2016/12/28 【2016年11月の課題】海外進出企業のリスクマネジメント:解答(会員限定)

回答者:
株式会社 亀屋 代表取締役社長
危機管理コンサルタント 山崎 正晴

いまリスクの高い国はどこか

海外展開を活発化させる日本企業が進出する国は広範囲に及んでいますが、どこの国にも何らかのリスクがあります。

リスクは、それぞれの国の歴史、民族、文化、宗教、政治、経済などに由来しているので、それらを分析することによって見えて来ますが、国の歴史や政治などを学ぶのには時間がかかります。これに対し、少なくとも国の現在の状況は、様々な統計資料等を調査すれば比較的容易に知ることが出来ます。以下では、日本企業が進出先として選ぶことが多いと思われる国として選定した24ヶ国の現在の状況と、それにより発生するリスクへの対応を見てみましょう。

まず、その国の治安に大きな影響を与える「豊かさ」の順位は下表のとおりとなっています。

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どこの国にも大金持ちはいますが、国民1人当たりのGDPを比較すると、その国の国民がどの程度豊かか、または貧しいかが分かります。インド、インドネシア、フィリピン、ナイジェリアなど順位の低い国は、国全体としては大国でも国民一人ひとりは貧しく、社会インフラも不十分で、国民の間に不満が蓄積されやすいことから、デモ、暴動、テロなどが発生するリスクが高い状態にあります。ただし、なかにはベトナムのように、貧しいながらも比較的治安が安定している国もあります。

次に、米国でトランプ大統領誕生の一因にもなったとされる「貧富の格差」について見てみましょう。

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上述したベトナムのように、国民一人ひとりは貧しくても治安が安定している国がある一方で、米国のように豊かでも犯罪の多い国もあります。その背景にあるのが、貧富の格差です。上の表で示したとおり、ベトナムの貧富の格差が6.9倍であるのに対し、米国では15.9倍にもなっている点に注目してください。米国よりもさらに貧富の格差が著しいメキシコ、ブラジル、フィリピン、南ア、ナイジェリアなどの国では、窃盗や強盗に加えて、身代金目的の誘拐が頻発しています。また、殺人の発生件数も多くなっています。

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殺人発生件数には、上で見た貧富の格差に加えて、国内での銃器の拡散度が影響します。米国やフィリピンで銃による殺人の発生件数が多いことは広く知られていますが、多数の日本企業が進出するタイでも銃が広く拡散し、殺人発生件数が決して少なくないことは、日本ではあまり知られていません。タイではタクシー運転手が護身用に拳銃か刃物を持っていることが珍しくないので、料金で揉めた場合でも、穏便に済ますことが身のためです。

メキシコ、ブラジル、南ア、ナイジェリアでは路上での強盗殺人が多発しているため、駐在員や出張者には、赴任前に十分な安全教育を受けさせることが重要です。銃を突きつけられた際には一切抵抗せず、持ち物を全て引き渡すことが基本動作となります。

「安全」と思われている欧州でも強盗が頻発

強盗や殺人は政治が腐敗している国でも多発する傾向があります。

下表の政治クリーン度は、各国の政治や行政における汚職の度合いを比較したものです。

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ロシア、中国、ベトナム、フィリピン、タイ、インドネシア、インド、メキシコ、ブラジル、ナイジェリアなどクリーン度の低い国では、警察や裁判に公正さは期待出来ません。警察官が犯罪に荷担している場合も少なくなく、裁判官に賄賂を渡して抱き込み、有利な判決を出させることなどは日常茶飯事です。民事か刑事かにかかわらず、万一これらの国でトラブルに巻き込まれた場合には、「警察など公的機関に通報する前」に、顧問弁護士、危機管理コンサルタント、日本大使館などに相談することが基本動作となります。

一方、政治的に(経済的にも)安定している欧州でも強盗が多発していることには注意が必要です。実際、欧州の中でも治安の良いイメージがあるイギリス、フランス、ドイツなどで強盗や窃盗の被害に遭っている駐在員や出張者は少なくありません。これらの国には多くの移民や外国人労働者がおり、それが治安悪化の原因となっています。

現地報道が情報源にならないケースも

海外でのリスクは強盗や殺人だけではありません。地域によっては、伝染病や環境汚染等の被害に合うこともあり得ます。その場合、通常であれば現地の報道は有力な情報収集の手段になりますが、国によってはそうとは言えない場合があります。

