2021/09/07 「株式取得資金」を中長期インセンティブとする理由

多くの上場会社が役員報酬として譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド・ストック)や、パフォーマンス・シェア・ユニットをはじめとする株式報酬を導入する中、「株式取得資金」を中長期インセンティブとして支給している上場会社が少なからず見受けられる。例えば、・・・

譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド・ストック) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬で、企業が株式を無償取得することとなる事由(没収事由:例えば所定の期間勤務を継続しないなど)が定められているものを指す。「リストリクテッド・ストック」という呼び方も定着している。
パフォーマンス・シェア・ユニット : 「パフォーマンス・シェア」とは文字通り一定期間(以下、業績等評価期間)における「業績」や「株価」によって交付する株式数が変動するタイプの株式報酬のこと。業績評価期間の最初に株式を交付するものは単に「パフォーマンス・シェア(通称:PS)」と呼ばれるが、まずポイント(ユニット=単位)を付与し、業績等評価期間終了後に評価の結果に応じてポイント数を変動させ、当該ポイントに応じた株式を交付するのが「パフォーマンス・シェア・ユニット(通称:PSU)」である。業績や株価条件のある株式交付信託は、パフォーマンス・シェア・ユニットに区分される。

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2021/09/07 「株式取得資金」を中長期インセンティブとする理由(会員限定)

多くの上場会社が役員報酬として譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド・ストック)や、パフォーマンス・シェア・ユニットをはじめとする株式報酬を導入する中、「株式取得資金」を中長期インセンティブとして支給している上場会社が少なからず見受けられる。例えば、NTTは、パフォーマンス・シェア・ユニットである役員報酬BIP(Board Incentive Plan)信託を2022年3月期から導入しつつ、株式取得資金も中長期インセンティブの一つとして位置付けている。

譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド・ストック) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬で、企業が株式を無償取得することとなる事由(没収事由:例えば所定の期間勤務を継続しないなど)が定められているものを指す。「リストリクテッド・ストック」という呼び方も定着している。
パフォーマンス・シェア・ユニット : 「パフォーマンス・シェア」とは文字通り一定期間(以下、業績等評価期間)における「業績」や「株価」によって交付する株式数が変動するタイプの株式報酬のこと。業績評価期間の最初に株式を交付するものは単に「パフォーマンス・シェア(通称:PS)」と呼ばれるが、まずポイント(ユニット=単位)を付与し、業績等評価期間終了後に評価の結果に応じてポイント数を変動させ、当該ポイントに応じた株式を交付するのが「パフォーマンス・シェア・ユニット(通称:PSU)」である。業績や株価条件のある株式交付信託は、パフォーマンス・シェア・ユニットに区分される。

日本電信電話株式会社 役員報酬ポリシー」の「3.報酬構成および業績連動報酬の内容(2021年度以降の役員報酬制度からの適用を予定)」より抜粋
■株式取得資金(中長期インセンティブ)
・一定額以上を拠出し、役員持株会を通じて自社株式を購入する資金
・当該資金により購入した自社株式は、役員の在任期間中、その全てを継続保有することとしており、役員の自社株保有の促進を通じて、株主の皆さまとの利益共有を一層進めることを目的とする。

株式取得資金とは、要するに、役員に役員持株会への加入を義務化する代わりに、株式の購入資金を月額報酬に上乗せして支給するもの。NTTのように株式購入資金を中長期インセンティブとするスキームは比較的よく見られるものであり、特に伝統的な上場会社では過去から継続しているケースが多い。株式報酬全盛の時代において何故このような制度を存続させ続けるのかとの疑問も生じるところだが、実は特段の理由はなく、単に「昔からあるから」というだけでそのまま惰性的に存続しているということが少なくない。確かに、役員持株会を活用したこのスキームはリストリクテッド・ストックやパフォーマンスシェアといった近年普及した中長期インセンティブよりも圧倒的に「分かりやすい」というメリットがある。

ただ、持株会はインサイダー取引規制の対象外となる株式購入金額の上限が「月額100万円未満」とされているため、最大でも年間1,200万円未満の価額(時価)までしか付与することができない。この点では、今時の株式報酬強化の要請には応えられないスキームとも言えよう。

