本日(2021年)9月1日から新市場区分の選択申請期間(〜12月30日)が開始したが、同日前から「プライム市場を選択することを取締役会で決議した」旨のリリースが続々と出ている。東証はどの市場の選択を申請したかを適時開示するかどうかは各社の任意との考えを示しており(2021年8月24日のニュース「9月1日から新市場区分の選択手続が開始、適示開示はどうする?」参照)、プライム市場の上場維持基準に抵触する可能性がある会社を中心に、選択申請期間において適示開示を行う企業が一定数出てくるものとみられる。
東証は7月9日に上場会社各社に対し「新市場区分における上場維持基準への適合状況に関する一次判定結果」を通知しているが、当フォーラムの調査によると、当該通知を受け「新市場区分『プライム市場』適合のお知らせ」といったリリースを7月末までに公表した会社は300社近くに上ることが判明した。このうち時価総額が1,000億円超の会社は1割程度にとどまっており、予想通り、比較的規模の小さい会社が「不適合」の懸念を払拭するために情報発信したとみられるケースが多い。
時価総額の大きい会社の事例としては、例えば下表の3社が挙げられる。日本ペイントHDはシンガポールの塗料大手・ウットラムの上場子会社、他の2社も支配株主が存在しており、プライム市場の上場維持基準のうち「流通株式比率35%」に抵触しないことを明確にしようという趣旨がうかがえる。
流通株式比率 : 流通株式数を上場株式数で除した値
| 社名 | 時価総額 | 大株主 |
| 日本ペイントHD | 約3兆3,000億円 | ウットラム(約40%) |
| 神戸物産 | 約1兆円 | 公益財団法人(約33%) |
| 光通信 | 約9,000億円 | 有限会社(約40%) |
一方で、上場維持基準を充たしていないことを明らかにするリリースを出した事例も7社確認された。いずれも市場申請においてはプライム市場を選択する予定であり、その際には「上場維持基準への適合に向けた計画書」を提出するとしている。下表は、7社のうち時価総額が100億円超の4社について、各上場維持基準への適合状況を一覧にしたものである(流通株式についてはこちらを参照)。
上場維持基準への適合に向けた計画書 : 選択申請を行う新市場区分の上場維持基準を充たしていない場合に開示が求められる書類。この書類を開示しなければ、上場維持基準に係る経過措置は適用されない。
| 社名 | 時価総額 | 流通株式数 | 流通株式比率 | 流通株式時価総額 | 売買代金 |
| ステップ | 約300億円 | ○ | ○ | ○ | ✕ |
| 極東貿易 | 約150億円 | ○ | ○ | ✕ | ○ |
| レアジョブ | 約150億円 | ○ | ○ | ✕ | ○ |
| ベステラ | 約120億円 | ○ | ○ | ✕ | ○ |
例えばレアジョブのリリース(下記参照)では、大量保有報告書において「純投資」と記載されている株式が存在しており、これを含めれば流通株式時価総額の基準を充たせる見通しであること、それでも非適合であった場合は「上場維持基準への適合に向けた計画書」を提出して、全ての上場維持基準充足のための取り組みを進めることが示されている。また、コーポレートガバナンスの充実にも言及しており、プライム市場上場への強い意思が見てとれる。
| 上記の流通株式時価総額には、直近の大量保有報告書において保有目的が「純投資」と記載されている株式であって、5年以内の売買実績が確認できる株主様の所有分が含まれていないことから、当該所有分を勘案することにより上場維持基準を満たす場合には、適合状況の二次判定に係る書類として「純投資目的等の株券に関する追加資料」を提出する予定であります。しかしながら、上場維持基準を満たさない場合には、当社は「上場維持基準への適合に向けた計画書」を作成し開示する予定です。上場維持基準に係る経過措置の適用を受けるとともに、プライム市場の全ての基準の充足を目指し、「流通株式時価総額」の向上に取り組んでまいります。 また、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するため、コーポレートガバナンスの一層の充実を図ってまいります。 |
「流通株式数/上場株式数」により算定される流通株式比率であれば株式の売出しによって達成できる可能性もあるが、流通株式時価総額基準を達成するには、流通株式数を増やしつつ株価を高める必要がある。いくら売り出しにより流通株式数が増えても株価が下がれば流通株式時価総額の増大にはつながらない。プライム市場の上場維持基準の当落線上にある会社は、自社の企業価値向上ストーリーを見直した上で、適切な市場選択を検討する必要があろう。
