2017/05/24 社外取締役の兼務は何社まで許されるか?(会員限定)

コーポレートガバナンス・コードは、上場会社は「独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべき」(原則4-8.)としているが、多くの上場会社がその人選に頭を悩ませてきた(独立役員の定義は2014年12月26日のニュース『「社外取締役」と「独立社外取締役」の違い、明確に説明できますか?』参照)。コードでは、社外取締役に「取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物」(原則4-9.)という資質が求められているものの、経営内部における“和”を尊重する観点からは、どれだけ有能であっても撹乱要因となるおそれがある人物を選定することは、企業実務の現実としてはありえない。通常は、自社との相性や公的活動や他社での活動を通じた評判を参考にしつつ、自社の取締役会構成のあり方や求められる技倆、ダイバーシティなどを考慮して、候補者を選定することになろう。その結果、複数の上場会社で社外取締役や社外監査役を兼務する“有名人”が出てくる。

コードでは兼職に関しては触れられていないが、当局の非公式見解(2015年3月10日のニュース「社外役員の兼任社数の上限は?」参照)やグラスルイスの2017年議決権行使方針(2017年2月10日のニュース 『「会長」の社外役員兼職は何社までOK?』参照)等においては、兼務社数が多いケースに対し否定的な意見が示されている。実際、かつて我が国のある小売企業グループで親会社社長が複数のグループ会社において取締役を兼務していたところ、出席率や貢献度合いについて機関投資家から疑念を持たれた事例もある。

フランス版コーポレートガバナンス・コード(AFEP-MEDEFコード)は、「取締役は必要な時間と注意を自らの職責に注ぐべきである」と定める。そして、業務執行取締役については「自らのグループの系列ではない他の上場会社(外国会社を含む)の2社以上」、非業務執行取締役については「自らのグループの系列ではない他の上場会社(外国会社を含む)の4社を超えて」、取締役に就任してはならないと明記する(同コード19)。そのため、これを超えて兼務する取締役については、年次報告書において具体的な兼務先を含めてその旨が開示される。欧州企業の場合、欧州域内での人材市場の流動性が高まっていることもあり、兼務社数の算定においてはフランス企業以外の海外企業における兼務も考慮される。

優秀な人材を確保するという観点からは、特定の者が複数社で社外取締役を兼務することはあり得る。しかし、フランス版コードにあるように、能力とともに、「時間」と「注意」という物理的な貢献度合いも、取締役会の実効性の重要な要素である。現状、社外取締役の兼務社数は機関投資家の議決権行使に影響を与える問題にはされていないとはいえ、上場会社が社外取締役を選定する際には考慮する必要があるだろう。

2017/05/23 2017年1月以降に発生した会計不祥事

株式会社イグニス 取締役監査等委員長
日本公認会計士協会 組織内会計士協議会 委員
公認会計士 大杉 泉

2015年に発覚した東芝問題は混迷を極めているが、実は東芝問題が表面化してからも相当数の会計不祥事が発生している。本稿では2017年1月以降に発生した会計不祥事のうち話題性の高いものを紹介し、これらの傾向や原因を分析したうえで、防止策を検討してみたい。・・・

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2017/05/23 2017年1月以降に発生した会計不祥事(会員限定)

株式会社イグニス 取締役監査等委員長
日本公認会計士協会 組織内会計士協議会 委員
公認会計士 大杉 泉

2015年に発覚した東芝問題は混迷を極めているが、実は東芝問題が表面化してからも相当数の会計不祥事が発生している。本稿では2017年1月以降に発生した会計不祥事のうち話題性の高いものを紹介し、これらの傾向や原因を分析したうえで、防止策を検討してみたい。

※以下の事例は、2017年1月以降に発覚した不祥事を報道資料、適時開示等から集めたものである。不正の年数、金額はおおよその数値であり、不祥事の内容には一部筆者の推定が含まれる。

■丸紅紙パルプ販売(丸紅の子会社)
不祥事の内容:財経部長が口座管理者の立場を利用し16年に渡り横領
不正の年数:16年
金額:3億6,000万円

■日清食品
不祥事の内容:社員が取引先からキックバックを受ける形で6年に渡り横領
不正の年数:6年
金額:1億円

■ビー・インターナショナル(昭和電工の孫会社)
不祥事の内容:売上の70%に及ぶ資金循環取引による粉飾
不正の年数:4年以上
金額:170億円(売上高)

