当フォーラムでは、一橋大学の円谷准教授の協力を得て、有力企業の株主総会上程議案に対する主要国内機関投資家による個別の議決権行使結果(賛否状況)を分析しているが、4回目となる今回は東洋紡とセイコーエプソンの買収防衛策継続導入議案を取り上げる。・・・
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当フォーラムでは、一橋大学の円谷准教授の協力を得て、有力企業の株主総会上程議案に対する主要国内機関投資家による個別の議決権行使結果(賛否状況)を分析しているが、4回目となる今回は東洋紡とセイコーエプソンの買収防衛策継続導入議案を取り上げる。・・・
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当フォーラムでは、一橋大学の円谷准教授の協力を得て、有力企業の株主総会上程議案に対する主要国内機関投資家による個別の議決権行使結果(賛否状況)を分析しているが、4回目となる今回は東洋紡とセイコーエプソンの買収防衛策継続導入議案を取り上げる。
主要国内機関投資家による議決権行使結果 第一弾(2017年11月6日掲載)はこちら
主要国内機関投資家による議決権行使結果 第二弾(2017年11月13日掲載)はこちら
主要国内機関投資家による議決権行使結果 第三弾(2017年11月22日掲載)はこちら
両社は2017年6月の株主総会で、買収防衛策を更新する議案を上程。結果は、いずれの議案も過半数の賛成を得て可決された。以下はそれぞれの議案と賛成率である。なお、東洋紡の時価総額(11月17日現在)は1,778億円で外国人株主比率(2017年3月末現在)は17.63%、セイコーエプソンはそれぞれ1兆760億円と30.22%となっている。
| 社名 | 議案 | 賛成率 |
| 東洋紡 | 当社株式の大量買付行為への対応策(買収防衛策)の更新の件 | 50.75% |
| セイコーエプソン | 当社株式の大量取得行為に関する対応策の更新の件 | 72.28% |
東洋紡の議案への賛成率は51%弱とギリギリ過半数を確保するにとどまった。単純に時価総額および外国人株主比率から考えれば、セイコーエプソンの方が厳しい賛否結果となってもおかしくないはずだが、同社は72%という本議案としては相当に高い賛成率を得ている。同程度の時価総額の企業で買収防衛策継続導入議案について70%台の賛成率を確保できたのは、日本精工(71.03%)などごく一部に限られている。
そこで、両社の買収防衛策(*)のポイントを比較してみたい。
まず、取締役会に占める独立した社外取締役の人数はセイコーエプソンが11人中の5人(45.4%)、東洋紡が14人中の2人(14.2%)である。セイコーエプソンの独立委員会は社外取締役3人で構成、東洋紡は社外有識者3人で構成され社外取締役は1人も含まれていない。買収防衛策を発動(新株予約権を発行)する要件については、セイコーエプソンが東京高裁4類型と高圧的二段階買付にバスケット条項を加えた6項目、東洋紡はさらに「買付条件が著しく不十分または不適切」「公序良俗の観点から不適切」などが加わって9項目に達している。
東京高裁4類型 : 2005年に発生したライブドアによるニッポン放送の買収を巡る訴訟で東京高裁が示した買収防衛策が認められるとされる4つのケースのこと。具体的には、(1)グリーンメール(株式を高値で対象企業に買い取らせること。グリーンメールとは、ドル紙幣の色である緑と、脅迫状を意味するブラックメールを合わせた造語)、(2)焦土化経営(知的財産権、ノウハウ、企業秘密、顧客など企業の有する経営資源を他に移転させて、その企業を焦土化させること)、(3)買収対象会社の資産の流用(債務弁済の原資とするなど)、(4)一時的な高配当--を指す。
高圧的二段階買付 : 公開買付けに際し、意図的に買付け時期を二段階に設定し、最初の買付けよりも二段階目の買付けの条件を不利に設定する(あるいは条件を明確にしない)ことで、株主に最初の買付けへの応募を強要すること。
バスケット条項 : 法令や規則等で何かを規定する際に、該当する項目を具体的に列挙し切れない場合や、弾力的な運用の余地を残すため、「その他の〇〇」といった形で包括的に規定すること。包括条項とも言われる。
事前警告型ライツプランの基本的な流れは、(1)一定割合以上の株式取得を狙う敵対的な買収者に対し、事前に設定した「猶予期間」中に、買収者自身や買収提案の内容など詳細な情報の提供を要求する、(2)社外役員や有識者などから構成される「独立委員会」が買収提案を精査する、(3)独立委員会の勧告を踏まえて、取締役会が賛成/反対の対応を決定する―――となっている。
