2018/10/05 改訂CGSガイドラインが求める社外取締役の「再任基準」

今年(2018年)6月1日から施行されている改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)では新たに補充原則4-3③が設けられ、本則市場(証券取引所の市場一部・二部)に上場する会社は、取締役会がCEOを任期途中で解任するための「客観性・適時性・透明性ある手続」を確立することについてコンプライまたはエクスプレインが求められるようになった。

コーポレートガバナンス・コード補充原則4-3③
取締役会は、会社の業績等の適切な評価を踏まえ、CEOがその機能を十分発揮していないと認められる場合に、CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続を確立すべきである。

CEOを巡っては、上記補充原則4-3③の新設による解任手続の確立のみならず、事実上、後任のCEOの指名権限を任意の指名委員会に、各役員への報酬の分配権限を任意の報酬委員会に移すことを求めるべく補充原則4-10①が改訂されたほか(2018年5月29日のニュース『改訂CGコードが意図する「独立した」委員会』、2018年8月29日のニュース「任意の報酬委員会の社内的位置付け」参照)、かねてから問題視されてきたCEOが取締役会の議長に就任することの是非についても、つい先日(2018年9月28日)、経済産業省に設置されている第2期コーポレート・ガバナンス・システム研究会(以下、CGS研究会)が公表した改訂版「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(以下、改訂CGSガイドライン)で「取締役会の監督機能を重視する場合には、社外取締役などの非業務執行取締役が取締役会議長を務めることを検討すべき」との提案が行われている(2018年9月19日のニュース「取締役会議長には誰が就任するべきか」参照)。

コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針 : 経済産業省が昨年(2017年)3月にとりまとめた「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」のこと(通常、CGSガイドライン)で、「企業価値向上を目的として企業が具体的に検討すべき事項や取り組むべき事項を示す実務的な指針」と位置付けられる。具体的には、「取締役会の在り方」「社外取締役の活用の在り方」「経営陣の指名・報酬の在り方」「経営陣のリーダーシップ強化の在り方」について、コーポレートガバナンス・コードの各原則を補完する形で、企業に具体的な検討の着眼点を示すものとなっている。2018年9月に改訂版が公表された。

こういった一連のガバナンス改革は端的に言えば「CEOの権限基盤の弱体化」を目的にしている。その一方では取締役会議長や任意の指名・報酬委員会の委員長の座には社外取締役が就くことが推奨されていることと併せて考えれば、「CEOの権限基盤の弱体化」と「社外取締役の活用」は表裏の関係にあると言えよう。

ただ、「社外取締役の活用」に伴い社外取締役の活躍の場が広がり、会社の内実に対する理解も進んでくると、別の問題が生じる。それは社外取締役の“社内取締役化”だ。就任当初は社内取締役との適度な緊張関係のもと、外部の視点をもって株主の代弁者としての役割を果たしていた社外取締役も、就任から時間が経過するにつれ、少しずつ社内の常識や空気に流されてしまい、やがて社外取締役の存在意義である「独立性」は低下していく。

社外取締役の活用が叫ばれる中で、社外取締役の活用が進めば進むほど社外取締役の独立性が低下するというのは何とも皮肉な話だが、時間の経過とともにそれが不可避である以上、「社外取締役の活用」と同時に独立性低下への配慮も不可欠となる。そこで注目されるのが、「社外取締役の再任基準」だ。

改訂CGSガイドラインには次の一文が盛り込まれ、「社外取締役の再任基準」の検討が奨励されている(80ページを参照)。

社外取締役の再任基準を設けておくことを検討すべきである。

2015年(6月1日~)のCGコード導入時に設けられた社外取締役の独立性判断基準の策定・開示を求める原則4-9(今回は改訂なし)のコンプライ率が96%に達していることからすると(東証による2017年7月14日時点の調査結果の3ページを参照)、大部分の上場会社は少なくとも独立性判断基準を策定しているはずであり、さらに「取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物を独立社外取締役の候補者として選定するよう努めるべき」との一文を受け選任基準を設けた企業も少なくはないが、「再任基準」まで設けている企業は約24%に過ぎない(「平成29年度コーポレートガバナンスに関するアンケート調査」(第2期CGS研究会の第3回会合における配布資料の「参考資料2」(回答数:941社)アンケート調査結果の20ページの56番 参照)。