下表は各国の「報道自由度」を示しています。

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中国など報道自由度の低い国では、パニックを引き起こす可能性の高い伝染病や環境汚染などの情報が規制されることがあるため、駐在員は、報道だけに頼らず、街の人々の動きや個人的情報源から真実を探る術を身につける必要があります。例えば、昨日まで店頭に沢山並んでいたペットボトルが全て売り切れていたら、水道水の汚染を疑うべきです。また、スーパーの店頭から野菜や肉が消えていたら、産地での異変か伝染病発生の可能性があります。 

また、報道自由度は国の民主化の度合い表す指標でもあるため、順位の低い国は、政治が独裁傾向にあり、結果として多くの国民の意思が政治に反映されずに不満が鬱積し、デモや暴動、犯罪、後述するテロなどが起こりやすい状況にあります。

ちなみに、日本の報道自由度は2010年には世界で11位でしたが、12年の東日本大震災での放射能汚染情報が偏向していたとの見方がなされ、14年には59位と急落しました。その後も報道に圧力がかけられていると評価され、15年には61位、16年には72位と下落の一途をたどっています。

タイの交通事故死亡者数は日本の8倍

また、海外では「交通事故」のリスクも無視できません。下表のとおり、交通事故による死亡者数は国によって大きく異なりますが、ほとんどの国で日本よりも多くなっています。

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なかでも突出して多いのがタイです。日本では1年間に人口10万人当たり4.7人が死亡しているのに対し、タイでは実にその8倍の36.2人が死亡しています。

その最大の理由として、社会インフラの格差が挙げられます。日本と比べると、タイは病院数、医師数、救急車数のどれをとっても劣っています。それに加えて、無免許や無届け営業の多いタクシーやミニバスは運転技術も管理体制も劣悪であり、これが事故の原因となっています。このような国に進出する企業は、社有車や(たとえ値段が高くとも)質の高いタクシー会社を利用するほか、救急車の来ない遠隔地には複数の車で移動する、救急医療機関と予め契約しておくなどの対策をとる必要があります。

テロ対策は「やるべきことはきちんとやっていた」と言える状態を作っておくことが重要

近年、海外に進出する日本企業にとっても大きな脅威となっているのがテロです。

英国・外務省が作成した下記の地図は、世界各国のテロの危険度を示したものです。色の濃さ(紫が最も高く、ピンク、黄土色、黄色の順に低くなります)がリスクの高さを表しています。

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この地図を見ると、中東、北アフリカ、南西アジアなどでリスクが高いことが分かりますが、同時に、色のついていない国、すなわちテロのリスクがゼロの国は世界中どこにもないことに気がつきます。今やテロのリスクは世界のどこにいても存在し、絶対に安全という地域はありません。

実際には、イラク、シリア、リビア、アルジェリアなどテロ多発国に行かない限り、テロの被害に遭う確率は非常に低いのですが、パリやジャカルタなどで起きたテロのニュースを見ると、恐怖心がつのるところでしょう。こうした状況の中で企業がまずやるべきことは、赴任者や駐在員にテロのリスクに関する正確な情報を提供し、交通事故などと比較すると被害に遭う確率ははるかに低いという事実を理解させることです。その上で、危機管理コンサルタントの協力を得て、テロに巻き込まれるリスクを低くするための“実用的な助言”を提供しておくべきでしょう。具体的には、テロに遭う確率が出来るだけ低くなるよう、国や都市ごとに、テロの標的になりやすい場所や時間帯を伝えます。また、現地の工場、事務所、店舗などの会社施設においては、入出管理や周辺パトロール等を行い、テロリストに隙を見せないことが有効なテロ対策になります。

これらを全てやってもテロを100%防ぐことは不可能ですが、万が一テロの被害に遭った場合に、企業として「やるべきことはきちんとやっていた」と言える状態を作っておくことに意義があるのです。

「有事」の際の行動指針策定は必須

ここまでは、リスクの種類別に主として「被害に遭わないための対策」を説明してきましたが、どのような対策をとったとしても、事件や事故が発生することはあり得ます。そこで必要になるのが、「事件・事故発生時の対応体制の確立」です。

