コーポレートガバナンス・コード補充原則4-10①が、役員の指名・報酬について「任意の諮問委員会」の設置を勧めていることから、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社で任意の指名・報酬委員会を設置するケースが急増しているということは、2016年11月29日のニュース「代表取締役の指名アセスメントの手法」でお伝えしたとおり。ただ、任意の指名・報酬委員会(以下、両委員会)には、指名委員会等設置会社のようにメンバー構成や運営方法を定めた明文上のルールがない。このため、「両委員会の委員長を誰にするのか」「両委員会における委員の社内・社外比率をどうするのか」といった両委員会の構成員の問題、「社長・CEOの指名・報酬を諮問対象にするか否か」「社長・CEOの指名・報酬を諮問対象にするとして、実効性ある委員会にするためにはどうすればいいか」など両委員会の運営方法に悩む上場企業は少なくない。
こうした中、経済産業省が設置している「CGS研究会」(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)が「指名委員会・報酬委員会の実務指針」(以下、実務指針)を来月(2017年3月)中に公表することが当フォーラムの取材で判明した。
公表に先立ち、一足早くその内容を紹介しよう。
実務指針では、「社長(以下、CEOを含む)の選解任及び後継者計画について、指名委員会への諮問対象に含めること」「社長の報酬について、報酬委員会への諮問対象に含めること」が必要であるとしたうえで、指名に関しては「あるべきCEO像」を策定した後に「指名方針」「解職基準」を策定すること、報酬に関しては「報酬方針」を事前に策定すべきとしている。
両委員会の諮問対象に「社長」を含めることは、「経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化」(コーポレートガバナンス・コード補充原則4-10①)という任意の委員会の設立目的を踏まえれば必然であろう。仮に両委員会を設置しているものの諮問対象に「社長」を含めていない上場企業があれば、早々に「社長」を諮問対象に含めておくべきだ。
一方、「社長」を両委員会の諮問対象に含めている上場企業であっても、単に投資家へのポーズのために任意の委員会を立ち上げただけにすぎず、実際、両委員会でも形式的な議論しかできていない企業も少なくない。それにもかかわらず、いかにも実効性のある議論を経て指名や報酬が確定されたかのような外観だけを整えるのは、投資家を欺くに等しいと言っても過言ではない。任意の両委員会を立ち上げた以上、そこでは実質的な議論が交わされるべきである。
そのために重要となるのが、委員の構成だ。社長の選解任や報酬を諮問対象とするはずの委員会の委員長に社長が就任し、かつ、委員も社内人材で固められているとなれば、社長を両委員会の諮問対象とするのは事実上不可能となるからだ。そのような上場企業に対して、投資家は「社長は実質的に諮問対象とされておらず、ガバナンスが十分でない」と否定的な判断をする可能性がある。実務指針は、「現社長・CEOは委員にしない(オブザーバに留める、必要に応じて呼ぶなど)」「委員とするが、自身の評価に関連する審議の場を別に設定する、あるいは退席させるようにする」といった工夫で、社長のいない場で議論できる環境を整えるべきと提案している。
逆に言うと、上場企業としては、社長の選解任および後継者計画、報酬を実効性ある議論をするためにどのような工夫をしているのか、投資家との対話で積極的にアピールすべきであろう。投資家にアピールするのにもっとも手っ取り早いのは、委員長や委員を社外人材のみとすることである。ただ、社外人材には社内事情に疎く社内との連携も取りにくいというデメリットがあるのも事実。そこで実務指針では、様々な委員構成を示している。具体的には、①指名プロセスや報酬決定プロセスに対する社外者の関与を強め、②メンバーを絞って効率的な議論をするという任意の委員会の設置目的に照らして、「社外者のみ」「社外者が過半数」「社外・社内が半数ずつで、委員長は社外」というパターンが望ましいとしている。既に「社内者が過半数」あるいは「社内者のみ」という両委員会を運営している会社では、社外人材の増員が喫緊の課題と言える。もっとも、この課題を認識はしていても、実際のところ適任者が見つからないという上場企業は少なくない。そこで実務指針では「社外監査役」を活用する案を示している。社外人材の不足に悩む上場企業にとっては一考に値しよう。
社長・CEOの選解任については、「社長・CEOの評価をする上で、社長・CEOに問題があると認められる場合においても、指名委員会でいきなり解任する(あるいは再任しない)という厳格な選択を行う前に、報酬委員会における評価を通じて、経営の改善に取り組むようシグナルを発することが実際上は有効である」としている。また、「社長・CEOの選解任に際して、その前提として社長・CEOの評価が行われることになるが、評価は、指名の局面に限られず、役員報酬を適正に決定する局面でも必要なものであり、両者は共通する部分も多い。CEOの評価は、CEOの解任といった極端な事例としてではなく、むしろ毎期の報酬に反映されていくことが通常」であり、「そのため、委員会は、指名委員会だけではなく、報酬委員会も併せて設置することが有効である」とし、指名委員会・報酬委員会の併設と連携を提案している点、注目される。両委員会を既に立ち上げている上場企業の中には、両委員会をまったく連携させずに別々に運営しているケースも見受けられる。両委員会の連携は、各委員会の機能向上のために、是非とも取り組みたい課題と言えよう。もし、両委員会のメンバーが重なる場合は、両委員会の一体化も視野に入れてもよいだろう。
本実務指針は、投資家にとっては任意の両委員会について上場企業と議論する際によりどころになる一方で、上場企業にとっては任意の両委員会のあり方に関するデファクト・スタンダードとして機能するだろう。それだけに、両委員会を設置する上場企業としては、実務指針が提案する内容と自社における両委員会の運営にかい離があれば、それをどのようにして埋めるのか議論することが不可欠となってくるのは間違いない。