ESG投資を提唱した国連の責任投資原則に署名(2015年9月16日付)し、今夏(2017年)には日本株ESG指数の公表を予定するなど、ESGに積極的に取り組むGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)だが、こうした中でGPIFに降りかかったのが、クラスター弾を製造する米国テキストロン社の株式保有問題だ。この問題は、民進党の長妻昭議員による政府への質問により表面化した。
責任投資原則 : 機関投資家に対し、投資判断プロセスにESGを反映することや、投資対象企業にESGに関する情報開示を求めることなどを提唱するもの。これに署名した機関投資家は、国連に投資の状況を報告する義務が生じるため、ESGを重視した投資を実践せざるを得ない。PRI(Principles for Responsible Investment)と言われることも多い。
GPIF : 年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund)。厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。
クラスター弾 : 親爆弾に大量の子爆弾が詰められ、被害が広い範囲に及ぶうえに不発弾として残ることも多いことから、非人道的兵器に位置付けられている。2010年8月にはクラスター弾の使用や保有、製造を全面的に禁止する条約が発効しており、日本も同条約に署名している。
これに対し政府は、(1)GPIFによる株式への投資は運用会社等との「投資一任契約」によることが義務付けられており(年金積立金管理運用独立行政法人法施行令3条)、テキストロン社株への投資もこの投資一任契約に基づき、GPIFが委託した運用機関によるパッシブ運用の一環で行われたものに過ぎない、(2)2009年に成立した「クラスター弾等の製造の禁止及び所持の規制等に関する法律」では、クラスター弾の製造の禁止や所持等の制限について定めているものの、クラスター弾を製造している外国企業の株式を保有することを禁止しているものではない、などと回答している。
パッシブ運用 : パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。
ただ、この回答に対しては、GPIFからESG投資へのプレッシャーを受ける運用会社やその先にいる企業から疑問の声も聞こえてくる。GPIFに対しては各メディアによるネガティブな報道やインターネット上の批判的な書き込みが相次いだが、同じようなことは企業年金基金にも起こり得るからだ。もし企業年金基金がGPIFと同じような投資を行えば、クラスター弾の製造に加担しているとみなされ、母体企業のレピュテーションに悪影響を及ぼす可能性がある。国内の一部の運用会社は、アクティブ運用については、上記「クラスター弾等の製造の禁止及び所持の規制等に関する法律」が制定された際に、クラスター弾を製造する企業を投資対象から外す対策をとった。しかしその一方で、パッシブ運用については、クラスター弾を製造する外国企業がベンチマークとする指数に採用されている以上、そのような企業が投資先に紛れ込んでしまうリスクは残る。企業年金の母体企業は、自社の企業年金が運用会社に対してどのような方針を示しているか、一度チェックしてみるべきだろう。
2017年4月に東京証券取引所で開催された「RI Asia 2017」(RIとは「Responsible Investor(責任ある投資家)」の略)では、国際的なNGO機関が、森林破壊や詐取、児童労働について日本企業や大手金融機関、アセットオーナーを名指しする場面が見られた。日本企業の中でもこうした時代の流れに敏感に反応するところは出てきており、例えばファーストリテイリングは、自社の事業において特に地球環境および社会への影響と責任が大きい分野として「サプライチェーン」「商品」「店舗とコミュニティ」「従業員」の4つを挙げ、これらの領域における持続可能性実現に向けた取り組みを推進する指針となる「ファーストリテイリンググループ サステナビリティポリシー」を制定するとともに、サプライチェーンの透明性を高め、環境と人権問題への責任を果していくことを目的に、ユニクロの主要取引先縫製工場のリストを公開している。「サステナビリティ(持続可能性)」というと、残念ながら未だに“絵空事”のようにとらえている経営者もいるのが現実だが、それへの取組みを怠れば、レピュテーションリスクや経営問題にも発展し得るということを、今回のクラスター弾問題を機に改めて認識しておきたいところだ。