買収者がこのプロセスに従わずに買収(一定比率(通常は15~20%)以上の株式の買付け)を強行した場合、あるいはこのプロセスを通じて買収提案が濫用的と判断された場合には、(3)により取締役会は買収提案への「反対意見」を提示し、必要に応じて対抗措置(新株予約権の発行など)を決議することになる。「濫用的」と見なされる買収行為の典型例として、株式を買い占めた後に高値で買い取ることを要求する、といったことが挙げられる。
これらの買収防衛策の導入議案に対する国内機関投資家の賛否状況を見てみよう。東洋紡に賛成した運用機関としては、三井住友信託銀行、富国生命投資顧問、明治安田アセットマネジメントの3つが確認できた。富国生命投資顧問の「議決権行使基準(特別勘定)」は、買収防衛策の反対要件として①経済的対価の交付、②株主総会決議(導入時)の不在、③公正で中立な発動手続の不在、の3つを挙げている(5ページ「(7)買収防衛策に関する議案」①参照)。このうち③をより詳細に見ると、「過半数が独立役員もしくは独立した社外有識者で構成される独立委員会」と「株主意思確認総会」が賛成の要件として挙げられており、東洋紡は前者を満たしたことで賛成を受けたとみられる。
セイコーエプソンの議案には、上記3機関に加えて、みずほ信託銀行、りそな銀行、三菱UFJ信託銀行、アセットマネジメントOne、いちよしアセットマネジメント、三菱UFJ国際投信、三井住友トラストアセットマネジメントと、多くの運用機関が賛成した。りそな銀行は「議決権に関する具体的行使基準」で、「独立委員の全員が独立性を確保」「取締役会に3分の1以上の独立社外取締役が存在」「発動要件が明確」を賛成条件に挙げており(「7.買収防衛策に関する事項」参照)、同社はいずれもこれらの条件を満たしていると判断できる。なお、東洋紡の場合、社外取締役の数が少ないこと、発動要件が相対的に不明確であることから反対されたと考えられよう。
買収防衛策に対する各機関投資家の議決権行使基準は、今後さらに厳しいものに改定されていくことが想定される。例えば三井住友信託銀行の従来の基準は「独立社外取締役が2人」いれば賛成するというものだったが、今年(2017年)10月からは「過半数が必要」とする新基準を運用している。この新基準に従えば、独立社外取締役が2人の東洋紡はもちろん、5人いるセイコーエプソンすら賛成を受けることができない。買収防衛策は「原則禁止」と考えざるを得なくなるのではないか。
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電装品・発電機・冷蔵庫等の製品の製造・販売を営む澤藤電機(東京証券取引所市場第一部上場)で、連結子会社(エス・エス・デー)が仕掛品の過大計上により利益を不正計上していた(2018年3月期第1四半期の累計影響額はその他の誤謬も合わせて約212百万円)。
澤藤電機が、2017年11月に100%の連結子会社であるエス・エス・デー(以下、SSD)の粉飾についての調査報告書を公表するまでの経緯を時系列で示すと、次のとおり。
2008年
1月:SSDにおいて、経理業務担当者(以下、A氏)が月次決算の赤字回避を目的として、独断で原価の付け替えを行った。それ以降も、A氏は、仕掛品の残高を実際の数値より過大に計上(その分だけ利益も過大に計上)する粉飾を続けたため、SSDにおける仕掛品残高の水増し額は年々増えていった。
2017年
8月下旬:澤藤電機で、SSDの過去の財務状況を確認していたところ、過去数年にわたり粉飾を行っていた可能性があることが発覚した。
9月:澤藤電機は、同社の役職員2名および社外の弁護士および公認会計士の4人を委員とした特別調査委員会を設置。
11月:澤藤電機は、「当社国内子会社による不適切な会計処理に関する調査報告書」を公表。もっとも、同社は本粉飾に質的重要性および金額的重要性は認められないとして、過年度遡及や2018年3月期第1四半期の決算訂正を行わず、2018年3月期第2四半期において一括で処理する旨をあわせてリリース。
澤藤電機が、2017年11月に公表した「当社国内子会社による不適切な会計処理に関する調査報告書」によると、本件の問題点の主な内容とその原因、対応策および再発防止策は次のとおりである。
| 内容 | SSDの経理業務担当者A氏は、下記の手口で仕掛品を過大計上し、利益をねん出していた。 ・プロジェクト原価の付け替え プロジェクト原価の内訳表において、採算の悪いプロジェクトから採算の良いプロジェクトに原価に付け替える方法 ・架空プロジェクトへの原価計上 実際にかかったコストを架空プロジェクトの原価として集計して繰り越す方法 ・発生工数の水増し プロジェクトの発生工数を水増しすることで、労務費単価を低額にし、当月払出原価を過少にする(結果として、仕掛品残高を過大にする)方法 |
