2017/11/27 税負担に雲泥の差も!税金を意識した設備投資や賃金の検討が必須に

安倍総理が11月17日に開催された未来投資会議で「賃上げや設備投資に積極的な企業には、国際競争において十分に戦える環境を整備します。特に、革新的な技術やビジネスに果敢に挑戦する企業には、思い切って世界に打ち勝つことができる環境を提供します。他方で、企業収益が過去最高となる中で賃上げや投資に消極的な企業には、コーポレートガバナンス改革や様々な政策ツールを活用して、果断な経営判断を促していきます。」と発言している。この発言で総理が主に言おうとしているのは、・・・

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2017/11/27 税負担に雲泥の差も!税金を意識した設備投資や賃金の検討が必須に(会員限定)

安倍総理が11月17日に開催された未来投資会議で「賃上げや設備投資に積極的な企業には、国際競争において十分に戦える環境を整備します。特に、革新的な技術やビジネスに果敢に挑戦する企業には、思い切って世界に打ち勝つことができる環境を提供します。他方で、企業収益が過去最高となる中で賃上げや投資に消極的な企業には、コーポレートガバナンス改革や様々な政策ツールを活用して、果断な経営判断を促していきます。」と発言している。この発言で総理が主に言おうとしているのは、前半の赤字部分では「賃上げ・投資した企業の法人税を減税すること」であり、後半部分では逆に「賃上げ・投資に消極的な企業の法人税を増税する(具体的には、租税特別措置を適用させない)」ということである。

租税特別措置 : 一定の条件を満たすことで税金が軽減される優遇措置のこと

ここ数日の新聞等では、「賃上げ、設備投資に積極的な企業の実質的な税負担を25%にする」といった報道が散見されたが、これらの報道を呼んだ政府側からの最初の意思表示が上記の総理発言というわけだ。ただし、企業の税負担を何%にするかはまだ確定しておらず、「20%」というさらに大胆な数字も挙がっている。

実質的な税負担 : 現状、日本企業の実効税率(法人税、住民税、事業税といった企業の利益に課税される税の総合的な負担率)は29.97%とされている。

この新たな制度は平成30年度税制改正で導入されることになっており、その概要が「平成30年度税制改正大綱」により判明するのは12月14日となる見込である。現段階で確定的なのは、税負担の軽減を受けるためには「3%以上の賃上げ」が必要になるという点。これは、安倍総理が10月26日の経済財政諮問会議で、「来年の春季労使交渉では3%の賃上げを実現するよう期待する」と発言したことによる。ただし、当フォーラムの取材によれば、単に「賃上げ」だけすればよいわけではなく、併せて「投資」も求められることになるようだ。つまり、「賃上げ」と「投資」の両方を実行して、はじめて税負担の軽減が受けられるということである(ただ、通常は製造業の方がサービス業よりも投資額の規模が大きいといった業種間格差の調整をいかに図るのかなどは現時点では分かっていない)。

一方、上述のとおり、「賃上げ・投資に消極的な企業の法人税を増税する(租税特別措置を適用させない)」方向だが、賃上げ・投資額が一定水準に到達しなければ“全て”の租税特別措置の適用を不可とするという厳しい措置も検討されている模様。租税特別措置には研究開発税制など様々な種類があるが、租税特別措置による減税効果の大きい企業にとって、仮にその適用が全て不可となればかなりの税負担増加となる。税負担の増加は当期純利益を減らすため、ROE(当期純利益/株主資本)も引き下げることにつながる。

研究開発税制: 例えば、試験研究費の総額に対し一定割合(複数の計算方法があるが、例えば、試験研究費の増減に応じて6~14%。増加率が高いほど控除率が高くなる)をその事業年度の法人税額から控除する。