海外では、日本のように交番もなければ、救急車もすぐには来ない上に来ても有料だったり、病院があっても医者がいなかったりと、社会インフラは日本とは大きく異なります。地震国であるにもかかわらず、建物が耐震構造になっていない国も少なくありません。また、上述のとおり、政治クリーン度の低い国では、警察も裁判所もあてにならないどころか、賄賂を要求されるなど、有害ですらあります。

したがって、進出する国ごとに、警察、救急、消防、裁判所など有事に必要となるサービスの有無、信頼性、それに代わる対応策を見つけておくことは、雇用主としての企業の義務です。それに加えて、海外拠点長及び管理責任者には、セキュリティー管理者としての教育と訓練を事前に受けさせる必要があります。施設入出管理の考え方、誘拐や爆破予告への対処方法などの必要な教育を施すことなしに、拠点長や管理責任者などの拠点管理者を現地に派遣する経営者は、無責任の誹りを免れません。なお、企業が海外拠点において守るべき対象者には、駐在員及びその帯同家族、出張者のみならず、多数の現地従業員が含まれることを忘れてはなりません。ただ、業務命令で安全な日本からリスクの高い国に派遣させられた駐在員と、元々その国に生まれ育った現地従業員を全く同様に取り扱うのが公平か否かについては議論の余地があるところです。

いずれにせよ、企業は海外進出に際し、現地の法律、雇用契約、社会通念等を勘案の上、弁護士や危機管理コンサルタントの助言を受けて、有事の際の行動指針を予め定めておくことが重要です。これがないと、いざという時に対応を迷ったり間違えたりして、従業員からの信頼や社会的な信用を失うことにもなりかねません。また、何ら対応策を準備していなかったとなれば、仮に従業員やその家族・遺族から損害賠償を求められた場合、自社の信用が傷つくばかりでなく金銭的にも多大な損害を被ることになりかねません。

また、雇用者としては、高額な事件・事故対応コストや、駐在員や現地従業員からの損害賠償請求などを想定し、労災保険、医療保険、傷害保険、誘拐身代金保険、緊急帰国費用保険等に加えて、第三者賠償責任保険に加入しておくことも重要です。

第三者賠償責任保険 : 企業の業務遂行等に起因した偶然の事故により、第三者に対する法律上の賠償責任を負担した場合に、被保険者が被る損害(賠償金など)を填補する保険のこと。

大事な社員を海外に出向させる上場企業としては、弁護士や危機管理コンサルタントの助言も受けて、万全の備えをしておく必要があります。

2016/12/28 【2016年12月の課題】取締役会における「中長期的な戦略」の議論

2016年12月の課題

「取締役会の実効性評価」を求めるコーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11③をコンプライしたうえで具体的な課題を開示している企業は少なくありません。その多くが、取締役会において「中長期的な戦略」の議論が不十分であることを課題に挙げており、我が国企業に広く共通する問題意識となっていることがうかがわれます。

では、仮に貴方が役員を務める会社も2016年の株主総会後、2015年度における取締役会の評価結果として同様の開示を行っていたとした場合、以下の事項について貴方はどのように考えますか?コーポレートガバナンス・コードの基本原則および各原則、資料編の記載を引用しつつ答えてください。

1.2016年度において取締役会の実効性を高めるため、何に取り組むべきか
2.2017年の株主総会後に開示する新たな課題として何が想定されるか
3.一連の取組みで「中長期的な戦略」はどのような影響を受けるか

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2016/12/27 海外有力機関投資家、2017年度に「独立社外取締役比率3分の1」を要求も

年明け以降、2017年の株主総会シーズンに向けた準備も本格化していくものと思われるが、それに先立ち、議決権行使助言会社の議決権行使方針が明らかになっている。これを受け、機関投資家のスタンスも定まって来ることになる。様々な議案に関する議決権行使方針の中でも日本企業が特に注目しているのが、社外取締役の人数および取締役会における割合であろう。

社外取締役の人数・割合が投資家の要求水準に達しない場合、「コーポレートガバナンスに問題あり」と判断され、経営トップの選任議案に多くの反対票が集まりかねない。外国人機関投資家の比率が高い企業の場合、否決されるリスクも覚悟しておかなければならないだろう。