■Fuji Xerox New Zealand Limited(富士フイルムグループで富士ゼロックスの販売子会社)
不祥事の内容:架空売上の計上による粉飾
不正の年数:2年以上
金額:220億円(当期純利益)

■ファインライフ(三菱食品の子会社(三菱商事グループ))
不祥事の内容:執行役員が請求書を偽造する手口で約10年に渡り横領
不正の年数:約10年
金額:10億円

■アピックヤマダ
不祥事の内容:来期に計上すべき売上を当期に計上(売上の前倒し)による粉飾
※内部告発で発覚
不正の年数:不明
金額:不明

■ニッコー
不祥事の内容:工事完成基準に基づくべき売上を前倒し計上することによる粉飾
不正の年数:不明
金額:不明

■スカパーJSAT
不祥事の内容:一部イベントでの仕入事実と支出内容の適正性に対する疑義
不正の年数:不明
金額:不明

■AKIBAホールディングス
不祥事の内容:取締役による架空売上計上(粉飾)及び不正支出(横領)
不正の年数:約1年
金額:不明

■ピーシーデポ
不祥事の内容:売掛金の消込漏れ、売上の二重計上による粉飾
※会社は「誤謬」と発表
不正の年数:約6年
金額:各年度3千万円~6億円(売掛金)

■三井不動産リフォーム(三井不動産の子会社)
不祥事の内容:費用の先送り、売上の前倒し計上による粉飾
※内部告発により発覚
不正の年数:約2年
金額:10億円(営業利益)

資金循環取引 : 特定の関係者の間で利益を乗せて売買を繰り返す取引。経済的実態の伴わない取引であり、最終的には関係者の利益が乗った高値で買い戻す必要があるため、粉飾取引の一つに位置付けられている。
工事完成基準 : 工事が完成して相手方に引渡しを行った時点で一時に収益を計上する方法を工事完成基準という。これに対し、工事の完成度合いに応じて収益を見積もり計上していく会計方針が工事進行基準である。

以上の事例を見ると、以下の事項が特徴として挙げられる。

①“超”大手企業の子会社、孫会社での不正が多い
②長期に渡る不正が多い
③粉飾の手口は売上を操作するものが多い

大企業の子会社、孫会社は連結グループの一員として財務諸表を作成し、監査を受けることになるため、どうしても監査が手薄になりやすい。小規模の子会社・孫会社となればなおさらである。これが①大企業の子会社・孫会社での不正が多い理由の一つと考えられる。②長期に渡る不正が多いのも同様の理由によるものと言えよう。監査の深度が浅かったり、そもそも監査に入る機会が少なかったことが考えられる。また、担当者が長期に渡り異動しなかったことも一因であろう。③売上を操作するものが多いのは、粉飾の手口として容易だからだと思われるが、具体的な手法は様々となっている。循環取引のように取引先等との共謀が前提となるものもあれば、共謀なく行っているケースもある。各種証憑を担当者が偽造しているケースも見られるが、偽造が精巧な場合は内部統制や監査をすり抜けてしまうこともある。これらの原因を踏まえると、会計不正を防止するためには、子会社の管理体制(監査の深度など)や人事制度(人事異動の間隔など)を再確認するおくことが有効と言えそうだ。

このほか「内部告発」により発覚した事例が2件あったことも特筆すべきだろう。「内部告発」とは報道上の文言であり、正確には「内部通報」だった可能性もあるが、1件は銀行等への告発だったとのことであり、文字通り内部告発であった模様。いずれにせよ、内部からの情報提供が不正発見に有効であることを改めて確認できる事例と言える。会計不正を未然に防ぐためには、自社の内部通報制度の整備状況、運用状況も再度確認するべきであろう。

2017/05/23 【6月9日(金)開催】ウイリス・タワーズワトソン 経営者報酬セミナー「関連法規制(会社法・会計・税務)の横断的整理と実務上の対応例」開催のお知らせ

