2025/11/26 部分買付けの是非(会員限定)

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

ソフト99コーポレーションのMBOが頓挫したが(2025年11月20日のニュース「ソフト99のMBO頓挫に学ぶこと」参照)、これを阻止したのがエフィッシモによるソフト99株式の「部分買付け」だ。この部分買付けは日本では一般的となっている。2008年から2024年までの1,012件のTOBのうち153件が部分買付けであり、買収者はTOB前に3分の1未満の株式を保有し、部分買付けを通じて3分の1を超える保有を試みている。部分買付けは、買収後も買収対象会社の上場を維持するなど、様々な戦略的目的で利用されている。

日本のTOB規制では、買収者は買付後の議決権が「3分の1」(金融商品取引法の改正により、2026年5月1日から「30%」に引き下げ)を超えればTOBを実施する義務を負うことになるが、3分の2未満の場合には部分買付けが認められる(取得後の議決権割合が3分の2に達した場合は、残存株式に対して強制的な公開買付け(スクイーズアウト)を行う義務が生じる)。これに対し、米国はいわゆる市場ルール(マーケット・ルール)を採用しているため、買収者はTOBを実施せずに、例えば既存の大株主から議決権の過半数の株式を取得することができる。また、欧州の強制TOBルールでは、買収者が議決権の一定割合(例えば30%)を取得した場合には、すべての残存株式に対して公開買付(強制TOB)を実施しなければならず、部分買付けは認められない。すなわち、日本のTOB規制は、米国や欧州のルールとは大きく異なっている。


30% : 従来、株主総会の特別決議を阻止できる基本的な割合である「3分の1」とされてきたが、実際のところ、30%でも十分特別決議の阻止はでき、また普通決議に対しても重大な影響を及ぼし得ることから、30%に引き下げられることとなった。
市場ルール : 上場会社の株式取得は、主に市場での取引や個別株主との交渉で行われるというルール。
強制TOBルール : 一定の議決権比率を超えた株式を取得すると、残りの株式に対してTOBを実施する義務が生じるルール。

ここで、部分買付けのメリットとデメリットを整理しておこう。

部分買付けは買収者にとって多くのメリットがある。まず、すべての株式を買い取らなくて済むため、資金調達コストを抑えることができる。また、買収対象会社の支配権を取得しつつ上場を維持することも可能となる。さらに、部分取得を通じて段階的にリスクを管理することができ、シナジーが確認できれば完全買収を進め、期待される利益が実現しない場合は持分を売却するといった柔軟な選択が可能となる。

一方、買収対象会社の株主(少数株主)にとってはデメリットが存在する。例えば、部分買付けにより支配権を取得した買収者が、自らの利得を優先した経営判断を行い、その結果として少数株主の利益が損なわれ、企業価値が毀損するリスクがある。こうしたリスクは、支配権を得た買収者が、会社全体の利益よりも、自らが享受できる私的利益と自己の保有株式価値の合計を最大化しようとするインセンティブを持つことに起因する(もっとも、部分買付けが株主利益や企業価値を損なうという主張を裏付ける確固たる証拠は存在しないとの研究結果もある)。

このように部分買付けについてはこれまで「買収者」によるメリットばかりが強調されてきたが、アクティビストが買収者となり、部分買付けを利用する事態となっているのが現状となっている。例えば、重要な議決権を有する株主(例:10% 以上)が部分買付けへの反対を表明した場合には、部分買付けの可否を株主総会に諮ることを義務付けるルールを導入すれば、部分買付けを禁止する必要はなくなるが、現状、そのようなルールを導入しようという動きはない。もっとも、忘れてはならないのは、そもそも部分買付けでは、応募超過が生じた場合に比例的な按分(プロラタ方式)が適用されるため、応募株主にとっては「応募株式がどの程度買い取られるか」という不確実性が存在するということだ。この不確実性は日本特有のものであり、現行のTOBルールの下では避けられない。したがって、部分買付けを受けた上場会社の役員は、自社の株主の利益が損なわれるリスクを十分に認識し、株主の利益を軽視する行動が取られないよう、買収者との対話を通じて、買付けの意図や条件の把握、場合によっては買収者のみに利益をもたらす特定の取引を制限するなどの条件交渉に取り組む必要がある。株主利益を軽視すれば、自社のガバナンス評価や市場からの信頼を損なうということを肝に銘じるべきだろう。


プロラタ方式 : 公開買付け(TOB)で応募超過(=応募株式数が上限を超える)となった場合、応募した株主の株式を一定の比率で按分して買い取る方式。例えば、上限 100万株のTOBに200万株応募 があった場合には、すべての応募者の株式を50%だけ買い取ることになる。つまり、応募しても自分の保有株式が全部買われるとは限らず、「どれだけ買われるかが読めない」方式と言える。

2025/11/25 WEBセミナー『上場会社が押さえておくべき改正下請法のポイント』配信開始!

