2017/06/07 議決権行使結果個別開示、“穏便な”コンプライは認められず

先月(2017年5月)改訂されたスチュワードシップ・コードにより、機関投資家が議決権行使結果の個別開示を求められるようになったのは既に当フォーラムのニュースでもお伝えしたとおり(改訂スチュワードシップ・コードの全体像は2017年3月29日の「企業への影響は?日本版スチュワードシップ・コード改訂案の全容」を参照)だが、この改訂に先立ち、機関投資家が議決権行使結果の個別開示を求める指針5-3(下記参照)をより“穏便な”方法でコンプライすることを模索していたものの、金融庁はそれを認めなかったことが、・・・

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2017/06/07 議決権行使結果個別開示、“穏便な”コンプライは認められず(会員限定)

先月(2017年5月)改訂されたスチュワードシップ・コードにより、機関投資家が議決権行使結果の個別開示を求められるようになったのは既に当フォーラムのニュースでもお伝えしたとおり(改訂スチュワードシップ・コードの全体像は2017年3月29日の「企業への影響は?日本版スチュワードシップ・コード改訂案の全容」を参照)だが、この改訂に先立ち、機関投資家が議決権行使結果の個別開示を求める指針5-3(下記参照)をより“穏便な”方法でコンプライすることを模索していたものの、金融庁はそれを認めなかったことが、改訂版と同時に公表された「改訂案に対するご意見の概要及びそれに対する回答」(以下、回答)で明らかになった。

改訂スチュワードシップ・コード指針5-3
機関投資家は、議決権の行使結果を、少なくとも議案の主な種類ごとに整理・集計して公表すべきである。
また、機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすための方針に沿って適切に議決権を行使しているか否かについての可視性をさらに高める観点から、機関投資家は、議決権の行使結果を、個別の投資先企業及び議案ごとに公表すべきである。それぞれの機関投資家の置かれた状況により、個別の投資先企業及び議案ごとに議決権の行使結果を公表することが必ずしも適切でないと考えられる場合には、その理由を積極的に説明すべきである。
議決権の行使結果を公表する際、機関投資家が議決権行使の賛否の理由について対外的に明確に説明することも、可視性を高めることに資すると考えられる。

例えば、上記指針5-3の「議案の主な種類」(赤字)を「個別の取締役候補者ごとの議案」ではなく「取締役選任議案全体」と解釈することが認められれば、「個別の取締役候補者ごとの議案」を開示することは回避できる。スチュワードシップ・コード改訂案のパブリックコメントで寄せられていた「ある会社の取締役選任議案全体のうち、○人に賛成、×人に反対などとまとめることは指針5-3における『議案の主な種類』として認められるか」との質問にはこのような思惑がある。このコメントに対して金融庁は、「取締役選任議案については、一般に、個別の取締役候補者ごとに議決権が行使されることから、それぞれの候補者についての議案が、個別の議案に当たると考えられます」と回答している(回答15ページの28番)。機関投資家が指針5-3をコンプライしていると言うためには、すでに議決権行使結果の個別開示を実施済みの野村アセットマネジメント大和証券投資信託委託のように、取締役の選任議案ごとに(一人ずつ)議決権行使結果(賛成・反対)を開示するしか方法がないことになる。

また、機関投資家からは「個別の投資先企業及び議案ごとの議決権行使結果の公表に関し、当社は、議決権を行使した企業名と反対議案の有無を公表する一方で、個別具体的な内容については問合わせ窓口を通じて対応していく予定である。これは、議案の賛否に関し、判断を下した根拠を十分に説明しつつ、投資先企業に建設的な対話を促す契機を模索したいと考えるためである。(中略)こうした対応が、本コード(指針5-3)の精神に照らし適正か否かを確認させていただきたい。」とのパブリックコメントも寄せられていたが、これに対して金融庁は「ご指摘の方法は、指針5-3が求めている、議決権の行使結果を個別の投資先企業及び議案ごとに公表する方法とは異なるものであると考えられます。」との考え方を示している(回答16ページの29番)。「議決権を行使した企業名と反対議案の有無のみを公表し、個別具体的な内容については問合わせ窓口を通じて対応していく」といった「聞かれたら答える」的な姿勢ではフィデューシャリー・デューティーを果たしたことにならず、指針5-3をコンプライしているとは言えないということだ。

