2019/01/24 東証、「会計処理等に関する見解の相違」の具体的な内容の開示求める(会員限定)

監査法人(以下、会計監査人)が年度決算に対する監査のたびに企業に提出する監査報告書は、「報告書」とは言っても、決算書が適正かどうかについて会計監査人の意見が一行で記載され、公認会計士がサインしただけのシンプルなものであり、投資家からは「会計監査人の判断が“ブラックボックス”になっている大きな要因」との批判が少なくない。

監査報告書 : 経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて監査人の監査意見を述べた報告書のこと。

こうした中、2021年3月決算の財務諸表について会計監査人が作成する金融商品取引法上の監査報告書からKAMの記載が義務付けられるが(詳細は2018年7月19日のニュース「KAMの導入が確定、企業の監査対応はどう変わる」参照)、これに加え、監査報告書にさらに詳細な記載を求めるプレッシャーが高まっている。

KAM : 「Key Audit Matters」の略で(読み方は「カム」)、監査人(公認会計士)が、会計監査において「特に重要と判断した事項」のこと。上場企業の監査報告書にKAMが記載されることで、監査人の判断の過程における情報、具体的には「監査人が、当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項のうち、職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項は何か」を知ることができるようになる。

金融庁に設置された「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」は(2019年)1月22日、「会計監査に関する情報提供の充実について-通常とは異なる監査意見等に係る対応と中心として-」と題する報告書を公表した。会計監査人は、監査先企業の財務諸表に問題がないとして「無限定適正意見」を出すのが通常だが、逆に何らかの問題がある場合には、「限定付適正意見」を出したり、意見を表明しなかったり(意見不表明)することがある(監査法人の意見の種類については、2017年5月10日掲載の新用語・難解用語「意見不表明」参照)。報告書では、限定付適正意見や意見不表明など、無限定適正意見と異なる監査意見が表明された場合には、会計監査人は監査報告書に当該意見の「根拠」を“十分かつ適切に”記載することが必要であるとしている。具体的には、限定付適正意見の場合は「不適正意見ではないと判断した理由」を、意見不表明の場合は「なぜ意見表明できないという極めて例外的な状況に至ったのか」の説明を求めている。

無限定適正意見 : 財務諸表は、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従っていると認められる場合に監査法人が示す意見のこと。
限定付適正意見 : 一部に不適切な事項はあるが、財務諸表全体に対してはそれほど重要性がない、あるいは、重要な監査手続を実施できなかったことにより、無限定適正意見を表明することはできないが、その影響が財務諸表全体に対する意見表明ができないほどではない場合に監査法人が示す意見のこと。
意見不表明 : 重要な監査手続が実施できず、結果として十分な監査証拠が入手できない場合で、その影響が財務諸表に対する意見表明ができないほどに重要である場合に監査法人が示す意見のこと。

また意見書では、監査報告書以外に会計監査人からの追加的な説明を受ける機会がない点も問題視している。この問題を解決するべく、意見書では監査法人に対して、会社法398条で認められている株主総会における会計監査人の意見陳述の機会を活用し、追加的な説明を行うことを求めている。さらに、四半期決算など株主総会の機会を活用できない場合であっても、何らかの適切な説明の手段を検討するべきとした。なお、監査法人が監査意見の決定プロセスを明らかにすることについては、公認会計士法27条に規定する守秘義務に違反するのではないかとの声もあるが、報告書では、「監査人が株主等に対して必要な説明・情報提供を行うことは、当該守秘義務が適用されないこととなる「正当な理由」がある場合に該当し、守秘義務違反とならないことを明確化している。

このほか、会計監査人を交代した企業のほとんどが「任期満了」という交代理由を挙げていることに対し、「監査人の任期が通常1年で終了することからすれば、『任期満了』との記載は交代理由の開示として不適切」であり、実質的な交代理由が開示されていないに等しいとし、企業及び会計監査人に対しては「会計監査人の交代理由について、実質的な内容を記載すること」を求めている。

