二 コード改訂の概要及び改訂に伴う開示における留意事項
1 取締役会の機能発揮
(1)取締役会における独立社外取締役の比率
<改訂のポイント>
・プライム市場上場会社において、独立社外取締役を3分の1以上選任(必要な場合には、過半数の選任の検討を慫慂)(原則4-8)
|
フォローアップ会議では、事業環境が不連続に変化する中において、取締役会が、経営者の迅速・果断なリスクテイクを支え重要な意思決定を行うとともに、実効性の高い監督を行うことが必要であるとの指摘がなされた。これを踏まえ、改訂コードは、より高い水準のガバナンスが求められるプライム市場上場会社において、選任すべき独立社外取締役の割合を他の市場区分よりも引き上げ、独立社外取締役を3分の1以上選任することを求めるとともに、それぞれの経営環境や事業特性等を勘案して過半数の独立社外取締役の選任が必要と考える場合には、十分な人数の独立社外取締役を選任することを求めている。
この点、現状、市場第一部上場会社において独立社外取締役を3分の1以上選任している会社は7割を超える状況にあり、各上場会社における取組みは進んでいるものと思われる。なお、改訂前のコードにおいては、必要と考える場合に3分の1以上の選任を求める内容であったところであり、現在、3分の1以上を選任していない会社においては、単に数合わせの対応を行うのではなく、昨今の環境変化を踏まえて独立社外取締役選任の必要性に変更が生じたかを検討したうえで、適切な人材を選任することが重要と考えられる。
(2)取締役会が備えるべきスキル等の組み合わせ
<改訂のポイント>
・経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)を特定し、各取締役のスキルとの対応関係を開示(補充原則4-11①)
・他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役への選任(同)
|
フォローアップ会議では、取締役会の機能発揮のためには、取締役の知識・経験・能力、さらには就任年数に関する適切な組み合わせの確保が必要不可欠であり、取締役会において中長期的な経営の方向性や事業戦略に照らして必要なスキルが全体として確保されることは、取締役会がその役割・責務を実効的に果たすための前提条件であるとの指摘がなされた。これを踏まえ、改訂コードは、経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定した上で、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で、取締役の有するスキル等の組み合わせを開示することを求めている。
そのため、補充原則4-11①の実施にあたっては、経営戦略等に照らして取締役会全体としてどのようなスキルを備えるべきか、現任の取締役が必要なスキルを備えているかという観点から検討・開示されることが必要となる。開示の方法としては、いわゆるスキル・マトリックスを利用することも考えられるが、これはあくまでスキルの組み合わせ・対応関係を示すための一つの方法にすぎず、他の方法を用いることでより分かりやすい開示が可能である場合には、スキル・マトリックス以外の方法により開示を行うことも考えられる。
また、フォローアップ会議では、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させる上で、独立社外取締役が果たす役割の重要性がより一層高まっていることが指摘されている。これを踏まえ、改訂コードは、独立社外取締役に他社での経営経験を有する者を含めるべきとしている。
(3)指名委員会・報酬委員会の設置
<改訂のポイント>
・プライム市場上場会社において、過半数を独立社外取締役とすることを基本とする指名委員会・報酬委員会の設置(補充原則4-11①)
・委員会の独立性に関する考え方・権限・役割等について開示(同)
|
フォローアップ会議では、指名委員会・報酬委員会に期待される機能の発揮のためには、その独立性の確保が重要な要素の一つであり、国際的な比較を踏まえても、独立性を更に高めていくことが重要であるとの指摘がなされた。これを踏まえ、改訂コードは、プライム市場上場会社においては、各委員の構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とすることを求めている。
また、委員会の役割や権限、活動内容が開示されていない場合が多いとの指摘がなされたことを受け、指名・報酬などに係るプロセスの透明性の向上のために、プライム市場上場会社において、指名委員会・報酬委員会の独立性に関する考え方や、委員会の権限・役割等についての開示を求めている。
「独立性に関する考え方」の開示においては、各委員会の構成等を踏まえた独立性確保の考え方を示していただくことが想定される。なお、各委員会の構成に関しては、独立社外取締役が過半数である場合だけではなく、それと同等の独立性が担保されている場合(例えば、独立社外取締役が半数かつ委員長が独立社外取締役である場合など)についても、各社においてコンプライと評価できるものと考えられる。したがって、特に、このように独立社外取締役を過半数とはしていないが必要な独立性が確保されていると考える場合には、どのように独立性を確保しているかの考え方を分かりやすく開示することが望まれる。また、委員会の「権限・役割」の開示においては、各委員会が、どのような内容を審議事項としているか、実質的な決定権限を有しているか(それとも取締役会へ答申を行うのみか)などを明らかにすることが考えられる。
さらに、委員会の独立性に関する考え方・権限・役割「等」として、委員の選定方法、各委員会の委員の氏名、選定理由、活動状況(開催頻度、主な検討事項、個々の委員の出席状況等)、事務局等の設置状況やその規模などについても記載することが考えられる。
2 企業の中核人材の多様性の確保
<改訂のポイント>
・管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者等の登用)についての考え方、測定可能な自主目標、多様性確保の状況を開示(補充原則2-4①)