2017年の株主総会において求められる「ハードル」を低い順に並べれば以下のとおりとなる(監査役会設置会社を前提とする)。・・・

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2016/12/27 海外有力機関投資家、2017年度に「独立社外取締役比率3分の1」を要求も(会員限定)

年明け以降、2017年の株主総会シーズンに向けた準備も本格化していくものと思われるが、それに先立ち、議決権行使助言会社の議決権行使方針が明らかになっている。これを受け、機関投資家のスタンスも定まって来ることになる。様々な議案に関する議決権行使方針の中でも日本企業が特に注目しているのが、社外取締役の人数および取締役会における割合であろう。

社外取締役の人数・割合が投資家の要求水準に達しない場合、「コーポレートガバナンスに問題あり」と判断され、経営トップの選任議案に多くの反対票が集まりかねない。外国人機関投資家の比率が高い企業の場合、否決されるリスクも覚悟しておかなければならないだろう。

2017年の株主総会において求められる「ハードル」を低い順に並べれば以下のとおりとなる(監査役会設置会社を前提とする)。

①社外取締役が2名
ISSは2016年版ポリシーで、「総会後の取締役会に最低2名の社外取締役」がいない場合、経営トップである取締役に原則として反対を推奨すると定めた。ただし、「独立性は問わない」としているため、たとえ独立役員の届出がなくても、とにかく社外取締役が2名いれば問題ないということになる(独立役員の定義は2014年12月26日のニュース『「社外取締役」と「独立社外取締役」の違い、明確に説明できますか?』参照)。

2017年版ポリシーについては11月に改訂箇所が示されたが、社外取締役に関する内容は含まれていない。ISSはコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)が原則主義であることを踏まえ、CGコードの原則4-8が求める「少なくとも2名以上」というハードルが“最低ライン”としては引き続き適切だと考えた模様である。

②監査役も含めて独立役員が3分の1
ISSに次ぐ議決権行使助言会社大手のグラスルイスは11月に2017年版ポリシーを公表し、取締役と監査役の合計数に占める独立役員の割合が「3分の1」に達しない場合、取締役会長もしくは経営トップの選任議案に反対することを推奨した。この場合、社外取締役と社外監査役の双方について同社の独立性基準を満たす必要がある。

グラスルイスの独立役員の独立性基準 : 利益相反が生じるおそれのある要因がないことを求めるもの。例えば、当該会社またはその子会社や関連会社との重要な取引、またはその重要な取引先との雇用関係、当該会社の関係者との親族関係などがなく、さらに、当該会社の主要借入先の関係者、10%以上の株式保有またはその関係者でない役員が「独立性基準」を満たす役員である。

グラスルイスは、2016年までは取締役会に「2人かつ20%」の独立社外取締役を置くことを求めていた。最大手ISSが2016年に「2名」とし、グラスルイスにキャッチアップしたこと、CGコード原則4-8が自主的な判断として「3分の1」を望ましいとしていることなどが影響しているものとみられる。

③独立社外取締役が3名かつ3分の1
米カルパースなど海外の有力機関投資家20社は2014年6月、時価総額が大きい33社に書簡を送付し、独立性の高い社外取締役の比率を今後3年以内に「3分の1」まで引き上げるよう求めた。達成されない場合、2017年度の株主総会で取締役選任議案に反対することを検討するという。

本書簡の影響は送付先33社に限定されるとは言い切れない。2017年の株主総会シーズンを前にして、改めて全ての投資先に対して同様の要求をする可能性もある。日本企業は自社の実質株主を把握したうえで、必要な対応(社外取締役の増員、株主との対話など)を模索すべきだろう。

2016/12/26 独禁法改正で導入の確約手続制度、カルテルや入札談合への適用は?

2016年12月9日に参議院本会議でTPP協定および関連法案が可決・成立し、独占禁止法に新たに確約手続制度()が導入されることになったが、カルテルや入札談合といった“悪質”な独禁法違反事例には・・・

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2016/12/26 独禁法改正で導入の確約手続制度、カルテルや入札談合への適用は?(会員限定)

2016年12月9日に参議院本会議でTPP協定および関連法案が可決・成立し、独占禁止法に新たに確約手続制度()が導入されることになったが、カルテルや入札談合といった“悪質”な独禁法違反事例には適用されないという点、留意したい。

