東京証券取引所で検討中の市場区分の見直しに伴う企業への“新たな”影響が見えて来た。
東証は(2020年)2月21日に公表した「新市場区分の概要等について」で新市場区分への移行スケジュールを明らかにしているが、そこでは、2021年6月末日を「移行基準日」とし、上場企業各社に対して、当該移行基準日の時点で新市場区分の上場維持基準に適合しているか否かを同年7月末までに通知するというスケジュールが示されている。さらに、同年9月から12月までが「市場選択手続期間」とされており、上場企業各社はこの期間内に新市場区分を選択する手続きを行うことになる。
移行基準日(2021年6月末日)においてプライム市場の上場維持基準を満たしていない一部上場企業であってもプライム市場を選択できることは2020年1月23日のニュース『「プライム市場上場企業」でいられるのはいつまで?』でお伝えしたとおりだが、そのためには市場選択手続期間内(2021年9月から2021年12月まで)に「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」を東証に提出することが条件となる。具体的には、流通株式比率や流通株式時価総額の向上に加え、ガバナンス向上への取り組みも含む計画書を策定のうえ、提出前には取締役会決議を経ることも必要になってくる。さらに、本計画書は公衆縦覧されるのみならず、新市場への一斉移行日(2022年4月1日)以後に終了する事業年度の末日から3か月以内に、当該計画書の進捗状況も開示する必要がある。
流通株式比率 : 流通株式数を上場株式数で除した値
流通株式時価総額 :
公衆縦覧 : 誰でも閲覧することができること
また東証は、「新市場区分の概要等について」の中で、新市場への移行スケジュールに加え、新規上場基準や上場維持基準の改正の方向性も示している。
・プライム市場の上場基準はこちら
・スタンダード市場の上場基準はこちら
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新市場区分への移行に関するパブリック・コメントの募集は2020年3月中に開始される予定。
「新市場区分の概要等について」において盲点となっているのが、新規上場基準や上場維持基準における「流通株式数」の考え方が下記のとおり見直され、その計算式も現行とは異なるものになるということだ。
<現行の流通株式数の考え方>
上場株式のうち、「上場株式数の10%以上を所有する株主が所有する株式」「役員が所有する株式」「自己株式」「役員以外の特別利害関係者の所有する株式(新規上場・一部指定時のみ)」を除いたもの

特別利害関係者 : 会社と一定程度の利害関係を有する者。開示府令に「当該会社の役員、当該役員の配偶者及び二親等内の血族、役員等の持株比率が50%を超えている会社、当該会社の関係会社並びに当該関係会社の役員、当該会社の株主で自己又は他人の名義をもつて所有する株式に係る議決権が多い順に十番目以内となる者」など細かく定義されている。
<流通株式数についての改正案による考え方>
「実態として流通性が乏しいと考えられる株主の保有する株式(=その株主が保有することで流通しにくくなる株式)」については、株主の保有比率にかかわらず流通株式から除外する。
この改正の背景には、現行制度上、たとえ実態として「流通性が乏しいと考えられる株主の保有する株式」であっても、それが上場株式数の10%未満であれば「流通株式」として取り扱われているため、流通株式に関する基準が適切に機能していないとの懸念がある。そして注目すべきは、そのような株式の例示として、「新市場区分の概要等について」の10ページに「例えば、政策保有株などについて検討することが考えられる」と記載されているということだ。この改正が実現すると、例えば自社の株式を1%保有している政策保有株主が10社あれば、それだけで流通株式数は1割(=1%×10社)減少することになる。
プライム市場を例にとると、上場維持基準(新規上場基準も同様)としては、下表のとおり流通株式数およびそれをベースとした流通株式時価総額と流通株式比率の3つの基準が用意されている。現時点では、上記「政策保有株」の詳細な定義や、それに該当するかどうかの判定時期は不明だが、現行の流通株式数の考え方の下では新上場維持基準を満たす一部企業であっても、「流通性が乏しいと考えられる株主の保有する株式を除く」という改正後の流通株式数の考え方に基づき流通株式数を計算し直すと新上場維持基準を満たさなくなるというところも出てくるであろう。
| 項目 |
上場維持基準 |
| 流通株式数 |
20,000単位 |
| 流通株式時価総額 |
100億円以上 |
| 流通株式比率 |
35%以上 |
このような企業は、東証に「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」を提出することなくプライム市場に移行したければ、移行基準日(2021年6月末日)に新たな定義に基づく流通株式数やそれをベースにした他の基準(流通株式時価総額、流通株式比率)を充足するための対策が必要となる。例えば、「自社の株式を政策保有株式として持ってもらっている企業に売却を依頼する」「既存の政策保有株主が有する自社の株式を手放してもらう」「増資により既存株主の持ち株比率を薄める」「自己株式を処分して流通株式数を増やす」などが考えられる。
流通株式時価総額 : 流通株式数に時価を乗じた額
流通株式比率 : 流通株式数を上場株式数で除した値
政策保有株式は、資金が固定化され資本効率が悪化したり、相互保有している先が“与党株主”として機能することで経営陣によるガバナンスに緩みが生じたりといった問題を生じさせることから、コーポレートガバナンス・コードでは、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針の開示を求めている(原則1-4)。しかも、同原則は2018年の改訂により厳格化されたばかりであり、東証や投資家の問題意識は高い。また、有価証券報告書における政策保有株式の開示も、開示府令の改正により強化されてきた(開示対象が30銘柄から60銘柄に拡大。有価証券報告書での政策保有株式の開示の拡充は【特集】改正開示府令の有報記載分析(役員報酬、政策保有株式)を参照)。このような開示を通じた政策保有株式圧縮へのプレッシャーは、従来はその「保有側」に向けられてきた。しかし、今回の市場改革は、プライム市場への移行を誘因として、「保有される側」に対しても持ち合い解消を迫っている。
移行基準日(2021年6月末日)までには、相当な規模での持ち合い解消が図られることが予想されるが、一方で、それでもなお持ち合いを続ける企業は。投資家への説明責任を十分に尽くす必要があると言えよう。