2019/01/31 2019年1月度チェックテスト第1問解答画面(不正解)

不正解です。
日本投資顧問業協会が会員向けに実施したアンケートの調査結果によると、回答した投資家(日本株投資残高がある投資家に限る)のうち、エンゲージメント活動の結果、会社からの事前説明を受けて賛否等を変更したことがある投資家は3社に1社しかありませんでした(問題文は「大半」としている点が誤りです)。少ないようにも思えますが、前年調査では「変更した議案がある」と回答した投資家は21.7%に過ぎず、エンゲージメントの効果が大きく向上していることが分かります。

こちらの記事で再確認!
2019年1月8日 数字が証明するエンゲージメントの意義(会員限定)

2019/01/30 【失敗学第56回】日住サ-ビスの事例(会員限定)

概要

不動産売買事業および売買・賃貸の仲介事業等を営む日住サ-ビス(東証第二部)で、取締役経理部長が会社経費を流用していた(流用額は約32百万円)。

経緯

日住サ-ビスが、2019年1月に第三者委員会の調査報告書を公表するまでの経緯を時系列で示すと、次のとおり。

2010年
日住サ-ビスの経理部長が取締役に就任(経理部長を兼務)。経理部長は、取締役就任後に収入が増えたことから金遣いが荒くなり、北新地の高級クラブ等で飲酒するようになった。経理部長は飲酒とギャンブルが好きで、社内には飲み仲間、ギャンブル仲間といえる者もいた。

2011年
経理部長が大阪北新地の高級クラブに在籍する女性に熱を上げ、頻繁に店に通うようになり、給与だけでは交際資金を賄えなくなってきた。

2012年
経理部長は、高級クラブのホステスの売上に貢献するために多額の現金が必要となり、会社経費の不正流用を始めた。経理部長は、当該ホステスの別の客がツケ払いを支払わなかった分を店に肩代わりした際に、当該ホステスに貸し付けを行うこともあった。

経理部長による一連の不正行為によって領得された金額の合計額(単位:千円)
年度 領得額(認定)
2012年12月期 2,620
2013年12月期 3,330
2014年12月期 4,242
2015年12月期 4,523
2016年12月期 5,396
2017年12月期 6,362
2018年12月期 5,537
合計 32,014

2018年
11月下旬:日住サ-ビスの会計監査人(あずさ監査法人)の担当者が、経理部長が自身で起票し自己承認した仕訳を1件発見し、その摘要欄に「監査法人との会食」と記載されていたことから領収書の提示を求めたところ、経理部員より「領収書が見当たらず、社長の事前決裁も行われていない」(同社では接待交際費の支払いにあたり、金額の多寡にかかわらず、社長の事前決裁が必要であった)との回答があったことから、常勤監査役にその旨を報告した。
12月4日:会計監査人は、監査役への報告会の場で、監査役に対して、経理部長の接待交際費に関する調査の実施を依頼。
12月20日:監査役が調査結果と携え、他の役員とともに、経理部長へのヒアリングを行ったところ、経理部長が不正を認めた。
12月25日:日住サ-ビスで臨時取締役会が開催され、経理部長の管理担当取締役への選任決議の取り消しと第三者委員会の設置が決議された。

