2017/05/17 機関投資家に対応する役職・・・最多は?(会員限定)

スチュワードシップ・コードの導入からはや3年が経過し、改訂版が間もなく公表されようとしている中(スチュワードシップ・コードの改訂内容については2017年3月29日のニュース「企業への影響は?日本版スチュワードシップ・コード改訂案の全容」を参照)、機関投資家の投資先企業に対する姿勢にも変化が表れている。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がJPX 日経インデックス400構成銘柄企業に対して行ったアンケート結果を取りまとめた「第2回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」(2017年5月16日公表)によると、「機関投資家全般に期待することは何か」の問いに対して「より深い企業理解(画一的対応の是正)」と回答した企業数が、前回(2016年)の調査時(こちらを参照)の36%から、今回は24%に減っていることが分かった。スチュワードシップ・コードの導入を受けて対話に臨む機関投資家側の体制が少しずつ充実し、導入当初に散見された「機関投資家による画一的対応」は改善されつつある様子がうかがえる。ただ、間もなく実施されるスチュワードシップ・コードの改訂より議決権行使結果の個別開示が実施されれば、再び画一的な対応がはびこることを懸念する声も聞かれる(2017年5月15日のニュース「議決権行使結果の個別開示で難易度が高まるエンゲージメント」参照)。改訂後のアンケート結果は見ものだろう。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) : 厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。

このほか、機関投資家側の対応に関するアンケート結果では、「IRミーティングにおいて『資本効率』を議論する際に機関投資家がショートターミズム(短期志向)化している」と回答した企業が69.5%にも上っている点も目を引くところだ。コーポレートガバナンス・コードは上場企業に対し「中長期的な企業価値の向上」を目的として株主との間で建設的な対話を行うことを求めているが(基本原則5)、この結果からは、上場企業と機関投資家の目線がいま一つ合っていない状況がうかがえる。これとは対照的に、52.2%の企業が「『経営戦略』を議論する際には機関投資家は中長期な視点になってきている」と回答しているのは興味深い。機関投資家はテーマによってはショートターミズムから脱却する兆しが出てきたとも言えそうだ。

企業の機関投資家との面談件数は、今回のアンケートに回答した企業の平均で年間延べ295件にも及ぶ。建設的な対話を実現するうえでは企業側の姿勢も問われるが、機関投資家との面談に社長自らが対応すると回答した企業はわずか9%だった。「CFOまたは担当役員」とした企業も23%に過ぎず、大半(63%)が「部長以下」が対応しているのが実態だ。機関投資家に誰が対応するのかを決める際に重視することとしては、「自社にとっての貢献等、過去の面談内容の質」が65%と最も多く、「株式の保有の有無」と「保有比率」がそれに次ぐ61%、以下、「運用資産規模」(43%)、「株式保有期間」(35%)と続く。「自社にとっての貢献等、過去の面談内容の質」が重視されている点は納得だが、裏を返せば、35%もの企業がこの点を考慮せずに機関投資家への対応者を決定していることになる。これは自社に理解のある長期投資家を開拓するという観点からすれば企業の努力不足と言われかねない。こうした企業は、例えば各機関投資家との面談時の質問内容を記録し、「自社への理解度(画一的な質問となっていないか)」や「質問の内容(中長期的な企業価値向上につながる質問や提案かどうか)」を分析して、機関投資家をランク付けするといったことを試してみるのも一案だ。こうした情報が社長やCFOに提供された結果、自ら対話に臨むようになれば、対話の充実へとつながることが期待できよう。

2017/05/17 機関投資家に対応する役職・・・最多は?

スチュワードシップ・コードの導入からはや3年が経過し、改訂版が間もなく公表されようとしている中(スチュワードシップ・コードの改訂内容については2017年3月29日のニュース「企業への影響は?日本版スチュワードシップ・コード改訂案の全容」を参照)、機関投資家の投資先企業に対する姿勢にも変化が表れている。・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2017/05/16 株式交付信託における役員の納税資金問題が解決へ

既に多くの上場企業に採用されている株式交付信託(信託型株式報酬)だが、平成29年度税制改正により「事前確定届出給与」あるいは「業績連動給与」として損金算入される途が開かれたことで(詳細は2016年12月14日のニュース「在任時支給の信託型株式報酬が損金に、利益連動型のRSは損金算入不可」参照)、今後益々採用企業が増える可能性がある。こうした中、採用を検討する企業(既に採用している企業も)が気にかけているのが、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

