2017/06/14 相談役・顧問への風当たり強く・・・業務内容等の開示制度導入へ

東芝問題では、相談役・顧問の圧力や存在そのものが現経営陣の意思決定に影響を与え、それが経営危機の遠因になったと言われている。東芝に限らず、相談役・顧問を置く上場企業は重厚長大産業や金融機関を中心に幅広く見受けられ、その実態も不透明であることが少なくない。それゆえ、相談役・顧問に対する投資家の視線は厳しい。

投資家の不満は、相談役・顧問の選任に株主の議決権が及ばないことにある。こうした中、議決権行使助言最大手のISSは、今年(2017年)から、相談役制度の新設に対して、相談役が取締役の役職として提案される場合を除き()、原則として反対を推奨する方針を示しているところだ。

相談役制度 : 「相談役」に限らず、顧問、名誉会長、ファウンダーなど活動の実態が見えにくい名誉職的なポストを含む。

 この場合、株主は取締役の選任議案に対して議決権を行使できるため。

相談役・顧問制度は株主総会でも争点化している。武田薬品工業(3月決算)の定時株主総会では、最近5年間の平均ROEが約3.0%に過ぎなかったとして、株主15名が相談役・顧問の設置に制限を課すために以下の「定款変更議案」を提案している。

武田薬品工業における株主提案の定款変更議案
現行定款(2016年6月29日改正)の第16条の2(相談役・顧問等の設置及び選任)として下記の文言を新たに追加する。
「1.当会社は、原則として相談役又は顧問等当会社の業務一般又は特定の業務について代表取締役の諮問に応ずることを職務内容とする役職を置かない。新たにこれを設置しようとする場合には、相談役・顧問等の設置に関する議案を株主総会に付議し、株主総会に於ける事前の決議を要することとする。
2.当会社が、前項の株主総会の決議により相談役・顧問等を設置した場合には、相談役・顧問等を選任するためには具体的な相談役候補者名の議案を株主総会に付議し、株主総会に於ける事前の決議を要することとする。」

同社は株主総会終了後に現取締役会長を相談役に任命する予定であり、今回の株主提案はこれを阻止するために行われたもの。一方、同社の取締役会は上記株主提案に反対することを表明しており、予定どおり現取締役会長を相談役に任命するとの姿勢を崩していない。折しも、スチュワードシップ・コードの改訂で機関投資家の議決権行使結果の個別開示がスタートしたばかり(改訂スチュワードシップ・コードの詳細は「議決権行使結果個別開示、“穏便な”コンプライは認められず」参照)であり、ISSも株主提案を賛成推奨している模様だ。

機関投資家が本株主提案に対してどのような判断をするのか注目されるところだが、機関投資家の判断に影響を与えかねないもう一つの動きが、・・・

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2017/06/14 相談役・顧問への風当たり強く・・・業務内容等の開示制度導入へ(会員限定)

東芝問題では、相談役・顧問の圧力や存在そのものが現経営陣の意思決定に影響を与え、それが経営危機の遠因になったと言われている。東芝に限らず、相談役・顧問を置く上場企業は重厚長大産業や金融機関を中心に幅広く見受けられ、その実態も不透明であることが少なくない。それゆえ、相談役・顧問に対する投資家の視線は厳しい。

投資家の不満は、相談役・顧問の選任に株主の議決権が及ばないことにある。こうした中、議決権行使助言最大手のISSは、今年(2017年)から、相談役制度の新設に対して、相談役が取締役の役職として提案される場合を除き()、原則として反対を推奨する方針を示しているところだ。

相談役制度 : 「相談役」に限らず、顧問、名誉会長、ファウンダーなど活動の実態が見えにくい名誉職的なポストを含む。

 この場合、株主は取締役の選任議案に対して議決権を行使できるため。

相談役・顧問制度は株主総会でも争点化している。武田薬品工業(3月決算)の定時株主総会では、最近5年間の平均ROEが約3.0%に過ぎなかったとして、株主15名が相談役・顧問の設置に制限を課すために以下の「定款変更議案」を提案している。