| 原因 | (機会) ・A氏は、ほぼ単独で経理業務を担っており、業務内容を誰からもチェックされていなかった。 ・SSDの経営会議・取締役会では、損益計算書上の数値に重点が置かれた議論が行われており、貸借対照表は2013年以前は報告資料ですらなかったため、SSDの役職員は仕掛品残高の増大に気付かなかった。 (経営者のプレッシャー) SSDの前社長は、売上や利益目標の達成について強い拘りを持っており、採算の悪いプロジェクトについては、A氏に説明を求めたり、プロジェクトの担当者を叱責したりしていた。一方で、SSD社内では、A氏は前社長の側近として認識されており、プロジェクト担当者が叱責されたのはA氏が前社長に対してプロジェクト毎の実績値を報告したことに原因があると言われることもあった。そこで、A氏は、計画未達について原因分析資料を作成する手間や前社長への説明時間を減らすとともに、プロジェクト担当者が社長から叱責されるのを防いで自身の社内での立場が悪化しないようにするために、赤字となるプロジェクトを減らす粉飾に手を染めるようになった。 (プロジェクトごとの予実管理の不徹底) プロジェクトごとの予実管理が十分でなかったため、A氏が会計操作をしても発覚することはなかった。 (正当化) A氏は、仕掛品を過大計上しても翌期には解消できる以上、粉飾は一時的な手段に過ぎないと考え、自らの行為を正当化していた(実際には水増し額は年々増えていき、ひそかに解消することは不能な水準にまで達した)。 A氏は SSDの営業利益が赤字になるとSSD自体の存続が危ぶまれると思い込んでおり、それを回避するためには粉飾もやむなしと考え、粉飾を正当化していた。 |
| 再発防止策 | ・プロジェクト毎の採算管理の厳格化 ・SSDの経理業務担当者に対する監督機能の強化 ・監査役監査の強化 ・コンプライアンス知識・意識の向上 ・親会社による子会社管理体制の強化 ・内部監査の強化 |
本調査報告書によると、SSDの経営会議や取締役会では、損益計算書(P/L)上の数値にばかり焦点を当て議論を行っており、貸借対照表(B/S)が報告資料ですらない時期もありました。調査報告書では、このようなSSDにおけるP/L重視の経営姿勢が、SSDの役職員が仕掛品残高の増大に気付けなかったことの背景にあると分析しています。
報告資料だけでなく、予算管理でもP/Lを重視し過ぎると、粉飾のきっかけになりかねません。P/L予算しか立てていない会社では、P/L予算による予算統制から逃れるために、仕掛品や仮払金をつかった粉飾が起きるリスクが高まります。P/L(フロー)とB/S(ストック)は双方がそろってこそ情報としての有意性が増します。P/Lを粉飾をすれば必ずB/Sにもしわ寄せがきます。たとえ子会社であっても、P/LとB/Sの両方(可能であればキャッシュフロー計算書も加える)を用いて社内報告や議論をするとともに、B/S予算を用いた予実統制も実施するようにすべきです。
全上場企業の10%に迫る300社以上の上場企業で導入されている有償新株予約権(有償ストックオプション)の会計処理を変更する公開草案(実務対応報告52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」)に対して史上最多となる253件ものコメント(その多くが反対意見)が寄せられたことを受け、企業会計基準委員会(ASBJ)は最終とりまとめに向けた寄せられたコメントについて検討を行ってきたが(2017年10月4日のニュース「有償新株予約権の会計処理、反対意見に対するASBJの見解」参照)、ASBJは公開草案の内容を・・・
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全上場企業の10%に迫る300社以上の上場企業で導入されている有償新株予約権(有償ストックオプション)の会計処理を変更する公開草案(実務対応報告52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」)に対して史上最多となる253件ものコメント(その多くが反対意見)が寄せされたことを受け、企業会計基準委員会(ASBJ)は最終とりまとめに向けた寄せられたコメントについて検討を行ってきたが(2017年10月4日のニュース「有償新株予約権の会計処理、反対意見に対するASBJの見解」参照)、ASBJは公開草案の内容を基本的に変更しない方針であることが当フォーラムの取材により判明した。
従来、有償新株予約権は会社にとって「現金を対価として株式を発行する取引」である(すなわち労務提供の対価ではない)ことから、費用に計上する必要がないとされてきたが、今後は通常のストックオプション(無償で発行されるストックオプション)と同様、従業員等への(労務提供の対価としての)「報酬」として、費用計上が求められることになる。