「賃上げ」「投資」を行うかどうかで税負担が大きく異なるこの仕組みが導入された場合、企業(特に租税特別措置による減税効果の大きい企業)は、自社が予定する「賃上げ額+投資額」が「税負担の軽減の適用を受けられる」水準に達しているのか、あるいは「租税特別措置の適用ができなくなる」水準にとどまっているのかを見極めたうえで、賃上げ、投資の水準を調性する必要がある。例えば100の「賃上げ+投資」を行えば税負担の軽減が受けられるとしよう。それにもかかわらず、仮に「賃上げ+投資」を95に抑えれば、税負担の軽減が受けられないどころか、租税特別措置の適用が受けられなくなってしまう可能性がある。もしその結果として税負担が10増えるのであれば、結局「投資額+賃上げ額+税負担増加分」は105となる。一方、100の「投資+賃上げ」をすればさらに税負担の軽減も受けられるため、「投資+賃上げ+税負担」のトータル額は、「賃上げ額+投資額」を95にとどめた場合よりも相当程度低くなる可能性がある。

仮にこの判断を誤り、トータルの負担(賃上額+投資額+税負担)額が多くなれば、株主からは、「将来株主資本を増やす可能性のあった投資をしなかったうえに、キャッシュを余分な税金により無駄に流出させた」と責められることになりかねない。上場企業にとって、賃上げや投資時における税負担の検討は欠かせないものとなろう。

2017/11/24 不正発覚後の調査コスト、8億円計上のケースも

上場企業で不正が発覚すると、被害額が僅少でない限り、少なくとも社内調査委員会による調査が必要になることが多い。専門的な調査が必要になれば、外部の専門家も雇わなければならない。さらに、組織的な不正であったり、社会的影響が大きい事案であったりすれば、“社外”調査委員会による調査も必要になる(ケーススタディ「子会社で不祥事が発覚した」や「従業員が会社の金を着服していた」を参照)。

では、こういった調査には一体どれくらいのコストがかかるのだろうか。・・・

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2017/11/24 不正発覚後の調査コスト、8億円計上のケースも(会員限定)

上場企業で不正が発覚すると、被害額が僅少でない限り、少なくとも社内調査委員会による調査が必要になることが多い。専門的な調査が必要になれば、外部の専門家も雇わなければならない。さらに、組織的な不正であったり、社会的影響が大きい事案であったりすれば、“社外”調査委員会による調査も必要になる(ケーススタディ「子会社で不祥事が発覚した」や「従業員が会社の金を着服していた」を参照)。

では、こういった調査には一体どれくらいのコストがかかるのだろうか。有価証券報告書で開示されているデータをもとに不正調査関連コストについて調べたところ、次のような結果となった。

<調査の前提>
EDINETで損益計算書に「特別調査費用」「過年度決算訂正関連費用」を計上している企業のうち主要な企業を抽出。
なお、不正調査に費やした費用は必ずしも「特別調査費用」「過年度決算訂正関連費用」といった科目のみ用いられるわけではなく、不正の内容や企業の考え方によって様々である(例えば王将フードサービスは、「第三者委員会調査費用」として2016年3月期に123百万円を計上している(【失敗学第23回】を参照)など)。また、調査費用の額に金額的重要性がないとして、損益計算書上明示(別掲)していない上場企業も少なくない。
企業名 決算期 科目 金額(百万円) 備考
テクノメディカ(東証第一部) 2017年3月期 過年度決算訂正関連費用 788 売上を前倒し計上していた。2011年3月期にまで遡って有価証券報告書の訂正を実施(【失敗学第33回】を参照)。
高田工業所(東証第二部) 2017年3月期 過年度決算訂正関連費用 508 完成工事高・完成工事原価の操作による粉飾。2011年3月期にまで遡って有価証券報告書の訂正を実施(同社の第三者委員会の調査報告書に関するリリースはこちら)。
日鍛バルブ(東証第二部) 2017年3月期 過年度決算訂正関連費用 219 棚卸資産を過大計上し、利益を過大計上していた。2012年3月期にまで遡って有価証券報告書の訂正を実施(同社の不適切な会計処理に係る調査委員会の調査報告書に関するリリースはこちら)。
アピックヤマダ(東証第二部) 2018年3月期(第2四半期) 過年度決算訂正関連費用 166 顧客が検収できる状態に至っていないにもかかわらず、顧客に依頼して作業報告書に検収済みの署名をしてもらい、さらに社内資料を偽ることにより、売上を不正に早期計上していた(【失敗学第38回】を参照)。
サイオステクノロジー(現サイオス:東証第二部) 2016年12月期 過年度決算訂正関連費用 139 連結子会社で補助金の不正受給が発覚。2012年12月期にまで遡って有価証券報告書の訂正を実施(同社の社内調査委員会の報告書に関するリリースはこちら)。
リアルワールド(東証マザーズ) 2016年9月期 特別調査費用 129 クラウド事業に関する取引の収益認識の時期等を修正。2014年9月期にまで遡って有価証券報告書の訂正を実施(同社の独立委員会の調査報告書に関するリリースはこちら)。
パスコ(東証第一部) 2017年3月期 特別調査費用 99 本来原価に計上すべき費用を実態のない投資案件のソフトウェア仮勘定に計上する等の不適切な会計処理を行っていた(東証の公表措置を参照)。