 確約手続制度とは、独占禁止法違反の疑いがある企業や事業者団体等(以下、事業者)が当該疑いを排除するための措置の実施を公正取引委員会に確約することで、問題を自主的に解決する制度。米国、カナダ、ペルー、オーストラリア、マレーシアといったTPP協定に参加している国では同様の手続きが既に導入済みのため、日本でもTPP協定の成立にあわせて独占禁止法が改正され、導入の運びとなった。

2016年5月12日掲載の「(新用語・難解用語)確約制度」では、独占禁止法の改正法案に基づき確約手続制度の流れをお伝えしたところだが、今回確定した確約手続制度を見ると、法案時点から変更はない。ここで改めて、同制度の流れをより詳細に確認しておこう(下図参照)。

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出典:参議院の立法調査室資料

まず、公正取引委員会は、企業や事業者団体等(以下、事業者)に私的独占企業結合規制、事業者団体による競争の実質的な制限などの独占禁止法の規定に違反する事実があると思われる場合、当該行為の概要等を事業者に通知する。通知を受けた事業者は、疑いの理由となった行為を排除するために必要な措置を自ら策定し、実施しようとする場合には、「排除措置計画」を作成し、これを当該通知の日から60日以内に公正取引委員会に提出する。これに対し公正取引委員会が、当該排除確保措置計画が「疑いの理由となった行為」を排除するために十分なものであり(十分性)、かつ、排除確保措置が確実に実施されると見込まれるものである(確実性)と認めれば、当該排除確保措置計画を認定することになる。

私的独占 : 企業が単独で、または他の企業と手を組み、競争相手を市場から締め出したり、新規参入者を妨害して市場を独占しようとしたりする行為。
企業結合規制 : 一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる企業結合を禁止するとともに、一定の売上規模を有する株式取得、合併、事業譲受、会社分割、共同株式移転については、事前に公正取引委員会に届出を行い、審査を受けることを義務付けるもの。
競争の実質的な制限 : 競争が減少し、特定の事業者または事業者集団が、ある程度自由に価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態。

事業者は公正取引委員会に当該認定を取り消されない限り、排除措置命令や課徴金納付命令を受けることはない(改正独占禁止法48条の4)。仮に事業者が排除確保措置を実施しない場合であっても、排除確保措置の不実施を理由に事業者に制裁金などのペナルティが課されることはなく、通常の調査手続き(上図の下の流れ)に戻るに過ぎない(その結果、独占禁止法違反として通常の課徴金等のペナルティを課されることはあり得る)。

事業者にとっての確約手続制度のメリットは2つある。一つは、上述のとおり、排除確保措置計画が認定されれば排除措置命令や課徴金納付命令を回避できるということだ。また、事業者が課徴金納付命令や排除命令を受けた場合には株主代表訴訟リスクが高まるが、排除確保措置計画が認定されれば株主代表訴訟リスクを抑えることができるという点も大きなメリットと言える。

企業の立場からすれば、(特に上場企業の)摘発事例が少なくないカルテルや入札談合にこそ確約手続制度を適用して欲しいところだろうが、これらは悪質性の高い行為であることを理由に、別途定めるガイドラインで確約手続きの対象外とされる見込みとなっている。カルテルや入札談合については、独禁法上のリニエンシー制度や任意の社内リニエンシー制度(2016年12月9日に公表された内部通報ガイドラインでも社内リニエンシー制度が取り上げられている。2016年12月16日のニュース「内部通報制度の導入義務化へ 保護対象となる公益通報者の範囲も大幅拡大」を参照)での対応が必須となろう。

なお、確約手続制度の詳細を規定する「公正取引委員会の確約手続に関する規則」案は既に12月12日に公表され、1月10日までパブコメを募集中という状況。施行日は「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」の施行日と同日とされるものの、トランプ新大統領が米国のTPP参加見送りを明言する中、現時点ではそれがいつになるかは未定となっている。

カルテル : 事業者間で、価格や生産量、販売地域などについて協定を結ぶこと。これにより、価格競争による価格低下を防ぐことができる。

2016/12/22 独立社外取締役との対話の内容

スチェワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの導入以降、投資家と企業の対話が進んできている。その多くは、企業のマネジメントやIRを対象にしたものとなっているが、今後広がっていきそうなのが、投資家と独立社外取締役の対話だ。