報告書は法令ではないため、報告書そのものには強制力はないが、当該報告書を受け、東京証券取引所は「会社情報適時開示ガイドブック」(以下、ガイドブック)を改訂している。その中で、監査人の交代については「実質的な理由」や「その経緯」を開示資料に記載することを求めている。具体的には、任期満了時に退任を決定する場合には「退任する会計監査人を再任しない理由」の記載を、また、期中に解任する場合には「なぜ解任を決定することになったかがわかるように」理由を記載することを求めているほか、会計処理等に関する見解の相違が存在していた場合には、その具体的な内容を記載するよう求めている。

会計監査人を交代した実質的な理由として最も多いのは、「会計処理に関する見解の相違」であろう。これは投資家からすると、”会計操作“にも見えかねないため、企業としてはあまり触れたくないというのが本音だろう。報告書およびこれを受けた東証のガイドブックの内容が実務として定着すれば、企業としては会計監査人の交代に慎重になるのはもちろん、会計監査人の見解に従わざるを得なくなる局面が増えそうだ。

2019/01/23 大手運用機関が企業経営者に「社会貢献」を求める背景

米国では、CEOが社会問題について自らの考えや立場を明らかにする“CEOアクティビズム”が活発化しているが(2018年9月25日のニュース「ESGやSDGsが迫る社会問題に対する経営トップの対応」参照)、・・・

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2019/01/23 大手運用機関が企業経営者に「社会貢献」を求める背景(会員限定)

米国では、CEOが社会問題について自らの考えや立場を明らかにする“CEOアクティビズム”が活発化しているが(2018年9月25日のニュース「ESGやSDGsが迫る社会問題に対する経営トップの対応」参照)、世界最大の資産運用機関であるブラックロックのフィンクCEOは先週(1月16日)、昨年に続き企業の経営トップに対し「社会貢献」を求める書簡を送付した。資産運用会社と言えば、本来なら企業に利益の追求を求める存在であるはずだが、この書簡では逆に「利益の追求」が企業の責務であるという考え方を否定したうえで、企業は社会の改善に取り組むべきだとしている。

この発言に賛同できるかどうかは別として、2017年における預り資産残高が6兆2,881億9,500万ドルと、日本トップの三井住友トラスト・ホールディングスの約8倍にも及ぶ世界最大の運用機関(2018年11月19日のニュース「強まる大手運用機関の影響力」参照)トップの発言の影響は大きい。書簡を受け取った企業は耳を傾けざるを得ないだろう。

もちろん、ブラックロックのフィンクCEOの発言に理由がないわけではない。同CEOは、今後社会で存在感を増してくるミレニアル世代(1980年代~2000年代初頭に生まれた世代)は環境問題や社会問題への関心が高く、企業に社会貢献を求める傾向が強いと指摘、社会貢献への取り組みがミレニアル世代による企業への評価を左右するとの考えを示している。実際、米国の大手銀行バンクオブアメリカによる調査では、ミレニアル世代の85%が「投資活動を通じた社会貢献に興味がある」または「実行している」と回答するという結果が出ており(他にも米国モルガンスタンレー英国バークレイズが同様の調査結果を公表している)、欧米の資産運用業界では、ESG投資や二酸化炭素排出量の抑制に取り組む企業への投資を好む傾向にあると言われるミレニアル世代をターゲットにしたテーマ型ファンドを開発するなど、ミレニアル世代の取り込みに向けた動きが活発化している。

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。
テーマ型ファンド : 例えば環境、IT、クラウド、エネルギーなど、特定のテーマに関連した企業などに投資するファンドのこと。

野村資本市場研究所が昨年末にリリースした調査結果によると、日本では、逆にミレニアル世代のような若い世代よりも、高い年齢層の方が企業のESGへの取り組みやESG投資への関心が高いとのことだが、先進国の同世代である以上、いずれ彼らの志向が欧米のミレニアル世代に近付いていくことも考えられる。いずれにせよ、近い将来、ミレニアル世代が親世代からの資産を相続したり、確定拠出型年金に加入したりすることを通じ、資本市場には彼らの資金が大量に流入してくることになる。その時、自社が投資対象から外されないよう、経営陣はミレニアル世代の志向にはアンテナを張っておきたいところだ。

2019/01/22 2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第五弾

これまで4回にわたりお伝えしてきた「2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果」の第五弾では、・・・

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2019/01/22 2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第五弾(会員限定)

