2018/09/30 【2018年8月の課題】【原則1-4. 政策保有株式】への対応(会員限定)

コーポレートガバナンス・コード【原則1-4. 政策保有株式】改訂のポイント

改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)【原則1-4. 政策保有株式】(以下、改訂原則1-4)に適切に対応するためには、まず改訂原則が何を求めているのかを正しく理解しておく必要があります。その理解が不十分なゆえに改訂原則が求めていることに対応できておらず、その結果、意に反して改訂CGコードを「コンプライ」したことになっていないという事態に陥ることも考えられます。

改訂原則1-4
※赤字が改訂部分
改訂原則1-4のポイント
【原則1-4.いわゆる政策保有株式】
上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な個別の政策保有株式についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有の ねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。
上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。
(適用対象)
上場株式を政策保有株式として保有する上場会社
(開示事項)
・政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針
・政策保有株式の保有の適否についての取締役会による毎年の検証内容
・政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準
(検証方法)
個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証する
(検証の主体、頻度)
取締役会が毎年行う
(出所)東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(正式決定版)(改訂前からの変更点)」(2018年6月1日) (出所)筆者作成

以上を踏まえ、改訂原則1-4への具体的な対応方法を見ていきましょう。

開示への対応

社内的には、政策保有株式の保有の適否に関する「検証」の方法と、すべての政策保有株式を検証するための手順を考えなければなりませんが、当面急ぐべきなのは、開示が求められている事項にどのように対応するかということでしょう。

上の表で示したとおり、開示が求められているのは、①政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針(以下、縮減に関する方針・考え方など)、②政策保有株式の保有の適否についての取締役会による毎年の検証内容(以下、検証内容)、③政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準(以下、政策保有株式の議決権行使基準)の3点になります。以下、それぞれについて対応方法を解説します。

① 縮減に関する方針・考え方など
改訂前の原則1-4では、単に「政策保有に関する方針」の開示を求めているにすぎませんでしたが、改訂原則1-4では、これに「縮減に関する方針・考え方など」を含めることが求められています。

コーポレートガバナンス・コードの改訂にあたり、東京証券取引所(以下、東証)が行ったパブリック・コメントの募集とそれに対する回答「提出された意見とそれに対する考え方」(以下、青太字は、パブリック・コメントへの東証の回答からの引用)には、「『縮減に関する方針・考え方など』を示さない場合には、同原則への『エクスプレイン』として、その理由を十分に説明することが必要です。」とあります(59ページ参照)。これは、「縮減に関する方針・考え方など」を示さない場合には、原則1-4を実施(コンプライ)したことにはならないという意味です。

また、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など政策保有に関する方針」の具体的な内容として東証は、「政策保有に関する投資家と上場会社との対話をより建設的・実効的なものとするため、自社の個別事情に応じ、例えば、
・保有コストなどを踏まえ、どのような場合に政策保有を行うか
・検証結果を踏まえ、保有基準に該当しないものにどのように対応するか
等を示すことになるものと考えます。

と回答しています(59ページ参照)。

ここで問題になるのは、「縮減に関する方針」とは何を意味するのかということです。「縮減に関する方針」という言葉は、文理的には「縮減する方針」と「縮減しない方針」の両方を含むものと考えられます。したがって、たとえ政策保有株式を縮減しない、あるいは増加させるという方針であっても、「縮減に関する方針」ということはできるものと思われます。

もちろん、改訂原則が期待しているのは「縮減」する方向の方針を打ち出すことだと捉えるのが素直な読み方ではありますが、だからといって、それを「是」とする会社ばかりではありません。会社によって縮減に積極的なところもあれば消極的なところもあり、各社はそれぞれ自社の実情に応じた記載内容を考えるべきです。現状の方針をあまり変えたくないというのであれば、例えば「十分な検討を踏まえて保有継続の合理性がない場合には、縮減することを検討する」といった方針を記載しておくことが考えられます。

