近年、従業員の賃金決定方式を従来の「職能資格制度」から、「職務等級制度(ジョブグレード制)」あるいは「役割等級制度(ミッショングレード制)」に変更する日本企業が増えているが、それぞれの制度の違いを即答できる役員は、人事担当取締役を除けば意外と少ないかもしれない。
賃金は言うまでもなく「労働の対価」であるところ、多くの企業では、従業員の労働を「等級」によって評価し、賃金を決定している。このように「等級」によって賃金を決定する仕組みのうち代表的なものとして挙げられるのが上記3つの制度だ。
「職能資格制度」とは、従業員の「職務能力」に応じて等級を決定するもの。ここでいう職務能力は「その会社における」業務遂行能力であり、在籍年数に比例して高まると考えるという前提がある。このため、従業員にとっては「会社を辞めない」というインセンティブにつながりやすく、ジョブローテーションをしてゼネラリストを育成したい大企業には向いている。給与額も 基本的に年功序列型賃金に収束することから日本企業に馴染みやすい反面、従業員の在籍年数の長期化(=従業員の高齢化)とともに、人件費の高騰につながりやすい。また、「職務能力」といっても特定の職務に関するものではないため、これを測る基準は曖昧なものにならざるを得ず、「職務能力」と言いながら、在籍年数だけが長く能力のない従業員の評価が高く出てしまうという問題点も指摘されている。
一方、「職務等級制度(ジョブグレード制)」は、「職務」の難易度や重要度に応じて等級を決める仕組み。欧米(特に米国)では一般的な賃金決定方式となっている。具体的には、職務内容を詳細に記載した「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」に基づき、職務ごとに賃金額を決定する。職務内容と賃金がリンクしているという点、2020年4月1日から施行される改正労働者派遣法により企業に求められることとなる「同一労働同一賃金」にも対応しやすいと言える。また、職務等級制度には、①職務内容が明確になる、②スペシャリスト育成に効果的、③職務内容が変わらない限り給与も変わらないため、総人件費の抑制に寄与する、等のメリットもある。その反面、①組織が硬直的になり、経営環境の変化に適応しにくくなる、②担当職務の変更(配置転換)がしにくい、③制度の導入に労力を要する(ジョブ・ディスクリプションを作成するためには人事部門等が業務内容を詳細に理解する必要があるうえ、職務に応じた納得感のある給与額の算定が困難)うえ、運用が難しい(ジョブ・ディスクリプションに書いていない仕事をした場合、どう評価するかなど)、といったデメリットもある。
同一労働同一賃金 : 同じ労働に従事する者には、雇用形態にかかわらず同じ賃金を支払うというルール
こうした中、近年注目されているのが、「役割等級制度(ミッショングレード制)」だ。これは、会社が従業員に求める「役割」を設定し、その役割をどれくらい果たしたか(成果)に応じて等級を決める仕組み。役割を果たせば(成果を出せば)年齢や在籍年数に関係なく昇格・昇給が可能となる一方、役割を果たしていないと判断されれば降格・降給につながるという厳しさも併せ持つ。この点、年功序列型の「職能資格制度」とは対照的な仕組みと言えよう。
総人件費の抑制につながるという点や、従業員一人ひとりに対して役割の設定が可能であるため同一労働同一賃金を実現しやすいという点は「職務等級制度」と共通している。ただ、上述のとおり、職務内容を詳細に定義しなければならない職務等級制度に比べれば、シンプルに会社が従業員に期待する役割(成果=ゴール)を設定すれば済む役割等級制度の方が導入のハードルは低いと言える。また、会社が自分に期待する役割が明確になれば、従業員も職務遂行(成果を出すための行動)がとりやすいことから、「目標管理制度」との併用が容易という点も、役割等級制度の優れた点だろう。
目標管理制度」 : 会社の理念や目標を従業員に示したうえで、その達成のために従業員がすべき仕事や目標を設定し、その達成度合いを月例賃金や賞与などの処遇に反映させる仕組み
労務行政研究所が上場企業や上場企業に準ずる企業440社を対象に実施した「2018年 人事労務諸制度実施状況調査」によると、職務等級制度の導入企業は24.1%、役割等級制度の導入企業は30.9%と、役割等級制度の導入企業の方が職務等級制度の導入企業を上回っている。一方、職能資格制度を導入している企業は、2001年の68.5%から2018年には50.0%にまで減少している。年功序列の崩壊、同一労働同一賃金の実施、そして、導入のしやすさといった点を考えると、日本企業の賃金決定方式は今後、役割等級制度が主流となっていく可能性もありそうだ。
ただし、役割等級制度においても、「役割」を明確に定義したうえで、当該役割をどの程度達成したのかを測る評価基準を公平に設定しなければ、従業員の不満を生むことにつながる。また、経営方針やビジネスホテル等が変化すれば、当然改定も必要になる。「従業員に期待する役割」とは、言い換えれば、会社から従業員に対するメッセージでもあるだけに、役割等級制度の導入には経営トップを含む経営陣の関与は必須と言えよう。