【原則4-9.独立社外取締役の独立性判断基準及び資質】
取締役会は、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべきである。また、取締役会は、取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物を独立社外取締役の候補者として選定するよう努めるべきである。

改訂CGSガイドラインでは、「一律に厳格な再任上限(就任期間の上限)を設けることまでは必要ない」とする従来からの記載が引き継がれつつも、改訂により次のような記載が追加されている(改訂CGSガイドライン79ページを参照)。

社外取締役の再任上限を設定した上で、それぞれの交代のタイミングをずらし、一定のサイクルで社外取締役が入れ替わるような仕組みを設けることで、社外取締役が中心となって社外取締役の選解任や再任を行うことに伴う社外取締役ポストの既得権益化といった問題を解消し、社外取締役の独立性を確保しやすくするとともに、取締役会の新陳代謝を実現するという観点からも、上限を設けることは有意義であると考えられる。
選任した社外取締役に問題がある場合に対処するための安全弁として、一定のサイクルで社外取締役が入れ替わるような仕組みを設けておくために、原則的な再任上限を社内規則等で定めておくことも考えられる

ただし、再任上限を設けると、それが社外取締役に「上限年数までの再任を保証するもの」と誤解され、上限年数に達する前に社外取締役を交代させることに支障が生じるおそれもあろう(改訂CGSガイドライン80ページの注釈59番を参照)。こうした事態を避けるためには、社外取締役就任時における候補者との交渉や、再任上限規定を設けることを社外取締役に説明する際に、「上限年数までは再任し続けられることを確約するものではない」旨説明するとともに、社外取締役選任基準や取締役会規程等で再任上限を定める場合には、「再任上限は●回(●年)までとする。ただし、本再任上限回数は、当該回数だけ会社が再任議案を株主総会に提出することまで保証するものではない」といった一文を入れておくのも一案だ。

もちろん、再任上限を設けること以外にも再任を止める方法はある。例えば「取締役会への出席率」「他の上場企業の役員の兼任社数制限」「再任時の年齢制限」といった定量的基準に加えて、「自社グループ内の各事業に対する理解の深さ」「取締役会での発言の積極性」「出身企業や社外役員兼任先企業のレピュテーションの悪化」といった定性的基準を設け、・・・

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2018/10/04 協働対話フォーラム、トップ選任議案に20%以上の反対票企業にレター

一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム()は(2018年)10月1日、2018年5月・6月株主総会で経営トップの取締役選任議案に対し相当数の反対票が投じられた上場企業の代表取締役社長等宛に「株主総会で相当数の反対票が投じられた議案に関する原因分析と対応」と題するレターの送付を開始したことを公表した(同フォーラムのリリースはこちら)。

 投資先企業との対話強化のために企業年金連合会と大手金融機関が連携して昨年(2017年)10月に設立された、信託銀行等のパッシブ運用を行う運用機関による集団的エンゲージメントを行うためのプラットフォーム。機関投資家協働対話フォーラムの詳細は2017年11月8日のニュース『集団的エンゲージメントを支援する「機関投資家協働対話プログラム」が始動』参照。

パッシブ運用 : 東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法のこと。パッシブとは「消極的な」という意味である。パッシブ運用に対し、銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法がアクティブ運用である。

今回のレターは、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)補充原則1-1①に沿ったものだという。

補充原則1-1①
取締役会は、株主総会において可決には至ったものの相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認めるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討を行うべきである。

同フォーラムは今年(2018年)に「ビジネスモデルの持続性に関する重要な課題(マテリアリティ)の特定化と開示」、7月に「不祥事発生企業への情報開示と社外役員との協働対話のお願い」と題するレターを上場企業に送付しており、今回のレター送付は第三弾となる(7月のレターについては2018年7月24日のニュース「機関投資家協働対話フォーラムが不祥事発生企業にレターを送付」参照)。