② 検証内容
改訂前は、検証内容について「具体的な説明を行うべき」であるとされていましたが、改訂後は「開示すべきである」へと表現が変わっています。コーポレートガバナンス・コードで「開示」という用語が使われている場合、それは「コーポレート・ガバナンスに関する報告書(以下、CG報告書)に記載せよ」ということを意味しています。検証内容もCG報告書に掲載しなければ同原則を「コンプライ」しているとは言えないわけです。

ただし、検証内容の開示について東証は、「必ずしも個別の銘柄ごとに保有の適否を含む検証の結果を開示することを求めるものではありません。」とパブリック・コメントへの回答で述べています(54ページ参照)。すなわち、個別銘柄ごとの開示は不要ということです。

開示の内容としては、
例えば、
・ 保有の適否を検証する上で、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかを含め、どのような点に着眼し、どのような基準を設定したか
・ 設定した基準を踏まえ、どのような内容の議論を経て個別銘柄の保有の適否を検証したか
・ 議論の結果、保有の適否について、どのような結論が得られたか
等について、具体的な開示が行われることが期待されます。

との回答が示されています(54ページ下部参照)。

したがって、CG報告書には、検証基準を明らかにし、個別の政策保有株式をそれぞれ当該基準に当てはめ、保有の適否を検証したということを書く必要があります。例えば、「個別の政策保有株式の保有の合理性の判断は、保有目的を確認するとともに、資本コストなどの基準と、保有の便益・リスクも踏まえたリターンとの比較によって検証を行っています。」などと記載することが考えられます。また、「検証の結果、保有銘柄のすべてについて保有の合理性が確認されました。」であるとか「検証の結果、保有する必要がないと判断した株式については、保有株式数の縮減(あるいは全保有株式の売却)を進めています。」と、結論部分のみを簡潔に記載することもあり得るでしょう。

③ 政策保有株式の議決権行使基準
従来、政策保有株式の議決権行使基準は、1行~2行程度の記載にとどまるのが通常でしたが、今回の改訂で「具体的な基準」を開示すべきこととされました。ここでいう「具体的な基準」としてどの程度のものが期待されているのかは必ずしも明らかではありません。ただ、機関投資家に保有株式の議決権行使基準の開示を求めるスチュワードシップ・コード指針5-2が、「明確な方針を策定し、これを公表すべきである」「当該方針は、できる限り明確なものとすべきである」とかなり強いトーンでとなっていることとの対比で考えると、機関投資家に期待されているほど詳細な基準の策定・開示まで求めるものではなさそうです。

実務的な対応としては、これまで1行~2行で済ませていたものを膨らませる方向で検討することになるものと思われます。

「検証」への対応

改訂原則が政策保有株式の保有の適否について取締役会による毎年の検証内容の開示を求めたことで、上場会社の間では、何をどのように検証すればよいのか、疑問の声も聞かれます。以下、具体的に解説します。

① 検証の対象
まず「政策保有株式」の正確な定義について整理しておきましょう。

政策保有株式の定義は、改訂前後を通じてCGコードそのものには置かれていませんが、東証のパブリック・コメントに対する回答には「原則1-4における「政策保有株式」には、一般的には、上場会社が純投資(*1)以外の目的で保有している株式のほか、対話ガイドラインで明示されているように、企業内容等の開示に関する内閣府令における「みなし保有株式」などの、上場会社が直接保有していないが、上場会社の実質的な政策保有株式となっているものも含まれます。また、上場会社同士が互いの株式を相互に持ち合う、いわゆる株式の持合いのケースに限定されておらず、一方の上場会社が他方の上場会社の株式を一方的に保有するのみのケースも含まれます。」との記載があります(51ページ下部~52ページ参照。対話ガイドラインについては、4ページ注4参照)。ここでいう「企業内容等の開示に関する内閣府令における『みなし保有株式』などの、上場会社が直接保有していないが、上場会社の実質的な政策保有株式となっているものには、例えば有価証券報告書で「みなし保有株式」となっている退職給付信託(*2)などが該当し、コーポレートガバナンス・コードでは政策保有株式として扱われることとなります。