事前確定届出給与 : いつ、どれくらい(確定額、確定した株式数・新株予約権など)支給するかを“事前に”確定した上で原則として税務署に届け出をし、それに基づいて支給するもの。
業績連動給与 : その事業年度の利益や株価、売上等に関する指標に基づく「あらかじめ定められた方法」により決定されるもの。複数年度にわたる指標(例えば3年間の平均利益)を採用することも認められる。
損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2017/05/16 株式交付信託における役員の納税資金問題が解決へ(会員限定)

既に多くの上場企業に採用されている株式交付信託(信託型株式報酬)だが、平成29年度税制改正により「事前確定届出給与」あるいは「業績連動給与」として損金算入される途が開かれたことで(詳細は2016年12月14日のニュース「在任時支給の信託型株式報酬が損金に、利益連動型のRSは損金算入不可」参照)、今後益々採用企業が増える可能性がある。こうした中、採用を検討する企業(既に採用している企業も)が気にかけているのが、一部の株式を換金して役員に支給した場合の法人税だ。

事前確定届出給与 : いつ、どれくらい(確定額、確定した株式数・新株予約権など)支給するかを“事前に”確定した上で原則として税務署に届け出をし、それに基づいて支給するもの。
業績連動給与 : その事業年度の利益や株価、売上等に関する指標に基づく「あらかじめ定められた方法」により決定されるもの。複数年度にわたる指標(例えば3年間の平均利益)を採用することも認められる。
損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。

株式交付信託は、会社が役員に業績目標の達成割合等に基づく「ポイント」を付与し、一定期間経過後、株式交付信託が役員に対しポイントに応じた株式(会社が信託銀行に拠出した金銭により取得したもの)を交付するという仕組み。株式の交付を受けた役員に対しては、受益者として確定した時点(株式が交付された時点)で所得税が課されることになる。ただ、役員は株式が交付されてすぐに株式を売却するとは限らないため(インサイダー取引規制の問題のほか、株価が低迷していることもあろう)、納税資金を手当てする必要が生じるケースもある。株式交付信託で一部の株式を換金して役員に支給することがあるのはこのためである。

換金により役員の納税資金は賄うことができるが、次に問題になるのが会社の税金だ。上述のとおり、株式交付信託は平成29年度税制改正により「事前確定届出給与」あるいは「業績連動給与」として損金算入されることになったが、損金算入しやすいのは「事前確定届出給与」の方だと言える。事前確定届出給与に該当するためには、付与する株式数をあらかじめ確定して税務署に届け出ておくことなどで済むが、業績連動給与に該当するには、例えば業務執行役員ごとに客観的な算定方法の内容を開示するなど高いハードルがあるからだ。

そうなると企業は事前確定届出給与としての損金算入を目指すことになるが、信託内で株式を現金に換価した場合、当該現金部分は事前確定届出給与には当たらないのではないか(つまり、業績連動給与の要件を満たさない限り損金不算入)との観測が企業の間で広がっている。株式交付信託が事前確定届出給与に該当し得ることとなったのは、平成29年度税制改正で「所定の時期に確定した数の株式を交付する給与」(株式交付信託もこれに当たる)が事前確定届出給与に該当するとされたことによるものだが、信託内で「現金」に換価されて役員に支給される部分は「所定の時期に確定した数の株式を交付する給与」とは言い難いからだ。

こうした懸念は財務省などにも寄せられていた模様。そこで財務省は、たとえ一部が現金で支給される株式交付信託であっても、“実質的に”株式を交付するのと同様であるものは、事前確定届出給与として取り扱うとの考えを示している。具体的には、(1)株式交付信託の導入決議(導入決議の例はこちら)において、「株式」を交付することを目的としていることが明らかにされている、(2)源泉税や社会保険料の支払いのために換金するものであることが信託契約書や報酬規程において定められている、(3)換金時期が受益権の確定時期(役員への株式交付時期)と近い、といった場合には、現金支給部分も含め、当該株式交付信託全体を事前確定届出給与として取り扱われることになる方向。

納税資金問題の解消により、株式交付信託の導入に拍車がかかる可能性もあろう。

2017/05/15 【特集】~コード改訂が迫る中、機関投資家に聞く~ スチュワードシップ活動の現状と課題(3・会員限定)

議決権行使結果の個別開示は是か非か?