同フォーラムは今回レターを送付した企業名や社数は非公表としているが、今回のレターでいう「相当数の反対票」の目安は、・・・

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2018/10/04 協働対話フォーラム、トップ選任議案に20%以上の反対票企業にレター(会員限定)

一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム()は(2018年)10月1日、2018年5月・6月株主総会で経営トップの取締役選任議案に対し相当数の反対票が投じられた上場企業の代表取締役社長等宛に「株主総会で相当数の反対票が投じられた議案に関する原因分析と対応」と題するレターの送付を開始したことを公表した(同フォーラムのリリースはこちら)。

 投資先企業との対話強化のために企業年金連合会と大手金融機関が連携して昨年(2017年)10月に設立された、信託銀行等のパッシブ運用を行う運用機関による集団的エンゲージメントを行うためのプラットフォーム。機関投資家協働対話フォーラムの詳細は2017年11月8日のニュース『集団的エンゲージメントを支援する「機関投資家協働対話プログラム」が始動』参照。

パッシブ運用 : 東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法のこと。パッシブとは「消極的な」という意味である。パッシブ運用に対し、銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法がアクティブ運用である。

今回のレターは、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)補充原則1-1①に沿ったものだという。

補充原則1-1①
取締役会は、株主総会において可決には至ったものの相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認めるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討を行うべきである。

同フォーラムは今年(2018年)に「ビジネスモデルの持続性に関する重要な課題(マテリアリティ)の特定化と開示」、7月に「不祥事発生企業への情報開示と社外役員との協働対話のお願い」と題するレターを上場企業に送付しており、今回のレター送付は第三弾となる(7月のレターについては2018年7月24日のニュース「機関投資家協働対話フォーラムが不祥事発生企業にレターを送付」参照)。

同フォーラムは今回レターを送付した企業名や社数は非公表としているが、今回のレターでいう「相当数の反対票」の目安は、今年7月に改訂(2019年1月施行予定)された英国CGコード第1章各則(Provision)4を踏まえ「20%以上の反対票」とした模様だ(2018年2月19日のニュース「英国でも今年CGコード改定へ、日本への示唆は?」の②参照)。

レターの内容は大きく2つに分かれており、株主総会で相当数の反対票が投じられた経営トップ選任議案に対する投資家の認識について説明するとともに((1))、反対票が多くなった原因分析と対応についての説明を企業に依頼((2))するものとなっている。

より具体的にみると、(1)では、株主が取締役選任議案に反対する理由には様々な理由が考えられ、とりわけ経営トップの選任議案については、例えば、当該企業の資本効率や経営監督機能などのガバナンスに問題を感じているものの、これらの問題に関して反対票を入れるべき対象の議案がない場合に、意見の表明先として、経営トップの選任議案に反対票を投じることがある旨を説明している。

(2)では、企業への具体的な依頼事項として以下の3点を挙げ、これらを機関投資家協働対話フォーラムに説明することを求めている。

① 相当数の株主が取締役選任議案に反対票を投じた原因について、貴社の取締役会では、どのような議論・分析が行われたのか、また株主の反対理由を把握するためにどのような施策を行ったのか、株主との対話その他の対応の要否についてどのように検討されたのか。
② 特に社外役員の方々は、この総会議決結果と取締役会での議論・分析についてどのようなお考えを示されたのか。
③ 上記の検討結果を踏まえて、貴社の経営方針・経営戦略やコーポレートガバナンス、資本効率などについて、貴社が課題と考えることと、その課題に対してどのように対応しようとされているのか。

CGコードの改訂(2018年6月1日~施行)を受け、現在多くの上場企業が、改訂CGコードに基づくコーポレートガバナンス報告書の提出期限である年末に向け対応に追われている。こうしたタイミングでのレター送付の背景には、CGコード補充原則1-1①は既に大部分の上場会社がコンプライしており(東証による2017年7月14日時点の調査結果によると、コンプライ率は99.21%)、「コンプライの内容を説明してもらうだけであれば上場会社の負担はそれほど大きくない」との判断もあった模様だ。