これまで4回にわたりお伝えしてきた「2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果」の第五弾では、ウシオ電機を取り上げる。今回も、一橋大学・商学研究科の円谷昭一先生がまとめた「3月末日決算の全上場企業」に対する国内全機関投資家の「議決権行使結果の個別開示」結果のデータに基づき、株主総会上程議案に対する各運用機関の賛否状況を分析している。

2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第一弾
2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第二弾
2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第三弾
2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第四弾

下表のとおり、同社は2018年6月の定時株主総会で、剰余金処分、7人の取締役選任(敬称略)、3人の監査等委員選任を諮った。全議案の平均賛成率は77.4%で、最も低かったのは取締役選任議案の51.3%だった。なお、同社の大株主には投資先に厳しい議決権行使をすることで知られるアクティビスト「シルチェスターインターナショナル」がおり(保有比率は9.3%)、全体的な低賛成率の一因となっていることに留意する必要がある。

議案 内容(候補者など) 賛成率
剰余金処分 こちらを参照 96.27%
取締役の選任 牛尾治朗 76.40%
取締役の選任 浜島健爾 80.27%
取締役の選任 牛尾志朗 82.44%
取締役の選任 伴野裕明 82.45%
取締役の選任 原良也 80.93%
取締役の選任 金丸恭文 51.29%
取締役の選任 橘・フクシマ・咲江 85.05%
取締役(監査等委員)の選任 小林敦之 82.94%
取締役(監査等委員)の選任 米田正典 66.90%
取締役(監査等委員)の選任 山口伸淑 66.19%

剰余金処分案は90%台の賛成率を確保しているが、投資家別に見ると反対票を投じたところも少なくない。例えばニッセイアセットマネジメントと野村アセットマネジメントは同議案に反対している。同社の「自己資本比率70.0%」「配当性向30.2%」「ROE5.1%(直近3年間の推移は5.2%➜3.3%➜5.1%)」という数値が、両運用機関の議決権行使ガイドラインが定める基準に抵触したものとみられる。

同社のネット金融資産は売上高に対し24.1%、総資産に対し13.6%にとどまっていることから、下表のニッセイアセットマネジメントの基準「(2)過大な金融資産を保有する企業」の「キャッシュ保有比率が高い企業」には該当しないが、ROEの低さや、「自己資本比率50%以上」という基準を大きく上回る一方、「総還元性向(配当+自社株買)50%未満」という基準を大きく下回ることなどを総合的に勘案した結果、反対という結論に至ったと思われる。野村アセットマネジメントの議決権行使ガイドラインにおいても、ネット金融資産の比率は基準(1)は満たしている。ただ、野村アセットマネジメントの議決権行使ガイドラインには「(3)その他、株主還元が著しく不十分と判断される場合には、剰余金処分案に反対する」というバスケット条項があり、これが適用された可能性がある。

バスケット条項 : 法令や規則等で何かを規定する際に、該当する項目を具体的に列挙し切れない場合や、弾力的な運用の余地を残すため、「その他の〇〇」といった形で包括的に規定すること。包括条項とも言われる。

ニッセイアセットマネジメント 以下の基準に該当しない場合、原則、賛成します。
1. 配当性向25%未満、かつ、資本収益性が長期的に市場平均以下(直近3期連続で経常利益ベースのROEが上場企業の市場平均以下)の場合
2. 配当性向が100%以上(赤字配当を含む)の場合
ただし、一時的な特別損益等により、配当性向が過少(25%未満)もしくは過大(100%以上)となっている場合は、一時的な影響を除いた上で判断を行います。
中略
(2)過大な金融資産を保有する企業
十分な内部留保(自己資本比率:50%以上)を有し、かつキャッシュ保有比率が高い(※)企業において、剰余金の50%以上を内部留保するため、総還元性向(配当+自社株買)が50%未満となる場合
(※)ネット金融資産(現預金+有価証券-有利子負債)/総資産:20%以上かつ、ネット金融資産/売上高:30%以上
以下略
野村アセットマネジメント
日本企業に対する議決権行使基準
6.剰余金処分
(1)剰余金処分に係わる議案については、直近2期連続で下記①、②及び③の全項目に該当し、かつ直近期のROEが8%未満の場合は、株主還元率が50%以上の場合を除き、原則として反対する。
中略
①株主資本比率>50%
②ネット金融資産/売上高>30%
③ネット金融資産/総資産>30%
(注)ネット金融資産=現預金+長短保有有価証券-有利子負債
中略
(3)その他、株主還元が著しく不十分と判断される場合には、剰余金処分案に反対する。