公開草案に対する反対意見では、「従業員等が会社に払い込む金額は「公正価値評価」に基づき算出された額であることから、有償新株予約権を付与することは“投資の機会の提供”としての性格を有しており、報酬としての性格を有していない」というものが聞かれた。これに対しASBJは、「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引は、引受先が従業員等に限定されていること」や「権利確定条件として、勤務条件及び業績条件が付されていること」から、業績達成のインセンティブ効果を有することとなると指摘。また、付与時点において従業員等から一定の額の金銭が企業に払い込まれることから“投資の機会の提供”としての性格を有するとしても、同時に、会社は従業員等からの追加的なサービスの提供を期待しているとも考えられることから、「従業員等から企業に払い込まれる金額が公正価値評価に基づき算出された額であるか否かにかかわらず、通常のストックオプション(無償で発行されるストックオプション)と同様、報酬としての性格を併せ持つと考えられる」とし、通常のストックオプション(無償で発行されるストックオプション)に対して適用されるストック・オプション会計基準が求めているのと同様、「費用」に計上する必要があるとしている。
このようにASBJは公開草案の内容を基本的に変えていないが、一点、大きな変更があったのが、新たな会計基準の適用開始日だ。
新たな会計基準の適用開始日は、公開草案では、実務対応報告の「公表日以後」からとされていたが、これが「平成30年4月1日以後」に変更される(なお、公表日以後の早期適用は可能)。ASBJは、公開草案に対し反対意見が多数寄せられていたことを踏まえ、実務上の混乱を避けるためにも一定の周知期間を設けることが必要と判断した。
したがって、実務対応報告の適用日(平成30年4月1日)より前に従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した取引については、実務対応報告の会計処理によらず、従来適用してきた会計処理(費用計上なし)を継続することができる。ただし、その場合には「注記」が要件となる。具体的には、①「権利確定条件付き有償新株予約権の概要」として、各会計期間において存在した権利確定条件付き有償新株予約権の内容、規模(付与数等)およびその変動状況(行使数や失効数等。ただし、付与日における公正な評価単価の記載は、企業側の事務負担を考慮し不要)、②採用している会計処理(=従来から適用してきた会計処理)の概要--を注記することになる。
新たな会計基準の適用開始日が「平成30年4月1日以後」とされたということは、それまでに有償新株予約権を導入すれば現行の会計処理(費用計上なし)を継続することが可能ということを意味する。有償新株予約権の導入までにはおおむね1か月程度の期間を要する模様だが、今後“駆け込み”で有償新株予約権を導入する企業がどの程度出て来るのか、注目される。
最近のコーポレートガバナンスに関する議論では、相談役や顧問の弊害がクローズアップされています。相談役や顧問は、取締役でない限り、会社が“任意に”設置している肩書き・呼称であり、法律上の制度や会社法上の機関ではありません(企業によっては「取締役相談役」という方も実際に存在しますが、稀な事例と思われるため、本稿では、「取締役を退任後に相談役・顧問に就任した事例」を前提とします)。
このように、法的な根拠を持たず任意に設置されている相談役や顧問が会社の経営判断や人事に関与し、会社法上の機関である取締役や取締役会を差し置いて、実質的に権力を行使しているのではないかということが問題視されているわけです。
経済産業省が今年(2017年)3月10日に公表した「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」 (以下、「CGアンケート」という)によれば、回答した全871社のうち約78%の企業において、相談役・顧問の制度が存在しています(CGアンケート116ページ)。また、相談役・顧問が現に在任中の企業は全体の約62%あり、そのうち約58%の企業では社長・CEO経験者が相談役・顧問に就任しているとのことです(同117ページ)。
「相談役・顧問の役割」としては、「役員経験者の立場からの現経営陣への指示・指導」と回答した企業が約36%(241社)と最も多く、次いで「業界団体や財界での活動など、事業に関連する活動の実施」と回答した企業が約35%(233社)となっています(同118ページ)。