武田薬品工業における株主提案の定款変更議案
現行定款(2016年6月29日改正)の第16条の2(相談役・顧問等の設置及び選任)として下記の文言を新たに追加する。
「1.当会社は、原則として相談役又は顧問等当会社の業務一般又は特定の業務について代表取締役の諮問に応ずることを職務内容とする役職を置かない。新たにこれを設置しようとする場合には、相談役・顧問等の設置に関する議案を株主総会に付議し、株主総会に於ける事前の決議を要することとする。
2.当会社が、前項の株主総会の決議により相談役・顧問等を設置した場合には、相談役・顧問等を選任するためには具体的な相談役候補者名の議案を株主総会に付議し、株主総会に於ける事前の決議を要することとする。」

同社は株主総会終了後に現取締役会長を相談役に任命する予定であり、今回の株主提案はこれを阻止するために行われたもの。一方、同社の取締役会は上記株主提案に反対することを表明しており、予定どおり現取締役会長を相談役に任命するとの姿勢を崩していない。折しも、スチュワードシップ・コードの改訂で機関投資家の議決権行使結果の個別開示がスタートしたばかり(改訂スチュワードシップ・コードの詳細は「議決権行使結果個別開示、“穏便な”コンプライは認められず」参照)であり、ISSも株主提案を賛成推奨している模様だ。

機関投資家が本株主提案に対してどのような判断をするのか注目されるところだが、機関投資家の判断に影響を与えかねないもう一つの動きが、政府の成長戦略だ。先週末(2017年6月9日)に公表された「未来投資戦略 2017」(案)の115ページには、下記のとおり、2018年から相談役・顧問の氏名・業務内容を(コーポレート・ガバナンス報告書で)開示対象とするとの方針が盛り込まれている。

相談役、顧問等について、氏名、役職・地位、業務内容等を開示する制度を株式会社東京証券取引所において本年夏頃を目途に創設し、来年初頭を目途に実施する。

ここで気になるのは、上記「業務内容等」における「等」に何が含まれるのかという点だ。特に報酬等(金銭報酬、専用車や個室等の非金銭報酬)が含まれるのか否かについては相談役や顧問等を置く企業はもちろん、投資家の関心も高い。

もっとも、この話は今回唐突に出てきたわけではない。あくまで経済産業省が3月にとりまとめたCGSレポートの延長線上にある話であり(2017年2月15日のニュース「相談役・顧問の人数、役割、処遇に開示圧力」参照)、今回はそれがいよいよ開示制度として実現するということだ。東芝事件に象徴されるように、相談役・顧問制度は日本企業のガバナンスの不透明さの大きな原因の一つであり、それを“見える化”する今回の取り組みは政府が進めるコーポレートガバナンス改革の“本丸”と言える。相談役・顧問制度を採用している上場企業は、自社の相談役・顧問の業務内容が開示に耐えられる(=投資家に納得してもらえる)ものかどうか、至急点検しておく必要があろう。

2017/06/13 委員会は3つでは少ない?

政府が進めるコーポレートガバナンス改革では、取締役会で審議するアジェンダの絞り込みが大きなテーマの一つとなっている。重要性が低い事項まで取締役会で審議しなければならないとすると、機動的な業務執行の決定が難しくなるのみならず、必ずしも会社の事業内容に精通しているわけではない社外取締役の負担にもなるからだ(2017年4月27日 法務省、ガバナンスに関する会社法の見直しに着手 、2016年9月30日 取締役会の決議事項を減らす方法、2015年7月1日 「重要な財産=総資産の1%」という常識が変わる、2015年6月26日 政府の成長戦略で、取締役会への上程事項の範囲限定へ参照)。

ただ、取締役会のアジェンダを減らすことに対してはガバナンスの専門家の間でも慎重論がある。これは、「アジェンダの削減」という“錦の御旗”が隠れ蓑となり、本来は取締役会で議論すべきことが取締役会に上がって来なくなる恐れがあるため。実際、欧米企業を見ると、取締役会のアジェンダは日本企業よりも多い。それを可能にするのが、・・・

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2017/06/13 委員会は3つでは少ない?(会員限定)

政府が進めるコーポレートガバナンス改革では、取締役会で審議するアジェンダの絞り込みが大きなテーマの一つとなっている。重要性が低い事項まで取締役会で審議しなければならないとすると、機動的な業務執行の決定が難しくなるのみならず、必ずしも会社の事業内容に精通しているわけではない社外取締役の負担にもなるからだ(2017年4月27日 法務省、ガバナンスに関する会社法の見直しに着手 、2016年9月30日 取締役会の決議事項を減らす方法、2015年7月1日 「重要な財産=総資産の1%」という常識が変わる、2015年6月26日 政府の成長戦略で、取締役会への上程事項の範囲限定へ参照)。