三井住友アセットマネジメントと三菱UFJ国際投信は、剰余金処分案には賛成したが、取締役選任議案には反対している。三井住友アセットマネジメントの議決権行使ガイドラインでは、下表のとおり「ROEが上場企業平均(中央値)または5%のいずれか大きい方を当該期を含め3年連続下回った場合」には「3年以上在任の取締役」の選任に原則反対するとしており、ウシオ電機のROE(5.2%➜3.3%➜5.1%)が上場企業平均を下回っているという判断から反対票を投じたということだろう。また、「賛成することがある」条件とされる「2年連続の顕著な改善」がなかったことも考慮されたものと思われる。三菱UFJ国際投信においては、議決権行使ガイドラインの「ROEの著しい低迷が継続」という基準に抵触したものと考えられる。

三井住友アセットマネジメント
1. 取締役選任
③ROEが上場企業平均(中央値)または5%のいずれか大きい方を当該期を含め3年連続下回った場合は、3年以上在任の取締役の選任に原則反対する(社外取締役を含む)。ただし、ROEが当該期を含め2年連続で顕著に改善しかつ当該期が5%以上である等、明確な改善傾向が認められる場合は賛成することがある。
以下略
三菱UFJ国際投信
(3)取締役の選任
前略
・業績不振または ROE(株主資本利益率)の著しい低迷が継続し、かつ今後改善が見込まれない場合において経営責任があると判断される場合は、取締役再任に原則反対する。
以下略

最も賛成率が低かったのは、社外取締役である金丸氏(フューチャー㈱代表取締役会長兼社長グループCEO)の再任議案である。同氏は取締役会への出席が7回中の5回(71%)と下記の各社ガイドラインに抵触、少なくとも20社近い運用機関が反対した模様だ。

三菱UFJ信託銀行
(1)取締役の選任の選任
②社外取締役の選任「適性について問題があると判断する場合」
取締役会、監査委員会、監査等委員会への出席率が3/4未満である場合
三井住友トラスト・アセットマネジメント
1. 取締役会の構成、選任【行使判断基準】⑮
取締役会、監査委員会、または監査等委員会への出席率が 75%未満、または確認できない場合
アセットマネジメントOne
(1)取締役会 ④社外取締役の選任 (右段の「議案判断基準」参照)
取締役会への出席率が 85%未満の場合
日興アセットマネジメント
第12条(取締役および社外取締役の選任)
(4)合理的な理由なく取締役会への出席率が低いと判断される場合

監査等委員2名(共に社外取締役)の賛成率も66%台と低い数値にとどまっている。両者とも取締役会および監査等委員会には全て出席しているが、米田氏は子会社がウシオ電機の大株主であるMS&ADインシュアランスグループホールディングスの元代表取締役、山口氏は主要借入先であるりそな銀行の取締役兼専務執行役員であることから、独立性の欠如を懸念されたものと推測される。

T&Dアセットマネジメント
3.個別の議案に対する考え方
(1)役員選任
① 取締役の選任
中略
社外取締役については、経営監督機能の発揮を期待しているため、独立性が確保されていないと判断される場合は反対します。
大和住銀投信投資顧問
取締役の選任/解任に関する議案
【独立性の定義】
独立性の判断基準は、会社法で定める社外性に加え、以下のいずれにも該当しないこととします。
• 大株主、親会社及びその関係者もしくは出身者
• 主要取引銀行等の現職役職員並びに出身者
• 当該企業の主要取引先の現職役職員並びに出身者(“主要”の判定は、取引額、保有株式等を総合的に判断して行う)
• 会社と顧問契約を締結している、もしくはしていた法律事務所に所属する、もしくは所属した経験を有する弁護士
• 会社と現に会計監査契約を締結している会計事務所関係者及びそのOB
• 会社の顧問税理士及びそのOB
• 自社が属するいわゆる「企業グループ(系列)」に属する企業の関係者もしくはその出身者
• その他、一般株主にとって利益相反の恐れがある者