こうした中、無理をして議決権行使結果の個別開示をするくらいであれば、指針5-3のコンプライをあきらめてエクスプレインに切り替えようと考える機関投資家も出てきそうだが、実際にはエクスプレインすることも容易ではない。指針5-3には「それぞれの機関投資家の置かれた状況により、個別の投資先企業及び議案ごとに議決権の行使結果を公表することが必ずしも適切でないと考えられる場合には、その理由を積極的に説明すべき」とあり、安易なエクスプレインを封じるための先手が打たれている。これについて金融庁は、「仮に「エクスプレイン」を行う際には、当該指針が求める公表の方法が、貴社の置かれた状況に鑑み適切でないと考える理由を、顧客・受益者(最終受益者を含む)等の関係者の理解が十分に得られるような形で、積極的に説明すべきであると考えます。」と念押ししている(回答16ページの29番)。これらを踏まえると、「議決権行使結果を個別開示しないことについて、関係者の理解が十分に得られる積極的な説明」をするのは現実的には困難であろう。このようにコンプライもエクスプレインも難しいと言え、機関投資家にとってみれば、まさに「前門の虎、後門の狼」という状況だ。

機関投資家が提案した“穏便な”個別開示が認められなかったということは、上場企業にとって決して他人事ではない。「議決権行使結果の個別開示で難易度が高まるエンゲージメント」で解説したとおり、個別開示を意識した機関投資家が杓子定規に議決権を行使する弊害が生じ、会社提案の議案が否決される(あるいは株主提案の議案が可決される)可能性が高まるからだ。その可能性を少しでも減らすのに有効な策の一つが「定時株主総会の後ろ倒し開催」である。現状の一般的な定時株主総会スケジュールでは機関投資家にとって議案を詳細に検討する時間が不足しかねない点が問題視されているが、定時株主総会の後ろ倒し開催で機関投資家に議案を検討する時間を十分に与えることができれば、機関投資家に会社の議案提案理由(あるいは株主提案の議案に取締役会が反対する理由)をじっくりと検討してもらえるようになる。その結果、会社提案の議案に賛成票を投じてもらえる(あるいは株主提案の議案に反対票を投じる)可能性は高まる(機関投資家が上場企業に定時株主総会スケジュールの後ろ倒し開催を求める理由については【特集】~コード改訂が迫る中、機関投資家に聞く~ スチュワードシップ活動の現状と課題の「議案の精査時間が圧倒的に足りない中で投資家が企業に望むこと」を参照)。2017年5月25日のニュース「株主総会を2か月後倒しの企業現る―決算日と異なる基準日を初めて設定」でお伝えしたとおり、定時株主総会の後ろ倒し開催の実例も出ている。確定申告期限の延長など政府による環境整備という後押しもある中(2017年4月5日のニュース「確定申告期限の延長特例改正で定款変更は必要?」参照)、今回のスチュワードシップ・コード改訂がきっかけとなり定時株主総会の後ろ倒し開催に踏み切る企業が現れるのは時間の問題と言えよう。

2017/06/06 サステナビリティ軽視が生むレピュテーションリスク

ESG投資を提唱した国連の責任投資原則に署名(2015年9月16日付)し、今夏(2017年)には日本株ESG指数の公表を予定するなど、ESGに積極的に取り組むGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)だが、こうした中でGPIFに降りかかったのが、クラスター弾を製造する米国テキストロン社の株式保有問題だ。この問題は、民進党の長妻昭議員による政府への質問により表面化した。

