フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男
ソフト99コーポレーションのMBOが頓挫したが(2025年11月20日のニュース「ソフト99のMBO頓挫に学ぶこと」参照)、これを阻止したのがエフィッシモによるソフト99株式の「部分買付け」だ。この部分買付けは日本では一般的となっている。2008年から2024年までの1,012件のTOBのうち153件が部分買付けであり、買収者はTOB前に3分の1未満の株式を保有し、部分買付けを通じて3分の1を超える保有を試みている。部分買付けは、買収後も買収対象会社の上場を維持するなど、様々な戦略的目的で利用されている。
日本のTOB規制では、買収者は買付後の議決権が「3分の1」(金融商品取引法の改正により、2026年5月1日から「30%」に引き下げ)を超えればTOBを実施する義務を負うことになるが、3分の2未満の場合には部分買付けが認められる(取得後の議決権割合が3分の2に達した場合は、残存株式に対して強制的な公開買付け(スクイーズアウト)を行う義務が生じる)。これに対し、米国はいわゆる市場ルール(マーケット・ルール)を採用しているため、買収者はTOBを実施せずに、例えば既存の大株主から議決権の過半数の株式を取得することができる。また、欧州の強制TOBルールでは、買収者が議決権の一定割合(例えば30%)を取得した場合には、すべての残存株式に対して公開買付(強制TOB)を実施しなければならず、部分買付けは認められない。すなわち、日本のTOB規制は、米国や欧州のルールとは大きく異なっている。
30% : 従来、株主総会の特別決議を阻止できる基本的な割合である「3分の1」とされてきたが、実際のところ、30%でも十分特別決議の阻止はでき、また普通決議に対しても重大な影響を及ぼし得ることから、30%に引き下げられることとなった。
市場ルール : 上場会社の株式取得は、主に市場での取引や個別株主との交渉で行われるというルール。
強制TOBルール : 一定の議決権比率を超えた株式を取得すると、残りの株式に対してTOBを実施する義務が生じるルール。
ここで、部分買付けのメリットとデメリットを整理しておこう。
部分買付けは買収者にとって多くのメリットがある。まず、すべての株式を買い取らなくて済むため、資金調達コストを抑えることができる。また、買収対象会社の支配権を取得しつつ上場を維持することも可能となる。さらに、部分取得を通じて段階的にリスクを管理することができ、シナジーが確認できれば完全買収を進め、期待される利益が実現しない場合は持分を売却するといった柔軟な選択が可能となる。
一方、買収対象会社の株主(少数株主)にとってはデメリットが存在する。例えば、部分買付けにより支配権を取得した買収者が、自らの利得を優先した経営判断を行い、その結果として少数株主の利益が損なわれ、企業価値が毀損するリスクがある。こうしたリスクは、支配権を得た買収者が、会社全体の利益よりも、自らが享受できる私的利益と自己の保有株式価値の合計を最大化しようとするインセンティブを持つことに起因する(もっとも、部分買付けが株主利益や企業価値を損なうという主張を裏付ける確固たる証拠は存在しないとの研究結果もある)。
このように部分買付けについてはこれまで「買収者」によるメリットばかりが強調されてきたが、アクティビストが買収者となり、部分買付けを利用する事態となっているのが現状となっている。例えば、重要な議決権を有する株主(例:10% 以上)が部分買付けへの反対を表明した場合には、部分買付けの可否を株主総会に諮ることを義務付けるルールを導入すれば、部分買付けを禁止する必要はなくなるが、現状、そのようなルールを導入しようという動きはない。もっとも、忘れてはならないのは、そもそも部分買付けでは、応募超過が生じた場合に比例的な按分(プロラタ方式)が適用されるため、応募株主にとっては「応募株式がどの程度買い取られるか」という不確実性が存在するということだ。この不確実性は日本特有のものであり、現行のTOBルールの下では避けられない。したがって、部分買付けを受けた上場会社の役員は、自社の株主の利益が損なわれるリスクを十分に認識し、株主の利益を軽視する行動が取られないよう、買収者との対話を通じて、買付けの意図や条件の把握、場合によっては買収者のみに利益をもたらす特定の取引を制限するなどの条件交渉に取り組む必要がある。株主利益を軽視すれば、自社のガバナンス評価や市場からの信頼を損なうということを肝に銘じるべきだろう。
プロラタ方式 : 公開買付け(TOB)で応募超過(=応募株式数が上限を超える)となった場合、応募した株主の株式を一定の比率で按分して買い取る方式。例えば、上限 100万株のTOBに200万株応募 があった場合には、すべての応募者の株式を50%だけ買い取ることになる。つまり、応募しても自分の保有株式が全部買われるとは限らず、「どれだけ買われるかが読めない」方式と言える。