当フォーラムでもしばしばセミナーにご登壇いただいたりご寄稿いただいたりしている役員報酬コンサルティング等で世界的に著名なウイリス・タワーズワトソンが「関連法規制(会社法・会計・税務)の横断的整理と実務上の対応例」と題するセミナーを開催します。近年、中長期的な業績と連動する報酬や株式報酬の導入を可能とするため、会社法の解釈明確化や税制改正が実施され、それが会計や開示にも影響しています。
本セミナーは、これらを横断的に整理するとともに、実務で特に論点となるものをケーススタディ形式で解説するという、上場企業にとっては必見の内容となっています。
当フォーラムにも開催のご案内をいただいておりますので、参加をご希望の方は下記よりお申込みください。

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2017/05/22 英国では運用機関を“格付け” 日本企業に迫るシビアな議決権行使(会員限定)

近く実施されるスチュワードシップ・コードの改訂により、いよいよ議決権行使結果の個別開示がスタートするが、その“前哨戦”は既に始まっている(スチュワードシップ・コードの改訂内容については2017年3月29日のニュース『企業への影響は? 日本版スチュワードシップ・コード改訂案の全容』を参照)。12月決算会社の2017年3月株主総会を見ると、工作機械大手のDMG森精機が上程した自社の財団を実質的な対象とする自己株式の第三者割当を図る議案が特別決議に必要な「2/3以上」をわずかに上回る67.02%の賛成率でかろうじて可決されたほか(詳細は2017年4月18日のニュース『「財団への第三者割当」を巡る投資家目線の論点』参照)、旭硝子では、石村和彦 代表取締役会長の選任議案への賛成率が77.49%にとどまった(同社の臨時報告書3ページ参照。ちなみに、過去の賛成率は2014年が94.24%、2015年が90.82%、2016年が79.81%)。社長就任(2010年1月~。会長就任は2015年1月~)後、ROEが大きく低下したことが原因とも言われている(同社のROEの推移はこちら)。議決権行使結果の個別開示が義務付けられれば、会長の選任議案に対する反対票が増える可能性が高い。3月決算会社の6月総会でも同様の傾向が見られるだろう。

一時は有識者から「見送られるのでは?」との観測も聞かれた個別開示の導入が決まった背景には、運用会社の「利益相反」(利益相反の具体例はこちらを参照 )に対する金融庁の強い問題意識がある。金融庁の森信親長官が先月4月7日に日本証券アナリスト協会で行った「日本の資産運用業界へ期待」と題する講演 での発言がそれを示している。この講演には二つの重要なメッセージが含まれる。一つは、運用会社の親会社である金融機関(証券、銀行、保険など)からの天下り人事への警告だ。森長官は、欧米の運用者が「究極の実力本位」になっていることと対比する形で、下記のように述べている(6ページの一番最後の段落)。

それと比べて日本はどうでしょうか。運用会社の社長が運用知識・経験に関係なく親会社の販売会社から歴代送り込まれたり、ポートフォリオ・マネージャーは運用者である前に○○金融グループの社員であるという意識が強く、運用成績を上げるより定年までいかに間違いをせず無事に勤めあげるかが優先されてはいないでしょうか。

二つ目は、運用会社の規模の小ささへの懸念である。森長官は「金融グループ単位で国内最大の三井住友トラストホールディングスであっても、運用資産額は世界33位に過ぎず、その運用資産額は1位のブラックロックの約七分の一に留まっています。」と指摘したうえで、さらに以下のように続けている(5ページの上から3段落目~)。

このように、これまで我々は、国民の資産形成が進まず、リスクマネーの供給は不十分であり、世界的な運用会社も育たないという、決して皆が望まない均衡状態を続けてきたのではないでしょうか。
皆様は、こうした状況をいつまでお続けになるつもりですか?投資商品を買っても思うようなリターンをあげられなかった顧客は、投資額を増やすものでしょうか?そうした商品を勧めた金融機関との取引をずっと続けるでしょうか?そうしたビジネスのやり方は国際的に競争力を高めていけるのでしょうか?