*1 金融庁によると、「専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とする場合」を指す。「金融庁の考え方」124参照。
*2 企業は政策保有株式などを自社の退職給付債務の給付原資としてに拠出することがあります(退職給付信託)。これは、政策保有株式を企業のバラスシートから切り離すとともに、退職給付債務に充当する積立資産の不足を縮小する効果があり、さらに政策保有株式の議決権行使の指図権限を信託を設定した企業に残すことによって実質的に政策保有の効果を維持できるというメリットがあります。しかし、この議決権行使にあたりが母体企業の利益ばかりに配慮し、受益者である従業員や退職者の利益を軽視することがあれば問題であるとの批判の声が以前からあります。

また、改訂前の原則1-4では「主要な」政策保有を検証対象としていましたが、改訂後は「個別の」政策保有株式について検証が求められています。「個別の」検証が求められている点について、パブリック・コメントに対する東証の回答では、「『コンプライ・オア・エクスプレイン』の枠組みの下、自らの個別事情に照らして、一定の銘柄について、取締役会で検証を行わないとの対応も想定されますが、そうした場合には、原則1-4に対する『エクスプレイン』として、その理由を十分に説明する」(53ページ下部~54ページ参照)とありますので、一部の保有株式について検証を行わない場合には、原則1-4をコンプライしたことにはなりません。つまり、全銘柄について検証を行わない場合は、その理由を説明しなければならないということです。

なお、上記で紹介したパブリック・コメントに対する東証の回答のとおり、検証内容の結果については、必ずしも「個別の銘柄ごと」に開示することは求められません。

② 検証方法
改訂前の原則1-4では、「中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証」することとされていましたが、改訂後はこの部分が「資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証する」へと改められました。「資本コスト」の意味や内容の明確化を求めるパブリック・コメントへ対する東証の回答は、「『資本コスト』は、一般的には、自社の事業リスクなどを適切に反映した資金調達に伴うコストであり、資金の提供者が期待する収益率と考えられます。適用の場面に応じて株主資本コストやWACC(加重平均資本コスト)が用いられることが多いものと考えられます。」とのことです。東証がパブリック・コメントへの回答で示した資本コストの意味や算出方法、開示などについては【2018年7月の課題】「資本コストの把握」で解説していますので、政策保有株式の保有の適否を検証する物差しとして資本コストを用いる場合には参考にしてください。

③ 保有の便益
改訂原則1-4では、政策保有株式について「保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等」の検証が求められていますが、パブリック・コメントでは、ここでいう「便益」とは何を意味するかについても問われました。これに対する東証の回答は、「財務面の便益・リスクが含まれるものと考えます。」というものとなっています(57ページ 参照)。「便益」に財務面の便益、具体的には配当やキャピタルゲインが含まれるのは当然のこととして、それらが便益に「含まれる」という表現は、便益には財務面の便益以外のものもあるということを意味し、政策保有の相手先から生じる取引上の利益を「便益」にカウントしてもよいと読めます。つまり、政策保有の相手方と取引関係があるのであれば、その取引から生じる利益も「便益」として、資本コストなどの検証基準との比較に用いることができるものと思われます。

まとめ

政策保有株式の縮減が企業に求められているのは、「内部留保とともに増加傾向にある企業が保有する現預金等の資産の設備投資、研究開発投資、人材投資等への有効活用」(2017年12月8日閣議決定「新しい経済政策パッケージ」3-5参照)を進めるべきという期待があるからです。政策保有株式は上場株式であるだけに売却は容易で、売却すればすぐに現金化できることから、「現預金等」と同一視されます。

上述のとおり、上場企業が政策保有株式を保有するのは、保有することで配当やキャピタルゲイン、その他の便益(政策保有の相手先から生じる取引上の利益など)が得られるからですが、保有の適否を検証するには、それらの便益と新たな成長分野への投資で期待されるリターンとの比較が求められます。政策保有株式から生じる様々な便益があったとしても、従来の延長で漫然と株式を継続保有するのではなく、自社ひいては経済を活性化させるような新たな投資機会に果敢に取り組むことが期待されています。政策保有株式を保有する適否の検証やそれに関連する情報開示は、このような視点からも検討すべきでしょう。