責任投資原則 : 機関投資家に対し、投資判断プロセスにESGを反映することや、投資対象企業にESGに関する情報開示を求めることなどを提唱するもの。これに署名した機関投資家は、国連に投資の状況を報告する義務が生じるため、ESGを重視した投資を実践せざるを得ない。PRI(Principles for Responsible Investment)と言われることも多い。
GPIF : 年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund)。厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。
クラスター弾 : 親爆弾に大量の子爆弾が詰められ、被害が広い範囲に及ぶうえに不発弾として残ることも多いことから、非人道的兵器に位置付けられている。2010年8月にはクラスター弾の使用や保有、製造を全面的に禁止する条約が発効しており、日本も同条約に署名している。

これに対し政府は、(1)GPIFによる株式への投資は運用会社等との「投資一任契約」によることが義務付けられており(年金積立金管理運用独立行政法人法施行令3条)、テキストロン社株への投資もこの投資一任契約に基づき、GPIFが委託した運用機関によるパッシブ運用の一環で行われたものに過ぎない、(2)2009年に成立した「クラスター弾等の製造の禁止及び所持の規制等に関する法律」では、クラスター弾の製造の禁止や所持等の制限について定めているものの、クラスター弾を製造している外国企業の株式を保有することを禁止しているものではない、などと回答している。

パッシブ運用 : パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。

ただ、この回答に対しては、GPIFからESG投資へのプレッシャーを受ける運用会社やその先にいる企業から疑問の声も聞こえてくる。・・・

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2017/06/06 サステナビリティ軽視が生むレピュテーションリスク(会員限定)

ESG投資を提唱した国連の責任投資原則に署名(2015年9月16日付)し、今夏(2017年)には日本株ESG指数の公表を予定するなど、ESGに積極的に取り組むGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)だが、こうした中でGPIFに降りかかったのが、クラスター弾を製造する米国テキストロン社の株式保有問題だ。この問題は、民進党の長妻昭議員による政府への質問により表面化した。

責任投資原則 : 機関投資家に対し、投資判断プロセスにESGを反映することや、投資対象企業にESGに関する情報開示を求めることなどを提唱するもの。これに署名した機関投資家は、国連に投資の状況を報告する義務が生じるため、ESGを重視した投資を実践せざるを得ない。PRI(Principles for Responsible Investment)と言われることも多い。
GPIF : 年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund)。厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。
クラスター弾 : 親爆弾に大量の子爆弾が詰められ、被害が広い範囲に及ぶうえに不発弾として残ることも多いことから、非人道的兵器に位置付けられている。2010年8月にはクラスター弾の使用や保有、製造を全面的に禁止する条約が発効しており、日本も同条約に署名している。

これに対し政府は、(1)GPIFによる株式への投資は運用会社等との「投資一任契約」によることが義務付けられており(年金積立金管理運用独立行政法人法施行令3条)、テキストロン社株への投資もこの投資一任契約に基づき、GPIFが委託した運用機関によるパッシブ運用の一環で行われたものに過ぎない、(2)2009年に成立した「クラスター弾等の製造の禁止及び所持の規制等に関する法律」では、クラスター弾の製造の禁止や所持等の制限について定めているものの、クラスター弾を製造している外国企業の株式を保有することを禁止しているものではない、などと回答している。

パッシブ運用 : パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。

ただ、この回答に対しては、GPIFからESG投資へのプレッシャーを受ける運用会社やその先にいる企業から疑問の声も聞こえてくる。GPIFに対しては各メディアによるネガティブな報道やインターネット上の批判的な書き込みが相次いだが、同じようなことは企業年金基金にも起こり得るからだ。もし企業年金基金がGPIFと同じような投資を行えば、クラスター弾の製造に加担しているとみなされ、母体企業のレピュテーションに悪影響を及ぼす可能性がある。国内の一部の運用会社は、アクティブ運用については、上記「クラスター弾等の製造の禁止及び所持の規制等に関する法律」が制定された際に、クラスター弾を製造する企業を投資対象から外す対策をとった。しかしその一方で、パッシブ運用については、クラスター弾を製造する外国企業がベンチマークとする指数に採用されている以上、そのような企業が投資先に紛れ込んでしまうリスクは残る。企業年金の母体企業は、自社の企業年金が運用会社に対してどのような方針を示しているか、一度チェックしてみるべきだろう。

