公認会計士 大杉 泉
(株式会社イグニス 取締役監査等委員長
日本公認会計士協会 組織内会計士協議会 委員)
<解説>
監査等委員会の「等」は何を指す?
平成27年5月に施行された改正会社法において、監査役会設置会社、指名委員会等設置会社に続く第三の組織形態として「監査等委員会設置会社」が創設されました。これは監査役会設置会社と指名委員会等設置会社の“中間的存在”と位置付けられ、監査役会設置会社における監査役の権能の大部分を残しつつ、監査等委員会が指名委員会等設置会社における指名委員会・報酬委員会の要素も持つ、いわばハイブリッドな組織形態となっています。具体的には、監査等委員会に対し、監査役および監査役会が持つ監査権能に加え、指名委員会が持つ業務執行取締役の選解任に対する株主総会での意見陳述権、報酬委員会が持つ業務執行取締役が得る報酬に対する株主総会での意見陳述権の2つが付与されています。すなわち、監査等委員会の「等」とは、業務執行取締役の指名・報酬についての意見陳述を通じた業務執行取締役に対する監督業務を指していると言えます。
監査役会設置会社との比較で浮き彫りになる監査等委員会設置会社の特色
監査等委員会設置会社の特色は、監査役会設置会社と比較することで浮き彫りになります。両者の違いは以下のとおりです。
(1)取締役会における議決権の有無
監査役会設置会社の監査役は、取締役とは異なる立場から取締役の職務執行をチェックする役目を有しているのに対し、監査等委員会の構成員である監査等委員は自分自身が「取締役」でもあります。
監査等委員は取締役である以上、取締役会においても議決権があり、自身が監査等委員として監査を実施し、その適否を判断した結果を、議決権の行使という形で表明することができます。
一方、監査役は、取締役会における議決権を有していません。監査役は、取締役が不正行為をした場合やそのおそれがある場合、、法令・定款に違反する事実や著しく不当な事実がある場合には取締役会に報告しなければならない(会社法382条)ほか、必要があれば、(取締役会で)意見を陳述する義務があります(会社法383条1項)。また、取締役会の招集を請求したり、取締役会を招集したりすることもできます(会社法383条2項3項)。すなわち、監査役は業務執行取締役の行為に対し“間接的に”ブレーキをかける力は有しているものの、重大な法令・定款違反等でない限り、取締役会の意思決定に直接関与することはできないということです。
(2)取締役の指名・報酬について意見陳述を行う権利の有無
上述のとおり、監査等委員会の職務には、監査のみならず「監査等委員以外の取締役の監督」も含まれます。具体的には、監査等委員会は株主総会で取締役の指名・報酬について意見陳述を行う権利を有しています。
したがって、監査等委員会は、取締役の報酬および選解任について株主総会前に意見形成を行っておく必要があります。このうち取締役の報酬額の妥当性については、報酬金額の妥当性(全取締役の報酬の合計額のみ検討すればよいのか、あるいは個人別の報酬まで踏み込むべきかについては両論が存在しています)、その決定プロセスが不当なものとなっていないかなどを確認しておく必要があります。取締役の指名については、取締役候補者の資質や業績等を多面的に評価しておく必要があります。
一方、監査役は、株主総会で取締役の指名・報酬が法令や定款に違反している、あるいは著しく不当な事項がある場合には、その調査結果を株主総会に報告する義務はありますが(会社法384条)、取締役の監督業務としての意見陳述を行う権利はありません。
(3)独任制監査か組織監査か
監査役会は監査役の独任制(監査役会での決議に依らず、監査役それぞれが独立した判断で監査を実施し、意見を表明すること)を前提として、監査をより効果的・効率的に実施するための「協議機関」としての性格を有するのに対し、監査等委員は独任制ではなく、監査等委員会が「合議制」で組織的に監査を実施するという点で、両者は大きく異なります。すなわち、監査等委員会では、監査等委員会で決議した内容・分担に基づいて各監査等委員が監査を実施し、合議により“監査等委員会としての”意見を決するということです。ただし、合議で決した監査等委員会の意見と異なる意見を有している監査等委員は、(監査等委員会としての)監査報告において自己の意見を付記することができます(会社法施行規則130条の2 1項後段)。
このように監査等委員は「独任制」をとっていないため、監査等委員会の監査では、内部統制システムを活用することも可能となっており、内部統制システムに関与する社内の多くの人の目を活かした監査を行うことが期待されています。
内部統制システム : 会社法が求める「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要な体制」のこと(会社法362条4項6号)。ちなみに、会社法上は「内部統制システム」という言葉は出て来ない。
一方、監査役会設置会社でも、内部統制システムの一部を構成する内部監査部門等との緊密な連携を取ることが有用とされているため(日本監査役協会 監査役監査基準37条)、内部統制システムの利用は完全には否定されていないものの、原則としては各監査役が独自の監査を行い、それぞれがその心証を得ることが求められています。
また、独任制監査のスタイルをとる監査役会設置会社では常勤の監査役を設置する必要がありますが(会社法390条3項)、監査等委員会設置会社では常勤者を置くことは求められていません(もっとも、公開会社であれば、事業報告に常勤者の選定の有無とその理由を記載する必要がある(会社法施行規則121条10号イ)ため、事実上、常勤者を選任する監査等委員会設置会社が大半となっています)。
(4)「社外」の割合
監査等委員会設置会社の監査等委員は「過半数」が「社外取締役」でなければなりません(監査等委員が4人とすると、そのうち社外取締役は3人以上必要。会社法331条6項)。
一方、監査役会設置会社では、監査役の半数以上は社外監査役を選任しなければなりません(監査役が4人とすると、社外監査役は2人以上必要。会社法335条3項)。
(5)任期
監査等委員の任期は、取締役の標準任期と同じ2年(会社法332条1項4項)となっています。一方、監査役の任期は4年(公開会社の場合。会社法336条)となっています。
また、監査等委員会設置会社における監査等委員以外の取締役の任期は1年とされています(会社法332条3項)。一方、監査役会設置会社における取締役の任期は2年となっています(定款または株主総会決議により短縮可、会社法332条1項)。
(6)利益相反取引における任務懈怠推定の排除
監査役会設置会社において、取締役が会社の承認を得ず利益相反取引を行い、会社に損害が生じた場合には、当該取締役は任務懈怠に問われる可能性があります。また、会社の承認を得て利益相反取引を行った場合であっても、結果として会社に損害が生じた場合には、当該取引を行った取締役は任務懈怠に問われる可能性があるとともに、当該取引の実行に賛成した取締役も過失があったものと推定されます(会社法423条3項)。したがって、これらの取締役は自身に過失がないことを証明しない限り、連帯してその責任を負うこととされています。
一方、監査等委員会設置会社において取締役が利益相反取引を行う場合には、監査等委員会が事前に当該取引を承認することで、上記任務懈怠の推定が排除されます(会社法423条4項)。
内部監査機能が成熟していないと監査等委員会設置会社に移行できない?
