<解説>
実効性ある内部通報制度の構築はトップの責務
上場会社で不正が発覚すると、規模や重要性によっては社内外の調査委員による調査報告書が取りまとめられることになります。「内部通報制度が機能していなかったから長期間にわたり組織的不正が行われていたにもかかわらず、明るみに出なかった」という調査結果が良く見受けられます。そのような場合、必ずと言っていいほど「内部通報制度の充実」が再発防止策に掲げられます。
内部通報制度は根拠となる法律そのものがあるわけではなく、公益通報者保護法の理念に沿って、事業者が通報者を保護するとともに、組織の自浄作用を向上させるために設ける任意の制度です。内部通報制度を導入していないからと言って、法律で罰せられたり、適正な財務報告ができないとしてJ-SOX上問題になったりするわけではないのですが、内部通報制度は従業員3000人超の企業では99.2%の普及率となっています。もっとも、中小規模の事業者にはまだまだ浸透しておらず、例えば従業員が51人から100人の規模の企業では4社に1社程度(24.5%)の普及率に過ぎません。上場企業の場合、子会社への導入が課題と言えます(以上の調査結果については第1回公益通報者保護専門調査会の資料2の16ページを参照)。
内部通報制度を導入するには、規程の整備、社内外の窓口の設定、窓口において通報者の秘密を保持するための仕組みや教育(担当者の育成)が必要になり、制度導入後は窓口の維持、制度の周知等継続して取り組まなければなりません。特に重要となるのが、通報者の秘密の保持(後述)です。また、制度が周知されるためには、一度や二度のアナウンスでは足りず、繰り返し繰り返し告知する必要があります。さらに、経営トップが率先して内部通報制度の仕組みを重視する姿勢を見せることも重要となってきます。「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(以下、民間事業者向けガイドライン)の4ページでは「経営トップの責務」として、「単に仕組みを整備するだけではなく、経営トップ自らが、経営幹部及び全ての従業員に向け、例えば、以下のような事項について、明確なメッセージを継続的に発信することが必要である」として、次の項目を掲げています。
・コンプライアンス経営推進における内部通報制度の意義・重要性
・内部通報制度を活用した適切な通報は、リスクの早期発見や企業価値の向上に資する正当な職務行為であること
・内部規程や公益通報者保護法の要件を満たす適切な通報を行った者に対する不利益な取扱いは決して許されないこと
・通報に関する秘密保持を徹底するべきこと
・利益追求と企業倫理が衝突した場合には企業倫理を優先するべきこと
・上記の事項は企業の発展・存亡をも左右し得ること
内部通報制度の実効性は「いかに通報者の秘密を守れるか」次第
内部通報制度の実効性を確保するには「いかに通報者の秘密を守れるか」が重要となってきます。また、公益通報者保護の理念そのものとも言えます。
そのためには、まず「通報の受付における秘密保持」が重要になってきます。これについて民間事業者向けガイドラインには、次のように記載されています(民間事業者向けガイドライン10ページ)。
(個人情報の保護)
○ 通報の受付方法としては、電話、FAX、電子メール、ウェブサイト等、様々な手段が考えられるが、通報を受け付ける際には、専用回線を設ける、勤務時間外に個室や事業所外で面談する等の措置を適切に講じ、通報者の秘密を守ることが必要である。
○ また、例えば、以下のような措置を講じ、個人情報保護の徹底を図ることが必要である。
・通報事案に係る記録・資料を閲覧することが可能な者を必要最小限に限定する
・通報事案に係る記録・資料は施錠管理する
・関係者の固有名詞を仮称表記にする
○ なお、通報に係る情報を電磁的に管理している場合には、さらに、以下のような情報セキュリティ上の対策を講じ、個人情報保護の徹底を図ることが望ましい。
・当該情報を閲覧することが可能な者を必要最小限に限定する
・操作・閲覧履歴を記録する
次に通報を受けて行う調査においても、秘密保持に配慮しなければなりません。通報者が特定されることを困難にするため、調査の端緒が通報であることを関係者に認識させないために下記のような工夫も必要です(民間事業者向けガイドライン11ページ)。
・定期監査と合わせて調査を行う
・抜き打ちの監査を装う
・該当部署以外の部署にもダミーの調査を行う
・核心部分ではなく周辺部分から調査を開始する
・組織内のコンプライアンスの状況に関する匿名のアンケートを、全ての従業員を対象に定期的に行う
公益通報者保護法の改正に向けた動き
2018年1月26日に公益通報者保護専門調査会が約6年半ぶりに開催されました(前回の開催は2011年8月)。これは、公益通報者保護法(平成16年法律第122号)における規律の在り方や行政の果たすべき役割等に係る方策に関する事項について、内閣総理大臣から諮問を受けた消費者委員会の求めに応じて設置された専門調査会です。
専門調査会では2016年11月に公表された「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」ワーキング・グループ報告書での議論(2016年12月16日のニュース「内部通報制度の導入義務化へ 保護対象となる公益通報者の範囲も大幅拡大」を参照)に沿って検討を進めていき(論点については第1回公益通報者保護専門調査会の資料2の26ページを参照)、2018年7月頃に中間的な論点整理を公表し、秋ごろには消費者委員会へ報告を上げる予定です。企業側にとっては「改悪」との声も上がっており、改正の動向は注目しておく必要がありそうです。
さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
取締役B:「通報者が特定されることを困難にするための工夫はいろいろ考えられます。また、内部通報のためのインフラも当社のものを使えば低コストで運用できるはずです。」
(コメント:企業規模にかかわらず、通報者が特定されないよう民間事業者向けガイドラインに掲げられているような工夫をする余地はあるので、運用面で解決することを提案する取締役Bの発言はGoodと言えます。また、子会社が親会社における内部通報インフラに利用するのは一般的に行われており、グループのガバナンス力を高めるためにも推奨される手法と言えます。)
取締役A:「当社の子会社の規模は小さいので、内部通報制度を導入して仮に通報があったとしても、不正実施者への調査が始まればすぐに通報者が特定されてしまいます。規模が小さい会社では内部通報制度はなじまないのではないでしょうか?また、内部通報制度の維持にはコストがかかる以上、子会社が当該コストを負担するのは費用対効果に欠けるのではないでしょうか。」
(コメント:通報者の特定を防ぐための工夫はいろいろ考えられますし、企業規模が小さいのであれば内部通報制度に関する親会社のインフラを使うことも一案です(取締役Bの発言を参照)。また、内部通報制度のような法令順守コストは単純な費用対効果の議論はなじまないところがあります。仮に費用対効果の議論をするのであれば、一部大企業において品質評価に関する組織的不正が問題になった昨今の事例において、仮に内部通報制度が機能して早期に不正が発覚していたら、多額の損失計上やレピュテーションの低下は防げたはずであることを考慮すると効果は絶大と評価することもできます。以上よりBad発言です)
取締役C:「重要な子会社であれば内部通報制度を導入していないとJ-SOXの監査が通らないのではないでしょうか。」
(コメント:J-SOXでは財務報告の適正性を確保するために必要な体制として、内部通報制度の導入を必須としているわけではありません。不十分な知識をもとにしたCの発言はBadです)