株式購入資金を中長期インセンティブとするスキームの(分かりやすさと並ぶ)もう一つのメリットは、株式購入資金を月額報酬に上乗せして支払った時点で所得税の納税を済ませられるという点だろう。上述のとおり、株式購入資金は月額報酬に上乗せして支給されるため、支給時に支給額が給与所得課税の対象となる。一方、譲渡制限付株式報酬等も給与所得課税の対象となるが、課税タイミングは譲渡制限解除時であり、課税対象はその時点の株価に左右される。すなわち、例えば譲渡制限解除時点で株価が高くなっていれば、課税対象額も膨れ上がり、場合によっては累進課税により高い税率が適用されこともあろう。一方、譲渡制限解除時点で株価が低くなっていれば、課税対象額も少なくなり、所得税も結果的に少なくなる。このように、リストリクテッド・ストックの場合は、付与時には将来の株価の動向で納税額が動く可能性を秘めているが、「資金付与時に課税を終了」させる株式購入資金の場合はそのような調整機能を持たない分、所得税の納税額の増減に悩まされることはなくなる。

累進課税 : 所得が増えるほど、より高い税率を課する課税方式のこと。

なお、株式購入資金を中長期インセンティブとするスキームの法人税の取扱いは、月額報酬に上乗せして毎月支給する場合は「定期同額給与」として損金算入、任期中の定められた時期に固定金額を支給する場合は「事前確定届出給与」として損金算入、インセンティブ報酬の一部として支給する場合は「業績連動給与」の要件を満たすことで損金算入が可能となる。

定期同額給与 : 役員給与の支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、かつ、当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの。
損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。
事前確定届出給与 : いつ、どれくらい(確定額、確定した株式数・新株予約権など)支給するかを“事前に”確定した上で原則として税務署に届け出をし、それに基づいて支給するもの。
業績連動給与 : その事業年度の利益や株価、売上等に関する指標に基づく「あらかじめ定められた方法」により決定されるもの。複数年度にわたる指標(例えば3年間の平均利益)を採用することも認められる。

2021/09/06 【特集】改訂コーポレートガバナンス・コードの概要と改訂に伴う開示の留意事項

株式会社東京証券取引所 上場部企画グループ調査役 柴﨑 有紗

一 はじめに

東京証券取引所(以下「東証」という)では、本年6月11日付でコーポレートガバナンス・コード(以下「コード」という)の改訂を実施した。コードは、企業が、株主をはじめとするステークホルダーの立場を踏まえたうえで、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための実効的な枠組み(ベストプラクティス)を示すものであり、2015年に策定された後、2018年に改訂が行われ、今回が3年ぶり2回目の改訂となる。

今般の改訂は、新型コロナウイルス感染症の拡大、デジタルトランスフォーメーション、気候変動など企業を取り巻く環境変化が著しい中、企業が新たな成長を実現するため、金融庁及び東証に設置された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下「フォローアップ会議」という)において取りまとめられた提言の内容を反映したものとなっている。また、東証では、2022年4月4日付で、現在の市場区分をスタンダード市場・プライム市場・グロース市場の3つの市場区分に見直すことを予定しており、フォローアップ会議においては、とりわけ、グローバルな投資家の投資対象となることが想定されている、プライム市場の上場会社に期待される「より高い水準のガバナンス」についても検討が行われたところである。

本稿では、コードの主要な改訂テーマである取締役会の機能発揮、企業の中核人材における多様性の確保、サステナビリティを巡る課題への取組みの3つについてその改訂のポイントを解説するとともに(*1)、各上場会社において検討が必要となるコーポレート・ガバナンスに関する報告書(以下「ガバナンス報告書」という)における開示上の留意点について解説する(*2)。

*1 コード改訂の詳細については、島崎征夫等「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂の解説」(商事法務2266号(2021年)4頁以下)参照。
*2 ガバナンス報告書の記載方法の詳細については、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領」(2021年6月11日付東証上場第26号)、芳川雄磨「コーポレートガバナンス・コードの改訂を踏まえた『コーポレート・ガバナンスに関する報告書』の作成上の留意点」(商事法務2268号(2021年)26頁以下)参照。