2025年11月25日(火)より下記のWEBセミナーの配信を開始いたしました。

テーマ 講師
上場会社が押さえておくべき改正下請法のポイント
~改正フリーランス法との関係も整理~
TMI総合法律事務所
パートナー弁護士
花本 浩一郎(はなもと こういちろう)様

■WEBセミナーの詳細

セミナーの内容 令和8年1月1日に施行される改正下請法(取適法)は、従業員基準の追加や特定運送委託の新設、支払方法の見直しなど、従来の取引慣行に直接的な影響を与える改正事項が盛り込まれており、上場会社にとって実務上のインパクトが極めて大きいものとなっています。
本セミナーでは、公正取引委員会での実務経験を有し、改正内容に精通するTMI総合法律事務所のパートナー弁護士である花本浩一郎 様に、上場会社が施行日までに準備すべき事項をわかりやすく解説していただきます。また、従業員基準の判定、特定運送委託への該当性、支払手段の見直しといった必須論点に加え、令和6年11月に施行されたフリーランス法との関係も整理していただきます。
講師のご紹介 TMI総合法律事務所 パートナー弁護士 
花本 浩一郎(はなもと こういちろう)様

1990年 3月 東京大学法学部卒業
1990年 4月 三井石油化学工業株式会社(現 三井化学株式会社)入社
1993年 5月 ニューヨーク大学ロースクール修了 (M.C.J.)
1994年 1月 ニューヨーク州弁護士資格取得
1994年 5月 ニューヨーク大学ロースクール修了 (LL.M.)
2001年 6月 三井化学株式会社退職
2006年 4月 最高裁判所司法研修所入所
2007年 9月 第二東京弁護士会登録
TMI総合法律事務所勤務
2009年 7月 東京のモルガン・ルイス&バッキアスLLP勤務
2010年 1月 TMI総合法律事務所復帰
2011年 7月 公正取引委員会審査局勤務
2014年 7月 TMI総合法律事務所復帰
2017年 1月 パートナー就任

会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
■会員向けURL(ログインが必要です)
/member/webseminar-webseminar-l/79286/

非会員の方は下記URLよりWEBセミナーの視聴をお申込みいただけます。
■非会員向けURL(グーグルフォームが立ち上がります)
https://forms.gle/KneGVXvDn5w5i9rw9

<収録月>
2025年11月

<収録時間>
49 分 28 秒

<視聴環境>
ブラウザー上で視聴できます。インターネットエクスプローラー、エッジで再生できない場合は、ChromeまたはFirefoxなど他のブラウザーをお試しください。また、インターネットに接続する際にプライベートネットワークやプロキシサーバーを経由している場合やファイアーウォールのセキュリティレベルが高い場合には、サンプル動画が再生されない可能性があります。
万が一、こちらのサンプル動画が再生されない場合、端末を管理するシステム管理者にお問い合わせください。

2025/11/25 【WEBセミナー】上場会社が押さえておくべき改正下請法のポイント

概略

【WEBセミナー公開開始日】2025年11月25日

令和8年1月1日に施行される改正下請法(取適法)は、従業員基準の追加や特定運送委託の新設、支払方法の見直しなど、従来の取引慣行に直接的な影響を与える改正事項が盛り込まれており、上場会社にとって実務上のインパクトが極めて大きいものとなっています。
本セミナーでは、公正取引委員会での実務経験を有し、改正内容に精通するTMI総合法律事務所のパートナー弁護士である花本浩一郎 様に、上場会社が施行日までに準備すべき事項をわかりやすく解説していただきます。また、従業員基準の判定、特定運送委託への該当性、支払手段の見直しといった必須論点に加え、令和6年11月に施行されたフリーランス法との関係も整理していただきます。