「役員経験者の立場から現経営陣への指示・指導」という回答における「指示・指導」が何を意味するのか定かではありませんが、「会社経営に責任がない相談役・顧問による現役の経営陣への不当な影響力の行使が生じているのではないか」という懸念や、「誰が実質的に経営のトップを担っているかわからない事態が生じる」という弊害が指摘されているところです。また、たとえ相談役・顧問が不当な影響力を行使するにまでは至らなかった場合であっても、「現役の経営陣が社長・CEO経験者である相談役・顧問の意向をおもんばかって(いわゆる“忖度”をして)、事業ポートフォリオの見直しなど果断な意思決定を躊躇する要因になり得る」との指摘もあります(経済産業省が2017年3月31日に公表した「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」 37ページ参照)。
このような問題意識から、議決権行使助言会社最大手のISS(Institutional Shareholder Services)も「2017年版日本向け議決権行使助言方針(ポリシー)」(2017年2月1日施行)において、相談役制度(顧問、名誉会長、ファウンダーなどの活動の実態が見えにくい名誉職的なポストを含む)の新設に関する定款変更議案(ただし、取締役の役職として提案される場合を除く)に対しては反対を推奨することを表明しています(同基準13ページ)。
この点は、ISSが2017年10月26日に公表した2018年版の議決権行使助言方針(ポリシー)の改定案においても変更はありません(なお、2018年版ポリシーは、去る11月9日でオープンコメントの募集が締め切られており、今後は市場関係者の意見を踏まえた上で正式決定され、2018年2月1日から適用される。改定内容については2017年10月30日のニュース「ISS 2018年日本向け助言ポリシーのポイント」参照)。
その一方で、多くの財界活動が「無報酬」である中、会社によっては、相談役・顧問として財界活動に取り組むことが会社の利益になっているケースや、顧客との関係維持を図る上で一定の役割を果たしているケース、過去の経緯等を知る者として一定の時間をかけて後任への引き継ぎを行なっているケースなど、相談役・顧問制度が会社の利益になっていることもあるとの指摘や、退任した社長らが相談役・顧問として社会活動や公益的職務などに取り組むことは、コーポレートガバナンスの観点から意義があるとの指摘もあるところです(CGSガイドライン36ページ)。
結論として、CGSガイドラインでは、相談役・顧問制度を一律に「良い」「悪い」と断定せず、以下のような提言を行っています。役割の明確化(①)、役割と処遇の整合性(②、⑤)、情報開示の強化等による透明性の確保(③、④)を要請している点がポイントです。
①まず社内において、退任した社長・CEO経験者を自社の相談役・顧問とするかどうかを検討する際に、具体的にどういった役割を期待しているかを明確にすることを検討すべきである。
②その上で、当該役割に見合った処遇(報酬等)を設定することを検討すべきである。
③以上の検討に際して、法定または任意の指名委員会・報酬委員会を活用するなど社外者の関与を得ることを検討すべきである。
④社長・CEO経験者を相談役・顧問として会社に置く場合には、自主的に、社長・CEO経験者で相談役・顧問に就任している者の人数、役割、処遇等について外部に情報発信することは意義がある。産業界がこうした取組を積極的に行うことが期待される。
⑤相談役・顧問として報酬を得ることを前提に、現役時代の社長・CEOの報酬が低く設定されており、報酬の後払いとなっている会社においては、現役の経営陣に対する報酬をインセンティブ報酬の導入などによる報酬の引き上げと、相談役・顧問の位置付けや報酬の見直しを組み合わせて行うことで、全体として適性化を図ることも考えられる。
また、会社で相談役・顧問制度について検討した結果、相談役・顧問として会社に残らないこととなった元社長・CEO経験者について、社会への貢献という観点から積極的に他社の社外取締役に就任し、長年の経営で培った経営の知見を活用すること推奨している点も注目されます。
(以上、CGSガイドライン38~40ページ)。
このようなCGSガイドラインの提言などを受け、東京証券取引所は(2017年)8月2日、コーポレート・ガバナンス報告書の記載要領を改訂し、取締役・顧問等の開示制度を導入することとしました。