2019年
1月31日:日住サ-ビスは、第三者委員会の調査報告書を公表。

内容・原因・改善策

日住サ-ビスが、2019年1月に公表した第三者委員会の調査報告書によると、本件の問題点の主な内容とその原因、再発防止策は次のとおりである。

自らの遊興目的で利用した飲食代金を会社経費として精算
内容 経理部長は自らの遊興目的で利用した飲食代金を、監査法人の担当者や金融機関担当者との接待交際用と偽り、会社経費として精算していた。
原因 日住サ-ビスでは、社内慣行上、接待交際費は社長決裁が必要であったが、経理部長は自ら会計伝票を起票・承認(自己承認)できる権限を悪用して、社長決裁がないにもかかわらず経費精算して現金を領得できた。
・小口現金も経理部長が管理していた(不正の機会)。経理部長は過去に何度か経理担当社員を増やすことを提言してきたが、執行部からは受け入れられず、いつまでたっても自身が現金処理に関わらねばならない状況が改善されないことに不満を感じていた。また、「同業他社との交流、とりわけ金融機関の同年代の者たちに比べると、自分はステイタス(取締役経理部長)の割には報酬が低いことから、この程度のことであれば仕事の対価と考えてもよいだろう」と考え(不正の正当化)、規範意識が鈍麻しはじめた。
・経理部長は、入社して1年半くらいで、営業所から本店経理部に配属となり、以来、継続して経理部で勤務してきた。もともと計算等も得意であり、同社の経理に関する知識や情報をもっとも把握している人物であった。他の経理部員も、格別、経理部長の行動を不審に思ったり、異議を述べたりするようなことはなかった。そのような信頼関係のもと、出金・精算業務の相当な範囲で、経理部長による自己承認が常態化していたことから、比較的長期にわたって、不正を行うことができた。
・不動産売買の取引には「手付金交付」や「高額印紙の貼付」のように、ビジネスの機会を逸することがないように、急な高額現金を必要とする場面が想定され、経理部長クラスの者が実際に現金や高額印紙を持参(運搬)しなければならないこともあった。そこで、当社の経理部門では、現金を実際に持ち出す担当者が自己承認を行うこともやむをえない、との認識があり、自己承認決裁が及ぼす不正リスクへの関心が薄れていた。
・経理部長は、一般の経理社員では知り得ないような案件等、情報管理のためにごく一部の役員だけが知り得る経営判断に関与していたため、通常であれば接待交際費の承認申請書や正確な摘要の記載のある領収書が必要とされるところであったとしても、経理部員らは「情報管理のために、資料には十分な証憑が添付されていないのではないか」と勝手に理解していた。 経理部長も「どうせこの会社で経理や会計がわかる者がいない」といった安心感を持ち、不正に及んでいた。
・内部監査担当者は1名しかおらず、経営の効率性に関連した監査が中心で、管理部門の監査にまで手が回らず、接待交際費として経費精算した後の事後的なチェックが行われていなかった。
再発防止策 ・経理責任者による自己承認を廃止
・独立性のある内部監査部門を新たに設置し、人的・物的資源をそこに投下する
・法務や経理、総務部門を担える役員を育成するとともに、管理部門における評価基準を創設
・当社の取締役・監査役らが、財務報告の信頼性を確保するための会計監査人とのコミュニケーションを円滑に進めていける程度の会計リテラシーを備えるための研修を行う

印紙の虚偽購入による不正出金

内容 経理部長が、印紙の購入を装って、不正に手提げ金庫から現金を出金し、実際には印紙を購入せずに、出金した現金をそのまま領得していた。
原因 ・経理部長は会計伝票を自ら起票・承認(自己承認)して出金することで、領収書がないにもかかわらず現金を領得できた(高額印紙の換金を承認する者と実際に換金に出向く者とが同一であった)。
・「租税公課に含まれる印紙の金額」を「領収書による裏付けがあるか」という視点で事後的に第三者がチェックする仕組みがなかった。
・日住サ-ビスでは印紙出納簿による印紙の払出・在庫管理が行われていた。しかし、内部監査担当者は1名しかおらず、管理部門の監査にまで手が回らず、印紙購入の伝票と印紙出納簿との照合がなされていなかった。
再発防止策 上記を参照

印紙の不正換金による領得

内容 経理部長が自ら購入した印紙を持ち出し、換金して得た現金をそのまま領得していた。
原因 ・経理部長は実際に印紙を購入し、領収書を添付した会計伝票を起票・自己承認をし、当該印紙を印紙保管箱(経理部長の机の引き出し内にある古い菓子缶)に入れずに、金券ショップで換金していた。印紙購入の事実は、印紙出納簿には記録していなかった。
・内部監査担当者は1名しかおらず、管理部門の監査にまでは手が回らなかった。そのため、「租税公課に含まれる印紙の金額」と印紙出納簿の受入額の照合が行われていなかった。
・なお、印紙出納簿にかかわる不正としては、購入した印紙をいったん印紙出納簿に記録して、①貼付対象の契約書等が実際に存在するものの、実際には契約書等には貼付せずに金券ショップで換金する手口、②貼付対象の契約書等が実際には存在しないにもかかわらず、印紙出納簿の払出名目を偽り、払出を行い金券ショップで換金する手口の2つが考えられるが、いずれも経理部長は行っていなかった。その理由は、契約書自体は別部署が管理していることから①の手口では印紙を貼付していないことがすぐにばれることに加え、どちらの手口も印紙出納簿を通すこといなるため、国税の調査で発覚するリスクが高くなるというのが理由である。
再発防止策 上記を参照