2018/10/03 IFRSにおける「のれん」の償却義務化議論の方向性

2018年9月26日のニュース『IFRSで非償却となるのは「のれん」だけではない』でお伝えしたとおり、2018年7月に開催された国際会計基準審議会(IASB)では、現行のIFRS(国際会計基準)では非償却()とされているは「のれん」の償却(費用計上)義務付けを検討することが決定し、注目を集めている。

国際会計基準審議会(IASB) : IFRS(国際会計基準)を策定している会議体で、英語名は「IASB= International Accounting Standards Board」
のれん : 企業を買収したり合併したりする際における「支払対価-企業の時価純資産」こと(これがプラスの場合、「正ののれん」という。以下は「正ののれん」を前提とする)。のれんは「財務諸表には表れない企業の価値」(超過収益力=投資におけるプレミアム部分)である。日本の会計基準では、このプレミアム部分は時の経過とともに減衰していくと考え、投資の効果がなくなるまでの期間を見積もり(ただし最長20年)、当該期間が終了するまでに定期償却(規則的な費用化)することになっている。また、当初の見積もり以上に価値が減衰していれば減損を行う。一方、IFRSおよび米国会計基準では、「のれん」の定期償却は認められていない(減損処理しか認められない)。そこには、利益の平準化を好む日本型経営と、業績好調時にはできるだけ利益を出し、逆に業績悪化時にはすべて“膿”を出すという欧米型経営の発想の違いがある。

 日本の会計基準では、のれんは最長20年の償却期間にわたって償却(費用計上)しなければならない。

本件に関する報道を受け、多額ののれんを計上するソフトバンクの株価が・・・

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2018/10/03 IFRSにおける「のれん」の償却義務化議論の方向性(会員限定)

2018年9月26日のニュース『IFRSで非償却となるのは「のれん」だけではない』でお伝えしたとおり、2018年7月に開催された国際会計基準審議会(IASB)では、現行のIFRS(国際会計基準)では非償却()とされているは「のれん」の償却(費用計上)義務付けを検討することが決定し、注目を集めている。

国際会計基準審議会(IASB) : IFRS(国際会計基準)を策定している会議体で、英語名は「IASB= International Accounting Standards Board」
のれん : 企業を買収したり合併したりする際における「支払対価-企業の時価純資産」こと(これがプラスの場合、「正ののれん」という。以下は「正ののれん」を前提とする)。のれんは「財務諸表には表れない企業の価値」(超過収益力=投資におけるプレミアム部分)である。日本の会計基準では、このプレミアム部分は時の経過とともに減衰していくと考え、投資の効果がなくなるまでの期間を見積もり(ただし最長20年)、当該期間が終了するまでに定期償却(規則的な費用化)することになっている。また、当初の見積もり以上に価値が減衰していれば減損を行う。一方、IFRSおよび米国会計基準では、「のれん」の定期償却は認められていない(減損処理しか認められない)。そこには、利益の平準化を好む日本型経営と、業績好調時にはできるだけ利益を出し、逆に業績悪化時にはすべて“膿”を出すという欧米型経営の発想の違いがある。

 日本の会計基準では、のれんは最長20年の償却期間にわたって償却(費用計上)しなければならない。

本件に関する報道を受け、多額ののれんを計上するソフトバンクの株価が早速反落した。通常、M&Aにおける買収価額は、買収ターゲット企業の時価総額額に「買収プレミアム」を上乗せして決定される。特に事業会社同士のM&Aとなれば「事業シナジー分」もプレミアムとして織り込まれることが多いため、買収価額は高額なものとなりやすい。のれんは、このような買収価額と買収ターゲット企業の純資産との差額として、買収企業の連結バランスシート上に資産として計上される。例えばソフトバンクの場合、直近の有価証券報告書(2018年3月期)によると、およそ4兆3千億円にものぼる「のれん」を計上している(このうち2兆6千億円は、2016年に英国ARM社を買収した時に計上したものである)。もしIFRSでものれんの定期償却が義務化され、同社が計上するのれんを現行の日本の会計基準と同様に今後20年で償却すると仮定すると、毎期約2,100億円もの費用が追加で計上されることになる。2018年3月期のソフトバンクの連結営業利益は約1兆3千億円なので、のれんの償却が義務化されれば連結営業利益は約16%が消失することになる。