二 コード改訂の概要及び改訂に伴う開示における留意事項

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2021/09/06 【特集】改訂コーポレートガバナンス・コードの概要と改訂に伴う開示の留意事項(3・会員限定)

三 改訂コードを踏まえた実務対応

各上場会社においては、コード改訂に伴い、本年12月末日までにガバナンス報告書の更新が必要となる()。本コードの各原則を実施するか、あるいは実施しない場合の理由の説明をガバナンス報告書に記載することが義務づけられているため、改訂により変更又は追加された原則を実施しない場合には、その理由の説明を記載するための更新が必要となる。実施しない場合の理由については、会社を取り巻く個別事情や今後の対応方針を記載するほか、代替手段の内容を記載することが考えられる。投資家との対話の観点からも分かりやすい記載をお願いしたい。

 コードの基本原則・原則・補充原則のすべてがコンプライ・オア・エクスプレインの対象となっている本則市場の上場会社及びJASDAQの上場会社(2020年11月1日以降に上場申請を行った会社に限る。)においてはガバナンス報告書の更新が必要となる。また、基本原則のみがコンプライ・オア・エクスプレインの対象となっているマザーズ又はJASDAQの上場会社においても、改訂コードを参照のうえ、重要な変更が生じた場合には更新が必要となる。

また、コードには、特定の事項を開示すべきとする原則(以下、「開示原則」という)が含まれており、ガバナンス報告書には、開示原則を実施する場合の開示欄が設けられている。今般の改訂では、開示原則の変更及び追加も含まれていることから、改訂があった開示原則を実施するに当たっても、ガバナンス報告書の更新が必要となる。

なお、改訂コードのうち、プライム市場のみを対象とする内容については、新市場区分が創設される2022年4月4日の適用となるため、プライム市場上場会社は、2022年4月4日以降、最初に到来する定時株主総会後に遅滞なく提出するガバナンス報告書において当該内容を反映した更新を行うことで差し支えない()。

 もっとも、プライム市場を選択した上場会社が、年末までに更新するガバナンス報告書において、先行して任意にプライム市場向けの内容を踏まえて記載することを妨げるものではなく、その場合には、プライム市場向けの内容を含めた改訂版コードに基づく記載である旨をガバナンス報告書に明記をお願いしたい。

四 おわりに

本稿では、改訂コードの主な改訂内容及び開示上の留意事項を解説した。各上場会社において改訂コードを踏まえた対応を行うにあたっては、自社の企業価値向上の観点から実質的な取組みの検討をお願いしたい。

コードは、「コンプライ・オア・エクスプレイン」の手法を採用しており、各原則の実施を一律に求めるものではない。各社の個別事情に照らして実施することが適切でないと考える原則があれば、その理由や代替策の実施状況などを説明することが望まれる。熟慮のうえでの充実したエクスプレインであれば、形式的なコンプライよりも、投資家からの信頼性は高まるものと考えられる。

今般のコード改訂が、上場会社各社の投資家との建設的な対話を通じた持続的な成長と中長期の企業価値向上の実現に向けた一助となれば幸甚である。

2021/09/06 【特集】改訂コーポレートガバナンス・コードの概要と改訂に伴う開示の留意事項(2・会員限定)

二 コード改訂の概要及び改訂に伴う開示における留意事項

1 取締役会の機能発揮
(1)取締役会における独立社外取締役の比率

<改訂のポイント>
・プライム市場上場会社において、独立社外取締役を3分の1以上選任(必要な場合には、過半数の選任の検討を慫慂)(原則4-8)

フォローアップ会議では、事業環境が不連続に変化する中において、取締役会が、経営者の迅速・果断なリスクテイクを支え重要な意思決定を行うとともに、実効性の高い監督を行うことが必要であるとの指摘がなされた。これを踏まえ、改訂コードは、より高い水準のガバナンスが求められるプライム市場上場会社において、選任すべき独立社外取締役の割合を他の市場区分よりも引き上げ、独立社外取締役を3分の1以上選任することを求めるとともに、それぞれの経営環境や事業特性等を勘案して過半数の独立社外取締役の選任が必要と考える場合には、十分な人数の独立社外取締役を選任することを求めている。