架空出張旅費の精算による不正出金

内容 経理部長が架空の出張旅費を計上し、出張旅費相当額の現金を領得していた。
原因 ・経理部長は社長の出張旅費精算書を勝手に偽造し、それに「〇〇社長代理」等と筆記して自身の捺印を行い、それを自身で承認することで、現金を得ていた。
・出張旅費精算書すら作成せずに、役員の出張旅費名目で現金を引き出すこともあった。
・日住サ-ビスでは出張旅費精算が現金で行われ、代理による受領も認められていた。
・内部監査担当者は1名しかおらず、管理部門の監査にまでは手が回らなかった。
再発防止策 上記を参照

不動産管理費の二重払いによる不正出金

内容 販売用不動産にかかる管理費用を振込送金しつつ、同一の月に、同一の物件について現金でも支出していた(現金による支出額を領得していた)。

原因 ・経理部長は自ら支払伝票を作成し、承認し、現金を引き出すことができた。
・内部監査担当者は1名しかおらず、管理部門の監査にまでは手が回らなかった。
再発防止策 上記を参照
<この失敗から学ぶべきこと>

不正を起こさないために、経理(伝票の起票・承認)と財務(小口現金の管理)を同一人物に担わせないようにすることは内部統制構築にあたっての基本中の基本ですが、日住サ-ビスでは経理部員の増員を認めなかったことから、その基本ルールが守られていませんでした。また、伝票の起票者と承認者が同一人物だと、本人以外が事前にチェックする機会がなくなることからリスクが高まります。事後統制としての内部監査が不十分だとそのリスクは余計に高まります。日住サ-ビスでは内部統制の基本ルールが守られていなかったことが経理部長に長期の不正を許す根源となりました。なお、経理・財務に携わる人間が「飲酒」「ギャンブル」といった嗜好を過度に有している場合、経験的に不正のリスクが高いと言えることから、経営陣としては内部けん制が十分なものとなっているかどうかを確認するだけでなく、こまめにジョブローテーションを行ったり、内部監査部門に経費流用がないことを確認するための指示を出すなど、リスクの高さに応じた備えをしておくべきです。
第三者委員会の報告書では、社長への決裁権限の集中化も問題として指摘されていました。すなわち、社長の机には大量の稟議書が置かれていたそうですが、その8割~9割程度は内規上社長の決裁が不要とされるものであったとのことです。報告書では「このような決裁不要な業務が社長の承認を求めているのは、現場において誰がどのような権限を有しているのか、誰が責任を負っているのか意識されないままに、とりあえず実務慣行として社長の承認を得ていればよい、との組織風土が長年根付いていたものと思料される。その結果、本来的に社長の決裁が求められる重要案件も、十分な時間をかけられないままに承認されているのが現状である」と看破しています。

2019/01/29 構成銘柄選定時におけるガバナンスの考慮、一般的な株価指数にまで広がる

一昨年に実現したニューヨーク証券取引所へのある“特殊”な新規上場をきっかけに、市場関係者の一部には、将来的には浮動株比率の低い日本企業が投資対象から外される日が来るのではないかと懸念する声がある。今のところ必ずしも現実味のある話とはなっていないが、この一件は、浮動株比率の高低とは関係なく、上場企業の経営陣に対し、政策保有の見直しをはじめとするガバナンスへの取り組みを改めて考えさせるきっかけとなるかもしれない。・・・

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2019/01/29 構成銘柄選定時におけるガバナンスの考慮、一般的な株価指数にまで広がる(会員限定)