2018/09/28 【役員会 Good&Bad発言集】取締役会議長

サービス業のZ社では、CEOが骨折で1週間ほど入院中です。Z社の取締役会では普段はCEOが取締役会議長を務めていますが、CEOが入院している間は、取締役会規程に従い事前に定めておいた取締役会議長の就任順位に基づき、第二順位の専務取締役が取締役会議長に就くことになりました。Z社のCEOは強いリーダーシップでやや強引に議事を進める傾向がありますが、じっくりと人の意見を聴くタイプの専務が取締役会議長を務めた今回の取締役会では、いつもの2倍くらい時間がかかったものの、活発に議論を交わすことができました。取締役会の最後に社外取締役が「今日の取締役会はいつもと異なり実質的な議論をすることができました。そろそろ取締役会議長の就任順位についても見直した方がいいのかもしれません。」と発言したところ、これに対して社内取締役A・B・Cが次の発言をしました。3人の発言のうち、誰の発言がGood発言でしょうか?

取締役A:「機関投資家からガバナンス強化のために取締役会議長を社外取締役にした方が良いとの意見も聞かれたところです。次の取締役会評価の際に、取締役会議長の座に誰が就任するべきかと言った項目を匿名のアンケートの質問事項に加えても良いかと思います。」

取締役B:「わが社では取締役会に先立って事務局が議案の事前説明を丁寧に行ってくれるので、それが功を奏し、今までに取締役会が紛糾するという事態になったことは一度もありません。取締役会の事前説明を丁寧に行うわが社では、取締役会議長は取締役会の招集、開会と閉会の宣言と議題の提示、発言者の指名、採決、議事録の作成など定型的な議事進行だけを行えば良いので、取締役会議長に誰が就くかはそれほど重要な問題ではないと考えます。」

取締役C:「取締役会議長は取締役会の中でもっとも重要なポジションです。創業家出身でもあり、かつ、全株主の中でもっとも持ち株比率が高いCEOこそ取締役会議長に適任と考えます。」

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2018/09/28 【役員会 Good&Bad発言集】取締役会議長(会員限定)

<解説>
取締役会の議論の方向性や深度に多大な影響をもたらす「取締役会議長」

取締役会は会社法に基づいて設置される株式会社の機関です。会社法が定める取締役会の役割は以下の3つです(会社法362条2項。詳細は【取締役会等の運営】取締役会に諮りたい案件が出てきた を参照)。

(1)業務執行の決定(*1
(2)取締役の職務(*2)の執行の監督
(3)代表取締役の選定および解職
*1 経営課題についての方針の決定、事業計画や年間予算の決定・変更、主力製品の販売の決定など、経営上の意思決定
*2 上記(1)にいう「業務」のほか、取締役会の招集、取締役会での発言や議決権の行使など、取締役が行うあらゆる仕事の総称

また、コーポレートガバナンス・コードの基本原則4では、【取締役会等の責務】として次のように定められています。

コーポレートガバナンス・コードの基本原則4【取締役会等の責務】
上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、
(1)企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2)経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3)独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと
をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。(以下、略)

このように取締役会はコーポレートガバナンスの要とも言え、取締役は取締役会の機能強化のために尽力する必要があります。

取締役会の機能強化のために、次のような方策が考えられます(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の第2回会議の資料3「取締役会の機能について」の3ページ目より引用)。

  8つの論点 機能強化のための方策
1 取締役会の議案 戦略的重要性の高い議案の選定と付議基準の見直し
2 取締役の構成 社内・社外バランス見直しと多様性(知見・経験)の確保
3 事務局機能 専任部署などの新設、優秀人材の配置など
4 傘下委員会の機能 指名委員会の設置・委員会の体制強化
5 社外取締役の支援 事前説明の充実、社内会議へ陪席許可等
6 取締役会の議事運営 議事運営の見直し、議長のファシリテーション強化など
7 開催頻度・時間等 開催頻度の減少と1回あたり時間の拡大など
8 取締役会評価 取締役会の課題認識とPDCAサイクルの導入