講師のご紹介 TMI総合法律事務所 パートナー弁護士 
花本 浩一郎(はなもと こういちろう)様

1990年 3月 東京大学法学部卒業
1990年 4月 三井石油化学工業株式会社(現 三井化学株式会社)入社
1993年 5月 ニューヨーク大学ロースクール修了 (M.C.J.)
1994年 1月 ニューヨーク州弁護士資格取得
1994年 5月 ニューヨーク大学ロースクール修了 (LL.M.)
2001年 6月 三井化学株式会社退職
2006年 4月 最高裁判所司法研修所入所
2007年 9月 第二東京弁護士会登録
TMI総合法律事務所勤務
2009年 7月 東京のモルガン・ルイス&バッキアスLLP勤務
2010年 1月 TMI総合法律事務所復帰
2011年 7月 公正取引委員会審査局勤務
2014年 7月 TMI総合法律事務所復帰
2017年 1月 パートナー就任
セミナー資料 上場会社が押さえておくべき改正下請法のポイント.pdf
セミナー動画

上場会社が押さえておくべき改正下請法のポイント

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単に動画を閲覧しただけではマイ研修レポートの「閲覧」記録に反映されません。下の「所感登録画面へ」ボタンを押し遷移する画面の右側の「登録」ボタンを押し下げすることではじめてマイ研修レポートの「閲覧」記録に反映されます。「登録」にあたっては、本Webセミナーを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)などをぜひご記入ください。マイ研修レポートの所感等記入欄の書き直しもこちらからどうぞ。

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2025/11/25 【WEBセミナー】上場会社が押さえておくべき 改正下請法のポイント(会員限定)

概略

【WEBセミナー公開開始日】2025年11月25日

令和8年1月1日に施行される改正下請法(取適法)は、従業員基準の追加や特定運送委託の新設、支払方法の見直しなど、従来の取引慣行に直接的な影響を与える改正事項が盛り込まれており、上場会社にとって実務上のインパクトが極めて大きいものとなっています。
本セミナーでは、公正取引委員会での実務経験を有し、改正内容に精通するTMI総合法律事務所のパートナー弁護士である花本浩一郎 様に、上場会社が施行日までに準備すべき事項をわかりやすく解説していただきます。また、従業員基準の判定、特定運送委託への該当性、支払手段の見直しといった必須論点に加え、令和6年11月に施行されたフリーランス法との関係も整理していただきます。

講師のご紹介 TMI総合法律事務所 パートナー弁護士 
花本 浩一郎(はなもと こういちろう)様

1990年 3月 東京大学法学部卒業
1990年 4月 三井石油化学工業株式会社(現 三井化学株式会社)入社
1993年 5月 ニューヨーク大学ロースクール修了 (M.C.J.)
1994年 1月 ニューヨーク州弁護士資格取得
1994年 5月 ニューヨーク大学ロースクール修了 (LL.M.)
2001年 6月 三井化学株式会社退職
2006年 4月 最高裁判所司法研修所入所
2007年 9月 第二東京弁護士会登録
TMI総合法律事務所勤務
2009年 7月 東京のモルガン・ルイス&バッキアスLLP勤務
2010年 1月 TMI総合法律事務所復帰
2011年 7月 公正取引委員会審査局勤務
2014年 7月 TMI総合法律事務所復帰
2017年 1月 パートナー就任
セミナー資料 上場会社が押さえておくべき改正下請法のポイント.pdf
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上場会社が押さえておくべき改正下請法のポイント~改正フリーランス法との関係も整理~

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2025/11/21 【失敗学第137回】センコーグループホールディングスの事例(会員限定)

概要

物流事業を営むセンコーグループホールディングス(東証プライム)の子会社の複数の従業員(営業所長)が、配送協力会社に下請代金の水増し請求を行わせ、当該水増し請求分の金銭を当該配送協力会社から現金で受け取っていた(6年間で367百万円)。

経緯

センコーグループホールディングスが2025年11月13日に公表した「内部調査委員会の調査報告書」等によると、一連の経緯は次のとおり。

2025年
2月:センコーグループホールディングスの子会社である南大阪センコーの外注先のA社(配送協力会社)が法人税法違反の嫌疑により大阪国税局の税務査察を受ける。
4月25日:南大阪センコーは、大阪国税局より、南大阪センコーを同年退職したD氏が、A社を通じて、南大阪センコーに下請代金の架空および水増し(以下、「水増し」に「架空」も含める)請求を行わせ、その水増し請求分の金銭をA社から現金で受け取っている疑義があることを伝えられる。
5月19日:南大阪センコーは大阪国税局の許可を得てセンコーグループホールディングスに対して本件事案を説明する。
6月17日:センコーグループホールディングスがA社社長に対して直接ヒアリングを行ったところ、本件疑義について認めた。

内容・原因・再発防止策

センコーグループホールディングスが2025年11月13日に公表した「内部調査委員会の調査報告書」によると、本件不正の内容、原因および再発防止策は次のとおりとされている。