たとえ外部の第三者である専門家を入れずに社内調査委員会のみで調査が完結したとしても、費用がゼロかと言うとそうではない。法律の解釈を顧問弁護士に確認したり、社内委員会が外部の専門業者を雇いコンピュータ・フォレンジック調査を実施したり、会計面の調査の一部を会計事務所に委託したりすれば、外部への支払いが生じる。また、調査に携わった社内の役職者の人件費のうち調査に費やした時間に相当する額を社内調査費としてとらえる考え方もあるだろう。

調査の結果、過年度の決算の見直しが生じれば、過去の有価証券報告書や四半期報告書、決算短信や四半期決算短信等を過年度に遡及して訂正することもある。この場合、極めて短期間のうちに四半期ごとの要修正額を特定しなければならないため、社内リソースだけで対応するのは困難と言える。通常は会計事務所に特定を委託することになるが、急ぎの仕事になるため“言い値“”で契約せざるを得ないことも多く、このコストも決して少額ではない。さらに、訂正後の有価証券報告書や四半期報告書については監査法人の監査報告書を取り直さなければならないことから、そのための監査報酬も追加的に発生する(例えば上表のパスコの場合、過年度決算訂正に関する社内調査委員会に係る調査費用54百万円の他に、訂正後の財務諸表に対する監査・レビュー報酬としてあずさ監査法人に37百万円を支払っている)。遡及期間が延びればコストも跳ね上がる。

上表に記載した金額にはあくまで不正調査関連コストであり、不正の発覚により取引先に支払いが必要となった補償額(免震積層ゴム製品の性能に不正があった東洋ゴムにおける「製品補償対策費」13,174百万円(2015年12月期:【失敗学第14回】を参照)、旭化成の「杭工事関連損失」1,456百万円(2016年3月期:【失敗学第20回】を参照)など)や課徴金(入札談合が問題になった前田道路の「独占禁止法関連損失引当金繰入額」1,320百万円(2016年3月期:【失敗学第27回】を参照)など)は含まれていない。また、不正の発覚により信用が低下したことに伴う売上の減少という“目に見えないコスト”もあるだろう。粉飾が発覚した後、民事再生手続きを申請し上場廃止となった江守グループホールディングス(【失敗学第12回】を参照)のように、不正の後始末のコストが会社の存立を危うくすることも少なくない。

不正は往々にして目先のわずかな利益を追うことで起きるものであり、当然ながら、その時点では不正の結果として生じる後始末のコストまで考えが及ぶべくもない。企業における不正防止の啓蒙活動の一環として、後始末のコストの例を示すのも一案と言えよう。

2017/11/22 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第三弾

当フォーラムでは、一橋大学の円谷准教授の協力を得て、有力企業の株主総会上程議案に対する主要国内機関投資家による個別の議決権行使結果(賛否状況)を分析しているが、3回目となる今回は・・・

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2017/11/22 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第三弾(会員限定)

当フォーラムでは、一橋大学の円谷准教授の協力を得て、有力企業の株主総会上程議案に対する主要国内機関投資家による個別の議決権行使結果(賛否状況)を分析しているが、3回目となる今回はスズキの役員報酬関連議案を取り上げる。

主要国内機関投資家による議決権行使結果 第一弾(2017年11月6日掲載)はこちら
主要国内機関投資家による議決権行使結果 第二弾(2017年11月13日掲載)はこちら

同社は2017年6月の株主総会で、取締役賞与の支給、取締役と監査役の報酬額改定、譲渡制限付株式の付与に関する議案を上程した。結果は、いずれの議案も過半数の賛成を得て可決されている。各議案の概要と賛成率は下表のとおりである。