2017年4月に東京証券取引所で開催された「RI Asia 2017」(RIとは「Responsible Investor(責任ある投資家)」の略)では、国際的なNGO機関が、森林破壊や詐取、児童労働について日本企業や大手金融機関、アセットオーナーを名指しする場面が見られた。日本企業の中でもこうした時代の流れに敏感に反応するところは出てきており、例えばファーストリテイリングは、自社の事業において特に地球環境および社会への影響と責任が大きい分野として「サプライチェーン」「商品」「店舗とコミュニティ」「従業員」の4つを挙げ、これらの領域における持続可能性実現に向けた取り組みを推進する指針となる「ファーストリテイリンググループ サステナビリティポリシー」を制定するとともに、サプライチェーンの透明性を高め、環境と人権問題への責任を果していくことを目的に、ユニクロの主要取引先縫製工場のリストを公開している。「サステナビリティ(持続可能性)」というと、残念ながら未だに“絵空事”のようにとらえている経営者もいるのが現実だが、それへの取組みを怠れば、レピュテーションリスクや経営問題にも発展し得るということを、今回のクラスター弾問題を機に改めて認識しておきたいところだ。

2017/06/05 集団的エンゲージメント、企業にとってのメリットは?

2017年5月30日のニュース『「集団的エンゲージメント」明記で今後の機関投資家の動きは?』でもお伝えしたとおり、改訂版スチュワードシップ・コードの指針4-4において日本でも集団的エンゲージメントが実施可能である旨が明確化されたことを受け、今後は国内系の機関投資家(アセット・オーナー、運用機関)が共同して企業との対話に臨む機会が増えることも予想される。

集団的エンゲージメントというと「(集団での)保有比率を背景に厳しい要求を飲まされるのではないか」と身構えてしまう企業は少なくないと思われるが、企業にとってもメリットはある。スチュワードシップ・コードの導入などによるエンゲージメントの増加に伴い、企業は、機関投資家の属性、影響力等を総合的に勘案し、限られたリソースを効率的かつ実効的に分配する必要に迫られる中・・・

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2017/06/05 集団的エンゲージメント、企業にとってのメリットは?(会員限定)

2017年5月30日のニュース『「集団的エンゲージメント」明記で今後の機関投資家の動きは?』でもお伝えしたとおり、改訂版スチュワードシップ・コードの指針4-4において日本でも集団的エンゲージメントが実施可能である旨が明確化されたことを受け、今後は国内系の機関投資家(アセット・オーナー、運用機関)が共同して企業との対話に臨む機会が増えることも予想される。

集団的エンゲージメントというと「(集団での)保有比率を背景に厳しい要求を飲まされるのではないか」と身構えてしまう企業は少なくないと思われるが、企業にとってもメリットはある。スチュワードシップ・コードの導入などによるエンゲージメントの増加に伴い、企業は、機関投資家の属性、影響力等を総合的に勘案し、限られたリソースを効率的かつ実効的に分配する必要に迫られる中、複数の機関投資家と一度に対話することは効率的であるうえ、対話の実効性が高まることにもつながりうる。複数の機関投資家がそれぞれ別個に対話を持ちかける場合には、各機関投資家によって異なる様々な(かつ細かい)提案を行ってくることが少なくないが、機関投資家が集団として行動する場合には、参加する機関投資家内部で共有できる水準の改善策を提示してくることが予想される。結果的として、企業は機関投資家の“標準的な要望”を念頭に置きながら対話を行うことができ、妥結点も見つけやすい。また、パッシブ運用・アクティブ運用両方の運用機関の投資戦略を比較することで、将来の売却可能性を判断し、それが長期的視野に基づく提案であるかどうかを判断するのにも役立つだろう。企業は集団的エンゲージメントをいたずらに恐れるのではなく、むしろ集団的エンゲージメントは個別のエンゲージメントの「補完的手法」であり、個別に機関投資家と対話するよりも実効的に問題を解決できる場合もあるということは理解しておきたい。