営業所長による下請先からの水増し請求額の還流
内容 A社が関与する不正のフローは下記のとおり(B社も類似したフローとなっていた)。水増しの金額はA社とB社を合計すると6年間で367百万円であった。
① 南大阪センコーの営業所長よりA社に対して水増し請求額について指示
② A社より、配送協力会社および人材派遣業者8~9社に対して、水増し請求額について指示
③ 南大阪センコーは、水増し請求分を含めた請求書をA社より受領
④ A社は、水増し請求分を含めた請求書を配送協力会社および人材派遣業者8~9社より受領
⑤ 南大阪センコーは、水増し請求分を含めた請求額をA社へ支払
⑥ A社は、南大阪センコーへ請求した架空額を、その配送協力会社および人材派遣業者8~9社へ支払
⑦ 配送協力会社および人材派遣業者は、水増し請求額をA社に数%の手数料を差し引いて現金で渡す
⑧ A社は配送協力会社および人材派遣業者から受け取った現金を、全額(争いあり)営業所長へ渡す
原因 <動機>
金銭的な動機と思われる。
<機会>
■同一人物による発注と検収
南大阪センコーでは、内部統制のルールとして、配送協力会社に対する配送実績のチェック体制については、配車担当者と事務担当者によるダブルチェックがルールとして定められている。しかし、営業所ではルールどおりの運用がされていなかった。すなわち、本件事案が発生した営業所においては、配送協力会社から委託代金の請求を受けた際、請求書に記載された運行実績と実際の運行実績が一致しているかどうかを検証する社内体制が構築されておらず、事実上、請求の確認が所長に一任されていた。すなわち、発注(配車依頼)と検収(請求書の確認)が同一人物によって行われており、所長が配送協力会社と共謀し、架空の発注を依頼すれば、所内の従業員が発見することができない状況になっていた。
■審査体制の不備
南大阪センコーには、本社において管理・監査部門が存在している。しかしながら、当該部門においては、各営業所の請求処理に関する監査業務は一切実施しておらず、また、各営業所において利益率の低下や下払金額の増加といった異常な兆候がみられない限り、営業所の業務内容を確認することもなく、配送協力会社に対する支払の処理についても各営業所の判断に一任していた。
さらに、当該部門においては、抜き打ち監査が実施されておらず、そのため、営業所内で本件事案のような不正取引が行われていた場合であっても、営業所外からはその発見の端緒を得ることができない状況にあった。特に、本件事案で架空請求と認定された請求については、請求書に記載された請求項目および金額が明らかに不自然な内容であり、何らかの確認または監査が行われていれば、比較的容易に不正を発見できた可能性が高い。
■配車表の管理体制の脆弱性
本件事案が発生した各営業所においては、重要帳票である配車表のデータが、編集制限のない状態で営業所全体の共有フォルダに格納されていた。そのため、営業所長が請求処理(検収)の基礎となる帳票である配車表を架空請求の内容と整合するように改ざんすることは容易であった。
■コンプライアンス相談・報告体制の不全
内部調査委員会の調査によれば、本件事案が発覚するまでの間に、A社からの請求書に不自然な請求項目が計上されていることを認識していた従業員が存在していたことが判明した。しかしながら、当該従業員はその事実を担当部署や上長に一切報告しておらず、コンプライアンス遵守に対する意識が不足していた。
さらに、南大阪センコー本社の管理部門は十分な管理人員を配置できている体制ではなく、人材教育についても親会社である同社人事部主催の研修に依存している状況であった。そのため、自社独自の教育体制は構築されておらず、全体として、コンプライアンス上問題のある事象に直面した際の対処方法に関する規程の整備、教育および周知が不十分であった。
■組織体制における問題点
① 社長とプロパー社員との心理的な隔たり
南大阪センコーにおいては、創立した2011年以来、プロパー社員出身者が社長を務めてきたが、2020年4月以降は、センコーからの出向者が社長職を担う体制となった。この点、ヒアリングによれば、社長が概ね2年ごとに交代するため、社長ごとに経営方針が異なり、業務がやりづらいことや、赴任当初には社長と従業員との間に一定の心理的な隔たりが生じており、その解消に約半年を要したとの供述があった。このような状況から、出向社長とプロパー社員との間には、一定の隔たりや意思疎通上の障壁が存在していたことがうかがわれ、内部統制が効きづらい組織風土が醸成されていた。
② 営業所長のローテーション
南大阪センコーにおいては、営業所長のローテーションを定期的に実施していたものの、地域会社であることからその範囲には限界があった。また、本件事案の関与者は、入社当初のドライバー職時代からの同僚であり、共謀して不正行為を行っていたため、相互牽制機能が十分に働かなかった。
■グループ統制の観点からの原因分析
内部統制の整備は各社が自社の責任において実施することが原則であるものの、センコーグループホールディングスが複数の子会社を有することを踏まえると、グループ監査の実施体制や監査範囲が十分でなかったことも、本件事案が発生した一因であった。また、センコーグループとしては、内部統制上の業務プロセスおよびリスク・コントロール・マトリクスを整備しているが、グループ会社に対しての指導および展開が十分とはいえなかった。その結果、南大阪センコーにおいても、十分な内部統制システムが整備されておらず、内部統制の運用が適切に行われていなかった。
再発防止策 ・各営業所における業務フローの改善
① 契約書の締結
② 受領請求書のチェックの充実
③ 証跡保管方法の整備
④ 内部統制上の業務プロセスおよびリスク・コントロール・マトリクスの運用
・営業所長の職務権限の見直しおよび担当者のジョブローテーション
・従業員に対するコンプライアンス教育等の実施
・組織風土の転換
・親会社による体制整備
<この事例から学ぶべきこと>