この点、現状、市場第一部上場会社において独立社外取締役を3分の1以上選任している会社は7割を超える状況にあり、各上場会社における取組みは進んでいるものと思われる。なお、改訂前のコードにおいては、必要と考える場合に3分の1以上の選任を求める内容であったところであり、現在、3分の1以上を選任していない会社においては、単に数合わせの対応を行うのではなく、昨今の環境変化を踏まえて独立社外取締役選任の必要性に変更が生じたかを検討したうえで、適切な人材を選任することが重要と考えられる。

(2)取締役会が備えるべきスキル等の組み合わせ

<改訂のポイント>
・経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)を特定し、各取締役のスキルとの対応関係を開示(補充原則4-11①)
・他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役への選任(同)

フォローアップ会議では、取締役会の機能発揮のためには、取締役の知識・経験・能力、さらには就任年数に関する適切な組み合わせの確保が必要不可欠であり、取締役会において中長期的な経営の方向性や事業戦略に照らして必要なスキルが全体として確保されることは、取締役会がその役割・責務を実効的に果たすための前提条件であるとの指摘がなされた。これを踏まえ、改訂コードは、経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定した上で、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で、取締役の有するスキル等の組み合わせを開示することを求めている。

そのため、補充原則4-11①の実施にあたっては、経営戦略等に照らして取締役会全体としてどのようなスキルを備えるべきか、現任の取締役が必要なスキルを備えているかという観点から検討・開示されることが必要となる。開示の方法としては、いわゆるスキル・マトリックスを利用することも考えられるが、これはあくまでスキルの組み合わせ・対応関係を示すための一つの方法にすぎず、他の方法を用いることでより分かりやすい開示が可能である場合には、スキル・マトリックス以外の方法により開示を行うことも考えられる。

また、フォローアップ会議では、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させる上で、独立社外取締役が果たす役割の重要性がより一層高まっていることが指摘されている。これを踏まえ、改訂コードは、独立社外取締役に他社での経営経験を有する者を含めるべきとしている。

(3)指名委員会・報酬委員会の設置

<改訂のポイント>
・プライム市場上場会社において、過半数を独立社外取締役とすることを基本とする指名委員会・報酬委員会の設置(補充原則4-11①)
・委員会の独立性に関する考え方・権限・役割等について開示(同)

フォローアップ会議では、指名委員会・報酬委員会に期待される機能の発揮のためには、その独立性の確保が重要な要素の一つであり、国際的な比較を踏まえても、独立性を更に高めていくことが重要であるとの指摘がなされた。これを踏まえ、改訂コードは、プライム市場上場会社においては、各委員の構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とすることを求めている。

また、委員会の役割や権限、活動内容が開示されていない場合が多いとの指摘がなされたことを受け、指名・報酬などに係るプロセスの透明性の向上のために、プライム市場上場会社において、指名委員会・報酬委員会の独立性に関する考え方や、委員会の権限・役割等についての開示を求めている。

「独立性に関する考え方」の開示においては、各委員会の構成等を踏まえた独立性確保の考え方を示していただくことが想定される。なお、各委員会の構成に関しては、独立社外取締役が過半数である場合だけではなく、それと同等の独立性が担保されている場合(例えば、独立社外取締役が半数かつ委員長が独立社外取締役である場合など)についても、各社においてコンプライと評価できるものと考えられる。したがって、特に、このように独立社外取締役を過半数とはしていないが必要な独立性が確保されていると考える場合には、どのように独立性を確保しているかの考え方を分かりやすく開示することが望まれる。また、委員会の「権限・役割」の開示においては、各委員会が、どのような内容を審議事項としているか、実質的な決定権限を有しているか(それとも取締役会へ答申を行うのみか)などを明らかにすることが考えられる。