このように、のれんの会計処理が非償却から償却に変更された場合、変更後も積極的なM&Aにより多額ののれんの計上が見込まれる企業の業績に多大な影響を及ぼすことになる。

もっとも、IASBがのれんの償却義務化の検討を開始するからといって、実際に義務化の流れが強まっているかと言えば決してそうではない。上述のとおり、IASBは今年の7月にロンドンで開催されたが、「のれんの償却を再導入するかどうかを検討する」か否かについては、14人のIASBメンバーのうち賛成8名、反対6名とほぼ意見が真っ二つに割れており、必ずしも償却賛成派が大勢を占めているわけではない。また、のれん償却義務化の検討の次のステップとして、今後ディスカッション・ペーパー(DP)を作成・公表するとしており、最終結論が出るのはまだ先の話となる。

IASBのハンス議長自身、今年8月の来日時のスピーチで、「…it is far from a foregone conclusion that this discussion paper will lead to a re-introduction of amortisation.(ディスカッションペーパーの公表によって即、のれんの償却が再導入されるというわけではない(以上、筆者訳))」とクギを刺している。

ここまで述べてきたように、IFRSではのれんは非償却であることから、企業にはM&A後の費用負担は生じない。このため、M&A後のコストという点では、日本の会計基準よりもIFRSを選択したほうが圧倒的に有利となる。IFRSを適用する日本企業の多くが、M&Aに積極的なのもこのためだ。ただし、IFRSではのれんが非償却である代わりに、のれんに減損が生じていないかどうかのテスト(減損テスト)を毎期行わなければならない。減損テストにおいては、のれんに関係する事業から生じる将来のキャッシュフローを見積もり、これを現在価値に割り引いた価値(回収可能価額)を算出する必要がある。のれんの減損では、①のれんとこれに関係する事業資産簿価の合計と②回収可能価額を比較し、②が①を下回った場合に、当該下回った分について損失処理を行うことになる(下図参照)。

減損 : 固定資産による将来の現金回収見込額が簿価を下回った場合に、下回った分だけ計上する損失のこと。

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ただ、将来キャッシュフローの見積りには手間がかかる。とりわけ、将来キャッシュフローについて複雑で精緻な見積もりをコンサルティング会社や会計事務所等の外注先に委託している場合は毎期多額のコストを要する。また将来のキャッシュフローの見積もりには主観の入る余地があるうえ、しばしば楽観的なものになりがちであることから、かねてからのれんの減損の発生タイミングは遅くなる可能性があるとの指摘がある。

しかし、だからと言って、のれんの償却に舵を切れば良いかと言えばそうではない。のれんを償却するには償却期間を決めなければならないが、これを客観的に決定するのは困難であるため、将来のキャッシュフローの見積もりのみならず、償却そのものについても完全には主観性を排除できないからだ。

このようにのれんの償却、非償却には一長一短あり、安易にどちらがより望ましいのかを結論付けることは難しい。結論が出るまでにはかなりの時間を要することになりそうだ。

2018/10/02 「縮減に関する方針」の意味

(2018年)12月末に迫った改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、改訂CGコード)に対応したコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)の提出期限に向け、上場業各社は準備を進めていることと思われるが(現時点での対応状況については、2018年8月20日のニュース「現時点における各社の改訂CGコード対応状況」、2018年8月27日のニュース「原則2-6「アセットオーナーとしての機能発揮」への対応で明確な傾向」、2018年9月14日のニュース「原則4-8(独立社外取締役の有効な活用)、開示をやめる企業が続出」参照)、今回改訂あるいは新設された原則の中で最も企業が対応に苦慮しているものの一つが【原則1-4. 政策保有株式】であろう。

下記のとおり、原則1-4は今回の改訂でタイトルをはじめ大幅な見直しが行われているが、企業側から疑問の声が聞こえてくるのが、・・・

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2018/10/02 「縮減に関する方針」の意味(会員限定)