本件事案では内部統制の不備のために不正発生を許してしまい、サプライチェーンを巻き込んだ不正事件に発展しました。同一人物による発注と検収を許すと、本件事案のような取引先を巻き込んだ不正(当該人物に対するキャッシュバック)が起きやすいと言えます。上場会社各社では、自社および子会社の業務で同一人物による発注と検収が行われていないかを再点検すべきです。なお、ルールを設けていても実際には運用されていない可能性もあるため、整備状況と運用状況を重ねて確認すべきです。

本件事案では、重要帳票である配車表のデータが、編集制限のない状態で営業所全体の共有フォルダに格納されており、容易に改ざんできました。ITの導入により資料の共有は便利になりましたが、運用を間違えれば改ざんも容易になります。社内サーバやシェアポイント等でファイルの共有をする場合、編集権限と閲覧のみの権限を明確に区分するとともに、IDの共有をしないようにするなど改ざん防止のための工夫を怠らないようにしましょう。

日本では性善説の観点から抜き打ち監査の実施をネガティブにとらえる土壌がありますが、内部統制が十分でない業務においては抜き打ち監査の存在は不正の予防的観点から有効に機能します。上場会社の監査役や内部監査においては、抜き打ち監査の導入の是非を検討すべきです。

2025/11/20 ソフト99のMBO頓挫に学ぶこと

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

ソフト99コーポレーション(ソフト99)のMBOが頓挫した(2025年11月18日のニュース「ソフト99の事案で顕在化 長期投資家に報いることができなかった場合のリスク」参照)。同社の田中秀明社長が設立した堯アセットマネジメントが同社に対して行ったTOBへの対抗TOBを成立させた投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネージメント(エフィッシモ)は2007年5月中旬にソフト99の株式を初めて取得。それ以来、18年以上にわたり同社の株式の保有を継続し、その間、同社に対して十数回におよぶ経営陣との面談を中心としたエンゲージメントの機会を持ち、同社の経営の効率性等に関する課題を伝えてきた。

そのエフィッシモは、堯アセットマネジメントが提示した「1株2,465円」(2025 年7 月29 日のソフト99株式の終値1,589 円に対して54.19%のプレミアムを付与)というTOB価格に反発、ソフト99の特別委員会の委員との面談の機会を設定するよう2025年8月18日付けで同社に要請した。しかし、ソフト99は同月21日、「開示情報以上の説明はいたしかねる」との理由でこれを拒否。そこでエフィッシモは、ソフト99の中長期的な企業価値向上を確保しつつ、少数株主の利益を保護することを目的に対抗TOBの実施を検討し、2025年8月28日付けで同社に対して「1株4,100円」でTOBを実施するとの意向表明を行ったという経緯がある。注目すべきは、エフィッシモが堯アセットマネジメントによるソフト99株式のTOB価格を「割安」と考えた理由だ。・・・


プレミアム : 買収価格と株価の差
特別委員会 : 企業買収の公正性の確保を目的として設置される独立した合議体。企業価値の向上と一般株主の利益保護のため、企業買収の是非や取引条件の妥当性、公正性を検討・判断する。

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2025/11/20 ソフト99のMBO頓挫に学ぶこと(会員限定)