この発言の意図は定かではないが、いずれにせよ、金融庁の危機感を踏まえると、今後も運用機関へのプレッシャーは強まっていくことが予想される。英国では、既にFRC(財務報告評議会:Financial Reporting Council)により、スチュワードシップ・コードに署名した運用機関の格付けが始まっている。FRCは5人の専門家を置き運用機関を4年間ウォッチ、必要に応じて質問状を送ったりインタビューをしたりするなどして格付けを決めたという。格付けにおいては、議決権行使に至るまでの“哲学”の有無が重視されるとのことだ。格付けは「Tier1~3」の3段階に分かれており、2016年秋には運用機関名とともに格付けが公表されている。ここで「Tier3」とされたところは2017年の6月までに改善案を出せなければ、スチュワードシップ・コードの署名が剥奪されることになる。一流と言われている運用機関で「Tier3」に区分されたところはないが、「Tier2」とされたところは散見される。こうした運用機関は非常にナーバスになっている。なぜなら、「Tier2」とされると、事実上、年金基金から運用を受託できなくなってしまう可能性もあるからだ。スチュワードシップ・コードの導入に際して英国を手本にした日本でも、今後同様の仕組みの導入が検討されることも考えられる。

スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が2016年11月30日に公表した3つ目の意見書「機関投資家による実効的なスチュワードシップ活動のあり方~企業の持続的な成長に向けた「建設的な対話」の充実のために~」では、日本のコーポレートガバナンス改革を「形式」から「実質」へと深化させるという目的意識が明確に示されたが(2016年11月30日のニュース『フォローアップ会議が意見書を公表、「案」から変わった点は?』参照)、「実質」が伴わない理由の一つに利益相反があるのは間違いない。利益相反の問題が解決すれば、外資系運用機関のみならず、日系の運用機関においても、従来よりシビアな議決権行使が行われることになるだろう。日本企業のコーポレートガバナンス改革はこれからが本番と言えそうだ。

2017/05/22 英国では運用機関を“格付け” 日本企業に迫るシビアな議決権行使

近く実施されるスチュワードシップ・コードの改訂により、いよいよ議決権行使結果の個別開示がスタートするが、その“前哨戦”は既に始まっている(スチュワードシップ・コードの改訂内容については2017年3月29日のニュース『企業への影響は?日本版スチュワードシップ・コード改訂案の全容』を参照)。12月決算会社の2017年3月株主総会を見ると、工作機械大手のDMG森精機が上程した自社の財団を実質的な対象とする自己株式の第三者割当を図る議案が特別決議に必要な「2/3以上」をわずかに上回る67.0%の賛成率でかろうじて可決されたほか(詳細は2017年4月18日のニュース『「財団への第三者割当」を巡る投資家目線の論点』参照)、・・・

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2017/05/19 収益認識会計は単体も連結と同じ基準に 事業計画見直しも

企業会計基準委員会(ASBJ)は2017年6月を目途に「収益認識に関する包括的な会計基準」の公開草案を公表する予定だが、焦点となっているのが単体財務諸表の取扱い、すなわち、新会計基準を連結財務諸表だけに適用するのか、あるいは単体財務諸表にも適用するのかという問題だ。この点についてASBJは、連結財務諸表のみならず、単体財務諸表にも同一の基準を適用する方針であることがわかった。

「収益認識」とは、「いつ」「いくら」の売上(収益)を「どのように」計上するのかについての考え方のこと。現在の日本の会計基準では実現主義(「財またはサービスの提供」と「対価の受領」といった要件を満たしたときに収益を認識する考え方)が採用されており、「収益認識に関する包括的な会計基準」でもこの点は変わらない。ただ、日本の会計基準には実現主義で収益を認識するための詳細な要件や判断基準は定められていない。そこで企業は、法人税の計算にあたり申告調整が不要となるよう法人税法の基本通達に従って収益を認識してきたのが実態だ(この点については後述)。これに対し、国際会計基準審議会(IASB)が米国会計基準審議会(FASB)と共同で策定した収益認識の会計基準であるIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」では、収益を認識するまでのステップ(①契約の識別→②履行義務の識別→③取引価格の算定→④算定した取引価格を各履行義務に配分→⑤履行義務の充足に応じ収益を認識)を明確に定めている。今回のASBJの動きは、日本の会計基準がIFRS15号にキャッチアップするためのものと言える。

現行の日本基準に基づく収益認識の現況について具体的にみてみよう。例えば、・・・

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2017/05/19 収益認識会計は単体も連結と同じ基準に 事業計画見直しも(会員限定)