・多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて開示(同)
|
フォローアップ会議では、企業がコロナ後の不連続な変化を先導し、新たな成長を実現していく上では、取締役会のみならず、経営陣にも多様な視点や価値観を備えることが求められると指摘された。また、取締役や経営陣における多様性を確保するためには、その取締役や経営陣を支える、企業の中核人材たる管理職層においても多様性が確保されていることが重要であるとの指摘もされた。これらを踏まえ、改訂コードは、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示することを求めている。
開示の対象となる多様性の要素として、補充原則2-4①においては、「女性・外国人・中途採用者」が特筆されているものの、必ずしもこの3つに限られるものではない。自社の状況を踏まえたうえで、これら以外に重要と考える要素がある場合には、その要素も開示の対象に加えることが望まれる。なお、女性・外国人・中途採用者のうち、自社の状況を踏まえると目標を設定することが適切ではないと考える項目が一部ある場合は、その項目について目標を示さないこととする旨及びその理由を「多様性の確保についての考え方」として開示することでも差し支えない。
また、どのように「自主的かつ測定可能な目標」を設定・開示するかは、各社において検討されるものであるが、一般的に「測定可能」といえるためには、事後的に目標の達成状況が検証可能であることが必要と考えられる。具体的な例としては、達成期間を提示しつつ特定の数値を用いて目標を示す方法のほか、「程度」という表現やレンジ(範囲)を用いて示す方法、あるいは、現状の数値を示した上で「現状を維持する」「現状より増加させる」という形で目標を示す方法も考えられる。
これに加え、改訂コードでは、多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針とその実施状況を開示することも求めている。各社の状況に応じて多様性の確保のあり方は様々であることから、多様性確保の考え方や人材育成方針等の開示においては、自社の状況に応じた分かりやすい説明をお願いしたい。
3 サステナビリティを巡る課題への取組み
(1)サステナビリティを巡る課題への対応
<改訂のポイント>
・サステナビリティを巡る課題への対応につき、リスク減少・収益機会につながる重要な経営課題として認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、積極的・能動的な対応を検討(補充原則2-3①)
・サステナビリティを巡る取組みに関する基本的な方針の策定(補充原則4-2②)
|
フォローアップ会議では、中長期的な企業価値の向上に向けて、リスクとしてのみならず収益機会としても、サステナビリティを巡る課題へ積極的・能動的に対応することの重要性が高まっているとの指摘がなされた。従前より、コードではサステナビリティに関する取組みを求めていたところであるが、今回の改訂では、それらの指摘を踏まえ、サステナビリティの課題が収益機会にもつながる重要な経営課題であること、サステナビリティについての取組みは中長期的な企業価値向上の観点から行われるべきものであることが明確化されている。また、これに加えて、取締役会において、サステナビリティを巡る取組みに関する基本的な方針の策定を求めている。
改訂コードは、気候変動をはじめとする地球環境問題への配慮等、サステナビリティ課題に対する企業の対応として考えられる事項が列挙されているが、各企業において取り組むべき課題には、全企業に共通するものもあれば、各企業の事情に応じて異なるものも存在する。そのため、各社が自社の置かれた状況を的確に把握し、取り組むべきサステナビリティ要素を個別に判断していくことが、形式的にではなく実質的にサステナビリティ課題への対応を行う上で重要となる。
(2)サステナビリティについての開示
<改訂のポイント>
・経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みの開示(補充原則3-1③)
・プライム市場上場会社において、TCFD又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量の充実(同)
|
フォローアップ会議では、投資家と企業の間のサステナビリティに関する建設的な対話を促進する観点から、サステナビリティに関する開示が行われることが重要であるとの指摘がなされた。それを踏まえ、改訂コードは、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示することを求めている。
サステナビリティの取組みについての開示にあたっては、特定の形式によることが要求されているわけではない。前述のとおり、サステナビリティの要素として取り組むべき課題は、各社の状況において様々であることから、自社の中長期的な企業価値の向上に向けた経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ、投資家にとって分かりやすいものとしていただくことが望まれる。
サステナビリティ要素のうち、特に気候変動に関する開示については、現時点において、TCFD提言が国際的に確立された開示の枠組みとなっていることを踏まえ、改訂コードは、プライム市場上場会社において、TCFDに基づく気候変動開示の質と量の充実を求めている。また、国際会計基準の設定主体であるIFRS財団においては、TCFDの枠組みにも拠りつつ、気候変動を含むサステナビリティに関する統一的な開示の枠組みを策定する動きが進められている。IFRS財団による枠組みが策定された場合には、これがTCFDと同等の枠組みとして、参照可能な枠組みとなり得るものと考えられる。
なお、コードに基づいた気候変動開示の取組みとしては、直ちにTCFD提言が要求する全ての項目を開示することを求めるものではない。自社にとって重要と考えられる項目から段階的に開示を進めることも考えられ、その場合は、そのような取組み方や今後の取組み予定について開示することも考えられる。
三 改訂コードを踏まえた実務対応(会員限定)