2019/01/21 ESG関連ファンド、投資信託全体の2割に迫る

投資信託協会が(2018年)1月10日に公表した「ESG関連ファンドに関するアンケートの実施結果について」により、我が国の投資信託のうち2割弱をESG関連ファンドが占めていることがわかった。・・・

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2019/01/21 ESG関連ファンド、投資信託全体の2割に迫る(会員限定)

投資信託協会が(2018年)1月10日に公表した「ESG関連ファンドに関するアンケートの実施結果について」により、我が国の投資信託のうち2割弱をESG関連ファンドが占めていることがわかった。このアンケートは同協会の会員である運用会社を対象に2018年11月末時点の結果を集計したもので、同時点におけるESG関連ファンドの本数と純資産総額は、公募投信と私募投信を合わせ、それぞれ2034本、38兆1795億円となっている(「ESG関連ファンドに関するアンケートの実施結果について」参照)。投資信託協会によると、同時点における(全ての)公募投信は6134本、112兆5198億円の、私募投信は6103本、90兆7140億円であることから(同協会の「数字で見る投資信託」の2018年11月末版参照)、上述のとおり、我が国におけるESG関連ファンドは投資信託全体の2割弱(本数ベースでは17%、純資産額ベースでは18%)を占めていることになるというわけだ。

この「2割弱」という数字をグローバルと比較してみよう。世界持続可能投資連合(GSIA=Global Sustainable Investment Alliance)によると、2016年の世界全体におけるESG投資の割合(Proportion of SRI Relative to Total Managed Assets)は26.3%である一方、同時期の日本ではわずか3.4%にとどまっていた(「Global Sustainable Investment 2014-2016」7ページ 下の表参照)。これが2018年11末時点では「2割弱」にまで上昇したのだから、日本のESG投資は最近2年ほどで急増し、グローバル水準にキャッチアップしつつあることが分かる。

世界持続可能投資連合(GSIA=Global Sustainable Investment Alliance) : サステイナブル投資(企業の環境保護や社会問題などへの取り組みを考慮してたうえで、当該企業に投資するかどうかを決める投資手法のこと。日本語では「持続可能な投資」と言われる)を普及するための国際組織。世界の主要な資産運用団体、年金基金、非政府組織なども関与している。2012年には、世界の持続可能な投資に関する初の報告書「世界持続可能投資報告2012(Global Sustainable Investment Review 2012)」を公表した。

次に投資信託協会が併せて公表しているESG投資の手法別のESG関連ファンドの純資産総額、数の内訳を確認してみよう。下表は、ESG対象ファンドの純資産額と本数(公募投信と私募投信の合計)を、ESG投資の手法別に集計したものである(複数回答あり)。

ESG投資の手法 純資産総額(億円) ファンド数
エンゲージメントと議決権行使 262,966 1,590
ESGインテグレーション 209,329 1,236
ネガティブ・スクリーニング 142,821 894
規範に基づくスクリーニング 89,777 732
インパクト投資・コミュニティ投資 9,491 17
サステナビリティに関するテーマ投資 7,530 84
ポジティブ・スクリーニング 3,491 50

エンゲージメントと議決権行使 : ESGの課題について、株主として議決権行使等を用いて企業に対して働きかける手法
ESGインテグレーション : 投資マネジャーが財務分析に環境、社会、ガバナンスの要素を体系的かつ明示的に組み込む手法
ネガティブ・スクリーニング : 特定のセクターや個別企業を投資先から除外すること
規範に基づくスクリーニング : ESGの国際規範(OECD、ILO、UNICEF等の国際規範)に違反した企業を投資先から除外すること
インパクト投資・コミュニティ投資 : 社会問題・環境問題を解決することを目的として投資すること
サステナビリティに関するテーマ投資 : サステナビリティに関するテーマや資産(クリーンエネルギー、グリーンテクノロジー、持続可能な農業等)に対して投資すること
ポジティブ・スクリーニング : 各セクター内でESGの評価が高い企業に投資すること