ただ、取締役会のアジェンダを減らすことに対してはガバナンスの専門家の間でも慎重論がある。これは、「アジェンダの削減」という“錦の御旗”が隠れ蓑となり、本来は取締役会で議論すべきことが取締役会に上がって来なくなる恐れがあるため。実際、欧米企業を見ると、取締役会のアジェンダは日本企業よりも多い。それを可能にするのが、取締役会の中に設置される「委員会」である。

日本企業で委員会というと、「監査委員会」「指名委員会」「報酬委員会」(いずれも任意のものを含む )の3つが一般的だが、欧米企業では6つ程度の委員会が存在するケースが少なくない。よく見受けられるのが、CSR委員会、ESG委員会、ファイナンス委員会(事業の財務政策、IRなどを検討)などである。そして、社外取締役はその専門分野に応じて各委員会のメンバーとなっている。欧米企業で社外取締役の数が多い理由はここにもある。

例えば「不祥事」などは取締役会のアジェンダとして、CSR委員会等で議論される。ある世界的な鉱山会社では、メーカー出身の安全管理の専門家を社外取締役に招聘して(取締役会の)安全性委員会に入ってもらい、事故率等をウォッチする。また、バングラデシュに工場を持つあるアパレル企業は、児童労働の有無について、労働問題の専門家である社外取締役がメンバーに入るCSR委員会で検討する。社外取締役は単に報告を受けるだけでなく、実際に現地に出向いて調査も行う。欧米企業の取締役会は回数が少ないとも言われるが、こうした委員会の活動も入れると、1人の社外取締役が年間で二百数十時間を費やすことも珍しくないという。これは日本企業の社外取締役の5~6倍になるとの説もある。

政府は(2017年)6月9日に「未来投資戦略2017(案)」を公表し、その中で「コーポレートガバナンス改革を形式から実質へ」とのスローガンを掲げている。そこには「戦略等を重視した取締役会の運営」も挙げられているが(「未来投資戦略2017」(ポイント)(案)32ページ 参照)、単に取締役会のアジェンダを減らせばそれが実現するというものではないだろう。取締役会本体で議論するアジェンダは絞り込むとしても、専門知識を持った社外取締役がメンバーとなっている委員会等によって議論すべきものはするということが「実質」を確保するうえでは必要になると考えられる。いずれ日本でも3つの委員会があるのは当たり前で、プラスαの委員会設置が求められる時代に入っていくことになろう。

2017/06/12 会計基準の改正で「財務の安全性」への評価が悪化も

企業の財務の安全性を計る財務指標として代表的なものに「流動比率」がある。流動比率は、貸借対照表(B/S)上の流動負債(1年以内に支払わなければならない負債)を流動資産(流動負債の支払いに回すことができる資産)がどの程度上回っているか(あるいはどの程度下回っているか)を示す指標であり、流動比率が高い企業ほど財務の安全性が高いと評価される。算定式は下記のとおり。

財務の安全性 : 債務支払い能力

流動比率の算定式
流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100

この流動比率に影響を与える「税効果会計基準」の改正案が、2017年6月6日に企業会計基準委員会(ASBJ)から公表されている。この改正により流動比率が悪化(=財務の安全性への評価が悪化)し、対策が求められる企業も出てくるだけに、上場企業の役員としては改正の概要をチェックしておきたいところだ(税効果会計を良く理解できていない場合は、まず(新用語・難解用語)資産負債法を参照)。

今回の改正のポイントは、・・・

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2017/06/12 会計基準の改正で「財務の安全性」への評価が悪化も(会員限定)

企業の財務の安全性を計る財務指標として代表的なものに「流動比率」がある。流動比率は、貸借対照表(B/S)上の流動負債(1年以内に支払わなければならない負債)を流動資産(流動負債の支払いに回すことができる資産)がどの程度上回っているか(あるいはどの程度下回っているか)を示す指標であり、流動比率が高い企業ほど財務の安全性が高いと評価される。算定式は下記のとおり。