譲渡制限付株式 : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬。「リストリクテッド・ストック」という英語名が使われることも多い。

議案 概要 賛成
取締役賞与支給の件 社外取締役を除く6名に対して業績連動賞与を支給 97.59%
取締役および監査役の報酬額改定の件 支給実績や員数等を勘案して基本報酬の上限を改定 97.70%
取締役に対する譲渡制限付株式の付与のための報酬決定の件 社外取締役を除く6名に対して譲渡制限付株式を付与 71.64%

取締役への賞与は、配当や自社株買い(株主還元)と同じく剰余金(利益剰余金資本剰余金)を原資とするため、その支給議案では、剰余金の額を左右する業績はもちろん、株主還元とのバランスも問われるが、同社の前期のROEは15.4%と高い(すなわち業績が良い)一方で、配当性向は12.1%とむしろ低い点に留意する必要がある。

利益剰余金 : 利益のうち会社に内部留保された金額を指す。
資本剰余金 : 株主からの出資などによって得た金額のうち、資本金・資本準備金としなかった分を指す。

報酬額改定議案では、取締役が減額(8000万円/月→7億5千万円/年)となっているのに対し、監査役は増額(800万円/月→1億2千万円/年)となっている点が注目される。

譲渡制限付株式の付与に関する議案では、譲渡制限期間が「1年間から5年間までの間で当社の取締役会が予め定める期間」と、1年間という短い譲渡制限期間を設定することが可能とされている点が目に付く。

これらの議案について主要国内機関投資家がどのような判断を下したのか見てみよう。

まず取締役への賞与支給議案に対しては、主だった国内機関投資家は軒並み賛成した模様である。野村アセットマネジメントは「日本企業に対する議決権行使基準」で、剰余金処分が不十分と判断される場合は原則反対で、直近2期にROE10%未満があれば配当性向を50%以上とすることを求めている(「ROEが低い→株主資本を効率的に使っていない→(剰余金から)配当して株主資本を払い戻すべき」という理屈と考えられる)が、スズキは前期ROEが15%であったことから、剰余金処分議案、取締役賞与支給議案ともに賛成したということだろう。なお、明治安田アセットマネジメントの「国内株式議決権行使ガイドライン」では、剰余金処分議案に賛成する条件として20%以上の配当性向を求めており、スズキの剰余金処分議案には反対票を投じている(賞与支給議案については株主還元を考慮していないため、賛成)。

次に報酬額の改定議案に対しては、朝日ライフアセットマネジメントと三井住友アセットマネジメントの2社が反対したことが確認されている。もっとも、いずれの議決権行使基準においても、本議案が明確に反対となる指針は見当たらない。ただし、三井住友アセットマネジメントの「日本株式に係る議決権行使ガイドライン」には、「報酬額を改定する場合には、十分な根拠が説明されるべき」とある。ここから推測すると、監査役の人数には変更がないにもかかわらず監査役の報酬枠を増加させる必要性について具体的な説明が不足していると判断されたということも考えられる。

譲渡制限付株式の付与に関する議案に対しては、三菱UFJ信託銀行、りそな銀行、朝日ライフアセットマネジメント、大和住銀投信投資顧問、日興アセットマネジメントと多くの機関投資家が反対した。三菱UFJ信託銀行は「個別議案の行使方針」において、株式報酬の行使条件がインセンティブ効果を高める設計として、「付与後2年以上の据置期間がある」ことを挙げている(「(5) 役員報酬等 」の「(b) ストックオプション・株式報酬等」のうち「ロ. 株式報酬等」参照 ※「(b) ストックオプション・株式報酬等」の表中「行使価格が市場を下回る場合」の部分に「2年以上の据置期間がある」とある)。スズキの譲渡制限付株式は譲渡制限期間が1年間になり得る設計のため、インセンティブ報酬として不適切と判断されたのだろう。

なお、三菱UFJ信託銀行は、株式報酬の付与対象者が「社外取締役・監査等委員である取締役、監査役」の場合も原則反対としている(※「(b) ストックオプション・株式報酬等」の表中「対象者」の部分参照)。同様の基準を持っている機関投資家は他にもあり、今年の株主総会では楽天のストックオプション(対象者に社外取締役を含む)や、安川電機の譲渡制限付株式(対象者に監査等委員を含む)の付与に関する議案でも賛成率が低く抑えられた(楽天:77.07%、安川電機:68.51%)。その一方で、社外取締役について長期インセンティブの必要性を認める投資家も少なくはない。今後の議論が待たれる論点と言えよう。