(2018年)12月末に迫った改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、改訂CGコード)に対応したコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)の提出期限に向け、上場業各社は準備を進めていることと思われるが(現時点での対応状況については、2018年8月20日のニュース「現時点における各社の改訂CGコード対応状況」、2018年8月27日のニュース「原則2-6「アセットオーナーとしての機能発揮」への対応で明確な傾向」、2018年9月14日のニュース「原則4-8(独立社外取締役の有効な活用)、開示をやめる企業が続出」参照)、今回改訂あるいは新設された原則の中で最も企業が対応に苦慮しているものの一つが【原則1-4. 政策保有株式】であろう。

下記のとおり、原則1-4は今回の改訂でタイトルをはじめ大幅な見直しが行われているが、企業側から疑問の声が聞こえてくるのが、「政策保有に関する方針」の開示に関するくだりだ。改訂前の原則1-4では、文字通り「政策保有に関する方針」の開示を求めているにすぎなかったが、改訂原則1-4では、これに「縮減に関する方針・考え方など」との例示が追記されている。

※赤字が変更部分
【原則1-4.いわゆる政策保有株式】
上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な個別の政策保有株式についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有の ねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。
上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。

「縮減に関する方針・考え方など」という表現からは、改訂原則1-4が企業に対し政策保有株式の縮減を迫っていることがうかがえる。ただ、「縮減に関する方針」という言葉を文理解釈すると、「関する」と言っている以上、「縮減する方針」のみならず「縮減しない方針」も含まれると考えられる。仮に改訂原則1-4が「縮減する方針」のみ示すことを企業に求めるのであればシンプルに「縮減する方針」と書けば済むはずであり、わざわざ「縮減に関する方針」という表現を使っていることには意味がある。

文理解釈 : 法律等の言葉を、言葉の用法・文法どおりに解釈すること。

要するに、企業は「政策保有株式を縮減しない」あるいは「増加させる」ということを「縮減に関する方針」として開示したとしても、改訂原則1-4の「政策保有に関する方針を開示」の部分についてはコンプライしたことになるということだ。同原則にあるように「保有に伴う便益」等を考慮し、政策保有株式を保有することが適切であると判断したのであれば、その旨を開示すればよいだろう。

※改訂原則1-4に関するさらに詳しい解説は【2018年8月の課題】「【原則1-4. 政策保有株式】への対応」参照

2018/10/01 SPC活用した買収後の“逆さ合併”にニーズ、政府は規制緩和で後押しも

2018年8月22日のニュース「海外企業による買収リスク上昇の恐れも」では、・・・

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2018/10/01 SPC活用した買収後の“逆さ合併”にニーズ、政府は規制緩和で後押しも(会員限定)

2018年8月22日のニュース「海外企業による買収リスク上昇の恐れも」では、“祖父会社株式”を合併対価とした三角合併税制適格再編とする案が政府内で検討されている旨をお伝えしたが、これに加え、組織再編後の”逆さ合併“を税制適格再編とすることが検討されている。

三角合併 : 通常、合併の際には、消滅会社の株主に対し、合併の対価として存続会社の株式が交付されるが、存続会社ではなくその親会社の株式を交付して行う合併が三角合併である。
税制適格再編 : 合併や分割などの組織再編に伴う資産や負債の移転は課税対象となるのが原則だが、「企業グループ内の組織再編」や「共同事業を行うための組織再編」など税法が認める組織再編は、「税制適格」の組織再編として、組織再編時に課税を受けないことになっている。

逆さ合併とは、事業規模が明らかに小さい会社を存続会社とする合併のこと。かつてこの逆さ合併で話題を呼んだのが、2003年3月に行われた三井住友銀行と第二地銀「わかしお銀行」の合併だ。両行の規模を比較すれば、三井住友銀行がわかしお銀行を吸収合併するのが通常だが、本ケースではわかしお銀行が三井住友銀行を吸収合併したうえで、商号を「わかしお銀行→三井住友銀行」に改めるという変則的な合併が行われた。合併においては、消滅会社の財産は合併時の時価で評価され、存続会社の取得価額を上回った分が存続会社における合併差益として計上される。バブル崩壊により不況の真っただ中にあった当時、三井住友銀行は約8,000億円の有価証券含み損を抱えていたが、逆さ合併により三井住友銀行が有していた資産の含み益約2兆円が合併差益として顕在化、この結果、有価証券の含み損は帳消しとなった(当時の三井住友銀行のリリースはこちら)。