議長のファシリテーション : 取締役会において、取締役同士の議論を活発化させるために、論点を明確化するとともに、議論の結果の論点が枝分かりしたりずれてきたりしたときに議論の方向性を整理すること。取締役会の場では、発言をしない取締役から考えを引き出すとともに、必要に応じて監査役に確認を求めるなど、取締役に参加する者全員に協働を求めることも含まれる。

今回のGood&Bad発言集では、本日(2018年9月28日)公表された改訂版「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(以下、改訂CGSガイドライン)を参考にしながら、上表の6番目の方策「議事運営の見直し、議長のファシリテーション強化」(赤字部分)の具体策として、取締役会の議長の見直しについて詳しく見ることにします。

まず、取締役会の議長の役割を整理すると次のとおりです(改訂CGSガイドラインの18ページを参照)。

取締役会議長の一般的な役割
・取締役会の議案の選定
・取締役会の招集
・取締役会の議事の主宰(議事進行)
・取締役議事録の作成

このうち、取締役会議長の裁量の余地が大きいのが、「議案の選定」と「議事進行」です。このうち「議案の選定」は、通常は事前に定めた付議基準に基づき、該当する事項があれば自動的に議題となるのですが、自動的に議題とならないものであっても議長が自身の裁量で取締役会に上程することが考えられます。また、「議事進行」は、開会の宣言、発言者の指名、反対意見の募集、様々な意見が出た場合の交通整理、議論が紛糾した場合に採決するかどうかの判断、閉会の宣言等多岐にわたり、議長の議事進行の手腕や議長の取締役会での議論に対する考え方が色濃く反映されるところです。取締役会の議長次第で裁量で上程される議案が変わったり、議事進行次第で議論の方向性や内容(深さ)が大きく変わることから、取締役会議長に誰が就任するのかは実効的なコーポレートガバナンスの実現を左右する問題と言っても過言ではありません。

CEOイコール取締役会議長の構造に変化到来か

ところが、日本では、約7割の上場会社で取締役会議長に社長・CEOが就任しており、会長が就任している上場会社も合わせると9割を優に超えている上場会社が大半です(「平成29年度コーポレートガバナンスに関するアンケート調査」(第2期CGS研究会の第3回会合における配布資料の「参考資料2」(回答数:941社)アンケート調査結果の3ページ下の13番を参照)。これは、社内取締役の序列のトップが取締役会の議長席に座るのが当然のように考えられていたからと言えます(2018年9月19日のニュース「取締役会議長には誰が就任するべきか」を参照)。

しかし、グローバルでは取締役会議長とCEOを分離させるのがトレンドとなっていますし(海外の潮流については【2018年3月の課題】取締役会改革に向けた取り組み を参照)、日本でも社外取締役が取締役会議長に就任する上場会社が少しずつ増えています。本日(2018年9月28日)公表された改訂CGSガイドラインに「自社の取締役会の役割・機能等を踏まえて、誰が取締役会議長を務めることが適切かを検討すべき」「取締役会の監督機能を重視する場合には、社外取締役などの非業務執行取締役が取締役会議長を務めることを検討すべき」という文章が盛り込まれました(改訂CGSガイドラインの17ページを参照)。

社外取締役が取締役会議長を務めることのメリットは次のとおりです(改訂CGSガイドラインの18ページを参照)。

・監督側が取締役会議長を務めることで、付議基準に従って取締役会に上程される案件だけでなく、経営戦略に関する議論を充実させることや、監督の観点からは重要であるが執行側では上程する必要性を認識していなかった案件を取締役会に上程させること、重要な案件を適切な時期に取締役会に上程させて実質的な議論を行うことなどが行いやすくなると考えられる。
・取締役会の議事進行役を担う取締役会議長には、取締役会を自由闊達で建設的な議論・意見交換の場とし、審議の活性化を図ることが求められるところ、監督側が取締役会議長を務めた方が、取締役会の審議が監督側を中心に行われ、監督側に対する十分な説明や情報の提供、十分な審議時間の確保や、監督側が議論や問題提起をしやすい雰囲気を作ることなどが実現されやくなると考えられる。