2017/11/21 上場企業の経営陣が重視すべきは「ROE」か「ROA」か

株式会社浜銀総合研究所
調査部産業調査室 主任研究員  城 浩明

この数年、企業の「稼ぐ力」を示す指標(KPI)としては、ROE(Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本))が重視されてきた。その背景には、2014年に経済産業省がまとめた伊藤レポート(持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~)が日本企業のROEについて「グローバルな投資家と対話をする際の最低ラインとして8%を超えるという水準を意識」することを求めたことや(45ページ上から6行目~)、議決権行使助言会社最大手のISS社が「過去5期平均ROEが5%を下回り、かつ改善傾向にない」場合、経営トップである取締役の再任に反対を推奨するとしたことなどがあったと考えられる。

KPI : 定量的に示される重要業績評価指標(Key Performance Indicators=KPI)のこと。KPIの例としては「新規顧客の獲得数」「従業員1人あたりの経費」「総資産額」などがある。
利益 : 実務上は、ROEの利益には「当期純利益」を使うことが多い。これは、株主資本に対応するのは、株主資本に帰属する当期純利益であるとの考え方による。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

ところが、政府が2017年6月9日に閣議決定した「未来投資戦略2017 -Society5.0の実現に向けた改革-」の中で、新たなKPIとしてROA(Return On Assets =総資産利益率(利益/総資産))が掲げられている。具体的には、「形式」から「実質」へのコーポレートガバナンスおよび産業の新陳代謝を示すKPIとして、「大企業(TOPIX500)のROAについて、2025年までに欧米企業に遜色のない水準を目指す」という(114ページ参照)。これまでROEを意識してきた上場企業の経営陣の中には、ROEとROAの一体どちらを重視すべきなのか、戸惑う向きもあろう。・・・

利益 : 実務上は、ROAの利益には「営業利益」もしくは「事業利益」を使うことが多い。総資産に対応する利益は、営業利益あるいは事業利益であるという考え方による。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

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2017/11/21 上場企業の経営陣が重視すべきは「ROE」か「ROA」か(会員限定)

株式会社浜銀総合研究所
調査部産業調査室 主任研究員  城 浩明

この数年、企業の「稼ぐ力」を示す指標(KPI)としては、ROE(Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本))が重視されてきた。その背景には、2014年に経済産業省がまとめた伊藤レポート(持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~)が日本企業のROEについて「グローバルな投資家と対話をする際の最低ラインとして8%を超えるという水準を意識」することを求めたことや(45ページ上から6行目~)、議決権行使助言会社最大手のISS社が「過去5期平均ROEが5%を下回り、かつ改善傾向にない」場合、経営トップである取締役の再任に反対を推奨するとしたことなどがあったと考えられる。

KPI : 定量的に示される重要業績評価指標(Key Performance Indicators=KPI)のこと。KPIの例としては「新規顧客の獲得数」「従業員1人あたりの経費」「総資産額」などがある。
利益 : 実務上は、ROEの利益には「当期純利益」を使うことが多い。これは、株主資本に対応するのは、株主資本に帰属する当期純利益であるとの考え方による。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

ところが、政府が2017年6月9日に閣議決定した「未来投資戦略2017 -Society5.0の実現に向けた改革-」の中で、新たなKPIとしてROA(Return On Assets =総資産利益率(利益/総資産))が掲げられている。具体的には、「形式」から「実質」へのコーポレートガバナンスおよび産業の新陳代謝を示すKPIとして、「大企業(TOPIX500)のROAについて、2025年までに欧米企業に遜色のない水準を目指す」という(114ページ参照)。これまでROEを意識してきた上場企業の経営陣の中には、ROEとROAの一体どちらを重視すべきなのか、戸惑う向きもあろう。

利益 : 実務上は、ROAの利益には「営業利益」もしくは「事業利益」を使うことが多い。総資産に対応する利益は、営業利益あるいは事業利益であるという考え方による。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

