえで、投資家株主から取締役を選任する場合の主な留意点として、①一般株主との利害の不一致、②利益相反、③情報管理、④独立性・社外性、⑤開示の5つを掲げている。①は選任時の問題、②から④は運用上の問題に分類できる。以下、それぞれについて解説する。

<選任時の問題>
別紙3は、投資家株主から選任した取締役と一般株主との間で投資の タイムホライズンが異なる場合、「一般株主との利害の不一致」が問題になり得ることを指摘している。例えば、投資家株主が長期投資のスタイルであるにもかかわらず、短期所有の目的の一般株主が多い場合や、逆に、投資家は短期での事業再編等を目論んでいるものの、中長期所有の目的の一般株主が多い場合などだ。出口までの期間の目線が異なれば、戦略への評価が変わってくることは避けられない。解決策としては、一般株主の理解を得るため、投資家株主から取締役を選任する際には、株主総会で選任理由を丁寧に説明しておくことが考えられる。

タイムホライズン : 投資してから回収に至るまでの予定期間

<運用上の問題>
別紙3は「運用上の問題」として、投資家株主から取締役を選任した場合には「利益相反」「情報管理」「独立性・社外性」が起こり得ることを指摘している。「利益相反」とは、当該投資家株主であるファンドが利害関係の当事者となる場面(ファンドやファンドの関連会社が会社の買収者や事業の譲受先となる場合、ファンドが会社の競合会社に対して投資を行う場合、ファンドと会社との間で訴訟や紛争が生じる場面など)が想定される。このような場合は、取締役会の意思決定に際して、当該取締役が関与しないなどの配慮が必要となる。

また、投資家株主から選任された取締役が戦略立案を行う際には会社の機密情報にアクセスすることになるため、情報管理について特別な配慮が必要となる。別紙3では、具体的に下記のような配慮が求められるとしている。

・取締役本人との間の守秘義務契約・誓約書の入手
・投資家株主との間の合意の締結により、取締役が投資家株主と情報共有してよい範囲や投資家株主関係者の秘密保持義務の明確化
・投資家株主にインサイダー取引規制の遵守を徹底させる
フェア・ディスクロージャー・ルールへの対応のため、投資家株主に重要情報の公表前の守秘義務および売買禁止を課す

フェア・ディスクロージャー・ルール:上場会社による情報開示がすべての投資家に対し公平に行われることを目的としたルール
重要情報 : フェア・ディスクロージャー・ルール上の「重要情報」とは「当該上場会社等の運営、業務または財産に関する公表されていない重要な情報であって、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすもの」をいう(金商法27条の36)。ちなみにインサイダー取引規制では「重要事実」との言い回しが使われており、FDルールの「重要情報」とは別の概念になる。

ファンドの出資比率や経営への関与の仕方によっては、投資家株主から選任された取締役の独立性・社外性が失われることも考えられ、この場合、東証の上場規則が定めるところの独立役員としての要件を充足するかどうかの検討が必須となる。別紙3では、投資家株主からの取締役の経営への関与の在り方によって社外性(非業務執行の要件)を失う可能性があるような場合には、「業務執行性について異なる解釈もあり得る行為については、いわゆるセーフ・ハーバー・ルールに基づき、保守的に取締役会の決議を経ておくことも検討に値する」(改訂CGSガイドラインの84ページを参照)としている。

セーフ・ハーバー・ルール : 予測困難な責任を回避するために企業の行動が委縮することがないよう、違法ないし違反にならない範囲を明確化すること。セーフハーバーとは「安全な港」という意味であり、セーフハーバー・ルールという言葉は、船が安全な港にいる限り海難を避けられることに由来する。

<開示の問題>
投資家株主から取締役を選任するにあたり、仮に当該投資家株主との間で何らかの合意をしたのであれば、当該合意について開示すべきかどうかを検討しなければならない。この点、別紙3では、例えば米国では「投資家株主による取締役候補者の指名権やスタンドスティル条項(買い手株主が会社側の合意を得ずに行う株式の買い増し等を禁止する条項)、相互非難禁止等を規定した和解契約(Settlement Agreement)を締結することが多い」ことを紹介しており、今後日本でもこうした条項について合意することが一般的になる可能性がある(改訂CGSガイドラインの84ページを参照)。その場合、別紙3では、以下の開示の要否を検討すべきとしている。

金融商品取引法に基づく開示 有価証券報告書における「経営上の重要な契約等」
上場規則に基づく開示 コーポレート・ガバナンス報告書における開示
適時開示事由ないしバスケット条項(「その他上場会社の運営、業務若しくは財産又は当該上場株券等に関する重要な事実」)に基づく適時開示

バスケット条項 : 規制の対象となる事実を細かく列挙して定める際に、広く網をかけるために最後に設置される「その他●●なもの」といった規定のこと。状況の変化や当初想定していなかった事態が生じた際にも弾力的に対応できるメリットがある。

前述したとおりモニタリング・ボード型(Board2.0)の取締役会にはいくつかの問題点があるため、現行の取締役会のあり方に限界を感じている上場企業は少なくないはずだ。Board3.0がこれらの諸問題を解決する策として有効かどうか、まだ評価は定まってはいないが、手詰まり感を解消することを模索する企業にとっては、取締役会のBoard3.0への移行は検討に値する。また、アクティビストから目を付けられて、結果的にBoard3.0に移行せざるを得なかった上場企業もある。こうした企業にとって、改訂CGSガイドラインの別紙3は必読と言えよう。

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