さらに、委員会の独立性に関する考え方・権限・役割「等」として、委員の選定方法、各委員会の委員の氏名、選定理由、活動状況(開催頻度、主な検討事項、個々の委員の出席状況等)、事務局等の設置状況やその規模などについても記載することが考えられる。

2 企業の中核人材の多様性の確保

<改訂のポイント>
・管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者等の登用)についての考え方、測定可能な自主目標、多様性確保の状況を開示(補充原則2-4①)
・多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて開示(同)

フォローアップ会議では、企業がコロナ後の不連続な変化を先導し、新たな成長を実現していく上では、取締役会のみならず、経営陣にも多様な視点や価値観を備えることが求められると指摘された。また、取締役や経営陣における多様性を確保するためには、その取締役や経営陣を支える、企業の中核人材たる管理職層においても多様性が確保されていることが重要であるとの指摘もされた。これらを踏まえ、改訂コードは、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示することを求めている。

開示の対象となる多様性の要素として、補充原則2-4①においては、「女性・外国人・中途採用者」が特筆されているものの、必ずしもこの3つに限られるものではない。自社の状況を踏まえたうえで、これら以外に重要と考える要素がある場合には、その要素も開示の対象に加えることが望まれる。なお、女性・外国人・中途採用者のうち、自社の状況を踏まえると目標を設定することが適切ではないと考える項目が一部ある場合は、その項目について目標を示さないこととする旨及びその理由を「多様性の確保についての考え方」として開示することでも差し支えない。

また、どのように「自主的かつ測定可能な目標」を設定・開示するかは、各社において検討されるものであるが、一般的に「測定可能」といえるためには、事後的に目標の達成状況が検証可能であることが必要と考えられる。具体的な例としては、達成期間を提示しつつ特定の数値を用いて目標を示す方法のほか、「程度」という表現やレンジ(範囲)を用いて示す方法、あるいは、現状の数値を示した上で「現状を維持する」「現状より増加させる」という形で目標を示す方法も考えられる。

これに加え、改訂コードでは、多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針とその実施状況を開示することも求めている。各社の状況に応じて多様性の確保のあり方は様々であることから、多様性確保の考え方や人材育成方針等の開示においては、自社の状況に応じた分かりやすい説明をお願いしたい。

3 サステナビリティを巡る課題への取組み
(1)サステナビリティを巡る課題への対応

<改訂のポイント>
・サステナビリティを巡る課題への対応につき、リスク減少・収益機会につながる重要な経営課題として認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、積極的・能動的な対応を検討(補充原則2-3①)
・サステナビリティを巡る取組みに関する基本的な方針の策定(補充原則4-2②)

フォローアップ会議では、中長期的な企業価値の向上に向けて、リスクとしてのみならず収益機会としても、サステナビリティを巡る課題へ積極的・能動的に対応することの重要性が高まっているとの指摘がなされた。従前より、コードではサステナビリティに関する取組みを求めていたところであるが、今回の改訂では、それらの指摘を踏まえ、サステナビリティの課題が収益機会にもつながる重要な経営課題であること、サステナビリティについての取組みは中長期的な企業価値向上の観点から行われるべきものであることが明確化されている。また、これに加えて、取締役会において、サステナビリティを巡る取組みに関する基本的な方針の策定を求めている。

改訂コードは、気候変動をはじめとする地球環境問題への配慮等、サステナビリティ課題に対する企業の対応として考えられる事項が列挙されているが、各企業において取り組むべき課題には、全企業に共通するものもあれば、各企業の事情に応じて異なるものも存在する。そのため、各社が自社の置かれた状況を的確に把握し、取り組むべきサステナビリティ要素を個別に判断していくことが、形式的にではなく実質的にサステナビリティ課題への対応を行う上で重要となる。

(2)サステナビリティについての開示

<改訂のポイント>
・経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みの開示(補充原則3-1③)
・プライム市場上場会社において、TCFD又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量の充実(同)

フォローアップ会議では、投資家と企業の間のサステナビリティに関する建設的な対話を促進する観点から、サステナビリティに関する開示が行われることが重要であるとの指摘がなされた。それを踏まえ、改訂コードは、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示することを求めている。