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

ソフト99コーポレーション(ソフト99)のMBOが頓挫した(2025年11月18日のニュース「ソフト99の事案で顕在化 長期投資家に報いることができなかった場合のリスク」参照)。同社の田中秀明社長が設立した堯アセットマネジメントが同社に対して行ったTOBへの対抗TOBを成立させた投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネージメント(エフィッシモ)は2007年5月中旬にソフト99の株式を初めて取得。それ以来、18年以上にわたり同社の株式の保有を継続し、その間、同社に対して十数回におよぶ経営陣との面談を中心としたエンゲージメントの機会を持ち、同社の経営の効率性等に関する課題を伝えてきた。

そのエフィッシモは、堯アセットマネジメントが提示した「1株2,465円」(2025 年7 月29 日のソフト99株式の終値1,589 円に対して54.19%のプレミアムを付与)というTOB価格に反発、ソフト99の特別委員会の委員との面談の機会を設定するよう2025年8月18日付けで同社に要請した。しかし、ソフト99は同月21日、「開示情報以上の説明はいたしかねる」との理由でこれを拒否。そこでエフィッシモは、ソフト99の中長期的な企業価値向上を確保しつつ、少数株主の利益を保護することを目的に対抗TOBの実施を検討し、2025年8月28日付けで同社に対して「1株4,100円」でTOBを実施するとの意向表明を行ったという経緯がある。注目すべきは、エフィッシモが堯アセットマネジメントによるソフト99株式のTOB価格を「割安」と考えた理由だ。


プレミアム : 買収価格と株価の差
特別委員会 : 企業買収の公正性の確保を目的として設置される独立した合議体。企業価値の向上と一般株主の利益保護のため、企業買収の是非や取引条件の妥当性、公正性を検討・判断する。

ソフト99は、2023年5月12日付けの「ソフト99グループ 第7次中期経営計画」において、第7次中期経営計画(2024年3月期から2026年3月期)で「資本コスト(=WACC)」を5.5~6.0%と想定し、2025年6月26日に提出した第71期有価証券報告書においても、中長期的な資本コストは概ね「5.5%~6.0%」の水準であるとの認識を示していた。ところが、同時期に検討されていた堯アセットマネジメントによるTOB価格の公正性及び妥当性を判断する際、DCF法による株式価値算定の割引率に用いたWACCは、ソフト99が「9.0%~11.0%」、同社の特別委員会が「7.1%~10.4%」とこれまで同社が妥当としてきた「5.5%~6.0%」よりもかなり高めに設定されていた。割引率(WACC)が高くなれば、将来キャッシュフローの現在価値、すなわち企業価値は低く見積もられることになる。その結果、本来よりも安い買い取り価格が「妥当」と判断されてしまう恐れがある。


資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。
WACC : 「Weighted Average Cost of Capital=加重平均資本コスト」の略であり、要するに「資本コスト」である。WACCは文字通り負債コスト(金利)と株主資本コスト(配当+キャピタルゲイン)を加重平均して算定される。
DCF法 : 企業が将来生み出すと予想されるキャッシュフローを「現在の価値」に換算して企業価値を計算する方法。将来のキャッシュフローを現在の価値に換算するために使われるのが割引率であり、割引率にはWACC(加重平均資本コスト)が用いられるのが一般的である。

エフィッシモは、ソフト99はこれまでの経営において低い資本コストを想定して同社の株主に割安な株価を甘受せざるを得ない状況を強いてきたにもかわらず、堯アセットマネジメントによるTOBにおいては高いWACCを採用し、少数株主の利益を蔑ろにしていると主張。また、社長が設立した堯アセットマネジメントによるTOBは構造的な利益相反が認められる取引であるとともに、堯アセットマネジメントおよびソフト99と少数株主との間には大きな情報の非対称性が存在していると指摘。本来であれば、複雑かつ専門的な内容が含まれる株式価値評価においては、独立性を有する特別委員会が少数株主の利益保護を第一に考える立場に立って検討や判断を行うことが、適切な取引条件を担保するうえでの鍵を握る。それにもかかわらず、ソフト99の特別委員会は少数株主の利益保護を軽視し、同社の取締役会が堯アセットマネジメントによるTOBへの賛同意見を表明し応募推奨を行うことを「妥当」と判断したことは、日本の資本市場に対する国内外の投資家の信頼を損なうことにもなりかねず看過することはできない、とエフィッシモは主張している。