企業会計基準委員会(ASBJ)は2017年6月を目途に「収益認識に関する包括的な会計基準」の公開草案を公表する予定だが、焦点となっているのが単体財務諸表の取扱い、すなわち、新会計基準を連結財務諸表だけに適用するのか、あるいは単体財務諸表にも適用するのかという問題だ。この点についてASBJは、連結財務諸表のみならず、単体財務諸表にも同一の基準を適用する方針であることがわかった。

「収益認識」とは、「いつ」「いくら」の売上(収益)を「どのように」計上するのかについての考え方のこと。現在の日本の会計基準では収益認識の基準として実現主義(「財またはサービスの提供」と「対価の受領」といった要件を満たしたときに収益を認識する考え方)が採用されており、「収益認識に関する包括的な会計基準」でもこの点は変わらない。ただ、日本の会計基準には実現主義で収益を認識するための詳細な要件や判断基準は定められていない。そこで企業は、法人税の計算にあたり申告調整が不要となるよう法人税法の基本通達に従って収益を認識してきたのが実態だ(この点については後述)。これに対し、国際会計基準審議会(IASB)が米国会計基準審議会(FASB)と共同で策定した収益認識の会計基準であるIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」では、収益を認識するまでのステップ(①契約の識別→②履行義務の識別→③取引価格の算定→④算定した取引価格を各履行義務に配分→⑤履行義務の充足に応じ収益を認識)を明確に定めている。今回のASBJの動きは、日本の会計基準がIFRS15号にキャッチアップするためのものと言える。

現行の日本基準に基づく収益認識について具体的にみてみよう。例えば、「A製品を10,000千円で販売した」とする。従来の日本基準には、この販売取引に適用される収益認識の基準は「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る」とする企業会計原則 損益計算書原則 三Aの規定しか存在せず、「実現主義とは何か」「何をもって販売又は役務を給付したと考えるか」を示す会計原則はない。そのため、実務上は一般的な実現主義の解釈(「財またはサービスの提供」と「対価の受領」の2要件)と下記の法人税法の基本通達(下記がすべてではない)に照らして、収益認識をしている。

法人税法の基本通達(一部抜粋)
2-1-1(棚卸資産の販売による収益の帰属の時期)

棚卸資産の販売による収益の額は、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入する。
2-1-2(棚卸資産の引渡しの日の判定)
2-1-1の場合において、棚卸資産の引渡しの日がいつであるかについては、例えば出荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日、検針等により販売数量を確認した日等当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとする。この場合において、当該棚卸資産が土地又は土地の上に存する権利であり、その引渡しの日がいつであるかが明らかでないときは、次に掲げる日のうちいずれか早い日にその引渡しがあったものとすることができる。
(1) 代金の相当部分(おおむね50%以上)を収受するに至った日
(2) 所有権移転登記の申請(その登記の申請に必要な書類の相手方への交付を含む。)をした日

その結果、それぞれの企業で契約内容等を考慮して「A製品を出荷したとき」「A製品を据え付けたとき」「顧客がA製品を検収したとき」等のいつが収益認識時点として合理的なのかを判断し、法人税の申告調整が必要にならないように売上(10,000千円)を計上しているのが現状だ。

では、「2年間の保守サービスがついたA製品を12,000千円で販売した」場合はどうだろう。仮に契約書に2年間の保守サービスの提供の対価が明示されていなければ、日本基準を採用している企業では「2年の保守サービス」については特段の会計処理をせずに、「A製品を出荷したとき」あるいは「A製品を据え付けたとき」や「顧客がA製品を検収したとき」に12,000千円で売上を計上するのが一般的だ。一方、「収益認識に関する包括的な会計基準」によると、上述した「収益を認識するまでの5つのステップ」に基づき、次のように売上を計上する(ASBJが2016年2月に公表した「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」の12ページ~13ページを参照)。

ステップ1 契約の識別 顧客との契約を識別する。
ステップ2 履行義務の識別 「A製品を提供する義務」と「保守サービスの提供義務」を別々の履行義務として識別する。
ステップ3 取引価格の算定 A製品と保守サービスの提供と交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価の金額(契約全体の取引価格)を12,000千円と判断する。
ステップ4 算定した取引価格を
各履行義務に配分
契約全体の取引価格12,000千円を各履行義務に配分し、A製品の取引価格は10,000千円、保守サービスの価格は2,000千円とする。
ステップ5 履行義務の充足に
応じ収益を認識
履行義務の性質に基づき、「A製品を提供する義務」を履行したときに10,000千円の収益(製品売上)を計上し、保守サービスの契約期間(2年間)にわたって2,000千円の収益(サービス売上)を期間按分により認識する。