具体的には、コーポレート・ガバナンス報告書に「代表取締役社長等を退任した者の状況」の記載項目が新設され、代表取締役社長等であった者が、退任後も引き続き、相談役や顧問などの何らかの役職・地位にある場合に、「氏名」「役職・地位」「業務内容」「勤務形態・条件(常勤・非常勤、報酬有無等)」「代表取締役社長等の退任日」「任期」「相談役・顧問の合計人数」などを記載することとなります(ただし、記載は任意)。なお、「代表取締役社長等を退任した者」には、「元代表取締役社長のほか、元CEO(最高経営責任者)や元代表執行役社長」が含まれます(開示対象者の詳細は、2017年8月24日のニュース「代表取締役社長が相談役・顧問等に就任でも開示対象外となるケース」参照)。
改訂後の新様式は、2018年1月1日以後に提出するコーポレート・ガバナンス報告書から利用が可能となります。
任意の開示項目とはいえ、相談役・顧問制度があるにもかかわらずその内容を開示しなければ、株主・投資家からコーポレート・ガバナンスに関してネガティブな見方をされることがあり得ます。
さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
取締役A:「大変申し上げにくいのですが、前社長(現相談役)から後継者に指名された現社長は前社長の言いなりであり、当社の経営は実質的には相談役である前社長の“院政”になっているのではないでしょうか?また、取締役会の前には他の相談役に対しても議案について根回しするのが慣例になっていますが、現社長を頂点に現役取締役が経営の意思決定をするのが本来の姿ではないでしょうか。今のところ他の相談役は前社長を尊重していますが、各相談役がそれぞれ自分の意見を主張し始めれば、経営は必ず混乱します。したがって、こうした取締役会前における(相談役への)議案の根回しももう止めるべきです。」
(コメント:議論のとっかかりとして、甲社の課題を正面からズバリ指摘した点がGOODです。解決策についてもう少し深掘りして欲しいところではありますが、発言内容に間違いはありません。)
上場会社である甲社には、取締役会長、取締役社長および取締役副社長が取締役を退任した場合に「相談役」として処遇し、会長・社長・副社長・社外取締役以外の取締役が退任した場合に「顧問」として処遇する、いわゆる相談役・顧問制度があります。
その甲社の取締役会で、一人の取締役が「最近の世の中のコーポレート・ガバナンス改革議論では、相談役・顧問制度が“悪”であるかのような言われ方をされているが、当社の相談役・顧問制度はどうなのだろうか」との問題提起をしたことがきっかけとなり、同社の相談役・顧問制度の今後の扱いについて現取締役3人による議論が始まりました。
取締役A・B・Cの発言のうち、誰の発言がgood発言でしょうか?
取締役A:「大変申し上げにくいのですが、前社長(現相談役)から後継者に指名された現社長は前社長の言いなりであり、当社の経営は実質的には相談役である前社長の“院政”になっているのではないでしょうか?また、取締役会の前には他の相談役に対しても議案について根回しするのが慣例になっていますが、現社長を頂点に現役取締役が経営の意思決定をするのが本来の姿ではないでしょうか。今のところ他の相談役は前社長を尊重していますが、各相談役がそれぞれ自分の意見を主張し始めれば、経営は必ず混乱します。したがって、こうした取締役会前における(相談役への)議案の根回しももう止めるべきです。」
取締役B:「A君、滅多なことは言わない方が身のためだぞ。取締役経験者を相談役として処遇することは必ずしも悪いことではない。長年にわたる当社経営の知見や経験を会社や我々後輩が吸収しないのは非常にもったいない。確かに現役の経営者ではないから、会社の業容説明に定期的に時間をとられるのはやっかいではある。特に取締役候補や役付の選定など人事案件については、取締役会前に根回しておかないと後でうるさいが。近い将来、自分も相談役として処遇されるだろうが、もちろん自分が相談役になった際には、現役の諸君がやろうとしていることに口を挟むようなことは自重するつもりだ。」
取締役C:「前社長以外の他の取締役経験者を“名誉職”として処遇してしまっていることも問題です。これまでの功労に報いるという意味では、現役時代の報酬や退任時の慰労金で十分でしょう。そもそも相談役や顧問の役割も不透明ですし、ほとんどの方はたいした活動実績もないのに、全員に対し一律に相当な額の報酬が支払われています。この際、顧問はすべて廃止し、Bさんには大変申し訳ないですが、相談役については社長経験者だけが就くようにしてはどうでしょうか。そして、制度として残すのであれば、「相談役処遇規則」を制定して、その役割や処遇内容を“見える化”しておくべきです。来年以降のコーポレート・ガバナンス報告書からは、退任した代表取締役が相談役に就任する場合、業務内容や常勤・非常勤の別、報酬の額などを記載しなければならなくなりますし。」