しかし、ROAもROEも「資産を如何に効率よく利用して利益を上げているか」を示す指標であることには変わりはなく、分母を総資産にするか(ROA)株主資本にするか(ROE)の違いしかない。しかも下記の算式に示したとおり、ROE(利益/株主資本)の分子と分母にそれぞれ「売上高」と「総資産」を乗じたうえで整理すると、ROAを高めればROEも向上するということが理解できる。

この算式は財務分析においてよく利用され、米国の世界的化学メーカーであるデュポンが経営分析に使っていたことから「デュポンシステム(あるいはデュポン式)」と呼ばれる。

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上記算式のとおり、ROAを上げるためには、「売上高利益率」を高めるためにコストを抑えつつ製品の販売単価を引き上げるか原価率や経費率を下げる、あるいは「総資本回転率」を高めるために在庫の回転率を上げたり設備効率を上げたりすることが必要になる。これによってROAが上がれば、ROEの上昇にもつながる。

売上高利益率 : 売上に対してどれくらい利益があるかを示す比率
総資本回転率 : どれくらいの資産を使ってその売上をあげているかを示す比率
設備効率 : 「稼働率×性能×品質」によって求められる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

また、上記算式のとおりROEは「ROA×財務レバレッジ」により計算されるため、「財務レバレッジ」を高めればROEも上がることになる。財務レバレッジは「総資産/株主資本」により算出されることから、これを高めるには分母の「株主資本」を相対的に小さくするしかない。株主資本を相対的に小さくするためには配当や自社株買いによって株主資本を実質的にも小さくするか、借金を増やして総資産を大きくする、あるいは借金をして自社株買い(例えばリキャップCBの利用)をすることで、総資産を大きく変化させず株主資本の構成比を小さくするということが考えられる。

財務レバレッジ : 自己資本の何倍の資産を有しているのか、すなわちいかに負債をうまく使って事業規模の拡大を図っているかを示す比率
自社株買い : 剰余金(利益のうち会社に内部留保されたものなど)を原資とした株主に対する株主資本の払い戻し(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

ただし、こうした手法はあくまで短期的な“数字のマジック”に過ぎないことを上場企業の経営陣は理解しておく必要がある。借金を増やして総資産を増やせば、中長期的には借金の利払いにより、「利益」を分子とするROA、ROEともにネガティブな影響を与えるであろうし、ROAの低い会社(すなわち、利益の少ない会社)が、財務レバレッジを高めるために株主資本を減らし続ける(株主に利益剰余金を払い戻し続ける)ことも不可能だろう。また、借金を増やしたことにより総資産が大きくなれば、総資本回転率が下がるという別の問題が生じる(その結果、ROA、ROEとも下がる)。

ROAとROEに優劣や上下関係があるわけではない。しかし、上述したとおり原価率を下げたり設備効率を上げたりするなど事業戦略を考え、収益性を高めるといった議論をする場合には、ROAを使うことが適切と言えよう。他方、自社の事業のリスク・リターンに合わせた最適な財務構成を考え、財務レバレッジを上げて資本コストを引き下げるために借入をする(利率が決まっている借入金よりも株式の方が資本コスト(期待利益)は大きい)、設備投資や企業買収のために増資や借入を行う、あるいは株主還元(配当や自社株買い)により株主資本を減少させるといった財務戦略も考慮しつつ企業の成長戦略を議論する場合には、ROEの方が適切な指標であろう。例えば、事業が高リスクであれば資金調達は株式を中心とする。その結果、ROEの分母(自己資本)は大きくなるが、高リスクに見合う高リターンが得られるのであれば分子(利益)も大きくなるため、資本コストを上回るROEを達成できるであろう。逆に、事業が低リスクであれば資金調達は借金を中心とし、株式による調達は最小限とすることで、低リターンであっても資本コストを上回るROEを達成できる可能性が高まる。

また、ROEは企業が株主資本に対しどれくらいの利益を上げているのか、すなわち株主価値の成長率を示しているので、上場企業の経営陣が投資家と議論する場合には、資本コストとの比較のためにROEをKPIとすることが多いと言えそうだ。