財務の安全性 : 債務支払い能力

流動比率の算定式
流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100

この流動比率に影響を与える「税効果会計基準」の改正案が、2017年6月6日に企業会計基準委員会(ASBJ)から公表されている。この改正により流動比率が悪化(=財務の安全性への評価が悪化)し、対策が求められる企業も出てくるだけに、上場企業の役員としては改正の概要をチェックしておきたいところだ(税効果会計を良く理解できていない場合は、まず(新用語・難解用語)資産負債法を参照)。

今回の改正のポイントは、税効果会計により計上される「繰延税金資産」「繰延税金負債」が、上記算式でも示した「流動資産」「流動負債」に該当しなくなるという点にある。

「繰延税金資産」「繰延税金負債」も資産・負債の一つである以上、貸借対照表(B/S)に計上する必要がある。B/Sのどこに表示するのかは、現在の税効果会計基準では、計上時点における原資産・原負債の表示に従うことになっている。例えば、賞与引当金は「流動負債」に計上されるため、賞与引当金に関する繰延税金資産も同じ流動区分である「流動資産」に計上し、退職給付引当金は「固定負債」に計上されるため、退職給付引当金に関する繰延税金資産も同じ非流動区分である「固定資産」(正確には固定資産の中の「投資その他の資産」)に計上するといった具合だ(下図参照)。

28538a

これに対し税効果会計基準改正案では、繰延税金資産は「固定資産」の「投資その他の資産」の区分に表示し、繰延税金負債は「固定負債」に表示することとされた。つまり、現行会計基準のように、繰延税金資産が「流動資産」に計上されることも、繰延税金負債が「流動負債」に計上されることもなくなるということだ。例えば上記の賞与引当金に関する繰延税金資産は、「流動資産」ではなく「固定資産」の「投資その他の資産」の区分に計上することになる。

このような改正案が提案された理由としては、繰延税金資産は流動資産のように“換金性”のある資産ではないことや、国際財務報告基準(IFRS)や米国会計基準でも繰延税金資産および繰延税金負債は非流動区分(固定資産・固定負債)として表示するため、国際的な会計基準と整合性を図ったということなどがある。

繰延税金資産および繰延税金負債をすべて「固定資産」「固定負債」といった非流動区分に表示することになれば、現在のように繰延税金資産を「流動資産」と「固定資産」に、また、繰延税金負債を「流動負債」と「固定負債」に分けて繰延税金資産・負債を算定する必要がなくなるため、自社の経理担当者の負担は軽減されることになるが、その一方で、企業によっては、経営陣は流動比率の悪化(=財務の安全性への評価が悪化)に頭を悩ませなければならないかもしれない。税効果会計基準の改正によって従来は流動資産に計上されていた繰延税金資産が減れば、上記算式の分母が小さくなり、流動比率が悪化することになるからだ。逆に、繰延税金負債を計上している企業は、従来は流動負債に計上されていた繰延税金負債が減ることにより上記算式の分子が小さくなり、流動比率が改善することになるが、一般的には繰延税金負債ではなく繰延税金資産を計上する企業が多い()ため、税効果会計基準が改正されれば、流動比率が悪化する企業の方が多いということになる。

 繰延税金資産の方が繰延税金負債よりも多ければ、繰延税金資産として表示されることになる。ほとんどの引当金や建物の減損損失のように、会計上の費用ではあるが税務上の損金にはならないもの(の税金相当額)については、将来損金になるときまで「繰延税金資産」として繰り越すことになる。したがって、一般的には繰延税金負債ではなく繰延税金資産を計上する企業が多い。

企業会計基準委員会(ASBJ)の調べによると、税効果会計基準の改正が上場企業に与える影響は次のとおり。
※TOPIX の構成銘柄1,935社のうち日本基準で連結財務諸表を作成している上場企業1,838社について、「流動区分」に表示している繰延税金資産および繰延負債をすべて「固定区分」に分類したと仮定した場合における「流動比率(横軸)」と「旧流動比率からの変動幅(縦軸)」をクロス集計。