存続会社の取得価額 : 存続会社が消滅会社の株主に対して株式を発行したことにより増加する資本金・資本準備金と支払った合併交付金の金額の合計

三井住友銀行とわかしお銀行の逆さ合併は既に15年以上も前の話だが、近年、上場企業等によるM&Aが活発化する中、別の理由で逆さ合併へのニーズが高まっている。企業によるM&Aの手法の一つとして、まず投資家から資金を調達するためにSPCを設立し、当該SPCが株式交換等によりターゲットとする企業を買収(100%子会社化)、その後、買収した企業(100%子会社)を存続会社、SPCを消滅会社とする逆さ合併を行うことがある。例えば100%子会社が各種業法の許認可を有している場合、100%子会社を存続会社とすれば改めて許認可を受ける必要がないというメリットがある。また、SPCは会社とは言ってもあくまで資金調達のための“ツール”であり、それ自体に知名度やブランドがあるわけではない。100%子会社の知名度が高いような場合にも、逆さ合併を選択することは経営判断として合理性があると言える。

SPC : 「Special Purpose Company=特別目的会社」の略で、企業が投資家から資金を調達する目的などで設立する会社のこと
株式交換 : 100%子会社化を図るための手法の一つ。子会社となる会社の株主が保有している(子会社となる会社の)株式を親会社となる会社が取得し、その代わりに子会社となる会社の株主に親会社となる会社の株式を割り当てる(割り当てる株式数は、株式交換契約によって決められた株式交換比率に基づく)。この結果、子会社の株主はすべて親会社となり(100%子会社化が実現)、子会社の元株主は親会社の株主となる。

現在政府が検討している「組織再編後の逆さ合併」とは、例えば下図のように、株式交換によってある会社を100%子会社にした後、当該100%子会社を存続会社、その親会社を消滅会社とする逆さ合併を行うケースを想定している。

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現行の法人税法でも、逆さ合併自体は税制適格再編に該当し得ることになっているが、「組織再編後の逆さ合併」は税制適格再編には該当しない。これは、「組織再編後の逆さ合併」は、税制適格再編要件の一つである「株式継続保有要件」を満たすことができないからだ(税制適格要件の詳細は財務省の資料参照)。株式継続保有要件とは、文字通り組織再編後も株式の継続保有を求める要件で、例えば上図の株式交換であれば、A社はB社を100%子会社とした後も、B社株式を100%保有し続ける必要がある。しかし、上図のケースでは、株式交換後、A社はB社に吸収合併されて消滅してしまう。もはやA社が存在しない以上、B社の株式を保有し続けることができるはずもない。すなわち、上図の株式交換は、株式継続保有要件を満たすことができず、税制適格再編には該当しないこととなる。税制適格再編に該当しないとなると、A社が(100%子会社化により)実質的に手中に収めることとなるB社の資産が時価評価され、取得価額(簿価)を上回る部分に対して課税が行われる。

こうした中、現在政府は、株式交換等の組織再編によって他の会社を100%子会社にした後、当該100%子会社を存続会社、その親会社を消滅会社とする逆さ合併を行ったケースも、株式継続保有要件を満たす税制適格再編とするよう、法人税法を改正することを検討している。これが実現すれば、SPCを活用したM&Aを選択肢として検討する企業が増える可能性もありそうだ。

2018/09/30 【2018年9月の課題】【原則2-6. 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】では何を開示するか

2018年9月の課題

改訂コーポレートガバナンス・コードでは、【原則2-6. 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】が新設されています、同原則は上場会社に対し、企業年金がアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、人事面や運営面における取組みを行うとともに、その内容を開示することを求めています。

同原則を受け、上場会社としては具体的に何を開示すべきか、
・同原則の規定やコードの付属文書である「投資家と企業の対話ガイドライン」の内容
・そもそもなぜこのような開示がなぜ求められるようになったか
を踏まえ、考えてみてください。

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