そして、今後のスチュワードシップ活動に影響を与えることになるのが、先月(2017年4月)27日にパブリックコメントが終了したスチュワードシップ・コードの改訂だ。その中でも特に影響が大きいのは、議決権行使結果の個別開示であろう。

金融庁が今回のコード改訂で議決権行使結果の個別開示に力を入れている背景にあるのが、「利益相反」の問題である(利益相反の具体例はこちらを参照)。これを解決するためには議決権行使結果の個別開示が有効であるというのが金融庁の認識だが、機関投資家(アセット・マネージャー及びアセット・オーナー)においては、「消極的ではあるが賛成するグループ」と「反対するグループ」がみられた。

「消極的ではあるが賛成するグループ」は、「個別開示を行うことで利益相反がないことを証明できる」という点をポジティブに受け止めている。また、「日本企業では、たとえ反対票が多くても持合株があるため議案が否決される恐れはほとんどないが、議決権行使結果が開示されるとなれば、企業も反対票について真剣に受け止めるようになるのではないか」という意見も聞かれた。

賛成はしつつも「消極的」にとどまる背景には、「対話があった上での行使結果なのに、結果だけが公表されると誤解が生まれる危険性がある」「第三者によるアラ探しが始まる」「第三者による間違い探しを恐れるあまり、行使条件がボックスチェッキング的になる恐れがある」といった懸念がある。この点について、日本がスチュワードシップ・コードの導入にあたり手本とした英国での反応は若干異なる。英国では、2012年(導入の2年後)の最初の改訂の際に議決権行使結果の個別開示が議論されたが、未だ明文化はされていない。それでも、多くの投資家は自ら個別開示を行っている。「英国で最初に議決権行使結果の個別開示を始めたのはおそらく自分」と語るあるアセット・オーナー(当時)は、「日本のアセット・マネージャーの懸念も理解できる。英国でも、ジャーナリストが、議決権の行使までの企業と投資家の間で行われた議論の過程を知らないまま、議決権行使結果だけを見ておかしな解釈をして記事を書くことが時々あった。しかし、そういうことは当然起こり得ることだと思う」と話す。このアセット・オーナーは企業に配慮し、株主総会後まずは行使結果を企業に伝え、開示の時期は行使から半年後ぐらいに行うという工夫をしていた。

一方、「反対するグループ」は、反対の理由として第一に「議決権行使結果を個別開示するだけでは利益相反への対応について説明責任を果たしたとは言えない」という点、次に「今はまず企業との対話に力を入れるべき。議決権行使は最後の手段なので、それを公開開示することがエンゲージメントではない。必要なことは対話で伝えればよい」ということを挙げている。一部のアセット・マネージャーからは「我々のクライアントは企業年金や(投資信託を販売する)金融機関である。受益者重視の観点から、本来はクライアントだけに報告するべきではないだろうか」といった意見も聞かれた。

このように、今回のコード改訂で実施される議決権行使結果の個別開示を巡っては様々な意見があるが、残念ながら英国の例を見ると、個別開示をしてもそれほど多くのアクセスがあるわけではないようだ。早い時期から議決権行使結果の個別開示を行ってきた英国の大型運用会社のガバナンス担当者は「我々には公的な役割があり、企業は誰が議決権を持っているか知る権利がある」としつつも、「個別開示をしてもほとんど見られていない」と打ち明ける。これに対しある投資家団体の代表は、「ただ個別開示するだけでは誰も見に来なくなる。重大な議案の場合に限って行使結果を開示するなど、やり方は色々あると思う」との考えを示している。

スチュワードシップ活動の質の向上に欠かせないアセット・オーナーの理解

これまで述べてきたとおり、アセット・マネージャーのスチュワードシップ活動はクライアントであるアセット・オーナーの影響を強く受ける。そう考えると、運用会社がスチュワードシップ・コードの求める活動を実行し、かつその質を高めるためには、アセット・オーナーの理解が必須であると言えよう。

ただ、“スチュワードシップ先進国”の英国においてさえ、全てのアセット・オーナーがスチュワードシップ活動というものを理解できているわけではないようだ。英国でもスチュワードシップ・コードの受入れを表明した企業年金はそれほど多くなく、一昨年(2015年)に企業年金の管轄官庁が受入れの義務化を検討したものの、実施は見送られた。今年策定されるEUの「株主の権利に関する指令」では、エンドユーザーへのフィデューシャリー・デューティー(受託者責任) 、すなわち「従業員の将来の資産に対する責任を踏まえ、年金基金はスチュワードシップ活動に取り組む必要がある」という観点から、年金基金への“強制適用”が求められているものの、EUからの離脱が決まった英国の対応は現時点では不明となっている。