一方、機関投資家側も、集団的エンゲージメントが経営攪乱要因となり、その結果企業と対立関係に陥るといったことにならないよう、真摯な対応が望まれる。例えば、対話の前提となる企業との信頼関係を築くため、企業が対話に臨むうえで必要とする情報を提供することが求められる。具体的には、参加する機関投資家の名称、保有株式数、投資戦略等である。

機関投資家は自らの手の内が露呈することを極端に嫌がる傾向が強い。しかし、投資先企業との対話の実効性を高めるためには、企業の不信感を除去して信頼関係に立脚した対話を実現するための努力が欠かせない。集団的エンゲージメントのような強力な手段を使う場合には、特にその必要性が高まるだろう。

2017/06/02 株主提案に反対する黒田電気経営陣が抱える2つの不安要素

およそ2年前(2015年8月開催の臨時株主総会時)に“村上ファンド”(C&Iホールディングス)から社外取締役就任を提案されたことで話題を呼んだ東証一部に上場する黒田電気(詳細は【失敗学第19回】黒田電気の事例参照)だが、今度は6月29日開催予定の定時株主総会を前に、・・・

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2017/06/02 株主提案に反対する黒田電気経営陣が抱える2つの不安要素(会員限定)

およそ2年前(2015年8月開催の臨時株主総会時)に“村上ファンド”(C&Iホールディングス)から社外取締役就任を提案されたことで話題を呼んだ東証一部に上場する黒田電気(詳細は【失敗学第19回】黒田電気の事例参照)だが、今度は6月29日開催予定の定時株主総会を前に、大株主である株式会社レノ(いわゆる“村上ファンド”系とされる)から社外取締役1名の選任議案の株主提案を受けている。

レノ側の株主提案は、元通産省(当時)官僚で、現一橋大学商学部商学研究科大学院(ビジネススクール)客員教授の安延氏を社外取締役に選任するというもの。黒田電気の取締役会はこれに対して反対の意を表明している(黒田電気のリリースはこちらを参照)。レノ側の提案理由とそれに対する黒田電気取締役会の考え方は下表のとおり。