サステナビリティの取組みについての開示にあたっては、特定の形式によることが要求されているわけではない。前述のとおり、サステナビリティの要素として取り組むべき課題は、各社の状況において様々であることから、自社の中長期的な企業価値の向上に向けた経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ、投資家にとって分かりやすいものとしていただくことが望まれる。

サステナビリティ要素のうち、特に気候変動に関する開示については、現時点において、TCFD提言が国際的に確立された開示の枠組みとなっていることを踏まえ、改訂コードは、プライム市場上場会社において、TCFDに基づく気候変動開示の質と量の充実を求めている。また、国際会計基準の設定主体であるIFRS財団においては、TCFDの枠組みにも拠りつつ、気候変動を含むサステナビリティに関する統一的な開示の枠組みを策定する動きが進められている。IFRS財団による枠組みが策定された場合には、これがTCFDと同等の枠組みとして、参照可能な枠組みとなり得るものと考えられる。

なお、コードに基づいた気候変動開示の取組みとしては、直ちにTCFD提言が要求する全ての項目を開示することを求めるものではない。自社にとって重要と考えられる項目から段階的に開示を進めることも考えられ、その場合は、そのような取組み方や今後の取組み予定について開示することも考えられる。

三 改訂コードを踏まえた実務対応(会員限定)

2021/09/03 新市場区分 経過措置が適用される「当分の間」はいつ終わる?

2022年4月4日からスタートする東証の新市場区分の選択申請期間が9月1日から開始しているが(~12月30日)、周知のとおり、選択申請を行う新市場区分の上場維持基準を充たしていない上場会社は、選択申請時に併せて「上場維持基準への適合に向けた計画書」を提出・開示することで、「当分の間」は経過措置として“緩和された上場維持基準”が適用されることになる。“当落線上”の上場会社にとっては、この「当分の間」がいつ終わるのか、気になるところだろう。東証が公表している『「上場維持基準への適合に向けた計画書」作成上の留意事項』では、すべての上場維持基準を充たすために必要と想定される計画期間(年数)を必須の記載事項としているが(1ページ参照)、計画書を提出する予定の上場会社にとって、計画期間(年数)を何年にするかの意思決定は、「当分の間」がいつ終わるのかということに左右され得るからだ。

緩和された上場維持基準 : プライム市場を選択する場合には、現行の指定替え基準(流通株式時価総額10億円以上、流通株式比率5%以上など)と同水準、スタンダード市場、グロース市場を選択する場合には、現行の上場廃止基準(流通株式時価総額2.5億円以上、流通株式比率5%以上など)と同水準。

この点について・・・

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2021/09/03 新市場区分 経過措置が適用される「当分の間」はいつ終わる?(会員限定)

2022年4月4日からスタートする東証の新市場区分の選択申請期間が9月1日から開始しているが(~12月30日)、周知のとおり、選択申請を行う新市場区分の上場維持基準を充たしていない上場会社は、選択申請時に併せて「上場維持基準への適合に向けた計画書」を提出・開示することで、「当分の間」は経過措置として“緩和された上場維持基準”が適用されることになる。“当落線上”の上場会社にとっては、この「当分の間」がいつ終わるのか、気になるところだろう。東証が公表している『「上場維持基準への適合に向けた計画書」作成上の留意事項』では、すべての上場維持基準を充たすために必要と想定される計画期間(年数)を必須の記載事項としているが(1ページ参照)、計画書を提出する予定の上場会社にとって、計画期間(年数)を何年にするかの意思決定は、「当分の間」がいつ終わるのかということに左右され得るからだ。

緩和された上場維持基準 : プライム市場を選択する場合には、現行の指定替え基準(流通株式時価総額10億円以上、流通株式比率5%以上など)と同水準、スタンダード市場、グロース市場を選択する場合には、現行の上場廃止基準(流通株式時価総額2.5億円以上、流通株式比率5%以上など)と同水準。