日本でも、アセット・オーナーのスチュワードシップ・コードへの関わりは、まだ入口に立ったところと言える。企業年金連合会はセミナーやラウンドテーブルなど数々の取り組みを行っているが、コード受入れに興味を示す企業年金基金はまだまだ少数だ。しかし、母体企業の株主総会議案に反対するという運用会社の判断を企業年金が冷静に受け止め、理解することができるのかどうかは、スチュワードシップ活動の質を高める上で避けては通れない重要な問題である。

ある日本のアセット・マネージャーは、今年から対話のポリシーに「投資先企業を基盤とする年金基金のスチュワードシップ活動に対する理解」を盛り込むことを検討している。実際、その企業で働く従業員の将来を支える年金基金が資金の委託先であるアセット・マネージャーのスチュワードシップ活動を理解することは、企業年金の健全な運用、ひいては従業員の将来への安心につながり、結果としてその企業の成長にプラスの影響を与えると言えるのではないだろうか。

今回のスチュワードシップ・コードの改訂が終われば、次はコーポレートガバナンス・コードの改訂に向けた議論が本格化するだろう。一連のコードの改訂の中で、企業価値の向上に向け、企業、アセット・マネージャー、そして年金基金などのアセット・オーナーそれぞれに何が求められるかについて、引き続き当事者が中心となって議論が行われることを期待したい。

2017/05/15 【特集】~コード改訂が迫る中、機関投資家に聞く~ スチュワードシップ活動の現状と課題(2・会員限定)

増加するアセット・オーナーへの報告作業が、企業との対話の時間を圧迫

本題に入る前に、まず投資家の「立ち位置」を整理しておきたい。日本では、企業が対話で顔を合わせる投資家の多くはアセット・マネージャー(資産運用会社)である。アセット・マネージャーは投資信託を販売するほか、年金基金などのアセット・オーナー(アセット・マネージャーにとってのクライアント)の資産を預かり、運用している。もし運用成績が悪ければクライアントを失う。また、クライアントがESGを重視する方針を打ち出せば、その意向に沿った投資を行わなければならない。

この関係を前提にしているのが、アセット・マネージャーに対し「顧客・受益者に対する定期的な報告」を求める原則6だ。スチュワードシップ・コードの導入を受け、アセット・マネージャーはこれまで以上に企業との対話等の際に記録をとってその内容をアセット・オーナーに報告するようになり、一方、同コードを受け入れているアセット・オーナーは、アセット・マネージャーにより細かい説明を求めるようになったという。

この変化は、企業とアセット・マネージャーの対話そのものにも影響を及ぼしている。

まず、アセットオーナーが個々に異なる報告を求めるため、「記録・報告」というプロセスは非常に手間がかかり、その結果、対話の時間が圧迫されるという事態が発生している。また、アセット・オーナーが求める形式の報告を行うために、企業との対話内容を報告項目に沿ったものとすることを余儀なくされている。

これらの作業が効率化しない原因として、「報告した情報をアセット・オーナーがどのように活用しているのかが見えない」ことを挙げるアセット・マネージャーもいる。また、これらの活動はアセット・オーナーが支払う運用フィーに支えられているにもかわわらず、未だに多くのアセット・オーナーに「フィーは安い方がいい」というスタンスが残っていることから、活動の質的向上に向けた取組みが今後継続できるのか、不安を感じるアセット・マネージャーも少なくない。

GPIFが上場企業に対して実施したスチュワードシップ活動に関するアンケートでは、多くの企業から「実績作りのための形式的・画一的な質問が増えたことや経営者との面談を強要するケースが増えた」との意見が寄せられたが、これにはアセット・マネージャーが置かれた上記のような状況が影響している可能性もある。

こうした中、アセット・マネージャーからは、「まずは両者(アセット・オーナーとアセット・マネージャー)が同じ目標を持たないことには企業との対話は深まらない」との声が聞かれる。また、未だ多くのアセット・オーナーがスチュワードシップ・コードの受入れを表明していない現状を踏まえ、「スチュワードシップ・コードを改訂し、それぞれの役割分担を明確化するか、場合によってはアセット・オーナー専用のコードを作ってはどうか」という意見も聞かれた。

議案の精査時間が圧倒的に足りない中で投資家が企業に望むこと

上述のとおり、アセット・オーナーへの報告等にかなりの時間を費やさなければならない中で、アセット・マネージャーにとって頭が痛いのが、議決権行使に関する作業の多さと、賛否の検討に使える時間の短さだ。