上表のとおり、我が国におけるESG投資の大部分は「エンゲージメントと議決権行使」「ESGインテグレーション」で占められていることがわかる。前者は議決権行使を用いて企業にESG課題への取り組みを働きかけるもの、後者は投資判断の際の財務分析にESG要素を組み込むものだが、これらは「長期的な視点」に基づく議決権行使または投資判断と言い換えることができる。すなわち、運用会社において従来から実施されていたことが、本調査によって改めて認識されたに過ぎない面も含まれている可能性がある。日本におけるESG投資の実績が、上記で紹介した2016年のGSIAの調査実績から急伸したように見える背景には、こういった運用会社側の認識レベルの変化も影響しているものと推測される。

では、グローバルではこの内訳はどうなっているのだろうか。下表はGSIA調査による2016年のデータである(「Global Sustainable Investment 2014-2016」27ページ の真ん中の表参照)。

ESG投資の手法 資産額(百万ドル)
ネガティブ・スクリーニング 15,023
ESGインテグレーション 10,369
エンゲージメントと議決権行使 8,365
規範に基づくスクリーニング 6,210
ポジティブ・スクリーニング 1,030
サステナビリティに関するテーマ投資 331
インパクト投資・コミュニティ投資 248

我が国と大きく異なる点として、特定のセクターや個別企業を除外する投資活動である「ネガティブ・スクリーニング」、すなわち「ダイベストメント(投資の取り止め)」がグローバルなESG投資の主流となっていることが確認できる。その背景には、米国トランプ政権によるパリ協定からの離脱がある。こうした中で投資家は、地球温暖化に対する抑止力を国家でなく投資コミュニティが先導するべく、化石燃料と関係の深い企業(典型的には、石炭や石油の採掘・精製を行う企業など)に圧力をかけている。既に海外投資家の一部は日本企業に対してダイベストメントを実行しており、国内運用会社においても同調する動きが活発化する可能性がある点、日本企業としても警戒しておきたいところだ。

2019/01/18 本社建物のリース期間がROAに大きな影響も

投資家向けには、資本コストとの比較のため「ROE」をKPIとして示すのが一般的だが、その一方で政府は、「大企業(TOPIX500)のROAについて、2025年までに欧米企業に遜色のない水準を目指す」という方針を打ち出している(2017年6月9日に閣議決定された「未来投資戦略2017 -Society5.0の実現に向けた改革-」114ページ参照)。ROAを高めればROEも向上することからも分かるように、ROAとROEに優劣や上下関係があるわけではないが、原価率を下げたり設備効率を上げたりするなど事業戦略を考え、収益性を高めるための議論をする場合には、ROAを使うことが適切と言える(詳細は2017年11月21日のニュース「上場企業の経営陣が重視すべきは「ROE」か「ROA」か」参照)。

資本コスト : 株主など資本提供者の期待利回りのこと。ここで「株主など」としたのは、負債にも資本コストはあるためである。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)。実務上、ROEの利益には「当期純利益」を使うことが多い。これは、株主資本に対応するのは、株主資本に帰属する当期純利益であるとの考え方による。
KPI : 定量的に示される重要業績評価指標(Key Performance Indicators=KPI)のこと。KPIの例としては「新規顧客の獲得数」「従業員1人あたりの経費」「総資産額」などがある。
ROA : Return On Assets =総資産利益率(利益/総資産))。実務上、ROAの利益には「営業利益」もしくは「事業利益」を使うことが多い。総資産に対応する利益は、営業利益あるいは事業利益であるという考え方による。

このROAに大きな影響を与えかない議論が、現在進んでいる。・・・

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2019/01/18 本社建物のリース期間がROAに大きな影響も(会員限定)

投資家向けには、資本コストとの比較のため「ROE」をKPIとして示すのが一般的だが、その一方で政府は、「大企業(TOPIX500)のROAについて、2025年までに欧米企業に遜色のない水準を目指す」という方針を打ち出している(2017年6月9日に閣議決定された「未来投資戦略2017 -Society5.0の実現に向けた改革-」114ページ参照)。ROAを高めればROEも向上することからも分かるように、ROAとROEに優劣や上下関係があるわけではないが、原価率を下げたり設備効率を上げたりするなど事業戦略を考え、収益性を高めるための議論をする場合には、ROAを使うことが適切と言える(詳細は2017年11月21日のニュース「上場企業の経営陣が重視すべきは「ROE」か「ROA」か」参照)。