28538b

第338回企業会計基準委員会審議事項(5)-2の資料を参考に作成>

上表が示すとおり、税効果会計基準の改正により流動比率が10%以上も動く上場企業は決して少なくない(92社、全体の5%)。流動資産に占める繰延税金資産の金額の割合が大きい企業ほど、「流動比率の悪化」というマイナスの影響が強く働くことになることになる。そのような企業の経営陣は、借入金の借換えによって借入期間を長期化(これにより流動負債が減少し、上記算式における分母が小さくなる)するなど、流動比率を改善するための策を検討することも求められよう。

改正後の税効果会計基準は、2018年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用される見込み(ただし、改正税効果会計基準の公表日(未定)以後最初に終了する連結会計年度および事業年度の年度末に係る連結財務諸表および個別財務諸表から早期適用ができる)。3月決算企業の第1四半期を想定すると、残された時間はあと約1年となる。税効果会計基準の改正が自社に与える影響を早めに検証しておきたいところだ。

2017/06/09 社外取締役の“期差就任”がもたらす効果(会員限定)

コーポレートガバナンス・コードが「2名以上」の独立社外取締役の選任を求めている(原則4-8)ことを踏まえ、既に東証一部・二部上場企業のおよそ8割が複数の社外取締役を選任している(東証による最新の調査結果はこちら)。形式的には日本企業のガバナンス体制も欧米企業に近づいたと言えるものの、いまだ大きく異なるのが、社外取締役の在任期間だ。

欧米企業では一人の社外取締役の在任期間が8年間程度に及ぶことが多い。これは業務執行等を行わない社外取締役がその会社について深く理解するのは容易なことではなく、相応の年数を要すると考えられていることによる。一方、日本の社外取締役の在任期間は3~4年にとどまるのが通常。在任期間が長くなると馴れ合いが生じるというのが主な理由だが、これに対し「短すぎる」と指摘する投資家は少なくない。社外取締役が会社に精通していなければ、社内取締役への牽制効果も弱まる。今後は日本でも社外取締役の在任期間をもっと長くするよう求める声が高まっていくだろう。

もう一つ、社外取締役による牽制効果を高めるために欧米企業で行われている工夫が、類似したバックグラウンドを持つ(複数の)社外取締役の期差就任(就任時期を意図的にずらすこと)だ。例えば会計系のバックグラウンドを持つ社外取締役が在任4年を経過したタイミングでもう一人同じバックグラウンドの社外取締役を選任するというパターンである。就任間もない社外取締役は会社について十分な知識がない。しかし、既に4年間在任した社外取締役がいれば大きな問題は生じない。そして、この取締役が退任する頃(在任期間を8年間とすれば4年後)には、後から就任した社外取締役も“円熟期”を迎えているというわけだ。欧米企業では、このような会社に精通した社外取締役が取締役会議長を務めるケースも多い。

期差就任というと、買収防衛策としての「スタッガード ・ボード(期差任期制度)」を思い浮かべる向きもあろう(スタッガード ・ボードについては、ケーススタディ「買収防衛策の導入(継続)議案に、より多くの賛成票を得たい」の「「濫用的な買収行為」でなければ買収の成否は資本市場に委ねられる」の図表参照)。 スタッガード ・ボードについてISSは「買収防衛策として使われるおそれがある」とし、原則として反対の方針を示しているが、本稿における期差就任は複数回の再任を前提とした長期スパンの取締役採用方針であり、また社外取締役に限定したものであるため、スタッガード ・ボードとは異なる。

今のところ日本企業の社外取締役数は欧米企業に比べ少ないが、今後はさらなる増員を求められる可能性が高い。また、ゆくゆくは英国コーポレートガバナンス・コードのような「取締役会議長(Chairman)と最高経営責任者(CEO)の分離」が求められることも予想される中(2016年10月25日のニュース「英国企業における「取締役会議長」の重み」参照)、取締役会議長を務められる社外取締役を育てるという観点からも、日本企業にとって、社外取締役の期差就任は参考にしたい取り組みと言えそうだ。

2017/06/09 社外取締役の“期差就任”がもたらす効果

コーポレートガバナンス・コードが「2名以上」の独立社外取締役の選任を求めている(原則4-8)ことを踏まえ、既に東証一部・二部上場企業のおよそ8割が複数の社外取締役を選任している(東証による最新の調査結果はこちら)。形式的には日本企業のガバナンス体制も欧米企業に近づいたと言えるものの、いまだ大きく異なるのが、・・・