企業価値 : 企業価値のうち株主に帰属する価値のこと。企業価値から負債価値を控除したものが株主価値である。
資本コスト : 株主など資本提供者の期待利回りのこと。ここで「株主など」としたのは、負債にも資本コストはあるためである。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

2017/11/20 全株懇が最新の調査結果公表、“ガバナンス対応型総会”への流れ鮮明

本日11月20日、全国株懇連合会(以下、全株懇)は「平成29年全株懇調査報告書 ~株主総会等に関する実態調査集計表~」(以下、全株懇調査)を公表した。

全株懇調査とは、上場会社を中心とする全株懇の加盟会社を対象に、毎年の株主総会のほか、最近のトピックスであるコーポレートガバナンス・コード関連のテーマなどへの対応状況を把握するために実施されるもの。今回の実態調査で浮き彫りとなった主な傾向を紹介しよう。・・・

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2017/11/20 全株懇が最新の調査結果公表、“ガバナンス対応型総会”への流れ鮮明(会員限定)

本日11月20日、全国株懇連合会(以下、全株懇)は「平成29年全株懇調査報告書 ~株主総会等に関する実態調査集計表~」(以下、全株懇調査)を公表した。

全株懇調査とは、上場会社を中心とする全株懇の加盟会社を対象に、毎年の株主総会のほか、最近のトピックスであるコーポレートガバナンス・コード関連のテーマなどへの対応状況を把握するために実施されるもの。今回の実態調査で浮き彫りとなった主な傾向を紹介しよう。

コーポレートガバナンス・コード補充原則1-2③は株主総会関連の日程の適切な設定を求めているが、機関投資家からはいまだ6月総会の集中日開催への批判が根強い。しかし今回の実態調査によると、集中日(最終営業日の1営業日前)に株主総会を開催した会社は424社(回答会社全体の30.9%)と、前年比2.2ポイント減少し、集中日を回避する流れは引き続き増加している。また、最終営業日の5営業日以前に株主総会を開催した会社は444社(同32.4%)と前年比で7.3ポイント増加しており、早期開催の傾向が本年も継続していることがうかがえる(全株懇調査99ページの調査項目No.1(1)参照)。

株主の議案検討期間を十分に確保するという観点から要請されている招集通知の早期発送、発送前開示(以上、補充原則1-2②)の状況、議決権電子行使プラットフォームの参加、招集通知の英訳版の作成(以上、補充原則1-2④)の状況について見ると、招集通知の発送を3週間以上前(「3週間以上」と「4週間以上」の合算)に行っている会社は684社(回答会社全体の39.7%)で前年比2.6ポイント増、招集通知の発送前開示を実施している会社は1,448社(同83.9%)で同5.4ポイント増、議決権電子行使プラットフォームに参加している会社は627社(同36.6%)で同3.5ポイント増、英訳版を作成している会社は726社(同42.1%)で同3.3ポイント増)と、いずれも増加している(全株懇調査103ページの調査項目No.13(1)、105ページの同16(1)、17(1)、106ページの同18(1)参照)。コーポレートガバナンス・コードが求める株主との対話の環境整備は着実に進展していると言えよう。また、国内外機関投資家(議決権行使助言会社を含む)への議案の事前説明を行っている会社も250社(同14.5%)と前年比で2.2ポイント増えており、株主総会の議案について能動的に機関投資家との対話を行う会社が増加していることが分かる(全株懇調査108ページの調査項目No.21(1)参照)。

会社の情報開示姿勢にも変化が表れている。取締役会に「経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続」「経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続」「経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・指名についての説明補充」の開示の充実を求める原則3-1(ⅲ)~(ⅴ)を踏まえる形で、事業報告に報酬等の額またはその算定方法に係る決定方針の内容および決定方法を記載した会社は623社(回答会社全体の36.1%、前年比4.7%増)、株主総会参考書類の役員選任議案に選任の方針・手続を記載した会社は416社(同24.3%、同2.4%増)、社内候補者の個々の選任理由を記載した会社は1,269社(同73.6%、同16.1%増)といずれも増加した(全株懇調査119ページの調査項目No.32(8)、124ページの同38(3))。特に社内候補者の個々の選任理由を記載するというプラクティスは、既にほぼ定着したと言えよう。