レノ側の提案理由 黒田電気取締役会の考え方
規模の利益と経営資源の活用における成長を追求するためには、黒田電気と経営統合シナジーが見込まれると思われる会社との経営統合が必須であるところ、現在の黒田電気取締役会は、他社との経営統合に消極的である。経営統合の推進が黒田電気の利益にとって有益か否かという観点からの実質的な議論すらなされていない現状は、株主の共同利益に反するものといわざるを得ない。社外取締役としての本来の使命に加え、当社の取締役会において経営統合の推進について実質的な議論を行うため、ひいては当社の企業価値を向上させるために、安延氏の社外取締役選任を求める。 社外取締役には、全ての株主のために、かつ、中立性をもってモニタリング機能を発揮することが期待されているはず。レノの主張するように、あえて「経営統合の推進」の議論に踏み込むため、との理由で社外取締役の追加選任が求められるとすれば、これは、社外取締役が特定の株主からの意向を強く受ける状態が継続する可能性すら惹起し、コーポレートガバナンスの基本的要諦である一般少数株主の利益が適切に確保できなくなるリスクが極めて高い。
「売上規模の拡大」や「規模の利益の追求」を第一次的な目標とするような施策は当社の事業特性にそぐわない。
黒田電気が公表している取締役候補者のほとんどは、従業員声明文捏造事件(【失敗学第19回】黒田電気の事例を参照)が発生した当時の取締役である。同事件発覚後の対応を鑑みると事件に対する真塾な反省がなく、コーポレートガバナンスの欠如は解消されていないと評価せざるを得ない。
前記の経営統合の推進に加え、コーポレートガバナンス改善のためにも、安延氏の社外取締役選任を求める。
当社は、従業員声明文捏造事件に関係した者の処分、再発防止策の策定、上場大企業での企業監査の経験が豊富な独立社外取締役の追加選任と監査委員長就任による監査体制の強化などの対応を進めた。また、再発防止策の進捗状況も開示している。レノが指摘する状況は、現在の当社での管理・監督体制には当てはまらない。以上より、さらなる社外取締役候補者1名の追加選任の必要性は乏しい。
黒田電気は、ある程度の増配は実施したものの、2016年12月31日現在で、約203億円の現預金および約38億円の投資有価証券を保有(有利子負債は約7億円にすぎない)している状況を考えると、当該増配のみでは株主への還元として不十分。そこで、今期中に300万株(総額80億円)程度の自己株式取得を行うことで、資本効率を改善し、ひいては株主価値の向上に努めるべき。
このような自己株式取得による株主還元を実施するためにも、安延氏の社外取締役選任を求める。
レノの主張は、特定の大株主が社外取締役という本来独立性を有すべき人材を通じて、具体的な経営判断に介入することにつながる。レノが提案する候補者が本提案理由をミッションのひとつとして当社取締役会に入り、株主還元、とりわけ自己株式取得に関する議論を主導するような状況は、著しい利益相反の可能性を否定できない。
当社は2015年7月10日に①「親会社株主に帰属する当期純利益」の50%相当分に対しては配当性向30%とし、70%は成長投資 に振り向ける、②「親会社株主に帰属する当期純利益」の残り50%相当分に対しては、その時点の経済情勢や当社の資金需要を総合的に判断して、配当性向を50%~100%の間で決定するといった内容の株主還元方針を決定・公表済みである。

上表のとおり、両者は、「他社との経営統合の推進」や「自己株式取得」という特定の戦略を実現する目的を持った社外取締役の就任の是非(上表左列の赤字部分を参照)で対立している。社外取締役は、専門性・知見・経験を買われたうえで、「ガバナンスを向上させる」「客観的な立場から意見や指針を示す」「深い見識に基づき助言を行う」といったミッションを期待されて選任されるのが通常であり、本来そこに異論をはさむ余地はほとんどない。本件のように、TOBにおける委任状争奪戦が起こっているわけでもないのに、「他社との経営統合の推進」「自己株式取得」といった経営戦略や財務戦略の一オプションに過ぎない特定の戦略の実現をミッションに持つ社外取締役候補者の選任の判断を株主に仰ぐケースは珍しい。形式上は社外取締役選任議案であるが、実質上は「経営戦略や財務戦略の方向性の信認議案」と考えるべきだろう。

2015年8月の臨時株主総会では、“村上ファンド”から提案された社外取締役選任議案を否決に持ち込んだ黒田電気も、今回の株主総会ではいささか状況が不利と言える。というのも、今回、“村上ファンド”側の持株数は35.09%(レノは、株式会社オフィスサポート、野村(旧姓村上)絢氏(村上世彰氏の子で一般財団法人村上財団の代表理事)およびその他2名の個人株主と黒田電気の株式を共同保有している)と、2015年8月の臨時株主総会の基準日時点の16.06%と比べ倍増しているからだ(なお、当時は株式会社C&I Holdingsや村上世彰氏等による共同保有であった)。また、この2年間で黒田電気は急激に業績が悪化しており、2015年3月期に3,264億円あった連結売上高が2017年3月期には2,295億円まで落ち込んでいる。さらに、2018年3月期の連結売上高は1,600億円という低水準の予想であり、同社はわずか3年間で連結売上高の半分を失うことになる。同社の最新の中期経営計画では、売上規模の拡大を目指さず、営業利益率の改善を目標にするよう方針を転換することが示されているものの、4.8%のROE(2017年3月期は6.5%)では株主の期待に応えているとは言いがたい。こうした中、業績低迷に納得できない株主が“村上ファンド”に黒田電機の再生を託そうと株主提案に賛成票を投じる可能性は低くない。現経営陣が「“村上ファンド”側の高い持株比率」と「業績低迷」という2つの不安要素を抱えて臨むことになる同社の株主総会で、“村上ファンド”以外の株主がどのような判断を下すのか注目される。