製品を顧客に提供した時点(財の支配が移転した時点)は契約内容や取引実態次第で異なることから、IFRS第15号では次の指標を考慮して判断するとされており(こちらを参照)、これは「収益認識に関する包括的な会計基準」でも踏襲される見通し。

(1) 企業が支払を受ける現在の権利を有している。
(2) 顧客が法的所有権を有している。
(3) 企業が物理的占有を移転した。
(4) 顧客が所有に伴う重大なリスクと経済価値を有している。
(5) 顧客が検収した。

以上より、契約内容を分析した結果、A製品が顧客に届くだけで「A製品を提供する義務」を履行したと言えるのであれば着荷基準で10,000千円の収益(製品売上)を計上することになり、A製品を顧客が検収しない限り「A製品を提供する義務」を履行したと言えないのであれば検収基準により売上を計上すべきということになる。その結果、現在、出荷基準で売上を計上している企業では、契約における履行義務の内容次第で、下表のように売上の金額や計上タイミングが変わる(3月末決算企業が出荷基準から着荷基準へ変更するケースを前提)ことになる。

会計期間 状況 従来の日本基準 収益認識に関する包括的な会計基準適用後
第1期 3月31日に
A製品を発送
12,000円の売上を計上 会計処理なし
第2期 4月1日に顧客に
A製品が到着
会計処理なし 10,000円の売上を計上
保守契約期間の
経過
会計処理なし 保守契約期間の経過に応じて1,000円の保守サービス売上を計上
第3期 保守契約期間の
経過
会計処理なし 保守契約期間の経過に応じて1,000円の保守サービス売上を計上

このように、「収益認識に関する包括的な会計基準」の導入により、収益認識のタイミングの見直しを図らなければならなくなる企業が少なからず出るものと見込まれている。他にも、売上の額を総額主義と純額主義のどちらで表示すべきかという問題もある(総額表示と純額表示については2015年4月8日のニュース「収益認識会計の導入で影響を受ける業種は?」を参照)。長年、収益認識会計基準の整備に手を付けてこなかった我が国においては、まさに“黒船”襲来と言える。

また、「収益認識に関する包括的な会計基準」の導入にあたりもう一つ大きな問題となるのが、冒頭で触れた「連結財務諸表だけに適用するのかor単体財務諸表にも適用するのか」だ。この問題は「会計」と「税」に分けて考える必要がある。

まず「会計」の方であるが、現状で連結決算を採用していない上場企業は500社程度あり、「収益認識に関する包括的な会計基準」が単体財務諸表にも適用されるとなれば、これまでのやり方を変えなければならないという点で、こうした企業の負担は当然増える。負担が増えるのは、日本基準で連結財務諸表を作成している企業も同じだ。連結財務諸表は単体財務諸表をベースに作成される以上、その単体財務諸表の収益認識のやり方が変わることになるからだ。一方、IFRSを採用している企業では、逆に負担が減るケースもある。金融商品取引法では、IFRSに基づき連結財務諸表を作成している会社であっても、日本基準に基づく単体財務諸表の作成を求めている(その理由などは2017年1月26日のニュース「IFRS導入議論において役員が持つべき視点」参照)。こうした企業にとっては、今後IFRS15号(≒新会計基準)に基づいて単体財務諸表も連結財務諸表も作成できることになれば、日本基準で作成する単体財務諸表の作成負担は減ることになる。IFRSや米国会計基準により連結財務諸表を作成している日本企業から「個別財務諸表もIFRS第15号をベースとした内容とする方が好ましい」「経営管理及び内部統制の観点から連単同一の会計処理とすることが好ましい」といった意見が聞かれていたのにはこうした背景がある。