こういったメリットが現実となれば、コーポレートガバナンス・コードで求められている取締役会の機能協会に役立つと言えます。

もっとも、社外取締役が取締役会議長に就任して取締役会の議案の選定を適切に行うとともに、取締役会における議論を深化させるためには、会社の現況に対する深い理解が必要になり、社外取締役は当該会社のために相当長時間を費やさなくてはなりませんが、上場会社の社外取締役の大半がそこまでの時間的コミットを予定しておらず、報酬もそのような時間的コミットに対応したものとなっていないのが現実です。そこで、社外取締役だけでなく、社内の非業務執行取締役も取締役会議長の候補者として検討すべきです(社内の非業務執行取締役を取締役会議長としているJ.フロントリテイリングの例について【2018年5月の課題】改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応 を参照)。社内情報に精通した社内非業務執行取締役であれば、社外取締役のコミットや報酬を現状のまま維持しつつ、取締役会議長の座を安心して任せることができるかもしれません。

CEOが取締役会議長に就任している上場会社では、社外取締役、社内非業務執行取締役に取締役会議長の座を譲るのかどうか、に誰が就任すべきか検討をする時期が到来したと言えます。

さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

取締役A:「機関投資家からガバナンス強化のために取締役会議長を社外取締役にした方が良いとの意見も聞かれたところです。次の取締役会評価の際に、取締役会議長の座に誰が就任するべきかと言った項目を匿名のアンケートの質問事項に加えても良いかと思います。」
コメント:CEOに役員人事の権限が集中している日本企業では、CEOから取締役会議長の座を奪うことになりかねない「誰が猫に鈴をつけるか」的な提案はしづらいのが現実です。とりわけ、社内取締役のポジションからは、なおさらです。取締役会評価の匿名のアンケートの場に舞台を移すことで、取締役の本音の意見を引き出すことができるので、Good発言です。そもそも、アンケートの質問事項に加えることを提案するだけでも、人事権を握られた社内取締役としては勇気を必要とする発言であり、その観点からもGood発言です。

BAD発言はこちら
取締役B:「わが社では取締役会に先立って事務局が議案の事前説明を丁寧に行ってくれるので、それが功を奏し、今までに取締役会が紛糾するという事態になったことは一度もありません。取締役会の事前説明を丁寧に行うわが社では、取締役会議長は取締役会の招集、開会と閉会の宣言と議題の提示、発言者の指名、採決、議事録の作成など定型的な議事進行だけを行えば良いので、取締役会議長に誰が就くかはそれほど重要な問題ではないと考えます。」
コメント:取締役会の前に丁寧に説明を尽くすというZ社の姿勢は望ましいものと言えます。しかし、事前説明が十分であるからと言って、取締役会での議論が軽んじられてもいいことにはなりません。今回の取締役会で取締役会議長が臨時的にCEOから専務に変わり、取締役会の時間が倍になり、参加者がいつもより議論を交わすことができたと社外取締役が発言しているとおり、議長の真価は「定型的な議事進行」ではないところにあると言え、議長の役に誰が就くかで議論の深度も大きく変わってきます。取締役Bの発言は、あたかも「取締役会に先立って議案の説明を丁寧に行えば、取締役会の議長は誰が就任しても同じ」と言っているのに等しく、取締役議長の役割や取締役会での議論を軽視したもので、Bad発言です。
取締役C:「取締役会議長は取締役会の中でもっとも重要なポジションです。創業家出身でもあり、かつ、全株主の中でもっとも持ち株比率が高いCEOこそ取締役会議長に適任と考えます。」
確かに取締役会議長は取締役会の“場”を支配するポジションであり、誰が就任するかで議論の充実度が大きく変わってきます(発言の前半は正しいです)。そのような重要なポジションに「誰が就任すべきか」は、「取締役会の目的」から演繹的に決めるべきです。ここで取締役会の目的は①業務執行の決定、②取締役の職務の執行の監督、③代表取締役の選定および解職であるところ、「創業家出身であること」「所有株数が一番多いこと」「CEOであること」がどのように取締役会の目的の達成に役立つのかを論じない限り、取締役会の目的を無視した乱暴な理屈と言わざるを得ません(発言の後半がBad)。