エフィッシモによる対抗TOB価格(4,100 円)は、堯アセットマネジメントによるTOBの公表日の前営業日である2025 年8月5日までの過去1か月間の終値の単純平均値1,593 円に対して157.4%、同過去3か月間の終値の単純平均値1,615 円に対して153.9%、同過去6か月間の終値の単純平均値1,588 円に対して158.2%のプレミアムを加えた金額に相当する。また、堯アセットマネジメントによるTOBに際してソフト99が第三者算定機関として選任したKPMG FAS のDCF 法による株式価値算定結果の上限である2,893 円を41.7%上回っており、さらに、同社の特別委員会が第三者算定機関として選任したプルータス・コンサルティングのDCF 法による株式価値算定結果の上限である3,155 円を30.0%上回っている。当然ながらソフト99の大部分の株主はエフィッシモによる対抗TOBに応募し、当該TOBは11月14日に成立した。

このように、平時から低い資本コストを設定して企業価値を毀損し続けた会社がMBOを実施し、しかも特別委員会も有効に機能していないとなれば、少数株主から対抗TOBを受け、容易に少数株主が大株主となる。安価なMBOがいかに危険な行為かを思い知らされる案件となった。この案件から学ぶべきことはあまりにも多い。

2025/11/19 台湾有事に備え企業が講じるべき対応

高市首相の台湾有事に関する衆院予算委員会での答弁とそれに対する中国の反発、また、中国への技術流出の懸念を背景に、オランダに本社を置く中国系半導体メーカーであるネクスペリア社の経営に対するオランダ政府への介入と中国側による報復措置(同社中国工場からのチップ輸出停止)などをきっかけに、日本企業の間で「経済安全保障」への関心が急速に高まっている。文字通り「経済」と「安全保障」が密接に結びつく時代においては、これまでの調達・生産モデルが立ち行かなくなりつつある。

中国や台湾に自社の生産拠点がある企業では台湾有事への備えが一定程度進んでいる一方、リスクを過小評価し、依然としてサプライチェーンの見直しが十分ではない企業も見受けられる。また、中国や台湾に拠点を有していなくても、近年のサプライチェーンは原材料の供給、部品の製造、最終製品の組み立てといった多層構造で形成されており、素材・電子部品・加工部材の由来まで遡れば、中国・台湾地域を経由しているケースが非常に多い。物流網や港湾、海上輸送ルートも考慮すると、台湾有事の際にはほとんどの企業が何らかの影響を受けるはずだ。サプライチェーンのどこか一か所が途切れれば、国内で完結しているかのように見える事業であっても生産停止や納期遅延という事態に追い込まれる恐れがある。

サプライチェーンの寸断や物流危機に加え、中国系のサイバー攻撃集団による日本企業をターゲットとしたサイバーテロのリスクもこれまで以上に高まっている。また、産業スパイの暗躍による機密情報の流出危機に対しても有効な手を打てていないのが現状だ。

こうした中、企業が取り組むべき課題としてまず挙げられるのが、・・・

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2025/11/19 台湾有事に備え企業が講じるべき対応(会員限定)

高市首相の台湾有事に関する衆院予算委員会での答弁とそれに対する中国の反発、また、中国への技術流出の懸念を背景に、オランダに本社を置く中国系半導体メーカーであるネクスペリア社の経営に対するオランダ政府への介入と中国側による報復措置(同社中国工場からのチップ輸出停止)などをきっかけに、日本企業の間で「経済安全保障」への関心が急速に高まっている。文字通り「経済」と「安全保障」が密接に結びつく時代においては、これまでの調達・生産モデルが立ち行かなくなりつつある。

中国や台湾に自社の生産拠点がある企業では台湾有事への備えが一定程度進んでいる一方、リスクを過小評価し、依然としてサプライチェーンの見直しが十分ではない企業も見受けられる。また、中国や台湾に拠点を有していなくても、近年のサプライチェーンは原材料の供給、部品の製造、最終製品の組み立てといった多層構造で形成されており、素材・電子部品・加工部材の由来まで遡れば、中国・台湾地域を経由しているケースが非常に多い。物流網や港湾、海上輸送ルートも考慮すると、台湾有事の際にはほとんどの企業が何らかの影響を受けるはずだ。サプライチェーンのどこか一か所が途切れれば、国内で完結しているかのように見える事業であっても生産停止や納期遅延という事態に追い込まれる恐れがある。

サプライチェーンの寸断や物流危機に加え、中国系のサイバー攻撃集団による日本企業をターゲットとしたサイバーテロのリスクもこれまで以上に高まっている。また、産業スパイの暗躍による機密情報の流出危機に対しても有効な手を打てていないのが現状だ。