また、取締役会の多様性を求める原則4-11、補充原則4-11①などを踏まえた取締役会の構成の変化についてみると、女性役員がいる会社は477社(回答会社全体の27.7%、前年比2.4ポイント増)と着実に増加した一方、外国籍の役員がいる会社は107社(同6.2%、同0.1ポイント増)と微増にとどまった。外国籍の役員は、会社がグローバルに事業展開しているかどうかによって採用意欲が大きく異なることに加え、女性役員に比べて人材確保が難しいという事情も影響していると言えそうだ。このほか、現行コード(原則4-8)では“取組み方針の開示の推奨”にとどまっている「独立社外取締役の構成人数を全体の3分の1以上」としている会社は412社(回答会社全体の24.9%)と5.4ポイント増加し、「3分の1以上としていないが検討中」とする会社も114社(同6.9%、前年からの増減なし)みられる。独立社外取締役を3分の1以上確保するよう求める機関投資家が増えつつある中、対応を急ぐ動きが見て取れる。

次に株主総会の運営状況をみると、総会の所要時間は平均58分(前年比2分減)、平均出席株主数は304名(同16名増)であった(全株懇調査70ページの調査項目No.22(1)、71ページの同23(1)参照)。株主総会で質問があった会社は1,317社(回答会社全体の76.3%、前年比0.5ポイント増)になり、引き続き総会当日の質問は活発に行われている。質問の内容として多いテーマを順にあげると、「経営方針(営業・設備等)」が846社(質問があった1,317社に対し64.2%、前年比3.1ポイント増)、「その他(議案に関係なし)」が676社(同51.3%、同0.9ポイント減)、「人事・労務」が384社(同29.2%、同4.0ポイント増)、「株主還元策」が316社(同24.0%、1.1ポイント増)、「事業報告・附属明細書」が309社(同23.5%、同1.4ポイント増)となっている(全株懇調査115ページの調査項目No.28(5))。今年のホットトピックスであった「働き方改革(長時間労働の削減)」に関係する「人事・労務」が大きく増加しているのが特徴となっている。

過去3年間における質問内容の上位回答は下表のとおり。

<株主総会での質問内容の上位回答(抜粋)>
(全株懇調査をもとに作成)
  経営方針(営業・設備等) その他(議案に関係なし) 人事・労務 株主還元策 事業報告・附属明細書 合  計
27年 848社
67.9%
604社
48.4%
315社
25.2%
318社
25.5%
263社
21.0%
1,248社
100%
28年 834社
61.1%
712社
52.2%
344社
25.2%
312社
22.9%
303社
22.2%
1,365社
100%
29年 846社
64.2%
676社
51.3%
384社
29.2%
316社
24.0%
309社
23.5%
1,317社
100%

近年、株主総会に出席できる株主と出席できない株主との間での不公平を指摘する声も出ている株主総会出席者への「お土産」については、「用意している」と回答した会社が1,227社(回答会社全体の71.1%)と、前年比で3.5ポイント減少している。お土産を用意していない会社のうち、今回から廃止したという会社は60社(回答会社全体の3.5%、前年比0.4%増)であった。お土産を今年から廃止したという会社は平成27~29年で「2.3%→3.1%→3.5%」と年々増加傾向にある(全株懇調査126ページの調査項目No.44(1))。お土産を廃止する会社の多くが「不公平感」を理由にしているようだが、一方で、株主総会会場の収容人員等の関係から来場株主を抑制することを狙いとしている会社も存在する。また、株主懇親会等についても同様とみられ、総会終了後、当日に何らかの行事・サービス等を実施している会社は310社(回答会社全体の18.0%)と前年比で1.4ポイント減少している(全株懇調査128ページの調査項目No.46(1))。

一方で、株主優待制度を実施した会社は626社(回答会社全体の36.3%)と前年に比べ1.7ポイント増えている。保有期間に応じた株主優待の優遇をした会社も165社(株主優待制度がある626社に対し26.4%、同4.7ポイント増)と相対的に増加率が高い(全株懇調査132ページの調査項目No.57(1)、(2))。出席者しかもらえない株主総会のお土産を廃止する代わりに株主優待制度を拡充するというケースもあるようだが、これには、機関投資家の影響力が過大にならないよう長期保有の受け皿となる個人株主の株式保有比率を引き上げたいという狙いがありそうだ。