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今年(2017年)3月には経済産業省内に設置された「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」がダイバーシティ実現に向けたボトルネックの解消法や行動をまとめた「ダイバーシティ2.0検討会報告書」を取りまとめるなど(2017年3月31日のニュース「日本企業のダイバーシティ経営を阻害するボトルネックの解消法」参照)、日本においてもダイバーシティに関する議論は活発になってきたが、その実現への道のりはまだ遠い。例えば、企業のダイバーシティの実限度を示す指標の一つが取締役会における女性の人数だが、当フォーラムでTOPIX100採用銘柄99社(8月から東芝を除外)について、女性の取締役と監査役の人数(執行役は除外)を調査したところ、・・・
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今年(2017年)3月には経済産業省内に設置された「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」がダイバーシティ実現に向けたボトルネックの解消法や行動をまとめた「ダイバーシティ2.0検討会報告書」を取りまとめるなど(2017年3月31日のニュース「日本企業のダイバーシティ経営を阻害するボトルネックの解消法」参照)、日本においてもダイバーシティに関する議論は活発になってきたが、その実現への道のりはまだ遠い。例えば、企業のダイバーシティの実限度を示す指標の一つが取締役会における女性の人数だが、当フォーラムでTOPIX100採用銘柄99社(8月から東芝を除外)について、女性の取締役と監査役の人数(執行役は除外)を調査したところ、平均人数はわずか1.2人にとどまっており、取締役会に占める割合はわずか7%に過ぎなかった。女性は1人のみという会社が40社と最も多く、未だ0人の会社も27社あった。一方で、複数の女性を置いている会社も32社あった。最多となる「4人」の女性を置いていたのは、アステラス製薬、資生堂、MS&ADインシュアランスグループHDの3社であった。
ダイバーシティ2.0 : 多様な属性の違いを活かし、個々の人材の能力を最大限引き出すことにより、付加価値を生み出し続ける企業を目指して、全社的かつ継続的に進めていく経営上の取り組み
ただ、グローバル資本市場の期待値はもっと高いところにある。近年のコーポレートガバナンス改革をリードしている英国の状況を把握するため、若干古いデータにはなるが、2015年10月に公表されたデービス・レビュー(Woman On Boards Davis Review -Five Year Summary-)を確認してみよう。ちなみにこのレポートを取りまとめた「デービス委員会」のトップであるマーヴィン・デービス卿とは、スタンダード・チャータード銀行のCEOだった人物である。
これによると、FTSE100における女性取締役の割合は26.1%で、2011年の12.5%から倍増した。FTSE250においても19.6%あり、やはり2011年の7.8%から倍以上に増えている。また、取締役会における女性メンバーがゼロという企業は、FTSE100では21社からゼロになり、FTSE250は131社から15社へと激減した。最多はHSBCの8人、続いてインターコンチネンタルホテルとユニリーバの6人となっている。
FTSE100 : ロンドン証券取引所に上場する銘柄のうち時価総額上位100銘柄による時価総額加重平均型の株価指数
デービス委員会は2011年に最初のレポートを公表した際、FTSE100企業については「2015年までに女性取締役を25%とすべき」と提言した。これはノルウェーやフランスなどで”強制”されるクォータ制とは異なり、あくまでも自主的な取り組みを促すものにすぎず、FTSE250企業については年限を定めずに、「中期的に25%に達すればよい」としていた。なお、デービス委員会は新たな目標として、2020年までに33.3%の達成を掲げている。
上述したように、デービス・レビューはあくまでも企業の“自主的な”取り組みを促すものだが、こうした規制当局による後押しが女性取締役比率の飛躍的な向上につながっているのは事実だろう。さらに英国では、2011年にコーポレートガバナンス・コードを改訂した際には、年次報告書に「性別を含む取締役会の多様化ポリシー」を記載するべきとしている(B.2.3)。
今後進むことが予想される日本のコーポレートガバナンス・コードの改訂を巡る議論においても、英国同様に「ジェンダー・ダイバーシティ」を促進する取り組みが盛り込まれる可能性は念頭に置いておく必要がありそうだ。