アセット・マネージャーからは、「議決権を誰が保有し誰が行使しているかが一元管理され、しかも行使結果が自動的にアセット・オーナーに共有されるような社会的なインフラの整備が必要」との意見が聞かれる。実際、このような仕組みは海外で相当程度実現しているため、特に海外での運用経験者はそう感じるようだ。日本では、この問題を解決するため議決権電子行使プラットフォームへの利用が推奨されているが、これに対し複数のアセット・マネージャーからは、「仮に全企業がプラットフォームを利用したとしても、作業に費やせる時間が数日増えるだけ。これでは全く不十分であり、圧倒的に時間が足りない状況に変わりはない」といった声が聞かれた。

議決権電子行使プラットフォーム : 株主総会実務に関わるすべて関係者をシステム・ネットワークでつなぐもの。これを活用すれば、機関投資家の議決権を管理している管理信託銀行等の裏にいる機関投資家(実質株主)に対する株主総会の議案情報の伝達のほか、機関投資家の議決権行使や議決権行使結果の集計が簡単にできるようになるため、機関投資家はより長い議案検討期間を確保できる一方、会社は議決権行使結果のタイムリーな確認が可能になる。

アセット・マネージャーは、「議決権プラットフォームを利用するよりも、総会の日程を後ろ倒しにしてもらった方がありがたい」と口をそろえる。実際、海外における議決権行使の合理化は決して議決権電子行使プラットフォームだけで実現できているわけではない。イギリスをはじめとするEU各国では、議決権やその行使が電子的に管理されており、株式の売買の決済システムとも一体化している。すなわち、売買の段階から名義株主が電子的に管理され、誰が議決権を行使したのかもそのシステムで管理される。言い換えれば、“議決権そのもの”が電子化されていると言える。あとは、企業や信託銀行のシステム、そして議決権電子行使プラットフォームをこのような公共のデータベースに接続するだけである。しかも、英国等ではプラットフォームの主要な部分の利用料は集票作業を電子化できる信託銀行や証券代行サービスが負担するのが一般的となっている。

英国等では、こういった公共のデータベースが、株主名簿の確定日を株主総会開催日に近付けることにも役立っている。両者が近づけば、株主総会開催日に株を持っている投資家のほとんどに議決権があるということになり、企業にとっては「議決権がないかもしれない」株主と話すという非効率の解消にもなる。また、総会の直前までに株式を購入すれば議決権を得ることができるため、投資家にとってもメリットとなる。

こういった環境の大きな違いは、当然ながら対話時間の確保のしやすさにも影響する。逆に言えば、日本のアセット・マネージャーは、海外に比べ非常に厳しい環境の中で議決権行使や対話に取り組んでいるということだ。しかも、それらの大部分については未だ解決に向けた議論さえも始まっていない。こうした中、アセット・マネージャーにとって“唯一の希望”となっているのが、上述した株主総会開催日の後倒しである。海外では株主総会は期末日から4~5カ月後に行われる。そして期末日から2~3カ月後には監査済みの年次報告書が開示され、アセット・マネージャーは議決権行使の判断の根拠となる情報をここから入手する。現在の日本では、総会前に有価証券報告書を入手することができないのが通常であるため、議決権行使の根拠とする情報の信ぴょう性の確保もアセット・マネージャーの役割となってしまう。これまでは、決算短信の添付書類が有価証券報告書の代わりにその役割を果たしてきただけに、2017年3月末決算企業からはじまる“決算短信簡素化”もアセット・マネージャーにとっては不安要素である。今回のヒアリングでも、「議決権行使条件のいくつかが決算短信のB/SやP/Lから取得する情報に基づいている。決算短信の簡素化によって財務諸表本表を提出しなかった企業については、行使条件がそろわない」との懸念も聞かれた。

「議決権行使結果の個別開示は是か非か?」へ(会員限定)

2017/05/15 【特集】~コード改訂が迫る中、機関投資家に聞く~ スチュワードシップ活動の現状と課題

野村総合研究所
上級研究員  三井千絵

スチュワードシップ・コードの導入(2014年2月~)から3年が経過し、導入以来初めての改訂が実施される。

この3年間、スチュワードシップ・コードは機関投資家による企業との対話にどのような影響を与え、また、いかなる課題を残したのか。それらを把握しておくことは、投資家との対話に臨む企業にとって極めて有益であろう。

本稿は国内外の機関投資家等にヒアリングを行った結果をまとめたものである。

「増加するアセット・オーナーへの報告作業が、企業との対話の時間を圧迫」へ(会員限定)