一昨年に実現したニューヨーク証券取引所へのある“特殊”な新規上場をきっかけに、市場関係者の一部には、将来的には浮動株比率の低い日本企業が投資対象から外される日が来るのではないかと懸念する声がある。今のところ必ずしも現実味のある話とはなっていないが、この一件は、浮動株比率の高低とは関係なく、上場企業の経営陣に対し、政策保有の見直しをはじめとするガバナンスへの取り組みを改めて考えさせるきっかけとなるかもしれない。

写真共有アプリを提供するSnap Incは2017年3月、ニューヨーク証券取引所への新規上場を果たしたが、同社が上場させたのは全て「無議決権株式」であった。無議決権株式とは文字通り議決権のない株式であり、株式市場で同社の株式を購入した株主は株主総会における議決権を持たない。議決権を有しているのは、創業者等上場前から株式を保有していた限られた株主のみであった。これでは、たとえ株式の売買を通じて株主構成が変化したとしても、企業のガバナンスを変える力は生まれない。本件を巡っては、企業のガバナンスへの状況を投資判断の一要素とすることが多い機関投資家の間で、株主主導で企業を変える機会を得ることができないことを危惧する声が上がったが、それも当然であろう。

アクティブ運用を行う投資家であれば、このような銘柄は売却してしまうか、そもそも投資しなければ済むが、そうもいかないのがパッシブ運用を行う投資家だ。株価指数等に連動した運用成果(目標とする運用成果を「ベンチマーク」という)を目指すパッシブ運用では、多くの場合、“既製品”の株価指数がベンチマークに使われることになる。こうした株価指数は多くの指数作成業者から様々なものが公表されているが、機関投資家は、株価指数の詳細情報を得たり、「○○指数ファンド」と銘打った投資信託を販売するために当該株価指数の商標を利用をしたりする際には、指数作成業者に対し対価を支払うことになる。もっとも、アクティブ運用では投資先企業を調査する費用やパッシブ運用に比べ頻回に株式売買の手数料などが発生する一方、「株価指数」というお手本通りに運用を行うパッシブ運用では、株価指数の提供業者に対して指数利用料を支払うだけであり、そのコストはアクティブ運用より低い。このため、多くの場合、運用成績はアクティブ運用よりもパッシブ運用が勝っており、その結果、パッシブ運用への資金流入は世界的な現象となっている。

アクティブ運用 : 銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法のこと。アクティブ運用はパッシブ運用の対極の概念であり、運用担当者(ファンド・マネージャー)が、株式市場や投資銘柄などを調査し、今後の動向を予測することでポートフォリオを決定する。市場の平均的な収益率をベンチマークとし、これを上回る運用成果を上げることを目標にすることが多い。
パッシブ運用 : パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。

こうした中、Snap Incの一件を受け、パッシブ運用を行う機関投資家は株価指数提供業者に働きかけて、株価指数構成銘柄の見直しを迫った。2017年7月には、大手の指数提供業者であるS&P Dow Jones Indices (以下、S&P DJI)とFTSE Russellがそれぞれ、議決権種類株式発行企業や議決権を持つ株式に関する浮動株比率が低い企業を指数構成銘柄から除外する方針を明らかにしている。一方、もう一つの大手であるMSCIは2017年6月から意見募集を行い方針を検討していたが、1年半近い期間を経た2018年10月30日、既存の指数における扱いは変えずに新たに議決権種類株式発行企業を除外した指数を作り、公表する方針を明らかにした。

これまでも、指数提供業者が株価指数の構成銘柄を選定する際に企業のガバナンスへの取り組みを考慮することは珍しくなかったが、それは特定の運用スタイル(たとえばESG投資)に対応した特殊な株価指数に限っての話であった。しかし近年は、多くの投資家が参考にする一般的な株価指数にまでその動きが広がりつつある。

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。

もっとも、ここまで述べてきたような海外での動きが日本の上場企業に直接的な影響を与えることは当面はないだろう。例えばS&P DJIが構成銘柄を見直したS&P Composite 1500は、米国企業を構成銘柄とする株価指数であるため、日本企業には関係がない。FTSE Russellの株価指数構成銘柄は、発行する株式の議決権のうち5%超が浮動株でなければならないとするが、議決権株式の浮動株比率が5%以下の日本企業は今のところ見当たらない。ただ、今後この5%という基準を引き上げるべきという意見が強まるようであれば、日本企業にも影響が出てくるだろう。具体的には、政策保有株されている株式や政府に保有されている株式が多い場合には、浮動株の比率が低いことを理由に指数構成銘柄から外される恐れが生じる。