次に「税」の方だが、「収益認識に関する包括的な会計基準」が単体財務諸表に適用されることになれば、法人税法のルールと異なる収益認識が必要となる企業にとって負担増となることは間違いない。連結財務諸表の作成の有無にかかわらず、企業である以上、法人税上の収益認識は法人税法のルールに基づいて行うしかないため、会計上の売上高と法人税で所得計算の基礎となる売上高のかい離が生じ、申告調整を要することになるからだ。

会計と税のかい離という問題を中心に難しい舵取りを任されていたASBJだが、最終的には収益認識に関する会計処理を法人税法の規定に合わせることは困難であると判断した模様。上記でも触れたとおり収益認識に関する法人税法の規定は多岐にわたっており、そのすべてに対応することは現実的には困難だからだ。また、「収益認識に関する包括的な会計基準」を連結財務諸表と単体財務諸表の双方に適用するものの単体財務諸表については法人税法にある程度配慮した取扱いとする案もあったが、同一企業における連結財務諸表と単体財務諸表の比較可能性、財務諸表間の比較可能性の低下といったデメリットがあるとして不採用となった。その結果、連単同一の会計処理を行うとの方針に至っている。

「収益認識に関する包括的な会計基準」が連結財務諸表のみならず個別財務諸表にも適用されることにより、上述のとおり収益認識基準を変更した企業の中には申告調整が必要になる企業もあることが想定される。そこでASBJでは、「商品等の出荷時から当該商品等の支配が顧客に移転されるまでの期間が『国内における出荷及び配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数』であれば出荷基準を容認する」など実務の簡素化を図るための代替措置を置くことなどを検討しているが、それでも一定程度の申告調整は残るため、企業の事務負担増加は避けられない。特にIFRSにより連結財務諸表を作成していない企業にとっては、会計処理の変更、収益計上の遅れ(上表参照)と申告調整というデメリットだけを受けることになる。

「収益認識に関する包括的な会計基準」は2021年4月1日以後開始する事業年度から適用される方向となっている(早期適用は2018年1月1日以後開始する事業年度から可能)。上場企業は、売上計上基準の変更の検討結果次第で、適用までの約3年の間に、システム改修、契約書における履行義務と対価の明確化、売上計上根拠資料の入手・保管手続きの整備、開示への対応等を余儀なくされることになる。売上見込み額が変われば、事業計画の見直しも不可避となる。経営陣は、「収益認識に関する包括的な会計基準」が自社にどのようなインパクトを与えるのか、今すぐ分析に取り掛かる必要があろう。

2017/05/18 時価総額に応じたコーポレートガバナンス・コード対応

3月決算企業の2017年の株主総会シーズンの集中日とされる6月29日(木)まであと1か月あまりとなった(今年の集中日については5月9日のニュース「総会集中率の3割切り、招集通知早期Web開示の9割越えが目前に」参照)。各社とも株主総会対策に余念がないことだろう。

コーポレートガバナンス・コードでも、「株主総会における権利行使に係る適切な環境整備」として下記のような様々な事項を掲げているが(カッコ書きは筆者)、同コード導入から間もなく2年が経過する中、企業間の“温度差”が鮮明になりつつある。・・・

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2017/05/18 時価総額に応じたコーポレートガバナンス・コード対応(会員限定)

3月決算企業の2017年の株主総会シーズンの集中日とされる6月29日(木)まであと1か月あまりとなった(今年の集中日については5月9日のニュース「総会集中率の3割切り、招集通知早期Web開示の9割越えが目前に」参照)。各社とも株主総会対策に余念がないことだろう。

コーポレートガバナンス・コードでも、「株主総会における権利行使に係る適切な環境整備」として下記のような様々な事項を掲げているが(カッコ書きは筆者)、同コード導入から間もなく2年が経過する中、企業間の“温度差”が鮮明になりつつある。

補充原則
1-2② (招集通知の早期発送等)
上場会社は、株主が総会議案の十分な検討期間を確保することができるよう、招集通知に記載する情報の正確性を担保しつつその早期発送に努めるべきであり、また、招集通知に記載する情報は、株主総会の招集に係る取締役会決議から招集通知を発送するまでの間に、TDnet や自社のウェブサイトにより電子的に公表すべきである。
1-2③ (総会集中日の回避等)
上場会社は、株主との建設的な対話の充実や、そのための正確な情報提供等の観点を考慮し、株主総会開催日をはじめとする株主総会関連の日程の適切な設定を行うべきである。
1-2④ (議決権行使の電子化、議決権電子行使プラットフォームへの参加、招集通知の英訳)
上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえ、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳を進めるべきである。