この点について東証は、「当分の間」がいつ終わるのかを示す予定は当面ないとしている。これは、上場維持基準への適合は、各社が事業戦略、事業計画等を実現していく中で達成されるものであるとの考え方に基づいている。すなわち、事業戦略や事業計画は各社各様であるため、東証があらかじめ経過措置がいつ終わるかを決めてしまうと、各社の事業戦略や事業計画を拘束することにもなりかねないことから、あえて現時点では終了時期を定めていないというわけだ。

この考え方に基づき東証は、「上場維持基準への適合に向けた計画書」は事業戦略、事業計画等と整合的であることを求めており、上場維持基準を充たすことだけを目的とすることにより事業戦略、事業計画等と乖離したものとならないよう、注意を喚起している。作成上の留意事項においても、「各基準の定義及び記載のポイント」の中で随所に下記の記載が見られる

※ 上場会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上の観点から、上場会社各社の経営方針・経営戦略と整合的な取組をご検討ください。
※ 公表された経営方針・経営戦略、中期経営計画等がある場合には、その内容との整合性確保に特にご注意ください。

ただし、「当分の間」が未来永劫続くのかというと、当然そうではない。上記のとおり、東証は『「当分の間」がいつ終わるのかを示す予定は当面ない』としながらも、必ず終りがあることを明言している。

「上場維持基準への適合に向けた計画書」は今年の年末までには各社から開示されることになるが、計画書では上場維持基準への適合までにどれくらいのタイムスケジュールが想定されるかを示すことが求められるため、各社の計画書が出揃ったところで統計をとれば、各社が経過措置としてどれくらいの期間を必要としているかもおおむね見えてくる。この期間こそが「当分の間」ということになる。

要するに、東証は各社が提出・開示した計画書の中身を確認したうえで「当分の間」の終わりを決めるという流れになる。各社の計画書次第で経過措置の期間も決まるだけに、各社がどのようなタイムスケジュールを引いてくるのか、ボリュームゾーンは何年なのか、注目されるところだ。

2021/09/02 英文開示で海外投資家を満足させるためのチェックリスト

周知のとおり、2021年6月11日に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、補充原則3-1②に、プライム市場上場会社に対して英語での情報開示を求める記述が追加されたところ(下表参照)。この改訂の背景にあるのが、英文開示に対する海外投資家のニーズと不満だ。

コーポレートガバナンス・コード補充原則3-1②
上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。
特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。

海外投資家の中には日本語の開示資料を読むことができるスタッフがいないところも多く、いたとしても十分な数を確保できていないケースがほとんどというのが現状となっている。そのため、英語での情報開示が不足している日本企業の株式はディスカウントして評価されたり、投資のウェイトを減らされたりすることになる。株価がアンダーバリュー(割安)に据え置かれると、アクティビストのターゲットになりかねない。また、英語での情報開示が不足していると、機関投資家は企業との対話を深めることができず、議案を十分に検討できないため、議決権行使助言会社の意見に依存しがちとなる。日本企業が株価を向上させ、議決権行使助言会社の意見に振り回されないようにするためにも、積極的な英文開示は必須と言える。・・・

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2021/09/02 英文開示で海外投資家を満足させるためのチェックリスト(会員限定)

周知のとおり、2021年6月11日に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、補充原則3-1②に、プライム市場上場会社に対して英語での情報開示を求める記述が追加されたところ(下表参照)。この改訂の背景にあるのが、英文開示に対する海外投資家のニーズと不満だ。

コーポレートガバナンス・コード補充原則3-1②
上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。
特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。

海外投資家の中には日本語の開示資料を読むことができるスタッフがいないところも多く、いたとしても十分な数を確保できていないケースがほとんどというのが現状となっている。そのため、英語での情報開示が不足している日本企業の株式はディスカウントして評価されたり、投資のウェイトを減らされたりすることになる。株価がアンダーバリュー(割安)に据え置かれると、アクティビストのターゲットになりかねない。また、英語での情報開示が不足していると、機関投資家は企業との対話を深めることができず、議案を十分に検討できないため、議決権行使助言会社の意見に依存しがちとなる。日本企業が株価を向上させ、議決権行使助言会社の意見に振り回されないようにするためにも、積極的な英文開示は必須と言える。