2017/06/01 曲がり角を迎える新卒の採用と育成

経団連加盟企業では本日(2017年6月1日)から2018年春に卒業する大学生・大学院生の面接が解禁されたが、新卒採用そのもののあり方、そして、採用後の人材育成に頭を悩ませる上場企業は少なくない。その背景には、・・・

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2017/06/01 曲がり角を迎える新卒の採用と育成(会員限定)

経団連加盟企業では本日(2017年6月1日)から2018年春に卒業する大学生・大学院生の面接が解禁されたが、新卒採用そのもののあり方、そして、採用後の人材育成に頭を悩ませる上場企業は少なくない。その背景には、従来の採用・育成システムに乗って大量に作り出されたジェネラリスト型の中高年社員が社内で余剰人員化しているという現実がある。

新卒採用においては、一流と言われる企業ほど、採用する人材のストライクゾーンが狭い傾向がある。そして、採用後は様々な部署を経験させながら、自社にだけ精通したジェネラリストを育成してきた。これが日本企業における中高年社員の専門性の低さ、労働生産性の低さにつながっていると指摘する声は多い。業績が右肩上がりだった時代はそれでもよかった(=そのような人材を許容する余裕があった)かもしれないが、生き残りをかけたチャレンジが求められる中、例えば新規事業を立ち上げたり、海外企業を買収したりといった勝負に出ようにも、それを担える人材が社内にほとんどいないというのが多くの日本の上場企業の実態だ。

実際、人材の価値がシビアに評価される転職マーケットでは、社内で埋没する “良い大学を出て良い会社にいる人”が求められているわけではない。最近急成長している創業50年の東証一部上場メーカーでは近年活発に中途採用を行っているが、その多くはIT、国際財務、IRなどのプロフェッショナル人材となっている。歴史があり、しかも急成長している企業であればそのような人材は社内にいくらでもいそうに見えるが、技術・開発系の人材や営業はいても、プロフェッショナル人材は明らかに不足しているという。

今後の事業展開をにらみ、こうした人材を社内に多く確保するためには、まず新卒人材の育成方法を見直す必要があるだろう。例えば、どのような分野でスペシャリティを付けたいのかに応じた“社内キャリパス”を提示し、それに沿って経験を積ませるといったシステマティックな育成プランが求められる。もっとも、新卒(特に文系)の場合、入社時点では何がしたいのか、どのような分野に適性があるのかさえよく分かっていないということも多い。まずは色々な部署を経験させる中で進むべき道を絞り込んでいくという方法も考えられるが、ビジネス環境の変化が激しい昨今、時間は待ってくれない。実際、一部の企業ではそのような“自分探し”的な人事異動を見直す動きも見られる。こうした場合、新卒採用自体を見直す必要も出てくるだろう。例えば、一度社会に出て自身のキャリアについて悩み、方向性が見えてきた第二新卒や、一定の専門性を有する大学院卒の採用を増やすことも選択肢となる。こうした人材には入社後あまり時間を置かずに仕事をアサインし、短期間での成長を促すことも考えられる。

上述のとおり、一流企業ほど新卒採用のストライクゾーンが狭い傾向があるが、均質的な人材ばかりを採用することはダイバーシティの流れにも逆行し、中長期的には経営上のリスクにもなり得る。こうした企業は採用のストライクゾーンを広げ、多様なタイプの人材に門戸を開くべきだろう。そもそもこのような人材をマネジメントできる度量、人事システムがない企業が今後生き残っていくことは難しいと言えそうだ。