資本コスト : 株主など資本提供者の期待利回りのこと。ここで「株主など」としたのは、負債にも資本コストはあるためである。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)。実務上、ROEの利益には「当期純利益」を使うことが多い。これは、株主資本に対応するのは、株主資本に帰属する当期純利益であるとの考え方による。
KPI : 定量的に示される重要業績評価指標(Key Performance Indicators=KPI)のこと。KPIの例としては「新規顧客の獲得数」「従業員1人あたりの経費」「総資産額」などがある。
ROA : Return On Assets =総資産利益率(利益/総資産))。実務上、ROAの利益には「営業利益」もしくは「事業利益」を使うことが多い。総資産に対応する利益は、営業利益あるいは事業利益であるという考え方による。

このROAに大きな影響を与えかない議論が、現在進んでいる。日本の会計基準(以下、日本基準)を策定している企業会計基準委員会(ASBJ)は現在、2016年8月に公表した中期運営方針「日本基準を国際的に整合性があるものとするための取組みに関する今後の課題」の中で取り上げられている「リース」に関する会計基準のあり方について検討しているが(2018年6月20日のニュース「オペレーティング・リースのオンバランス化実現なら建設、小売等への影響大」参照)、日本基準を国際的な会計基準(IFRSや米国会計基準)に合わせる方向となりそうだ。

まず「リース」について簡単におさらいしておきたい。リースには「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2種類がある。このうち「ファイナンス・リース」とは、設備等の購入金額の借入れが難しい場合に、借入れによる“購入の代替措置”として活用されるものであり、満期まで解約ができないなど、実質的には借り手が資産を購入して代金を割賦で支払う「割賦販売」に等しい。一方、こうした“購入の代替措置”ではなく、「物を借りて賃借料を払う」という本来のリースが「オペレーティング・リース」である。オペレーティング・リースはリース期間の設定が自由であり、契約によっては中途解約も可能である。さらに「ファイナンス・リース」には、所有権は借り手には移転しないタイプの「所有権移転外ファイナンス・リース」というものがある。「所有権移転外」という言葉のとおり所有権が移転しないという点以外は上述のファイナンス・リースと同じだが、所有権が移転しないという点はオペレーティング・リースと変わらない。そう考えると、所有権移転外ファイナンス・リースは、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの中間に位置付けられると言える。

このように、リースには(1)ファイナンス・リース、(2)オペレーティング・リース、(3)所有権移転外ファイナンス・リースリース、の3つがあるが、現在の日本基準では、ファイナンス・リース取引(基本的に所有権移転外ファイナンス・リースリースを含む)については、資産を自己所有する場合と同様にリース資産を貸借対照用(B/S)に計上したうえで、解約不能リース期間に応じて定額法や定率法等で計算された減価償却費とリース債務に対応する利息を損益計算書(P/L)に計上することが求められている一方、オペレーティング・リースと、金額的な重要性が低い「300万円以下」の所有権移転外ファイナンス・リースについては、リース資産をB/Sに計上する必要はなく、単にP/Lにリース料を費用として損益計算書(P/L)に計上(以下、賃貸借処理)すればよいことになっている。我が国のリース取引の多くは、オペレーティング・リース又は300万以下の所有権移転外ファイナンス・リースに分類されるため、リース取引といえば、基本的には賃貸借処理となっているはずだ。

一方、国際的なリースの会計基準では、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースという区分は廃止され、この2019年1月1日に開始する事業年度から、原則としてすべてのリース資産についてリース資産の「使用権」(使用期間全体にわたり資産の経済的便益のほとんどすべてを得る権利)の資産計上が求められている(このため、この会計処理は「使用権モデル」と呼ばれている)。これは、リース契約から獲得・享受する権利と、それに対応する支払義務(未経過のリース料)がB/Sから読み取れなければ(B/Sに計上されていないという意味で「オフバランス」となっている状態)、財務諸表の有用性が損なわれていることなどが問題視されていたためだ。