東京証券取引所が2021年8月30日に公表した「英文開示に関する海外投資家アンケート調査結果」(調査期間:2021年7月1日~2021年8月13日、回答数:54件(うち機関投資家48件))には、海外機関投資家の英文開示に対するニーズと不満がぎっしりと詰まっている。プライム市場を目指す上場会社の取締役としては是非一読しておきたい。当フォーラムでは、同調査結果に記載されている海外投資家の不満をチェックリストに置き換えてみた(下表参照)。こうしてチェックリストにしてみると、海外機関投資家を満足させる英文開示は相当にハードルが高いことが分かる。このチェックリストは、これから英文開示を始める、あるいは改善を図る際に活用していただきたい。

英文開示の範囲
□日本語での開示資料をすべて英文化しているか(有価証券報告書の全文、適時開示、株主総会招集通知、コーポレート・ガバナンスに関する報告書、統合報告書、中長期事業計画、投資家向けプレゼンテーション資料、ESGやCSRの実践に関する情報など)。
□財務情報は要約ではなく全文を英文化しているか。
□資料の英文化にあたり日本語の資料と表現に差異がないことをチェックしているか。

英文開示の方法
□IR専用のメーリングリストを持っているか。
□英語での口頭でのコミュニケーション(例:決算発表後のカンファレンスコール)を行っているか。
□英語でのプレゼンテーション(同時通訳付き)を電子アーカイブ化し、どのタイムゾーンの海外投資家であっても簡単にアクセスすることができるようにしているか。
□IR説明会の議事録を英文化して公表しているか。
□決算説明会を英語で同時通訳し、海外からの質問にも対応しているか。
□英語での説明会をメディアやアナリストを対象とした招待制の決算説明会にしていないか(全株主を対象にすべき)。
□IR担当者の英語力は高いか(同時通訳者が間違えた時にすぐに訂正をすることができるレベル)。
□IR担当者が直接英語で説明しているか(IR担当者が通訳を使う場合、通訳に時間がとられるため、予定していた1時間のうち最大で20分しか対話を持てない場合がある)。

英文開示のスピード
□日本語での開示と同時に提供しているか。同時に提供できていない場合は遅延をなくす努力をしているか。

IRの姿勢
□マスコミに事前にリークしていないか。
□開示ルール上は任意となっている第1四半期および第3四半期のキャッシュフロー計算書を四半期決算短信に添付しているか。
□英語による経営幹部へのアクセスを認めているか。
□IRのメールアドレスを自社のウェブサイトで公開しているか。
□社内でのIRの役割・評価を、より上位のレベルに引き上げているか。

チェックリストの冒頭には「日本語での開示資料をすべて英文化しているか」という問いがあるが、実際にはすべての開示資料を一斉に英文化することは困難であるため、英文化する資料に優先順位を付けざるを得ない。ここでも上記の東証の調査結果が参考になる(10ページの「3.英文開示を必要とする資料」を参照)。
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英文開示が十分でないにもかかわらずプライム市場への上場を希望している会社は、上表の順番を参考にして、来年(2022年)4月4日の新市場への移行までに少しでも英文開示資料を増やしておくべきだろう。

2021/09/01 “当落線上”の企業から時価総額1兆円超企業まで 選択市場の開示理由

本日(2021年)9月1日から新市場区分の選択申請期間(〜12月30日)が開始したが、同日前から「プライム市場を選択することを取締役会で決議した」旨のリリースが続々と出ている。東証はどの市場の選択を申請したかを適時開示するかどうかは各社の任意との考えを示しており(2021年8月24日のニュース「9月1日から新市場区分の選択手続が開始、適示開示はどうする?」参照)、プライム市場の上場維持基準に抵触する可能性がある会社を中心に、選択申請期間において適示開示を行う企業が一定数出てくるものとみられる。

東証は7月9日に上場会社各社に対し「新市場区分における上場維持基準への適合状況に関する一次判定結果」を通知しているが、当フォーラムの調査によると、当該通知を受け「新市場区分『プライム市場』適合のお知らせ」といったリリースを7月末までに公表した会社は・・・

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