このように、指数作成業者における株価指数設計の方針や考え方は上場企業の株主構成に大きな影響を及ぼす。また、ある株価指数の構成銘柄から外れるということは、その株価指数をベンチマークに巨大な資金を運用する機関投資家の投資対象ではなくなることを意味する。上場企業の経営陣は、多くの機関投資家からの投資を呼び込みたいのであれば、各株価指数提供業者の指数設計の方針や考え方を理解しておく必要があろう。

2019/01/28 主要改訂原則、実際の対応とコンプライ率に乖離も

2019年1月25日のニュース「CGコード改訂でフルコンプライ率が大きく低下した要因」でお伝えしたとおり、改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)に対応したコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)が2018年12月末で出そろった。本稿では、改訂された原則の中でも企業が特に対応に苦慮したと思われる3つの原則にフォーカスし、具体的な対応の内容、コンプライの状況などについて分析したい。・・・

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2019/01/28 主要改訂原則、実際の対応とコンプライ率に乖離も(会員限定)

2019年1月25日のニュース「CGコード改訂でフルコンプライ率が大きく低下した要因」でお伝えしたとおり、改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)に対応したコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)が2018年12月末で出そろった。本稿では、改訂された原則の中でも企業が特に対応に苦慮したと思われる3つの原則にフォーカスし、具体的な対応の内容、コンプライの状況などについて分析したい。

(1)原則5-2「経営戦略や経営計画の策定・公表」 ※赤字が改訂部分(以下同)

【原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】
経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。

本原則では元々「資本効率に関する目標」を提示することを求めていたが、改訂により「自社の資本コストを的確に把握した上で」との前提条件が付いたことで、「資本効率に関する目標」として何を挙げればよいのか悩んだ企業が多かったようだ。しかし、フタを開けてみるとJPX日経400銘柄の半数以上(55%)が「ROEのみ」を選択している(「改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応状況」(2018年12月末日時点)速報版8ページより抜粋した下記のグラフ参照)。一方、政府がTOPIX500に対し2025年までに欧米企業に遜色のない水準を目指す」という方針を打ち出しているROA(2017年11月21日のニュース「上場企業の経営陣が重視すべきは「ROE」か「ROA」か」参照)のみを目標に挙げた企業はJPX日経400銘柄の4%に過ぎなかった。また、「ROEおよびROAの両方」を目標に挙げた企業はJPX日経400銘柄のうち8%あった。

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本原則への対応に悩んだ企業が多かったことを象徴するように、資本効率に関する目標を設定していないJPX日経400銘柄も33%、実に3社に1社に上った。それにもかかわらず本原則のコンプライ率は東証一部企業全体では82.7%であったことからすると、資本効率に関する目標を設定していなくても本原則を「コンプライ」としている企業が少なくないことが分かる()。

 「33%」という資本効率に関する目標を設定していない企業の割合はJPX日経400銘柄に限った数値であり、調査対象を東証一部上場企業全体に広げると、その率はさらに上昇するものと思われる。

また、ROEに関する目標を設定しているJPX日経400銘柄のうちの77%が「ROE10%以上」を目指していることも分かった。JPX日経400銘柄においては、二桁のROEを目標にするのはもはや当然になりつつあると言えよう。その一方で、JPX日経400を構成する銘柄であっても、伊藤レポートが最低限コミットすべきとする「8%」に達しない数字をROEの目標に設定している企業も全体の8%あった。JPX日経400銘柄の大部分が10%以上のROEを目標に掲げる中、低ROEを目標とした企業に対しては、投資家からROE向上に向けプレッシャーが強まることになりそうだ。

(2)補充原則4-10①「独立した諮問委員会の活用」

【補充原則4-10①】
上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置することにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。