機関投資家という立場で独立社外取締役に聞いてみたいこととして、まずは実際にその独立社外取締役がどのような役割を果たしているのか、ということが挙げられる。具体的には、取締役会で独立社外取締役がどのような発言をし、それが社長をはじめ他の取締役にどのように受け止められ、またどのように経営に活かされたのかという点は最低限チェックしたい。(既に多くの上場企業でそうなっているが)独立社外取締役が複数であれば、それぞれの役割についても説明を求めることになろう。

独立社外取締役が、自社のコーポレートガバナンスをどのように考えているのかということも必ず聞くことになろう。単に考えを述べるだけでなく、コーポレートガバナンスに対する具体的な評価をしてもらいつつ、改善点も指摘して欲しい。さらに、改善に向けて独立社外取締役としてどのような貢献ができるかについても説明する必要がある。

より詳細な事項としては、・・・

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2016/12/22 独立社外取締役との対話の内容(会員限定)

スチェワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの導入以降、投資家と企業の対話が進んできている。その多くは、企業のマネジメントやIRを対象にしたものとなっているが、今後広がっていきそうなのが、投資家と独立社外取締役の対話だ。

機関投資家という立場で独立社外取締役に聞いてみたいこととして、まずは実際にその独立社外取締役がどのような役割を果たしているのか、ということが挙げられる。具体的には、取締役会で独立社外取締役がどのような発言をし、それが社長をはじめ他の取締役にどのように受け止められ、またどのように経営に活かされたのかという点は最低限チェックしたい。(既に多くの上場企業でそうなっているが)独立社外取締役が複数であれば、それぞれの役割についても説明を求めることになろう。

独立社外取締役が、自社のコーポレートガバナンスをどのように考えているのかということも必ず聞くことになろう。単に考えを述べるだけでなく、コーポレートガバナンスに対する具体的な評価をしてもらいつつ、改善点も指摘して欲しい。さらに、改善に向けて独立社外取締役としてどのような貢献ができるかについても説明する必要がある。

より詳細な事項としては、「社長の指名にどのように関与しているのか」、企業が買収防衛策を導入している場合には「なぜ、独立社外取締役がそれを承認しているか」また、その独立社外取締役が監査に関与しているのであれば(監査等委員会設置会社における社外取締役である監査等委員)、その内容も投資家にとっては重要である。

こうした投資家と独立社外取締役とのコミュニケーションを既に始めている企業もある。現在でも、一部の企業がディスクロージャー資料に独立社外取締役のコメントや対話形式の意見を載せているが、今後は、投資家と独立社外取締役の対話を掲載する企業も増えてくるのではないだろうか。また、投資家から独立社外取締役とのミーティングを依頼するケースも増えることが予想される。上場企業としても、このようなミーティングを自ら開催していくべきだろう。

2016/12/21 会計不正レポートの新たなターゲットが出現

上場会社の会計や開示に関する不正の可能性を訴えるファンドのレポート公表が相次いでいる。2016年12月14日には医療用のサイボーグ型ロボットを製造するCYBERDYNE(東証マザーズ)が、空売りファンドの米国シトロン・リサーチ社から4回目のレポートを突き付けられたばかり。同じく米国の空売りファンド、グラウカス・リサーチ・グループが伊藤忠(東証第一部)の連結決算に関して株式区分変更や持分法の適用等に異議を唱えるレポートを公表したのも記憶に新しい(グラウカス・リサーチ・グループのレポートは2016年9月14日のニュース『「空売りファンド」のターゲットにならないために』を参照)。

空売りファンド : 保有していない株式(証券会社などから借りてきたもの)を売って(空売り)株価を下げ、それを見た他の投資家が売りに追随することで株価が下落し切ったところで買い戻し、買い戻した株式を借手に返却するというように(この場合、売却により得た金額よりも買戻しに要する金額の方が低いため、「売却額-返却額」の利益が発生)、株価の下落から利益を獲得する運用手法を用いる投資ファンドのこと。

こうした中、新たに会計不正レポートの“災禍”に巻き込まれた上場会社が出てきた。東証第一部に上場している・・・

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2016/12/21 会計不正レポートの新たなターゲットが出現(会員限定)