一般的に「内部監査機能(主に内部監査部門が行う内部監査)が成熟していないと監査等委員会設置会社に移行できない」との誤解もあるようです。これは「監査等委員会は内部監査に『依拠しなければならない』ため、内部監査が弱い会社は移行すると監査が後退してしまう」という誤解が広まっていることに原因があると思われます。
しかし会社法を見ると、監査等委員会において監査等委員会自身が監査を行うことに対する制約は設けられておらず、内部監査部門の成熟度等についての言及もありません。このことから、上述したとおり、法の趣旨としては内部監査に「依拠」した監査ではなく、これを「活用」した「多くの目による監査」が期待されているものと考えられます。
つまり、極論すれば、監査役がきちんと監査を実施している会社であれば、内部監査機能に何ら手を加えることなく監査等委員会設置会社に移行しても、従前の監査を監査等委員会が行う限り、会社法上は特段の問題はないものと考えられます。
とはいえ、コーポレートガバナンスの観点からは、いずれの機関形態であっても、内部監査機能の充実は必須です。ましてや、監査等委員会設置会社では監査等委員全員が非常勤という事態も想定されることから、内部監査の重要性は監査役会設置会社よりも高いと言えるでしょう。
取締役会における議決権行使で監査等委員の責任は増えるのか
監査等委員は取締役ではあるものの、業務執行は行いません(会社法331条3項)。したがって、監査等委員である取締役は業務執行に関する責任も負いません。ただし、取締役会で議決権を行使する権利がある以上は、それに伴う責任が生じることになります。具体的には業務執行取締役と同様、任務懈怠責任(会社法423条)が生じる可能性があります。
では、監査等委員である取締役が取締役会において議決権を行使するにあたって任務を懈怠したと言われないためには、どのような(賛否の)判断基準をもって判断を行えばよいのでしょうか?
監査等委員である取締役の業務に鑑みれば、「経営判断原則に基づいているか」「会社の中長期的発展に資するか否か」の2つが基本となります。監査役が監査等委員である取締役となるということは、取締役会における議決権行使という責任が付加される分、責任が重くなるということに間違いはありませんが、「経営判断原則に基づいた判断がなされているか否か」は元々監査役が取締役会監査その他の場面において監査してきたことでもあり、また、「取締役の業務執行が中長期的発展に資するか否か」という視点は監査役監査でも常に持っているはずのものです。したがって、監査役としての視点と監査等委員である取締役としての視点には大きな相違はないと言えます。
さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
社外監査役B:「監査等委員会の「等」とは「取締役を監督する業務」のことだそうですね。監査等委員には取締役の選解任について株主総会での意見陳述権が認められていますので、例えば社長がイエスマンばかりを取締役に選任しようとした場合に、監査等委員会が「ガバナンスが損なわれる恐れがある」として、強力に株主にその是非を問うことができそうです。」
(コメント:監査等委員会は「指名」と「報酬」の2つの側面について「監査等委員以外の取締役」の監督業務を実施します。特に「指名」は企業のガバナンスに大きく関わることから、監査等委員会はガバナンスが損なわれる恐れがある取締役の選解任があった場合には、株主総会で積極的に意見を陳述することを期待されています。Bの発言は、監査等委員会の監督業務の内容を正しく理解した上でのものであり、GOOD発言です。)
常勤監査役A:「監査等委員会設置会社に移行すると、監査等委員会の監査は内部監査に依拠することが必須になります。当社の内部監査の陣容や体制はまだ十分とは言えませんので、現在私が行っている監査の一部は誰も実施しないことになってしまう懸念があります。監査の空白が生じてしまいそうで心配です。」
(コメント:監査等委員会による監査で、内部監査に「依拠」する必要はありません。また活用することは「必須」ではなく、あくまで「必要に応じて利用できる」ものと理解されています。Aの発言は、「内部監査に依拠することが必須である」という点がBAD発言です。)
社外監査役C:「監査等委員は監査や監督が職務の中心になるとはいえ、あくまで地位は取締役です。会社の意思決定に参加するのですから、監査役時代とは全く異なる視点や判断が求められるのではないでしょうか。そのような重責をまっとうできるか気がかりです。」
(コメント:監査等委員が取締役会で議決権を行使する際に求められる視点は監査役が取締役の職務執行を監査する視点と大きく異なることはありません。Cの発言は「監査役とは全く異なる視点や判断を求められる」という点がBAD発言です。)