2018/09/28 2018年9月度チェックテスト

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【問題1】

日本版司法取引は外国公務員贈賄罪のような特殊な犯罪のみを対象としている。


正しい
間違い
【問題2】

会社法制(企業統治等関係)部会で検討中の「要綱案たたき台」では、株主総会資料をEDINETで提供することを認める内容になっており、定時株主総会の後ろ倒し開催の普及に弾みがつくことが期待されている。


正しい
間違い
【問題3】

「パテントマップ」は分析対象となるのが専ら出願データ等であるのに対し、「IPランドスケープ」は出願データ等の知財情報に限らず企業が直面する市場に関する情報等も幅広く考慮に入れる点が大きく異なると言える。


正しい
間違い
【問題4】

内閣府がまとめている男女共同参画白書(2018年版)によると、女性の非労働力人口のうち就業を希望している層を女性の年齢別の就業人口に振り分けるとM字カーブがほぼ解消するとされている。


正しい
間違い
【問題5】

2018年3月期の有価証券報告書から「経営者の視点による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の記載が求められるようになったが、経営者による「セグメントごとの財政状態の分析」の記載が漏れている企業が目立つことが指摘されている。


正しい
間違い
【問題6】

2018年6月1日より施行されている改訂コーポレートガバナンス・コードによると、取締役会議長には必ず社外取締役が就任しなければならなくなった。


正しい
間違い
【問題7】

オランダの大手銀行INGが低炭素社会実現に向けた「貸付ポートフォリオ」の構築アプローチを一般に公開したことで、日本でもESG融資の普及に弾みがつく可能性が出てきた。


正しい
間違い
【問題8】

CEOは株主総会で株主から自社グループや業界の問題だけでなく、社会問題について問われた際の対応策を準備しておくべきである。


正しい
間違い
【問題9】

IFRSで非償却となるのは「のれん」だけではない。


正しい
間違い
【問題10】

ジャストシステムでは事業部長が会社に無断で返品を保証して販売店に押し込み販売をしていたことが発覚し、返品調整引当金を計上する過年度決算の訂正が必要になった。


正しい
間違い

2018/09/28 2018年9月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
ジャストシステムでは事業部長が会社に無断で返品を保証して販売店に押し込み販売をしていたことが発覚しました。もともと、ジャストシステムでは、法人向け事業における製品の販売について、返品を保証した取引を認めていません。そこで、事業部長が会社に無断で返品を保証して販売店に押し込み販売していた額はいったん売上を取り消して、返品される可能性がなくなった(ジャストシステムが在庫リスクから解放された)分について改めて売上を計上する訂正をしています(販売調整引当金を計上する訂正をしたわけではないので、問題文は誤りです)。

こちらの記事で再確認!
2018/09/27 【失敗学第52回】ジャストシステムの事例(会員限定)

2018/09/28 2018年9月度チェックテスト第10問解答画面(正解)

正解です。
ジャストシステムでは事業部長が会社に無断で返品を保証して販売店に押し込み販売をしていたことが発覚しました。もともと、ジャストシステムでは、法人向け事業における製品の販売について、返品を保証した取引を認めていません。そこで、事業部長が会社に無断で返品を保証して販売店に押し込み販売していた額はいったん売上を取り消して、返品される可能性がなくなった(ジャストシステムが在庫リスクから解放された)分について改めて売上を計上する訂正をしています(販売調整引当金を計上する訂正をしたわけではないので、問題文は誤りです)。