今回改訂された原則のなかで、実際に企業にアクションを迫ることとなったのが、独立した諮問委員会の活用について規定した補充原則4-10①だ。今回の改訂は企業に対し「独立した」任意の指名委員会・報酬委員会の設置を従来よりも強く勧めるものであり、この改訂の結果、東証一部上場企業で任意の指名委員会を設置している企業は2017年の31.7%から43.1%(2018年12月末現在。以下同)、任意の報酬委員会を設置している企業は2017年の34.9%から45.6%へと急増している。さらに、現時点では任意の委員会を設置していない企業のうち設置を検討中としている企業が約30%に上っている。2019年には検討中の会社でも設置が急ピッチで進む可能性があり、任意の委員会の設置率は大幅に高まることになりそうだ。

ただし、任意の委員会では委員長の属性、端的には社内取締役か社外取締役かがその実効性に大きく影響する。東証一部上場企業における委員長の属性は今のところ「社外取締役」と「社内取締役」が拮抗している状況となっている(下記の「改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応状況」(2018年12月末日時点)速報版13ページより抜粋した下記のグラフを参照)。これはJPX日経400においても変わりはない(同)。委員長の属性が任意の委員会における議論の行方を左右することを考えると、この指標は任意の委員会のガバナンスが効いているかどうかということとも密接な関係があるとも言える。実際にガバナンス強化に力を入れている企業の指名委員会等設置会社では、4社中3社が社外取締役を委員長としている(下記のグラフの「法定」は指名委員会等設置会社を意味している)。

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任意の委員会で社内取締役が委員長を務める企業の多さからは、CGコードの改訂を受け急ごしらえで任意の委員会を作ったものの、激変緩和の観点からひとまず委員長は社内取締役にして様子を見ようという企業(監査役会設置会社、監査等委員会設置会社)側の思惑も透けて見える。任意の委員会の設置が一巡した後は、投資家の関心が委員長の属性の妥当性に移行することは間違いないだろう。

(3)原則1-4「政策保有株式」

【原則1-4.政策保有株式】
上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。
上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。

上記の原則5-2「経営戦略や経営計画の策定・公表」と並び、企業が対応に頭を悩ませることとなったのが、原則1-4「政策保有株式」だ。同原則の改訂により、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方」という政策保有に関する方針の開示が求められることとなったが、これを受けて、CG報告書で政策保有株式の縮減等に関する方針を言及した企業はJPX日経400構成銘柄のうち74%もあった。

一方、同原則の改訂では新たに「保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべき」という一文も盛り込まれているが、コーポレート・ガバナンス報告書において政策保有株式についての「検証内容の開示」において資本コストに言及している上場会社はJPX日経400構成銘柄のうち51%に過ぎなかった()。

 「51%」という政策保有株式についての検証内容の開示において資本コストに言及している上場企業の割合はJPX日経400銘柄に限った数値であり、調査対象を東証市場第一部上場企業全体に広げると、「検証内容の開示において資本コストに言及している上場会社の率」はさらに低下するものと思われる。

東証一部上場企業における同原則のコンプライ率が86.5%であったことからすると、政策保有株式についての検証内容の開示において資本コストに言及していない場合であっても同原則を「コンプライ」している企業が相当数あるということになる。こうした企業は、今後投資家らからコンプライの中身を問われる場面もありそうだ。

2019/01/25 CGコード改訂でフルコンプライ率が大きく低下した要因(会員限定)

周知のとおり、昨年(2018年)にはコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)が導入(2015年6月1日~)以来初めて改訂され、6月1日から施行されているが、昨年12月末日時点で、改訂CGコードをフルコンプライしている上場企業は市場第一部でも386社(18.1%)に過ぎず、2017年7月に調査した際の638社(31.6%)を大きく下回ったことが分かった。

フルコンプライ : CGコードにおける78の原則・補充原則をすべてコンプライしていること

改訂CGコードの対応状況は、2019年1月28日に開催される第17回「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」に東京証券取引所が提出予定の資料「改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応状況」(2018年12月末日時点)速報版で明らかにされている。これによると、CGコードの改訂によりフルコンプライ率が下がった主な原因として挙げられるのが、下表のとおり原則1-4、補充原則4-10①、原則4-11、原則5-2の4つのコードへのコンプライ率が大幅に低下(特に補充原則4-10①、原則4-11)したという点だ。