続きをご覧になるには、会員登録が必要です。
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちら

2017/05/15 議決権行使結果の個別開示で難易度が高まるエンゲージメント

改訂版スチュワードシップ・コードが間もなく公表される。改訂案に対するパブリック・コメントの募集期間は先月(2017年4月)27日に終了したところだが、原案で示された方向性が変わることはないだろう。機関投資家から反対の声が上がっている議決権行使結果の個別開示(指針5-3)についても(2017年2月9日のニュース『金融庁有識者会議で「議決権行使結果の個別開示は“時期尚早”」との意見』参照)、今回の改訂で実施されることは確実とみられる。こうした中、企業からは・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2017/05/15 議決権行使結果の個別開示で難易度が高まるエンゲージメント(会員限定)

改訂版スチュワードシップ・コードが間もなく公表される。改訂案に対するパブリック・コメントの募集期間は先月(2017年4月)27日に終了したところだが、原案で示された方向性が変わることはないだろう。機関投資家から反対の声が上がっている議決権行使結果の個別開示(指針5-3)についても(2017年2月9日のニュース『金融庁有識者会議で「議決権行使結果の個別開示は“時期尚早”」との意見』参照)、今回の改訂で実施されることは確実とみられる。こうした中、企業からは「議決権行使結果の個別開示が実施されれば、運用機関は形式的な議決権行使に走るのではないか」という懸念の声が上がっている。

改訂案は、運用機関に対して、議決権行使における利益相反(利益相反の具体例はこちらを参照)を適切に管理することを求めている(指針2-1)。したがって、例えば銀行や証券会社など母体企業の意向に沿って賛否を判断したことが個別開示を通じて白日の下にさらされた場合、運用機関は年金基金等のアセット・オーナーに対する説明責任を果たしていないということで、運用委託契約を失うことにもなりかねない。そこで運用機関が、あらかじめ公表している議決権行使基準に従って議決権行使を“形式的”に実施するようになることは容易に想像される。いたずらに「個別判断」の余地を残しておけば、母体企業から圧力をかけられる要因になりかねず、また、アセット・オーナーへの説明も困難を伴う。より“正確な”議決権行使のため、自社の基準に従った議決権行使の外部委託を検討する運用機関も散見される。

このような動きが本格化した場合、企業によるエンゲージメントへの取り組みは意義を失いかねない。企業のSR担当者にとって、エンゲージメントとは「運用会社の議決権行使基準や議決権行使助言会社の推奨に反して、個別に賛成票を勝ち取るためのアクション」という意味合いが強い。しかし、個別開示の実施により運用機関が形式的な議決権行使に走れば、いくらエンゲージメントに力を入れても徒労に終わるおそれがある。

今後個別開示が実施された場合、企業にはエンゲージメントにこれまで以上の「説明力」を持たせることが求められるだろう。例えば、CEOやCFOなどのトップマネジメント、企業のガバナンスの確保において大きな役割を果たす取締役会議長や社外取締役など運用機関にとって対話する意味が大きい者が直接、対話に参加することが考えられる。また、そもそも事業計画等で示される方針や戦略が投資家目線に沿っているものでなければ、運用機関の議決権行使基準に抵触する議案に賛成してもらうことは困難になろう。

スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードが導入されてからのここ2~3年、企業のSR担当者による投資家訪問を中心とするいわば“エンゲージメント1.0”とも言うべき動きが活発に見られた。スチュワードシップ・コードの改訂を受け、今後は「対話した」という実績作りにとどまらない、より実質的な意義を持つ“エンゲージメント2.0”の取り組みが求められよう。

SR : Shareholder Relations の略で、「株主向け広報」と訳される。株主を含む広く投資家全般に対する広報活動を「IR」 (Investor Relations) と呼ぶのに対し、SR活動とは、企業と株主との信頼関係を築くための活動を指す。

2017/05/12 有償ストックオプションの会計処理案が公表、長年の議論に区切り

上場企業による採用が非常に多いことから当フォーラムでも何度か取り上げてきた有償ストックオプションの会計処理案(実務対応報告「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」)がこのほど会計基準委員会(ASBJ)から公表された(2017年5月10日付)。内容はほぼ当フォーラムで報じてきたとおりとなっている(2017年1月18日 のニュース「有償ストックオプション、費用計上が求められるのはいつから?」参照)。これまで、有償ストックオプションは会社にとって「現金を対価として株式を発行する取引」である(すなわち労務提供の対価ではない)ことから、費用に計上する必要がないとされてきたが、今後は・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから