関西電力の幹部が原子力発電所を設置した地方自治体(福井県大飯郡高浜町)の元助役(以下、森山元助役)から長年にわたり多額の現金・商品券・スーツ仕立券付生地などを受け取っていた事件(関西電力幹部の金品受領問題の詳細は【失敗学第66回】関西電力の事例 を参照)で、ついに同社の株主5名から同社の現旧取締役および旧監査役に対し株主代表訴訟が提起(2020年8月20日付)された(関西電力のリリースはこちら)。
関西電力幹部の金品受領問題は2019年9月26日付の共同通信社による報道をきっかけに明るみとなったが、その2か月後の2019年11月27日には同社の株主5名が関西電力に対し、「森山元助役から職務に関し3.2億円を受領し、元助役の意向に沿う不公正かつ不当な高値発注をしたことなどは善管注意義務に違反するだけでなく、1億円を下回らないとされる第三者委員会の委嘱費用や会社の信用低下による損害50億円、不当高値発注金額と正当な発注額の差額3.2億円といった損害が発生した」として、同社の取締役に対し責任追及訴訟を提起するよう求めていた(取締役に対する責任追及訴訟提起請求)。会社法上、株主からこのような請求を受けた会社が60日以内に取締役に責任追及の訴えを提起しない場合には、当該請求をした株主は会社のために責任追及の訴えを提起できることになっている(会社法847条3項)。関西電力は、株主が当該請求をしてから60日目が目前に迫った2020年1月23日になって「取締役に対する責任追及訴訟を提起するかどうかは、第三者委員会の調査報告書の内容も踏まえて最終的な判断をする」と回答したため(関西電力のリリースはこちら)、株主は代表訴訟の提起を留保することとなった。
その後、関西電力の第三者委員会が2020年3月14日に調査報告書を公表し、関西電力の経営トップや原子力事業本部を中心とした同社幹部ら75人が総額約3億6000万円もの金品を30年以上にわたって受領していたこと、関電が元助役の関係企業に随意契約などの便宜を図って原発工事等を発注していたこと、東日本大震災後に大幅な赤字を出し経営難に陥っていた際の取締役報酬の減額分や、森山元助役から金品を受け取っていたことについて納付した修正申告に係る追加徴税分を補填していたことなどが明らかとなった。これを受け岩根茂樹代表取締役社長らが引責辞任したものの、関西電力は取締役に対する責任追及訴訟を提起せず、3月30日に今度は「取締役責任調査委員会」を新たに設置することとした。そこで上記5人の株主は4月18日付で関西電力に対して再度の請求(請求内容は下表を参照)を行い、関西電力が同日から60日以内に役員を提訴しなければ、株主代表訴訟を提起する方針を明らかにしていた(当該株主のサイトはこちら)。
| 請求先 |
請求内容 |
請求内容の詳細 |
| 監査役 |
取締役に対する責任追及
訴訟提起の請求 |
現旧取締役計12名に対して、金品受取り問題に関する役員の修正申告時における追加納税分の補填を決定・実施したこと、過去の経営不振時の役員報酬削減分の補填を決定・実施したこと、金品受取り問題を公表せず、取締役会への報告を怠ったこと等により、善管注意義務および忠実義務に違反したとして、総額55億6120万円の損害金およびこれに対する遅延損害金を会社に支払うことを求める責任追及の訴えを提起することを請求 |
| 関西電力社長 |
監査役に対する責任追及
訴訟提起の請求 |
現旧監査役計7名に対して、金品受取り問題について監査役が取締役会に報告しなかったことにより、善管注意義務および忠実義務に違反したとして、総額51億円の損害金およびこれに対する遅延損害金を会社に支払うことを求める責任追及の訴えを提起することを請求 |
取締役責任調査委員会の調査報告書は6月8日に公表され、そこでは八木誠元会長ら一部の取締役に善管注意義務違反があったことが確認された。第三者委員会の調査報告書に加えて、取締役責任調査委員会からも役員に不利となる報告書を突き付けられ、さらに株主から責任追及訴訟提起を迫られた関西電力は、もはや1月時点のように責任追及訴訟の提起を延期する説得的な理由も失った。そして、6月15日には、八木誠元会長ら旧取締役5名に対し、本件問題に関する善管注意義務違反があったとして、19億3600万円の損害賠償請求を求める責任追及の訴えの提起を決定することを余儀なくされる(同社のリリースはこちら。なお、会社法の規定により、本訴訟については代表取締役ではなく監査役が会社を代表することとなる)。もっとも、関西電力が求める損額賠償額は株主が算定した損害額(55億6120万円)の半分にも満たず、また、被告も旧取締役5名に限定したものとなっている。
一方で関西電力は、監査役には責任追及の訴えを行わないことを決定している。実はこの決議に先立ち、同社はある弁護士法人に対して、監査役らが金品受取り問題を取締役会に報告しなかった経緯等について調査を依頼したところ、監査役らには善管注意義務違反があり、会社が勝訴する可能性が高いとの調査結果が報告されていた。それにもかかわらず関西電力が監査役の責任を追及するための提訴をしなかったのは、「損害の有無およびその範囲は必ずしも明らかではなく、また本件監査役らが賠償すべき損害額が巨額に及ぶとは考えられない一方、本件監査役らに対し、責任追及の訴えを提起したとしても、回収が期待される利益が訴訟に要する費用を上回るとは考え難いこと、併せて、長期にわたりそのような訴訟に経営資源を割かれるというデメリット等、当社の今後の事業運営に対する様々な影響等も考慮」した結果、それが「最善」と判断したからだという(同社のリリースはこちらを参照)。
しかし、このような対応に株主が納得するはずがない。そこで株主が起こしたのが冒頭の2020年8月20日付の株主代表訴訟ということになる。株主代表訴訟の被告は、会社提起の訴訟の5名から、現旧取締役14名および旧監査役8名の計22名へと大幅に増加している。
現旧取締役に対する訴えの内容は下記のとおり。
①森山元助役等から多額の金品を受け取ったこと
②森山元助役の要求に応じる形で、森山元助役等に事前に工事情報の提供や発注約束をしたこと
③金品受取り問題を公表せず、取締役会等への報告を怠ったこと
④金品受取り問題に関する役員の修正申告時における追加納税分の補填を決定・実施したこと
⑤過去の経営不振時の役員報酬減額分の補填を決定・実施したことにより、善管注意義務に違反した
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さらに株主代表訴訟では損害賠償請求額も会社提起の訴訟より増額し、総額で92億1020万円、八木 誠元会長は全額につき責任を負い、もっとも少ない取締役でも65億円を連帯して支払う(仮に払えない取締役がいた場合、他の取締役が補填する)ことを求めている。
また、旧監査役についても、下記の任務懈怠を理由に株主代表訴訟の対象としている。
| 金品受取り問題は、特別背任罪、取締役の贈収賄罪、所得税法違反、善管注意義務・忠実義務違反に該当すると考えられる行為であり、取締役会へ報告しなければならない事項である(会社法382条)にもかかわらず、監査役らはこれを怠った。 |
旧監査役への損害賠償請求額は総額53億円で、これを全員が連帯して支払うことを求めている。
なお、関西電力は8月17日に「役員退任後の嘱託等の報酬に関するコンプライアンス委員会」の調査結果を公表したが、これにより、一部の役員に退任後に嘱託等の業務を委嘱する際の報酬に「金品受取り問題に関する修正申告時の追加納税分」および「過去の経営不振時の役員報酬削減分」を補填する趣旨が含まれていたことが確認されている。株主代表訴訟では、電力会社という実質的な公営企業の“闇”とともに、原発マネーの実態解明がさらに進むことになりそうだ。