こうした中、企業が取り組むべき課題としてまず挙げられるのが、調達網全体の可視化とリスクの棚卸しである。中国・台湾に拠点がない企業であっても、同地域への依存が存在する部分を特定しておく必要がある。次に、台湾有事や輸出管理強化など、リスク管理の前提となる複数のリスクシナリオを想定し、それぞれの影響度を定量・定性的に評価することが求められる。そして、各リスクへの対応として、調達先の分散化、代替ルート(別の供給経路や物流手段)の確保、在庫の戦略的保有、駐在員の安全を確保する手段の検討、契約条項の見直し(不可抗力条項の見直し(戦争、制裁、輸出規制などを明確に含める)、供給遅延・停止時のペナルティや代替供給義務の明記など)や与信管理の強化(与信枠を超える取引の制限、前払い・保証金の活用など)といった措置を講じることになる。これらの対応にはコストを要するが、単なるコストの増加ではなく、事業継続に直結する「投資」と考える必要がある。


輸出管理 : 国際的な枠組みにおいて行われる半導体や先端技術の対中輸出規制などのこと。半導体、AI、量子技術などが中国の軍事・監視・宇宙開発などに転用されることを懸念し、米国や日本、EUなどは輸出規制を強化している。

また、輸出規制や特定重要物資への指定等の制度変更の定期的なモニタリングも不可欠となる。制度変更は単なる購買業務の範疇を超え企業全体の戦略や事業継続に直結する重大な経営課題であるため、調達部門任せにするのではなく、取締役会レベルでのモニタリング体制を整える必要がある。“安全保障コスト”の増加に伴う事業計画の見直しも求められる。そして、これらの対応を着実に実行に移すために、経済安全保障に関する社内教育も怠らないようにしたい。


特定重要物資 : 経済安全保障推進法に基づき政府が指定する「供給途絶が社会・経済に深刻な影響を及ぼす物資」のこと。例えば、半導体、蓄電池、重要鉱物、肥料、船舶部品、クラウドプログラムなどが挙げられる。

こうした取り組みは、取引先から説明を求められる可能性があるだけでなく、投資家や金融市場への説明責任もある。投資家は「企業がどれだけ地政学リスクを理解し、どのように備えているか」を評価軸に加えつつあり、開示の不備は信用低下や資金調達コストの増加として跳ね返ることになる。

以上をまとめると下記のとおりとなる。

経済安全保障の観点から企業が直ちに着手すべき10項目
1.サプライチェーンの可視化:多層構造を把握し、地域的なリスクと輸送ルートの脆弱性を洗い出す。
2.複数のリスクシナリオの分析:台湾有事、制裁強化、輸出規制、物流停止など複数の事態を想定する。
3.人的資源・物的資源の安全性の確保:中国拠点が接収された場合への備えや、現地駐在員及びその家族の安全の確保手段を検討する。
4.調達・生産の分散化:地域依存度を低減させ、代替調達ルートを確保する。「事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)」も見直す。
5.契約・与信管理の強化:サプライヤーの財務・地政学リスクを定期的に評価する。
6.制度・規制の変更のモニタリング:輸出管理、投資規制、特定重要物資制度などの動向を定期的にチェックする。
7.サイバーセキュリティの強化:バックドアの埋め込み、産業スパイなどによるデータの持ち出しや不正アクセスを未然に防ぐとともに、機器やデータの保管場所も見直す。
8.中期経営計画の見直し:在庫の確保や分散化に伴う“安全保障コスト”の増加を経営計画に組み込む。
9.社内教育の強化:調達・法務・IR部門への経済安全保障リスク教育を行う。
10.ステークホルダー対応および情報開示の充実:顧客・取引先への説明体制を構築する。また、有価証券報告書(有報)や統合報告では、自社が抱えるリスクやその対応状況、代替調達の可能性、リスク顕在化時の財務インパクトについての記載を充実させるようにする(有報の【事業等のリスク】における台湾有事の記載については2023年9月1日のニュース「有報の【事業等のリスク】に台湾有事を記載する企業が急増」を参照)。株主総会や機関投資家とのMTGにおいて台湾有事リスクに対する懸念が伝えられたときに備えて、上記の対応状況を集約化し、回答できるようにしておく。


接収 : 国家や公的機関が、特定の財産や施設を強制的に取得・管理することを指す。特に戦争や緊急事態、外交的対立などの際に使われる言葉である。

経済安全保障はもはや一過性のテーマではなく、企業経営の基盤を揺るがしかねない構造的課題と言える。リスク分散のための投資は、短期的にはコストに見えるが、中長期的には競争力の源泉となる。上場企業の役員は、地政学的リスクへの備えの有無が企業価値を大きく左右することを認識したい。