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2017/06/08 海外展開する日本企業に朗報(会員限定)

日本企業の海外展開に大きな影響を与えかねない訴訟が現在進行している。自動車部品大手のデンソーによる税務訴訟がそれだ(デンソーのリリースはこちら)。この訴訟については、2016年3月31日掲載の新用語・難解用語辞典「地域統括会社」でも紹介したところが、上記デンソーのリリースにもあるとおり、新たな展開を見せているので続報したい。

まず事件の概要をおさらいしておこう。

日本企業が海外に進出する場合、複数の現地法人を展開することが多いが、こうした現地法人の管理部門(経理、人事、法務など)やITインフラなどをひとめとめにしてコスト削減を図ったり、意思決定を一本化したりする観点から、海外子会社として設立されるのが「地域統括会社」だ。地域統括会社は海外現地法人を傘下に置くことから、中間持株会社のような位置付けとなる。デンソーの訴訟では、この地域統括会社の所得への課税が問題となっている。

中間持株会社 : 親会社の傘下で、類似した業種の複数の子会社を統括する会社のこと。

日本の法人税法では、税率の低い国(軽課税国)に設立した子会社に所得を集中させ日本の親会社の課税所得を圧縮するという課税逃れを防止するため、軽課税国にある子会社の所得金額を日本の親会社の所得とみなして課税する「タックス・ヘイブン対策税制(ヘイブン(Haven)とは「避難所」という意味)」が設けられている。以前、地域統括会社はタックス・ヘイブン対策税制の対象だったが、平成22年度税制改正により“条件付き”で同税制の対象から除外されている(この税制改正の結果、海外に地域統括会社を設立する日本企業が急増)。

この「条件」の一つに、地域統括会社の「主たる事業」が「株式保有業でないこと」というものがある。「株式保有業であればわざわざ海外に地域統括会社を創る必要はない。本当の目的は節税でしょう?」という疑念がこの条件が設けられた背景にある。デンソーの訴訟では、同社の地域統括会社が「株式保有業」に当たるか否かが問題となっている。国税当局は、「地域統括会社の収入や所得金額に」占める「株式保有業による収入や所得金額」の割合が高いとの理由によってデンソーの地域統括会社の「主たる事業」は「株式保有業」であるとの課税処分(地域統括会社の所得をデンソーの所得とみなして課税)を下した。これに対し、デンソーはこの課税処分を不服として税務訴訟を提起、株式保有業に該当するかどうかは「収入金額や所得金額」だけでなく「事業活動に要する使用人の数、事務所、店舗、工場といった固定施設の状況等を総合的に勘案して判定すべき」との主張を展開している。

実はデンソーは「二つ」の訴訟を戦っている。といっても、その中身は同じであり、課税を受けた時期のみが異なる。一つは「平成20年・21年3月期への課税処分(以下、第一次訴訟)」、もう一つは「平成22年、23年3月期への課税処分(以下、第二次訴訟)」であり、前者は平成2011年8月、後者は2014年6月に提起されている。2016年3月31日掲載の新用語・難解用語辞典「地域統括会社」で紹介したのは、このうち前者の高裁判決である。

この高裁判決は国の主張を全面的に認めるものとなっており(デンソーが敗訴)、海外展開を考える企業や、地域統括会社がM&Aにより海外現地法人の株式を売却することを検討している企業(株式売却の結果、一時的に大きな株式売却益が計上され、「株式保有業」に該当する恐れがある)にとっては大きな衝撃となった。現在、第一次訴訟は最高裁で争われており、海外展開する企業はその行方に注目しているが、こうした中、第二次訴訟の地裁判決が今年出されている。上記でも触れたデンソーのリリースのとおり、この地裁判決は先行する高裁判決でデンソーを敗訴させる判決が下っているにもかかわらず、一転してデンソーの主張を認めるものであった(国が敗訴)。この地裁判決から予想されるのは、上記高裁判決が最高裁で覆るということだ。元々専門家の間では日本企業の海外展開に水を差しかねない高裁判決を疑問視する声があり、実際、この高裁判決が確定すれば、企業の海外展開に大きな(ネガティブな)影響を与えることになるのは間違いない。その意味で、今回の地裁判決は企業にとっては朗報と言えそうだ。