使用権モデル : すべてのリースの借手に対し、リースの使用権を資産計上、リース料の支払義務を負債計上する会計処理のこと。使用権モデルは、IASB(国際会計基準審議会)とFASB(米国財務会計基準審議会)により2016年1月に最終基準書が公表され、2019年1月より開始する開始する事業年度から適用が開始されている。

日本基準とIFRSにおけるリースの取扱いの違いを整理すれば下表のとおりとなる。

日本基準 国際的な基準
リース区分 会計処理 リース区分 会計処理
ファイナンス・リース 原則資産計上(注) なし
(使用権モデル)
原則資産計上(注)
オペレーティング・リース 賃貸借処理

(注)日本基準においては、300万以下の所有権移転外ファイナンス・リースにについて賃貸借取引については賃貸借処理することができるとする重要性基準があるが、IFRSにおいては5,000ドル(≒50~60万円)程度以下という重要性基準がある。

そこで日本基準も、国際的な基準と整合性のとれた会計基準とするべく、すべてのリース資産についてB/S上、「使用権」の資産計上と、「リース負債(未払いリース料)」の負債計上を求めるべくルールを変更する方向だ。

現在賃貸借処理されているオペレーティング・リース等について資産計上が求められることにより財務諸表に与える影響のイメージは下表のとおりとなる。キャッシュ・フロー計算書における計上区分も変わる点、留意したい。

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日本基準におけるリースの会計処理が上記のように国際的な基準と整合性のとれたものとされた場合、現在はオペレーティング・リースに分類されている建物や土地といった不動産の賃貸借取引や、車やコピー機のリースについても資産計上が求められることになる。そうなった場合、最も問題となるのは、金額的影響が大きい建物土地等の不動産のリース期間をどのように定めるかという点だ。というのも、国際的な会計基準では、B/Sに計上される「使用権」「リース負債」の金額は、リース期間に応じて割り引いて決定されるため。すなわち、リース期間をいかに決定するかが、資産計上額に重要な影響を及ぼす可能性が高い。国際的な会計基準におけるリース期間は、リース契約期間や解約不能期間ではなく、「借手がリースを延長する(又は解約しない)オプションを行使することが合理的に確実である範囲で、オプションの対象期間をリース期間に含める」とされている。

国際的な基準の「リース期間」
リース期間≠リース契約期間または解約不能期間

リース期間=リース契約期間または解約不能期間+リースを延長するオプションを行使することが合理的に確実であるオプションの対象期間

例えば本社建物のリース期間を考えた場合、リースをどの程度延長するかは、引っ越しが予定されている場合を除き、見積ることは困難なはずだ。したがって、日本基準に国際的な基準の「リース期間」の定義がそのまま導入された場合、実務上混乱が生じるだけでなく、本社建物のリース期間をいかに決定するかがROAにも大きな影響をもたらすことになる。日本基準に新たなリース会計のルールが導入されることが確定したわけではないが、今後投資家から導入された場合の影響について質問を受けることも予想される。とりわけROAを経営目標に定めている企業であれば、改正動向をにらみつつ、自社が受ける影響を早めにシミュレーションしておくべきと言えよう。

2019/01/17 70歳までの継続雇用義務付けと同一労働同一賃金の関係

政府は昨年(2018年)10月に開催された第20回未来投資会議において、「70歳までの就業機会の確保を図り、高齢者の希望・特性に応じて、多様な選択肢を許容する方向で検討する」方針を打ち出している。席上、安倍首相が「来年(2019年)の夏に『実行計画』で具体的制度化の方針を決定したい」と述べていることからすると、同計画はその後労政審議会に諮られ、2020年の通常国会に関連法案が提出される可能性がある。経済界は「いきなり義務化は困る」と主張しているものの、2021年あるいは2022年には70歳まで(現行は65歳まで)の継続雇用が義務付けられることが予想される。

継続雇用 : 定年を満60歳と定めたうえで、定年後に「勤務延長」または「再雇用」などとして従業員を雇用すること。これは、高年齢者雇用安定法上、事業主は原則として「満60歳」を下回る定年制を定めることができず(同法8条)、また、定年到達後も本人が希望している場合は、「少なくとも満65歳まで」は雇用を確保しなければならないとされている(同法9条)ことによる。

70歳までの継続雇用義務付けが実現した場合、経営陣にとって気になるのは・・・

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