これは、東証が年度末(2017年3月31日)に公表した「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2017」を見ても分かる。

東証は「株主総会の活性化等の取組み状況」として、コーポレートガバナンス・コードと同様、「①招集通知の早期発送」「②総会集中日の回避」「③議決権行使の電子化」「④議決権行使電子プラットフォームへの参加」「⑤招集通知の英訳」という5つの項目に対する上場企業の対応状況をまとめている。

下表は、東証一部・二部上場企業全体のデータをまとめたものだ。

【株主総会の活性化等の取組み状況(全社)】

  ①招集通知の
早期発送
②集中日を回避した株主総会の設定 ③電磁的方法による議決権の行使 ④議決権行使電子
プラットフォーム
への参加
⑤招集通知の
英訳版作成
補充原則
1-2②
補充原則
1-2③
補充原則
1-2④
補充原則
1-2④
補充原則
1-2④
実施割合 60.7% 57.4% 33.1% 24.1% 26.6%

これを見ると、「①招集通知の早期発送」と「②総会集中日の回避」は相当程度進んでいるものの、「③議決権行使の電子化」「④議決権行使電子プラットフォームの参加」「⑤招集通知の英訳」についてはあまり進展していないことが分かる。この差の原因が何かは、下記の市場区分別のデータを見ると理解できる。

【株主総会の活性化等の取組み状況(市場区分別)】

  ①招集通知の
早期発送
②集中日を回避した株主総会の設定 ③電磁的方法による議決権の行使 ④議決権行使電子
プラットフォーム
への参加
⑤招集通知の英訳版作成
JPX日経400 87.0% 66.3% 84.8% 80.0% 82.8%
市場第一部 74.4% 59.3% 47.0% 37.9% 41.7%
市場第二部 52.3% 46.0% 10.9% 4.3% 5.6%

二部上場企業に注目すると、「①招集通知の早期発送」と「②総会集中日の回避」には約半数が取り組んでおり、一部上場企業と比べてもそれほど遜色はない一方、「③議決権行使の電子化」は約1割にとどまっており、④「議決権行使電子プラットフォームへの参加」と「⑤招集通知の英訳」に至ってはわずか5%前後という低水準となっている。

上記のデータから読み取れるのは、コーポレートガバナンス・コードにおける株主総会対応に関する原則については、企業は自社の実態を踏まえコンプライするかどうかを冷静に判断しているということだ。二部上場企業の時価総額は小さく、機関投資家比率も低い。このため、株主総会も専ら個人株主を意識したものにならざるを得ない。個人株主が出席しやすいよう「②総会集中日の回避」に取り組む一方、機関投資家の利便を図る「④議決権行使電子プラットフォームへの参加」「⑤招集通知の英訳」はコストをかける意義が小さいと経営陣が判断したとしても何ら不思議ではない。「③議決権行使の電子化」が④⑤よりも若干高くなっているのは、個人株主にも便宜を図るものだからだろう。

これに対し、時価総額が大きい一部上場企業、特にJPX日経400企業ともなれば機関投資家の保有比率が高くなるため、機関投資家の方を向かざるを得ない。一部上場企業の大部分が「③電磁的方法による議決権の行使」「④議決権行使電子プラットフォームへの参加」「⑤招集通知の英訳版作成」に取り組んでいるのも納得できる。

このように、一口に「株主総会活性化に向けた取り組み」と言っても、時価総額によってメインとなる株主の層(個人株主が中心か機関投資家が中心か)が大きく異なるため、取り組み方も自ずと違ってくる。

コーポレートガバナンス・コードは“フル・コンプライ”に近い方が対外的な見映えは良いかもしれないが、効果が見えないものにコストをかけないというのは経営者として合理的な判断と言える。スチュワードシップ・コードの改訂(スチュワードシップ・コードの改訂内容については2017年3月29日のニュース「企業への影響は?日本版スチュワードシップ・コード改訂案の全容」を参照)に続きコーポレートガバナンス・コードの見直しも予想される中、時価総額に応じたコード対応を考えるべき時機かもしれない。