上場会社の会計や開示に関する不正の可能性を訴えるファンドのレポート公表が相次いでいる。2016年12月14日には医療用のサイボーグ型ロボットを製造するCYBERDYNE(東証マザーズ)が、空売りファンドの米国シトロン・リサーチ社から4回目のレポートを突き付けられたばかり。同じく米国の空売りファンド、グラウカス・リサーチ・グループが伊藤忠(東証第一部)の連結決算に関して株式区分変更や持分法の適用等に異議を唱えるレポートを公表したのも記憶に新しい(グラウカス・リサーチ・グループのレポートは2016年9月14日のニュース『「空売りファンド」のターゲットにならないために』を参照)。

空売りファンド : 保有していない株式(証券会社などから借りてきたもの)を売って(空売り)株価を下げ、それを見た他の投資家が売りに追随することで株価が下落し切ったところで買い戻し、買い戻した株式を借手に返却するというように(この場合、売却により得た金額よりも買戻しに要する金額の方が低いため、「売却額-返却額」の利益が発生)、株価の下落から利益を獲得する運用手法を用いる投資ファンドのこと。

こうした中、新たに会計不正レポートの“災禍”に巻き込まれた上場会社が出てきた。東証第一部に上場しているSMCだ。調査会社のウェル・インベストメンツ・リサーチが12月13日に公表した会計不正の可能性を指摘するレポートによると、SMCの連結財務諸表および個別財務諸表の「売上」「棚卸資産」「現預金残高」に過大計上の恐れがあり、それが事実であれば株価は時価を85%下回る4500円が適正価格であるため、「強い売り」を推奨するとしている。

SMCではウェル・インベストメンツ・リサーチのレポートが公表された日(12月13日)とその翌日に反論のリリース(13日のリリースはこちら、14日のリリースはこちら)を公表している。ウェル・インベストメンツ・リサーチのレポートにおける主な指摘事項と、それに対するSMCの反論を対比させてみると次のとおり。

主な指摘事項 ウェル・インベストメンツ・リサーチの主張 SMCの反論
現預金の残高 最低でも817億円の現金が存在しない可能性がある。 連結グループの現預金の実際残高と帳簿残高は「ほぼ整合」する。
棚卸資産の計上額 SMCは業界標準の2.5倍の在庫を保有している。標準的な在庫日数を上回る部分が陳腐化した在庫であると仮定すると、未計上の在庫評価損が1000億円に上る可能性がある。 同業他社に比べて多くの棚卸資産を保有しているのは、幅広い品ぞろえと短納期即応体制を実現しているから。また、当社は会計基準に準拠して評価損を計上している。
連結子会社 全子会社の46%(社数ベース)しか連結していない。非連結子会社を通じて連結業績を密かに押し上げている可能性が高い(※)。
※編注:仮に非連結子会社へ不適切な売上を計上したとすると、連結上の売上高はかさ上げされる。
子会社33社を連結対象としており、その他の子会社39社および関連会社1社については経営成績及び財政状態の点で金額的重要性が低く、グループ全体に与える質的重要性も低いため連結対象から除外している。
監査人 SMCの規模(売上4620億円、全世界に72の子会社、1万8000人を超える従業員を雇用)で、清陽監査法人という小規模な監査法人を起用し続ける合理的理由はない。
SMCはグローバルな監査が可能な4大監査法人の1つを使うべき。
当社の(連結)財務諸表は適正な会計監査を受けている。
株価 SMCの株式は現在の水準より51%~85%低い価格で取引されるべき。

「ウェル・インベストメンツ・リサーチ」は、当該名称では法人格の存在を確認することができず、代表者(弁護士)以外の全容も明らかでない。また、「業界標準の在庫日数を上回る部分が陳腐化した在庫であるとの仮定」はあまりにも無理があり、「監査法人の規模が小さい」イコール「十分な監査ができていない」という主張に対しても疑問を呈する声も上がっている。

とはいえ、この類の会計不正レポートは、一度公表されれば、レポートの内容が独り歩きしてしまうのも事実。株主が真に受けてしまえば、株価の引き下げ要因になってしまう。会計不正レポートで売り推奨をされる上場会社は今後も増えるであろう。上場会社は、突然このような“災禍”に巻き込まれる可能性も視野に入れ、会計不正レポートに付け込まれる余地のないよう、業績や財政状態を十分に開示するとともに会計処理の適切性を確保する体制を構築しておくことが必要な時代になったと言える。