改訂CGコードの内容と東証一部上場企業におけるコンプライ率(2018年12月末現在)
改訂CGコード(赤字が改訂部分) コンプライ率
(2017年7月比)
関連ニュース等
【原則1-4.いわゆる政策保有株式】
上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な、個別の政策保有株式についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。
上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。
86.5%(-10.7pt) 2018年10月2日のニュース『「縮減に関する方針」の意味
【2018年8月の課題】【原則1-4. 政策保有株式】への対応
【役員会 Good&Bad発言集】政策保有株式
【補充原則4-10①】
上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。
52.1%(-27.2pt) 2018年8月29日のニュース「任意の報酬委員会の社内的位置付け
2018年8月8日のニュース「企業が頭を悩ます報酬委員会のメンバー構成
2018年5月29日のニュース『改訂CGコードが意図する「独立した」委員会
2018年4月20日のニュース「任意の指名委員会の実効性を高めるための3つのポイント
【原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】
取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。また、監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されるべきであり、特に、財務・会計に関する適切十分な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。
取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。
69.9%(-27.0pt) 2018年10月29日のニュース『女性取締役がいなければ「エクスプレイン」は必須か?
【原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】
経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。
82.7%(-10.4pt) 【2018年7月の課題】資本コストの把握
【WEBセミナー】誰にでもわかる「資本コスト」の考え方
2018年4月16日のニュース『改訂CGコードで把握が求められる「資本コスト」、投資家にはどう説明する?
2016年5月27日のニュース『中期経営計画は「数値目標」だけか?

これらの原則・補充原則に共通するのは、いずれも改訂により新たな対応が求められるようになったという点。要するに、対応が間に合わず、エクスプレインせざるを得なかった上場企業が多かったことがコンプライ率の低下へとつながった。原則4-8(独立社外取締役の有効な活用)のように、改訂により簡素化されたことに伴いコンプライ率が上昇した原則もあったものの(2018年9月14日のニュース「原則4-8(独立社外取締役の有効な活用)、開示をやめる企業が続出」参照)、全体としては上表のとおりコンプライ率が低下した原則・補充原則の方が多かったため、結果としてフルコンプライ率は低下することとなった。

もっとも、CGコードの改訂前においては、CGコード導入当初はコンプライ率が低かった原則・補充原則への対応が時の経過とともに進み、コンプライ率が年々上昇していくという傾向が見られた。改訂により新たな対応が求められることとなった原則・補充原則についても、今後は同様の経過(年々コンプライ率が上昇)を辿ることが予想される。今回「-27.2pt」と大幅にコンプラ利率が低下した補充原則4-10①などについてエクスプレインに甘んじた上場企業は、「他社もエクスプレインしているから」ということで安心せず、むしろ今後全体のコンプライ率が高まってくることを見込んで早目の対応を心掛けたいところだ。

2019/01/25 CGコード改訂でフルコンプライ率が大きく低下した要因

周知のとおり、昨年(2018年)にはコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)が導入(2015年6月1日~)以来初めて改訂され、6月1日から施行されているが、昨年12月末日時点で、改訂CGコードをフルコンプライしている上場企業は市場第一部でも386社(18.1%)に過ぎず、2017年7月に調査した際の638社(31.6%)を大きく下回ったことが分かった。

フルコンプライ : CGコードにおける78の原則・補充原則をすべてコンプライしていること

改訂CGコードの対応状況は、・・・

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2019/01/24 東証、「会計処理等に関する見解の相違」の具体的な内容の開示求める

監査法人(以下、会計監査人)が年度決算に対する監査のたびに企業に提出する監査報告書は、「報告書」とは言っても、決算書が適正かどうかについて会計監査人の意見が一行で記載され、公認会計士がサインしただけのシンプルなものであり、投資家からは「会計監査人の判断が“ブラックボックス”になっている大きな要因」との批判が少なくない。

監査報告書 : 経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて監査人の監査意見を述べた報告書のこと。

こうした中、2021年3月決算の財務諸表について・・・

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