こちらの記事で再確認!
2018/09/27 【失敗学第52回】ジャストシステムの事例(会員限定)

2018/09/28 2018年9月度チェックテスト第9問解答画面(不正解)

不正解です。
IFRS(国際会計基準)では「のれん」は非償却とされているため、日本の会計基準のようにのれんの償却費用が毎期の利益を圧迫するようなことはありません。企業買収を通じて成長を図ろうとする企業にとって、のれんを償却する必要がないことは、IFRSを採用する大きな理由(メリット)の1つとなっています。そしてあまり知られていないのが、IFRSにおいては「のれん」だけでなく「耐用年数を確定できない無形資産」も非償却とされているということです(問題文は正しいです)。IFRSのメリットというと「のれんの非償却」に目が行きがちですが、IFRSを導入する際には、「耐用年数を確定できない無形資産」も非償却となることを認識したうえで、財務諸表への影響やメリットを考える必要があります。

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2018/09/26 IFRSで非償却となるのは「のれん」だけではない(会員限定)

2018/09/28 2018年9月度チェックテスト第9問解答画面(正解)

正解です。
IFRS(国際会計基準)では「のれん」は非償却とされているため、日本の会計基準のようにのれんの償却費用が<毎期の利益を圧迫するようなことはありません。企業買収を通じて成長を図ろうとする企業にとって、のれんを償却する必要がないことは、IFRSを採用する大きな理由(メリット)の1つとなっています。そしてあまり知られていないのが、IFRSにおいては「のれん」だけでなく「耐用年数を確定できない無形資産」も非償却とされているということです(問題文は正しいです)。IFRSのメリットというと「のれんの非償却」に目が行きがちですが、IFRSを導入する際には、「耐用年数を確定できない無形資産」も非償却となることを認識したうえで、財務諸表への影響やメリットを考える必要があります。

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2018/09/26 IFRSで非償却となるのは「のれん」だけではない(会員限定)

2018/09/28 2018年9月度チェックテスト第8問解答画面(正解)

正解です。
米国では社会問題に対して積極的に発言するCEOが少なくありません。こういったCEOの行動は「アクティビズム(社会を改善するための積極的な行動)」と呼ばれ、消費者の半数近くがCEOのアクティビズムを好意的に捉えており、同時に「CEOは社会問題について明確な立場を取る責任がある」と考えているとの調査結果もあります。こういった流れを受け、日本でも経営トップが例えば気候変動やジェンダー差別といった社会問題について、株主総会で発言を迫られるシーンが出てくる可能性もあります。そのようなときにCEOがうかつな発言をしてしまうと、株価が急落したりCEOとして不適格であるとの烙印を押されたりしかねません。CEOは株主から社会問題について問われた際の対応策を準備しておいた方が良いでしょう(問題文は正しいです)。

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2018/09/25 ESGやSDGsが迫る社会問題に対する経営トップの対応(会員限定)

2018/09/28 2018年9月度チェックテスト第8問解答画面(不正解)

不正解です。
米国では社会問題に対して積極的に発言するCEOが少なくありません。こういったCEOの行動は「アクティビズム(社会を改善するための積極的な行動)」と呼ばれ、消費者の半数近くがCEOのアクティビズムを好意的に捉えており、同時に「CEOは社会問題について明確な立場を取る責任がある」と考えているとの調査結果もあります。こういった流れを受け、日本でも経営トップが例えば気候変動やジェンダー差別といった社会問題について、株主総会で発言を迫られるシーンが出てくる可能性もあります。そのようなときにCEOがうかつな発言をしてしまうと、株価が急落したりCEOとして不適格であるとの烙印を押されたりしかねません。CEOは株主から社会問題について問われた際の対応策を準備しておいた方が良いでしょう(問題文は正しいです)。

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2018/09/25 ESGやSDGsが迫る社会問題に対する経営トップの対応(会員限定)